特許第5928778号(P5928778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928778アルミニウム基端子金具、及び電線の端末接続構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928778
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】アルミニウム基端子金具、及び電線の端末接続構造
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20160519BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20160519BHJP
   C25D 11/20 20060101ALI20160519BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   C23C28/00 C
   C25D11/16
   C25D11/20 302
   H01R13/03 D
   H01R13/03 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-273608(P2011-273608)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-124389(P2013-124389A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
(72)【発明者】
【氏名】中井 由弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−005487(JP,A)
【文献】 特開2010−272414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C24/00−30/00
C25D 5/00− 7/12
C25D11/00−11/38
H01R13/00−13/08
H01R13/15−13/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の導体が接続される導体接続部と、前記導体接続部に延設され、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部とを具えるアルミニウム基端子金具であって、
当該アルミニウム基端子金具を構成する母材は、アルミニウム合金であり、
前記電気的接続部における接点領域に、
前記母材に形成された陽極酸化層と、
前記陽極酸化層に接して形成され、当該接点領域の最表面を構成するSn層と、
Snから構成され、前記陽極酸化層を貫通して前記Sn層から前記母材に連続する導通部と、
Snから構成され、前記導通部に連続し、前記母材と前記陽極酸化層との境界から母材側に突出した突部とを具え
前記突部において、前記境界に沿った最大長さが1μm以上5μm以下であるアルミニウム基端子金具。
但し、前記電線の導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されたものとする。
【請求項2】
前記母材を構成するアルミニウム合金は、2000系合金、6000系合金、及び7000系合金から選択される1種である請求項1記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項3】
前記陽極酸化層の厚さが0.3μm以上10μm以下である請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項4】
前記Sn層の厚さが0.3μm以上2μm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項5】
前記電気的接続部は、別の端子金具に嵌合して電気的に接続される嵌合部であり、
前記接点領域は、前記嵌合部の一部である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム基端子金具。
【請求項6】
導体を具える電線と、前記導体の端部に取り付けられた端子金具とを具える電線の端末接続構造であって、
前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成され、
