特許第5928429号(P5928429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンケン電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5928429-半導体装置及びその製造方法 図000002
  • 特許5928429-半導体装置及びその製造方法 図000003
  • 特許5928429-半導体装置及びその製造方法 図000004
  • 特許5928429-半導体装置及びその製造方法 図000005
  • 特許5928429-半導体装置及びその製造方法 図000006
  • 特許5928429-半導体装置及びその製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928429
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20160519BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20160519BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20160519BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20160519BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   H01L29/78 301S
   H01L29/78 652B
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 652M
   H01L29/78 658E
   H01L21/265 F
   H01L21/265 W
   H01L21/265 Z
   H01L21/28 A
   H01L21/28 301B
   H01L29/50 M
   H01L21/265 Q
   H01L29/78 301B
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-204999(P2013-204999)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-70196(P2015-70196A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】吉江 徹
【審査官】 小堺 行彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−173584(JP,A)
【文献】 特開2009−182271(JP,A)
【文献】 特開2006−024880(JP,A)
【文献】 特開平09−064346(JP,A)
【文献】 特開2000−340520(JP,A)
【文献】 特表2003−517204(JP,A)
【文献】 特開2006−066438(JP,A)
【文献】 特開2002−270838(JP,A)
【文献】 特開2013−058601(JP,A)
【文献】 特開2009−049198(JP,A)
【文献】 特開2006−228901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 21/265
H01L 21/28
H01L 29/417
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面に形成されたゲート酸化膜と、当該ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極と、主電極と接続され前記半導体基板の表面において形成された高濃度不純物層と、を具備する半導体装置であって、
前記高濃度不純物層においてドーピングされた不純物種には、燐(P)である第1不純物種と、アルゴン(Ar)である第2不純物種とが含まれ、
前記高濃度不純物層の表面において、前記第2不純物種の濃度は、前記第1不純物種の濃度よりも高く、
前記高濃度不純物層における前記第1不純物種の深さ方向における濃度のピークは、前記第2不純物種の深さ方向における濃度のピークよりも深い箇所とされ
