特許第5928691号(P5928691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 村田機械株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000002
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000003
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000004
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000005
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000006
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000007
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000008
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000009
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000010
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000011
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000012
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000013
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000014
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000015
  • 特許5928691-吸引チャック及び移載装置 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928691
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】吸引チャック及び移載装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20160519BHJP
   B65G 49/07 20060101ALI20160519BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   B25J15/06 Z
   B65G49/07 H
   H01L21/68 C
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-10480(P2012-10480)
(22)【出願日】2012年1月20日
(65)【公開番号】特開2013-146837(P2013-146837A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】中西 秀明
(72)【発明者】
【氏名】高嶌 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀年
【審査官】 木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−067689(JP,A)
【文献】 特開2010−264579(JP,A)
【文献】 米国特許第05687766(US,A)
【文献】 特開2011−219250(JP,A)
【文献】 特開2010−253658(JP,A)
【文献】 特開2011−060849(JP,A)
【文献】 米国特許第03782791(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
B65G 49/07
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄い平板状のワークを吸引して非接触状態で保持する吸引チャックであって、
圧縮気体の流路が内部に形成された平板状の本体と、
前記本体の前記ワークに対向する側の面である対向面と、
前記流路から供給される圧縮気体を噴出するために前記対向面に開口する複数の噴出口と、
前記噴出口の周囲において前記対向面に開口するとともに前記本体を厚み方向で貫通するように形成された複数の排気孔と、
を備え、
各噴出口は、前記噴出口の直径に比して浅い円柱状の空間として形成されるとともに、当該空間の内部に臨んで開口するノズル流路を3つ備え、各ノズル流路は前記円柱状の空間の内壁に沿う向きに圧縮気体を噴出し、
前記3つのノズル流路の前記開口は、前記噴出口の周方向で均等間隔に形成され、
前記噴出口の最近傍の排気孔は、当該噴出口を中心とした同心円上に少なくとも3つ形成され、
前記噴出口の最近傍の排気孔は、前記同心円上で均等間隔に形成されることを特徴とする吸引チャック。
【請求項2】
請求項1に記載の吸引チャックであって、
前記ノズル流路の長手方向は、前記対向面に対して平行に形成されていることを特徴とする吸引チャック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の吸引チャックであって、
任意の噴出口の内部空間における当該噴出口の軸線周りでの圧縮気体の流れ方向が、当該噴出口の最近傍に形成された他の噴出口とは逆方向となるように、前記ノズル流路が形成されることを特徴とする吸引チャック。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の吸引チャックと、
前記吸引チャックを所定範囲内で3次元的に移動させることが可能なパラレルメカニズムと、
を備えることを特徴とする移載装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ワークを非接触で吸引保持して搬送するための吸引チャックの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池ウエハや燃料電池セル、あるいは二次電池の電極又はセパレータ等の薄い平板状のワーク(薄板ワーク)を移載するために、ベルヌーイ効果を利用するベルヌーイチャックを採用した非接触搬送装置が従来から提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の非接触搬送装置は、中空円柱状に形成された旋回流形成体(吸引要素)の内部に空気を噴出し、当該旋回流形成体の内部に旋回流を形成するように構成されている。旋回流は旋回流形成体から高速流となって流出するので、当該旋回流形成体の端面と、被搬送物(ウエハ)との間は負圧になる。これにより、被搬送物を非接触で吸引保持する構成である。特許文献1は、旋回流形成体の内部に吹き込んだ空気は、そのまま内周面に沿って整流されて旋回流となるので、通路抵抗を殆ど受けることなくスムーズに旋回流となすことができ、エネルギ効率を向上させて省エネ化を実現できるとしている。
