特許第5928331号(P5928331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大正製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928331
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】ジメモルファン含有内服液剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20160519BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20160519BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20160519BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160519BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20160519BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   A23L2/00 F
   A23L1/30 Z
   A61K31/485
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61P11/14
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-517216(P2012-517216)
(86)(22)【出願日】2011年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2011061024
(87)【国際公開番号】WO2011148794
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2010-121855(P2010-121855)
(32)【優先日】2010年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】松土 貴一
(72)【発明者】
【氏名】上保 博子
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−260717(JP,A)
【文献】 特開2009−263298(JP,A)
【文献】 鈴木啓之ら,アセトアミノフェンの苦味抑制を目的とした経口製剤の検討(2):基剤及び矯味剤の変更による製剤の改良,第123年会日本薬学会講演要旨集4,2003年 3月 5日,p. 109, 28【P2】I-580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/52
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ジメモルファン及び/又はその塩、b)キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、及びマルチトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖アルコール及び/又はトレハロース、c)スクラロースを含有する内服液剤または飲料であって、内服液剤または飲料の全量に対してa)成分は0.15重量%以上であり、a)成分1質量部に対してb)成分は8,000/60質量部以上、c)成分は4.4/60質量部以上である内服液剤または飲料。
【請求項2】
a)ジメモルファン及び/又はその塩、b)キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、及びマルチトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖アルコール及び/又はトレハロース、c)スクラロースを含有する内服液剤または飲料であって、内服液剤または飲料の全量に対してa)成分は0.15重量%以上であり、a)成分1質量部に対して、b)成分が180質量部以上であり、かつc)成分が0.1質量部以上である内服液剤または飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメモルファンを含有する内服液剤または飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ジメモルファンは、モルヒナン骨格を有する鎮咳剤で、強力な鎮咳作用を有している。中枢性の依存性がない非麻薬性薬剤であり、上気道炎、急性気管支炎、肺炎に対して用いられており、一般用医薬品の咳止めシロップ剤としても使用されている。
【0003】
内服製剤等の飲料は、固形製剤に比べ飲み込み易く、こどもや老人など嚥下機能が低い人や咳等の症状がある人にとって服用しやすいという利点がある。しかし、ジメモルファンの味は苦く、飲料にした場合、風味の面から服用性が悪くなる。そこで、糖アルコール等の甘味剤の使用により、苦味を低減させ、飲みやすく設計する必要がある。
【0004】
これまでも苦味等を呈する薬物を含有するために、味を改善する方法が開発されてきた。例えば、ステビアの使用により、リン酸ジヒドロコデインやマレイン酸カルビノキサミンなどの苦味を改善した感冒用組成物ができること(特許文献1参照)、エリスリトールの使用により、ノスカピン、ブロムヘキシンの苦味を軽減した経口液剤ができること(特許文献2参照)が報告されている。
【0005】
また、口腔内で崩壊又は溶解させて服用する鎮咳用固形製剤の中には、苦味だけでなく、服用する際に喉へのいがらっぽさを有する薬物が存在するが、マンニトール等を配合して喉へのいがらっぽさを低減した例が報告されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、鎮咳剤を含む内服液剤については、公知の方法によって苦味の改善がなされているものの、喉への刺激を低減するという課題は未だ解決されていない。そこで、苦味と喉への刺激との両方を低減させた鎮咳剤含有内服液剤または飲料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−52849号公報
【特許文献2】特許第3800437号
【特許文献3】特開2004−269513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ジメモルファン及び/又はその塩を含有する内服液剤または飲料に糖アルコールを高濃度配合しても、苦味が低減されず、また喉への刺激も低減されないことを確認した。本発明は、内服液剤または飲料中のジメモルファン及び/又はその塩特有の苦味及び喉への刺激を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジメモルファン及び/又はその塩含有内服液剤または飲料に糖アルコール及び/又はトレハロース、並びにスクラロースを一緒に配合することにより、ジメモルファン特有の苦味を改善し、さらには喉への刺激も低減することができることを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は
(1)a)ジメモルファン及び/又はその塩、b)糖アルコール及び/又はトレハロース、c)スクラロースを含有する内服液剤または飲料、
(2)a)成分1質量部に対して、b)成分が180質量部以上であり、かつc)成分が0.1質量部以上である前記(1)に記載の内服液剤または飲料、
(3)糖アルコールが、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール及びマルチトールからなる群より選択される少なくとも1種である、前記(1)又は(2)に記載の内服液剤または飲料、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ジメモルファン及び/又はその塩を含有する内服液剤又は飲料の苦味及び喉への刺激を低減することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「ジメモルファンの塩」としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩など内服液剤又は飲料として許容可能な塩が挙げられるが、最も好ましいのはジメモルファンリン酸塩である。
【0013】