前記ゲート電極は、前記ゲート電極の下でチャネルが形成される領域から、前記高濃度不純物層の上において、前記ゲート電極の下でチャネルが形成される領域の上の前記ゲート酸化膜よりも厚く形成された前記ゲート酸化膜の上まで、延伸して形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記高濃度不純物層が表面から掘り下げられた箇所で前記高濃度不純物層と前記主電極とが接続された構成を具備することを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記高濃度不純物層と前記主電極とがシリサイド電極を介して接続されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記シリサイド電極はニッケル(Ni)シリサイドで構成されたことを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記高濃度不純物層における不純物濃度は5×1019cm−3以上であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体基板は炭化珪素(SiC)で構成されたことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記第1不純物種の飛程が前記第2不純物種の飛程よりも大きくなる条件で前記半導体基板に対して前記第1不純物種及び前記第2不純物種をイオン注入することによって前記高濃度不純物層を形成する高濃度不純物層形成工程と、
前記半導体基板を熱酸化することによって前記ゲート酸化膜を形成するゲート酸化工程と、
前記ゲート酸化膜上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程と、
前記高濃度不純物層に前記主電極を接続する主電極接続工程と、
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記主電極接続工程において、前記主電極を接続する前に、前記主電極が接続される領域における前記高濃度不純物層の表面を掘り下げるエッチングを行うことを特徴とする請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
シリサイド電極を介して前記主電極を前記高濃度不純物層に接続することを特徴とする請求項又はに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体基板は炭化珪素(SiC)で構成されたことを特徴とする請求項から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を具備する半導体装置の構造、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)を用いたMOSFETが、パワー半導体素子として使用されている。SiCを用いたMOSFETの構造は、例えば特許文献1に記載されている。この半導体装置(MOSFET)におけるゲート電極からソース電極までの構造を模式的に図5(a)に示す。この半導体装置80においては、SiCで構成されn型のn層91を表面に具備する半導体基板90が用いられる。n層91には、局所的にp型拡散層92が形成され、p型拡散層92中には、n層91よりもキャリア濃度の高いn型のn拡散層93が、n拡散層93中には、これよりも更にキャリア濃度の高いn型のn++拡散層(高濃度不純物層)94が、それぞれ形成されている。n層91は、エピタキシャル基板(図示せず)上にエピタキシャル成長によって形成される。p型拡散層92、n拡散層93、n++拡散層94は、それぞれ、イオン注入後に熱処理を行うことによって形成される。n層91はMOSFETのドレイン領域となり、n拡散層93はMOSFETのソース領域となる。
【0003】
半導体基板90の表面におけるn層91とn拡散層93の間のp型拡散層92を覆って、ゲート酸化膜81が形成される。ゲート酸化膜81の上には、高濃度にドープされることによって導電性とされた多結晶シリコンからなるゲート電極82が形成される。ゲート電極82に印加された電圧によって、ドレイン領域(表面のn層91)とソース領域(表面のn拡散層93)の間のp型拡散層92表面にチャネルが誘起され、これによる電流のオン・オフが制御される。
【0004】
ゲート電極82とその周囲を覆って層間絶縁層83が形成され、層間絶縁層83は、n++拡散層94(ソース領域)上で開口される。この開口部におけるn++拡散層94上には、シリサイド電極84が形成される。シリサイド電極84は、Niシリサイド(NiSi、NiSi等)等で構成され、シリサイド電極84とn++拡散層94との間のコンタクト抵抗は低い。このコンタクト抵抗を低くすることができる。このため、n++拡散層94には、SiCにおいてドナーとなるリン(P)が大量にドーピングされている。ソース電極85は、この構造の全面を覆って形成される。特にn++拡散層94の不純物濃度を高くした場合には、ソース領域(表面のn拡散層93)とソース電極85との間の抵抗を小さくすることができる。
【0005】