前記端子金具は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアルミニウム基端子金具である電線の端末接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる導体に取り付けられるアルミニウム合金からなるアルミニウム基端子金具、この端子金具を具える電線の端末接続構造に関するものである。特に、表面に設けたSn層の密着性に優れるアルミニウム基端子金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や飛行機などの移動用機器、ロボットなどの産業機器などの電線は、その端部において絶縁層を除去して導体を露出させ、この露出部分に端子金具を取り付けて利用されている。端子金具は、種々の形態がある。例えば、端子金具同士を接続する形態では、両端子金具を電気的に接続する電気的接続部として、図4に示すようなメス型嵌合部130を具えるメス型端子金具100Fや、オス型嵌合部140を具えるオス型端子金具100Mがある。なお、図4では、分かり易いように、メス型嵌合部130のみ、断面を示す。
【0003】
図4に示すメス型端子金具100F、オス型端子金具100Mはいずれも、電線200に具える導体210を接続する導体接続部として、一対の圧着片を主体とするワイヤバレル部110を具える圧着タイプである。メス型端子金具100Fは、図4(A)に示すようにワイヤバレル部110の一方の側に筒状のメス型嵌合部130が延設され、箱部131内部に対向配置された弾性片132,133を具える。オス型端子金具100Mは、ワイヤバレル部110の一方の側に棒状のオス型嵌合部140が延設されている。図4(B)に示すようにメス型嵌合部130の箱部131に棒状のオス型嵌合部140を挿入すると、オス型嵌合部140は、弾性片132,133の付勢力によって強固に挟持され、両端子金具100F,100Mは電気的に接続される。両嵌合部130,140における接触箇所は、接点領域として機能する。
【0004】
電線の導体や端子金具の構成材料は、導電性に優れた銅や銅合金といった銅系材料が主流である。近年、電線の軽量化のために、比重が銅の約1/3であるアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、Al合金等と呼ぶ)を導体や端子金具の構成材料に用いることが検討されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1では、端子金具同士を接続したときの電気的な接続抵抗を低減するために、上述の嵌合部の表面にめっき層を設けることを提案している。このめっき層は、母材側から順にZn層/Cu層/Sn層を具える。Sn(錫)は柔らかく変形し易いことから、Snの変形によって、接続対象同士(ここでは接続する端子金具間)の導通を十分にとることができる。このようにSn層を接点材料として機能させることで、接続抵抗を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-272414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム合金からなる端子金具の外周にSn層を設けて、Sn層を接点材料として利用する場合、Sn層が剥離すると接続抵抗の増大を招く。そのため、長期に亘り、Sn層が脱落せず、十分に密着していることが望まれる。
【0008】
本発明者らが検討した結果、特許文献1に記載されるように下地層としてZn層を具えると、母材(主としてAl)と下地層(Zn)との異種金属の接触腐食によって、経時的にZn層が溶出し、結果として、Zn層の外周に設けたSn層が母材から剥離する恐れがある、との知見を得た。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、Sn層の密着性に優れるアルミニウム基端子金具を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記アルミニウム基端子金具を具える電線の端末接続構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アルミニウム合金に対して、Zn層を形成するためのジンケート処理を施さずにSn層を形成する方法として、下地層に陽極酸化層を用いることを検討した。
【0011】
従来、一次処理として陽極酸化処理を行い、その後、二次処理として、陽極酸化層中の微細孔内に所望の金属を析出させて、当該金属によって陽極酸化層を着色する手法、いわゆる二次電解着色法が知られている。この手法は、母材と陽極酸化層、陽極酸化層と上記金属の着色層とがそれぞれに密着性に優れる。従って、着色層にSnを用い、このSn層の下地層に陽極酸化層を利用することで、着色層:Sn層が長期に亘り存在し得る。
【0012】
しかし、陽極酸化層は、一般に、母材側にバリア層と呼ばれる緻密な部分がある。従って、陽極酸化層を形成した場合、母材と陽極酸化層との間に、絶縁物である酸化アルミニウムから構成された上記緻密な部分が介在することになる。
