(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、
エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、
前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され、
前記エンジン懸架ブラケットは車両側面視において、前記エンジンの一部とオーバラップし、
前記エンジン懸架ブラケットの内面は車両上面視において、前記エンジンのシリンダ及びシリンダヘッドとの隙間を有し、前記ラジエータで発生する熱を車体後方へ導風し、
前記エンジン懸架ブラケットの内面形状が、外方へ広がるように形成されていることを特徴とする自動二輪車のエンジン懸架構造。
前記エンジンと前記メインフレームを架設する前記エンジン懸架ブラケットの締付は、両箇所とも当該自動二輪車の車両側方から締付可能な位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のエンジン懸架構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来例ではエンジンブラケット9に曲げ部が存在しているために、そのままではエンジンブラケット9の縦剛性(軸力)が低減する。このためエンジンブラケット9の板厚増加、又は機械強度の高い材種を選択する必要があり、重量増加やコストアップの原因となる。
また、ラジエータがエンジンブラケット9に取り付けられているため、エンジン振動により共振する恐れがある。そのため十分な支持剛性を確保する必要上、エンジンブラケット9の増肉等により重量増加の原因となっている。
また、エンジンブラケット9の車体フレーム側の締付位置がラジエータに隠れているため、エンジンブラケット9を取り外すにはラジエータを取り外す必要があり、作業に手間がかからざるを得ない。
【0006】
本発明は上記問題点を鑑みて、作業性、軽量化及びコスト低減等を有効に実現する自動二輪車のエンジン懸架構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造は、ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され
、前記エンジン懸架ブラケットは車両側面視において、前記エンジンの一部とオーバラップし、前記エンジン懸架ブラケットの内面は車両上面視において、前記エンジンのシリンダ及びシリンダヘッドとの隙間を有し、前記ラジエータで発生する熱を車体後方へ導風し、前記エンジン懸架ブラケットの内面形状が、外方へ広がるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造において、前記エンジンと前記メインフレームを架設する前記エンジン懸架ブラケットの締付は、両箇所とも当該自動二輪車の車両側方から締付可能な位置に配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造において、
前記ラジエータは車両正面視において、前記エンジン懸架ブラケットと前記メインフレームの前方に設けた前記膨出部に囲まれていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造において、
前記エンジン懸架ブラケットは、車両前方に配置された前記ラジエータとオーバラップして配置可能であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造
は、ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され、前記ラジエータは車両正面視において、前記エンジン懸架ブラケットと前記メインフレームの前方に設けた前記膨出部に囲まれ
、前記エンジン懸架ブラケットは車両側面視において、前記エンジンの一部及びその前方の前記ラジエータとオーバラップし、前記エンジン懸架ブラケットの内面は車両上面視において、前記エンジンのシリンダ及びシリンダヘッドとの隙間を有し、前記ラジエータで発生する熱を車体後方へ導風するように形成されていることを特徴とする。
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造において、
前記エンジンと前記メインフレームを架設する前記エンジン懸架ブラケットの締付は、両箇所とも当該自動二輪車の車両側方から締付可能な位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造