本発明における「糖アルコール」には、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等を使用することができるが、好ましいのはキシリトール、ソルビトールである。
【0014】
本発明の効果を十分に奏するために、本発明における糖アルコール及び/またはトレハロースの配合量(2種以上配合の場合は合計量)は、ジメモルファン1質量部に対して通常180質量部以上、好ましくは184質量部以上、より好ましくは230質量部以上、最も好ましくは260質量部以上である。このときのスクラロースの配合量は、ジメモルファン及び/又はその塩(2種以上配合の場合は合計量)1質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましい。
【0015】
本発明における「内服液剤」とは、内服することができる液体であれば特に制限はない。例えば内服液剤、ドリンク剤等の医薬品及び医薬部外品が挙げられる。また、「飲料」とは、栄養機能食品、特定保険用食品等の食品領域における各種飲料が挙げられる。
【0016】
本発明の内服液剤または飲料には、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、生薬、生薬抽出物、カフェインなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。また、必要に応じて抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、糖アルコール、トレハロース以外の甘味料、スクラロース以外の高甘味度甘味料などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することもできる。これらの添加物等は、1種で単独に配合しても、2種以上を適宜組み合わせて配合してもよい。
【0017】
本発明の内服液剤または飲料を調製する方法は特に限定されるものではない。通常、ジメモルファン及び/又はその塩、糖アルコール及び/又はトレハロース、スクラロース、及びその他に必要に応じて他の成分を適量の精製水で溶解した後、精製水をさらに加えて容量調整し、必要に応じて濾過、滅菌処理を施すことにより、ジメモルファン含有内服液剤または飲料として提供することができる。
【実施例】
【0018】
以下に、試験例等を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの試験例等に何ら限定されるものではない。
【0019】
試験例
(1)各内服液剤または飲料の調製
下記に示す参考例1−3、実施例1−7及び比較例1−3の各内服液剤または飲料を調製した。
【0020】
参考例1
ジメモルファンリン酸塩60mg及びキシリトール16000mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0021】
参考例2
無水カフェイン3.3mg及びキシリトール16000mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0022】
参考例3
ジメモルファンリン酸塩60mg及びキシリトール18000mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0023】
実施例1
ジメモルファンリン酸塩60mg、キシリトール16000mg及びスクラロース6.6mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0024】
実施例2
ジメモルファンリン酸塩60mg、ソルビトール14000mg及びスクラロース6.6mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0025】
実施例3
ジメモルファンリン酸塩60mg、キシリトール16000mg、ステビア7.4mg及びスクラロース4.4mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0026】
実施例4
ジメモルファンリン酸塩60mg、エリスリトール8000mg及びスクラロース4.4mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0027】
実施例5
ジメモルファンリン酸塩60mg、マルチトール16000mg及びスクラロース4.4mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0028】
実施例6
ジメモルファンリン酸塩60mg、トレハロース16000mg及びスクラロース4.4mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0029】
実施例7
ジメモルファンリン酸塩60mg、キシリトール4200mg、ソルビトール10080mg、トレハロース1500mg及びスクラロース10.6mg、ステビア17.7mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0030】
比較例1
ジメモルファンリン酸塩60mg及びスクラロース33.3mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0031】
比較例2
ジメモルファンリン酸塩60mg及びステビア110.8mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0032】
比較例3
ジメモルファンリン酸塩60mg、キシリトール16000mg及びステビア22mgを精製水に溶解し、全量を40mLとした。
【0033】
(2)試験方法
調製した各内服液剤または飲料を、表1の評価基準に基づき4名のパネルによる苦味及び喉への刺激の評価を実施し、結果を表2に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
ここで甘味度(%)とは、
100mL中のショ糖(砂糖)濃度[w/v%]
に相当する甘さとして定義され、甘味度1%とは、ショ糖1%水溶液の甘味度に相当する。
(3)結果
【0037】
表2に示したように、参考例1、2の結果から、日本薬局方に苦味を有する薬物として記載されているカフェインを含有する飲料に糖アルコールを配合することで苦味を低減できたのに対し、ジメモルファンを含有する内服液剤に糖アルコールを配合しても、苦味を低減できないことがわかった。また、ジメモルファンを含有する飲料は、カフェインを含有する飲料よりも喉への刺激が強いことがわかった。
【0038】
参考例3の結果から、ジメモルファンを含有する内服液剤または飲料に、糖アルコールをさらに配合し、甘味度を45%に調整しても、参考例1と比較して苦味及び喉への刺激は低減されないことがわかった。
【0039】
実施例1の結果から、ジメモルファン及び糖アルコールを配合した内服液剤に、スクラロースを同時に配合することで、苦味及び喉への刺激が低減されることがわかった。比較例1の結果から、ジメモルファンに糖アルコールは配合せずスクラロースを配合して実施例1と同等の甘味度に調整した場合は、喉への刺激は低減されるものの、苦味が低減されないことがわかった。同様に、比較例2の結果から、ジメモルファンにステビアを配合して実施例1と同等の甘味度に調整しても、苦味は低減されないことがわかった。
【0040】
また実施例2、4、5の結果から、糖アルコールとして実施例1で配合したキシリトールの代わりにソルビトール、エリスリトール、マルチトールを配合した場合も、ジメモルファンの苦味及び喉への刺激が低減されることがわかった。
【0041】
また実施例6の結果から、実施例1、2、4、5で配合した糖アルコールの代わりにトレハロースを配合しても、ジメモルファンの苦味及び喉への刺激が低減されることがわかった。
【0042】
実施例3の結果から、ジメモルファン、糖アルコール及びスクラロースを配合した内服液剤に、さらにステビアを配合しても、苦味及び喉への刺激は実施例1と同程度であり、配合可能であることがわかった。
【0043】
比較例3の結果から、実施例1で配合したスクラロースの代わりにステビアを配合した場合は、苦味及び喉への刺激は低減されないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、ジメモルファンを含有する飲料の苦味及び喉への刺激を低減することが可能となったので、商品性の高いジメモルファン含有飲料を医薬品、医薬部外品及び食品の分野において提供することができる。