(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主ロック部材は、前記主ロック位相において前記脱出が禁止される禁止回転位置(Lp)と、前記主ロック位相において前記脱出の禁止が解除される解除回転位置(Lc)との間を、前記主ロック孔の周方向に回転可能に設けられ、
前記感温体は、前記主ロック部材を前記禁止回転位置に回転駆動する膨張状態(Se)と、前記主ロック部材を前記解除回転位置に回転駆動する収縮状態(Sc)とに、前記内燃機関の温度に応じて変化することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
渦巻状に形成される前記感温体は、前記主ロック部材に係合する最内周部(182a)を、有し、前記主ロック位相における膨縮により前記最内周部を前記主ロック孔の周方向に変位させることを特徴とする請求項2又は3に記載のバルブタイミング調整装置。
前記主ロック手段は、前記主ロック位相から前記副ロック位相までの前記回転位相において、前記主ロック部材を前記主ロック孔又は前記ガイド溝への進入方向に向かって付勢する主弾性部材(163)を、有し、
前記ガイド溝は、前記主ロック孔側から前記許容ポイント側へ向かうほど前記進入方向の反対方向に傾斜する傾斜面(180a)を、形成してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
前記主ロック位相及び前記副ロック位相間の前記回転位相において、前記ハウジングロータに対して前記ベーンロータを進角側へ付勢する進角弾性部材(19)を、備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関に搭載される。尚、本実施形態において内燃機関の停止及び始動は、エンジンスイッチSWのオフ指令及びオン指令に応じるだけでなく、アイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令及び再始動指令にも応じて、実現される。
【0021】
(基本構成)
まず、バルブタイミング調整装置1の基本構成につき、説明する。装置1は、「作動液の圧力」として作動油の圧力を利用する液圧式であり、機関トルクの伝達によりカム軸2が開閉する「動弁」として吸気弁9(後に詳述する
図15参照)のバルブタイミングを調整する。
図1〜8に示すように装置1は、内燃機関にてクランク軸(図示しない)から出力される機関トルクをカム軸2へ伝達する伝達系に配置の回転駆動部10と、当該駆動部10を駆動するために作動油の入出を制御する制御部40とを、備えている。
【0022】
(回転駆動部)
図1,2に示すように、回転駆動部10において金属製のハウジングロータ11は、リアプレート13とフロントプレート15とをシューリング12の軸方向両端部にそれぞれ締結してなる。リアプレート13は、シューリング12側へ向かって開口するロック孔162,172を、形成している。
【0023】
シューリング12は、円筒状のハウジング本体120、複数のシュー121,122,123及びスプロケット124を有している。
図2に示すように各シュー121,122,123は、ハウジング本体120のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から、径方向内側へ突出している。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成されている。スプロケット124は、タイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋する。かかる連繋により内燃機関の回転中は、機関トルクがクランク軸からスプロケット124へと伝達されることで、ハウジングロータ11がクランク軸と連動して一定方向(
図2の時計方向)に回転する。
【0024】
図1,2に示すように金属製のベーンロータ14は、ハウジングロータ11内に同軸上に収容されており、軸方向両端部をそれぞれリアプレート13とフロントプレート15とに摺動させる。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140及び複数のベーン141,142,143を有している。回転軸140は、カム軸2に対して同軸上に固定されている。かかる固定によりベーンロータ14は、カム軸2と連動してハウジングロータ11と同一方向(
図2の時計方向)に回転可能しつつ、ハウジングロータ11に対して相対回転可能となっている。
【0025】
図2に示すように各ベーン141,142,143は、回転軸140のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出し、それぞれ対応する収容室20に収容されている。各ベーン141,142,143は、対応する収容室20を回転方向に分割することで、作動油が入出する進角室22,23,24及び遅角室26,27,28を、ハウジングロータ11内に区画している。具体的に、シュー121及びベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122及びベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123及びベーン143の間には進角室24が形成されている。シュー122及びベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123及びベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121及びベーン143の間には遅角室28が形成されている。
【0026】
図1,2に示すようにベーン141は、回転軸140に対して偏心する箇所において金属製主ロック部材160を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン141は、作動油の入出する環状の主ロック解除室161を、主ロック部材160の周りに形成している。