は、ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付部位である前記懸架ボス部と前記メインフレーム側への取付部位である前記膨出部のブラケット取付面のそれぞれ取付幅は略同一幅であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造
は、ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され、前記メインフレームに設けた前記ブラケット取付面は、車両正面視で車体中心線に対して上拡がりとなっていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造
は、ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され、前記エンジン懸架ブラケットは、前記メインフレーム側のブラケット取付面から前記クランクケース側の懸架ボス部まで上下に架け渡され、前記エンジン懸架ブラケット本体面は車体中心線と略平行に配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造
は、ヘッドパイプから後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレームと、前記メインフレームに溶着され後下方に向かって延びるピボットフレームで構成された車体フレームを有し、前記メインフレームの下方にエンジンが搭載されると共に、前記エンジンの車両前方にラジエータ及びオイルクーラを含む熱交換器を装備した自動二輪車において、エンジンを保持締結するための垂下部が、前記メインフレームの前部と中央部の前後2箇所に設定され、前部の前記垂下部は前記メインフレームに対して別体に形成され且つ着脱可能な構造のエンジン懸架ブラケットで構成され、前記エンジン懸架ブラケットの前記エンジン側への取付は、クランクケース又はシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、前記車体フレーム側への取付は、前記メインフレームの膨出部の先端に一体的に設けたブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結され、前記ラジエータの上端部は、前記メインフレームの前記膨出部に一体的に配置された上方取付部に対して、前記ラジエータの下端部は、前記オイルクーラの所定部位に対してそれぞれボルト締結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エンジン懸架ブラケットは着脱構造となっており、その締付は車両側方から締付可能な位置に設定されている。エンジン懸架ブラケット単独で交換であり、メンテナンス性を向上する。また、エンジン懸架ブラケットはエンジンやラジエータ等とオーバラップして配置され、車両の軽量化やコンパクト化を有効に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造における好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明の適用例としての自動二輪車100の概略構成を示す側面図である。先ず、
図1を用いて、自動二輪車100の全体構成について説明する。なお、
図1を含め、以下の説明で用いる図においては、必要に応じて車両の前方を矢印Frにより、車両の後方を矢印Rrにより示し、また、車両の側方右側を矢印Rにより、車両の側方左側を矢印Lにより示す。
【0019】
図1において、自動二輪車100は鋼製あるいはアルミニウム合金材でなる車体フレーム10を有し、この車体フレーム10によってエンジンを始めとする構成部材もしくは部品を支持する。車体フレーム10の前部には、ステアリングヘッドパイプ101(
図2をも参照)によって左右に回動可能に支持された左右2本のフロントフォーク102が設けられる。フロントフォーク102の上端にはステアリングブラケットを介してハンドルバー103が固定される。フロントフォーク102の下部には前輪104が回転可能に支持されると共に、前輪104の上部を覆うようにフロントフェンダ105が取り付けられる。
【0020】
ここで、
