特許第5928701号(P5928701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社コロナの特許一覧

<>
  • 特許5928701-電動機駆動装置及び電力変換器 図000002
  • 特許5928701-電動機駆動装置及び電力変換器 図000003
  • 特許5928701-電動機駆動装置及び電力変換器 図000004
  • 特許5928701-電動機駆動装置及び電力変換器 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928701
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】電動機駆動装置及び電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20160519BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   H02P7/63 302J
   H02P7/63 302K
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-61328(P2012-61328)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-198231(P2013-198231A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000538
【氏名又は名称】株式会社コロナ
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(72)【発明者】
【氏名】大勝 幸次
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 豪
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−311646(JP,A)
【文献】 特開昭55−008211(JP,A)
【文献】 特開昭61−009193(JP,A)
【文献】 特開昭60−026484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流入力電源に接続される整流回路、平滑回路、インバータ、電動機、及びこの電動機を制御する制御部を備える電動機駆動装置であって、
前記交流入力電源と前記整流回路との間に直列に介在された交流リアクタを備え、
前記交流リアクタは複数個の単位交流リアクタが直列に接続されて構成され、
前記制御部は、前記インバータを停止させた場合であって、前記電動機の出力、回転速度、及びトルクの何れかを制御する目標設定値が大きいときに、前記目標設定値に対応して複数個の前記単位交流リアクタの何れか一つ又は複数を段階的に短絡させることを特徴とする電動機駆動装置。
【請求項2】
前記交流リアクタは、2つの単位交流リアクタが直列に接続されて構成され、
何れか一方の前記単位交流リアクタの両端を短絡させるスイッチを備え、
前記制御部は、前記スイッチを短絡させることを特徴とする請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記交流リアクタのリアクタンスを低下させ、前記目標設定値が小さいときに前記リアクタンスを大きくさせることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記電動機は、空気調和機のコンプレッサを回転させ、
前記制御部は、前記電動機の回転速度を制御し、
前記目標設定値は、目標回転速度値であり、
前記制御部は、
前記空気調和機が設置された部屋の室温とあらかじめ設定した設定温度との温度差の情報を取得する温度差情報取得手段と、
前記温度差情報取得手段が取得した前記温度差の情報に対応する前記目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段と、
前記コンプレッサの回転指示が入力されたときに、前記インバータを駆動させるインバータ駆動手段と、
前記インバータを駆動する前に、前記電動機の目標回転速度の設定値に対応して前記交流リアクタのリアクタンスを可変させるリアクタンス可変手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記目標回転速度設定手段は、前記温度差の情報と指示すべき前記電動機の目標回転速度とを対応付けたテーブルを備えていることを特徴とする請求項に記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記リアクタンス可変手段は、前記温度差が大のときに、直列に接続する前記単位交流リアクタの個数を減少させ、前記温度差が小のときに、直列に接続する前記単位交流リアクタの個数を増加させることを特徴とする請求項又は請求項に記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
前記交流リアクタは、単位交流リアクタが2個直列接続されており、
前記リアクタンス可変手段は、前記温度差が小のときに、前記単位交流リアクタを2個直列に介在させ、前記温度差が大のときに、何れか一方の前記単位交流リアクタを短絡させることを特徴とする請求項又は請求項に記載の電動機駆動装置。
【請求項8】
交流入力電源に接続される整流回路、平滑回路、インバータ、及びこのインバータを制御する制御部を備える電力変換器であって、
前記交流入力電源と前記整流回路との間に直列に介在された交流リアクタを備え、
前記交流リアクタは複数個の単位交流リアクタが直列に接続されて構成され、
