【実施例1】
【0023】
本実施例は、主面がc面であるサファイア基板上に、AlNから成るバッファ層をMOCVD法により形成し、熱処理の後に、GaNを成長させた例である。結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H
2 又はN
2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH
3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH
3)
3:以下「TMG」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3:以下「TMA」と書く。) を用いた。
【0024】
まず、バッファ層の熱処理による結晶核の変化の様子について述べる。
図1は、半導体の成長時のサファイア基板の制御温度の時間変化を示している。MOCVD装置内にサファイア基板を載置して、水素ガスを流しながら、基板温度を室温から1180℃に上昇させて、サファイア基板を加熱してクリーニングを行い、サファイア基板の表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、基板温度を400℃にして、TMAとアンモニアガスとを水素ガスと共に流し、サファイア基板上にAlNからなる厚さ10nmのバッファ層を形成した。次に、TMAの供給を停止して、原料ガスのTMGとアンモニアガスと水素ガス(キャリアガス)とを流しながら基板温度を1020℃に上昇して、その温度を2分保持して、厚さ50nmのGaNから成るキャップ層を形成した。その後、TMGの供給を停止して、アンモニアガスと水素ガス(キャリアガス)とを流しながら、基板温度を1300℃の熱処理温度まで上昇させて、10秒保持し、バッファ層の熱処理を行った。この熱処理の期間において、キャップ層は、完全には蒸発しないので、バッファ層の表面が露出することはない。上記のキャップ層を形成する温度1020℃は、Alの酸化物が形成されない温度であり、熱処理温度1300℃ではAlの酸化物が形成される。
【0025】
GaNから成るキャップ層で覆われたAlNから成るバッファ層を1150℃以上の熱処理温度1300℃で熱処理した後、基板温度を、1300℃から1020℃に低下させて、水素ガスをキャリアガスとして流しながら、原料ガスのTMG、アンモニアガスを流して、厚さ1.5μmの不純物無添加のGaN(本体半導体)を成長させた。バッファ層の結晶核密度が低減されている結果、貫通転位の発生起点密度が低減されるので、そのバッファ層上に成長するGaNにおける貫通転位密度は低下する。
【0026】
キャップ層で覆われたバッファ層の熱処理温度と、本体半導体のGaNの(10−10)面のX線ロッキング曲線の半値幅(FWHM)を測定した。結果を
図2に示す。熱処理温度が1020℃では半値幅は1540秒であり、熱処理温度が1150℃では、半値幅は1400秒、熱処理温度が1300℃では、半値幅は960秒、熱処理温度が1400℃では、半値幅は830秒である。すなわち、熱処理温度の上昇に比例して、単結晶性が向上していることが分かる。
【0027】
また、熱処理後のバッファ層の結晶核密度と、キャップ層で覆われたバッファ層上に成長したGaNの貫通転位密度との関係を測定した。貫通転位密度は、X線ロッキングカーブのFWHM(半値全幅)を測定し、その値から、転位密度=FWHM値/(9b
2 )により求めた。ただし、bは、バーガース・ベクトルである。その結果を
図3に示す。バッファ層の結晶核密度が2.2×10
11/cm
2 の時に、GaNの転位密度は6.0×10
9 /cm
2 であり、バッファ層の結晶核密度が1.2×10
11/cm
2 の時に、GaNの転位密度は5.0×10
9 /cm
2 であり、バッファ層の結晶核密度が7.5×10
10/cm
2 の時に、GaNの転位密度は2.3×10
9 /cm
2 であり、バッファ層の結晶核密度が4.8×10
10/cm
2 の時に、GaNの転位密度は1.8×10
9 /cm
2 である。バッファ層の結晶核密度の減少に比例して、GaNの転位密度が減少していることが分かる。
【0028】
また、バッファ層の熱処理温度と成長させたGaNの表面状態との関係を測定した。
図4は、キャップ層で覆われたバッファ層を各熱処理温度で熱処理した後に、成長させたGaNの表面の顕微鏡写真である。何れの熱処理温度においても、キャップ層でバッファ層を覆って熱処理を行っているので、GaNの表面モホロジィは良好であることが理解される。GaNのKOH水溶液によるエッチング耐性を調べた結果、GaNはKOHではエッチングされなかった。したがって、GaNの成長面は一様にGa極性面であることが分かる。すなわち、N極性面への極性反転は見られない。
【0029】
次に、比較例として、キャップ層をバッファ層上に形成せずに、バッファ層を熱処理した場合について、実験した結果を説明する。
基板の温度変化特性は
図5に示す通りであり、
図1の特性と比べて、GaNから成るキャップ層を形成することなく、水素ガスとアンモニアガスを流して、AlNから成るバッファ層を1150℃以上の1400℃の熱処理温度に上昇させて、10秒間保持して、バッファ層の熱処理を行った点のみが異なる。
【0030】
このバッファ層の熱処理温度を、400℃、920℃、1020℃、1080℃、1150℃、1300℃、1400℃と変化させた各種の試料を製造した。この熱処理後のバッファ層表面のAFM像を測定した。AFM像から、バッファ層の表面粗さと、熱処理温度との関係を測定した。その結果を
