特許第5928366号(P5928366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928366
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20160519BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20160519BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L33/00 186
   H01L21/20
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-25837(P2013-25837)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-154838(P2014-154838A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小塩 高英
(72)【発明者】
【氏名】柴田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−063962(JP,A)
【文献】 特開2005−183524(JP,A)
【文献】 特開2004−091319(JP,A)
【文献】 特開2001−274459(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/057408(WO,A1)
【文献】 特開2005−119921(JP,A)
【文献】 特開2002−145700(JP,A)
【文献】 特開2009−147271(JP,A)
【文献】 特開2012−146736(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/108381(WO,A1)
【文献】 特開2004−193617(JP,A)
【文献】 特開平08−264899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/18−21/20、21/205−21/31、
21/34−21/36、21/365、21/469、
21/84−21/86、33/00、
C04B 35/56−35/599、35/626
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族窒化物半導体とは異なる材料から成る基板の面上にIII 族窒化物半導体を成長させる方法において、
前記基板の面上に、AlN、又は、Alを必須元素とするAlx Iny Ga1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)から成る多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態のバッファ層を形成し、
前記バッファ層上に、前記バッファ層を構成する元素Alの酸化物が形成される温度よりも低い温度で、GaN又はInu Ga1-u N(0<u≦1)から成るキャップ層を形成し、
前記キャップ層で覆われた前記バッファ層を有した前記基板を、アンモニアガス又は窒素化合物ガスを含むガス雰囲気で、III 族窒化物半導体から成る成長させる本体半導体の結晶が成長する温度よりも高い温度であって1300℃以上、1500℃以下の熱処理温度で、前記バッファ層の表面を露出させずに前記バッファ層の構成元素Alを酸化させることなく熱処理して、前記バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させ、
その熱処理の後、前記基板の温度を、前記本体半導体の結晶が成長する温度まで降温して、前記キャップ層で覆われた前記バッファ層上又は露出したバッファ層上に、前記本体半導体を一様なGa極性面として成長させる
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項2】
前記キャップ層の厚さは、前記熱処理において、完全には蒸発して消滅することなく、前記バッファ層を露出させない厚さであることを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項3】
前記キャップ層を形成する温度は、前記キャップ層が分解する温度より低い温度であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項4】
前記基板は、酸化物から成り、前記キャップ層を形成する温度は、前記基板の酸化物から酸素が離脱する温度よりも低い温度であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項5】
前記キャップ層を形成する温度は、前記本体半導体の結晶を成長させる温度以下の温度であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項6】
前記熱処理温度は、前記キャップ層又は前記本体半導体の成長しない温度、分解温度又は昇華温度以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項7】
前記バッファ層は、基板温度を300℃以上、600℃以下の範囲にして、MOCVD法により形成することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項8】
前記バッファ層はスパッタリング、分子線エピタキシー、又は、パルスレーザアブレーションにより形成することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項9】
前記キャップ層の厚さは、1nm以上、500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項10】
前記バッファ層は、AlNから成り、前記キャップ層はGaNから成ることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項11】
前記バッファ層の厚さは1nm以上、100nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【請求項12】