前記制御部は、前記インバータを停止させた場合であって、前記インバータの出力電力を制御する目標設定値が大きいときに、前記交流リアクタのリアクタンスを低下させ、前記目標設定値が小さいときに前記目標設定値に対応して複数個の前記単位交流リアクタの何れか一つ又は複数を段階的に短絡させることを特徴とする電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気調和機は、商用交流電源に接続された整流回路、平滑回路、インバータ、モータ、及びコンプレッサ等で構成されている。この様な構成では、インバータに印加される直流電圧は一定であり、変えることができない。つまり、従来の直流電源(整流回路、平滑回路)は、その直流電圧が一定であるため、負荷が軽く、低い直流電圧で足りる場合でも高い直流電圧がインバータに印加され、インバータのスイッチング素子で不必要なロスが生じていた。したがって、インバータは負荷に応じた最適な効率でモータを駆動制御することはできない。
【0003】
このような不具合を解消するための方法として、例えば、特許文献1に記載の電源装置は、切替手段により、商用交流電源と整流回路との間に直列に接続された交流リアクタのリアクタンス値を可変可能な技術を開示している。この技術によれば、負荷が軽いときは、商用交流電源と整流回路との間に2個の交流リアクタを接続してリアクタンス値を増加させ、インバータに印加される直流電圧を降下させる。一方、負荷が重いときは、商用交流電源と整流回路との間の交流リアクタを1個にしてリアクタンス値を減少させ、インバータに印加される直流電圧を上昇させている。
このように、前記特許文献1に記載の電源装置は、交流リアクタのリアクタンス値を切り替えることにより、インバータに印加される直流電圧を上昇又は降下させ、インバータによるモータの駆動制御の最適化を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−295759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の電源装置は、電源を投入し、電源立ち上り期間、所定の安定運転を経た後、インバータの動作中に、リアクタンス値を可変させるために、交流リアクタの1個又は2個の個数の切り替えを瞬間的に行なっている。そのため、交流リアクタのリアクタンス値は急激に増加または減少する。前記交流リアクタのリアクタンス値の急激な増加または減少は、インバータに印加される直流電圧を大きく過渡的に変化させる。このため、インバータの出力パルス波形は過渡的に変化し、インバータに駆動制御されるモータの動作は不安定になる。また、同時に、インバータを構成する電子部品は過度な電気的負荷を受けるため、これらの電子部品が劣化する要因となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、インバータの動作中にインバータに印加される直流電圧が過渡的に変化しないようにして、インバータに駆動制御されるモータの出力に応じてインバータに印加される直流電圧を可変させることができる空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係わる空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器は以下のように構成した。すなわち、本発明に係わる空気調和機の電力変換器は、交流入力電源(3)に接続される整流回路(5)、平滑回路(5)、インバータ(7)、及びこのインバータ(7)を制御する制御部(21)を備える電力変換器(6)であって、 前記交流入力電源と前記整流回路との間に直列に介在された交流リアクタ(13及び15)を備え、前記交流リアクタは複数個の単位交流リアクタが直列に接続されて構成され、前記制御部は、前記インバータを停止させた場合であって、前記インバータの出力電力を制御する目標設定値が大きいときに、前記目標設定値に対応して複数個の前記単位交流リアクタの何れか一つ又は複数を段階的に短絡させることを特徴とする。
また、本発明に係わる空気調和機の電動機駆動装置は、前記電力変換器(6)と電動機(9)とを備え、前記インバータ(7)の出力電力を制御する前記目標設定値は、前記電動機(9)の出力、回転速度、及びトルクの何れかを制御する目標設定値であることを特徴とする。 但し、( )内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力変換器は、インバータの停止中において、インバータに駆動される電動機を制御する目標設定値に応じて、交流リアクタのリアクタンスを変化させて、インバータに印加される直流電圧を可変させている。その後、インバータは起動される。そのため、インバータの動作中にインバータに印加される直流電圧は過渡的に変化しない。したがって、本発明の電力変換器は、インバータに駆動制御される電動機に入力されるインバータの出力を不安定にすることなく、インバータによる電動機の駆動制御の最適化を実現することができる。
また、本発明の電動機駆動装置は、前記電力変換器により駆動制御される電動機の動作を不安定にすることなく、電動機を安定して高効率に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器の概略的な回路図である。
図2図1に示す目標回転速度設定手段が保持する室温と設定温度との温度差に対する目標回転速度設定値のテーブルを示す図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器の要部を示す回路図である。
図4図3に示す目標回転速度設定手段が保持する室温と設定温度との温度差に対する目標回転速度設定値のテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《本実施形態の概要》