図8に示す。また、バッファ層の結晶核密度と、熱処理温度との関係を測定した。その結果を
図9に示す。表面粗さは、凸部の高さ、凹部の深さの平均値を求め、凸部の高さ、凹部の深さの平均値に対する偏差の2乗平均の平方根(rms)とした。
図8及び
図9から、熱処理温度が400℃から1300℃の範囲では、高温になる程、表面粗さが大きくなることが分かる。これは、小さな核が合体し、大きな核になることで凹凸が大きくなったためである。一方、熱処理温度が1300℃以上となると、バッファ層の表面粗さは、バッファ層の形成時の表面粗さ(0.5nm)程度である0.68nm以下に低下していることが分かる。これは、この温度帯では、核はさらに大きくなり、高温であるために、原子のマストランスポートが生じ、表面の凹凸が小さくなったためであると思われる。また、結晶核密度は、熱処理温度が高くなる程、指数関数で減少していることが分かる。熱処理温度が1300℃以上となると、結晶核密度は、1.7×10
10/cm
2 以下に低下していることが分かる。また、熱処理温度が1150℃以上となると、4.4×10
10/cm
2 以下に低下していることが分かる。また、AFM像によれば、熱処理温度を高くするに連れて、それぞれの結晶核が大きくなり、結晶核密度が低下している。特に、400℃でバッファ層を形成した場合に比べて、熱処理温度が1300℃、1400℃の場合には、結晶核が顕著に大きくなり、結晶核密度が顕著に低下していた。以上のことから、熱処理温度は、1150℃以上、望ましくは、1250℃以上、さらに望ましくは、1300℃以上であることが良いことが分かった。
【0031】
次に、キャップ層で覆わないバッファ層の熱処理温度と、バッファ層上に成長させたGaNの表面状態との関係を測定した。
図6、7は、GaNの表面の顕微鏡写真である。熱処理温度が1100℃以下の場合には、GaNの表面は一様で平坦であるが、熱処理温度が1200℃以上となると、GaNの表面は荒れていることが分かる。また、1200℃以上では温度が高くなるに連れて、六角錐、六角錐台の結晶が観察され、非常に凹凸が大きいことが分かる。この
図7の表面が荒れた状態は、GaNの表面がN極性面であることを示している。KOH水溶液でエッチング耐性を調べたところ、
図7に示すGaNは、エッチング耐性がなく、ほとんど、全面がエッチングされた。キャップ層でバッファ層が被覆されていないために、1200℃以上の熱処理温度によって、バッファ層の構成元素であるAlが酸化されて、バッファ層上に成長するGaNの成長面はN極性面に反転した。
【0032】
一方、バッファ層をキャップ層で覆った後に、熱処理をした場合には、
図4、
図7とを比較すれば明らかなように、GaNの表面は平坦であり、成長面はN極性面ではなく、一様にGa極性面であることが分かる。このようにして、バッファ層のAlが酸化される温度より低い温度でバッファ層上にキャップ層を堆積させた後に、1150℃以上の熱処理を行った後に、GaN単結晶が成長する温度に保持して、GaNを成長させることにより、貫通転位を減少させた、一様にGa極性面を有したGaNを得ることができる。
【0033】
上記実施例において、バッファ層の形成温度は400℃としたが、300℃以上600℃以下において、バッファ層は多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態となるので、その温度範囲を用いることができる。また、バッファ層の厚さは、10nmとしたが、1nm以上、100nm以下の範囲とすることができる。この厚さの範囲において、バッファ層を多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態とすることができる。
【0034】
本発明は、基板の温度を、バッファ層を形成する低温から、バッファ層上に成長させるIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度1020℃まで上昇させて、その温度でIII 族窒化物半導体を成長させるものではない。本発明は、
図1に示すように、III 族窒化物半導体を成長させる前に、Alが酸化される温度よりも低い温度でバッファ層上にキャップ層を形成した後に、基板の温度を、III 族窒化物半導体の単結晶が適性に成長できる温度以上の熱処理温度で、キャップ層で覆われたバッファ層を熱処理するものである。したがって、直ちに、III 族窒化物半導体を成長させる場合に比べて、バッファ層の結晶核が大きくなり、結晶核密度は低下する。この結果、バッファ層における貫通転位の発生起点の密度が低減されるので、成長するIII 族窒化物半導体の貫通転位密度を低減することができる。また、バッファ層はキャップ層により覆われているので、熱処理の期間に、バッファ層のAlが酸化されることがない。このため、+c面成長の場合には、バッファ層上に成長するIII 族窒化物半導体の極性が反転することがなく、一様なGa極性面を得ることができる。また、本体半導体を+c面成長させる場合でなくとも、バッファ層の構成元素の酸化物の形成が抑制されるので、酸化物を起点とする新たな貫通転位が本体半導体に発生することが防止される。したがって、バッファ層の熱処理温度を、バッファ層上に成長させるIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体が成長し難い温度にすることで、成長させる半導体の貫通転位密度を低減させることかできる。熱処理温度は、この観点から1150℃以上1700℃以下、1300℃以上1700℃以下、1300℃以上1500℃以下、1200℃以上1600℃以下、又は、1200℃以上1400℃以下が望ましい。また、熱処理温度の最も望ましい範囲は、1150℃以上、1400℃以下である。熱処理の保持時間は、10秒としたが、1秒でも可能である。保持時間は、1秒以上、10時間以下の範囲が望ましい。
