(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928702
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】掃気通路を有する内燃エンジン用シリンダを形成する方法
(51)【国際特許分類】
F02F 1/22 20060101AFI20160519BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20160519BHJP
F02B 25/16 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
F02F1/22 D
F02F1/22 A
F02F1/00 C
F02B25/16 H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-77189(P2012-77189)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204566(P2013-204566A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】野澤 勝
(72)【発明者】
【氏名】山田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 邦紀
【審査官】
永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−324790(JP,A)
【文献】
特開2003−83158(JP,A)
【文献】
特開2011−127601(JP,A)
【文献】
特開2011−27017(JP,A)
【文献】
特開平10−252552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00−1/42,
F02B 25/00−25/28,
F16J 10/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃気通路(18)を有する内燃エンジン用シリンダ(1)を形成する方法であって、
ピストンが挿入されるシリンダボア(6)を構成する内面(8)、取付け面(10)、及び前記取付け面(10)から前記シリンダボア(6)の前記内面(8)に沿って延びる細長い掃気通路用孔(12)を有するシリンダ本体(4)を金型鋳造成形する段階と、
前記金型鋳造成形する段階の時に又は前記金型鋳造成形する段階の後に、前記シリンダボア(6)と前記掃気通路用孔(12)を連通させる掃気ポート(14)を形成する段階と、
放電加工電極(20)を用いて、前記掃気ポート(14)を放電加工する段階と、を有し、
前記掃気通路用孔(12)は、前記掃気ポート(14)を放電加工するときの前記放電加工電極(20)の進入領域端(22)を受入れる断面輪郭を有し、
さらに、前記放電加工電極(20)の進入領域端(22)に干渉する位置に配置される細長い挿入ピース(16)を、前記掃気通路用孔(12)に挿入して、前記掃気通路用孔(12)のうちの前記シリンダボア(6)に近い方の内方面(12a)と前記挿入ピース(16)との間に細長い掃気通路(18)を形成する段階を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記掃気通路(18)の断面輪郭は三角形状を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジン用シリンダを形成する方法に係わり、さらに詳細には、掃気通路を有する内燃エンジン用シリンダを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2サイクル内燃エンジン用シリンダは、掃気通路を有しており、ピストン下方のクランク室で予圧縮した混合気を、前記掃気通路を通して前記ピストン上方のシリンダ室に吹き出させることにより、燃焼ガスの掃気が行われる。詳細には、ピストンの上昇行程により、吸気口から前記ピストン下方の前記クランク室に混合気を吸入し、前記混合気を前記ピストンの下降行程により予圧縮し、さらに、前記予圧縮された混合気を、前記掃気通路を通して掃気ポートから前記ピストン上方のシリンダ室に吹き出させることにより、燃焼ガスの排出を行うようになっている。
【0003】
前記掃気ポートにおける流れの乱れを防止するために、前記掃気ポートを放電加工する技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−324790号公報
【特許文献2】特開2003−83158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃エンジンの排出ガス規制のため、内燃エンジンの低エミッション化が求められている。前記掃気通路を有する2サイクルエンジンの場合、細い前記掃気通路(断面積が小さい前記掃気通路)が低エミッション化に有効であると考えられている。
【0006】