本発明の実施形態に係る空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器は、空気調和機に使用されるコンプレッサを駆動するためのモータを駆動制御するインバータに供給される直流電力の供給源において、交流入力電源(例えば、商用電源)と整流回路との間に直列に接続される複数個(例えば、2個)の単位交流リアクタを切り替え手段により段階的に短絡/開放することにより、交流リアクタのリアクタンス値を変え、インバータに印加される直流電圧を複数段階(例えば2段階)に可変設定するように構成されている。このとき、単位交流リアクタの段階的な短絡/開放は、インバータの停止中において、空気調和機が設置された部屋の室温とあらかじめ設定温度との温度差に対応したモータの目標回転速度設定値に基づいて行われ、インバータに印加される直流電圧は複数段階(例えば、2段階)の直流電圧に切り替えられる。この結果、インバータに駆動制御されるモータを安定的かつ高効率に動作させて消費電力の低減化を図ることが可能となる。
【0011】
具体的には、空気調和機が設置された部屋の室温とあらかじめ設定温度との温度差が所定値より小さくて、指示される前記温度差に対応したモータの目標回転速度設定値が小さい場合、交流リアクタは、インバータの停止中に、切り替え手段により開放状態にされ、2個の単位交流リアクタは直列に接続される。この2個の単位交流リアクタの合計リアクタンス値は大きくなり、インバータに印加される直流電圧は電圧降下によって低下する。これにより、インバータは、インバータのスイッチング素子のロスが軽減され、低速で回転駆動させるモータを高効率で動作させることが可能となる。
【0012】
一方、空気調和機が設置された部屋の室温とあらかじめ設定温度との温度差が所定値より大きくて、指示される前記温度差に対応したモータの目標回転速度設定値が大きい場合、2個の単位交流リアクタのうち、1個の単位交流リアクタは、インバータの停止中に、切り替え手段により、短絡状態にされ、残り1個の単位交流リアクタのみとなる。そのリアクタンス値は低下し、電圧降下が小さくなり、インバータに印加される直流電圧は上昇する。これによって、インバータは高速で回転するモータを出力に合わせて高効率で動作させることが可能となる。
【0013】
これらの動作において、単位交流リアクタの直列個数の切り替えによる直流電圧の複数段階(例えば、2段階)の切り替えは、インバータの停止中において行われる。したがって、インバータの動作中における単位交流リアクタの切り替えに伴うインバータに印加される直流電圧の大きな過渡的な変化は回避されるので、インバータに駆動制御されるモータは安定的に動作することができる。また、インバータを構成する電子部品に過度の電気的負荷が加わらないため、これらの電子部品の品質は良好に維持される。
【0014】
以下、本発明に係わる空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器について、図面を参照しながら幾つかの実施形態を詳細に説明する。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一の要素は原則として同一の符号を付し、繰り返し説明は省略する。
【0015】
《第1実施形態》
〈電動機駆動装置および電力変換器の構成〉
図1は、本発明の第1実施形態に係る空気調和機1の概略的な回路図である。図1を参照しながら、第1実施形態の空気調和機の構成について簡単に説明する。図1に示すように、空気調和機1は電動機駆動装置2とコンプレッサ11とで構成されて、電動機駆動装置2は、交流入力電源3に接続されている。
電動機駆動装置2は、電力変換器6と交流モータ(電動機)9とで構成されている。
電力変換器6は、交流入力電源3に接続される直流電源部4、インバータ7、及びモータ9を制御するマイコン(制御部)21を備えて構成されている。
直流電源部4は 交流入力電源3、インバータ7,及びマイコン(制御部)21に接続され、交流入力電源3からの交流電圧を直流電圧に変換しインバータ7に印加する。
インバータ7は、直流電源部4、モータ9を制御するマイコン(制御部)21、及び負荷側のモータ9に電気的に接続されている。
モータ9は、マイコン(制御部)21からのPWM制御信号に従いインバータ7により駆動される。そして、モータ9はコンプレッサ11と回転可能に機械的に接続されている。
【0016】
直流電源部4、インバータ7、及びマイコン(制御部)21の構成についてさらに詳しく説明する。
直流電源部4は、交流リアクタ(第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15)と整流回路・平滑回路5とを備えて構成されている。
直流電源部4は、商用電源などの交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間に、2個の単位交流リアクタとして第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15とが直列に接続され、かつ、第2の交流リアクタ15には切替手段17が並列に接続されている。
切替手段17は、後述するマイコン(制御部)21のリアクタンス可変手段21cからのON/OFF信号により短絡(ON)/開放(OFF)する。切替手段17が短絡の場合は、第1の交流リアクタ13のみをリアクタとして機能させ、一方、切替手段17が開放の場合は、第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15とを直列接続された交流リアクタとして機能させる。
また、整流回路・平滑回路5は、交流入力電源3からの交流電圧を全波整流するためのダイオードブリッジ5aと、ダイオードブリッジ5aの接点Aに直列に一端が接続された直流リアクタ5bと、この直流リアクタ5bの他端(接点B)とダイオードブリッジ5aの接点Cとに並列に接続され、該ダイオードブリッジ5aで全波整流された直流電圧を平滑するためのコンデンサ5cとを備えて構成されている。
【0017】
なお、直流リアクタ5bとコンデンサ5cとによって逆L1段の理想的な平滑回路が構成されると共に、直流リアクタ5bは、インバータ7のPWM制御によって発生するスパイク電圧が第1の交流リアクタ13及び第2の交流リアクタ15に印加されるのを防止する機能を有している。また、第1の交流リアクタ13、第2の交流リアクタ15、及び直流リアクタ5bは、交流入力電源3からコンデンサ5cに流れる突入電流を制限する機能も有している。
