特許第5928452号(P5928452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928452
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 23/38 20060101AFI20160526BHJP
   H02K 13/04 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   H02K23/38
   H02K13/04
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-514455(P2013-514455)
(86)(22)【出願日】2012年1月24日
(65)【公表番号】特表2014-504128(P2014-504128A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2012000422
(87)【国際公開番号】WO2012102019
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2014年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-16309(P2011-16309)
(32)【優先日】2011年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牧野 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】檜皮 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】大菅 祥平
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−186210(JP,A)
【文献】 特開平10−174403(JP,A)
【文献】 特開2010−022198(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/031381(WO,A2)
【文献】 独国特許出願公開第102006061673(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 23/38
H02K 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーマチュアと、
複数のセグメントを有するコミュテータと、
前記アーマチュア及び前記コミュテータとともに中心軸回りに回転するシャフトと、
前記アーマチュアの周囲に配置され、N極とS極とが周方向に交互に並ぶマグネットと、
前記コミュテータの周囲に配置され、前記セグメントに摺接するブラシと、
前記アーマチュアと前記コミュテータとにわたって配置される巻線構造と、
を備え、
前記アーマチュアは、
複数のコイルと、
前記シャフトに固定されるアーマチュアコアと、
を有し、
前記アーマチュアコアは、
半径方向に放射状に張り出す複数のティースと、
前記ティース間に配置され、軸方向に延びる複数のスロットと、
を有し、
前記巻線構造は、
前記コイルを構成するコイル巻線と、
前記コイルと前記セグメントとの間を接続する引出線と、
2つの前記コイルの間を接続する渡り線と、
2つの前記セグメントの間を接続する均圧線と、
を有し、
前記均圧線は、前記スロットを通って前記ティースの一群を跨いで引き回され、2つの同じ前記セグメントのフック部を接続する往部及び復部を有し、
前記スロットの個数をN極及びS極からなる極対の個数で除算して整数倍した値のうち、整数になる数値を拡張値とした場合において、周方向に連続して並び、前記拡張値と等しい個数の一群の前記ティースを要素ティース群としたとき、
前記往部と前記復部とが、前記要素ティース群の両側に位置する前記スロットを通って前記要素ティース群を跨いで引き回され
前記往部が跨ぐ前記要素ティース群と、前記復部が跨ぐ前記要素ティース群とが異なり、
前記コイル巻線と、前記引出線と、前記渡り線と、前記均圧線と、は連続した1本の導線であるモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、
前記スロットの個数は、前記極対の個数の整数倍であるモータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータにおいて、