図1,5に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161からの作動油排出により、主ロック孔162へと進入して嵌合する。かかる嵌合により主ロック部材160は、ハウジングロータ11に対するベーンロータ14の回転位相(以下、単に「回転位相」という)を、主ロック位相Pmにロックする。また一方、
図7,8に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161に導入された作動油の圧力を受けること等により、主ロック孔162から退出する。かかる退出により主ロック部材160は、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除する。
【0027】
図3,4に示すようにベーン142は、回転軸140に対して偏心する箇所において金属製副ロック部材170を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン142は、作動油の入出する環状の副ロック解除室171を、副ロック部材170の周りに形成している。
図4,7に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171からの作動油排出により、副ロック孔172へと進入して嵌合する。かかる嵌合により副ロック部材170は、回転位相を副ロック位相Psにロックする。また一方、
図8に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171に導入された作動油の圧力を受けることで、副ロック孔172から退出する。かかる退出により副ロック部材170は、副ロック位相Psにおける回転位相ロックを解除する。
【0028】
以上の回転駆動部10では、回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に対して入出される作動油の圧力を、ベーンロータ14がハウジングロータ11内にて受けることで、バルブタイミングが調整される。具体的に、進角室22,23,24への作動油導入且つ遅角室26,27,28からの作動油排出が生じるときには、回転位相が進角側へ変化する(例えば
図2から
図3への変化)。その結果、バルブタイミングが進角調整される。遅角室26,27,28への作動油導入且つ進角室22,23,24からの作動油排出が生じるときには、回転位相が遅角側へ変化する(例えば
図3から
図2への変化)。その結果、バルブタイミングが遅角調整される。進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められるときには、回転位相の変化が抑制されて、バルブタイミングが略一定に保持調整される。
【0029】
(制御部)
図1,5に示す制御部40において、主進角通路41は、回転軸140に形成されて進角室22,23,24と連通している。主遅角通路45は、回転軸140に形成されて遅角室26,27,28と連通している。ロック解除通路49は、回転軸140に形成されてロック解除室161,171の双方と連通している。
【0030】
主供給通路50は、回転軸140に形成され、供給源としてのポンプ4に搬送通路3を介して連通している。ここでポンプ4は、内燃機関の回転中に機関トルクを受けることで駆動されるメカポンプであり、当該回転中は、ドレンパン5から吸入した作動油を継続して吐出する。また、カム軸2及びその軸受を貫通する搬送通路3は、カム軸2の回転に拘らずに常にポンプ4の吐出口と連通可能となっている。これらのことから、内燃機関がクランキングにより始動して完爆するのに伴って、主供給通路50への作動油の供給が開始される一方、内燃機関が停止するのに伴って当該供給が停止する。
【0031】
副供給通路52は、回転軸140に形成されて主供給通路50から分岐している。副供給通路52は、ポンプ4から供給される作動油を、主供給通路50を通じて受ける。ドレン回収通路54は、回転駆動部10及びカム軸2の外部に設けられている。ドレン回収通路54は、ドレン回収部としてのドレンパン5と共に大気に開放され、当該ドレンパン5へ作動油を排出可能となっている。
【0032】
制御弁60は、リニアソレノイド62が発生する駆動力と、付勢部材64が当該駆動力と反対方向に発生する復原力とを利用する、所謂スプール弁である。各通路41,45,49,50,52,54と繋がる制御弁60は、
図1,2に示すスリーブ66内のスプール68を軸方向に往復移動させることで、それら通路間の連通又は遮断を切替える。具体的に、
図5〜7のロック領域Rlへスプール68が移動したときには、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28に導入されると共に、進角室22,23,24及びロック解除室161,171の作動油がドレンパン5に排出される。
図8の遅角領域Rrへスプール68が移動したときには、進角室22,23,24の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28及びロック解除室161,171に導入される。
図8の進角領域Raへスプール68が移動したときには、遅角室26,27,28の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が進角室22,23,24及びロック解除室161,171に導入される。
図8の保持領域Rhへスプール68が移動したときには、ポンプ4からの作動油がロック解除室161,171に導入されつつ、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められる。
【0033】
制御回路80は、
図1に示すリニアソレノイド62やエンジンスイッチSW、内燃機関の各種電装品等と電気的に接続されるマイクロコンピュータであり、アイドルストップシステムISSを構成している。制御回路80は、リニアソレノイド62への通電及びアイドルストップを含む内燃機関の運転を、コンピュータプログラムに従い制御する。