【0013】
一般的な二次電解着色法では、比較的高電圧(10V〜50V程度)を課電するため、上記緻密な部分が存在しても電解めっきなどが行えて、金属の着色層(電解めっき層など)を形成できる。しかし、端子金具の使用電圧は、用途にもよるが、例えば、車載用途では12V程度以下の低電圧であり、絶縁物からなる上記緻密な部分が介在すると、導通が阻害される。従って、このような低電圧で使用する端子金具であっても、十分に導通をとることができ、かつ、Sn層が剥離し難い構成が必要である。
【0014】
そこで、本発明者らは、種々のアルミニウム合金の素材を用意し、二次電解着色を行ったところ、溶体化処理及び時効処理を施した素材に二次電解着色を行った場合には、低電圧でも導通をとることができる、との知見を得た。また、得られた素材を調べたところ、後述する試験例に示すように、陽極酸化層中に、当該陽極酸化層上に形成されたSn層と母材とを連通し、Snが充填された部分が存在することを確認した。このことから、絶縁物からなる陽極酸化層中に、導電性材料:Snからなる連通部分が存在することで、導通がとれたと考えられる。また、このような陽極酸化層が形成された理由は、以下のように考えられる。
【0015】
アルミニウム合金、特に熱処理合金と呼ばれる合金種では、T6処理に代表される溶体化処理及び時効処理といった熱処理を施して、強度などの特性の向上を図ることが行われている。上記時効処理によって生成された析出物や鋳造時に生成される晶出物には、陽極酸化処理に利用する処理液によって溶解するものや、処理液によって溶解しないものの、導電性を有する金属間化合物や金属元素がある。従って、陽極酸化処理前に、溶体化処理及び時効処理といった熱処理を行ったり、鋳造条件を調整したりして、析出物や晶出物を十分に存在させた素材を用意し、この素材にエッチングなどの前処理を行って、析出物などを素材の表層に存在させておくと、陽極酸化処理時に析出物や晶出物が溶解したり、析出物や晶出物上に陽極酸化層が形成されなかったりすることで、母材に至る貫通孔を有する陽極酸化層を形成できた、と考えられる。そして、この貫通孔内にSn成分が充填される(析出される)ことで、母材とSn層とが導通をとれるようになった、或いは母材中の導電性の析出物などを介して母材とSn層とが導通をとれるようになった、と考えられる。本発明は、上記知見に基づくものである。
【0016】
本発明の端子金具は、電線の導体が接続される導体接続部と、上記導体接続部に延設され、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部とを具え、当該端子金具を構成する母材がアルミニウム合金であるアルミニウム基端子金具である。この端子金具は、上記電気的接続部における接点領域に、上記母材に形成された陽極酸化層と、上記陽極酸化層に接して形成され、当該接点領域の最表面を構成するSn層と、Snから構成される導通部とを具える。上記導通部は、上記陽極酸化層を貫通して上記Sn層から上記母材に連続して設けられている。なお、本発明の端子金具は、上記電線の導体がアルミニウム又はアルミニウム合金から構成されたものが接続される。
【0017】
本発明の電線の端末接続構造は、導体を具える電線と、上記導体の端部に取り付けられた端子金具とを具える。上記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されている。そして、上記端子金具が、上記導通部が設けられた陽極酸化層と、上記Sn層とを具える本発明アルミニウム基端子金具である。
【0018】
本発明アルミニウム基端子金具は、アルミニウム合金からなる母材の表面の大部分に陽極酸化層を具え、更に、この陽極酸化層を介してSn層を具え、当該母材とSn層との間にZn層を具えていない。そのため、本発明端子金具は、異種金属の接触腐食によるZn層の流出に伴ってSn層の消失・剥離が生じ得ない。また、本発明端子金具は、母材と陽極酸化層間、陽極酸化層とSn層間のいずれもが密着性に優れることから、Sn層を長期に亘り、十分に維持することができる。かつ、本発明端子金具は、絶縁物からなる陽極酸化層に、導電性材料のSnからなる導通部を具え、導通部のSnと母材(析出物や晶出物の場合もある)とが直接接触するため、導通を確保できる。従って、本発明端子金具は、接点領域に具えるSn層を接点材料に良好に利用できる。また、本発明端子金具は、Sn層を接点材料とすることで、別の接続対象との接続抵抗を低減できる上に、長期に亘り接続抵抗が小さい状態を維持することができる。更に、本発明端子金具において接点領域以外に陽極酸化層を具える場合には、母材の腐食防止を図ることができる。
【0019】
