(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の工程は、前記探触子を駆動して血管を含む被検体へ超音波を送信する送信処理と、前記探触子によって受信した前記血管を含む被検体からの反射超音波に基づく受信信号を生成する受信処理とを行い、
前記第二の工程は、前記受信信号に基づき前記血管の内腔内膜境界および中膜外膜境界を検出してその間隔を血管壁厚値として算出し、算出された血管壁厚値の信頼性を判定してその判定結果に基づき前記血管壁厚値を内中膜複合体厚と確定する所定の処理である、請求項16に記載の超音波診断装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明による超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本実施形態では、超音波診断装置は、被験体のIMTの計測を行う。
図1は、本実施形態の超音波診断装置のブロック図を示す。
【0020】
超音波診断装置101は、制御器100を備える。この制御器100は、超音波送受信処理部2、信号処理部21、制御部7、シネメモリ8、操作イベント受付部9および画像合成部11を含む。本実施形態では、超音波診断装置101は探触子1を備えておらず、汎用の探触子1が接続可能である。ただし、超音波診断装置101は探触子1を備えていてもよい。
【0021】
超音波送受信処理部2、操作イベント受付部9、シネメモリ8、画像合成部11は、例えば、種々の電子部品を用いた公知のハードウエアによって実現される。また、信号処理部21はソフトウエアによって構成してもよいし、ハードウエアによって構成してもよい。ソフトウエアにより信号処理部21を構成する場合には、信号処理部21によって生成される受信信号はデジタル信号であることが好ましい。制御部7は、例えば、マイコンなどの演算器とソフトウエア等によって構成される。
【0022】
超音波送受信処理部2は、探触子1が脱着可能に構成されている。探触子1は、超音波振動子を有し、超音波振動子によって超音波を被検体に送信するとともに被検体からの反射超音波を受信し、電気信号に変換する。
【0023】
超音波送受信処理部2は、探触子1の超音波振動子に所定のタイミングで駆動パルスを供給し、探触子1が超音波を送信するように駆動する送信処理を行う。また、反射超音波を受信し、変換された電気信号を探触子1から受け取り、その電気信号の増幅、検波などの、超音波の断層像の構築などに必要な受信処理を行うことによって受信信号を生成する。
【0024】
通常、超音波診断装置101は、IMTの計測を行う領域を含む計測領域において被検体の体内の断層像を得るために、複数の超音波を送信し、断層像を得る領域を超音波で走査する。この走査によって、1フレーム分の断層像を得るための受信信号が得られる。この走査を繰り返すことにより、例えば、1秒間に数フレームから数十フレーム分の断層像を生成する。これにより、超音波送受信処理部2は、1フレーム分の送信処理を繰り返し連続して行い、対応する受信信号を逐次生成する。このため、以下の処理は、生成された受信信号に対して逐次行われる。
【0025】
信号処理部21は、超音波送受信処理部2で生成した受信信号を受け取り、超音波画像の生成や、計測対象の検出、計測値の算出といった処理を行う。IMT計測を行う場合、信号処理部21は、断層像処理部3、血管壁厚算出部4、拍動検出部5および信頼性判定部6を含むことが好ましい。
【0026】
断層像処理部3は、超音波送受信処理部2で生成した受信信号を受け取り、受信信号の座標変換などを行って、超音波像を構築する。本実施形態では、超音波による二次元画像である被検体の体内の断層像を逐次構築する。断層像は、例えば受信信号の振幅、つまり、信号強度に応じた輝度信号を生成することによって得られる。また、構築した断層像に基づき、被検体にあてた探触子1のプローブ面の位置および方向が適切であり、探触子1から送信される超音波が計測対象である血管の短軸断面の中心近傍を伝搬しているかどうかを判定する。
【0027】
血管壁厚算出部4は、以下において詳細に説明するように計測対象となる被検体のIMTである血管の血管壁の厚さを算出する。
【0028】
拍動検出部5は、血管の拍動状態を正しく検出できているかどうかを検出し判定する。また、一心拍中の所定のタイミングで信号を出力する。この信号はIMTの計測の参照時刻に用いられる。
【0029】
信頼性判定部6は、計測対象となる血管の壁厚などを計測する際に、観測状態が適切であるかどうか、あるいは、計測値が計測結果として信頼できるかどうかを、断層像処理部3および拍動検出部5の出力、つまり断層像処理部3から得られる判定および拍動検出部5から得られる判定に基づき判定する。つまり、信頼性判定部6は、受信信号に基づいて断層像処理部3および拍動検出部5が行った観測状態が適切であるかどうかという条件、あるいは、計測値が計測結果として信頼できるかどうかという条件を満たしているかどうかを判定する。また、血管壁厚算出部4からIMT値を受け取る。判定結果は、IMT値の信頼度を示す信号としてIMTの計測値ともに出力される。
【0030】
シネメモリ8は、信頼性判定部6からIMT値およびその信頼度を示す信号を受け取り、断層像処理部3で構成された断層像の信号とともに記憶する。なお、
図1では、図示および説明は割愛するが、超音波送受信処理部2で生成した受信信号をシネメモリ8に記憶するように構成されていてもよい。
【0031】