前記本体半導体は、GaNであることを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通転位を減少させた結晶性の良いIII 族窒化物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機金属ガス気相成長法(以下、「MOCVD」という)により、サファイア基板上に、低温バッファ層を形成し、そのバッファ層の上に、GaNを成長させる方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、サファイア基板を1135℃で加熱処理して表面をクリーニングした後に、基板温度を515℃に低下させて、厚さ20nmのGaNから成るバッファ層を形成し、基板温度を1075℃に上昇させて、GaNの微結晶をサファイア基板上に形成している。その後、その温度を保持して、水素ガス比率を窒素ガス比率よりも大きくして、GaNの微結晶を核として、GaNをファセット成長させている。その後、基板温度を1005℃に低下させ窒素ガス比率を水素ガス比率よりも大きくすることにより、横方向に成長し易くしてファセット間を埋めるように、GaNを成長させている。これにより、貫通転位密度を低減させたGaNが得るものである。
【0004】
特許文献2の実施例3では、サファイア基板を1200℃でサーマルクリーニングし、基板温度を1200℃にして、AlNをエピタキシャル成長させて、厚さ0.7μmの単結晶の下地層102が形成されている。次に、基板温度を1150℃に低下させて、AlGaN層103を厚さ100nm以下にエピタキシャル成長させ、基板温度を1350℃で10分、保持してアニール処理を行っている。その後、基板温度を1150℃まで低下させて、さらに、AlGaN層104を成長させている。これにより、AlGaN層の貫通転位密度を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−19872
【特許文献2】特開2005−183524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法は、低温で厚さ20nmの極薄いGaNから成る低温バッファ層を形成した後に、GaNの成長が可能な温度に上昇させて、GaNの微結晶を形成し、続いて、GaNをファセット成長させる方法である。この時、低温で形成された低温バッファ層のGaNの微結晶は、GaNの成長温度まで昇温させる過程において、分解し、再蒸発する。したがって、低温バッファ層の形成後に基板の温度は、GaNが成長できる温度までしか上昇させることができず、微結晶の核形成が不十分となり、結晶核を大きくすることができない。このために、貫通転位の発生起点の密度は、依然として大きい。
【0007】
また、特許文献2の方法は、基材11上の下地層12は、厚さ0.7μmにエピタキシャル成長させているので単結晶である。また、AlGaN層103は単結晶の下地層102の上にエピタキシャル成長させていることから、単結晶である。そして、このAlGaN層103を形成した段階でアニールすることは、AlGaN層103における転位の移動を容易にして転位密度を低減させるためである(段落0032)。
【0008】
したがって、特許文献2は、多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態のバッファ層における結晶核を大きくさせるものではなく、目的の成長させる半導体層での貫通転位密度の形成を抑制するものではない。
また、特許文献1は、ファセット成長のための結晶核を得るための熱処理であり、貫通転位の発生起点の密度を減少させるものではない。
【0009】
本発明者らは、低温で形成したAlNから成るバッファ層を、高温で熱処理した後、GaNを成長させると、GaNの表面の凹凸や荒れが大きくなることを初めて見い出した。そして、本発明者らは、その原因が、高温での熱処理によりバッファ層に含まれるAlが酸化されて、Al酸化物が形成され、そのAl酸化物上に成長するGaNの成長面がN極性となることを初めて明らかにした。N極性のGaNは、表面粗さが大きく、不純物の取り込みも多くなるので、デバイスには適していない。また、酸化物が形成されると、酸化物上から新たな結晶欠陥(転位、積層欠陥)が発生する可能性も高くなり、成長させる半導体の結晶品質が低下する。
【0010】
そこで、本発明の目的は、貫通転位の発生起点の密度を低減させることで、成長させる目的の半導体の貫通転位密度を一様にし、且つ、低減させることである。また、他の目的は、N極性面の混在が少く、一様なGa極性面を成長面としたIII 族窒化物半導体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、III 族窒化物半導体とは異なる材料から成る基板の面上にIII 族窒化物半導体を成長させる方法において、基板の面上に、AlN、又は、Alを必須元素とするAlx Iny Ga1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)から成る多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態のバッファ層を形成し、バッファ層上に、バッファ層を構成する元素Alの酸化物が形成される温度よりも低い温度で、GaN又はInu Ga1-u N(0<u≦1)から成るキャップ層を形成し、キャップ層で覆われたバッファ層を有した基板を、アンモニアガス又は窒素化合物ガスを含むガス雰囲気で、III 族窒化物半導体から成る成長させる本体半導体の結晶が成長する温度よりも高い温度であって1300℃以上、1500℃以下の熱処理温度で、バッファ層の表面を露出させずにバッファ層の構成元素Alを酸化させることなく熱処理して、バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させ、その熱処理の後、基板の温度を、本体半導体の結晶が成長する温度まで降温して、キャップ層で覆われたバッファ層上又は露出したバッファ層上に、本体半導体を一様なGa極性面として成長させることを特徴とするIII 族窒化物半導体の成長方法である。
【0012】
バッファ層は、AlN、又は、Alを必須元素とするAlx Iny Ga1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)である。ただし、Al組成比xは、0.3以上、さらには、0.5以上が望ましい。本願発明は、バッファ層を構成する元素の酸化を防止した状態で、熱処理することが特徴である。また、バッファ層を構成するAlは、酸化され易いので、Alがバッファ層に多く含まれている程、酸化を防止するキャップ層の存在の意義が大きくなる。したがって、バッファ層のAlの組成比は、0.3以上、又は、0.5以上が望ましい。
【0013】