前記コイルは、複数の前記ティースにわたって前記コイル巻線を巻回する分布巻であるモータ。
【請求項4】
請求項1または請求項に記載のモータにおいて、
前記コイルは、前記ティースごとに前記コイル巻線を巻回する集中巻であるモータ。
【請求項5】
請求項4に記載のモータにおいて、
前記ティースの各々には、2種類の要素コイルが巻回され、
前記セグメントの個数が、前記スロットの個数の2倍であるモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ付モータに関し、特に、均圧線の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
均圧線の構造に関しては、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、均圧線は、アーマチュアコアのスロットに巻回され、同電位となる整流子片同士を接続している。
【0003】
近年、ブラシ付モータの小型化が進んでいる。小型のブラシ付モータでは、軸方向の高さを低くできる集中巻構造が採用されている。ところが、集中巻構造では、一般に、マグネットの極数やブラシの数が多くなる傾向がある。部材のコストや音特性などを考慮すると、ブラシの数は減らしたい。ところが、ブラシの数を減らせば均圧線の電流容量が問題になる。
【0004】
この点、図1を用いて説明する。図1において、101はブラシ、102はセグメント、103はコイル、104は均圧線を示している。例えば、図1Aに示すように、電流が供給されるコイル103が接続されたセグメント102に対して直接ブラシ101が接する場合には、セグメント102にコイル103が並列に複数接続されていても、支障なく各コイル103に電流を供給することができる。
【0005】
ところが、図1Bに示すように、ブラシの数を減らして均圧線104を用いる場合、各コイル103に供給される電流の総容量が均圧線を流れる。そのため、均圧線104の電流容量が不足すると、均圧線104が溶断する虞がある。これに対し、例えば、次の2つの対策が考えられる。
【0006】
(1)コイルと均圧線とで別の導線を用い、均圧線の直径をコイルの直径より太くする。
(2)コイルと均圧線とで同じ導線を用い、均圧線の直径及びコイルの直径を太くする。
【0007】
しかし、対策(1)には、コイルと均圧線との接続作業が増えて、コストアップや生産性の低下を招く、という問題がある。対策(2)には、コイルの導線の線径が太くなると巻回し難くなり、生産性の低下を招く、という問題がある。
【0008】
そこで、これらの問題に対する対策として、均圧線を複数本にすることが考えられる。この対策に関し、特許文献2の段落0031には、同電位のセグメントの2点間を複数の均圧線で接続する構造が開示されている。また、特許文献1の段落0012においても、整流子片の間に2本の均圧線を巻装する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−186210号公報
【特許文献2】特開2000−60074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、先行文献1や先行文献2のように、同電位のセグメント間を複数の均圧線で接続すると、均圧線の間でループ回路が形成される。加えて、均圧線をアーマチュアコアに巻装すると、均圧線に誘起電圧が発生する。
【0011】
均圧線に誘起電圧が発生すると、ループ回路内において、循環する短絡電流が発生し、モータ効率の低下を招く。
【0012】
そこで、本発明の目的は、同電位のセグメント間を複数の均圧線で接続しても短絡電流の発生を抑制できるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の例示的な一の側面に係るモータは、アーマチュアと、複数のセグメントを有するコミュテータと、前記アーマチュア及び前記コミュテータとともに中心軸回りに回転するシャフトとを含む。さらに、本発明のモータは、マグネットと、ブラシと、巻線構造と、を含む。マグネットは、前記アーマチュアの周囲に配置され、N極とS極とが周方向に交互に並ぶ。ブラシは、前記コミュテータの周囲に配置され、前記セグメントに摺接する。巻線構造は、前記アーマチュアと前記コミュテータとにわたって配置される。
【0014】