図2に示すように車体フレーム10は、ステアリングヘッドパイプ101の後部に一体的に結合し、後方に向けて左右一対で二又状に分岐し、ステアリングヘッドパイプ101から後下方に拡幅しながら延設されるメインフレーム11と、メインフレーム11に溶着されて後下方に延設されるピボットフレーム12とからなる所謂、ツインスパータイプのフレームとして構成される。メインフレーム11及びピボットフレーム12は相互に結合し、全体として内側にスペースが形成された立体的構造を有し、そのスペース内方において車体フレーム10の下方に後述するエンジンが搭載される。なお、ピボットフレーム12には後述のピボット軸106が設定される。
【0021】
車体フレーム10のピボットフレーム12の上下方向中程にはピボット軸106を介して、スイングアーム107が上下方向に揺動可能に結合する。スイングアーム107の後端には後輪108が回転可能に支持される。車体フレーム10とスイングアーム107の間にはリヤショックアブソーバ109が装架されるが、特にリヤショックアブソーバ109の下端側はリンク機構110を介して車体フレーム10及びスイングアーム107の双方に連結される。後輪108にはドリブンスプロケットが軸着し、
図2を参照してエンジン側のドライブスプロケット111と後輪108のドリブンスプロケットの間に動力伝達用チェーン112が巻回される。エンジン動力はチェーン112を介して、ドライブスプロケット111からドリブンスプロケットへ伝達され、これにより後輪108を回転駆動する。後輪108の直近周囲にはその前上部付近を覆うリヤフェンダ113が設けられる。
【0022】
また、車体フレーム10の後部付近から後輪108の上方にかけて、後上りに適度に傾斜して図示しないシートレールが後方へ延出し、このシートレールによってシート(着座シート)114が支持される。シート114の前側にはタンクカバー115によって覆われる燃料タンク(図示せず)が搭載される。
【0023】
車両外装において、車両の主に前部及び左右両側部はそれぞれカウリング(以下、単にカウルという)、この例ではアッパカウル116、ボディカウル117及びアンダカウル118が一体化して車両前部を覆うと共に、車両両側部がサイドカウル119によって覆われる。また、車両後部ではシート114まわりにシートカウル120が被着する。
【0024】
自動二輪車100の略車両中央部において、
図2に示されるように車体フレーム10によってエンジン121が搭載される。エンジン121は本実施形態では水冷式多気筒の4サイクルガソリンエンジンを使用する。
図2において、エンジン121は気筒が左右(車幅方向)に並設された並列多気筒エンジンとし、左右に水平支持されるクランクシャフト122を収容するクランクケース123の上方にシリンダ124、シリンダヘッド125及びシリンダヘッドカバー126が順次重なるように一体的に結合し、またクランクケース123の下部にはオイルパン127が付設される。なお、エンジン121のシリンダ軸線Zは前方に適度に傾斜して配置される。かかるエンジン121は複数のエンジンマウント(エンジン懸架部)を介して懸架されることで車体フレーム10の内側に一体的に結合支持され、それ自体で車体フレーム10の剛性部材として作用する。
【0025】
また、クランクケース123の後部にはトランスミッションケース128が一体的に形成され、このトランスミッションケース128内には図示しないカウンタシャフトや複数のトランスミッションギヤが配設される。エンジン121の動力はクランクシャフト122からトランスミッションを経て最終的に、その出力端であるドライブスプロケット111へ伝達され、このドライブスプロケット111が前述のように動力伝達用チェーン112を介して後輪108(
図1)を回転駆動する。
【0026】
なお、クランクケース123とトランスミッションケース128は相互に一体的に結合し、全体としてエンジン121を含むエンジンユニットのケーシングアセンブリを構成する。このケーシングアセンブリの適所にはエンジン始動用のスタータモータやクラッチ装置等を始めとする複数の補機類が搭載もしくは結合し、これらを含めたエンジンユニット全体が車体フレーム10によって支持される。
【0027】
エンジン121には更に、エアクリーナ及び燃料供給装置からそれぞれ供給される空気(吸気)及び燃料でなる混合気を供給する吸気系、燃焼後の排気ガスをエンジン121から排出する排気系、エンジン121を冷却する冷却系及びエンジン121の可動部を潤滑する潤滑系、更にはそれらを作動制御する制御系(ECU;Engine Control Unit)が付属する。制御系の制御により複数の機能系が上述の補機類等と協働し、これによりエンジンユニット全体として円滑作動が遂行される。