本発明電線の端末接続構造は、本発明端子金具を具えることで、長期に亘り、接続抵抗が小さい接続構造や腐食防止効果が高い接続構造を構築したり、接続抵抗の増大に伴う損失を抑制したりすることができる。
【0020】
本発明の一形態として、Snから構成され、上記導通部に連続し、上記母材と上記陽極酸化層との境界から母材側に突出した突部を具える形態が挙げられる。また、上記突部において、上記境界に沿った最大長さが1μm以上5μm以下である形態が挙げられる。
【0021】
突部を具える上記形態は、当該突部によるSnと母材との接触面積の増大や、当該突部の大きさによってはアンカー効果により、陽極酸化層とSn層との密着性を高められる。この突部は、上述の析出物や晶出物が陽極酸化処理時に溶出することで母材に生じた孔にSnが充填されて形成された、と考えられる。従って、突部の大きさは、析出物などに依存すると考えられる。突部の最大長さが上記範囲を満たすと、密着性を高められる上に、母材中に過度に粗大な析出物や晶出物が存在せず、割れなどが生じ難い。
【0022】
本発明の一形態として、上記母材を構成するアルミニウム合金が2000系合金、6000系合金、及び7000系合金から選択される1種である形態が挙げられる。
【0023】
列挙したアルミニウム合金は、いわゆる熱処理合金であり、溶体化処理及び時効処理によって析出物などを適切に生成でき、導通部を形成し易い。また、列挙したアルミニウム合金は、曲げなどの機械的特性に優れることから、素材板にプレス加工といった塑性加工を施し易く、本発明端子金具の製造性に優れる。更に、列挙したアルミニウム合金は、耐熱性に優れることから、上記形態は、高温環境(例えば、自動車用途では、120℃〜150℃程度)に好適に使用できる。
【0024】
本発明の一形態として、上記陽極酸化層の厚さが0.3μm以上10μm以下である形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、陽極酸化層が十分に存在して、母材とSn層との接合材として良好に機能でき、かつ、陽極酸化層が厚過ぎず、小型化を図ることができる。
【0026】
本発明の一形態として、上記Sn層の厚さが0.3μm以上2μm以下である形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、Sn層が上記特定の範囲を満たすことで、Sn層を接点材料として十分に機能させることができる。
【0028】
本発明の一形態として、上記電気的接続部が別の端子金具に嵌合して電気的に接続される嵌合部であり、上記接点領域が上記嵌合部の一部である形態が挙げられる。
【0029】
上記形態は、端子金具同士が接続される形態であり、少なくとも接点領域にSn層を具えることで、Sn層を接点材料として機能させて、接続抵抗を小さくすることができる。また、上記形態は、長期に亘り、接続抵抗が小さい状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明アルミニウム基端子金具及び本発明電線の端末接続構造は、Sn層の密着性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(A)は、試験例1で作製した試料No.1-1の断面の顕微鏡写真であり、(B)は、母材と陽極酸化層とSn層との配置状態を模式的に示す説明図である。
図2】試験例1において、熱処理を施した試料No.1-1の素材板の断面の顕微鏡写真である。
図3】密着性試験の試験方法を説明する説明図である。
図4】メス型端子金具、及びオス型端子金具の概略構成図であり、(A)は、両端子金具の嵌合前、(B)は、両端子金具の嵌合部を嵌合した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明をより詳細に説明する。
[端子金具]
〔組成〕
本発明アルミニウム基端子金具は、アルミニウム合金から構成されるものとする。アルミニウム合金は、種々の組成のものがあるが、特に、曲げなどの機械的特性や耐熱性に優れる組成のもの、具体的には、JIS規格に規定される2000系合金、6000系合金、7000系合金といったいわゆる熱処理合金が好適である。2000系合金は、ジュラルミン、超ジュラルミンと呼ばれるAl-Cu系合金であり、強度に優れる。具体的な合金番号として、例えば、2024,2219などが挙げられる。6000系合金は、Al-Mg-Si系合金であり、強度、耐食性に優れる。具体的な合金番号として、例えば、6061などが挙げられる。7000系合金は、超々ジュラルミンと呼ばれるAl-Zn-Mg系合金であり、非常に高強度である。具体的な合金番号として、例えば、7075などが挙げられる。
【0033】