前記アーマチュアは、複数のコイルと、前記シャフトに固定されるアーマチュアコアとを含む。前記アーマチュアコアは、半径方向に放射状に張り出す複数のティースと、前記ティース間に配置され、軸方向に延びる複数のスロットとを含む。前記巻線構造は、前記コイルを構成するコイル巻線と、前記コイルと前記セグメントとの間を接続する引出線とを含む。さらに、前記巻線構造は、2つの前記コイルの間を接続する渡り線と、2つの前記セグメントのフック部を接続する均圧線とを含む。前記均圧線は、前記スロットを通って前記ティースに掛けられる。さらに、前記均圧線は、2つの同じ前記セグメントの間を接続する往部と復部とを含む。
【0015】
そして、前記スロットの個数をN極及びS極からなる極対の個数で除算して整数倍した値のうち、整数になる数値を拡張値とする。その場合において、周方向に連続して並び、前記拡張値と等しい個数の一群の前記ティースを要素ティース群としたとき、前記往部と前記復部とが、前記要素ティース群の両側に位置する前記スロットを通って前記要素ティース群に掛けられ、前記往部が跨ぐ前記要素ティース群と、前記復部が跨ぐ前記要素ティース群とが異なり、前記コイル巻線と、前記引出線と、前記渡り線と、前記均圧線と、は連続した1本の導線である。
【0016】
また、本発明の例示的な一の側面に係るモータは、前記往部及び前記復部の総本数は偶数であり、前記往部及び前記復部の各々が、同じ前記スロットを通って同じ前記ティースに掛けられているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の例示的な一の側面に係るモータによれば、均圧線の導線にはコイル等と同じ導線が用いられるので、均圧線の容量を確保することができる。さらには、短絡電流の発生が抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1A図1Bは、ブラシ数と均圧線の容量との関係を説明するための図である。
図2図2は、本実施形態のモータの概略断面図である。
図3図3は、図2におけるI−I線での概略断面図である。
図4図4は、バックカバーを外し、図2における矢印II方向から見た概略平面図である。
図5図5は、ティース等とセグメントとの位置関係を示す図である。
図6図6は、巻線構造の一例を表した概念図である。
図7図7Aは、図6の(1)の部分の巻回順序を示す図である。図7Bは、図6の(6)の部分の巻回順序を示す図である。
図8図8は、第1の巻線構造を説明するための図である。
図9図9は、第2の巻線構造を説明するための図である。
図10図10は、実施例1の均圧線の基本構成を示す図である。
図11図11は、実施例2の均圧線の基本構成を示す図である。
図12図12は、比較例の均圧線の基本構成を示す図である。
図13図13は、確認試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0020】
(モータの構成)
図2乃至図4に、本実施形態のモータを示す。このモータは、DCモータであり、シャフト1、アーマチュア2、マグネット3、コミュテータ4、ブラシ5及びハウジング6などで構成されている。これらのシャフト1等の部品は、ハウジング6に収容されている。アーマチュア2とコミュテータ4とにわたる部分には、導線12で構成された巻線構造50が配置されている。
【0021】
巻線構造50は、コイル10を構成するコイル巻線51や、コイル10とセグメント15との間を接続する引出線52を含む。さらに巻線構造50は、2つのコイル10の間を接続する渡り線53と、2つのセグメント15の間を接続する均圧線54とを含む。巻線構造50、特に均圧線54の詳細については別途後述する。
【0022】
図2に示すように、ハウジング6は、一端が開口する略円筒状のケース6aと、ケース6aの開口を塞ぐバックカバー6bと、を含む。これらケース6a及びバックカバー6bの各々における軸方向側の中央部分には、軸受部7a、7bが設けられている。軸受部7aには軸孔が開口している。
【0023】
シャフト1は、軸受部7a,7bを介してハウジング6に回転自在に支持されている。それにより、シャフト1は回転軸Jを中心に回転する。シャフト1の一端部分は、軸孔を通ってハウジング6の外側に突出している。シャフト1には、アーマチュア2やコミュテータ4が固定されている。
【0024】
なお、説明では、回転軸Jが延びる方向を軸方向、回転軸Jに直交する方向又は略直交する方向を半径方向、回転軸Jの回りの方向を周方向とする。
【0025】
図3にも示すように、アーマチュア2は、アーマチュアコア2aと、コイル10と、絶縁性のインシュレータ(不図示)と、を含む。アーマチュアコア2aは金属板を軸方向に積層して形成されている。インシュレータは、アーマチュアコア2aに取り付けられ、アーマチュアコア2aと導線12とを絶縁している。
