特許第5928297号(P5928297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000002
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000003
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000004
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000005
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000006
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000007
  • 特許5928297-圧縮曲げ部の衝突性能評価方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928297
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】圧縮曲げ部の衝突性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
   G01N3/20
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-234780(P2012-234780)
(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-85250(P2014-85250A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰則
(72)【発明者】
【氏名】杉田 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】大岡 数則
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−044239(JP,U)
【文献】 特開平05−238418(JP,A)
【文献】 特開2010−107297(JP,A)
【文献】 特開2002−014020(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016499(WO,A1)
【文献】 米国特許第04192194(US,A)
【文献】 特開平10−048073(JP,A)
【文献】 特開平10−030980(JP,A)
【文献】 特開2006−207725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の試験体にその軸線方向から荷重を与えて圧縮曲げ試験を行ない、その圧縮曲げ部の衝突性能を評価する方法であって、
試験体を予備曲げして座屈発生部位を特定したうえ、
この試験体の基部を圧縮曲げ試験機に回転可能に取付け、
この試験体の座屈発生部位側に軸線方向の圧縮荷重を加え、座屈変形させることを特徴とする圧縮曲げ部の衝突性能評価方法。
【請求項2】
前記予備曲げを、試験体の成形工程において行なうことを特徴とする請求項1記載の圧縮曲げ部の衝突性能評価方法。
【請求項3】
圧縮曲げ試験機への試験体の取付けを、塑性変形可能なヒンジを介して行うことを特徴とする請求項1記載の圧縮曲げ部の衝突性能評価方法。
【請求項4】
圧縮曲げ試験機への試験体の取付けを、軸受を介して行うことを特徴とする請求項1記載の圧縮曲げ部の衝突性能評価方法。
【請求項5】
前記試験体の端面に、座屈発生部位側に突起を持つ治具を当接し、この治具を介して試験体の座屈発生部位側に軸線方向の圧縮荷重を加えることを特徴とする請求項1記載の圧縮曲げ部の衝突性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の開発設計段階において前面衝突性能評価のために行われる、圧縮曲げ部の衝突性能評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の開発設計段階においては、車体の衝突性能の評価は不可避である。このため自動車メーカーでは試作車(フルビィークル)を作り、例えば特許文献1に示すように衝突性能評価を実施している。
【0003】
しかし試作車は高価であることから、この衝突性能評価の実施は容易ではなく、評価機会は限られている。また、試験実施までに長い時間を必要とするため、問題が発生した際は開発工程の遅延につながることも多い。そのため、新しい材料、新しい構造を試作車に搭載するのは容易ではなく、仮に搭載されたとしても、限られた数の中で多くの材料、構造を評価することは不可能である。また、自動車メーカー以外では、費用対効果や設備の面で衝突性能評価試験を実施することは困難である。このため、鉄鋼メーカーや部品メーカーが独自に開発した自社製品の衝突性能評価を行なうことは、ほとんど行われていないのが実情である。
【0004】
この問題を解決するために本発明者等は、衝突エネルギー吸収の寄与率が大きい部品を抜き出し、部分モデルによる衝突性能評価を行なう方法を開発中である。この方法により事前に新しい材料や新しい構造を評価すれば、試作車での問題発生を回避することができ、試作車への搭載を従来よりも容易とすることができる。また部分モデルのみを改良して評価試験を繰り返すことが容易にできるようになるから、従来よりもはるかに多くの材料や構造の評価が可能となる。
【0005】
しかし、試験車両を剛体壁やアルミハニカムバリアに前面から衝突させる前面衝突に関するフロントサイドメンバーは、圧縮により稜線が座屈し曲げ変形に移行し、自己接触に至るまで大きく変形する。このため部分モデルでこのような挙動を再現することが難しく、部分モデルによる衝突性能評価を行なううえで、ひとつの障害となっていた。
【0006】