本発明者らが調べたところ、6000系合金及び7000系合金では、陽極酸化層に比較的大きな貫通孔が形成される場合があり、この貫通孔を後述する導通部に利用できると期待される。従って、6000系合金及び7000系合金は、本発明端子金具の構成材料により好ましいと期待される。
【0034】
〔組織〕
本発明端子金具は、代表的には、後述する溶体化処理及び時効処理を施して、析出物を積極的に生成させた素材を用いて製造される。従って、本発明の一形態として、当該端子金具を構成するアルミニウム合金は、析出物が存在する形態が挙げられる。また、鋳造時の冷却速度を調整するなどして、晶出物を積極的に生成させた素材を利用した場合には、本発明の一形態として、当該端子金具を構成するアルミニウム合金は、晶出物が存在する形態が挙げられる。その他、本発明の一形態として、当該端子金具を構成するアルミニウム合金は、晶出物及び析出物の双方を具える形態が挙げられる。上記熱処理により、強度などの機械的特性の向上も図ることができ、強度に優れる端子金具とすることができる。母材の組成や鋳造条件、熱処理条件にもよるが、晶析出物の大きさ(直径)は、0.5μm以上10μm以下、好ましくは2μm以上5μm以下であると、後述する導通部を生成し易い上に、粗大な晶析出物の存在による割れの発生などを抑制できる。晶析出物の大きさ(直径)は、母材の断面をとり、この断面に存在する晶析出物を抽出し、各晶析出物の等価面積円の直径を求め、その平均が挙げられる(n≧20個)。
【0035】
〔形状〕
本発明端子金具は、電線に具える導体が接続される導体接続部と、別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部とを具える種々の形状のものを利用できる。公知の端子金具の形状を利用することもできる。
【0036】
導体接続部は、導体を圧着する圧着タイプのもの、溶融した導体が接続される溶融タイプのものなどがある。圧着タイプは、導体接続部として、一対の圧着片や一つの圧着筒体を主体とするワイヤバレル部を具えるものが挙げられる。より具体的には、断面U字状で、電線の導体が配置される底部と、この底部に立設され、導体を挟持する一対の圧着片とを具える形態が挙げられる。導体を包むように上記圧着片を折り曲げて圧縮することで、このワイヤバレル部と導体とが接続される。圧着筒体は、導体が挿入される孔を有しており、この孔に導体を挿入し、この状態で圧縮することで、このワイヤバレル部と導体とが接続される。溶融タイプは、断面U字状で、電線の導体が配置される底部と、この底部に立設され、溶融した導体を保持する一対の壁片とを具える形態が挙げられる。
【0037】
電気的接続部は、導体接続部の一方の側に延設されて、接続対象である別の端子金具や電子機器などに接続される。端子金具同士を接続する形態では、電気的接続部は、上述の図4に示すような棒状のオス型嵌合部140、少なくとも一つの弾性片(図4では対向配置された一対の弾性片132,133)を具えるメス型嵌合部130が挙げられる。ボルトなどの締結部材を介して別の端子金具や電子機器などに接続される形態では、電気的接続部は、締結部材が挿通される貫通孔やU字片を具える締結部が挙げられる。或いは、電気的接続部は、接続対象に設けられた嵌合孔に挿入される平板部材などがある。
【0038】
上記電気接続部において、別の接続対象に直接接触する領域を接点領域とする。上述した嵌合部を具える形態では、接点領域は、オス型端子金具の場合、棒状のオス型嵌合部において、メス型嵌合部の弾性片132,133(図4)に接触する対向する二面の少なくとも一部、メス型端子金具の場合、メス型嵌合部に具える対向配置された弾性片132,133の表面の少なくとも一部が挙げられる。
【0039】
その他、本発明端子金具は、図4に示すように導体接続部の他方の側に、電線200の絶縁層220を圧着するインシュレーションバレル部120を具える形態とすることができる。
【0040】
〔陽極酸化層〕
本発明端子金具では、その表面において少なくとも上述の電気的接続部における接点領域に陽極酸化層及びSn層を具えることを特徴の一つとする。
【0041】
陽極酸化層は、自然酸化膜と異なり、陽極酸化処理により積極的に形成した層であり、一般に、母材側に緻密な部分を具え、その上に直径10nm〜20nm程度の微細孔が複数存在する多孔質な部分を具える。本発明端子金具では、陽極酸化層を、主として、母材と、接点材料とするSn層との接合材に利用することから、陽極酸化層は、Sn層を設ける接点領域に存在すればよく、その形成領域は特に問わない。例えば、端子金具の表面全体に陽極酸化層が存在する形態とすることができる。この形態は、(1)端子金具全体に陽極酸化処理を施すことができるため、当該処理を容易に行えて生産性に優れる、(2)耐食性に優れる。また、本発明者らが調べたところ、導体接続部が圧着タイプである場合、導体接続部に陽極酸化層を積極的に形成することで、端子金具と導体との接触抵抗を低減できる、との知見を得た。この理由は、高硬度で脆性な陽極酸化層が圧着時に破壊されて複数の微細な破片となり、導体接続部を構成するアルミニウム合金の新生面が露出されると共に、上記破片によって、電線に具えるAl合金等からなる導体の表面の自然酸化膜を破壊して導体も新生面が露出されることで、新生面同士が接触できたため、と考えられる。