【0026】
アーマチュアコア2aは、シャフト1の軸方向の中間部分に固定されたセンターコア8を含む。さらにアーマチュアコア2aは、センターコア8から半径方向外側に略等間隔で放射状に張り出す複数のティース9を含む。その結果、互いに隣接する2つのティース9の間には、軸方向に延びるスロット11が形成されている。従って、アーマチュアコア2aは複数のスロット11を含む。なお、本実施形態では、ティース9の個数及びスロット11の個数は、それぞれ12個である。
【0027】
コイル10は、ティース9ごとに導線12を巻回する、所謂集中巻により形成されている。この導線12の部位がコイル巻線51に相当する。具体的には、対象のティース9の周方向の両側に位置する各スロット11に導線12を通しながら、各ティース9の回りに導線12を巻回することによってコイル10が形成されている。従って、アーマチュア2は、複数のコイル10を含む。本実施形態では、コイル10の個数は、12個である。
【0028】
マグネット3は、アーマチュア2の周囲に円環状に配置されている。マグネット3は、ケース6aの内周面に固定され、アーマチュア2の外周面と僅かな隙間を隔てて対向している。マグネット3は、複数のN極と複数のS極からなる磁極3aを含む。本実施形態では、磁極数は8つである。各磁極3aは、周方向において、N極及びS極が交互に設けられるように、配置されている。従って、マグネット3には、N極及びS極からなる極対3bが複数設けられている。本実施形態では、極対数は4つである。なお、マグネット3は複数のマグネットで構成してもよい。また、マグネット3は1個の磁性体を分極して構成してもよい。
【0029】
コミュテータ4は、アーマチュア2に隣接してシャフト1の他端部分に固定されている。コミュテータ4は、その外周面に複数のセグメント15を含む。本実施形態では、セグメント15の個数は、24個であり、セグメント15の個数は、前記スロット11の個数の2倍である。セグメント15は軸方向に長い帯板状の金属部材である。各セグメント15は、互いに絶縁された状態で周方向に連続して配置されている。
【0030】
各セグメント15のアーマチュア2側の端部には、フック部15aが設けられている。これらフック部15aに、コイル10から引き出された導線12が引っ掛けられる。フック部15aに引っ掛けられた導線12を溶接することにより、各セグメント15はコイル10と電気的に接続される。
【0031】
図4に示すように、ブラシ5は、ブラシプレート16に取り付けられている。ブラシプレート16は円盤状の部材である。ブラシプレート16は、バックカバー6bの内面と軸方向に対向した状態でハウジング6内に配置されている。ブラシプレート16の中央部分には、コミュテータ4の外径より大径の環状孔16aが開口している。丸孔16aの内側にはコミュテータ4が配置されている。
【0032】
ブラシ5は、2個の正極ブラシ5aと2個の負極ブラシ5bとで構成されている。各ブラシ5a,5bは、接続端子17を介して制御装置(不図示)等と接続されている。各ブラシ5a,5bは、コミュテータ4の周囲に配置されている。各ブラシ5a,5bは、半径方向外側からスプリング5cによってコミュテータ4側へ押し付けられている。
【0033】
従って、各ブラシ5a,5bは、いずれかのセグメント15と常時接触している。コミュテータ4の回転に伴い、各ブラシ5a,5bは各セグメント15と周期的に摺接する。その結果、制御装置等から、ブラシ5及びセグメント15、巻線構造50を介して、所定のコイル10に所定の順序で周期的に電流が供給される。
【0034】
(巻線構造)
巻線構造50は、1本の導線12を用いて形成されている。つまり、コイル巻線51と、引出線52と、渡り線53と、均圧線54と、は連続した1本の導線である。具体的には、専用の巻線装置により、導線12を所定のセグメント15のフック部15aに引っ掛けながら導線12と所定のセグメント15とを電気的に接続する。その後、導線12を所定のティース9に巻回して巻線構造50が形成されている。すなわち、1本の導線12によって複数のコイル10が形成される。これらコイル10の間に、コイル10とセグメント15との間を接続する引出線52や、2つのコイル10の間を接続する渡り線53、2つのセグメント15の間を接続する均圧線54が存在している。
【0035】
このように、1本の導線12を連続的に巻回して巻線構造50を形成することで巻線作業が容易になり、生産性が向上する。