なお、図5(a)においては、ソース電極85は表面全面に形成されているが、実際には、半導体基板90の表面側で、ソース電極85とゲート電極82とは分離されて取り出されるようにそれぞれパターニングされる。また、図5(a)においてはドレイン電極が記載されていないが、ドレイン電極も、半導体基板90の表面側あるいは裏面側から適宜取り出される。層間絶縁層83も、これらに応じて適宜パターニングされる。
【0006】
図5(b)は、上記の半導体装置80を製造する際の、ゲート電極82をパターニングして形成した直後の構造を示す断面図である。図5(a)の構造は、図5(b)の構造に対して、(1)層間絶縁層83を全面に形成した後にn++拡散層94上部を開口する工程、(2)この開口部にシリサイド電極84を形成する工程、(3)ソース電極85を形成する工程、等を行うことによって形成される。ゲート酸化膜81、層間絶縁層83は、共にSiOを主成分とするが、ゲート酸化膜81は熱酸化によって薄く形成され、層間絶縁層83はこれよりも厚くCVD法等によって形成される。
【0007】
SiのMOSFETを製造する際には、熱酸化によって半導体基板上にゲート酸化膜が形成され、その上のゲート電極がパターニングされてからソース領域となる拡散層(上記のn拡散層93)が形成される。しかしながら、SiCのMOSFETを製造する場合には、拡散層を形成するための熱処理温度が非常に高くなるために、拡散層を形成する前にゲート酸化膜等を形成することが困難である。このため、図5(b)の構造を製造するためには、n層91を具備する半導体基板90中に、p型拡散層92、n拡散層93、n++拡散層94を形成する工程を行った後で、ゲート酸化膜81を形成する工程が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−253293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ゲート酸化膜81が熱酸化によって形成される際には、半導体基板90の表面を構成する原子の1種であるSiが酸素と結合することによって形成されたSiOを主成分とするゲート酸化膜81が形成される。このため、ゲート酸化膜81の成膜速度や膜質は、半導体基板90の表面近くの結晶状態に大きく依存する。まず、成膜速度は、表面の結晶性に大きく影響され、例えば高濃度にイオン注入されたために結晶欠陥が多く発生している領域においては、増殖酸化が発生し、成膜速度が高くなる。このため、不純物濃度が高いn++拡散層94の上におけるゲート酸化膜81は、p型拡散層92上等と比べて厚くなり、図5(b)の構造は、実際には図6に示されるような構造となる。
【0010】
また、半導体基板90の表面に含まれる不純物は、形成されたゲート酸化膜81中に取り込まれる。このため、前記の通り、特にn++拡散層94にはPが大量にドーピングされているため、このP原子もゲート酸化膜81中に多量に取り込まれる。こうしたP原子を多量に含むSiO膜は、膜の緻密性が低くなり、絶縁抵抗が低くなる。すなわち、ゲート酸化膜81中が厚く形成された部分の絶縁抵抗は低くなる。図6の構成において、チャネルが形成されるのはp型拡散層92の表面であるが、ゲート電極81は、p型拡散層92の左側まで形成する必要があり、この場合には、ゲート電極82の左側端部が、ゲート酸化膜81における増殖酸化によって厚くなった部分にかかる虞がある。こうした場合には、この部分に起因してゲート耐圧が低下した。
【0011】
あるいは、こうした問題を回避するために、半導体基板90の表面におけるn拡散層93の幅を充分に広げ、ゲート電極82の端部とn++拡散層94の間隔を充分に広くした構造が用いられた。しかしながら、この場合には、素子全体を小型とすることが困難となった。
【0012】
このように、MOS構造において、高濃度に注入された不純物に起因したゲート酸化膜の不均一性による悪影響を低減することは困難であった。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、半導体基板の表面に形成されたゲート酸化膜と、当該ゲート酸化膜上に形成されたゲート電極と、主電極と接続され前記半導体基板の表面において形成された高濃度不純物層と、を具備する半導体装置であって、前記高濃度不純物層においてドーピングされた不純物種には、燐(P)である第1不純物種と、アルゴン(Ar)である第2不純物種とが含まれ、前記高濃度不純物層の表面において、前記第2不純物種の濃度は、前記第1不純物種の濃度よりも高く、前記高濃度不純物層における前記第1不純物種の深さ方向における濃度のピークは、前記第2不純物種の深さ方向における濃度のピークよりも深い箇所とされ、前記ゲート電極は、前記ゲート電極の下でチャネルが形成される領域から、前記高濃度不純物層の上において、前記ゲート電極の下でチャネルが形成される領域の上の前記ゲート酸化膜よりも厚く形成された前記ゲート酸化膜の上まで、延伸して形成されたことを特徴とする