【0028】
各機能系について、
図2では詳細図示等を省略して説明すると、先ず吸気系において各気筒ともシリンダヘッド125の後側に吸気口(インテークポート)が開口し、この吸気口に吸気管(インテークパイプ)を介してスロットルボディが接続される。スロットルボディにはその内部に形成されている吸気流路もしくは通路を、アクセル開度に応じて開閉するスロットルバルブが装着され、エアクリーナ129から送給されてくる空気の流量が制御される。この例では各気筒のスロットルバルブ軸が同軸に配置され、このスロットルバルブ軸を機械式又は電気もしくは電磁式に駆動するバルブ駆動機構を有する。
【0029】
一方、各スロットルボディにはスロットルバルブの下流側に燃料噴射用のインジェクタが配置され、これらのインジェクタに対して燃料ポンプによって燃料タンク内の燃料が供給される。この場合、各インジェクタはその上側にて車幅方向に横架されたデリバリパイプと接続され、燃料ポンプに接続されたデリバリパイプから燃料が配給されるようになっている。各インジェクタは上述の制御系の制御により所定タイミングでスロットルボディ内の吸気流路に燃料を噴射し、これにより各気筒のシリンダ124に対して所定空燃比の混合気が供給される。
【0030】
次に、排気系において各気筒ともシリンダヘッド125の前側にて排気口(エキゾーストポート)が開口し、この排気口に排気管(エキゾーストパイプ)が接続される。各気筒の排気管は排気口から一旦下方へ延出して、クランクケース123の下側で合流して一体化する。排気管は後方へ延出して、その後端にはマフラが取り付けられる。
【0031】
また、冷却系において、シリンダ124を含むシリンダブロックの周囲には冷却水が循環するように形成されたウォータジャケットが構成される。このウォータジャケットに送給される冷却水を冷却する熱交換器であるラジエータ130を装備する。この例ではラジエータ130は後述のように正面視で概略横長の矩形(長方形)形状を呈し、
図2に示されるようにステアリングヘッドパイプ101の下部付近からクランクケース123の前方付近まで、後方に適度に傾斜して延設配置される。エンジン121のシリンダブロックは正面視でラジエータ130によって略覆われる。なお、ラジエータ130は後述のように車体フレーム10等を利用して、それらの適所に支持される。
【0032】
更に、エンジンユニットの可動部に潤滑油を供給して、それらを潤滑するための潤滑系が構成される。この潤滑系には、なお同様に詳細図示を省略するが、クランクシャフト122やシリンダヘッド125内に構成される動弁装置、そしてそれらを連結するカムチェーン、トランスミッション等々が含まれる。本実施形態において潤滑系に対して、通常のオイルポンプを使用するが、このオイルポンプによりオイルパン127から吸い上げた潤滑油を潤滑系に送給する。オイルポンプにより潤滑系に供給される潤滑油を冷却するための熱交換器であるオイルクーラ131を有し、このオイルクーラ131は
図2及び
図3のようにラジエータ130の下方にて、複数のステー132,133によって支持される。なお、これらのステー132,133はクランクケース123側に結合されている。
【0033】
次に、本発明のエンジン懸架構造を具体的に説明する。前述のように車体フレーム10は、ステアリングヘッドパイプ101から後方に向かって拡幅しながら延出する左右一対のメインフレーム11と、メインフレーム11に溶着され後方下方に向かって延びるピボットフレーム12で構成され、このうちメインフレーム11にはエンジン121を保持締結するための垂下部が設けられる。
図4及び
図5に示されるようにメインフレーム11の前部に車幅方向外側に膨出部13を設け、この膨出部13に垂下部を設定可能とする。
【0034】
膨出部13は、
図4及び
図5のように一対のメインフレーム11の肩部付近で左右外側方へ延出する小翼型形状を呈し、前後方向に沿った縦断面形状として翼に近似した断面形状を有する。膨出部13とメインフレーム11は相互に滑らかな曲面で連続するように形成され、両者は一体成形される。エンジン121を保持締結するための垂下部として、メインフレーム11においてその前部に設定される前垂下部14と、その中央部に設定される後垂下部15とを有する。これら前後2箇所の前垂下部14及び後垂下部15はメインフレーム11から下方へ延設され、
図2のようにエンジン121を垂下支持、即ち懸架する。なお、