【0034】
(主ロック機構)
次に、「主ロック手段」としての主ロック機構16につき、説明する。
図1,2,9,10に示すように主ロック機構16は、主ロック要素160,161,162の組に主弾性部材163を組み合わせてなる。
【0035】
図9,12に示すように、リアプレート13において主ロック孔162は、有底円筒孔の周方向一部に一対のストッパ162a,162b及び開口162cを追加してなる。ストッパ162a,162bは、主ロック孔162の周方向において相反側を向く平面状にそれぞれ形成され、互いに略直角に交差している。開口162cは、主ロック孔162の周方向において禁止側ストッパ162bとは反対側にて解除側ストッパ162aと隣接する特定箇所に、所定幅をもって形成されている。開口162cは、後に詳述するガイド溝180の開口として機能する。
【0036】
図9,10に示すように主ロック部材160は、ベーンロータ14のうちベーン141に一体回転可能に埋設された円筒状の支持ブッシュ144内に、挿入されている。主ロック部材160は、シャフト164、プランジャ165及び係合リング168を、支持ブッシュ144に対して同軸上に有している。
【0037】
段付円柱状のシャフト164は、大径軸部164aから小径軸部164bと突出させてなる。
図9に示すように大径軸部164aは、支持ブッシュ144のうち軸方向中間部に設けられた内フランジ部144aよりもフロントプレート15側に配置され、当該ブッシュ144内にて軸方向に往復移動可能且つ周方向に回転可能となっている。小径軸部164bは、内フランジ部144aの中心孔を貫通することで、当該フランジ部144aのフロントプレート15側とリアプレート13側とに跨って配置されている。小径軸部164bは、大径軸部164aからリアプレート13側へ向かって突出することで、当該軸部164aと一体に往復移動及び回転可能となっている。
【0038】
図9,10に示すようにプランジャ165は、有底円筒状の摺動部166のうち底部から平板状のスライド部167を軸方向に突出させてなる。
図9に示すように摺動部166は、内フランジ部144aよりもリアプレート13側に配置され、支持ブッシュ144内にて軸方向に往復移動可能且つ周方向に回転可能となっている。摺動部166の底部には、シャフト164のうち小径軸部164bの一端部が嵌合固定されている。摺動部166は、支持ブッシュ144の内周部により摺動支持されることで、シャフト164と共に軸方向に案内される。摺動部166は、主ロック解除室161に露出することで、当該ロック解除室161の圧力作用を受ける。
図5,6に示す主ロック位相Pmにおいて摺動部166は、主ロック孔162と同軸上に配置されることで、軸方向、径方向及び周方向を当該ロック孔162と共通にする。それと共に主ロック位相Pmにおいて摺動部166は、本実施形態では、軸方向の任意の移動位置にて主ロック孔162には進入しない。
【0039】
図9に示すようにスライド部167は、支持ブッシュ144内の摺動部166からリアプレート13側へ向かって突出することで、当該摺動部166と一体に往復移動及び回転可能となっている。
図12に示すようにスライド部167は、一対の板面167a,167b及び一対の端面167c,167dにより、開口162cへ進入可能な二面幅部を構成している。各板面167a,167bは、摺動部166の軸方向及び径方向に沿って互いに平行な平面状に、それぞれ広がっている。各端面167c,167dは、板面167a,167bの縁部間をそれぞれ円弧面状に接続している。
【0040】
図5,6,11,12に示す主ロック位相Pmにおいてスライド部167は、主ロック孔162内へ進入した状態で、解除回転位置Lcと禁止回転位置Lpとの間を当該ロック孔162の周方向に回転可能となる。具体的に、
図12の解除回転位置Lcは、開口162cに対してスライド部167が端面167c側から進入可能に対向することで、解除側ストッパ162aに対して板面167aが当接する回転位置である。
図11の禁止回転位置Lpは、開口162cに対してスライド部167の端面167cが周方向にずれることで、主ロック孔162のうち開口162cと禁止側ストッパ162bとの間の内周部に対して両端面167c,167dが嵌合する回転位置である。本実施形態の禁止回転位置Lpは、解除回転位置Lcよりも周方向一方(
図11の時計方向)にずれた箇所から、禁止側ストッパ162bに対して板面167aが当接する箇所(
図11の二点鎖線参照)に到るまで、約3/4周の範囲に設定されている。以上により、禁止回転位置Lpのスライド部167は、開口162cへと進入して主ロック孔162からガイド溝180に脱出することを禁止される一方、解除回転位置Lcのスライド部167は、当該脱出の禁止を解除されることとなる。
【0041】
図9に示すように円環状の係合リング168は、内フランジ部144aよりもフロントプレート15側において、大径軸部164aを取り囲んで配置されている。係合リング168は、支持ブッシュ144内において後述の感温体182により軸方向移動を規制された状態下、周方向に回転可能となっている。
図9,10に示すように係合リング168は、径方向内側に突出する一対の嵌合突起168a,168bを、内周部に一体に有している。各嵌合突起168a,168bは、大径軸部164aの外周部において軸方向に延伸する一対のスライド溝164c,164dに対して、それぞれスライド嵌合している。かかるスライド嵌合により係合リング168は、プランジャ165及びシャフト164の往復移動を許容すると共に、それらプランジャ165及びシャフト164と一体に回転可能となっている。
【0042】
図9に示すように主弾性部材163は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン141内に収容されている。主弾性部材163は、摺動部166と内フランジ部144aとの間にて軸方向に介装されている。かかる介装形態の主弾性部材163は、主ロック部材160をその周方向のいずれの回転位置においてもリアプレート13側へと付勢するように、復原力を発生する。したがって、主ロック位相Pmから副ロック位相Psまでの回転位相において主ロック部材160は、