【0042】
陽極酸化層の厚さは、適宜選択することができる。薄過ぎると、母材とSn層との接合材としての機能を十分に果たすことが難しい。本発明端子金具では、後述する導通部を有することから、陽極酸化層が厚くても導通をとることができるが、厚過ぎると、形成時間の長大化に伴う生産性の低下、接合領域の厚肉化による大型化、母材とSn層間に介在する絶縁物の増加に伴う接触抵抗の増大などが危惧される。そのため、少なくとも接点領域に具える陽極酸化層の厚さは、0.3μm以上5μm以下が好ましく、1μm以上2μm以下がより好ましい。接点領域以外の箇所における陽極酸化層の厚さは、0.3μm以上10μm以下程度が挙げられ、接点領域における陽極酸化層の厚さと同じでも異なっていてもよい。陽極酸化層の厚さは、陽極酸化処理時の電流値や通電時間などによって調整でき、電流値が大きいほど、また、通電時間が長いほど、厚くなる傾向にある。陽極酸化層の形成領域全体に亘ってその厚さが均一的であると、処理条件を制御し易く生産性に優れる。接点領域における陽極酸化層の厚さは、後述する導通部を除く箇所の平均厚さとする。
【0043】
〔Sn層〕
電気的接続部における接点領域に具えるSn層は、Sn及び不可避的不純物で構成される層であり、接点材料に利用する。端子金具において接点領域以外の箇所では、Sn層の有無は問わない。例えば、端子金具の表面全体に上述の陽極酸化層及びSn層の双方を具える形態とすると、Sn層の形成にあたりマスキングの形成・除去が不要であり、生産性に優れる。接点領域以外の箇所に設けられたSn層は、例えば、金属光沢による外観の向上に寄与する。或いは、端子金具の表面全体に上述の陽極酸化層を具え、接点領域にのみSn層を更に具える形態、つまり、Sn層を部分的に具える形態とすることができる。このように陽極酸化層の形成領域とSn層の形成領域とが異なっていてもよい。
【0044】
Sn層の厚さは、適宜選択することができる。厚過ぎると、端子金具同士の接続時などで変形して摩擦が大きくなって接続作業性の低下を招き、薄過ぎると、端子金具同士の接続時などで摩耗して母材又は陽極酸化層が露出し、所望の機能を十分に果たすことが難しい。そのため、少なくとも接点領域に具えるSn層の厚さは、0.3μm以上2μm以下が好ましく、0.7μm以上1.2μm以下がより好ましい。接点領域以外の箇所におけるSn層の厚さは、0.3μm以上5μm以下程度が挙げられ、接点領域におけるSn層の厚さと同じでも異なっていてもよい。接点領域におけるSn層の厚さは、陽極酸化層の厚さを除いた平均厚さ、より具体的にはSn層の表面と陽極酸化層において後述する導通部を除く箇所の表面との間の平均厚さとする。
【0045】
本発明端子金具では、Sn層の下地として陽極酸化層が存在することで、母材に対してSn層が剥離し難く、例えば、後述する密着性試験を行った場合に実質的に剥離が生じない。
【0046】
〔導通部〕
本発明端子金具では、陽極酸化層に母材からSn層に至って貫通する孔部分があり、この孔部分にSn層と同様のSnが充填された導通部を具えることを最大の特徴とする。本発明端子金具は、母材とSn層との間に絶縁物からなる陽極酸化層が介在していながら、この導通部を構成するSnを介して母材とSn層とが接触することで、導通をとることができる。
【0047】
上記導通部は、陽極酸化層における上述の貫通する孔部分に充填されたSnによって構成され、このSnは、一部が母材(析出物や晶出物の場合がある)に接触し、他部がSn層に連続する。陽極酸化層における上記孔部分は、上述のように陽極酸化処理時に母材の表層に存在した晶析出物に起因して形成されたものと考えられる。従って、陽極酸化層を貫通する孔部分(=導通部)の大きさ(直径)として、上記晶析出物の大きさ(直径)と同等以下、具体的には1μm〜5μm程度、更に2μm〜5μm程度が挙げられる。
【0048】
本発明者らが調べたところ、更に、Sn層から連続して、母材にもSn成分が充填された箇所、具体的には、上記孔部分に充填されたSnに連続し、上記母材と上記陽極酸化層との境界から突出した突部を具える形態がある、との知見を得た。この突部は、上述のように母材表層に存在した晶析出物が陽極酸化処理時に溶出し、この溶出によってできた空隙にSnが充填されて形成された、と考えられる。従って、この突部の最大長さは、上記晶析出物の大きさ(直径)に概ね依存し、1μm以上5μm以下、更に2μm以上5μm以下が挙げられる。上記最大長さは、端子金具の断面をとり、この断面において母材と陽極酸化層との境界に沿った方向の長さの最大値とする。