また、図1に破線で示した抵抗5dがコンデンサ5cに平行に接続されても良い。抵抗5dは、インバータ7が停止したときに、インバータに印加される直流電圧が上昇するのを制限する機能を有している。
【0018】
さらに、インバータ7は、整流回路・平滑回路5の出力側においてコンデンサ5cに並列に接続されている。このインバータ7は、三相インバータであって、整流回路・平滑回路5のコンデンサ5cが供給する直流電力を駆動源とし、インバータ制御手段21dのPWM制御部23から入力されるPWM制御信号、例えば、キャリア周波数が10kHz(つまり、デューティサイクルが100μs)で制御される矩形波電圧を生成して、三相の交流モータ(モータ)9に電力Pを供給している。これによって、インバータ7はモータ9の駆動を行う。なお、インバータ7は単相インバータであってもよいが、その場合にはモータ9は単相モータとなる。
【0019】
マイコン(制御部)21は、温度差情報取得手段21aと、目標回転速度設定手段21bと、リアクタンス可変手段21cと、及びインバータ制御手段21dとを備えて構成されている。
【0020】
温度差情報取得手段21aは、空気調和機1が設置された部屋の温度(すなわち、室温)を検知する室温センサ19から取得された室温と、あらかじめ設定されている空気調和機1の設定温度との温度差を算出する機能を有している。
目標回転速度設定手段21bは、温度差情報取得手段21aから取得した室温と空気調和機の設定温度との温度差の情報に対応したモータ9の目標回転速度を設定し、目標回転速度の設定値をインバータ制御手段21dに指示する機能を有している。そのため、目標回転速度設定手段21bは、室温と設定温度との温度差の値と、モータ9の目標回転速度の設定値とを対応付けたテーブル22(図2参照)を備えている。
さらに、目標回転速度設定手段21bは、インバータ制御手段21dにインバータ停止を指示する機能も有している。このインバータ停止の指示は、切換手段17のON/OFF状態を変更するとき行われ、後述するリアクタンス可変手段21cが切替手段17にON/OFF信号を出力する前に行われる。目標回転速度設定手段21bは、切替手段17のON/OFF動作が完了した後、インバータ制御手段21dにインバータ駆動を指示する。
【0021】
リアクタンス可変手段21cは、インバータ7が停止状態のときに、目標回転速度設定手段21bから取得した目標回転速度設定値に対応した切替手段17のON/OFF状態に基づきON/OFF信号を切替手段17に出力し、切替手段17をON(短絡)/OFF(開放)させ、直流電源部4の交流リアクタのリアクタンス値を切り替える(可変にする)機能を有している。
【0022】
インバータ制御手段21dは、目標回転速度設定手段21bから取得した目標回転速度設定値に基づき、目標回転速度設定値と、モータ9に取り付けられた位置センサ24から回転速度検出手段25を介して検出されたモータ9の回転速度とを比較しながらPWM制御部23からのPWM制御信号によりインバータ7を駆動制御し、モータ9の回転制御を行う。
また、インバータ制御手段21dは、インバータ7の動作中に目標回転速度設定手段21bからインバータ停止指示を取得した場合は、インバータ7の動作を停止させる。インバータ制御手段21dは、リアクタンス可変手段21cによる切替手段17のON/OFF動作が完了した後、目標回転速度設定手段21bのインバータ駆動指示により、取得した目標回転速度設定値に基づいてインバータ7を駆動制御して、モータ9の回転制御を再開する。
【0023】
次に、目標回転速度設定手段21bが保持する室温と設定温度との温度差に対する目標回転速度設定値の対応を示すテーブル22について説明する。図2は、室温と設定温度との温度差に対する目標回転速度設定値のテーブルを示す図である。
【0024】
図2に示されるテーブル22は、温度差(|室温−設定温度|)と、目標回転速度設定値と、切替手段ON/OFF状態とを示している。
温度差(|室温−設定温度|)の欄は、空気調和機1が設置されている部屋の温度とあらかじめ設定された空気調和機1の設定温度との温度差の絶対値を示している。図2のテーブル22の温度差(|室温−設定温度|)の値は段階的に区分(図2では ΔT1、ΔT2、・・・、ΔTnのn個の区分)され、区分された温度差(|室温−設定温度|)の値に対して目標回転速度設定値と切替手段ON/OFF状態とが対応するように記載されている。なお、このテーブル22は、上段の項から下段の項に行くに従って温度差の値が大きくなっている。すなわち、温度差(|室温−設定温度|)の値は、ΔT1<ΔT2<・・・<ΔTnとなっている。
【0025】
目標回転速度設定値の欄は、目標回転速度設定手段21bからインバータ制御手段21dに指示される室温と設定温度との温度差の値に対応した目標回転速度設定値を示している。目標回転速度設定値は、例えば、温度差が大きいときに設定値が大きくなるように対応付けられている。すなわち、目標回転速度設定値は、ω1<ω2<・・・<ωnとなっている。つまり、室温と設定温度との温度差が大きくなると、コンプレッサ11は駆動するモータ9の回転速度を速くする必要がある。そのため、図2のテーブル22は、温度差が大きいときに、モータ9の回転速度を制御するインバータ制御手段21dに指示される目標回転速度設定値が大きくなるように設定されている。
【0026】
切替手段ON/OFF状態の欄は、目標回転速度設定値に対応した切替手段17のON/OFF状態を示している。切替手段ON/OFF状態は、温度差が所定値Tcより小さい場合はOFF状態であり、所定値Tcより大きい場合はON状態である。なお、所定値Tc(図2参照)は、例えば、インバータ7に駆動制御されるモータ9の電力効率と回転速度の関係等によりあらかじめ決められている値である。