操作器10は、操作者が超音波診断装置101を操作するための機器であり、操作パネル、トラックボール、キーボード、マウス、タッチパネルなどである。操作イベント受付部9は、操作器10を用いて操作者が行った操作のイベントを受け付け、制御部7に通知する。
【0032】
制御部7は、操作イベント受付部9からの操作イベントを受け、各ブロックを制御する。また、制御部7は、自動フリーズ制御部70を備え、自動フリーズ制御部70が信頼性判定部6の判定結果に基づき自動的に、つまり、直接操作者がフリーズ状態にするための操作を行うことなく、フリーズ状態に移行する制御を行うことにより、計測結果をIMT値として確定する。また、自動フリーズ制御部70は、操作イベント受付部9が所定の操作イベントを受け付けた後、一定の期間だけ自動フリーズを抑制するように制御する。ここで、フリーズ状態とは、超音波診断装置の分野では一般的に超音波の送受信処理を停止し、かつ、表示する画像を静止させた状態のことを指す。しかし、本願明細書では、超音波の送信処理の停止、超音波の受信処理の停止および表示する画像の静止の少なくともいずれか一つを行った状態を意味する。また、自動フリーズの抑制とは、自動的にフリーズ状態へ移行することを抑えることに加え、自動フリーズ状態への移行を無効化することも含む。
【0033】
このように、計測結果をIMT値として確定し、超音波の送信処理の停止、超音波の受信処理の停止および表示する画像の静止の少なくともいずれか一つを行うことによって、表示されている断層像がIMTを求めたときの断層像と一致するため、操作者に違和感を与えることがなく、また、操作者が計測終了のタイミングを認識しやすいため、違和感のない優れた操作性を実現できる。
【0034】
画像合成部11は、表示器12が接続可能に構成されており、信頼性判定部6で判定された計測結果と、断層像構築部31で構成された断層像の信号とを、接続された表示器12で表示できるように合成する。表示器12は、画像合成部11に接続され、その画像信号を表示するモニタである。
【0035】
図2は、
図1で示した超音波診断装置101のより詳細な構成を示すブロック図である。以下、
図2を参照しながら、超音波診断装置101の構造をより詳細に説明する。なお、
図1で説明した構成については、説明を省略する。
【0036】
図2に示すように、血管壁厚算出部4は、境界検出部41とIMT算出部42とを有する。境界検出部41は、超音波送受信処理部2から得られる受信信号に基づき、IMT計測範囲(
図11(a)、(b)参照。)を含む範囲において、計測対象である血管の内腔内膜境界204と中膜外膜境界205との2種の血管境界を検出する。IMT算出部42は、境界検出部41で検出した内腔内膜境界204と中膜外膜境界205との間の距離をIMT値として算出する。この際、IMT計測範囲における距離の最大値を取ればmaxIMTが、平均値を取ればmeanIMTが算出され、このmaxIMTあるいはmeanIMTを最終的なIMT値として算出する。ただし、本発明はこれらに限定するものではなく、IMT計測範囲において計測された複数のIMT値を用いて、種々の統計処理を行い、得られた値を出力してもよい。
【0037】
断層像処理部3は、断層像構築部31および血管中心判定部32を有する。上述したように断層像構築部31が、受信信号に基づき断層像を構築する。血管中心判定部32は、断層像構築部31で構築された断層像と境界検出部41で検出した血管境界とから、血管境界の位置で断層像に内腔内膜境界204および中膜外膜境界205が明瞭に描出されているかどうかや、断層像において内腔内膜境界204および中膜外膜境界205が明瞭に描出されている部分の長さ等を評価する。これらは、断層像に基づいて評価するものであるため、血管中心判定部32は、断層像の信号を構成する受信信号の特徴、つまり、信号強度(または輝度)および信号強度(または輝度)の分布の少なくともいずれか一方に基づき評価を行うことを意味する。また、血管境界の位置という形状的特徴を評価することを意味する。これにより、被検体にあてた探触子1のプローブ面の位置および方向が適切であり、探触子1から送信される超音波が計測対象である血管の短軸断面の中心近傍を伝搬しているかどうかを判定する。
【0038】
拍動検出部5は、拍動情報処理部51、拍動性判定部52および心拍期検出部53を有する。拍動情報処理部51は、超音波送受信処理部2で生成した受信信号から、計測対象である血管が拍動しているかどうかを判定するための情報を抽出する。拍動性判定部52は、拍動情報処理部51で処理・抽出された情報から、血管が拍動しているかどうかを判定する。心拍期検出部53は、拍動情報処理部51で処理・抽出された情報から、心拍における特定のタイミングを検出する。例えば、心臓が収縮後拡張して血流が最小になるタイミングである心拡張末期などを検出する。
【0039】
血管中心判定部32および、拍動情報処理部51、拍動性判定部52、心拍期検出部53を有する拍動検出部5が行う判定は、IMT値を正確に、かつ再現よく計測するための以下の2つの条件を満たしているか否か示す。
【0040】
第一の条件は、血管の内腔内膜境界204と中膜外膜境界205との両境界が明瞭に描出されていることである。この両境界が明瞭に描出されているか否かは、血管中心判定部32が判定する。
【0041】
IMT値は、血管の内腔内膜境界204と中膜外膜境界205とを検出し、その厚さを計測することにより求められる。したがって、両境界が明瞭に描出されていなければ、正確かつ再現よくIMT値を計測することができない。この両境界が明瞭に描出されるためには、被検体にあてた探触子1のプローブ面の位置および方向が適切であり、探触子1から送信される超音波が血管の短軸断面の中心近傍を伝搬している必要がある。すなわち、血管の短軸断面はほぼ円形であることから、この円形の中心を通るように超音波が電波するように探触子1を配置しなければならない。この点を、