キャップ層は、熱処理において、下層のバッファ層に含まれるAlやそ他の構成元素の酸化を防止するための層である。本発明では、GaN又はInu Ga1-u N(0<u≦1)である。なお、発明とは別に、キャップ層を、Alを含むIII 族窒化物半導体であるAlv Inw Ga1-v-w N(0<v<1,0≦w<1,0<v+w≦1)とすることも可能である。その場合には、キャップ層の存在を意義あるものとするために、キャップ層のAl酸化物の形成量を、キャップ層が存在しない場合のバッファ層のAl酸化物の形成量よりも少なくする必要がある。そのために、キャップ層のAlの組成比は、バッファ層のAl組成比の1/2以下とする必要があり、Alの組成比は小さい程、望ましいが、バッファ層のAl組成比の1/5以下とする場合には、キャップ層のAlの酸化は問題にはならない。キャップ層には、酸化され易いAlが含まれない方が望ましく、最も、望ましい材料はGaNである。キャップ層は、少なくとも熱処理の間はバッファ層を覆っていることが望ましい。キャップ層は、本体半導体を成長させる時には、バッファ層上にバッファ層の効果を阻害しない程度の厚さにバッファ層の表面を薄く覆っていても、本体半導体が成長する直前に消滅してバッファ層が露出して、酸化されることなく直ちに本体半導体が成長される状態であっても良い。
【0014】
本発明において、バッファ層を構成する元素の酸化物は、InやGaの酸化物もあるが、最も酸化物が形成され易いのは、Alの酸化物である。
また、本発明において、熱処理は、バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させる処理であることが望ましい。ここで、結晶核とは、島、又は、粒状のものであり、成長させる本体半導体層の成長の起点となるものである。一つの核には、欠陥が存在しないことが望ましいが、核の中に、成長させる本体半導体の欠陥(転位、積層欠陥など)の起点となるような欠陥(転位、積層欠陥など)が含まれる場合がある。これらの結晶核に含まれる欠陥は、熱処理中に、消滅、移動し、減少するものと考えられる。
本発明において、キャップ層の厚さは、熱処理において、完全には蒸発して消滅することなく、バッファ層を露出させない厚さであることが望ましい。具体的には、キャップ層の厚さは、1nm以上、500nm以下が望ましい。この範囲の場合に、熱処理過程において、キャップ層が完全に蒸発して消滅することが防止され、下層のバッファ層のAl、その他の元素が酸化されることが防止される。
また、キャップ層を形成する温度は、キャップ層が分解する温度より低い温度であることが望ましい。バッファ層のAlなどの構成元素が酸化されない温度であっても、キャップ層がバッファ層上に効果的に形成される必要がある。
バッファ層を構成する元素の酸化物が形成される酸素源としては、成長炉内の残留酸素や水分、原料ガス(例えば、NH3 )中に含まれる酸素や水分がある。さらには、基板に、酸化物を用いた場合には、基板が分解して、成長炉内に拡散した酸素がある。
したがって、基板を、酸化物、例えば、サファイア、ZnO、スピネル、又は、Ga2 3 で構成した場合には、キャップ層を形成する温度は、酸化物から酸素が離脱する温度よりも低い温度とすることが望ましい。サファイア、ZnO、スピネル、又は、Ga2 3 を加熱すると、酸素が離脱することが知られている。したがって、酸素がサファイア、ZnO、スピネル、又は、Ga2 3 などの酸化物基板の裏面などから放出される前に、バッファ層上にキャップ層を形成する必要がある。
要するに、本発明では、バッファ層のAlなどの構成元素が酸化される前に、バッファ層上にキャップ層を形成する。
【0015】
また、キャップ層を形成する温度は、本体半導体の単結晶を成長させる温度以下の温度であることが望ましい。また、熱処理温度は、キャップ層又は本体半導体の成長しない温度、分解温度又は昇華温度以上とすることが望ましい。また、熱処理温度は、1150℃以上であることが望ましい。この温度範囲の時には、本体半導体であるIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体は全く、成長しない。また、1150℃以上、1700℃以下の範囲が望ましい。1700℃を越えると、サファイアなどの基板にダメージが生じるので望ましくない。また、熱処理温度は1300℃以上、1500℃以下であっても良い。さらに、熱処理温度は1200℃以上、1400℃以下であっても良い。また、熱処理温度の最も望ましい範囲は、1150℃以上、1400℃以下である。バッファ層は、スパッタリング、分子線エピタキシー(MBE)、パルスレーザアブレーション(PLD)により形成しても、MOCVD法により形成しても良い。バッファ層をMOCVD法により形成する場合には、基板温度は、300℃以上、600℃以下が望ましい。また、バッファ層の厚さは1nm以上、100nm以下であることが望ましい。形成温度が300℃以上、600℃以下であって、この厚さの範囲で、AlN又はAlを必須元素とするAlx Iny Ga1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)を堆積すると、多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質との混在した状態となる。この状態は、異種基板上にIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させるための低温形成バッファ層の状態となる。
【0016】
熱処理は、アンモニアガス又は窒素化合物ガスを含むガスを流した状態で、行うことが望ましい。この状態で、キャップ層で被覆されたバッファ層を1150℃以上に加熱することにより、バッファ層において、隣接する結晶粒が固相成長により合体して大きな結晶粒となる。すなわち、バッファ層は、より大きな単結晶の結晶核の集合体となる。これと同時に、一つの結晶核に含まれている可能性のある欠陥は、移動又は消滅して、欠陥の密度は低減する。バッファ層上にエピタキシャル成長させるIII 族窒化物半導体は、この結晶核の格子に整合して、エピタキシャル成長することになる。結晶核の粒界で成長する半導体が合体するので、この粒界で貫通転位が発生し易い。ところが、結晶核が大きいことにより、貫通転位の発生起点密度が低下することになる。これにより、成長する半導体層における貫通転位密度を原始的に低減させることができる。
【0017】
また、バッファ層の熱処理において、バッファ層はAl酸化物や構成元素の酸化物が形成される前に、キャップ層により被覆されているので、バッファ層が酸化されることが防止される。このため、本体半導体の成長において、N極性面のIII 族窒化物半導体の成長が防止されて、一様にGa極性面のIII 族窒化物半導体の単結晶が成長することになる。