つまり、温度差が所定値Tcより小さい場合(例えば、ΔT1、ΔT2、ΔT3)は、温度差に対応する目標回転速度設定値(例えば、ω1、ω2、ω3)は小さくなり、切替手段ON/OFF状態はOFF状態となる。インバータ7に印加される直流電圧Vcは、前述したように、切替手段17のOFF動作により、低下する。また、モータ9の出力(機械的出力)は、回転速度に比例し、インバータ7の出力電力P(電気的出力)と略等しい。そのため、温度差が小さく、モータ9の回転速度が遅いときには、インバータ7の出力電力Pは少なくなり、インバータ7は、印加される直流電圧Vcの低下により、スイッチングロスを低減させることが可能となる。
【0027】
一方、温度差が所定値Tcより大きい場合(例えば、ΔT4、ΔT5、ΔT6、・・・、ΔTn)は、温度差に対応する目標回転速度設定値(例えば、ω4、ω5、ω6、・・・、ωn)は大きくなり、切替手段ON/OFF状態はON状態となる。インバータ7に印加される直流電圧Vcは、前述したように、切替手段17のON動作により、上昇する。また、温度差が大きく、モータ9の回転速度が速いときには、インバータ7の出力電力Pは大きくなる。そのため、インバータ7は、印加される直流電圧Vcの上昇により、モータ9の大きい出力に応じた効率的な駆動制御が可能となる。
【0028】
目標回転速度設定手段21bは、温度差と、目標回転速度設定値と、切替手段ON/OFF状態とを対応付けたテーブル22を保持し、インバータ7は、このテーブル22を介在させ、温度差に対応した目標回転速度設定値と目標回転速度設定値に対応付けられた切替手段17のON/OFF動作に伴う直流電圧Vcの切り替えとにより、モータ9を最適な効率で駆動制御することが可能となる。
【0029】
〈電動機駆動装置及び電力変換回路の動作〉
次に、図1を参照して本実施形態に係る空気調和機1の電動機駆動装置2及び電力変換回路6の動作について説明する。
【0030】
最初に、室温と設定温度との温度差が所定値Tcより大きい場合の空気調和機1の起動動作を説明する。この起動には、例えば、厳寒の季節又は猛暑の季節で室温と設定温度との温度差はΔT6であり、空気調和機1のインバータ7は停止しているものとする。
リモコン20の操作を介して、空気調和機1の運転操作を開始すると、温度差情報取得手段21aは 空気調和機1が設置された部屋の室温を検知する室温センサ19から取得された室温と、リモコン20を介して、あらかじめ設定されている空気調和機1の設定温度との温度差を算出する。
次に、目標回転速度設定手段21bは、温度差情報取得手段21aから取得した室温と設定温度との温度差に対応する目標回転速度設定値と切替手段ON/OFF状態をテーブル22(図2参照)から取得する。このとき、目標回転速度の設定値は、温度差ΔT6に対応した目標回転速度設定値ω6となる。温度差ΔT6は 所定値Tcより大きいため、目標回転速度設定値ω6に対応した切替手段ON/OFF状態はON状態となる。次に、目標回転速度設定手段21bは、取得した目標回転速度設定値ω6をインバータ制御手段21dに指示する。さらに、インバータ7はまだ停止状態にあるので、目標回転速度設定手段21bは、リアクタンス可変手段21cにより切替手段17のON/OFF状態をON状態にした後、インバータ制御手段21dにインバータ駆動指示を出力する。
【0031】
リアクタンス可変手段21cは、インバータ7の停止中に、目標回転速度設定手段21bから取得した切替手段17のON/OFF情報(この場合はON情報)に基づき、切替手段17にON信号を出力する。その結果、切替手段17はON状態となり、第2の交流リアクタ15は短絡する。そのため、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間に直列に接続された交流リアクタは第1の交流リアクタ13のみが介在する。つまり、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間のリアクタンス値は低下する。これにより、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間の交流リアクタによる電圧降下が小さくなり、インバータ7に印加される直流電圧Vcは上昇する。
インバータ制御手段21dは、目標回転速度設定手段21bから目標回転速度設定値ω6を取得し、リアクタンス可変手段21cによる切替手段17のON/OFF動作に伴う交流リアクタのリアクタンスの切り替えが完了した後、目標回転速度設定手段21bからのインバータ駆動指示により、目標回転速度の設定値ω6に基づきインバータ7を駆動制御して、モータ9を起動する。このとき、インバータ7の停止中に、切替手段17により交流リアクタのリアクタンスの切り替えが行われるため、インバータ7の動作中での交流リアクタのリアクタンスの切り替えに起因した不具合は回避される。そのため、インバータ7に印加される直流電圧Vcの上昇により、インバータ7は、速い回転速度の出力に応じた最適な効率でモータ9を安定して駆動制御することが可能となる。
【0032】
次に、室温と設定温度との温度差が所定値Tcより小さい場合の空気調和機1の起動動作を説明する。この起動には、例えば、春又は秋の季節で室温と設定温度との温度差はΔT1であり、インバータ7は停止しているものとする。
空気調和機1の運転操作を開始すると、温度差情報取得手段21aは、同様に、室温センサ19から取得された室温と、あらかじめ設定されている設定温度との温度差を算出する。次に、目標回転速度設定手段21bは、温度差情報取得手段21aから取得した室温と設定温度との温度差に対応する目標回転速度の設定値と切替手段17のON/OFF状態をテーブル22(図2参照)から取得する。このとき、目標回転速度の設定値は温度差ΔT1に対応した目標回転速度設定値ω1となる。温度差ΔT1は、所定値Tcより小さいため、目標回転速度設定値ω1に対応した切替手段ON/OFF状態はOFF状態となる。
次に、目標回転速度設定手段21bは、取得した目標回転速度設定値ω1をインバータ制御手段21dに指示する。さらに、インバータ7はまだ停止状態にあるので、目標回転速度設定手段21bは、リアクタンス可変手段21cにより切替手段17のON/OFF状態をOFF状態にした後、インバータ制御手段21dにインバータ駆動指示を出力する。