図3を用いて詳細に説明する。
【0042】
図3は、被検体に配置された探触子1と血管の短軸断面との位置関係を示す図であって、
図3(a)は、被検体に当てた探触子1のプローブ面の位置および方向が適切である状態を示している。この場合、探触子1から送信され、体内の組織で反射する超音波エコーの進路、つまり、音響線が血管の短軸断面の中心近傍を通る。この状態を「探触子が血管の短軸断面の中心近傍を捉えている」ともいう。超音波エコーは、組織境界など音響インピーダンスに差異がある境界で反射するが、境界面に垂直にあたるほど強く反射し、明瞭な反射エコー信号が得られる。したがって、
図3(a)に示す状態は、内腔内膜境界204および中膜外膜境界205の両境界で強く明瞭な反射エコーが得られる。
【0043】
一方、
図3(b)は、被検体に当てた探触子1のプローブ面の方向は適切であるが、位置が適切ではない状態を示している。探触子1送受信される超音波エコーの音響線が血管の短軸断面の中心近傍を通過していない。
図3(b)に示す状態では、超音波エコーが血管の両境界に垂直にあたらないため、弱く不明瞭な反射エコーしか得られない。そのため、内腔内膜境界204および中膜外膜境界205がぼやけて分離されずに描出されたり、内腔内膜境界が描出されなかったりする。
【0044】
したがって、血管の内腔内膜境界204と中膜外膜境界205との両境界を明瞭に描出させるためには、探触子1が、血管の短軸断面の中心近傍を捉える状態となるように、探触子1のプローブ面の位置および方向を適切に調整する必要がある。
【0045】
血管中心判定部32は、上述の通り、第一の条件を満たすことを判定する。具体的には、血管境界の位置において、断層像に内腔内膜境界204および中膜外膜境界205が明瞭に描出されているかを評価することで、被検体にあてた探触子1が血管の短軸断面の中心近傍を捉えていることを判定する。
【0046】
さらに具体的に説明すると、検出された血管境界位置およびその周辺部位の断層像データにおいて、
図11(a)、(b)に示すように、検出された内腔内膜境界204位置の血管内腔201側から内中膜203側にかけて輝度の立ち上がりが存在するか、検出された中膜外膜境界205位置の内中膜203側から外膜202側にかけて輝度の立ち上がりが存在するか、および、検出された内腔内膜境界204位置と中膜外膜境界205位置の間に輝度の落ち込みがあるかなどを評価することによって、血管境界の位置で断層像に内腔内膜境界204および中膜外膜境界205が明瞭に描出されているか否かを判定する。これにより、第一の条件を満たしているか否かが確認される。
【0047】
なお、上述の二種の境界が明瞭に描出される血管の短軸断面の中心近傍とは、例えば、血管断面の中心から
図3(a)に示す音響線と垂直な方向へのずれが0.5mm程度以内をいう。ただし、この値は、被検体や、超音波診断装置の計測精度、計測条件などにも依存するため、厳密に限定されるものではない。
【0048】
また、上述のように、断層像に内腔内膜境界204および中膜外膜境界205が明瞭に描出されている部分の長さを、被検体にあてた探触子1が血管の短軸断面の中心近傍を捉えているかどうかの判定に用いることも可能である。この場合、例えば、IMT計測範囲(
図11(a)、(b)参照)の全域あるいは一定の割合以上で上述の二種の境界が明瞭に描出されていることを、判定の目安としてもよい。より具体的には、例えば、IMT計測範囲が1cmであり、上述の一定の割合を75%以上とした場合、1cmのうち7.5mm以上の範囲において二種の境界が明瞭に描出されていれば、血管の中心が捉えられていると判定し、第一の条件を満たしていると確認される。
【0049】
第二の条件は、心拍の変化に応じて変動するIMTの計測を所定のタイミングで行うことである。この所定のタイミングは、心拍期検出部53によって心拍を検出し、拍動性判定部52によって、拍動情報処理部51で処理・抽出された情報から、血管の情報を正しく計測できる状態か否かを判定する。
【0050】
血管は、その内部を流れる血流の量や流速に対応して伸縮し、血管壁の厚さが変動する。このため、計測するタイミングによってIMT値も変化する。したがって、所定のタイミングでIMT計測を行わなければ、正確に、かつ再現よくIMT値を計測することができない。
【0051】
この点を、
図4を用いて詳細に説明する。
図4(a)は、頸動脈の長軸方向における断面(以後、長軸断面とする。)を示し、
図4(b)は心臓からの血液の拍出による頸動脈の内径の時間的な変化波形を示す。
【0052】
心臓の収縮期には血流速度が速くなり血圧が高くなるので、この収縮期における血管の内径(
図4(a)に示す前壁のAと後壁のBとの2点間距離)は大きくなるとともに、血管壁の厚さは小さくなる。一方、心臓の拡張期には血流速度が遅くなり血圧が低くなるので、拡張期における血管の内径は小さくなり、血管壁の厚さは大きくなる。したがって、血管壁の厚さは心拍に同期して変化することから、IMT値も計測するタイミングによって変化する。また、血管の内壁は、心臓からの血液の拍出によって時間的に変化し、
図4(b)に示すような脈波状の変化波形が観測される。
【0053】
図4(b)には、心臓の心拡張末期を検出するために通常使用されるECGのR波トリガタイミングも示している。