図2に示される車両左側の場合と同様に車両右側においても前後2箇所の垂下部を有する。
【0035】
メインフレーム11の膨出部13は、前垂下部14と連接された位置に設けられる。本発明では特に前垂下部14は別体のエンジン懸架ブラケット16で構成され、このエンジン懸架ブラケット16が膨出部13に取り付けられる。前垂下部14、即ちエンジン懸架ブラケット16は
図2のように車両側面視で概して上下方向に長い矩形状を呈し、その下端にエンジン121を懸架するための前下懸架部17を有する。なお、本例ではエンジン懸架ブラケット16を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で製作することができる。また、後垂下部15は車両側面視で概略逆三角形状(あるいは所謂、逆さ富士の形態)を呈し、その下端にエンジン121を懸架するための前上懸架部18を有する。
【0036】
エンジン懸架ブラケット16のエンジン121側への取付は、クランクケース123又はシリンダ124を含むシリンダブロックに一体的に設けた懸架ボス部に対して、ボルトによる締結により行われる。本例では
図6を参照して、シリンダ124を含むシリンダブロックの前側下部付近の左右端部に懸架ボス部134が前方へ突出するように設けられ、この懸架ボス部134に対して左又は右外側からエンジン懸架ブラケット16の前下懸架部17を宛がって、ボルト135を左又は右外側から懸架ボス部134に螺合させることによって締着する。このようにエンジン懸架ブラケット16のエンジン121側へ締付は、車両側方から締付可能な位置に設定されている。
【0037】
なお、この図示例では懸架ボス部134をシリンダブロックに設けたが、懸架ボス部134は前述のエンジンユニットのケーシングアセンブリの前下部にて前方へ突出するように設けることもでき、同様に前下懸架部17が締着される。
また、エンジン懸架ブラケット16の車体フレーム10側への取付は、メインフレーム11の膨出部13の先端に一体的に設けた、後述するブラケット取付面に対してそれぞれボルトで締結することにより行われる。
【0038】
図2等に示されるようにピボットフレーム12の上部にエンジン121を懸架するための後上懸架部19を有し、ピボットフレーム12の下部には後下懸架部20を有する。ピボットフレーム12の後上懸架部19はケーシングアセンブリの後上部に対してボルトを介して締着し、後下懸架部20は該ケーシングアセンブリの後下部に対してボルトを介して締着し、それぞれエンジン121を懸架する。このように本例ではエンジン121の左右それぞれにおいて4箇所のエンジンマウントが設定される。
【0039】
エンジン懸架ブラケット16の車体フレーム10側への取付は
図3及び
図4に示されるように、メインフレーム11の膨出部13の先端に一体的に設けたブラケット取付面21に対して左又は右外側から、ボルト22による締結によって取り付けられる。この場合、エンジン懸架ブラケット16の上端部16aは、ブラケット取付面21と実質的に同形状の内側面を有すると共に、略前後方向に複数(本例では5個)のボルト挿通孔23が形成される。膨出部13にはボルト22が螺合するネジ穴(雌ネジ)24が形成されている。このようにエンジン懸架ブラケット16の車体フレーム10側へ締付は、車両側方から締付可能な位置に設定されている。エンジン懸架ブラケット16の上端部16aを膨出部13に締着する際は、両者間の位置決めを行うためのノックピン25が打設され、これによりエンジン懸架ブラケット16を膨出部13、即ちメインフレーム11に対して位置精度よく取付固定することができる。
【0040】
上記のように取り付けられたエンジン懸架ブラケット16は
図4等に示すように、上端部16a側が前方に偏倚するように適度に前傾姿勢で配置される。また、
図5に示されるように膨出部13の外側に位置して、メインフレーム11の左右最大幅を形成する。このように取り付けられたエンジン懸架ブラケット16は
図1に示されるように、ボディカウル117に形成された空気排出孔117aに沿うように対応配置され、自動二輪車100の外観意匠の一部を構成する。
【0041】
また、エンジン懸架ブラケット16は
図2に示されるように車両側面視において、エンジン121の一部(シリンダ124、シリンダヘッド125あるいはシリンダヘッドカバー126のそれぞれ一部)とオーバラップしている。
この場合更に、エンジン懸架ブラケット16は
図2に示されるように、その車両前方に配置されたラジエータ130とオーバラップして配置可能である。エンジン懸架ブラケット16の前部側が、