【0036】
図5に示すティース9とセグメント15との配置に基づき、巻線構造50について詳しく説明する。説明に際し、便宜上、図5に示すように、各ティース9に番号を付してコイル10等を区別する。
【0037】
各ティース9は、所定のティース9から時計回り(CW)に1〜12の番号を順に付して区別する。同様に、各コイル10も、そのコイル10が形成されているティース9と同じ番号により区別する。また、各セグメント15は、1番の番号を付したティース9の近傍の所定のセグメント15からティース9と同じ時計回り(CW)に1〜24の番号を順に付して区別する。
【0038】
図6に、巻線構造50の一例を表した概念図を示す。図6の(1)〜(6)は、1番のセグメント15から巻き初めて7番のセグメント15で巻き終わる巻線構造50を簡略化して表したものである。図7Aは、図6における(1)の部分の巻回順序を示している。図7Bは、図6における(6)の部分の巻回順序を示している。
【0039】
図6図7Aに示すように、1番のセグメント15を巻き始め端とした導線12は、まず、12番のティース9と1番のティース9の間のスロット11を通して、ティース9におけるコミュテータ4とは反対側(以下、ティース9側と称する)に導出される。続いて、導線12は、1番、2番、3番のティース9を跨いで、3番のティース9と4番のティース9の間のスロット11を通して、ティース9におけるコミュテータ4側に導出される。導出された導線12は7番のセグメント15に引っ掛けられる。これにより、1番のセグメント15と7番のセグメント15とは短絡する。この間の導線12の部位は、均圧線54の往部54aを構成している。
【0040】
7番のセグメント15に引っ掛けられた導線12は、4番のティース9と5番のティース9の間のスロット11を通ってティース9側に導出される。続いて、導線12は、4番、3番、2番のティース9を跨いで、2番のティース9と1番のティース9の間のスロット11を通ってコミュテータ4側に導出される。導出された導線12は、再び1番のセグメント15に引っ掛けられる。これにより、1番のセグメント15と7番のセグメント15とは短絡する。この間の導線12の部位もまた、均圧線54の復部54bを構成している。
【0041】
次に、1番のセグメント15に引っ掛けられた導線12は、ティース9側に導出される。この部位が引出線52に相当する。その後、導線12が、12番のティース9と1番のティース9の間のスロット11を通って、1番のティース9に巻回されることにより、コイル10が形成される。このコイル10は、ティース9の先端側から見て時計回り(CW)に形成されている。
【0042】
そして、導線12が1番のティース9に所定回数巻回された後、1番のティース9と2番のティース9の間のスロット11を通ってコミュテータ4側に導出された導線12は、2番、3番のティース9を跨いで、4番のティース9に渡される。従って、この間の導線12の部位は渡り線53を構成している。
【0043】
続いて、導線12は、3番のティース9と4番のティース9の間のスロット11を通って4番のティース9に巻回されることで、コイル10が形成される。このコイル10も、ティース9の先端側から見て時計回り(CW)に形成されている。そして、導線12が4番のティース9に所定回数巻回された後、4番のティース9と5番のティース9の間のスロット11を通ってコミュテータ4側に導出された導線12は、8番のセグメント15に引っ掛けられる。
【0044】
8番のセグメント15に引っ掛けられた導線12は、3番のティース9と4番のティース9の間のスロット11を通してティース9側に導出される。続いて、導線12は、4番、5番、6番のティース9を跨いで、6番のティース9と7番のティース9の間のスロット11を通されてコミュテータ4側に導出される。導出された導線12は14番のセグメント15に引っ掛けられる。これにより、8番のセグメント15と14番のセグメント15とは短絡する。この間の導線12の部位は均圧線54の往部54aを構成している。
【0045】
14番のセグメント15に引っ掛けられた導線12は、7番のティース9と8番のティース9の間のスロット11を通ってティース9側に導出される。続いて、導線12は、7番、6番、5番のティース9を跨いで、5番のティース9と4番のティース9の間のスロット11を通してコミュテータ4側に導出される。導出された導線12は、再び8番のセグメント15に引っ掛けられる。これにより、8番のセグメント15と14番のセグメント15とは短絡する。この間の導線12の部位もまた均圧線54の復部54bを構成している。