図4(b)に示すように、ECGのR波トリガタイミング直後、血管の内径は一旦小さくなり、その後、急激に大きくなり、徐々にもとの径に戻っていく。したがって、1心拍において、血管壁の厚さが最大となるのは、心臓の心拡張末期から所定の期間経過後の血管の内径が一旦小さくなるタイミングである。
【0054】
IMT計測においては、血管壁の厚さが最大になった時の計測が、理想的であるとされている。したがって、例えば、血管壁の厚さが最大となった時のタイミングでIMT計測をするなど、1心拍における所定のタイミングでIMT計測することで、正確に、かつ再現よくIMT計測を行うことができる。
【0055】
本実施形態では、簡便にIMT計測の最適なタイミングを検出するため、拍動情報処理部51が受信信号を用いて生成した情報に基づき、拍動性判定部52が拍動の有無を判定する。また、心拍期検出部53が、拍動情報処理部51で処理・抽出された情報から、例えば、上述したECGのR波から所定の期間経過後の時刻に対応するタイミングを検出し、出力する。
【0056】
拍動性判定部52は、心拍期検出部53から受け取った上述のタイミングを示す信号とともに、拍動の有無を判定した結果を信頼性判定部6へ出力する。
【0057】
なお、本実施形態では心拍期検出部53が、受信信号を用いて所定のタイミングを検出する構成を示したが、通常のECGを用いて所定のタイミングを検出する構成であっても良い。この場合、
図2における心拍期検出部53は拍動情報処理部51で処理・抽出された情報を受け取るのではなく(すなわち拍動情報処理部51から心拍期検出部53へのパスは不要となり)、心拍期検出部53にはECGが接続される。
【0058】
上述したように制御部7は、自動フリーズ制御部70を備え、自動フリーズ制御部70が信頼性判定部6の判定結果に基づき自動的に、フリーズ状態に移行する制御を行い、計測結果をIMT値として確定する。IMTの計測は、受信信号を処理することにより行うことができるため、この時、表示器12に、断層像は表示されていなくてもよい。この場合、フリーズ状態へ移行したことが操作者には分からないため、例えば、フリーズ状態に移行したことを、表示器12の画面上にアイコン等で表示したり、警報音等を発したりする報知手段を設けることで、操作者にフリーズ状態への移行を知らせることができる。なお、これら報知手段は、画像表示する場合にも用いることができる。
【0059】
次に、
図5を参照しながら、超音波診断装置101の動作を用いて説明する。
図5は超音波診断装置101の典型的な動作を示すフローチャートである。
【0060】
まず、ステップS101では超音波送受信処理部2で、超音波信号の送信制御、受信制御を行って、探触子1を駆動することにより超音波を送信し、被検体で反射し、探触子1で受信した反射超音波を、一般的な超音波診断装置同様に信号処理を行って受信信号(受信エコーデータ)を生成する。
【0061】
そして、ステップS102で、断層像構築部31がこの受信信号を処理して断層像を構築する。ここで生成される断層像データは被検体の内臓などさまざまなものが対象となるが、ここでは血管、特に頸動脈の画像とそのデータを中心に処理するものとして説明する。
【0062】
一方、超音波送受信処理部2から出力される受信信号は、血管壁厚算出部4と拍動検出部5にも送られる。
【0063】
ステップS103では、血管壁厚算出部4の境界検出部41が、超音波送受信処理部2から出力された受信信号の振幅や位相を基に、血管の内腔内膜境界204と中膜外膜境界205とを検出し、その位置情報を血管中心判定部32およびIMT算出部42へ出力する。これは、あらかじめ設定された対象画像範囲内(ROI)の各点について行う。IMT計測において、ROIは通常、IMT計測範囲(
図11(a)、(b)参照)に対応させて設定されている。
【0064】
続いてステップS104では、境界検出部41で検出した内腔内膜境界204と中膜外膜境界205の位置情報から、IMT算出部42で、内中膜203の厚さの計測、すなわち、IMT値を算出する。
【0065】
ステップS105では、血管中心判定部32が、断層像構築部31からの断層像と、境界検出部41から得られる境界の位置情報とから、現在探触子1で捉えられている血管の受信信号が、血管の中心近傍の受信信号であるか否かを判定する。
【0066】
一方、超音波送受信処理部2から出力される受信信号は拍動検出部5にも送られる。
【0067】
ステップS106では、拍動検出部5で対象とする血管の拍動を検出し、その波形が血管の拍動を正しく捉えているものかどうかを判定する。まず、拍動情報処理部51は、
図4(a)に示すように、対象となる血管の前壁と後壁上に計測点A、Bを設定し、受信信号の振幅や位相を解析することで、計測点A、Bの動きを追跡する。動脈は心拍によって収縮拡張を繰り返しており、このため計測点A、B間の距離は、
図4(b)に示す周期的な動きをするので、これを血管の内径変化波形として検出する。これにより、心電装置などの装置と被検体との間の特別な接続を必要とせず、探触子を被検体に当てるだけの簡単な操作で、血管の内径変化波形を得ることができる。
【0068】
次に、拍動性判定部52で、拍動情報処理部51で得た内径変化波形が、血管の拍動を正しく捉えているかどうかを、この内径変化波形が脈波状になっているかどうか評価することによって判定する。
【0069】
判定する方法として、例えば、内径変化波形の単純な特徴量に着目する方法(以後、方法(1)とする。)や、内径変化波形の基準(モデル)波形との一致度に着目する方法(以後、方法(2)とする。)などが挙げられる。