しかしながら、細い前記掃気通路を形成した後の前記掃気ポートの放電加工において、放電加工電極の大きさを細い前記掃気通路との干渉を回避するように小さくする必要がある。そのため、加工時間が長くなり、前記放電加工電極の消耗も早くなる。場合によっては、放電加工が不可能な場合もある。
【0007】
また、細い前記掃気通路を有する前記シリンダを成型する金型において、前記排気通路を形成するための中子又は突起が細長くなり、金型部分の早期摩耗、破損、成型時のかじりのおそれがある。
【0008】
その結果、細い前記掃気通路を有する前記シリンダの大量生産は不可能である。
【0009】
そこで本発明は、大量生産が可能である、細い前記掃気通路を有する前記シリンダを形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、掃気通路を有する内燃エンジン用シリンダを形成する本発明による方法は、ピストンが挿入されるシリンダボアを構成する内面、取付け面、及び前記取付け面から前記シリンダボアの前記内面に沿って延びる細長い掃気通路用孔を有するシリンダ本体を金型鋳造成形する段階と、前記シリンダボアと前記掃気通路用孔を連通させる掃気ポートを形成する段階と、放電加工電極を用いて、前記掃気ポートを放電加工する段階と、を有し、前記掃気通路用孔は、前記掃気ポートを放電加工するときの前記放電加工電極の進入領域端を受入れる断面輪郭を有し、さらに、前記放電加工電極の進入領域端に干渉する位置に配置される細長い挿入ピースを、前記掃気通路用孔に挿入して、前記掃気通路用孔のうちの前記シリンダボアに近い方の内方面と前記挿入ピースとの間に細長い掃気通路を形成する段階を有することを特徴としている。
【0011】
従来技術において、細い前記掃気通路を形成した後の前記掃気ポートの放電加工において前記放電加工電極の大きさが制限されることに鑑み、上記のように構成された方法では、前記シリンダに前記掃気通路を形成するのではなく、前記シリンダに前記掃気通路用孔を形成する。前記掃気通路用孔は、前記放電加工電極の進入領域端を受入れる断面輪郭を有しているので、前記放電加工電極の大きさを制限する必要はない。また、本発明による方法では、前記放電加工電極の進入領域端に干渉する位置に配置される細長い挿入ピースを、前記掃気通路用孔に挿入して、前記掃気通路用孔のうちの前記シリンダボアに近い方の内方面と前記挿入ピースとの間に細長い掃気通路を形成する。かくして、前記シリンダを成型する金型において、前記排気通路孔を形成するための中子又は突起は、細い前記掃気通路を形成するための中子又は突起よりも太くなり、金型成形が容易になる。その結果、前記シリンダの大量生産が可能になる。
【0012】
本発明による上記方法において、好ましくは、前記掃気通路の断面輪郭は三角形状を有する。
【0013】
前記内方面と前記挿入ピースとの間に前記掃気通路が形成されるときに前記掃気通路の断面輪郭が三角形状を有する場合、前記挿入ピースが前記掃気通路用孔の、前記内方面に近づき、小さい前記放電加工電極であっても、前記挿入ピースとの干渉が起こりやすい。したがって、本発明による方法は、前記掃気通路の断面輪郭が三角形状を有する場合に特に有利である。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明による方法によれば、細い掃気通路を有するシリンダの大量生産を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】放電加工電極を追加した
図2と同様の図である。
【
図5】放電加工電極の進入領域端を示す
図4の線V−Vにおける部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明による方法によって形成されるシリンダの実施形態を説明する。
図1は、本発明による方法によって形成されたシリンダの縦断面図であり、
図2は、
図1のシリンダの断面図である。なお、
図1の縦断面図は、
図2の線I−Iにおけるものである。
図3は、
図1のシリンダの分解斜視図である。
【0017】
図1に示すように、シリンダ1は、クランクケース2に取付けられるシリンダ本体4を有している。シリンダ本体4は、軸線方向Aに往復動するピストン(図示せず)が挿入されるシリンダボア6を構成する円筒形の内面8と、クランクケース2に取付けられる取付け面10を有している。シリンダボア6は、前記クランクケース2に開口している。また、シリンダ本体4は、取付け面10からシリンダボア6の内面8に沿って軸線方向Aに延びる細長い掃気通路用孔12を有している。掃気通路用孔12は、掃気ポート14を介して前記シリンダボア6と連通している。本実施形態では、前記掃気通路用孔12は、2つ設けられ、前記掃気通路用孔12の各々に、2つの前記掃気ポート14が形成されている。前記シリンダボア6の前記内面8には、図示していないが、燃料と空気の混合気が流入する吸気ポート(図示せず)及び燃焼ガスを排出する排気ポート(図示せず)が設けられている。
【0018】