図2の車両側面視でラジエータ130の後面側とオーバラップする。
【0042】
次に、
図7(車両上面視)及び
図8(車両正面視)を参照してエンジン懸架ブラケット16の内面16bは、エンジン121のシリンダ124及びシリンダヘッド125との間に隙間Gを有し、ラジエータ130で発生する熱風を隙間Gを介して、車体後方へ導風する(
図7、矢印P)ことができる。左右のエンジン懸架ブラケット16の内面16bの形状としては、後方へ向けて左又は右側外方へ広がるように形成される。
【0043】
また、
図3に示されるようにラジエータ130は車両正面視において、エンジン懸架ブラケット16とメインフレーム11の前方に設けた膨出部13に囲まれている。
この場合、ラジエータ130は上下でメインフレーム11等に取り付けられるが、その具体的な取付構造において、
図4を参照してラジエータ130の上方取付部26がブラケット取付面21よりも上方で、その内側に膨出部13と一体的に形成される。左右の膨出部13における上方取付部26は、左側又は右側に取付端面を持つボス状に突出形成されており、例えば
図3に示されるようにラジエータ130の左右上端部に付設したブラケット130a(
図3では右側のもののみが図示されている)がボルト27によって上方取付部26に締着される。また、ラジエータ130の左右下端部には、
図2に示されるようにブラケット130b(左側)が付設されており、このブラケット130bを介してオイルクーラ131の上端部適所に締着されるようになっている。
【0044】
また、
図8に示すようにエンジン懸架ブラケット16のエンジン121側への取付部位である懸架ボス部134の取付幅W
1と、エンジン懸架ブラケット16のメインフレーム11側への取付部位である膨出部13のブラケット取付面21の取付幅W
2は、略同一幅である。
エンジン懸架ブラケット16は、メインフレーム11側のブラケット取付面21からシリンダブロック(又はクランクケース123)側の懸架ボス部134まで上下に架け渡され、エンジン懸架ブラケット16本体面は車体中心線X(
図9参照)と略平行に配置されている。
【0045】
更に、メインフレーム11の膨出部13に設けたブラケット取付面21は
図9に示されるように、車両正面視で車体中心線Xに対して上拡がりとなっている。つまり左右のブラケット取付面21の延長線Yは、
図9において逆ハの字形状をなすように形成される。なお、このように形成されたブラケット取付面21に対応して、左右のエンジン懸架ブラケット16の上端部16aの内側面も上拡がりとなるが、エンジン懸架ブラケット16本体自体は車体中心線Xに対して実質的に平行であり、即ち上下方向に沿って支持される。
【0046】
ここで、
図10に示されるように膨出部13からエンジン懸架ブラケット16を取り外すことで、エンジン121の側方が開放され、これによりシリンダ124あるいはシリンダヘッド125に容易にアクセス可能となる。このようにエンジン懸架ブラケット16を取り外してシリンダブロックまわりのメンテナンス作業等を行うことができる。
【0047】
本発明による自動二輪車のエンジン懸架構造は上記のように構成されており、次に本発明における主要な作用効果等について説明する。エンジン懸架ブラケット16のエンジン121側への取付は、クランクケース123(又はシリンダ124を含むシリンダブロック)に一体的に設けた懸架ボス部134に対して、ボルト135による締結により行われ、車体フレーム10側への取付は、メインフレーム11の膨出部13に設けたブラケット取付面21に対してそれぞれボルト22で締結される。
このようにエンジン懸架ブラケット16は着脱構造となっているので、転倒時等により損傷した場合、エンジン懸架ブラケット16のみの交換で対応できる。つまり車体フレーム10側の交換は不要であり、交換費用等のユーザ負担が少なくて済む。
【0048】
かかるエンジン懸架ブラケット16はボディカウル117まわりにおいてカウリングの一部を兼ねた意匠面となっており、特徴のあるデザインとなっている。つまりエンジン懸架ブラケット16は単に剛性部材として機能するだけでなく、車両の外観意匠を構成する上で極めて優れた機能を発揮する。
【0049】
また、エンジン懸架ブラケット16のエンジン121側及び車体フレーム10側へ締付は共に、車両側方から締付可能な位置に設定されている。
このようにエンジン懸架ブラケット16を車体側方から締付可能な位置に配置することで、エンジン121、ラジエータ130及び配管類を取り付けた最終工程で、エンジン懸架ブラケット16を車両側方から組付可能となり、組付作業性等を格段に向上することができる。