図5〜8に示すように、主弾性部材163の復原力を主ロック孔162又はガイド溝180への進入方向Imに受けることで、同方向Imに付勢される。また、主ロック解除室161から摺動部166への圧力作用により主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗した駆動力を進入方向Imとは反対の退出方向Emに受けることで、
図8の如く同方向Emに駆動される。
【0043】
以上の構成下、主ロック孔162への主ロック部材160の進入により実現される主ロック位相Pmは、
図2,14に示す如き最遅角位相に予設定されている。そして、特に本実施形態の主ロック位相Pmは、
図15に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0044】
(副ロック機構)
次に、「副ロック手段」としての副ロック機構17につき、説明する。
図3,4に示すように副ロック機構17は、副ロック要素170,171,172の組に副弾性部材173及び制限溝174を組み合わせてなる。
【0045】
副弾性部材173は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン142内に収容されている。
図6に示すように副弾性部材173は、ベーン142及び副ロック部材170にそれぞれ設けられるスプリング受部142a,170aの間にて、軸方向に介装されている。かかる介装形態により副弾性部材173は、副ロック部材170をリアプレート13側へと付勢するように、復原力を発生する。したがって、
図7,8に示す副ロック位相Psにおいて副ロック部材170は、副弾性部材173の復原力を副ロック孔172への進入方向Isに受けることで、同方向Isに付勢される。また、副ロック解除室171からの圧力作用により副ロック部材170は、副弾性部材173の復原力に抗した駆動力を進入方向Isとは反対の退出方向Esに受けることで、
図8の如く同方向Esに駆動される。
【0046】
図2,3,6に示すように制限溝174は、リアプレート13において有底長孔状に形成され、ロータ11,14の回転方向に沿って円弧状に延伸している。この制限溝174の中途部の溝底には、副ロック孔172が有底円筒孔状に開口している。かかる開口構造により、副ロック孔172の回転方向両側にて円筒状の副ロック部材170が制限溝174へ進入するときには、副ロック位相Psを挟む所定の回転位相領域に、回転位相が制限される。また、回転位相が副ロック位相Psに到達することで、制限溝174内の副ロック部材170が副ロック孔172へと進入するときには、
図7の副ロック位相Psにて回転位相ロックが実現される。
【0047】
以上の構成下、副ロック孔172への副ロック部材170の進入により実現される副ロック位相Psは、
図3,14に示す如く主ロック位相Pmよりも進角した中間位相に、予設定されている。そして、特に本実施形態の副ロック位相Psは、
図15に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミング乃至はその近傍のタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0048】
(ロック制御機構)
次に、
図1,9,10に示す「ロック制御手段」としてのロック制御機構18につき、説明する。ロック制御機構18は、ガイド溝180及び感温体182を組み合わせてなり、主ロック機構16及び副ロック機構17による回転位相のロック及び解除を制御する。
【0049】
図2,3,9,12に示すようにガイド溝180は、リアプレート13において有底長孔状に形成され、主ロック孔162から所定の許容ポイント183へ向かって延伸している。ここで許容ポイント183は、
図7,13に示すように、副ロック部材170の副ロック孔172への進入を許容する副ロック位相Psに対応したポイントであって、当該位相Psにおいて主ロック部材160と軸方向に正対するポイントである。
図9に示すようにガイド溝180の溝底は、主ロック孔162側から許容ポイント183側へ向かうほど退出方向Emに傾斜する平面状に、傾斜面180aを形成している。かかる傾斜面180aの形成によりガイド溝180の深さは、主ロック孔162側から許容ポイント183側へ向かうほど漸次浅くなるように、設定されている。
【0050】
図13に示すようにガイド溝180は、開口162cから進入するスライド部167よりも大きな幅をもって、直線状に延伸している。かかる延伸形態によりスライド部167は、
図6,9,12の主ロック位相Pmから
図7,13の副ロック位相Psまでの回転位相においては、ガイド溝180内をスライドすることで、主ロック孔162から許容ポイント183まで案内される。また、このときスライド部167は、主弾性部材163から進入方向Imに受ける付勢作用により、
図9に二点鎖線で示す如く傾斜面180aへと押当てられて、抗力を受ける。故に、かかる抗力作用によってスライド部167は、許容ポイント183側へ向かうほど傾斜面180aの傾斜する方向Emに向かって、押出される。その結果として特に本実施形態では、
図7に示すように、許容ポイント183へ達したスライド部167は、ガイド溝180から完全に退出することになる。尚、傾斜面180aの傾斜角は、傾斜面180aと摺動するスライド部167の摩擦係数と、主弾性部材163の復原力の大きさと、後に詳述する冷間始動時の負トルクの大きさと、ロータ11,14間のシール長(
図5,6の許容ポイント183と遅角室26との間の長さS)を考慮して、予設定されている。
【0051】
図9に示すように感温体182は、支持ブッシュ144内において内フランジ部144aよりもフロントプレート15側に、収容されている。感温体182は、