【0046】
次に、8番のセグメント15に引っ掛けられた導線12は、3番のティース9と4番のティース9の間のスロット11を通って3番のティース9に巻回されることにより、コイル10が形成される。このコイル10は、ティース9の先端側から見て反時計回り(CCW)に形成されている。
【0047】
そして、導線12が3番のティース9に所定回数巻回された後、導線12は、2番のティース9と3番のティース9の間のスロット11を通ってコミュテータ4側に導出される。その後導線12は、2番、1番のティース9を跨いで、12番のティース9に渡される。この間の導線12の部位は渡り線53を構成している。
【0048】
続いて、導線12は、1番のティース9と12番のティース9の間のスロット11を通って12番のティース9に巻回され、コイル10が形成される。このコイル10も、ティース9の先端側から見て反時計回り(CCW)に形成されている。そして、導線12が12番のティース9に所定回数巻回された後、11番のティース9と12番のティース9の間のスロット11を通ってコミュテータ4側に導出された導線12は、21番のセグメント15に引っ掛けられる。
【0049】
このように処理することで、図6における(1)の部分の巻線構造50が形成される。
【0050】
その後は同じ方法で処理され、図6における(2)〜(5)の部分の巻線構造50が形成される。すなわち、巻き始め端の1番のセグメント15が21番や17番、13番、9番のセグメント15に置き換わり、その他の各セグメント15や各ティース9もそれぞれ相対的に位置関係が置き換わるだけで、上述した図6における(1)の部分と同じ順序で導線12が巻回される。
【0051】
図6における(6)の部分は、巻き終わり端の処理が異なるだけで、その他は(1)等の部分と処理内容は同じである。具体的には、2番のティースに導線12が所定回数巻回され、反時計回りのコイル10が形成される。その後、導線12は、2番のティース9と3番のティース9の間のスロット11を通ってティース9側に導出される。導出された導線12は、3番、4番のティース9を跨いで、4番のティース9と5番のティース9の間のスロット11を通って再度コミュテータ4側に導出される。
【0052】
最後に、導出された導線12は、7番のセグメント15に引っ掛けられて巻き終わり端となる。
【0053】
こうして形成された巻線構造50の各ティース9には、2種類のコイル10が巻回されている。すなわち、ティース9の各々には、ティース9の先端側から見て、時計回り(CW)の要素コイル10aと、反時計回り(CCW)の要素コイル10bとの、互いに逆向きに巻回された2種類のコイル10が形成されている。このようにコイル10を構成することで、モータ性能を向上することができる。具体的には、スパークの発生が防止でき、モータ寿命を向上させることができる。
【0054】
この点詳しく説明すると、一般に、ブラシ付モータでは、回転するコミュテータに摺接するブラシを通じてアーマチュアに電流が供給され、モータが回転する。その際、ブラシとコミュテータとの間で火花放電、所謂スパークが発生するおそれがある。具体的には、ブラシと摺接するセグメントが切り替わる時、極短時間で電流の流れる方向が逆転するため、コイルのインダクタンスによって電流の急激な変化に比例した所謂サージ電圧が発生する。このサージ電圧等の作用により、スパークが発生する。スパークが発生すると、ブラシの寿命が短くなり、モータ寿命が低下する。
【0055】
それに対し、本実施形態のブラシ付モータでは、各コイル10が2種類の要素コイル10a,10bで構成されている。そして、正極ブラシ5a及び負極ブラシ5bを通じて、各要素コイル10a,10bに一定の周期で電流が供給され、各要素コイル10a,10bに供給される電流は同一の巻回方向に流れるように設定されている。
【0056】
更に、これら要素コイル10a,10bへの電流の供給タイミングがずれるように、正極ブラシ5a及び負極ブラシ5bが配置されている。各コイル10の要素コイル10a,10bへの電流の供給タイミングがずれていると、セグメント切り替わり時における電流の変化率が低下する。その結果、スパークの発生が効果的に抑制され、モータ寿命を向上させることができる。
【0057】
なお、1つのティース9に形成される複数種類のコイル10のそれぞれの巻回方向は、互いに同じ方向でも、供給する電流の流れを調整することで同様の効果を得ることができる。すなわち、巻線構造50は、1つのティース9に複数種類のコイル10が形成され、それぞれのコイル10を形成する導線12が、それぞれ異なるセグメント15に引っ掛けられている構造を有するものであれば足りる。