前記掃気通路用孔12の断面は、軸線方向Aに略一定である。掃気通路用孔12は、シリンダボア6に近い方の内方面12aと、それから遠い方の外方面12bを有している。前記掃気通路用孔12には、前記掃気通路用孔12の断面を小さくする挿入ピース16が、前記掃気通路用孔12全長にわたって且つ前記外方面12bに沿って挿入されている。前記掃気通路用孔12の各々は、前記内方面12aから延びる仕切り壁12cを有し、前記挿入ピース16を前記掃気通路用孔12に挿入することにより、2つの掃気通路18が形成されている。
【0019】
次に、前記シリンダ1の形成方法を説明する。
【0020】
前記シリンダボア6及び細長い前記掃気通路用孔12を有する前記シリンダ本体4を金型鋳造成形する。前記シリンダ本体の4の材質は、例えば、アルミニウム合金、鋳鉄である。また、金型鋳造成形は、ダイカスト成形であってもよいし、グラビティ成形であってもよい。前記掃気通路用孔12は、それに対応する部分に中子を配置することによって形成される。鋳造成形後に前記中子を折らずに引抜くために、前記中子(前記掃気通路用孔12)の断面寸法は、例えば、前記軸線方向Aの長さが65〜40mmの場合、5mm×10mm以上必要である。
【0021】
また、前記シリンダボア6と前記掃気通路用孔12を連通させる前記掃気ポート14を形成する。前記掃気ポート14は、中子を使用して金型鋳造成形時に形成されてもよいし、金型鋳造成形後に、機械加工等によって形成されてもよい。
【0022】
次いで、
図4及び
図5に示すように、放電加工電極20を用いて、前記掃気ポート14を放電加工する。この放電加工は、前記掃気ポート14を通る流れを乱さないようにするために、前記掃気ポート14の縁を加工するためのものである。前記放電加工電極20は、電気銅、グラファイト、銀タングステン等で作られるのが好ましい。前記放電加工電極20は、高周波パルス状の放電電流を発生させて生じる放電痕の累積によって前記掃気ポート14を加工するので、放電加工中、自らも摩耗する。そのため、前記放電加工電極20は、交換可能であり、また、前記掃気ポート14の精度を確保するために、ある程度以上の長さを有することが有利である。例えば、前記掃気ポート14からの前記放電加工電極の突き出し量は4mm以上であることが好ましい。
【0023】
具体的には、前記放電加工電極20を、数値制御により3次元的に移動させ、前記掃気ポート14のうちの1つに進入させる。前記掃気通路用孔12は、所定の長さを有する前記放電加工電極20が前記掃気ポート14に進入したときの進入領域端22を受入れる断面輪郭を有している。
【0024】
次いで、前記挿入ピース16を、前記掃気通路用孔12に挿入して、前記掃気通路用孔12の内方面12aと前記挿入ピース16との間に細長い掃気通路18を形成する。本実施形態では、1つの掃気通路用孔12に1つの前記挿入ピース16を挿入することにより、2つの前記掃気通路18が形成される。前記掃気通路18の断面輪郭は三角形状であることが好ましい。前記挿入ピース16は、前記シリンダ本体4と前記クランクケース2との間,及び/又は、前記シリンダ本体4とクランクケースに組み込まれたベアリング,オイルシール,ガスケット(図示省略)との間に挟まれることにより支持されることが好ましい。
【0025】
仮に、前記挿入ピース16を前記掃気通路用孔12に挿入してから、前記放電加工電極20を前記進入領域端22まで進入させると、前記放電加工電極20が前記挿入ピース16に干渉する領域24が生じ得る。すなわち、仮に、従来技術のように細い掃気通路を形成して、前記放電加工電極20を前記進入領域端まで進入させることを考えると、前記放電加工電極20が細い前記掃気通路を越えて進入し、細い前記掃気通路に孔があいてしまう。それにより、細い前記掃気通路を通る混合気の流れに乱れが生じ、また、前記放電加工電極20を損傷させるおそれがある。なお、
図4は、前記挿入ピース16を前記掃気通路用孔12に挿入した状態の図に、前記進入領域端22を示す一点鎖線を追加して、前記干渉領域24を示したものである。また
図5は、前記挿入ピース16を前記掃気通路用孔12に挿入していない状態で、前記放電加工電極20を前記進入領域端22まで進入させ、前記干渉領域24の境界を一点鎖線で示したものである。
【0026】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0027】
上記実施形態では、前記掃気通路用孔12の断面輪郭は、軸線方向Aに一定であったが、前記掃気通路用孔12の断面輪郭は、金型鋳造成形可能であれば任意であり、例えば、取付け面10から細くなるように延びていてもよい。
【0028】
また、前記挿入ピース16を挿入することによって形成される前記掃気通路18の形状は任意である。例えば、前記挿入ピース16の中間部の断面を両端部よりも大きくして、前記掃気通路18にくびれ部を設けてもよい。また、前記掃気通路18の、取付け面10におけるポート数と、前記掃気ポート14の数を変えてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 シリンダ
2 クランクケース
4 シリンダ本体
6 シリンダボア
8 内面
10 取付け面
12 掃気通路用孔
12a 内方面
12b 外方面
14 掃気ポート
16 挿入ピース
18 掃気通路
20 放電加工電極
22 進入領域端
24 干渉領域