【0035】
バッファ層は、AlNの他、Al
x Ga
1-x N(0<x<1)、Alを必須とするAl
x In
y Ga
1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)を用いることができる。バッファ層上に成長させるIII 族窒化物半導体をAl
z Ga
1-z N(0<z<1)とする場合には、格子整合の観点から、バッファ層はAl
x Ga
1-x N(0<x<1)が望ましい。目的とする本体半導体Al
z Ga
1-z N(0<z<1)を単結晶成長させる温度は、1000℃以上であって、バッファ層の熱処理温度(例えば、1300℃)よりも低い温度である。MOCVDのチャンバー内の圧力は、100kPa(常圧)よりも低い方が望ましい。50kPa以下、望ましくは35kPa以下、さらに、望ましくは20kPa以下が良い。Alを含む有機金属ガスは、反応性が高いために、原料ガスが基板に到達する前に反応を起こし、目的とする半導体の結晶成長に寄与しない結合体が形成されるために、圧力は低い方が望ましい。減圧にして、原料ガスの流速を高くすることで、基板に至る前での反応を抑制し、基板上において効率の高い単結晶成長が可能となる。
また、バッファ層はスパッタリングにより形成しても良い。この時、基板温度は、300℃以上、600℃以下とすることが望ましい。また、バッファ層は、分子線エピタキシー(MBE)、パルスレーザアブレーション(PLD)により形成しても良い。
また、キャップ層を形成する温度は、バッファ層のAlが酸化される温度よりも低い温度である。サファイアのような酸化物基板の場合には、温度を上昇させると基板の裏面や側面などから酸素が成長室に蒸発する。この酸素によりバッファ層が酸化されるので、酸素が基板から蒸発する温度より低い温度で、キャップ層を形成することも望ましい態様である。
また、上記実施例では、本体半導体の成長において、+c面(Ga極性面)を結晶成長面とする場合について説明した。c面、a面を結晶成長面とするサファイア基板には、+c面を成長面とするIII 族窒化物半導体が成長する。しかし、上記したように、バッファ層を構成する元素の酸化物が形成されると、新たな結晶欠陥が発生するので、バッファ層の酸化をキャップ層で防止することは有効である。したがって、本体半導体を、極性の反転が生じない、又は、反転が問題とはならない+c軸方向以外の方位へ成長させる場合においても有効である。r面、m面サファイア基板を成長基板として用いても良い。r面、m面サファイア基板上には、無極性のa面、無極性のm面のIII 族窒化物半導体が成長するが、この場合には極性の反転は起こらないし、問題とはならないが、キャップ層の存在により、確実に、貫通転位密度を低減させることができる。
【0036】
次に、本発明の方法を用いて製造した発光素子について説明する。
図10は、本発明の製造方法を用いた発光素子1の構成を示した図である。発光素子1は、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120(キャップ層はバッファ層上に薄く残っていても、残っていなくとも良いため、記載を省略した)を介して、III 族窒化物半導体からなるn型コンタクト層101、ESD層(静電耐圧改善層)102、n層側クラッド層(以下、「n型クラッド層」という)103、発光層104、p層側クラッド層(以下、「p型クラッド層」という)106、p型コンタクト層107、が積層され、p型コンタクト層107上にp電極108が形成され、p型コンタクト層107側から一部領域がエッチングされて露出したn型コンタクト層101上にn電極130が形成された構造である。
【0037】
n型コンタクト層101は、Si濃度が1×10
18/cm
3 以上のn−GaNである。また、n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×10
8 /cm
2 以下である。n電極130とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層101をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0038】
ESD層102は、n型コンタクト層101側から第1ESD層110、第2ESD層111、第3ESD層112、第4ESD層113の4層構造である。第1ESD層110は、Si濃度が1×10
16〜5×10
17/cm
3 のn−GaNである。第1ESD層110の厚さは200〜1000nmである。
【0039】
第2ESD層111は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )である。たとえば、第2ESD層111の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×10
18〜1.2×10
19/cm
3 である。
第3ESD層112は、ノンドープのGaNである。第3ESD層112の厚さは50〜200nmである。第3ESD層112はノンドープであるが、残留キャリアによりキャリア濃度が1×10
16〜1×10
17/cm
3 となっている。なお、第3ESD層112には、キャリア濃度が5×10
17/cm
3 以下となる範囲でSiがドープされていてもよい。
【0040】