【0004】
ところで、薄板状のワーク(被搬送物)を吸引して保持する移載装置においては、ワークに対してなるべく均一に吸引力(負圧)を作用させることが好ましい。ワークに作用する吸引力にムラがある場合、当該ワークに振動、変形が発生し得るためである。この観点からすれば、吸引力を発生させるための吸引要素を可能な限り小型化し、単位面積あたりに配置される吸引要素の数を増やすことが好ましいと考えられる。
【0005】
この点、特許文献1に記載の非接触搬送装置は、中空円柱状に形成された旋回流形成体(吸引要素)に、流体導入口、流体通路、噴出口等を形成する構成であるため、当該旋回流形成体を小型化することは困難であると考えられる。従って、単位面積あたりに配置される旋回流形成体の数を増やすことも困難である。また、特許文献1は、板状に薄く構成された非接触搬送装置の基体に複数の凹部と流体通路を形成し、凹部の内部空間に旋回流を発生させる構成も開示している。しかし、これは2本の腕部に凹部を配置する構成であるから、ワークに対して作用する吸引力は二本の腕部の部分にのみ発生する。従って、この構成では、ワークの全面に均一に吸引力を作用させることはできない。
【0006】
そこで本願出願人は、特願2011−94215として、図11及び図12に示すような吸引チャック9を提案している。これは、金属製のプレートを積層して構成された平板状の吸引チャック本体に、ワークに直接対向する対向面31を形成するとともに、当該対向面31に開口する複数の空気噴出口(吸引要素)41をアレイ状に並べて形成したものである。吸引チャック9の本体の内部には、空気噴出口41の内部に圧縮空気を噴出するノズル流路44が形成されている。図11及び図12に示すように、ノズル流路44は、1つの空気噴出口41に対して2本形成されている。2本のノズル流路44は、互いに位相を180°異ならせるようにして、前記空気噴出口41の内壁に開口して形成されている。このノズル流路44から空気を噴出することにより、空気噴出口41の内壁面に沿って空気を流すことができる。空気噴出口41の内壁面に沿って流れた空気は、当該空気噴出口41から高速で流出し、これにより吸引力を発生させる。
【0007】
空気噴出口41、ノズル流路44等は、前記金属製のプレートに対するエッチング、又は打ち抜きなどの方法により形成することができ、小型化、密集化が容易である。例えば図11の吸引チャック9では、空気噴出口41の直径を例えば3mmとしている。このように空気噴出口41を極めて小さく形成することができるので、単位面積あたりに配置される吸引要素(空気噴出口41)の数を多くすることができる。そして図11に示すように、上記空気噴出口41を多数並べてアレイ状に形成することにより、ワークの全面に対して吸引力を均一に作用させることができ、当該ワークの振動及び変形を防止することができる。
【0008】
また、図11に示す吸引チャック9には、空気を排出するための複数の排気孔42が、対向面31に開口して形成されている。この排気孔42は、吸引チャック9の本体を厚み方向で貫通するように形成されている。空気噴出口41から噴出した空気は、排気孔42を介して排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3981241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで特許文献1が開示する非接触搬送装置では、吸引要素(旋回流形成体)の周囲は空間となっている。この構成では、吸引要素から噴出した空気は、前記空間に向けて速やかに排出される。従って、特許文献1の構成では、吸引要素から噴出した空気の流れが停滞することはあまり考えられない。
【0011】
一方、図11に示した比較例の吸引チャック9において、各空気噴出口41から噴出した空気は、排気孔42まで流れて、当該排気孔42から排出される。ここで、もし空気噴出口41から排気孔42まで空気がスムーズに流れない場合、流速が低下して、吸引力の低下が発生し得る。従って、図11の構成の吸引チャック9では、空気噴出口41から排気孔42まで、空気をスムーズに流すことが重要となる。
【0012】
本願発明者らは以上の観点に基づき、実験とコンピュータシミュレーションによる解析を繰り返した結果、以下のような課題を見出した。
【0013】
まず、図11に示した比較例の吸引チャック9の空気噴出口41から噴出する空気の流跡をコンピュータシミュレーションによって求めた結果を、図13に示す。このコンピュータシミュレーションは、空気噴出口41の直径を3mmに設定して求めたものである。なお、図13中におけるΔZは、吸引チャック9の対向面31とワークとの間隔を示している。ワークに対して吸引チャック9が近づくにつれ、空気の流れが変化していることがわかる。ΔZ=0.1mmとなった状態が最も安定した状態であり、この状態で、ワークが吸引チャック9に吸引保持される。
【0014】
特許文献1が開示するところによると、当該特許文献1の構成が備える旋回流形成体の内部に吹き込んだ空気は、そのまま内周面に沿って整流されて旋回流を発生させる。ところが、図13のコンピュータシミュレーションの結果から明らかになったように、比較例の吸引チャック9では、ノズル流路44から噴出した空気が、空気噴出口41内で殆ど旋回することなく外部に噴出している。これは、比較例の吸引チャック9(図11)は空気噴出口41を極めて小さく形成(直径3mm)しているため、当該空気噴出口41の内部で空気流の旋回成分が極めて少なく、空気流が十分に旋回しないためであると考えられる。空気噴出口41の内部で空気が十分に旋回しない場合、ノズル流路44から噴出された空気は、殆ど分散せずに空気噴出口41から流出する。この結果、空気噴出口41からの空気の噴出方向は特定の方向に集中することになる。図13に示した比較例の吸引チャックの場合は、各空気噴出口41に2本のノズル流路44が設けられているので、当該空気噴出口41から流出する空気の方向は2方向に集中している。
【0015】