本発明は、本体半導体の成長において、+c面(Ga極性面)を結晶成長面とする場合に、N極性面への反転を防止できるので、特に、有効である。しかし、バッファ層を構成する元素の酸化物が形成されると、酸化物を起点として新たな結晶欠陥(転位、積層欠陥など)が発生するので、本願発明において、本体半導体を、極性の反転が生じない、又は、反転が問題とはならない+c軸方向以外の方位へ成長させる場合においても有効である。r面、m面サファイア基板上には、それぞれ、無極性のa面、無極性のm面のIII 族窒化物半導体が成長する。また、サファイア基板の成長面を低指数面から傾斜した面とすると、無極性面、半極性面を成長面として、III 族窒化物半導体が成長する。これらの場合には、たとえ、バッファ層を構成する元素の酸化物が形成されても、極性の反転は問題とはならない。このような場合であっても、バッファ層上に、キャップ層を形成して熱処理をすることで、本体半導体の転位密度を低減させることができる。
【0018】
基板の材料は、III 族窒化物半導体を成長させることができる材料であれば任意である。例えば、基板には、サファイア、SiC、Si、ZnO、スピネル、又は、Ga2 3 などを用いることができる。また、本体半導体であるIII 族窒化物半導体としては、例えば、任意組成比の4元系のAlGaInN、3元系のAlGaN又はInGaN、2元系のGaNとすることができる。また、これらの組成においてGaを必須の構成元素としても良い。これらの半導体において、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素(第3B族元素)であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素(第5B族元素)であるP、As、Sb、Biで置換したものであっても良い。n型不純物やp型不純物が添加されていても良い。n型不純物としてはSi、p型不純物としてはMgが通常用いられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、AlN、又は、Alを必須元素とするAlx Iny Ga1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)を、基板上に堆積して、多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質とが混在した状態のバッファ層を形成し、バッファ層を構成する元素の酸化物が形成される温度よりも低い温度で、GaN、又は、Inu Ga1-u N(0<u≦1)から成るキャップ層を形成した後に、本体半導体であるIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度よりも高い温度である熱処理温度で、熱処理して、バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させている。
【0020】
この結果、結晶成長の目的とするIII 族窒化物半導体が格子整合して成長する結晶核が大きくなり、粒界密度が低減されるので、貫通転位の発生起点の密度が低下することになる。この結果、得られる半導体において貫通転位密度を原始的に低減させることができる。また、熱処理において、キャップ層がバッファ層を被覆しているので、バッファ層のAlなどの構成元素が酸化されることがない。このため、バッファ層上に成長する本体半導体の成長面がN極性に反転することがなく、一様のGa極性面を有した単結晶のIII 族窒化物半導体を得ることができる。また、本体半導体を、極性反転が生じない、又は、問題とはならない、半極性軸、無極性軸方向へ成長させる場合においても、本発明により、本体半導体の転位密度を低減させることができる。
したがって、III 族窒化物半導体の表面が平坦となりデバイスを作成するのに適した半導体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例に係る製造方法による成長時の基板の温度変化と堆積させる半導体の種類との関係を示した特性図。
図2】本発明の実施例に係る製造方法によるバッファ層の熱処理温度と成長させたGaNの結晶性との関係を示した特性図。
図3】本発明の実施例に係る製造方法によるバッファ層の結晶核密度と成長させたGaNの転位密度との関係を示した特性図。
図4】本発明の実施例に係る製造方法により、各熱処理温度で処理したバッファ層の上に成長させたGaNの表面状態を示す光学写真。
図5】キャップ層を形成せずにバッファ層を熱処理してGaNを成長させた比較例の場合の温度の変化特性図。
図6】キャップ層を形成せずにバッファ層を熱処理してGaNを成長させた比較例の場合のGaNの表面状態を示す顕微鏡写真。
図7】キャップ層を形成せずにバッファ層を熱処理してGaNを成長させた比較例の場合のGaNの表面状態を示す顕微鏡写真。
図8】比較例の場合におけるバッファ層の表面粗さと熱処理温度との関係を示した特性図。
図9】比較例の場合におけるバッファ層の熱処理温度とバッファ層の結晶核密度との関係を示した特性図。
図10】本発明の実施例に係る製造方法により製造される発光素子を示した構造図。
図11】発光素子の製造工程を示した素子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
本実施例は、主面がc面であるサファイア基板上に、AlNから成るバッファ層をMOCVD法により形成し、熱処理の後に、GaNを成長させた例である。結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H2 又はN2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) を用いた。
【0024】
まず、バッファ層の熱処理による結晶核の変化の様子について述べる。図1は、半導体の成長時のサファイア基板の制御温度の時間変化を示している。MOCVD装置内にサファイア基板を載置して、水素ガスを流しながら、基板温度を室温から1180℃に上昇させて、サファイア基板を加熱してクリーニングを行い、サファイア基板の表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、基板温度を400℃にして、TMAとアンモニアガスとを水素ガスと共に流し、サファイア基板上にAlNからなる厚さ10nmのバッファ層を形成した。次に、TMAの供給を停止して、原料ガスのTMGとアンモニアガスと水素ガス(キャリアガス)とを流しながら基板温度を1020℃に上昇して、その温度を2分保持して、厚さ50nmのGaNから成るキャップ層を形成した。その後、TMGの供給を停止して、アンモニアガスと水素ガス(キャリアガス)とを流しながら、基板温度を1300℃の熱処理温度まで上昇させて、10秒保持し、バッファ層の熱処理を行った。この熱処理の期間において、キャップ層は、完全には蒸発しないので、バッファ層の表面が露出することはない。上記のキャップ層を形成する温度1020℃は、Alの酸化物が形成されない温度であり、熱処理温度1300℃ではAlの酸化物が形成される。