【0049】
上記導通部は、接点領域における陽極酸化層中に少なくとも一つ存在すればよいが、数が多いほど接触抵抗を低減できる。例えば、端子金具の断面をとり、この断面において母材と陽極酸化層との境界に沿って基準線(1mm)をとり、この基準線に対して30個以上存在することが好ましく、90個以上がより好ましい。接点領域以外の箇所における陽極酸化層では、導通部の有無を問わない。
【0050】
〔特性〕
本発明端子金具は、上述のように十分な導通がとれ、低抵抗な接続構造を形成することができる。例えば、接点領域の電気抵抗値が10mΩ以下である。
【0051】
〔製造方法〕
本発明端子金具は、代表的には、素材板を所定の形状に打ち抜き、所定の形状になるようにプレス加工といった塑性加工を施すことで製造することができる。素材板は、例えば、鋳造→熱間圧延→冷間圧延→種々の熱処理(少なくとも溶体化処理及び時効処理を含む)という工程により製造することができる。
【0052】
鋳造工程では、冷却速度を0.1℃/sec〜1000℃/secの範囲で調整することで、上述した範囲の大きさを満たす晶出物を生成できる。
【0053】
上記熱処理は、T6(溶体化処理後に人工時効)、T7処理(溶体化処理後に最大強さを得る人工時効処理条件を超えて過剰時効)、T8処理(溶体化処理後に冷間加工を行い、更に人工時効)、T9処理(溶体化処理後に人工時効を行い、更に冷間加工)が挙げられる。市販の圧延板にこれらの熱処理を施してもよい。
【0054】
6000系合金に施す熱処理の具体的な条件は、例えば、T6処理では、溶体化処理:510℃〜550℃程度、時効処理:170℃〜180℃程度、5時間〜25時間程度が挙げられ、T6処理において時効処理の温度を200℃〜250℃と高めにしてT7処理とすることができる。6000系合金に施すT8処理,T9処理の具体的な条件は、例えば、溶体化処理及び時効処理:上述のT6処理と同様、冷間加工は冷間圧延が挙げられ、この冷間加工は、総圧下率:5%〜50%程度が挙げられる。T8処理では、溶体化処理後に予備時効処理を施してから冷間加工を行うと、冷間加工後に施す最終の時効処理後に、高い耐力や強度を得易くなる。予備時効処理の具体的な条件は、70℃〜120℃、1時間〜15時間程度が挙げられる。
【0055】
7000系合金に施す熱処理の具体的な条件は、例えば、T6処理では、溶体化処理:450℃〜500℃程度、時効処理:115℃〜125℃程度、24時間程度以上、T7処理では、溶体化処理:上述のT6処理と同様、時効処理:110℃〜120℃程度、3時間〜8時間程度+150℃〜190℃程度、6時間〜30時間程度、T9処理では、溶体化処理及び時効処理:上述のT6処理と同様、冷間加工は冷間圧延が挙げられ、この冷間加工は、総圧下率:5%〜50%程度が挙げられる。
【0056】
2000系合金に施す熱処理の具体的な条件は、例えば、T6処理では、溶体化処理:490℃〜550℃程度、時効処理:160℃〜200℃程度、10時間〜40時間程度、T7処理では、溶体化処理:上述のT6処理と同様、時効処理:160℃〜240℃程度、6時間〜14時間程度、T9処理では、溶体化処理及び時効処理:上述のT6処理と同様、冷間加工は冷間圧延が挙げられ、この冷間加工は、総圧下率:5%〜50%程度が挙げられる。
【0057】
そして、上記製造工程の任意の時期、具体的には、素材板の段階、所定の形状に打ち抜かれた素材片の段階、プレス加工された成形体の段階のいずれかにおいて、所望の領域に陽極酸化層及びSn層を形成するための表面処理を行う。素材板や素材片の段階では、表面処理対象が平坦な形状であるため、陽極酸化層やSn層を形成し易く生産性に優れ、成形体の段階では、所望の領域に高精度にSn層を形成することができる。陽極酸化層やSn層を形成しない箇所には、予め、マスキング処理を施しておくことで、陽極酸化層やSn層を部分的に具える形態を製造できる。素材の厚さは、適宜選択することができ、例えば、自動車用途では、0.1mm〜0.5mm程度が挙げられる。
【0058】
陽極酸化層及びSn層の形成は、公知の手法及び条件が利用できる。特に、陽極酸化処理と金属着色(ここでは、Snを含む金属塩を溶解した処理液を用いた電解めっき(Snめっき))とを連続的に行う、いわゆる二次電解着色法を利用すると、生産性に優れる。陽極酸化層を形成した後、無電解めっきや別途電解めっきを行ってSn層を形成することも勿論できる。陽極酸化層やSn層が所望の厚さとなるように処理液の濃度、電流値や通電時間などを調整する。