図13の比較例(a)に示すように、空気噴出口41から2方向に噴出した空気は、大きく迂回するような流跡を描いて、排気孔42まで流れている。図13の比較例(a)の場合は、特に、ΔZ=0.3mm、及びΔZ=0.2mmの場合に空気が大きく迂回して流れていることが分かる。また、ΔZ=0.2mm、及びΔZ=0.1mmのときには、大きなループ状の流れが発生しており、空気の流れが停滞していることがわかる。
【0016】
このように、本願発明者らが行ったシミュレーションにより、図11の比較例の吸引チャック9では、空気がスムーズに流れないことが明らかになった。空気がスムーズに流れないことにより、吸引力の低下が懸念される。そこで本願発明者らは、図13の比較例(a)に示す空気噴出口41周辺の圧力分布をコンピュータシミュレーションによって求めた。この結果を図14の比較例(a)に示す。図14に示すのは、ΔZ=0.1mmの状態(吸引チャック9に対してワークが吸引保持された状態)の圧力分布である。図14の色の濃淡は吸引力の大きさを示しており、色が濃い部分ほど反発力(斥力)が強い。また、色が薄い(白い)部分は吸引力を示しており、中間の灰色は大気圧(=吸引力ゼロ)を示している。なお、ノズル流路44の近傍は流速が最も速い部分であり、空気噴出口41内は噴流が円筒面に沿って旋回することで負圧が発生するので、この近辺は必ず吸引力となる。また、排気孔42は大気圧に連通しているので、この部分に発生する力は略ゼロである。従って、空気噴出口41及び排気孔42以外の領域(空気噴出口41の周囲の領域)の反発力の分布が問題となる。
【0017】
図14のシミュレーション結果から、空気噴出口41の周辺の反発力は不均一となっていることが分かる。なお、この比較例の吸引チャック9は、空気噴出口41自体が極めて小さく、この空気噴出口41をアレイ状に並べて形成したものであるから、特許文献1の構成と比べて吸引力と反発力とを細かいピッチで分布させて作用させることができる。従って、当該空気噴出口41の周辺で反発力が不均一であったとしても、吸引チャック9の全体としてみれば、特許文献1の構成に比べて均一な反発力をワークに作用させることができると言える。しかし、薄いウエハ状のワークを取り扱う場合には、空気噴出口41の周辺における偏った反発力の分布が、ワークの変形又は振動などを発生させる懸念がある。従って、このような微細な反発力の不均一であっても、改善する余地がある。
【0018】
本願発明者らは、上記のように反発力が偏る要因は、空気噴出口41から排気孔42まで空気がスムーズに流れず、当該空気が停滞しているためであると考えた。このような空気の停滞は、排気孔42の位置を最適化することにより改善できると考えられる。排気孔42の位置を最適化したときのコンピュータシミュレーションの結果を、図13に比較例(b)、及び図14に比較例(b)として示す。
【0019】
コンピュータシミュレーションの結果から分かるように、排気孔42の位置を最適化することにより(比較例(b))、最適化前(比較例(a))と比べて空気の流れが若干スムーズになるとともに、反発力の偏りも若干改善されている。しかし、図13の比較例(b)から分かるように、排気孔の位置を最適化したとしても、空気のループ状の流れは残っており、空気の停滞を完全に解消することはできなかった。また、図14の比較例(b)からもわかるように、反発力の偏りを完全に解消することもできていない。
【0020】
また、実際の吸引チャック9においては、必ずしも排気孔42を最適な位置に形成できるとは限らないという問題もある。吸引チャック9の内部には、空気噴出口41に圧縮空気を供給するための流路を形成する必要があり、この流路を避けて排気孔42を形成しなければならないためである。また、排気孔42を最適な位置に形成しようとした場合、吸引チャック9の設計自由度が低下するので、例えば任意の位置にセンサを配置するなどの自由な設計が難しくなる。
【0021】
このように、排気孔42の位置を最適化するという発想では、空気噴出口41周辺の反発力の偏りを解消することが不十分、或いは不可能である。従って、空気噴出口41周辺の反発力を効果的に均一化できる構成が求められる。
【0022】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、排気孔の位置にかかわらず、空気をスムーズに流して反発力の偏りを解消した吸引チャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0023】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0024】
本発明の観点によれば、薄い平板状のワークを吸引して非接触状態で保持する吸引チャックの以下の構成が提供される。即ち、この吸引チャックは、平板状の本体と、対向面と、複数の噴出口と、複数の排気孔と、を備える。前記本体の内部には、圧縮気体の流路が形成される。前記対向面は、前記本体の前記ワークに対向する側の面である。前記噴出口は、前記流路から供給される圧縮気体を噴出するために前記対向面に開口する。前記排気孔は、前記噴出口の周囲において前記対向面に開口するとともに、前記本体を厚み方向で貫通するように形成される。各噴出口は、前記噴出口の直径に比して浅い円柱状の空間として形成されるとともに、当該空間の内部に臨んで開口するノズル流路を3つ備え、各ノズル流路は前記円柱状の空間の内壁に沿う向きに圧縮気体を噴出する。前記3つのノズル流路の前記開口は、前記噴出口の周方向で均等間隔に形成される。前記噴出口の最近傍の排気孔は、当該噴出口を中心とした同心円上に少なくとも3つ形成される。前記噴出口の最近傍の排気孔は、前記同心円上で均等間隔に形成される。
【0025】
このように、等間隔に開口する3つのノズル流路から噴出口内に圧縮気体を供給することにより、当該噴出口から噴出する圧縮気体3方向に均一に分散させることができる。圧縮気体の流れが3方向に分散されているため、排気孔の位置が圧縮空気の流れに与える影響が小さくなり、結果として排気孔を自由に配置できるようになり設計自由度が向上する。また圧縮空気の流れが分散するために圧力分布が均一化されるので、ワークの振動及び変形を防止することができる。また、ノズル流路の数を増やしたことにより、ノズル流路1つあたりの圧縮気体の流量が減少するので、空気の噴出によってワークが受ける衝撃を減少させることができる。また、噴出口から3方向に分散されて噴出する圧縮気体を、排気孔からスムーズに排気することができる。更に、圧縮気体を均等に分散させて排気孔まで流すことができるので、噴出口周囲の圧力分布を更に均等化することができる。
【0028】
上記の吸引チャックにおいて、前記ノズル流路の長手方向は、前記対向面に対して平行に形成されることが好ましい。
【0029】
これにより、噴出口から噴出する圧縮気体を、対向面に沿ってスムーズに流すことができる。