【0058】
更に、モータ性能を向上するために、均圧線54の配線が工夫されている。
【0059】
まず第1に、2つの同じセグメント15の間を接続する均圧線54が複数本で構成されている。具体的には、均圧線54は、2つの同じセグメント15の間を往復する往部54a及び復部54bを含む。これにより、コイル10等と同じ導線12を使用しても均圧線54の電流容量を確保することができるので、ブラシ数を少なくできる。なお、往部54a及び復部54bの総本数は必ずしも2本でなくてもよく、3本以上であってもよい。
【0060】
第2に、往部54a及び復部54bは、所定の条件下で配置されている。すなわち、スロット11の個数を極対3bの個数で除算して整数倍した値のうち、整数になる数値を拡張値とする。更に、この場合において、周方向に連続して並び、拡張値と等しい個数の一群のティース9を要素ティース群とする。そうしたとき、往部54aと復部54bとが、要素ティース群の両側に位置するスロットを通って要素ティース群を跨いで引き回されるように、往部54a及び復部54bは配置されている。この巻線構造50を、第1の巻線構造50と称する。
【0061】
例えば、8ポール10スロットのモータの場合であれば、スロット11の個数は10であり、極対3bの個数は4である。従って、スロット11の個数である10を、極対3bの個数である4で除算した値は2.5である。そして、2.5を整数倍した値のうち、整数になる数値は5、10等であるから拡張値は5の倍数となる。
【0062】
本実施形態では、スロット11の個数は12であり、極対3bの個数は4である。従って、スロット11の個数である12を、極対3bの個数である4で除算した値は3である。そして、3を整数倍した値のうち、整数になる数値は3,6等であるから拡張値は3の倍数となる。
【0063】
このように、スロット11の個数は、極対3bの個数の整数倍でない場合も、整数倍である場合もあるが、本実施形態のように、スロット11の個数は、極対3bの個数の整数倍であるのが好ましい。スロット11の個数が極対3bの個数で割り切れる結果、拡張値の最小値が小さくなり、効率的な巻線構造50が形成できる。
【0064】
そして、往部54aと復部54bとは、この拡張値と等しい個数で連続して並ぶ一群のティース9、所謂要素ティース群の周方向の両側に位置するスロット11を通って、これら一群のティース9を跨いで引き回される。なお、本実施形態であれば、拡張値と等しい個数は、3n個である。
【0065】
例えば、本実施形態であれば、図8に示すように、1つの極対3bは常に3個のティース9の部分と対向する関係になっており、モータが回転しても1つの極対3bと3個のティース9の部分の位置関係がずれるだけでその関係は変わらない。従って、要素ティース群を跨いで引き回される往部54aや復部54bの回路(コイル)は、常に極対3bの整数倍の部分と対向する。その結果、往部54aと復部54bの各回路には誘起電圧が発生しないため、往部54aと復部54bの各回路に短絡電流は流れない。従って、往部54aと復部54bとによって形成されるループ回路内において、循環する短絡電流が流れることがない。その結果、モータ性能が向上する。さらに、往部54aと復部54bの各回路に誘起電圧が発生しないため、ブラシを通して供給される電圧に対しても影響がない。その結果、モータ性能のロスが発生しない。
【0066】
往部54a及び復部54bは、同じ要素ティース群を跨いで引き回されてもよいが、本実施形態のように、異なる要素ティース群を跨いで引き回されるのが好ましい。そうすることで、フック部15aに対する導線12の引き込み方向と引き出し方向とが異なって、フック部15aへ導線12を引っ掛け易くなる。その結果、生産性が向上する。
【0067】
本実施形態であれば、図7Aに符号20で示すように、1番乃至3番の3つのティース9や、2番乃至4番の3つのティース9、4番乃至6番の3つのティース9、5番乃至7番の3つのティース9などで要素ティース群が形成されている。なお、往部54aと復部54bとで、要素ティース群を構成するティース9の個数は異なっていてもよい。
【0068】
しかしながら、モータの仕様等から上述した条件の下で均圧線54が配線できない場合もある。
【0069】