【0070】
まず、方法(1)について、
図6を用いて説明する。
図6は、頸動脈の内径変化波形を詳細に示す図である。拍動性判定部52は、頸動脈の内径変化波形に基づき、振幅やピークのタイミングが通常の人間がとりうる範囲内であるかどうかを判定する。判定のために用いられる特徴量のパラメータとしては、下記があげられる。
・ 最大振幅、最小振幅:それぞれ
図6のA
max、A
min
・ 最大振幅(A
max)になるタイミング:T
max
・ 最小振幅(A
min)になるタイミング:T
min
・ 一心拍周期:T
R
【0071】
上記パラメータは、一例ではあるが、
図6に示す波形において、A
maxが1mm弱、A
minがマイナス値、T
Rが1秒程度、T
min<T
maxである場合、拍動性を判定できることが実験的に確認されている。したがって、これらがすべて満たされた場合に脈波状であると判定することができる。
【0072】
次に、方法(2)について、
図7を用いて説明する。
図7(a)は、頸動脈のモデル波形と内径変化波形との相関を示す図であり、
図7(b)は、頸動脈のモデル波形を時間軸上で伸展させる方法を示す図である。
【0073】
まず、基準となるモデル波形を作成し、その波形と計測された内径変化波形との整合度合いを、相関係数を算出することで判定する。モデル波形は、あらかじめ複数人の人間の内径波形のデータを集める等して作成しておいたものを使用する。
【0074】
具体的には、モデル波形と計測された内径変化波形との両者の相関係数を算出する。モデル波形と計測波形の時間長が異なる場合は、
図7(b)に示すように、モデル波形と計測波形とを時間軸上に伸縮して時間長を同一にして相関係数を算出する。
図7(b)では、モデル波形長よりも計測波形長が長い場合を示している。モデル波形とある被験者との内径変化波形の周期、つまり、1心拍周期は一致しないことが殆どなので、
図7(b)に示すようにモデル波形を計測された内径変化波形を基準に時間方向に伸縮させる。そして伸縮させたモデル波形と計測された内径変化波形との相関係数を算出し、例えば相関係数が所定の閾値以上であれば脈波状であると判定する。
【0075】
なお、
図7(b)は、モデル波形とある被験者との内径変化波形の1心拍周期は一致しない場合において、モデル波形を、計測された内径変化波形を基準に時間方向に伸縮させることを示したが、計測された内径変化波形を、モデル波形を基準に時間方向に伸縮させても、同様の効果が得られる。
【0076】
このように拍動性を判定する2種の方法のうち、いずれか一方のみで判定することも可能であり、両方とも行うことも可能である。一方のみであればその処理時間が短縮され、両方行うことによって波形の一致度判定の精度をより高めることができる。
【0077】
ここまでは、波形の評価による判定であるが、IMT値を正確に計測するためには、上述のとおり、計測するタイミングが重要であり、そのためには心拡張末期のタイミングを検出する必要がある。
【0078】
心拍期検出部53は、拍動情報処理部51から血管の内径変化波形を受け取り、内径変化波形において、振幅が急激に増大する時刻、つまり、内径が急激に大きくなるタイミングを検出し、この一定時間前のタイミングを心拡張末期とする。
【0079】
上述したように、心拡張末期付近のタイミングで、IMTの値が最大になるため、その心拡張末期のタイミングを検出することによって、最適なタイミングでIMT値を計測することができる。
【0080】
図8は血管の内径変化波形、IMT値の変化波形およびECGの波形を時間軸をそろえて示している。厳密にいえば、IMT値が最大値となる理想的なタイミングは
図8に示すように心拡張末期(心電図ではR波のタイミングに相当)から所定の時間遅延したタイミングであるので、この遅延時間を考慮してIMT値の計測タイミングを決めることによって、より確度の高い計測を行うことができる。このように、血管の内径変化波形を用いれば、ECGなどの装置を用いることなく、簡便にIMT計測に最適なタイミング検出することができる。
【0081】
なお、一心拍中において、IMT値を計測するためのタイミングとしては必ずしも心拡張末期である必要はなく、処理の遅延時間や処理方法に応じて任意のタイミングを検出できるようにしておけば汎用性が高まる。
【0082】
ここで、
図9に、診断において血管を正しく捉えられている場合と、正しく捉えられていない場合の波形を示す。
【0083】
図9は、拡張末期タイミングの各ポイント(aからeまで)で拡張末期を検出しているが、ポイントa、b、cは血管を正しく捉えられていない状態であり、ポイントd、eは血管を正しく捉えている状態を示している。
【0084】
また、ポイントd、eは、内径変化波形の評価による拍動性判定と心拡張末期検出の双方が正しく検出された状態を示しているが、ポイントa、b、cのように、診断において血管を捜そうとするなどして探触子を移動させた場合など、心拡張末期ではないポイントを検出してしまったとしても内径変化波形の評価により血管を正しく捉えられていないことを判定している。
【0085】
つまり、拍動性判定部52は、拍動情報処理部51で検出した内径変化波形の評価結果と、心拍期検出部53で検出した心拡張末期のタイミングの両方を参照することによって、血管が拍動していること、すなわち、探触子により血管が正しく捉えられていることを判定する精度を向上させている。
【0086】