【0034】
上記の吸引チャックにおいては、任意の噴出口の内部空間における当該噴出口の軸線周りでの圧縮気体の流れ方向が、当該噴出口の最近傍に形成された他の噴出口とは逆方向となるように前記ノズル流路が形成されていることが好ましい
【0035】
これにより、噴出口内で旋回するように圧縮気体が流れることによって発生するトルクを打ち消し、吸引チャックに吸引保持されたワークの回転を抑えることができる。更に、流れ方向が時計回りの噴出口の個数と、流れ方向が反時計回り(逆方向)の噴出口の個数とが同数とすれば、ワークの回転中心に対する各吸引要素が発生する回転モーメントの総和がゼロとなり、より効果的に吸引チャックに吸引保持されたワークの回転を抑えることができる。更に、吸引チャックに吸引保持されたワークの側面に接触して回転を阻止する一つ以上の規制部材を吸引チャックの周囲に設けても構わない。
【0036】
また、本発明の別の観点によれば、上記の吸引チャックと、前記吸引チャックを所定範囲内で3次元的に移動させることが可能なパラレルメカニズムと、を備える移載装置が提供される。
【0037】
即ち、パラレルメカニズムにより、吸引チャックで吸引保持したワークを三次元的に自在に移動させることができる。本願発明の吸引チャックによれば、薄い平板状のワークを、振動や変形を抑えて吸引保持することができるので、上記の移載装置は、ワークの変形や破損等を防止しつつ当該ワークを任意の位置まで移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態に係る吸引チャックを備えた移載ロボットの斜視図。
図2】吸引チャックの下面側(対向面)を主に示す斜視図。
図3】吸引チャックの模式的な断面図。
図4】ノズル流路の様子を透過的に示す斜視図。
図5】吸引チャックの対向面を示す平面図。
図6】空気噴出口から空気が吹き出す様子を示す平面図。
図7】(a)実施形態の吸引チャックにおける空気の流跡をコンピュータシミュレーションで求めた結果を示す図。(b)排気孔の位置を変更して同様のシミュレーションを行った結果を示す図。
図8】(a)実施形態の吸引チャックにおける圧力分布をコンピュータシミュレーションで求めた結果を示す図。(b)排気孔の位置を変更して同様のシミュレーションを行った結果を示す図。
図9】吸引チャックの空気流量及び吸引力の関係を実験により測定した結果を示す図。
図10】吸引チャックに吸引されたワークの変形量を実験により測定した結果を示す図。
図11】比較例の吸引チャックの平面図。
図12】比較例の吸引チャックのノズル流路の様子を透過的に示す斜視図。
図13】(a)比較例の吸引チャックにおける空気の流跡をコンピュータシミュレーションで求めた結果を示す図。(b)排気孔の位置を変更して同様のシミュレーションを行った結果を示す図。
図14】(a)比較例の吸引チャックにおける圧力分布をコンピュータシミュレーションで求めた結果を示す図。(b)排気孔の位置を変更して同様のシミュレーションを行った結果を示す図。
図15】本発明の吸引チャックの変形例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る吸引チャック10を備えた移載ロボット(移載装置)1を示す斜視図である。
【0040】
この移載ロボット1は、いわゆるパラレルメカニズムロボットとして構成されている。具体的には、この移載ロボットは、ベース部101と、3本のアーム106と、3つの電動モータ104と、1つのエンドプレート114と、を備えている。
【0041】
ベース部101の下面には被取付面P1が形成されている。一方、移載ロボット1を取り付けるための図略のフレーム上面は、水平な上向きの取付面とされる。この構成で、ベース部101の被取付面P1を前記フレームの取付面に固定することで、移載ロボット1を吊下げ状に設置できるようになっている。
【0042】
ベース部101の下面側には、当該ベース部101の平面視での中央部を中心として、周方向で等間隔となるように3つ並べて電動モータ104が固定されている。各電動モータ104は減速機付きであり、その出力軸(即ち、減速機の出力軸)には、それぞれ前記アーム106の基端部が固定されている。
【0043】
各アーム106の途中部分にはボールジョイントからなる関節部110が設けられており、この関節部110において当該アーム106が屈曲自在となっている。3本のアーム106の先端は、1つのエンドプレート114に接続されている。また、ベース部101には、モータ軸を下向きに設置されたモータ32が固定されている。このモータ32のモータ軸と、エンドプレート114とは、前記モータ軸の回転をエンドプレート114まで伝達可能な旋回軸33によって接続されている。
【0044】
以上のようにパラレルメカニズムが構成されており、移載ロボット1は、3つの電動モータ104を適宜制御することにより、アーム106のストロークの範囲内で、エンドプレート114を三次元的に自在に移動させることができるようになっている。
【0045】
エンドプレート114の下面には、本実施形態に係る吸引チャック(ベルヌーイチャック)10が取り付けられている。これにより、本実施形態の移載ロボット1は、吸引チャック10を、アーム106のストロークの範囲内で3次元的に移動させることができる。後に詳しく説明するが、吸引チャック10は、圧縮空気(圧縮気体)を供給することにより、その下面と、ワーク90(図3参照)の前記下面に対向する面と、の間に吸引力を発生させ、当該ワークを非接触で吸引保持することが可能な装置である。
【0046】
本実施形態の移載ロボット1は、吸引チャック10に圧縮空気を供給してワーク90を吸引保持し、その状態で電動モータ104を適宜制御してエンドプレート114(及びワーク90を吸引した状態の吸引チャック10)を所望の位置まで移動させる。また、この移載ロボット1は、前記モータ32を適宜駆動することにより、吸引チャック10を旋回させ、当該吸引チャック10に吸引保持されたワーク90を略水平面内で回転させることができる。ついで移載ロボット1は、吸引チャック10に対する圧縮空気の供給を遮断してワーク90の吸引保持を解除することにより、当該ワーク90を所望の位置に載置する。以上のように、本実施形態の移載ロボット1は、吸引チャック10によってワーク90を吸引保持し、所望の位置まで移動させることができる。
【0047】
本実施形態の移載ロボット1が取り扱うワーク90としては、薄い平板状に形成された、特に矩形のものを想定している。ワーク90の例としては、太陽電池ウエハ、燃料電池のセル、二次電池の電極、セパレータ、シリコンウエハ等を挙げることができるが、これらに限られない。
【0048】