図9,10,16に示すようにバイメタルを実質同一平面上にて渦巻状に巻いてなり、その渦巻中心が主ロック部材160の回転中心と心合わせされている。感温体182の最内周部182aは、係合リング168の外周部に巻回されることで、主ロック部材160に係合固定されている。感温体182の最外周部182bは、支持ブッシュ144の内周部の凸部(図示しない)に係合固定されている。こうした固定形態により感温体182は、最内周部182aの変位により主ロック部材160を回転駆動可能となっている。
【0052】
図16に示すように感温体182は、熱膨張率の高低が異なる高膨張層184及び低膨張層185から形成されることで、周囲温度に従う膨縮特性を有している。ここで高膨張層184は、低膨張層185よりも線膨張係数が高く、且つ低膨張層185の外周側に積層されている。尚、高膨張層184の材料としては、例えばニッケル−クロム−鉄系(Ni−Cr−Fe系)合金等が選定され、また低膨張層185の材料としては、ニッケル−鉄系(Ni−Fe系)合金等が選定される。
【0053】
かかる積層構造により感温体182は、周囲温度を決めるエンジン温度に応じて膨縮することで、最内周部182aにより主ロック部材160を回転駆動する。具体的に、設定温度Ts(後に詳述する
図18,19参照)以上に上昇したエンジン温度では、
図16の二点鎖線の如く膨張した状態Seに変化する。特に主ロック部材160が主ロック孔162へ進入している
図5の主ロック位相Pmでは、こうした膨張状態Seへの変化により感温体182が最内周部182aを主ロック孔162の周方向一方に変位させる。これにより、スライド部167が
図11の禁止回転位置Lpに回転駆動される。故にこのときには、主ロック孔162からガイド溝180への主ロック部材160の脱出が禁止される。
【0054】
また一方で感温体182は、設定温度Ts未満に低下したエンジン温度では、
図16の実線の如く収縮した状態Scに変化する。特に主ロック部材160が主ロック孔162へ進入している
図6の主ロック位相Pmでは、こうした収縮状態Scへの変化により感温体182が最内周部182aを主ロック孔162の周方向他方に変位させる。これにより、スライド部167が
図12の解除回転位置Lcに回転駆動される。故にこのときには、主ロック孔162からガイド溝180への主ロック部材160の脱出が、その禁止の解除によって許容されることになる。
【0055】
ここで、本実施形態において感温体182に関する設定温度Tsは、スライド部167が禁止回転位置Lpから解除回転位置Lcに移行するときの温度に、定義されている。尚、このような設定温度Tsは、各層184,185の材料選定等によって調整されることで、例えば40〜60℃の範囲内の温度等に予設定されている。
【0056】
(ベーンロータへの変動トルク作用)
次に、カム軸2からベーンロータ14に作用する変動トルクにつき、説明する。
【0057】
内燃機関の回転中は、カム軸2が開閉駆動する吸気弁9からのスプリング反力等に起因して、変動トルクがベーンロータ14に作用する。
図17に例示するように変動トルクは、ハウジングロータ11に対する進角側へ作用する負トルクと、ハウジングロータ11に対する遅角側へ作用する正トルクとの間にて、交番変動する。本実施形態の変動トルクについては、カム軸2及びその軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクが負トルクのピークトルクよりも大きくなっており、それらの平均トルクが正トルク側(遅角側)に偏っている。
【0058】
(ベーンロータの付勢構造)
次に、ベーンロータ14を副ロック位相Psへ向かって付勢するための付勢構造につき、説明する。
【0059】
図1に示す回転駆動部10において各ロータ11,14には、それぞれ係止ピン110,146が設けられている。第一係止ピン110は、フロントプレート15においてシューリング12とは軸方向反対側へ突出する円柱状に、形成されている。第二係止ピン146は、回転軸140においてフロントプレート15と実質平行のアームプレート147から軸方向の当該プレート15側へと突出する円柱状に、形成されている。これら各係止ピン110,146は、ロータ11,14の回転中心線から実質同一距離だけ偏心した箇所に、軸方向では互いにずれて配置されている。
【0060】
フロントプレート15及びアームプレート147の間には、進角弾性部材19が配置されている。進角弾性部材19は、実質同一平面上にて金属板材を渦巻状に巻いてなり、その渦巻中心がロータ11,14の回転中心と心合わせされている。進角弾性部材19の最内周部は、回転軸140の外周部に巻装されている。進角弾性部材19の最外周部は、U字状に屈曲されて係止部190を形成している。係止部190は、係止ピン110,146のうち回転位相に応じたピンにより、係止可能となっている。
【0061】
以上の構成下、副ロック位相Psよりも遅角側、即ちロック位相Ps,Pmの間に回転位相が変化した状態では、係止部190が第一係止ピン110に係止される。このとき、係止部190から第二係止ピン146が離脱するので、進角弾性部材19がねじり弾性変形して発生する復原力は、ハウジングロータ11に対する進角側の回転トルクとしてベーンロータ14に作用する。即ちベーンロータ14は、進角側の副ロック位相Psへ向かって付勢される。ここで、ロック位相Ps,Pmの間にて進角弾性部材19の復原力は、遅角側に偏った変動トルク(
図17参照)の平均値よりも大きくなるように、予設定されている。また一方、副ロック位相Psよりも進角側に回転位相が変化した状態では、係止部190が第二係止ピン146に係止される。このとき、係止部190から第一係止ピン110が離脱するので、進角弾性部材19によるベーンロータ14の付勢作用は制限されることになる。
【0062】
(作動)
次に、装置1の全体作動につき、説明する。
【0063】
(1) 通常運転
始動により完爆した後における内燃機関の通常運転中は、スプール68を領域Rr,Ra,Rhのいずれかに移動させる。このときポンプ4からの作動油供給は、