第4ESD層113は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )である。たとえば、第4ESD層113の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×10
18〜1.2×10
19/cm
3 である。
【0041】
n型クラッド層103は、厚さ4nmのノンドープのIn
0.077 Ga
0.923 N層131、厚さ1nmのノンドープのGaN層134、厚さ0.8nmのノンドープのAl
0.2 Ga
0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、n型クラッド層103は、最初に形成する層、すなわち、第4ESD層113に接する層をIn
0.077 Ga
0.923 N層131とし、最後に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をn−GaN層133としている。n型クラッド層103の全体の厚さは、111nmである。ここで、In
0.077 Ga
0.923 N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。ノンドープのGaN層134の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。また、GaN層134にはSiをドープしても良い。Al
0.2 Ga
0.8 N層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。n−GaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。
【0042】
発光層104(活性層ともいう)は、厚さ2.4nmのAl
0.05Ga
0.95N層141、厚さ3.2nmのIn
0 .2Ga
0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl
0.2 Ga
0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を8回繰り返し積層させたMQW構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl
0.05Ga
0.95N層141、最後に形成する層、すなわち、p型クラッド層106に接する層をAl
0.2 Ga
0.8 N層144としている。発光層104の全体の厚さは54.4nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。
【0043】
p型クラッド層106は、厚さ1.7nmのp−In
0.05Ga
0.95N層161、厚さ3.0nmのp−Al
0.3 Ga
0.7 N層162を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を7回繰り返し積層させた構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をp−In
0.05Ga
0.95N層161とし、最後に形成する層、すなわち、p型コンタクト層107に接する層をp−Al
0.3 Ga
0.7 N層162としている。p型クラッド層106の全体の厚さは32.9nmである。p型不純物にはMgを用いている。
【0044】
p型コンタクト層107は、Mgをドープしたp−GaNである。p電極とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層107をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0045】
次に、発光素子1の製造方法について
図11を参照して説明する。ただし、
図11では、
図10で示された超格子の周期構造の表示は省略されている。
用いた結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H
2 又はN
2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH
3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH
3)
3:以下「TMG」と書く。) 、In源には、トリメチルインジウム(In(CH
3)
3:以下「TMI」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3:以下「TMA」と書く。) 、n型ドーパントガスには、シラン(SiH
4 )、p型ドーパントガスには、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 :以下「CP
2 Mg」と書く。)を用いた。
【0046】
まず、サファイア基板100を1180℃、水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板100表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、TMAとアンモニアガスをキャリアガスと共に流し、基板温度を400℃にして、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を10nmの厚さに形成した。次に、TMAの供給を停止し、原料ガスのTMG及びアンモニアガスと、水素ガス(キャリアガス)とを流しながら、基板温度1020℃に上昇させて、2分間、その温度を保持して、GaNから成るキャップ層121を厚さ50nmに形成した。その後、TMGの供給を停止し、アンモニアガスと、水素ガス(キャリアガス)とを流しながら、基板温度を1300℃まで上昇させた後、2分間保持してバッファ層を熱処理した。その後、基板温度を1020℃に低下させて、1020℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×10