次にステップS107では、信頼性判定部6が、血管中心判定部32で判定された結果と拍動検出部5で検出し判定された拍動性とを評価することによって、IMT算出部42で算出したIMT値の信頼性を判定する。具体的には、信頼性判定部6は、診断対象である現在捉えられている血管が、IMT計測結果を決定するために妥当な状態かどうかから、IMT値の信頼性を判定する。判定は、血管中心判定部32での判定結果と、拍動性判定部52での判定結果とに基づいて行う。
【0087】
より具体的には、血管中心判定部32で探触子1の位置が血管の中心近傍を捉えていると判定されたとき、信頼性判定部6はIMT値の信頼性が高いと判定する。また、拍動性判定部52で血管の拍動を正しく捉えていると判定されたとき、信頼性判定部6はIMT値の信頼性が高いと判定する。そしてこれらが満たされたとき、信頼性判定部6はIMT計測結果を決定するのに十分な信頼性があると判定する。
【0088】
あるいは、信頼性をありなしの二択で判定するのではなく、拍動性判定部52および血管中心判定部32は、確からしさを示す多値を出力してもよい。具体的には、血管中心判定部32は探触子1の位置が血管の中心近傍を捉えている確からしさを表す評価値を算出する。また、拍動性判定部52は血管の拍動を正しく捉えている確からしさを表す評価値を算出する。信頼性判定部6は、血管中心判定部32で算出された評価値と拍動性判定部52で算出された評価値からIMT値の信頼性を表す評価値を算出する。
【0089】
このとき、血管中心判定部32で算出する評価値は、例えば、上述の内腔内膜境界204および中膜外膜境界205が明瞭に描出されている部分の長さが大であるほど評価値が大きくなるように、あるいは、上述の検出された内腔内膜境界204位置や中膜外膜境界205位置の周辺における断層像の輝度の立ち上がりや落ち込みが大きいほど評価値が大きくなるように、定めればよい。また、拍動性判定部52で算出する評価値は、例えば、上述のモデル波形と計測された内径変化波形の相関が大きいほど評価値が大きくなるように定めればよい。
【0090】
信頼性判定部6の判定において、血管中心判定部32の結果のみで判定することもでき、拍動性判定部52の結果のみで判定することもできる。両方の判定結果を参照することによって、その判定精度を向上させることができる。その一方で、片方だけの判定でも診断状況によっては判定可能であるので、装置の用途、コスト、処理すべき信号量や制御器100の信号処理能力に応じて、ソフトウエアを適宜選択することも可能である。
【0091】
ステップS108では、シネメモリ8は、信頼性判定部6からIMT値およびその信頼度を受け取り、断層像構築部31で構成された断層像とともに記憶する。
【0092】
最後に、自動フリーズ制御部70において、信頼性判定部6の判定結果に基づき、自動フリーズするための条件が満たされているかどうかを判定し、条件が満たされていれば自動的にフリーズ状態に移行する処理を行う(ステップS109〜ステップS112)。
【0093】
まず、ステップS109で、自動フリーズ制御部70は、操作イベント受付部9で所定の操作イベントを受け付けてから所定の期間内であれば、後段のステップS111の判定で自動フリーズを抑制するために、ステップS110で自動フリーズするための条件を補正する。ここで所定の期間とは、例えば所定の操作イベントを受け付けてから、または、操作イベントが終了してから、たとえば「5秒間」である。また、操作イベントの種類に応じてこの所定の期間を個々に設定・変更してもよい。
【0094】
自動フリーズを抑制する所定の操作イベントとしては、フリーズ状態の解除、超音波送受信処理部2で超音波の送受信処理を行う範囲の移動や大きさの変更、血管壁厚算出部4で処理する対象範囲(ROI)の移動や大きさの変更、断層像構築部31で構築する断層像の深度範囲の変更、超音波送受信処理部2における送受信処理に関するパラメータ(走査線密度、並列受信の有無又は並列受信数、送信周波数、送信パワー、送信間隔)の変更、信号処理部21における信号処理に関するパラメータ(ゲイン、ダイナミックレンジ、フィルタ処理の有無又は特性)の変更、シネメモリ8に記録されたデータのクリアを伴う操作イベントなどであってもよい。
【0095】
フリーズ状態の解除の操作イベントの後で自動フリーズを抑制することにより、一度自動的にフリーズ状態に移行した後で、操作者がさらに調整をしたくてフリーズ状態を解除した場合に、調整する前に再び自動フリーズするのを防ぐことができる。また、上述のように推奨されるIMT計測範囲(
図11(a)、(b)参照)は頸動脈のうち総頸動脈207の遠位側(頭側)の端1cmであり、血管壁厚算出部4で処理する対象範囲(ROI)はこのIMT計測範囲に対応させて設定されるが、ROIの移動や大きさの変更の後で自動フリーズを抑制することにより、IMT計測範囲を推奨される位置と大きさに調整中に自動フリーズするのを防ぐことができる。
【0096】
また、断層像構築部31で構築する断層像の深度範囲の変更の後で自動フリーズを抑制することにより、断層像の深度範囲を調整中に自動フリーズするのを防ぐことができる。
【0097】
また、走査線密度、並列受信の有無又は並列受信数、送信周波数、送信パワー、送信間隔といった超音波送受信処理部2における送受信処理に関するパラメータの変更の後で自動フリーズを抑制することもできる。ここで走査線密度とは超音波の送受信走査をする際の走査線の間隔の詰まり度合いのこと、並列受信とは一度の超音波パルスの送信に対して複数の走査線で同時に受信処理をすることである。並列受信数とは同時に受信処理を行う走査線数のこと、送信周波数とは送信する超音波パルスの周波数のこと、送信パワーとは送信する超音波パルスの振幅の大きさのこと、送信間隔とは連続した超音波パルスの送信間の時間間隔のことである。これにより、送受信処理に関するパラメータの変更中に自動フリーズするのを防ぐことができる。