図18,19に示すように、ポンプ4からの作動油供給が内燃機関の回転速度に応じた高い圧力にて継続される。その結果、主ロック解除室161に導入される作動油圧力により主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して主ロック孔162及びガイド溝180から退出する(
図8)。それと共に、副ロック解除室171に導入される作動油圧力により副ロック部材170は、副弾性部材173の復原力に抗して副ロック孔172及び制限溝174から退出する(
図8)。これら退出の結果、いずれのロック位相Pm,Psに対しても回転位相ロックの解除状態が維持される中、領域Rr,Ra,Rhのいずれかに変更されたスプール68の移動位置に応じて、バルブタイミングが適宜調整される。
【0064】
(2) 停止・始動
通常運転中の内燃機関は、
図18,19に示すように、エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令といった停止指令に応じて、停止作動に入る。まず、本実施形態では、燃料カットによって内燃機関を慣性回転状態とする前に、スプール68をロック領域Rlに移動させる。このときポンプ4からの作動油供給は、内燃機関の回転速度に応じた高い圧力で継続される。故に、遅角室26,27,28の作動油圧力により回転位相は、最遅角位相としての主ロック位相Pmへと変化する。
【0065】
こうした主ロック位相Pmへの変化後、内燃機関を慣性回転状態とすると、ポンプ4からの作動油の供給圧力は、
図18,19に示すように、当該慣性回転の速度に応じて漸次減少する。このとき、主ロック解除室161の圧力は低下しているため、主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160は、自身の周方向のいずれの回転位置にあっても、主ロック孔162へと進入する(
図5)。それと共に、副ロック解除室171の圧力は低下しているため、副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図5)。こうした進入及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされた状態にて、内燃機関が完全に停止する。
【0066】
内燃機関の停止中、
図18に示すようにエンジン温度が設定温度Ts以上になる温間停止状態では、膨張状態Seの感温体182により、主ロック孔162内のスライド部167が禁止回転位置Lpに回転駆動される(
図11)。その結果、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160では、スライド部167が主ロック孔162に嵌合してガイド溝180への脱出を禁止された状態となる(
図5,11)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部にてリアプレート13と接触する(
図5)。こうした脱出禁止及び接触の結果、主ロック位相Pmでの回転位相ロックが維持される。
【0067】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts以上で開始される温間始動時には、
図18に示すように感温体182が継続して膨張状態Seとなる。このとき、スプール68の移動位置はロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給は実質止まっている。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160では、主ロック孔162内にて禁止回転位置Lpにあるスライド部167がガイド溝180への脱出を禁止されたままとなる(
図11)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部にてリアプレート13と接触する(
図5)。こうした脱出禁止及び接触の結果、
図18に示すように、主ロック位相Pmでの回転位相ロックが保持された状態にて、内燃機関が完爆する。
【0068】
以上に対して内燃機関の停止中、
図19に示すようにエンジン温度が設定温度Ts未満になる冷間停止状態では、感温体182の収縮状態Scへの変化により、主ロック孔162内のスライド部167が解除回転位置Lcに回転駆動される(
図12)。その結果、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160では、主ロック孔162内のスライド部167がガイド溝180への脱出禁止状態を解除される(
図6,12)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部にてリアプレート13と接触する(
図6)。こうした脱出禁止の解除及び接触の結果、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除された状態となる。
【0069】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts未満で開始される冷間始動時には、
図19に示すように感温体182が継続して収縮状態Scとなる。このとき、スプール68の移動位置はロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給は実質止まっている。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160については、主ロック孔162内にて解除回転位置Lcのスライド部167がガイド溝180への脱出禁止状態を解除されたままとなる(
図6,12)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部にてリアプレート13と接触する(
図6)。
【0070】