続いて、本実施形態の吸引チャック10の構成について詳しく説明する。
【0049】
図2に示すように、吸引チャック10は、全体的に平板状に構成された本体11を備えている。図3に示すように、本体11の下面は、ワーク90に直接対向することが可能な対向面31となっている。この対向面31は、吸引チャック10の厚み方向に垂直な矩形状(直角4辺形状)の平坦な面として構成されている。図2に示すように、吸引チャック10の対向面31には、空気を噴出する空気噴出口41、及び空気を排出するための排気孔42が複数並んでアレイ状に形成されている。
【0050】
図3に示すように、吸引チャック10の本体11は、複数のプレートが厚み方向に積み重ねられて構成されている。具体的には、本体11は、ワーク90に近い側(下側)から順に、表面プレート25と、ノズルプレート26と、接続プレート27と、分配プレート28と、を備えている。表面プレート25の下面が、前記対向面31を構成している。
【0051】
前記空気噴出口41は円柱状の空間であり、表面プレート25及びノズルプレート26を厚み方向で貫通する丸孔として形成されている。なお、空気噴出口41は、接続プレート27及び分配プレート28には形成されていない。即ち、吸引チャック10の厚み方向で、空気噴出口41の一側の端部(上側の端部)は、接続プレート27によって封止されている。一方、空気噴出口41の他側の端部(下側の端部)は、表面プレート25の下面(対向面31)に開口している。
【0052】
図3に示すように、ノズルプレート26には、空気噴出口41に連通するノズル流路44が形成されている。このノズル流路44は、具体的には、ノズルプレート26に形成された細長いスリットとして構成されている。図4及び図5に示すように、このノズル流路44は、その長手方向が空気噴出口41の接線方向と略一致するように形成されているとともに、当該長手方向の一端側が空気噴出口41の内側の空間に接続するように構成されている。
【0053】
本実施形態においては、1つの空気噴出口41に対して、3つノズル流路44が形成されている。図5に示すように、3つのノズル流路44は、空気噴出口41の中心軸線を中心として互いに120°位相を異ならせるように形成されている。従って、3つのノズル流路44は、空気噴出口41の内周壁に対して、当該空気噴出口41の周方向で等間隔に開口している。また、このノズル流路44の長手方向は、対向面31に対して平行となるように形成されている。なお図示の都合上、図3の断面図には、同一断面内に2つのノズル流路44が対向してあるように描かれているが、これは説明のための模式図であって、実際にこのようにノズル流路44が形成されている訳ではない。
【0054】
図3から図5に示すように、ノズル流路44の長手方向で空気噴出口41の反対側の端部は、圧縮空気供給ポート35に接続している。これにより、空気噴出口41と圧縮空気供給ポート35が、ノズル流路44を介して連通している。図3に示すように、圧縮空気供給ポート35は、ノズルプレート26と接続プレート27を厚み方向で貫通する丸孔として形成されている。圧縮空気供給ポート35は、各ノズル流路44に対応して形成されている。つまり、1つの空気噴出口41に対して3つの圧縮空気供給ポート35が、ノズルプレート26及び接続プレート27に形成されている。
【0055】
図3に示すように、分配プレート28には、前記3つの圧縮空気供給ポート35に連通する分配路43が形成されている。この分配路43には、例えば継手71及び配管72、及び図略の電磁バルブを介して、適宜の圧縮空気源(例えばコンプレッサ)に接続されている。
【0056】
前記排気孔42は丸孔として構成されており、プレート25,26,27,28を厚み方向で貫通するように形成されている。即ち、排気孔42は、吸引チャック10の本体11を厚み方向で貫通するように形成されている。従って、吸引チャック10の厚み方向で、排気孔42の一側の端部は対向面31に開口しており、他側の端部は吸引チャック10の本体11の上面に開口している。
【0057】
図5に示すように、本実施形態において、各排気孔42は正三角形の頂点を構成する位置に等間隔で形成されている。また、各空気噴出口41は、3つの排気孔42によって形成された正三角形の重心に位置するように形成されている。これにより、各空気噴出口41の最近傍の3つの排気孔42が、当該空気噴出口41を中心とした同心円上に等間隔で配置されることになる。ただし、本体11の縁部近傍の空気噴出口41についてはこの限りではない。本体11の縁部には、排気孔42を形成できない箇所があるためである(図5参照)。
【0058】
上記4枚のプレート25〜28の材料としては、コスト等の観点から、金属を用いることが好ましい。プレート25〜28の材料の具体例としては、ステンレス、アルミニウム合金、又はチタン合金から選択されたものを挙げることができる。そして、4枚のプレート25〜28を全て重ねた状態で拡散接合することにより、吸引チャック10の本体が構成される。歪みが小さく寸法精度が良好な吸引チャック10を提供するためには、4枚のプレート25〜28の材料としては、全て同一のものを用いることが好ましい。これは、仮に異種金属を拡散接合する場合、接合後の残留歪みにより、たわみ等の変形が発生するおそれがあるためである。本実施形態では、4枚のプレート25〜28の材料として、何れもステンレスを用いている。
【0059】
なお、4枚のプレート25〜28に形成される空気噴出口41、ノズル流路44、圧縮空気供給ポート35、分配路43、排気孔42等については、例えばエッチングにより形成しても良いし、打抜き及びドリル等の機械加工で形成しても良い。エッチング等の加工方法を利用できるので、空気噴出口41、ノズル流路44等を、小さいサイズでアレイ状に並べて形成することが容易である。例えば本実施形態においては、空気噴出口41の直径を約3mmとしている。
【0060】
次に、上記のように構成された本実施形態の吸引チャック10の動作について、図3を参照して説明する。
【0061】
上記の構成の吸引チャック10によってワーク90を吸引保持するためには、圧縮空気源に接続された前記電磁弁を開き、分配路43に対する圧縮空気の供給を開始する。これにより、当該分配路43から3つの圧縮空気供給ポート35に圧縮空気が分配される。圧縮空気供給ポート35に供給された圧縮空気は、当該圧縮空気供給ポート35に連通するノズル流路44を通って流れ、当該ノズル流路44の端部から、空気噴出口41の内部に向けて噴出する。
【0062】