【0033】
リアクタンス可変手段21cは、インバータ7の停止中に、目標回転速度設定手段21bから取得した切替手段17のON/OFF情報(この場合はOFF情報)に基づき、切替手段17にOFF信号を出力する(あるいは、ON信号を停止する)。その結果、切替手段17はOFF状態となる。これによって、第2の交流リアクタ15の短絡回路は開放し、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間に直列に接続された第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15の2個の単位交流リアクタンスが介在する。つまり、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との直列回路の間のリアクタンス値は大きくなる。その結果、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間の交流リアクタによる電圧降下は大きくなり、インバータ7に印加される直流電圧Vcは低下する。
インバータ制御手段21dは、目標回転速度設定手段21bから目標回転速度設定値ω1を取得し、リアクタンス可変手段21cによる切替手段17のON/OFF動作に伴う交流リアクタのリアクタンスの切り替えが完了した後、目標回転速度設定手段21bのインバータ駆動指示により、目標回転速度の設定値ω1に基づき、インバータ7を駆動制御して、モータ9を起動する。このとき、インバータ7の停止中に、切替手段17により交流リアクタのリアクタンスの切り替えが行われるため、インバータの動作中の交流リアクタのリアクタンスの切り替えに起因した不具合も回避される。そのため、インバータ7に印加される直流電圧Vcの低下により、インバータ7はスイッチングロスを低減させることができる。そして、インバータ7は、遅い回転速度の低い出力に応じた最適な効率でモータ9を安定して駆動制御することが可能となる。
【0034】
次に、本実施形態に係わる空気調和機1の電動機駆動装置2及び電力変換器6の動作シーケンスについて説明する。この動作シーケンスは、先に説明した所定値Tcより大きい温度差ΔT6で起動した後、空気調和機1の動作により、起動時の温度差ΔT6は小さくなり、所定値Tcより小さい温度差ΔT3になったとする。
【0035】
空気調和機1の運転を開始すると、温度差情報取得手段21aは室温と設定温度の温度差を算出する。次に、目標回転速度設定手段21bが取得した温度差ΔT6に対応した目標回転速度設定値(ω6)と切替手段ON/OFF状態(ON状態)とをテーブル22(図2参照)から取得し、目標回転速度設定手段21bは、インバータ制御手段21dに目標回転速度設定値ω6を指示する。このとき、インバータ7はまだ停止中(起動されていない状態)なので、リアクタンス可変手段21cは切替手段17をON状態にする。切替手段17の切り替え動作の完了後、インバータ制御手段21dは、目標回転速度設定手段21bのインバータ駆動指示により、目標回転速度設定値ω6に基づきインバータ7を駆動制御して、モータ9の起動を開始する。インバータ7の停止中に、交流リアクタ切り替えは完了しているので、インバータに印加される直流電圧Vcは高くなっている。そのため、インバータ7は、この様なインバータ起動時において、速い回転速度の出力が必要なときにも、モータ9を安定して駆動制御ができる。
【0036】
インバータ起動後、空気調和機1の動作により、室温は設定温度に近づく。つまり、温度差はΔT6からΔT5、ΔT4と小さくなる。目標回転速度設定手段21bは、温度差ΔT5を取得した後、テーブル22を参照して、温度差ΔT5に対応した目標回転速度設定値(ω5)と切替手段ON/OFF状態(ON状態)とを得る。このとき、切替手段ON/OFF状態は起動時と同じON状態なので、切替手段17のON/OFF切り替え動作は必要でない。そのため、目標回転速度設定手段21bは、インバータ制御手段21dに目標回転速度設定値ω5を指示し、インバータ制御手段21dは、目標回転速度設定値ω5に基づきインバータ7を駆動制御して、運転を続ける。同様に、温度差ΔT4においても切替手段ON/OFF状態は同じON状態と同じなので、目標回転速度設定値ω4をインバータ制御手段21dに指示し、運転を続ける。このときも、切替手段17はON状態なので、インバータに印加される直流電圧Vcは高くなっている。
この様に温度差が所定値Tcより大きいときに、インバータ7に印加される直流電圧を上昇させることにより、インバータ7は、起動後の速い回転速度の大きい出力に応じた最適な効率でモータ9を安定して駆動制御することが可能となる。
【0037】
さらに、運転を続けると、室温がさらに設定温度に近づき、温度差がΔT3になったとき、目標回転速度設定手段21bは、温度差ΔT3を取得した後、テーブル22を参照して、温度差ΔT3に対応した目標回転速度設定値ω3と切替手段ON/OFF状態(OFF状態)とを得る。
この場合、インバータ7は動作中であり、切替手段ON/OFF状態はON状態からOFF状態に切り替える必要がある。
そのため、目標回転速度設定手段21bは、インバータ制御手段21dに目標回転速度設定値ω3を指示した後、切替手段17のON/OFF状態を切り替える前に、目標回転速度設定手段21bはインバータ制御手段21dにインバータ停止指示を出し、インバータ制御手段21dはインバータ7を停止する。そして、リアクタンス可変手段21cは切替手段17にOFF信号を出力し、切替手段17はOFF状態に切り替わる。
この切り替え完了後、目標回転速度設定手段21bは、インバータ制御手段21dにインバータ駆動指示を出し、インバータ制御手段21dは、目標回転速度設定値ω3に基づきインバータ7を駆動制御して、インバータ7を再起動する。このとき、インバータ7の停止中に、交流リアクタのリアクタンスの切り替えは完了しているので、インバータ7に印加される直流電圧Vcは低くなっている。そのため、インバータ7はスイッチングロスを低減することができる。