【0025】
GaNから成るキャップ層で覆われたAlNから成るバッファ層を1150℃以上の熱処理温度1300℃で熱処理した後、基板温度を、1300℃から1020℃に低下させて、水素ガスをキャリアガスとして流しながら、原料ガスのTMG、アンモニアガスを流して、厚さ1.5μmの不純物無添加のGaN(本体半導体)を成長させた。バッファ層の結晶核密度が低減されている結果、貫通転位の発生起点密度が低減されるので、そのバッファ層上に成長するGaNにおける貫通転位密度は低下する。
【0026】
キャップ層で覆われたバッファ層の熱処理温度と、本体半導体のGaNの(10−10)面のX線ロッキング曲線の半値幅(FWHM)を測定した。結果を図2に示す。熱処理温度が1020℃では半値幅は1540秒であり、熱処理温度が1150℃では、半値幅は1400秒、熱処理温度が1300℃では、半値幅は960秒、熱処理温度が1400℃では、半値幅は830秒である。すなわち、熱処理温度の上昇に比例して、単結晶性が向上していることが分かる。
【0027】
また、熱処理後のバッファ層の結晶核密度と、キャップ層で覆われたバッファ層上に成長したGaNの貫通転位密度との関係を測定した。貫通転位密度は、X線ロッキングカーブのFWHM(半値全幅)を測定し、その値から、転位密度=FWHM値/(9b2 )により求めた。ただし、bは、バーガース・ベクトルである。その結果を図3に示す。バッファ層の結晶核密度が2.2×1011/cm2 の時に、GaNの転位密度は6.0×109 /cm2 であり、バッファ層の結晶核密度が1.2×1011/cm2 の時に、GaNの転位密度は5.0×109 /cm2 であり、バッファ層の結晶核密度が7.5×1010/cm2 の時に、GaNの転位密度は2.3×109 /cm2 であり、バッファ層の結晶核密度が4.8×1010/cm2 の時に、GaNの転位密度は1.8×109 /cm2 である。バッファ層の結晶核密度の減少に比例して、GaNの転位密度が減少していることが分かる。
【0028】
また、バッファ層の熱処理温度と成長させたGaNの表面状態との関係を測定した。図4は、キャップ層で覆われたバッファ層を各熱処理温度で熱処理した後に、成長させたGaNの表面の顕微鏡写真である。何れの熱処理温度においても、キャップ層でバッファ層を覆って熱処理を行っているので、GaNの表面モホロジィは良好であることが理解される。GaNのKOH水溶液によるエッチング耐性を調べた結果、GaNはKOHではエッチングされなかった。したがって、GaNの成長面は一様にGa極性面であることが分かる。すなわち、N極性面への極性反転は見られない。
【0029】
次に、比較例として、キャップ層をバッファ層上に形成せずに、バッファ層を熱処理した場合について、実験した結果を説明する。
基板の温度変化特性は図5に示す通りであり、図1の特性と比べて、GaNから成るキャップ層を形成することなく、水素ガスとアンモニアガスを流して、AlNから成るバッファ層を1150℃以上の1400℃の熱処理温度に上昇させて、10秒間保持して、バッファ層の熱処理を行った点のみが異なる。
【0030】
このバッファ層の熱処理温度を、400℃、920℃、1020℃、1080℃、1150℃、1300℃、1400℃と変化させた各種の試料を製造した。この熱処理後のバッファ層表面のAFM像を測定した。AFM像から、バッファ層の表面粗さと、熱処理温度との関係を測定した。その結果を図8に示す。また、バッファ層の結晶核密度と、熱処理温度との関係を測定した。その結果を図9に示す。表面粗さは、凸部の高さ、凹部の深さの平均値を求め、凸部の高さ、凹部の深さの平均値に対する偏差の2乗平均の平方根(rms)とした。図8及び図9から、熱処理温度が400℃から1300℃の範囲では、高温になる程、表面粗さが大きくなることが分かる。これは、小さな核が合体し、大きな核になることで凹凸が大きくなったためである。一方、熱処理温度が1300℃以上となると、バッファ層の表面粗さは、バッファ層の形成時の表面粗さ(0.5nm)程度である0.68nm以下に低下していることが分かる。これは、この温度帯では、核はさらに大きくなり、高温であるために、原子のマストランスポートが生じ、表面の凹凸が小さくなったためであると思われる。また、結晶核密度は、熱処理温度が高くなる程、指数関数で減少していることが分かる。熱処理温度が1300℃以上となると、結晶核密度は、1.7×1010/cm2 以下に低下していることが分かる。また、熱処理温度が1150℃以上となると、4.4×1010/cm2 以下に低下していることが分かる。また、AFM像によれば、熱処理温度を高くするに連れて、それぞれの結晶核が大きくなり、結晶核密度が低下している。特に、400℃でバッファ層を形成した場合に比べて、熱処理温度が1300℃、1400℃の場合には、結晶核が顕著に大きくなり、結晶核密度が顕著に低下していた。以上のことから、熱処理温度は、1150℃以上、望ましくは、1250℃以上、さらに望ましくは、1300℃以上であることが良いことが分かった。
【0031】
次に、キャップ層で覆わないバッファ層の熱処理温度と、バッファ層上に成長させたGaNの表面状態との関係を測定した。図6、7は、GaNの表面の顕微鏡写真である。熱処理温度が1100℃以下の場合には、GaNの表面は一様で平坦であるが、熱処理温度が1200℃以上となると、GaNの表面は荒れていることが分かる。また、1200℃以上では温度が高くなるに連れて、六角錐、六角錐台の結晶が観察され、非常に凹凸が大きいことが分かる。この図7の表面が荒れた状態は、GaNの表面がN極性面であることを示している。KOH水溶液でエッチング耐性を調べたところ、図7に示すGaNは、エッチング耐性がなく、ほとんど、全面がエッチングされた。キャップ層でバッファ層が被覆されていないために、1200℃以上の熱処理温度によって、バッファ層の構成元素であるAlが酸化されて、バッファ層上に成長するGaNの成長面はN極性面に反転した。
【0032】