【0098】
また、ゲイン、ダイナミックレンジ、フィルタ処理の有無又は特性といった信号処理部21における信号処理に関するパラメータの変更の後で自動フリーズを抑制することもできる。ここでゲインとは受信信号の増幅量のこと、ダイナミックレンジとは受信信号を断層像などに画像化する際の画像化の対象となる受信信号の値のレンジのこと、フィルタ処理とは受信信号あるいはその信号処理過程のデータに対して適用される諸々のフィルタ処理(例えば、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、ノイズカット用の空間フィルタ、超音波画像のフレーム間フィルタなど)のことである。これにより、信号処理に関するパラメータの変更中に自動フリーズするのを防ぐことができる。
【0099】
また、シネメモリ8に記憶されたデータのクリアを伴う操作イベントの後で自動フリーズを抑制することにより、シネメモリに記録されたデータのクリアを伴う操作全般について、それらの操作中に自動フリーズするのを防ぐことができる。
【0100】
以上、自動フリーズを抑制する所定の操作イベントとしていくつかの例を挙げたが、これらのうち一つの操作イベントの後でのみ自動フリーズを抑制してもよいし、複数あるいは全ての操作イベントの後で自動フリーズを抑制してもよい。また、ここで挙げた操作イベントに限らず、他の操作イベントの後で自動フリーズを抑制するようにしてもよい。
【0101】
ステップS110における自動フリーズの条件の補正の方法としては、自動フリーズを無効化する方法(以後、方法(a)とする。)と、自動フリーズの条件を厳しく変更する方法(以後、方法(b)とする。)がある。
【0102】
方法(a)は、信頼性判定部6の結果によらず、後段のステップS111で一切自動フリーズしないようにする。この方法は、信頼性判定部6における判定がIMT値の信頼性ありなしの二択の場合にも、IMT値の信頼性を表す評価値を算出する場合にも適用することができる。このようにすることで、各種調整などの操作中に自動フリーズされて操作性が損なわれないようにすることができる。
【0103】
方法(b)は、信頼性判定部6でIMT値の信頼性を表す評価値を算出する場合に適用でき、後段のステップS111で自動フリーズするかどうかの判定の際の基準値を厳しく、すなわちIMT値の信頼性を表す評価値が、あらかじめ定めた基準値を超えた時にフリーズするものである場合、評価値が基準値を超えにくくなるように、この基準値をより高い値に変更する。
【0104】
方法(b)の基準値の変更の例を
図10に示す。
図10(a)は、操作イベント受け付け後の所定の一定期間だけ、基準値を元の値に比べて一定量だけ大きい値に変更する場合の時間と基準値との関係を示している。このようにすることで、各種調整などの操作中は自動フリーズされにくくなり、操作中に自動フリーズされて操作性が損なわれないようにすると同時に、IMT値の信頼性が極めて高く、大きい値に変更された基準値をも超える場合には、操作中であってもそのIMT値を計測値として採用して自動フリーズすることができる。
【0105】
図10(b)は、操作イベント受け付け時に基準値を元の値に比べて大きい値に変更した後、変更前の条件に戻るまで徐々に基準値を下げていく場合の例である。このようにすることで、各種調整などの操作の直後ほど自動フリーズされにくくなり、操作中に自動フリーズされて操作性が損なわれないようにすることができる。また、同時に、IMT値の信頼性が十分に高い場合には操作から時間が経つほど、操作中であってもそのIMT値を計測値として採用して自動フリーズしやすいようにすることができる。
【0106】
次に、自動フリーズ制御部70はステップS111で、信頼性判定部6の結果に基づき自動フリーズするかどうかを判定する。信頼性判定部6でIMT値の信頼性を信頼性ありなしの二択で判定する場合は、信頼性ありの判定だった場合に自動フリーズする。また、信頼性判定部6でIMT値の信頼性を評価値で算出する場合は、評価値を所定の基準値と比較し、評価値が基準値を超えており信頼性があると判定される場合に自動フリーズする。
【0107】
なお、上記説明では評価値が所定の基準値を超えている場合に信頼性があると判定される構成を示したが、評価値の取り方によっては、評価値が基準値を下回るときに信頼性があると判定することも可能である。例えば、単純に評価値の正負を逆転させればよく、この場合、基準値を厳しく変更するとは、基準値を小さい値に変更することになる。
【0108】
ここで、ステップS111の自動フリーズの判定において、ステップS109で所定の操作イベントを受け付けてから一定の期間内だった場合は、ステップS110での自動フリーズの条件の補正を反映させて判定を行う。すなわち、ステップS111で自動フリーズが無効化された場合は、信頼性判定部6の判定結果によらず自動フリーズしない。また、ステップS110で自動フリーズの基準値を変更した場合は、IMT値の信頼性の評価値を変更後の基準値と比較して判定を行う。
【0109】