なお、通常は長尺の柱状形状の部品を曲げる場合には、図7に示す3点曲げや4点曲げ試験による評価を行なう。しかしこれらの方法では、部品に押し当てた治具が曲げ部にあるため、試験体どうしが自己接触に至るまで大きく曲げ変形させることは困難であり、目的とする性能評価を行なうことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−247733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、柱状の部分モデルを自己接触に至るまで大きく曲げ変形させ、その圧縮曲げ部の衝突性能を正確に評価することができる圧縮曲げ部の衝突性能評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、柱状の試験体にその軸線方向から荷重を与えて圧縮曲げ試験を行ない、その圧縮曲げ部の衝突性能を評価する方法であって、試験体を予備曲げして座屈発生部位を特定したうえ、この試験体を圧縮曲げ試験機に回転可能に取付け、この試験体の座屈発生部位側に軸線方向の圧縮荷重を加え、座屈変形させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のように、前記予備曲げを、試験体の成形工程において行なうことができる。また請求項3のように、圧縮曲げ試験機への試験体の取付けを、塑性変形可能なヒンジを介して行うことができ、あるいは請求項4のように、圧縮曲げ試験機への試験体の取付けを、軸受を介して行うこともできる。さらに請求項5のように、前記試験体の端面に、座屈発生部位側に突起を持つ治具を当接し、この治具を介して試験体の座屈発生部位側に軸線方向の圧縮荷重を加えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧縮曲げ部の衝突性能評価方法によれば、柱状の試験体のその軸線方向から荷重を加え、自己接触するまで曲げ変形させることが可能となる。このため前面衝突の部分モデルによる評価が可能となり、試作車を用いた評価の代用ができる。これにより、新しい材料や構造を事前に評価することができるので、試作車搭載時の問題発生を回避することができ、多くの材料、構造の評価が可能となる。従って本発明は、自動車の安全性向上やコストダウンに大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】オフセット衝突の様子を示す模式的な平面図である。
図2】試験体の斜視図である。
図3】予備曲げされた試験体を示す斜視図である。
図4】試験体を圧縮曲げ試験機へ取付けた状態を示す説明図である。
図5】自己接触に至るまで大きく曲げ変形した試験体を示す説明図である。
図6】圧縮荷重の初期入力状態を示す説明図である。
図7】従来の3点曲げ試験方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
まず図1に、自動車の前面衝突のうちオフセット衝突の様子を模式的に示す。図示のように、衝撃を受けた側のフロントサイドメンバーが座屈変形して潰れるが、その変形モードは屈曲した部位どうしが接触する自己接触である。このため、フロントサイドメンバーの部分モデルを作成して従来一般に行われている3点曲げ試験を行っても、この変形モードの再現は困難である。しかし本発明では、以下に示す手法によって部分モデルを用いた圧縮曲げ部の衝突性能評評価を可能とした。
【0014】
図2に示すように、この実施形態では断面が四角形の中空柱状体を試験体1とした。しかしその断面形状はこれに限定されるものではなく、いわゆるハット状の断面を持つ形状であってもよい。この試験体1の稜線3は面取りされている。試験体1の材質は実車に採用されるものと同一とし、例えば高強度鋼板である。
【0015】
図3に示すように、試験体1は予備曲げして座屈発生部位2を特定しておく。座屈発生部位2は予備曲げの曲げ中心となる稜線3の部分である。このように、圧縮により座屈曲げを発生させるに先立ち、座屈を誘発する形状を試験体1に与えておけば、その座屈発生部位2を中心として試験体1は折れ曲がることとなる。具体的には片側の稜線3の部分を油圧プレスにより軽く押し曲げておけばよい。しかし上記のように、図2の形状に成形された試験体1をその後に予備曲げする方法に限定されるものではなく、予備曲げを試験体の成形工程において行なうことも可能である。この場合には図3のような形状の試験体1を用いることとなる。
【0016】
このように予備曲げした試験体1を図4に示すように圧縮曲げ試験機の固定部8に取付け、可動部9を移動させて圧縮曲げ試験を行なうが、従来のように端面全体を固定すると試験体1の基部が拘束されるため試験体1が曲がりにくくなり、目的とする変形モードを得ることができない。このため本発明では試験体1の基部を、回転可能に圧縮曲げ試験機の固定部8に取付ける。すなわち、座屈発生部位2の反対側の基部端面4を中心とし、図4の紙面に平行な平面内で試験体1が折れ曲がるように、圧縮曲げ試験機の固定部8に取付ける。
【0017】
具体的には、この実施形態では試験体1の基部端面4に薄い金属板5を取付け、この金属板5の片側を基部端面4よりも外側で圧縮曲げ試験機の固定部8に固定した。金属板5は荷重により図5のように塑性変形し、試験体1を回転させることができる。これの金属板5は塑性ヒンジを構成するものであるが、基部端面4を軸受を介して圧縮曲げ試験機に固定することもできる。
【0018】
上記のように予備曲げを施した試験体1であっても、座屈発生部位2の反対側に軸圧縮力を加えると図5のように曲がらず、軸圧潰してしまう。このため初期入力は座屈発生部位2の側に付与する必要がある。しかも試験体1の両端部が潰れてしまうと、曲げではなく試験体1の断面圧縮になってしまい、目的とする変形モードを得ることができなくなる。従って試験体1の両端部は断面形状が変化しないようにする必要がある。
【0019】
このため、この実施形態では試験体1の両端部に補強治具6を取付け、この補強治具6の座屈発生部位2の側に突起7を設けることにより、図6に示すように軸線方向の初期入力が必ず座屈発生部位2の側で行われるようにした。このような補強治具6を用いれば、試験体1の両端部の断面形状を変化させることなく、確実に図5に示す形状に曲げ変形を生じさせることができる。なお、この実施形態では補強治具6と試験体1とは分離されているが、補強治具6を試験体1の端面に溶接しておくことも可能である。
【0020】
以上に説明したように、本発明によれば、試験体1を軸線方向に圧縮することにより、試験体1の予定された座屈発生部位2に確実に座屈変形を生じさせることができ、試験体1を自己接触するまで曲げ変形させることが可能となる。このため前面衝突の部分モデルによる評価が可能となり、自動車の安全性向上やコストダウンに大きく貢献することができる利点がある。
【符号の説明】
【0021】
1 試験体
2 座屈発生部位
3 稜線
4 座屈発生部位の反対側の基部端面
5 金属板
6 補強治具
7 突起
8 固定部
9 可動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7