18cm
-3のGaNよりなるn形コンタクト層101(本体半導体)を、キャップ層121で覆われたバッファ層120上に形成した(
図11(a))。n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×10
8 /cm
2 以下である。
【0047】
次に、以下のようにしてESD層102を形成した。まず、n型コンタクト層101上に、MOCVD法によって厚さ200〜1000nm、Si濃度1×10
16〜5×10
17/cm
3 のn−GaNである第1ESD層110を形成した。成長温度は900℃以上とし、ピット密度の低い良質な結晶が得られるようにした。成長温度は1000℃以上とすると、さらに良質な結晶となり望ましい。
【0048】
次に、第1ESD層110上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )のn−GaNである第2ESD層111を形成した。成長温度は800〜950℃とした。次に、第2ESD層111の上に、MOCVD法によって厚さ50〜200nmのノンドープGaNである第3ESD層112を形成した。成長温度は800〜950℃とし、キャリア濃度5×10
17/cm
3 以下の結晶が得られるようにした。
【0049】
次に、第3ESD層112上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )のn−GaNである第4ESD層113を形成した。成長温度は800〜950℃とした。以上の工程により、n型コンタクト層101上にESD層102を形成した(
図11(b))。
【0050】
次に、ESD層102上に、MOCVD法によってn型クラッド層103を形成した。n型クラッド層103の各層である厚さ4nmのノンドープのIn
0.077 Ga
0.923 N層131、厚さ0.8nmのノンドープのAl
0.2 Ga
0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133から成る周期構造を15周期、繰り返して形成した。In
0.077 Ga
0.923 N層131の形成は、基板温度を830℃にして、シランガス、TMG、TMI、アンモニアを供給して行った。ノンドープのGaN層134の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。Al
0.2 Ga
0.8 N層132の形成は、基板温度を830℃とし、TMA、TMG、アンモニアを供給して行った。n−GaN層133の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。
【0051】
次に、n型クラッド層103の上に、発光層104を形成した。発光層104の各層であるAl
0.05Ga
0.95N層141、In
0 .2Ga
0.8 N層142、GaN層143、Al
0.2 Ga
0.8 N層144の4層の周期構造を8回繰り返して形成した。Al
0.05Ga
0.95N層141の成長温度は800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In
0 .2Ga
0.8 N層142、GaN層143及びAl
0.2 Ga
0.8 N層144の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0052】
次に、発光層104の上に、p型クラッド層106を形成した。基板温度を855℃にして、CP
2 Mg、TMI、TMG、アンモニアを供給して、p−In
0.05Ga
0.95N層161を厚さ1.7nmに、基板温度を855℃にして、CP
2 Mg、TMA、TMG、アンモニアを供給して、p−Al
0.3 Ga
0.7 N層162を、厚さ3.0nmに形成することを、7回繰り返して積層させた。
【0053】
次に、基板温度を1000℃にして、TMG、アンモニア、CP
2 Mgを用いて、Mgを1×10
20cm
-3ドープしたp形GaNよりなる厚さ50nmのp形コンタクト層107を形成した。このようにして、
図11(c)に示す素子構造が形成された。p形コンタクト層107のMg濃度は、1×10
19〜1×10
21cm
-3の範囲で使用可能である。また、p形コンタクト層107の厚さは、10nm〜100nmの範囲としても良い。
【0054】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層107の表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層101に達する溝を形成した。そして、p型コンタクト層107の表面にRh/Ti/Au(p型コンタクト層107の側からこの順に積層した構造)からなるp電極108、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層101上にV/Al/Ti/Ni/Ti/Au(n型コンタクト層101側からこの順に積層させた構造)からなるn電極130を形成した。以上によって
図8に示す発光素子1が製造された。