このようにして各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除されている冷間始動時のベーンロータ14は、負トルクの作用によりハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転する。このとき、ベーンロータ14に支持される主ロック部材160では、負トルクの作用によって、解除回転位置Lcのスライド部167が開口162cからガイド溝180に脱出し、さらに当該溝180内を許容ポイント183へと向かって案内される(
図9の二点鎖線)。これらの結果、主ロック位相Pmから回転位相が進角すると、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、まず、制限溝174への進入を許容される。尚、副ロック部材170が制限溝174へ進入することで、正トルク作用時のベーンロータ14がハウジングロータ11に対する遅角側へと相対回転しても、主ロック位相Pmへの回転位相の戻りは、
図19に示すように制限されることとなる。
【0071】
この後、負トルクの作用により回転位相がさらに進角して副ロック位相Psまで変化すると、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172への進入を許容される(
図7)。このとき、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160では、傾斜面180aからの抗力作用によりスライド部167が退出方向Emへと押出される(
図7,13)。こうした進入及び押出の結果、副ロック部材170が副ロック孔172に嵌合し、且つスライド部167が主ロック孔162及びガイド溝180の外部にてリアプレート13と接触する。したがって、
図19に示すように回転位相ロックが副ロック位相Psでのロックへと切り替えられた状態にて、内燃機関が完爆する。
【0072】
(作用効果)
以上説明した装置1の作用効果を、以下に説明する。
【0073】
装置1によると、停止した内燃機関にてエンジン温度が設定温度Ts以上となる温間停止状態の主ロック位相Pmでは、感温体182の膨張により、主ロック孔162からガイド溝180への主ロック部材160の脱出が禁止される。その結果、主ロック部材160は、主ロック孔162に進入したまま、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを維持する。ここで、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じる主ロック位相Pmでは、内燃機関の次の始動時に、下死点到達後のピストン8のリフトアップに応じて気筒7内ガスが吸気系に押出されて、実圧縮比が低下する(デコンプレッション効果)。故に、温間停止後となる温間始動時には、例えばアイドルストップシステムISSによる再始動が頻繁に繰り返される場合でも、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを保持して、始動不具合の発生を抑制できる。
【0074】
これに対し、停止した内燃機関にてエンジン温度が設定温度Ts未満となる冷間停止状態の主ロック位相Pmでは、感温体182の収縮により、温間停止状態の如き脱出の禁止が主ロック部材160に対して解除されることで、回転位相ロックも解除される。故に内燃機関の次の始動時には、カム軸2からの変動トルク作用により、主ロック孔162から主ロック部材160がガイド溝180に脱出して許容ポイント183へ向かって案内されつつ、ベーンロータ14がハウジングロータ11に対する進角側へ相対回転する。その結果、主ロック位相Pmよりも進角した副ロック位相Psにまで回転位相が変化すると、副ロック部材170の副ロック孔172への進入が許容されて回転位相が副ロック位相Psにロックされることで、吸気弁9を閉じるタイミングが可及的に早くなる。これにより、気筒7内ガスの押出し量が減少して、当該ガスの温度が実圧縮比と共に上昇する。故に、冷間停止後となる冷間始動時には、例えば極低温環境下での車両の長時間放置後の始動時やアイドルストップシステムISSにより一時停止したまま運転終了する場合の再始動時等にあっても、着火性を向上させて始動性を確保できる。
【0075】
以上の如き装置1の特徴によれば、エンジン温度に適した始動を実現することが可能となる。
【0076】
ここで特に、温間停止状態の主ロック位相Pmにおいて主ロック部材160は、感温体182の膨張状態Seへの変化により、主ロック孔162の周方向のうち禁止回転位置Lpへと回転駆動されることで、ガイド溝180への脱出を禁止される。こうして主ロック位相Pmでの回転位相ロックが維持された温間始動時には、回転位相がそのまま主ロック位相Pmに保持されて、始動不具合の発生が抑制され得る。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmにおいて主ロック部材160は、感温体182の収縮状態Scへの変化により、主ロック孔162の周方向のうち解除回転位置Lcへと回転駆動されることで、ガイド溝180への脱出禁止を解除される。こうして主ロック位相Pmでの回転位相ロックが解除された冷間始動時には、変動トルク作用により回転位相が副ロック位相Psへと変化することで、始動性が確保され得る。以上によれば、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えを、エンジン温度に応じた感温体182の膨縮変化と主ロック部材160の回転駆動とにより、正確に実現可能となる。
【0077】