前述のように、各ノズル流路44は、その長手方向が空気噴出口41の接線方向に沿うように形成されているので、3つのノズル流路44から噴出した空気は、空気噴出口41の内周壁に沿って流れる(図6参照)。これにより、空気噴出口41の中を旋回するように空気が流れる(例えば図6では、空気噴出口41内において、反時計回り方向に空気が流れている)。ただし、本実施形態の吸引チャック10においては、空気噴出口41は直径3mmと極めて小さく、かつ直径に比して浅く形成されているので、空気噴出口41の内部において空気は完全には旋回しない。従って、ノズル流路44から空気噴出口41内に噴出した空気は、当該空気噴出口41内で若干方向を変えた程度で(図6)、当該空気噴出口41から噴出する。
【0063】
ここで、図3(a)のように、ワーク90が対向面31と大きく離れている場合、吸引チャック10とワーク90との間に吸引力は発生しない。
【0064】
しかし、図3(b)のようにワーク90に対して対向面31を近づけていくと、空気噴出口41から噴出した空気による負圧がワーク90に作用するようになる。対向面31とワーク90との距離が近くなるほど、対向面31とワーク90との間を流れる空気の流速が大きくなり、排気孔42を通じて上方へと排出される。これにより、空気噴出口41の内壁面に沿って進む空気流が対向面31へ排出される際に流速が増加し、空気噴出口41の内部圧力が低下する。このとき発生する負圧により、ワーク90が対向面31に吸い寄せられる。一方、ワーク90と対向面31の間には、空気噴出口41からの噴出空気により形成された空気層が存在するので、ワーク90は対向面31から引き離される方向の反発力を受ける。従って、ワーク90が対向面31に対して完全に吸い付いてしまうことはない。この吸引力と反発力のバランスにより、ワーク90が吸引チャック10に対して非接触で保持される。以上のように、空気噴出口41は、吸引チャック10においてワーク90を被接触で吸引保持する吸引要素として作用する。
【0065】
対向面31とワーク90との間を流れた空気は、排気孔42を介して、吸引チャック10の上方に排出される(図3(b)参照)。これにより、対向面31とワーク90の間に空気が滞留しないので、空気をスムーズに流すことができ、吸引力を効率良く作用させることができる。
【0066】
なお前述のように、ノズル流路44から空気噴出口41内に噴出した空気は、当該空気噴出口41の内周壁に沿って旋回するように流れるので、このときワーク90にトルクが作用する。そこで本実施形態の吸引チャック10では、図5に示すように、各空気噴出口41に圧縮空気を供給するノズル流路44の向きが、最近傍の他の空気噴出口41とは反対向きとなるように形成されている。即ち、最近傍に隣接する空気噴出口41同士で、その内部を空気が流れる方向が、時計回り、反時計回り、時計回り……と交互に並ぶように、各ノズル流路44が形成されている。これにより、旋回する空気によって発生するトルクを打ち消し、吸引チャック10に吸引保持されたワーク90が回転してしまうことを防ぐことができる。
【0067】
更に、流れ方向が時計回りの空気噴出口41の個数と、流れ方向が反時計回り(反対向き)の空気噴出口41の個数とを同数とすれば、各吸引要素が発生させるワーク90の回転中心の回転モーメントの総和がゼロとなり、より効果的に吸引チャック10に吸引保持されたワーク90の回転を抑えることができる。
【0068】
以上により、本実施形態の吸引チャック10はワーク90表面をその法線方向に非接触で吸引保持する。但し、上記構成のみでは、ワーク90表面に平行な方向(対向面31に平行な方向)では、ワーク90を保持することができない。従って、パラレルメカニズムなどの移載ロボットに吸引チャック10を取り付けてワーク90を搬送する場合には、ワーク90の横方向への移動を規制する規制部材が必要となる。そこで本実施形態の吸引チャック10の周辺部には、図略の規制部材が配置されている。なお、このような規制部材(ガイド部材)は、特願2011−94215の第0106段落に記載されている。
【0069】
例えば、吸引チャック10の縁部に、吸引チャック10を取り囲むように互いに間隔をあけて配置された複数のガイド部材を固定する。ガイド部材は、矩形に形成された吸引チャック10の各辺に2つずつ配置されるとともに、吸引チャック10を挟んで対向するように配置される。また、ガイド部材は、平板状に形成された吸引チャック10の厚み方向に垂直となるように配置され、その下端が吸引チャック10の下面(対向面31)より下方に突出する。これらのガイド部材は、吸引チャック10に保持されたワーク90が搬送される際に、吸引チャック10の下面(対向面31)に平行な向きにワーク90が相対移動しようとするのを規制する。
【0070】
続いて、本実施形態の吸引チャックによって得られる特異な効果について説明する。
【0071】
まず、本願発明者らは、本実施形態の吸引チャック10の効果を検証すべく、空気噴出口41からの空気の流れをコンピュータシミュレーションによって求めた。この結果を図7に示す。このシミュレーションにあたっては、ノズル流路44の等価水力直径×3が、図13のシミュレーションを行ったときの比較例の吸引チャック9のノズル流路44の等価水力直径×2と等しくなるように設定している。これにより、2つのノズル流路44を備えた比較例の吸引チャック9(図11)についてのシミュレーション結果(図13)と、3つのノズル流路44を備えた本実施形態の吸引チャック10についてのシミュレーション結果(図7)とを、同等の条件で比較することができる。なお、このように、ノズル流路44の等価水力直径を比較例の吸引チャック9と同等に設定した本実施形態の吸引チャック10を、タイプAと称することがある。なお、空気噴出口41の直径は3mmとしている。
【0072】
図7(a)に示すように、本実施形態の吸引チャック10においては、空気噴出口41から噴出した空気は、3方向に噴出している。つまり、2方向に集中して空気が噴出していた比較例の吸引チャック9(図13のシミュレーション結果)に比べて、空気噴出口41から分散して空気を噴出することができる。この結果、比較例の吸引チャック9のように空気が大きく迂回して流れるということが無くなり、図7(a)に示すように、空気噴出口41からの空気を排気孔42に向けてスムーズに流すことができるようになった。また、図13に示した比較例の吸引チャック9についてのシミュレーション結果に比べて、図7(a)に示した本実施形態の吸引チャックについてのシミュレーション結果では、空気のループ状の流跡が大きく減少しており、空気の停滞が少なくなっていることが分かる。特に、ワークを吸引保持した状態(ΔZ=0.1の状態)では、ループ状の流れがほぼ消滅している。つまり、本実施形態の吸引チャック10によれば、空気を停滞させずに、スムーズに流した状態でワーク90を吸引保持できることが明らかになった。
【0073】