一方、バッファ層をキャップ層で覆った後に、熱処理をした場合には、図4図7とを比較すれば明らかなように、GaNの表面は平坦であり、成長面はN極性面ではなく、一様にGa極性面であることが分かる。このようにして、バッファ層のAlが酸化される温度より低い温度でバッファ層上にキャップ層を堆積させた後に、1150℃以上の熱処理を行った後に、GaN単結晶が成長する温度に保持して、GaNを成長させることにより、貫通転位を減少させた、一様にGa極性面を有したGaNを得ることができる。
【0033】
上記実施例において、バッファ層の形成温度は400℃としたが、300℃以上600℃以下において、バッファ層は多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態となるので、その温度範囲を用いることができる。また、バッファ層の厚さは、10nmとしたが、1nm以上、100nm以下の範囲とすることができる。この厚さの範囲において、バッファ層を多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態とすることができる。
【0034】
本発明は、基板の温度を、バッファ層を形成する低温から、バッファ層上に成長させるIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度1020℃まで上昇させて、その温度でIII 族窒化物半導体を成長させるものではない。本発明は、図1に示すように、III 族窒化物半導体を成長させる前に、Alが酸化される温度よりも低い温度でバッファ層上にキャップ層を形成した後に、基板の温度を、III 族窒化物半導体の単結晶が適性に成長できる温度以上の熱処理温度で、キャップ層で覆われたバッファ層を熱処理するものである。したがって、直ちに、III 族窒化物半導体を成長させる場合に比べて、バッファ層の結晶核が大きくなり、結晶核密度は低下する。この結果、バッファ層における貫通転位の発生起点の密度が低減されるので、成長するIII 族窒化物半導体の貫通転位密度を低減することができる。また、バッファ層はキャップ層により覆われているので、熱処理の期間に、バッファ層のAlが酸化されることがない。このため、+c面成長の場合には、バッファ層上に成長するIII 族窒化物半導体の極性が反転することがなく、一様なGa極性面を得ることができる。また、本体半導体を+c面成長させる場合でなくとも、バッファ層の構成元素の酸化物の形成が抑制されるので、酸化物を起点とする新たな貫通転位が本体半導体に発生することが防止される。したがって、バッファ層の熱処理温度を、バッファ層上に成長させるIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体が成長し難い温度にすることで、成長させる半導体の貫通転位密度を低減させることかできる。熱処理温度は、この観点から1150℃以上1700℃以下、1300℃以上1700℃以下、1300℃以上1500℃以下、1200℃以上1600℃以下、又は、1200℃以上1400℃以下が望ましい。また、熱処理温度の最も望ましい範囲は、1150℃以上、1400℃以下である。熱処理の保持時間は、10秒としたが、1秒でも可能である。保持時間は、1秒以上、10時間以下の範囲が望ましい。
【0035】
バッファ層は、AlNの他、Alx Ga1-x N(0<x<1)、Alを必須とするAlx Iny Ga1-x-y N(0<x<1,0≦y<1,0<x+y≦1)を用いることができる。バッファ層上に成長させるIII 族窒化物半導体をAlz Ga1-z N(0<z<1)とする場合には、格子整合の観点から、バッファ層はAlx Ga1-x N(0<x<1)が望ましい。目的とする本体半導体Alz Ga1-z N(0<z<1)を単結晶成長させる温度は、1000℃以上であって、バッファ層の熱処理温度(例えば、1300℃)よりも低い温度である。MOCVDのチャンバー内の圧力は、100kPa(常圧)よりも低い方が望ましい。50kPa以下、望ましくは35kPa以下、さらに、望ましくは20kPa以下が良い。Alを含む有機金属ガスは、反応性が高いために、原料ガスが基板に到達する前に反応を起こし、目的とする半導体の結晶成長に寄与しない結合体が形成されるために、圧力は低い方が望ましい。減圧にして、原料ガスの流速を高くすることで、基板に至る前での反応を抑制し、基板上において効率の高い単結晶成長が可能となる。
また、バッファ層はスパッタリングにより形成しても良い。この時、基板温度は、300℃以上、600℃以下とすることが望ましい。また、バッファ層は、分子線エピタキシー(MBE)、パルスレーザアブレーション(PLD)により形成しても良い。
また、キャップ層を形成する温度は、バッファ層のAlが酸化される温度よりも低い温度である。サファイアのような酸化物基板の場合には、温度を上昇させると基板の裏面や側面などから酸素が成長室に蒸発する。この酸素によりバッファ層が酸化されるので、酸素が基板から蒸発する温度より低い温度で、キャップ層を形成することも望ましい態様である。
また、上記実施例では、本体半導体の成長において、+c面(Ga極性面)を結晶成長面とする場合について説明した。c面、a面を結晶成長面とするサファイア基板には、+c面を成長面とするIII 族窒化物半導体が成長する。しかし、上記したように、バッファ層を構成する元素の酸化物が形成されると、新たな結晶欠陥が発生するので、バッファ層の酸化をキャップ層で防止することは有効である。したがって、本体半導体を、極性の反転が生じない、又は、反転が問題とはならない+c軸方向以外の方位へ成長させる場合においても有効である。r面、m面サファイア基板を成長基板として用いても良い。r面、m面サファイア基板上には、無極性のa面、無極性のm面のIII 族窒化物半導体が成長するが、この場合には極性の反転は起こらないし、問題とはならないが、キャップ層の存在により、確実に、貫通転位密度を低減させることができる。
【0036】
次に、本発明の方法を用いて製造した発光素子について説明する。図10は、本発明の製造方法を用いた発光素子1の構成を示した図である。発光素子1は、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120(キャップ層はバッファ層上に薄く残っていても、残っていなくとも良いため、記載を省略した)を介して、III 族窒化物半導体からなるn型コンタクト層101、ESD層(静電耐圧改善層)102、n層側クラッド層(以下、「n型クラッド層」という)103、発光層104、p層側クラッド層(以下、「p型クラッド層」という)106、p型コンタクト層107、が積層され、p型コンタクト層107上にp電極108が形成され、p型コンタクト層107側から一部領域がエッチングされて露出したn型コンタクト層101上にn電極130が形成された構造である。