本発明の半導体装置は、前記高濃度不純物層が表面から掘り下げられた箇所で前記高濃度不純物層と前記主電極とが接続された構成を具備することを特徴とする。
本発明の半導体装置は、前記高濃度不純物層と前記主電極とがシリサイド電極を介して接続されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記シリサイド電極はニッケル(Ni)シリサイドで構成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記高濃度不純物層における不純物濃度は5×1019cm−3以上であることを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記半導体基板は炭化珪素(SiC)で構成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置の製造方法は、前記半導体装置の製造方法であって、前記第1不純物種の飛程が前記第2不純物種の飛程よりも大きくなる条件で前記半導体基板に対して前記第1不純物種及び前記第2不純物種をイオン注入することによって前記高濃度不純物層を形成する高濃度不純物層形成工程と、前記半導体基板を熱酸化することによって前記ゲート酸化膜を形成するゲート酸化工程と、前記ゲート酸化膜上にゲート電極を形成するゲート電極形成工程と、前記高濃度不純物層に前記主電極を接続する主電極接続工程と、を具備することを特徴とする。
本発明の半導体装置の製造方法は、前記主電極接続工程において、前記主電極を接続する前に、前記主電極が接続される領域における前記高濃度不純物層の表面を掘り下げるエッチングを行うことを特徴とする。
本発明の半導体装置の製造方法は、シリサイド電極を介して前記主電極を前記高濃度不純物層に接続することを特徴とする。
本発明の半導体装置の製造方法において、前記半導体基板は炭化珪素(SiC)で構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されているので、MOS構造において、高濃度に注入された不純物に起因したゲート酸化膜の不均一性による悪影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面図である。
図2】高濃度不純物層における不純物分布を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程断面図(続き)である。
図5】従来の半導体装置の一例の構造を模式的に示す断面図(a)、及びその製造工程途中での断面図である。
図6】従来の半導体装置の製造工程途中での断面をより詳細に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態となる半導体装置について説明する。この半導体装置は、半導体基板上に形成されたゲート電極によって、ソース電極(主電極)を流れる電流のオン・オフが制御されるMOSFETである。このMOSFETは、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板に形成される。
【0018】
この半導体装置においては、主電極とのコンタクトに用いられるn++拡散層(高濃度不純物層)の不純物及びその分布が最適化されている。これによって、ゲート酸化膜の増殖酸化の悪影響が低減される。
【0019】
図1は、この半導体装置10の構造を示す断面図である。図1においては、この半導体装置10におけるゲート領域からソース領域にかけての構造が示されており、図5(a)に対応する。この半導体装置10においても、n層21を具備する半導体基板20が用いられ、n層21にはp型拡散層22が形成されている。また、ソース領域として機能するn++拡散層(高濃度不純物層)24がp型拡散層22中に設けられており、図5の構成とは異なり、これらの間のn層は設けられていない。
【0020】
++拡散層(高濃度不純物層)24は、後述するように、イオン注入によって形成されるが、この際に、少なくとも2種類の不純物種が注入される。そのうち一方(第1不純物種)は、燐(P)であり、他方(第2不純物種)はアルゴン(Ar)又は窒素(N)である。第1不純物種は、特にSiC中においてドナーとして機能する。第2不純物種において、Arはドナーとしては機能せず、Nはドナーとして機能するが、第2不純物種は、主にn++拡散層24表面の結晶状態を調整するために用いられる。このため、第2不純物種の濃度は特にn++拡散層24表面で高く設定され、この表面では第1不純物種よりも高い濃度とされる。一方、第1不純物種は、表面における濃度は低いが、n++拡散層24の深い領域で高濃度となるように設定される。このため、深さ方向における第1不純物種の濃度分布のピークは、第2不純物種の濃度のピークよりも深い位置に設定される。図2は、こうした第1不純物種、第2不純物種の深さ方向の濃度分布を模式的に示す図である。