この様に、インバータ駆動中の場合においても、インバータ7を停止させてから交流リアクタのリアクタンスの切り替えを行い、インバータ7に印加される直流電圧を低下させることにより、インバータ7は、遅い回転速度の小さい出力に応じた最適な効率でモータ9を安定して駆動制御することが可能となる。
さらに運転を続けると、室温は設定値に近づき、温度差は、ΔT2と小さくなる。切替手段17のON/OFF切り替え動作は必要でないため、このときの動作は、温度差ΔT5、ΔT4のときと同様であるので説明を省略する。
以上示したように、空気調和機1の運転中においても、インバータ7の停止中に、交流リアクタのリアクタンスの切り替えを行うことにより、インバータの動作中の交流リアクタのリアクタンスの切り替えに起因した不具合は回避され、インバータ7は、出力に応じた最適な効率でモータ9を安定して駆動制御することが可能となる。
【0038】
《第1実施形態の変形例1》
前述した第1実施形態では、複数の交流リアクタを切替手段のON/OFFによって交流リアクタの直列接続数を切り替え、インバータ7に印加される直流電圧を可変にした。
これに対して、複数の交流リアクタそれぞれの間の相互インダクタンスMを変えて、交流入力電源と整流回路との間に直列に接続された交流リアクタの合成リアクタンス値を可変にしてもよい。
具体的には、図1に示した第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15との間に介在する相互コンダクタンスMは、それぞれの交流リアクタのお互いの相対的な位置関係に依存する。例えば、第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15とは同じ単位交流リアクタであり、巻線方向と巻線数とは同じである。そのため、直列に接続した第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15とを 交流リアクタを構成するお互いのコイルの中心軸を巻線方向を同じにして同一線上に並べ、お互いの距離を変えることにより、交流入力電源と整流回路との間に介在する交流リアクタの合成リアクタンス値を変えることができる。つまり、お互いの距離を近づければ、相互コンダクタンスMの値は増加し、合成リアクタンスの値は低下する。一方、お互いの距離を離せば、相互コンダクタンスMの値は減少し、合成リアクタンスの値は増加する。
以上述べたように、交流リアクタお互いの位置関係(距離又はお互いのなす角度、もしくは、距離と角度とを両方)を変えることにより、第1の交流リアクタ13と第2の交流リアクタ15の間に介在する相互コンダクタンスMは変化し、交流リアクタの合成リアクタンス値は可変する。このことにより、第1実施形態で説明した効果と同じ効果が得られる。
【0039】
《第1実施形態の変形例2》
異なるリアクタンス値の交流リアクタを用いて、切替手段のON/OFFによって交流リアクタの直列接続数を切り替える構成も可能である。単位交流リアクタを2個用いる場合、インバータ7に印加される直流電圧はON状態とOFF状態の2段階の直流電圧に切り替えられるのと比較して、この場合、インバータ7に印加される直流電圧は、異なるリアクタンス値の2個の交流リアクタを用いて3段階の直流電圧に切り替えることが可能となる。交流リアクタの個数を変えないで、よりきめ細かなモータの駆動制御の最適化が可能となる。
【0040】
《第1実施形態の変形例3》
また、前述した各実施形態では、インバータ停止中に交流リアクタのリアクタンスの切り替えを行うため、インバータ7が駆動している場合、目標回転速度設定手段からインバータ制御手段へのインバータ停止指示によりインバータ7を停止した後、交流リアクタのリアクタンスの切り替えを行った。これに対し、目標回転速度設定手段からインバータ制御手段への指示される目標回転速度設定値をゼロにしてインバータ7の出力を止め、交流リアクタのリアクタンスの切り替えを行った後、温度差に対応した目標回転速度設定値を指示してインバータ7を再起動してもよい。
《第1実施形態の変形例4》
さらに、交流入力電源と直流電源部との間にON/OFFスイッチを直列に接続し、このスイッチをOFFにした状態(すなわち、交流入力電源を切断した状態)で、交流リアクタのリアクタンスの切り替えを行なってもよい。
【0041】
《第2実施形態》
第2実施形態に係る空気調和機1の電動機駆動装置及2び電力変換装置6は、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間に直列にn個の単位交流リアクタと、(n−1)個の単位交流リアクタを段階的に短絡/開放するための(n−1)個の切替手段とを備えて構成される。
【0042】
図3は、本発明の第2実施形態に係る空気調和機1Aの主要部を示す回路図である。図3に示した本発明の第2実施形態に係る電動機駆動装置2A及び電力変換装置6Aは、(n−1)個の単位交流リアクタ16と、(n−1)個の切替手段17Aと、リアクタンス可変手段21eと、及びテーブル22Aとを備え、これらの構成は図1に示す第1実施形態に係る構成と異なっている。図3のその他の構成は図1と同一である。以下において、前述の第1実施形態と相違する第2実施形態に係る構成及び動作について説明する。
【0043】
図3に示すように、n個の単位交流リアクタ(交流リアクタ13と(n−1)個の単位交流リアクタ16(1、2、3、…、(n−1)))は、交流入力電源3と整流回路・平滑回路5との間に直列に接続されている。(n−1)個の切替手段17A(1、2、…、(n−1))は、それぞれ対応する単位交流リアクタ16(1、2、…、(n−1))に並列に接続され、さらに、それぞれリアクタンス可変手段21eと接続されている。
【0044】