ステップS111で自動フリーズすると判定されたら、自動フリーズ制御部70はステップS112で、IMT値をIMT計測値として決定し、フリーズ状態に移行する。そして制御部7がフリーズ状態への移行に合わせて各ブロックを制御する。具体的には、超音波の送信処理または受信処理を停止するように超音波送受信処理部2を制御する。また、表示器12に表示される断層像が静止するように、画像合成部11を制御する。断層像の静止とは、IMT計測値として決定した計測を行った断層像が表示器12に表示されるように画像合成部11が合成信号を生成、以降のフレームの断層像で、合成信号を更新しないことをいう。
【0110】
ステップS111で自動フリーズしないと判定された場合は、ステップS101に戻って計測を継続する。また、この際、自動フリーズの条件は補正前の値に戻される。つまり、自動フリーズの条件が初期条件に設定される。
【0111】
ステップS113では、画像合成部11が、この信頼性判定部6で判定された結果に基づいて決定されたIMT計測値と、断層像構築部31で構築された断層像とを合成して、表示器12に出力する。これにより、診断画像と計測結果を操作者が確認できるようになる。この際、シネメモリ8からIMT値と断層像を読み出して、合成し表示するようにしてもよい。
【0112】
なお、
図5では血管中心判定処理(ステップS105)、拍動性判定処理(ステップS106)の順に実行するようになっているが、これらは順不同である。また説明の都合上、
図5ではIMT値の信頼性を判定(ステップS107)した後で都度、所定イベントから一定期間内であれば自動フリーズの条件を補正(ステップS109およびステップS110)するようにしたが、所定の操作イベントを受け付けた時点で自動フリーズの条件を補正し、その後タイマ処理によって一定期間が経過後に自動フリーズの条件を元に戻すように、あるいは所定の周期のタイマ処理で自動フリーズの条件を元に戻るまで徐々に変えるように、イベント駆動型で処理することも可能である。つまり、
図10(a)あるいは、
図10(b)に示すように、自動フリーズの条件が時間ともに変化する基準値を有していてもよい。この場合、
図5に示すフローチャートにおいて、ステップS109、S110は省略される。
【0113】
また、本実施の形態では血管中心判定部32は、断層像構築部31で構築された断層像と境界検出部41で検出した血管境界を用いて、被検体にあてた探触子1が血管の中心を捉らえているかを判定した。しかし、超音波送受信処理部2の出力である受信エコー信号を断層像構築部31を経由せず血管中心判定部32へ直接入力するような構成をとることで、断層像の代わりに超音波送受信処理部2が出力する受信エコー信号の振幅を被検体にあてた探触子1が血管の中心を捉らえているかどうかの判定に用いることも可能である。これにより、断層像を構築する際の設定やパラメータに依存せずに判定を実施できる。
【0114】
以上においては、超音波診断装置を用いたIMT計測の場合の構成を例に説明したが、IMT計測以外の様々な場合にも本発明は適用可能である。
【0115】
IMT以外の計測において、信頼性を判定した結果に基づき自動フリーズする際に、所定の操作を受け付けた後、一定時間だけ自動フリーズを抑制するように制御することにより本発明を適用可能である。例えば、産科では超音波診断装置を用いて胎児の大腿骨の長さを計測するが、大腿骨の長さを高い信頼性で計測できたと判定されたら自動フリーズする際に、所定の操作を受け付けた後、一定時間だけ自動フリーズを抑制することができる。この場合、受信信号に基づき得られる大腿骨の長さが所定の範囲内にあるかどうかや、大腿骨と周囲の組織との受信信号の強度比が所定の値以上であるなどを条件とし、これらの条件が満たされているかどうかを信頼性判定部で判定することが可能である。
【0116】
また、何らかの計測を行う場合に限らず、例えば、所定の基準により高画質な画像が得られたと判定されたときに自動フリーズする場合においても、所定の操作を受け付けた後、一定時間だけ自動フリーズを抑制するように制御することにより本発明を適用可能である。この場合、受信信号に基づき得られる断層像の画質が高いかどうかを、例えば、フレーム間での画像の変化を示す数値を算出し、この数値が所定の範囲であるという条件を用いて信頼性判定部で判定することが可能である。探触子が安定して被検体に当てられている場合、フレーム間での画像の変化が小さくなり、高画質の断層像が得られるからである。
【0117】
なお、IMT計測を対象とした上の説明では計測処理を行う範囲をROIとしたが、例えば、断層像表示やカラーフロー画像表示において超音波の送受信走査を行う範囲や、断層像生成またはカラー画像生成の信号処理を行う範囲のことをROIとしてもよい。また、ドプラスペクトラム解析の範囲をROIとしてもよい。これらのときもROIの位置を移動あるいは大きさを変更した後、一定時間だけ自動フリーズを抑制するように制御することにより本発明を適用可能である。
【0118】
また、IMT計測を対象とした上の説明では断層像の深度範囲の変更の後で自動フリーズを抑制するとしたが、深度範囲を変更する対象の超音波画像は断層像に限らず、カラーフロー画像や時間変化像(Mモード像)など、その他の超音波画像の場合にも本発明を適用可能である。
【0119】
以上、IMT計測以外に本発明を適用可能な例をいくつか挙げたが、所定の条件が満たされたときに自動フリーズする超音波診断装置において、所定の操作イベントを受け付けた後、一定期間だけ前記自動フリーズを抑制するように制御するという、本発明の主旨に反しない限り、ここで述べた場合に限定されないことはいうまでもない。
【0120】
このように、本発明によれば、自動フリーズによって操作性を向上しつつ、各種調整などの操作中で自動フリーズされて操作性が損なわれることのない、超音波診断装置を提供することができる。