【0021】
また、ゲート酸化膜30の形状は、図6に示された形状と同様であり、n++拡散層24上で、p型拡散層22等の上よりも厚くなっている。なお、チャネルはゲート電極31直下のp型拡散層22表面に形成される。
【0022】
また、層間絶縁層32中に設けられた開口部を介して、n++拡散層24の表面が露出した箇所にシリサイド電極33が形成され、このシリサイド電極33を介してソース電極34がn++拡散層24と接続される。
【0023】
この半導体装置10において用いられるゲート酸化膜30は、図6の構成におけるゲート酸化膜81と同様の形態を具備するが、その絶縁抵抗は高い。このために、ゲート酸化膜30の膜質に起因する耐圧の低下は発生しない。また、上記の半導体装置10は、以下の製造方法によって容易に製造することができる。
【0024】
図3(a)〜(f)、図4(g)〜(j)は、この半導体装置(MOSFET)10の製造方法を示す工程断面図である。
【0025】
まず、図3(a)に示されるように、SiCで構成され、n型のn層21を表面に具備する半導体基板20中に、p型拡散層22が形成される。p型拡散層22は、半導体基板20(n層21)中の所望の領域にアクセプタ不純物をイオン注入した後で、熱処理を加えることによって形成される。
【0026】
次に、図3(b)に示されるように、p型拡散層22中の所望の領域に、n++拡散層24を形成するためのドナー不純物のイオン注入を行う(高濃度不純物層形成工程)。ここでは、n拡散層23は形成されない。ここで主なドナー不純物種とされるのは第1不純物種であるリン(P)である。ただし、この際に、Pイオンだけでなく、半導体基板20(p型拡散層22)表面付近に多くドーピングされるP以外のイオン(第2不純物種イオン)も注入される。この際、図2に示されるように、第2不純物種イオン51は半導体基板20(p型拡散層21)の表面近くに蓄積され、Pイオン(第1不純物種イオン52)はこれよりも深い箇所に蓄積されるような条件でイオン注入が行われる。すなわち、半導体基板20(p型拡散層21)中における第1不純物種イオン52の飛程が、第2不純物種イオン51よりも深くなるようなエネルギーで各々のイオン注入が行われる。
【0027】
その後、熱処理が行われることによって、図3(c)に示されるように、n++拡散層24が形成される。なお、上記の例では、図3(a)において、初めにp型拡散層22をイオン注入・熱処理によって形成した後に、図3(b)において再度第2不純物種イオン51、第1不純物種イオン52をイオン注入・熱処理してn++拡散層24が形成されるものとしたが、p型拡散層22を形成するためのイオン注入、第2不純物種イオン51、第1不純物種イオン52のイオン注入を連続して行い、その後で1回の熱処理を行うことによって、p型拡散層22、n++拡散層24を形成してもよい。なお、図5の構成とは異なり、p型拡散層22とn++拡散層24の間のn拡散層は形成されないため、この半導体装置10においては、n++拡散層24がソース領域となる。
【0028】
次に、図3(d)に示されるように、この半導体基板20を熱酸化し、ゲート酸化膜30を形成する(ゲート酸化工程)。この際、第2不純物種イオン51がn++拡散層24の浅い領域には多く注入されているために結晶欠陥が多く発生しており、増殖酸化が生じ、図3(d)に示されるように、n++拡散層24上のゲート酸化膜30は厚くなる。この点については、図6の構造と同様である。しかしながら、P原子(第1不純物種イオン52)はn++拡散層24の深い箇所のみに存在しているため、P原子はゲート酸化膜30中には拡散しにくい。このため、ゲート酸化膜30の絶縁抵抗が低下することを抑制することができる。こうした効果が顕著となるのは、前記の通り、n++拡散層24の不純物濃度が高い場合であり、例えばこの不純物濃度(第1不純物種、第2不純物種含む)が5×1019cm−3以上である場合に、特に顕著である。
【0029】
次に、図3(e)に示されるように、ゲート電極31を形成する(ゲート電極形成工程)。この際、図5(a)の構造と異なり、p型拡散層22とn++拡散層24の間にn拡散層が形成されないために、ゲート電極31は、ゲート酸化膜30が厚くなる領域上にも延伸する。
【0030】
次に、図3(f)に示されるように、層間絶縁層32を形成する(層間絶縁層形成工程)。層間絶縁層32は、CVD法によってゲート酸化膜30よりも厚く形成される。このため、ゲート電極31の端部の段差部を含む図3(e)の構造全体を層間絶縁層32で覆うことができる。
【0031】
次に、図4(g)に示されるように、ソース電極とのコンタクトをとるために、ドライエッチングによってn++拡散層24上における層間絶縁層32に開口部を形成し、この開口部中でn++拡散層24を露出させる(層間絶縁層開口工程)。
【0032】