【0050】
また、エンジン懸架ブラケット16は
図2に示されるように車両側面視において、エンジン121の一部、即ちシリンダ124あるいはシリンダヘッド125等とオーバラップしている。
エンジン懸架ブラケット16をこのようにオーバラップさせることで、その前方に配置したラジエータ130等の部品を車両前後方向で間隔を詰めて配置できる。これにより車両のホイールベースの短縮化、車両の軽量化、コンパクト化に寄与する。
【0051】
また、エンジン懸架ブラケット16の内面16bは、シリンダ124及びシリンダヘッド125との間に隙間Gを有し、また内面16bは後方へ向けて左又は右側外方へ広がるように形成される。
エンジン部品であるシリンダ124及びシリンダヘッド125等とエンジン懸架ブラケット16との適正隙間Gにより、流通風に対する整流効果が向上し、ラジエータ130を通過した熱風の排出効率が大幅に改善される。この場合、エンジン懸架ブラケット16の内面16bの形状が外方へ広がるような翼形状となっているので、より整流効果の向上を助長し熱風の排出効率が向上する。
【0052】
また、ラジエータ130は車両正面視において、エンジン懸架ブラケット16とメインフレーム11の前方に設けた膨出部13に囲まれている。
これによりラジエータ130の通過風が、その左右をエンジン懸架ブラケット16により、またその上面を翼型形状部である膨出部13に囲まれることにより、整流効果が向上し一段と熱風の排出効率が向上する。
【0053】
また、エンジン懸架ブラケット16は
図2に示されるように、その車両前方に配置されたラジエータ130とオーバラップして配置可能である。
このようにエンジン121及びラジエータ130の幅よりも車幅方向で広い位置にエンジン懸架ブラケット16が配置されているため、カウリングのデザイン形状に合わせて、エンジン懸架ブラケット16の前後方向への移動が可能である。これによりデザインの自由度が拡大する等の利点がある。
【0054】
また、エンジン懸架ブラケット16のエンジン121側への取付部位である懸架ボス部134の取付幅W
1と、メインフレーム11側への取付部位である膨出部13のブラケット取付面21の取付幅W
2は、略同一幅である。このようにエンジン懸架ブラケット16の上下の取付幅を略同一にすることで、エンジン懸架ブラケット16本体自体は車体中心線X(
図9)に対して平行にすることで、ラジエータ130の通過風が左右のエンジン懸架ブラケット16を抵抗なく通過できる構造を実現する。
【0055】
この場合、エンジン懸架ブラケット16を車体中心線Xと略平行で直線的に配置することで、縦荷重及び捩り荷重がエンジン懸架ブラケット16の軸力方向に働くため、耐力が向上する。また、車体フレーム10の縦剛性及び捩り剛性を確保しつつ、車体フレーム10の軽量化と、エンジン懸架ブラケット16の薄肉化(特に車体全幅方向を短縮する点)や軽量化、更にはコスト低減を図ることができる。また、エンジン懸架ブラケット16を有することで、車体フレーム10の横剛性(変形量)が低減できるので、車体フレーム10の横剛性値を効果的に調整できるため、深いコーナリングでの操縦性及び安定性が向上する。
【0056】
また、エンジン懸架ブラケット16を取り付けるためのブラケット取付面21は、上拡がりに傾斜して形成され(
図9)、締結用のボルト22にかかるせん断荷重を分担することができる。これによりボルト22の本数を削減することができると共に、そのサイズを小さくすることができるため、コストダウン及び軽量化を図ることができる。
【0057】
また、ラジエータ130の上端部は、膨出部13上面に一体的に配置された上方取付部26に、その下端部は下方に配置されたオイルクーラ131にボルト締結されている。
これによりエンジン懸架ブラケット16はラジエータ130を取り外すことなく着脱できる、つまりエンジン懸架ブラケット16を単独で取外し可能とし、これによりメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0058】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
車体フレーム10として典型的なツインスパーフレームの例で説明したが、所謂ダイヤモンドフレームの一部やボックスフレームの場合でも本発明を適用可能である。また、ボルト22の本数等は必要に応じて適宜増減することができる。