【0037】
n型コンタクト層101は、Si濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNである。また、n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×108 /cm2 以下である。n電極130とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層101をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0038】
ESD層102は、n型コンタクト層101側から第1ESD層110、第2ESD層111、第3ESD層112、第4ESD層113の4層構造である。第1ESD層110は、Si濃度が1×1016〜5×1017/cm3 のn−GaNである。第1ESD層110の厚さは200〜1000nmである。
【0039】
第2ESD層111は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第2ESD層111の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。
第3ESD層112は、ノンドープのGaNである。第3ESD層112の厚さは50〜200nmである。第3ESD層112はノンドープであるが、残留キャリアによりキャリア濃度が1×1016〜1×1017/cm3 となっている。なお、第3ESD層112には、キャリア濃度が5×1017/cm3 以下となる範囲でSiがドープされていてもよい。
【0040】
第4ESD層113は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第4ESD層113の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。
【0041】
n型クラッド層103は、厚さ4nmのノンドープのIn0.077 Ga0.923 N層131、厚さ1nmのノンドープのGaN層134、厚さ0.8nmのノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、n型クラッド層103は、最初に形成する層、すなわち、第4ESD層113に接する層をIn0.077 Ga0.923 N層131とし、最後に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をn−GaN層133としている。n型クラッド層103の全体の厚さは、111nmである。ここで、In0.077 Ga0.923 N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。ノンドープのGaN層134の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。また、GaN層134にはSiをドープしても良い。Al0.2 Ga0.8 N層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。n−GaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。
【0042】
発光層104(活性層ともいう)は、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を8回繰り返し積層させたMQW構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl0.05Ga0.95N層141、最後に形成する層、すなわち、p型クラッド層106に接する層をAl0.2 Ga0.8 N層144としている。発光層104の全体の厚さは54.4nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。
【0043】
p型クラッド層106は、厚さ1.7nmのp−In0.05Ga0.95N層161、厚さ3.0nmのp−Al0.3 Ga0.7 N層162を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を7回繰り返し積層させた構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をp−In0.05Ga0.95N層161とし、最後に形成する層、すなわち、p型コンタクト層107に接する層をp−Al0.3 Ga0.7 N層162としている。p型クラッド層106の全体の厚さは32.9nmである。p型不純物にはMgを用いている。
【0044】
p型コンタクト層107は、Mgをドープしたp−GaNである。p電極とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層107をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0045】
次に、発光素子1の製造方法について図11を参照して説明する。ただし、図11では、図10で示された超格子の周期構造の表示は省略されている。
用いた結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H2 又はN2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) 、In源には、トリメチルインジウム(In(CH3)3:以下「TMI」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) 、n型ドーパントガスには、シラン(SiH4 )、p型ドーパントガスには、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 :以下「CP2 Mg」と書く。)を用いた。
【0046】