また、温間停止状態の主ロック位相Pmにおいて主ロック孔162に進入したスライド部167は、膨張状態Seの感温体182により禁止回転位置Lpへと回転駆動されることで、周方向特定箇所のガイド溝180の開口162cに対して周方向ずれを生じる。これによれば、開口162cへの進入によりスライド部167が主ロック孔162から脱出するのを確実に禁止して、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを維持し得る。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmにおいて主ロック孔162に進入したスライド部167は、収縮状態Scの感温体182により解除回転位置Lcへと回転駆動されることで、ガイド溝180の開口162cに対して進入可能に対向する。これによれば、スライド部167に関して主ロック孔162からの脱出禁止を、開口162cへの進入により確実に解除して、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除し得る。しかも、冷間停止状態にて回転位相が副ロック位相Psまで変化する際には、スライド部167をガイド溝180内でスライドさせることで、主ロック部材160を許容ポイント183まで確実に案内して、副ロック部材170を副ロック孔172に進入させ得る。以上によれば、回転位相のロック乃至は解除をエンジン温度に応じて正確に実現できるので、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0078】
さらに、渦巻状の感温体182は、主ロック位相Pmでの膨縮により最内周部182aを主ロック孔162の周方向に変位させることで、当該最内周部182aに係合する主ロック部材160を、禁止回転位置Lpと解除回転位置Lcとに確実に回転駆動し得る。これによれば、回転位相をロック乃至は解除する主ロック部材160の回転駆動を、エンジン温度に応じて正確に実現できるので、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0079】
またさらに、冷間始動時の主ロック部材160は、回転位相変化に伴ってガイド溝180により主ロック孔162から許容ポイント183へと案内される際、主弾性部材163による付勢作用を主ロック孔162又はガイド溝180への進入方向Imに受ける。故にガイド溝180のうち、主ロック孔162側から許容ポイント183側へ向かうほど進入方向Imの反対方向Emに傾斜する傾斜面180aには、主弾性部材163から付勢作用を受ける主ロック部材160が押当てられる。その結果、主ロック部材160は、許容ポイント183側へと向かいながら傾斜面180aから抗力を受けることで、主弾性部材163による付勢作用に抗してガイド溝180から進入方向Imの反対方向Emへと押出され得る。これによれば、ガイド溝180からも主ロック部材160を脱出させて、その後の回転位相変化による自由なバルブタイミング調整を実現することが、可能となる。
【0080】
加えて、主ロック位相Pm及び副ロック位相Ps間の回転位相においてベーンロータ14は、進角弾性部材19によりハウジングロータ11に対する進角側へ付勢される。故に、内燃機関の冷間始動時に進角弾性部材19の付勢作用を受けるベーンロータ14は、変動トルク作用も相俟って、ハウジングロータ11に対する回転位相を副ロック位相Psまで素早く変化させ得る。これによれば、冷間始動時の内燃機関において変動トルクを発生させるクランキングの開始から、副ロック位相Psにて回転位相をロックするまでに要する時間を短縮できるので、特に冷間停止後の冷間始動性につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0081】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0082】
具体的に変形例1としては、
図20に示すように、ガイド溝180をロータ11,14に回転方向に沿う円弧状に延伸させると共に、当該円弧状を補完する円弧面状にスライド部167の各板面167a,167bを形成してもよい。
【0083】
変形例2としては、
図21に示すように、ガイド溝180の溝底に傾斜面180aを設けないで、主ロック解除室161の作動油圧力のみにより主ロック部材160を当該溝180から退出させてもよい。あるいは変形例3としては、
図22に示すように、主ロック解除室161を設けないで、傾斜面180aからの抗力のみにより主ロック部材160をガイド溝180から退出させてもよい。
【0084】
変形例4としては、螺旋状に形成した感温体182の両端部を、それぞれ主ロック部材160(係合リング168)とベーンロータ14(支持ブッシュ144)とに係合固定してもよい。また、変形例5としては、感温体182及びロック部材160,170をハウジングロータ11に支持させる一方、溝180,174及びロック孔162,172をベーンロータ14に形成してもよい。
【0085】
変形例6の弾性部材163,173としては、コイルスプリング以外の種類の金属製スプリングの他、例えばゴム製部材を採用してもよい。また、変形例7のポンプ4としては、内燃機関の完爆に伴って又は任意の時に作動油の供給を開始可能な電動ポンプを、採用してもよい。
【0086】
変形例8の主ロック位相Pmとしては、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じる回転位相となれば、最遅角位相よりも進角側に設定してもよい。また、変形例9の副ロック位相Psとしては、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも可及的に早いタイミングにて吸気弁9を閉じる回転位相に、設定してもよい。
【0087】
変形例10としては、進角弾性部材19を設けなくてもよく、この場合、スプール68のロック領域Rlへの移動と内燃機関の慣性回転とを実行する順番を、逆にする。また、変形例11としては、スイッチSWのオフ指令に応じて内燃機関が停止するとき回転位相を副ロック位相Psにロック後、スイッチSWのオン指令に応じて内燃機関が始動するとき当該位相Psでのロックをそのまま実現させてもよい。あるいは変形例12としては、システムISSのアイドルストップ指令に応じて内燃機関が停止するとき回転位相を副ロック位相Psにロック後、システムISSの再始動指令に応じて内燃機関が始動するとき当該位相Psでのロックをそのまま実現させてもよい。