例えば、8ポール10スロットのモータであれば、5個や10個のティース9の一群を跨いで均圧線54を引き回せばよいが、例えば4個以下のティース9の一群を跨いで均圧線54を引き回したい場合がある。この場合、往部54a及び復部54bの総本数を偶数にするとともに、往部54a及び復部54bの各々が、同じスロット11を通って同じティース9の一群を跨いで引き回されるように配線するのが好ましい。この巻線構造50を、第2の巻線構造50と称する。
【0070】
この点、図9を参照して、8ポール10スロットのモータを例に説明する。この場合、1つの極対3bは常に2.5個分のティース9と対向する。従って、2個のティース9の一群を跨いで往部54aや復部54bを引き回す場合、1つの磁極対3bは、往部54aや復部54bによって形成される回路と部分的に対向する。さらに、3個や4個のティース9の一群を跨いで往部54aや復部54bを引き回す場合、往部54aや復部54bによって形成される回路は、1つの極対3bと部分的に対向する。その結果、モータの回転によって往部54aと復部54bの各回路に誘起電圧が発生する。
【0071】
従って、往部54aによって形成される回路と、復部54bによって形成される回路との間で、それぞれに発生した誘起電圧に位相のずれが生じると、往部54aと復部54bとによって形成されるループ回路内において、循環する短絡電流が発生してしまう。その結果、ブレーキ力が発生する。
【0072】
そこで、往部54aと復部54bとを、同じティース9の一群を跨いで引き回して往復する一対の回路にする。同じティース9の一群を跨いで引き回す経路であれば、往部54aと復部54bとが跨ぐティース9の個数は問わない。つまり、同じティース9の一群を跨いで引き回す経路であれば、往部54aと復部54bとが跨ぐティース9の個数は、1個以上であればよい。そうすることで、双方の回路に発生する誘起電圧は常に同位相になり、往部54aと復部54bとによって形成されるループ回路内において、循環する短絡電流が流れることがない。その結果、モータ性能が向上する。なお、このとき、均圧線54が複数回往復して同じティース9の一群を跨いで引き回され、往部54aと復部54bとがそれぞれ複数本形成されてもよい。
【0073】
(実施例)
上述した第1の巻線構造50(実施例1)と第2の巻線構造50(実施例2)に関し、その効果について確認試験を行った。
【0074】
実施例1は、上述した実施形態における第1の巻線構造の8ポール12スロットのモータである。その均圧線54の基本構成を図10に示す。実施例2は、上述した実施形態における第2の巻線構造の8ポール10スロットのモータである。実施例2では、2個のティースからなるティースの一群を跨いで往部54a及び復部54bをそれぞれ1本ずつ引き回した。その均圧線54の基本構成を図11に示す。比較例として、実施例2のモータにおいて、異なる経路を通して往部54a及び復部54bの回路を形成した場合についても実験を行った。その均圧線54の基本構成を図12に示す。
【0075】
実施例1等について、モータ効率とトルクとの関係についてまとめた確認試験の結果を図13に示す。図13において、1点鎖線が実施例1、破線が実施例2、実線が比較例である。
【0076】
実施例1及び実施例2は、いずれも比較例と比べてモータ効率の向上が認められた。中でも実施例1は、実施例2よりも全体的にモータ効率が高くなり、特に効果的であることが確認された。
【0077】
なお、本発明にかかるモータは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0078】
例えば、モータのコイルの巻線方式は集中巻に限らず、分布巻であってもよい。すなわち、複数のティース9にコイル巻線51を巻回することにより、コイル10が形成されていてもよい。また、巻線構造50は、1本の導線12を用いて形成されているが、複数本の導線12を用いて形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のモータは、例えば、車両に搭載されるモータに好適である。
【符号の説明】
【0080】
1 シャフト
2 アーマチュア
2a アーマチュアコア
3 マグネット
3a 磁極(N極、S極)
3b 極対
4 コミュテータ
5 ブラシ
6 ハウジング
9 ティース
10 コイル
11 スロット
15 セグメント
20 要素ティース群
50 巻線構造
51 コイル巻線
52 引出線
53 渡り線
54 均圧線
54a 往部
54b 復部
J 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13