次に、図4(h)に示されるように、開口部中におけるn++拡散層24の表面をエッチングして掘り下げる(高濃度不純物層エッチング工程)。このエッチングにおいては、n++拡散層24においてP原子(第1不純物種イオン52)が多く蓄積され低抵抗とされた領域が露出するまで行われる。このエッチングは、例えばSF、SiHCl、CF等を用いたドライエッチングによって行うことができる。
【0033】
次に、図4(i)に示されるように、n++拡散層24が掘り下げられた領域にシリサイド電極33を形成する(シリサイド電極形成工程)。シリサイド電極33は、例えばNiシリサイド等で構成される。この場合には、図4(i)に示されるシリサイド電極33の形態でシリサイド電極33となる金属材料(Ni又はNiシリサイド)を成膜し、その後でこの層がn++拡散層24との間でシリサイド反応を生じるような熱処理を行うことによって、コンタクト抵抗の低いシリサイド電極33が得られる。この際、シリサイド反応によって、金属材料層直下のn++拡散層24はシリサイド電極33に変わるため、最終的に形成されたシリサイド電極33の底面が、第1不純物種の濃度のピークがある深さとなることが好ましい。
【0034】
その後、図4(j)に示されるように、図4(i)の構造を覆ってソース電極34を形成する(主電極接続工程)。ソース電極34は、例えば下層を薄いTi層、上層を厚いAl層とした2層構造とされる。この厚さは、ソース電極34の上にボンディングワイヤが接続できる程度に厚く設定される。
【0035】
この半導体装置10においては、前記の通り、ゲート酸化膜30における絶縁抵抗の低い部分が形成されることが抑制される。このため、増殖酸化により厚く形成されたゲート酸化膜30に起因するゲート耐圧不良を抑制することができる。このため、p型拡散層22とn++拡散層24の間のn拡散層は不要であり、ゲート電極31の端部とシリサイド電極33等の間の間隔を小さくすることができる。これにより、素子全体を小型化することができる。
【0036】
また、上記の構成においては、第1不純物種イオン52が多くドーピングされ低抵抗とされた領域がn++拡散層24における深い箇所に存在するが、図4(h)(i)に示されるように、n++拡散層24が掘り下げられた深い領域にシリサイド電極33が形成されるため、ソース電極34とソース領域(n++拡散層24)との間のコンタクト抵抗を低減することができる。
【0037】
また、上記の構造においては、ゲート電極31とソース領域(n++拡散層24)とが平面視において重複する領域が存在する。あるいは、ゲート酸化膜30において耐圧が低い領域が形成されないため、これらが重複する領域を設けることができる。このため、素子全体の小型化が可能である。一方、この構造により、ゲート・ソース間の容量が大きくなり、高速動作が困難となる場合がある。しかしながら、ゲート電極31とソース領域(n++拡散層24)とが平面視において重複する領域においては、ゲート酸化膜30が厚く形成されるため、ゲート・ソース間の容量増大は抑制される。すなわち、小型化したためにゲート電極31とソース領域(n++拡散層24)とが近接するが、この際の悪影響も低減される。
【0038】
このように、上記の半導体装置10は、図3、4に示された製造方法によって容易に製造することができる。
【0039】
なお、上記の構成において、シリサイド電極33は、n++拡散層24が掘り下げられた領域に形成されるものとしたが、充分に低いコンタクト抵抗が得られる限りにおいて、n++拡散層24を掘り下げる必要はない。また、シリサイド電極33がNiシリサイドで構成されるものとしたが、他のシリサイド電極を用いることもできる。あるいは、充分に低いコンタクト抵抗が得られる限りにおいて、シリサイド電極33は不要である。
【0040】
また、上記の例では、半導体基板がSiCで構成されるものとしたが、特にソース領域等が形成された後でゲート酸化膜が形成され、ゲート電極周囲の構造が同様である場合には、半導体基板が他の半導体材料、例えばシリコン(Si)で構成される場合であっても、同様の効果を奏することは明らかである。
【0041】
なお、上記の例では、この半導体装置がMOSFETであるものとしたが、ゲート電極近傍に同様の構造を具備する半導体装置、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であれば、同様の構造、製造方法が有効であることは明らかである。
【符号の説明】
【0042】
10、80 半導体装置(MOSFET)
20、90 半導体基板
21、91 n層
22、92 p型拡散層
24、94 n++拡散層(高濃度不純物層)
30、81 ゲート酸化膜
31、82 ゲート電極
32、83 層間絶縁層
33、84 シリサイド電極
34、85 ソース電極(主電極)
51 第2不純物種イオン
52 第1不純物種イオン
93 n拡散層
図1
図2
図3
図4
図5
図6