次に、本願発明者らは、本実施形態の吸引チャック10によって発生する吸引力の均一性を検証すべく、空気噴出口41まわりの圧力分布をコンピュータシミュレーションによって求めた。この結果を図8に示す。なお、図8に示すのは、図7においてΔZ=0.1mmのとき(ワーク90を吸引保持した状態)の圧力分布である。図8(a)に示すように、本実施形態の吸引チャック10では空気噴出口41まわりの反発力の分布は均一であり、比較例の吸引チャック9(図14のシミュレーション結果)に比べるとその差は明らかである。即ち、本実施形態の吸引チャック10によれば、空気噴出口41から噴出する空気を3方向に分散させることができるため、2方向に集中して空気が噴出していた比較例の吸引チャック9に比べて、空気噴出口内部と縁部のごく近傍で発生する吸引力に対し、その周辺部で反発力を均一に作用させることができるのである。このように、本実施形態の吸引チャック10はワーク90に対して空気噴出口毎に吸引力とその周辺に略均等に分布した反発力とを一様に作用させることができるので、ワーク90の振動及び変形を低減する効果が期待できる。
【0074】
なお、上記図7(a)及び図8(a)のシミュレーション結果は、図6に示すように、空気噴出口41から3方向に空気が噴出する方向の先に、それぞれ排気孔42を形成した場合を想定したものである。このように、空気噴出口41から空気が噴出する方向の先に排気孔42を配置することで、空気噴出口41からの空気を、最もスムーズに流すことができる。しかしながら、常にこのような理想的な配置で排気孔42を形成できる訳ではない。そこで本願発明者らは、あえて空気噴出口41から流出する空気が流れにくいように排気孔42を配置して、上記と同様のコンピュータシミュレーションを行った。その結果を図7(b)及び図8(b)に示す。
【0075】
図7(b)に示すように、排気孔42の位置を変更することにより、空気の流れが若干変化し、例えばΔZ=0.3のときには若干のループ状の流れが発生している。しかし、ワークを吸引保持した状態(ΔZ=0.1の状態)では、ループ状の流れはほぼ消滅しており、空気が停滞せずにスムーズに流れていることが分かる。また、図8(b)に示すように、排気孔42の位置を変更した場合であっても、空気噴出口41まわりの圧力分布は均一となっており、排気孔42を理想的な位置に配置した場合(図8(a))と遜色無い結果が得られている。このように、本実施形態の吸引チャック10によれば、排気孔42の配置にかかわらず、空気をスムーズに流して圧力分布を均一化できることが確認された。
【0076】
この点、図11及び図12に示した比較例の吸引チャック9では、空気噴出口41からの空気が2方向に集中して噴出するため、排気孔42の位置によって空気の流れが大きく変化してしまう。このため、比較例の吸引チャック9では、排気孔42を自由に配置することができず、設計自由度が低かった。本実施形態の吸引チャック10は、空気噴出口41からの空気が3方向に分散して噴出するため、排気孔42の位置が変更されても空気の流れが大きく変化しない。即ち、排気孔42の位置を理想的な位置から変更しても、空気の流れは大きく変化しないので、理想的な状態と同様に空気をスムーズに流すことができ、反発力を均一に作用させることができる。従って、本実施形態の吸引チャック10の構成によれば、空気の流れを気にせずに排気孔42を自由に配置できるので、当該吸引チャック10の設計自由度を向上させることができる。
【0077】
続いて本願発明者らは、実際に図2に示すような吸引チャック10を試作し、ワークに対して作用する吸引力の大きさを、比較例の吸引チャック9(図11)と比較する実験を行った。この結果を図9に示す。図9において、横軸は吸引チャックに対して供給した空気の流量であり、縦軸は吸引チャック全体がワークに対して作用させる吸引力を示している。図9中で2ノズルと表示されているグラフが、比較例の吸引チャック9についての実験結果を示している。また、タイプA及びタイプBと表示されているグラフが、本実施形態の吸引チャック10(1つの空気噴出口に対してノズル流路を3本有する吸引チャック)についての実験結果を示している。
【0078】
なお、前述のように、タイプAの吸引チャックは、ノズル流路44の等価水力直径が、比較例の吸引チャック9と同等になるように設定している。一方、図9中でタイプBと表示された本実施形態の吸引チャックは、3本のノズル流路44の総断面積が、比較例の吸引チャック9の2本のノズル流路44の総断面積と等しくなるように設定したものである。また、この実験においては、本実施形態の吸引チャックと、比較例の吸引チャックとでなるべく条件を一致させるため、それぞれ空気噴出口41の径と数、及び排気孔42の総開口面積が略等しくなるように設定している。
【0079】
図9に示すように、本実施形態の吸引チャック10(タイプA及びタイプB)は、比較例の吸引チャック9に比較して、同一の空気流量における吸引力が向上している。本実施形態の吸引チャック10は、空気噴出口41から排気孔42までスムーズに空気を流すことができるようになった結果、少ない空気流量で効率良く吸引力を発生できるようになったためであると考えられる。このように、1つの空気噴出口41に対してノズル流路44を3本有する本実施形態の吸引チャック10は、1つの空気噴出口41に対してノズル流路44を2本有していた比較例の吸引チャック9に比べて、吸引効率が向上することが確認された。
【0080】
続いて本願発明者らは、実際に吸引チャックに薄板状のワーク90を吸引保持させ、当該ワーク90の変形量を測定する実験を行った。本実験で使用したワークは、対辺125mmの正方形で角部4箇所に8mm程度の角落とし部分が設けられたシリコンウエハであり、その対角線方向の長さは165mm程度で、その厚さは110μmのものである。この実験の結果を図10に示す。図10の横軸は、ワーク90の中心位置から、ワーク90の対角線方向(厚み方向に直交する方向)での距離を示す。また縦軸は、ワーク90の厚み方向で、当該ワーク90の各点の相対位置を示す。図10の縦軸の変動が大きいほど、ワーク90が対角線方向において大きく変形していることを示す。なお、この実験は、各吸引チャックがワーク90に対して作用させる吸引力が等しくなるように、各吸引チャックへ供給する空気流量を予め調整したうえで測定したものである。また、吸引力としては、移載ロボットによる移動時に発生する加速度とワークの自重とを勘案して、ワークを保持するのに必要十分な値に設定した。これにより、比較例の吸引チャック9と、本実施形態の吸引チャック10(タイプA及びタイプB)とを同等の条件で比較できる。
【0081】