まず、サファイア基板100を1180℃、水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板100表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、TMAとアンモニアガスをキャリアガスと共に流し、基板温度を400℃にして、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を10nmの厚さに形成した。次に、TMAの供給を停止し、原料ガスのTMG及びアンモニアガスと、水素ガス(キャリアガス)とを流しながら、基板温度1020℃に上昇させて、2分間、その温度を保持して、GaNから成るキャップ層121を厚さ50nmに形成した。その後、TMGの供給を停止し、アンモニアガスと、水素ガス(キャリアガス)とを流しながら、基板温度を1300℃まで上昇させた後、2分間保持してバッファ層を熱処理した。その後、基板温度を1020℃に低下させて、1020℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×1018cm-3のGaNよりなるn形コンタクト層101(本体半導体)を、キャップ層121で覆われたバッファ層120上に形成した(図11(a))。n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×108 /cm2 以下である。
【0047】
次に、以下のようにしてESD層102を形成した。まず、n型コンタクト層101上に、MOCVD法によって厚さ200〜1000nm、Si濃度1×1016〜5×1017/cm3 のn−GaNである第1ESD層110を形成した。成長温度は900℃以上とし、ピット密度の低い良質な結晶が得られるようにした。成長温度は1000℃以上とすると、さらに良質な結晶となり望ましい。
【0048】
次に、第1ESD層110上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のn−GaNである第2ESD層111を形成した。成長温度は800〜950℃とした。次に、第2ESD層111の上に、MOCVD法によって厚さ50〜200nmのノンドープGaNである第3ESD層112を形成した。成長温度は800〜950℃とし、キャリア濃度5×1017/cm3 以下の結晶が得られるようにした。
【0049】
次に、第3ESD層112上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のn−GaNである第4ESD層113を形成した。成長温度は800〜950℃とした。以上の工程により、n型コンタクト層101上にESD層102を形成した(図11(b))。
【0050】
次に、ESD層102上に、MOCVD法によってn型クラッド層103を形成した。n型クラッド層103の各層である厚さ4nmのノンドープのIn0.077 Ga0.923 N層131、厚さ0.8nmのノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133から成る周期構造を15周期、繰り返して形成した。In0.077 Ga0.923 N層131の形成は、基板温度を830℃にして、シランガス、TMG、TMI、アンモニアを供給して行った。ノンドープのGaN層134の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。Al0.2 Ga0.8 N層132の形成は、基板温度を830℃とし、TMA、TMG、アンモニアを供給して行った。n−GaN層133の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。
【0051】
次に、n型クラッド層103の上に、発光層104を形成した。発光層104の各層であるAl0.05Ga0.95N層141、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143、Al0.2 Ga0.8 N層144の4層の周期構造を8回繰り返して形成した。Al0.05Ga0.95N層141の成長温度は800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143及びAl0.2 Ga0.8 N層144の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0052】
次に、発光層104の上に、p型クラッド層106を形成した。基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMI、TMG、アンモニアを供給して、p−In0.05Ga0.95N層161を厚さ1.7nmに、基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMA、TMG、アンモニアを供給して、p−Al0.3 Ga0.7 N層162を、厚さ3.0nmに形成することを、7回繰り返して積層させた。
【0053】
次に、基板温度を1000℃にして、TMG、アンモニア、CP2 Mgを用いて、Mgを1×1020cm-3ドープしたp形GaNよりなる厚さ50nmのp形コンタクト層107を形成した。このようにして、図11(c)に示す素子構造が形成された。p形コンタクト層107のMg濃度は、1×1019〜1×1021cm-3の範囲で使用可能である。また、p形コンタクト層107の厚さは、10nm〜100nmの範囲としても良い。
【0054】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層107の表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層101に達する溝を形成した。そして、p型コンタクト層107の表面にRh/Ti/Au(p型コンタクト層107の側からこの順に積層した構造)からなるp電極108、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層101上にV/Al/Ti/Ni/Ti/Au(n型コンタクト層101側からこの順に積層させた構造)からなるn電極130を形成した。以上によって図8に示す発光素子1が製造された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、III 族窒化物半導体発光素子の製法に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
100:サファイア基板
101:n型コンタクト層
102:ESD層
103:n型クラッド層
104:発光層
106:p型クラッド層
107:p型コンタクト層
108:p電極
120:バッファ層
121:キャップ層
130:n電極
110:第1ESD層
111:第2ESD層
112:第3ESD層
113:第4ESD層
131:Iny Ga1-y N層
132:Alx Ga1-x N層
133:GaN層
図1
図2
図5
図8
図9
図10
図11
図3
図4
図6
図7