目標回転速度設定手段21bは、室温と設定温度との温度差の値と、モータ9の目標回転速度の設定値と、(n−1)個の切替手段17AのON/OFF状態とを対応付けたテーブル22A(図4参照)を備えている。目標回転速度設定手段21bは、テーブル22Aを参照して、温度差情報取得手段21aから取得した室温と設定温度との温度差に対応した目標回転速度設定値を取得してインバータ制御手段21dに目標回転速度設定値を指示する。また、目標回転速度設定手段21bは、テーブル22Aから目標回転速度設定値に対応した(n−1)個の切替手段17AのON/OFF状態を取得して、リアクタンス可変手段21eに出力する。
さらに、目標回転速度設定手段21bは、インバータ制御手段21dにインバータ停止を指示する機能も有している。このインバータ停止の指示は、後述するリアクタンス可変手段21eが(n−1)個の切替手段17AにON/OFF信号を出力する前に行われる。目標回転速度設定手段21bは、(n−1)個の切替手段17AのON/OFF動作が完了した後、インバータ制御手段21dにインバータ駆動を指示する。
【0045】
リアクタンス可変手段21eは、インバータ7が停止状態のときに、目標回転速度設定手段21bから取得した目標回転速度の設定値に対応した(n−1)個の切替手段17AのON/OFF状態に基づき、ON/OFF信号をそれぞれ対応する(n−1)個の切替手段17Aに出力し、(n−1)個の切替手段17AをON(短絡)/OFF(開放)して、直流電源部4Aの交流リアクタのリアクタンス値を切り替える(可変にする)機能を有している。
【0046】
図4は、目標回転速度設定手段21bが保持する室温と設定温度との温度差に対する目標回転速度設定値の対応を示すテーブル22Aを示す図である。図4のテーブル22Aのそれぞれの欄は図2のテーブル22と同一の項目を示している。なお、切替手段ON/OFF状態の欄は、(n−1)個の切替手段17AのON/OFF状態を表している。
【0047】
図4に示すように、室温と設定温度との温度差が最も小さい温度差ΔT1の場合は、目標回転速度設定値はω1となり、1〜(n−1)までの(n−1)個の(つまり全ての)切替手段17AはOFF状態となる(つまり、交流リアクタ13も含めて直列回路にn個の単位交流リアクタが介在する)。また、温度差がΔTi(i=2、・・・、(n−1))の場合は、目標回転速度設定値はωiとなり、(n−1)個の切替手段17Aにおいて、1〜(i−1)までの切替手段17AはON状態となり、i〜(n−1)までの切替手段17AはOFF状態となる(つまり、交流リアクタ13も含めて直列回路に(n−i+1)個の単位交流リアクタが介在する)。
【0048】
このようにして、図4の切替手段OFF個数の欄に示したように、室温と設定温度との温度差が大きくなるにしたがって、直列回路に介在する単位交流リアクタの個数(切替手段17AがOFF状態の個数)は、1個ずつ段階的に減っていく。そして、温度差が最も高いΔTnとなったときは、目標回転速度設定値はωnとなる。また、1〜(n−1)までの全ての切替手段17AはON状態になり、直列回路に介在する単位交流リアクタは交流リアクタ13のみとなる。すなわち、インバータ7に印加される直流電圧Vcは、温度差に対応して段階的に交流リアクタを切り替えることにより、介在する交流リアクタによる電圧降下に伴い、n段階に細かく設定されることになる。
【0049】
このようにして、インバータ7に印加される直流電圧Vcは、室温と設定温度との温度差に対応した目標回転速度設定値に応じて、インバータ7の停止中に、きめ細かくn段階に切り替えられる(可変される)。このことにより、室温と設定温度との温度差に対応する目標回転速度の設定値と、目標回転速度設定値に対応して段階的に設定される直流電圧Vcとにより、インバータ7は、よりきめ細かくインバータロスを低減することが可能となる。また、インバータ7は、モータ9の出力に応じて、モータ9をより最適な効率で安定して駆動制御することが可能となる。さらに、交流リアクタンスの切り替えは、インバータ7の停止状態で行われるため、インバータ駆動中の交流リアクタンスの切り替えの伴う前述したような不具合は回避される。
【0050】
以上説明したように、本発明に係る空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器は、インバータによるモータの駆動制御が最適な効率になるように、インバータ停止中において、室温と設定温度との温度差に対応した目標回転速度設定値に基づいて交流リアクタのリアクタンス値を段階的に変化させ、インバータに印加される直流電圧を段階的に可変させている。これによって、本発明に係る電動機駆動装置及び電力変換器は、インバータ動作中の交流リアクタンスの切替えに伴うインバータに印加される直流電圧を過渡的に変化しないようにして、インバータの出力パルス波形を安定させ、インバータに駆動制御されるモータの不安定動作を回避することが可能となり、安定してモータの駆動制御の最適化を図ることができる。さらに、インバータを構成する電子部品に対する過度の電気的負荷も排除されるため、これらの電子部品の品質は良好に維持することができる。
【0051】
以上、本発明に係る空気調和機の電動機駆動装置及び電力変換器の実施形態及び変形例について具体的に説明したが、本発明は前述した各実施形態の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1、1A 空気調和機
2、2A 電動機駆動装置
3 交流入力電源
5 整流回路・平滑回路
5a ダイオードブリッジ
5b 直流リアクタ
5c コンデンサ
6 電力変換器
7 インバータ
9 交流モータ(モータ)
11 コンプレッサ
13 第1の交流リアクタ(単位交流リアクタ)
15 第2の交流リアクタ(単位交流リアクタ)
16 交流リアクタ
17、17A 切替手段
19 室温センサ
21 マイコン(制御部)
21a 温度差情報取得手段
21b 目標回転速度設定手段
21c、21e リアクタンス可変手段
21d インバータ制御手段
22、22A テーブル
図1
図2
図3
図4