図10に示すように、比較例の吸引チャック9で吸引保持されたワーク90が0.08mm以上変形しているのに対し、本実施形態の吸引チャック10(タイプA及びタイプB)で吸引保持されたワーク90の変形量は最大でも0.05mm程度である。このように、1つの空気噴出口41に対してノズル流路44を3本有する本実施形態の吸引チャック10によれば、比較例の吸引チャック9に比べてワーク90の変形量を低減できることが確認された。
【0082】
以上で説明したように、本実施形態の吸引チャック10は、平板状の本体11と、対向面31と、複数の空気噴出口41と、複数の排気孔42と、を備える。本体11の内部には、圧縮空気の流路が形成される。対向面31は、本体11のワーク90に対向する側の面である。空気噴出口41は、前記流路から供給される圧縮空気を噴出するために対向面31に開口する。排気孔42は、空気噴出口41の周囲において対向面31に開口するとともに、本体11を厚み方向で貫通するように形成される。各空気噴出口41は円柱状の空間として形成されるとともに、当該空間の内部に臨んで開口するノズル流路44を3つ備え、各ノズル流路44は前記円柱状の空間の内壁に沿う向きに圧縮気体を噴出する。
【0083】
このように、3つのノズル流路44から空気噴出口41内に圧縮空気を供給することにより、当該空気噴出口41から噴出する圧縮空気の流れは3方向に分散される。圧縮空気の流れが3方向に分散されているため、排気孔42の位置が圧縮空気の流れに与える影響が小さくなり、結果として排気孔42を自由に配置できるようになり設計自由度が向上する。また圧縮空気の流れが分散するために圧力分布が均一化されるので、ワーク90の振動及び変形を防止することができる。また、ノズル流路44の数を増やしたことにより、ノズル流路44の1つあたりの圧縮気体の流量が減少するので、空気の噴出によってワークが受ける衝撃を減少させることができる。
【0084】
また本実施形態の吸引チャック10において、3つのノズル流路44の前記開口は、空気噴出口41の周方向で均等間隔に形成されている。
【0085】
このように、等間隔に開口するノズル流路44から空気噴出口41内に圧縮空気を供給することにより、当該空気噴出口41から噴出する圧縮空気を3方向に均一に分散させることができる。
【0086】
また本実施形態の吸引チャック10において、ノズル流路44の長手方向は、対向面31に対して平行に形成されている。
【0087】
これにより、空気噴出口41から噴出する圧縮空気を、対向面31に沿ってスムーズに流すことができる。
【0088】
また本実施形態の吸引チャック10において、空気噴出口41の最近傍の排気孔42は、当該空気噴出口41を中心とした同心円上に3つ形成されている。
【0089】
これにより、空気噴出口41から3方向に分散されて噴出する圧縮空気を、3つの排気孔42からスムーズに排気することができる。
【0090】
また本実施形態の吸引チャック10において、空気噴出口41の最近傍の排気孔42は、前記同心円上で均等間隔に形成されている。
【0091】
これにより、圧縮空気を均等に分散させて排気孔42まで流すことができるので、空気噴出口41周囲の圧力分布を更に均等化することができる。
【0092】
また本実施形態の吸引チャックにおいては、任意の空気噴出口41の内部空間における当該空気噴出口41の軸線周りでの圧縮空気の流れ方向が、当該空気噴出口41の最近傍に形成された他の空気噴出口41とは逆方向となるように、ノズル流路44が形成されている。
【0093】
これにより、空気噴出口41内で旋回するように空気が流れることによって発生するトルクを打ち消し、吸引チャック10に吸引保持されたワーク90が回転してしまうことを防止できる。
【0094】
また、本実施形態の移載ロボット1は、上記の吸引チャック10と、吸引チャック10を所定範囲内で3次元的に移動させることが可能なパラレルメカニズムを備えている。
【0095】
即ち、パラレルメカニズムにより、吸引チャック10で吸引保持したワーク90を三次元的に自在に移動させることができる。本実施形態の吸引チャック10によれば、薄い平板状のワーク90を、振動や変形を抑えて吸引保持することができるので、移載ロボット1は、ワーク90の変形や破損等を防止しつつ当該ワーク90を任意の位置まで移動させることができる。
【0096】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0097】
吸引チャック10は、上記のようなパラレルメカニズム式の移載ロボット1に搭載することもできるが、これに限らず、例えばスカラアーム式の移載ロボットに適用することもできる。
【0098】
上記の実施形態では、吸引チャック10の対向面31の形状は矩形状であるが、これに限らず適宜の形状とすることができる。ただし、吸引チャック10の対向面31の形状は、取り扱うワーク90の形状と略合同形状とし、かつワークよりも若干大きいように構成すれば、ワーク90に対して吸引流を無駄なく均一に作用させることができるので好適である。
【0099】
対向面31に形成される空気噴出口41の数及び配置についても、ワーク90の重量及び大きさ等に応じて適宜変更することができる。
【0100】
なお、上記実施形態において、噴出口に供給する圧縮気体は空気としたが、例えば窒素などの他の気体を供給しても良いことは言うまでもない。
【0101】
上記実施形態では、1つ空気噴出口41の近傍には3つの排気孔42を配置する構成としたが、これに限らず、例えば図15のように、1つの空気噴出口41の周囲に4つの排気孔42を形成しても良い。その他、排気孔42の配置及び数については、自由に変更することができる。本願発明の吸引チャック10は、排気孔42をどのように配置したとしても、空気をスムーズに流すことができるという特異な効果があるためである。ただし、本願発明の吸引チャック10では1つ空気噴出口41から3方向に空気が噴出するので、1つ空気噴出口41の近傍に3つの排気孔42を配置する上記実施形態の構成が、空気を最もスムーズに流せるとともに当該空気の流れが乱れにくいために特に好適である。
【0102】
各ノズル流路44に空気を供給するための構成(圧縮空気供給ポート35、分配路43など)は、上記実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。要は、1つの空気噴出口41の内部空間に対して3方向から空気を吹き込むことができれば良いのであり、その詳細な構成は特に限定されない。
【符号の説明】
【0103】
1 移載ロボット(移載装置)
10 吸引チャック
11 本体
31 対向面
41 空気噴出口(噴出口)
42 貫通孔
44 ノズル流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図9
図10
図11
図12
図15
図7
図8
図13
図14