【0059】
上記素材板などに陽極酸化処理を施すにあたり、脱脂やエッチング、酸洗いといった前処理を施す。上述の溶体化処理及び時効処理を施した素材板などを構成する母材は、晶析出物が分散した組織を有する。この前処理によって、母材表面に晶析出物が存在する状態(露出した状態)とすることができ、上述のように貫通した孔部分を有する陽極酸化層や、この孔部分にSnが充填された導通部を具える端子金具を製造できる。母材表面に晶析出物が確実に存在するように、前処理条件(エッチングに利用する処理液の濃度や浸漬時間など)を調整する。
【0060】
なお、従来、陽極酸化層は、耐食層として用いられていることから、母材表面に緻密に存在することが望まれている。耐食用途では、上述のように晶析出物が母材表面に存在すると、緻密な陽極酸化層が形成され難くなることから、晶析出物をできるだけ存在させないようにすると考えられる。本発明端子金具では、耐食性よりも、母材とSn層との接合材としての機能を主目的とし、上述のように積極的に晶析出物を生成して、敢えて陽極酸化層に貫通孔を存在させ、導通部が形成されるようにする。
【0061】
[電線の端末接続構造]
〔電線〕
本発明端子金具が取り付けられる電線は、導体と、導体の外周に設けられた絶縁層とを具え、導体がAl合金等から構成されたアルミニウム基電線とする。つまり、本発明電線の端末接続構造は、アルミニウム合金からなる端子金具と、Al合金等からなる導体という主成分が同種の金属からなる接続構造であり、端子金具の各部間及び導体と端子金具間のいずれも、電池腐食が実質的に生じない。
【0062】
(導体)
導体を構成するアルミニウム合金は、例えば、Fe,Mg,Si,Cu,Zn,Ni,Mn,Ag,Cr及びZrから選択される1種以上の元素を合計で0.005質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がAl及び不純物からなるものが挙げられる。各元素の好ましい含有量は、質量%で、Fe:0.005%以上2.2%以下、Mg:0.05%以上1.0%以下、Mn,Ni,Zr,Zn,Cr及びAg:合計で0.005%以上0.2%以下、Cu:0.05%以上0.5%以下、Si:0.04%以上1.0%以下が挙げられる。これらの添加元素は、1種のみ、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。上記添加元素に加えて、Ti,Bを500ppm以下の範囲で含有することができる(質量割合)。上記添加元素を含有する合金として、例えば、Al-Fe合金、Al-Fe-Mg合金、Al-Fe-Mg-Si合金、Al-Fe-Si合金、Al-Fe-Mg-(Mn,Ni,Zr,Agの少なくとも1種)合金、Al-Fe-Cu合金、Al-Fe-Cu-(Mg,Siの少なくとも1種)合金、Al-Mg-Si-Cu合金などが挙げられる。導体を構成する線材として、公知のアルミニウム合金線を利用できる。
【0063】
導体を構成する線材は、単線、複数の素線を撚り合わせた撚り線、撚り線を圧縮した圧縮線材のいずれでもよい。導体を構成する線材の線径(撚り線の場合は撚り合わせ前の素線の線径)は、用途などに応じて適宜選択することができ、例えば、0.2mm以上1.5mm以下が挙げられる。
【0064】
導体を構成する線材(撚り線の場合には素線)は、引張強さが110MPa以上200MPa以下、0.2%耐力が40MPa以上、伸びが10%以上、導電率が58%IACS以上の少なくとも一つを満たすものが挙げられる。特に、伸びが10%以上である線材は、耐衝撃性に優れ、端子金具を別の端子金具に取り付ける際などで断線し難い。
【0065】
(絶縁層)
絶縁層の構成材料は、種々の絶縁材料、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたハロゲンフリーの樹脂組成物、難燃性組成物などが挙げられる。絶縁層の厚さは、所望の絶縁強度を考慮して適宜選択することができる。
【0066】
(電線の製造方法)
上記導体は、例えば、鋳造→熱間圧延(→ビレット鋳造材の場合:均質化処理)→冷間伸線加工(→適宜、軟化処理・撚り合わせ・圧縮)という工程により製造することができる。この導体に絶縁層を形成することで、アルミニウム基電線を製造することができる。
【0067】
〔製造方法〕
上述の電線の端部において絶縁層を剥がして導体を露出させ、この露出部分を上述した本発明端子金具の導体接続部に配置して接続する。例えば、圧着片を具える形態では、底部に導体を配置し、この導体を包むように圧着片を折り曲げ、更に圧縮する。このとき、クリンプハイト:C/Hが所定の大きさ(高さ)となるように圧縮状態を調整する。上記工程により、本発明電線の端末接続構造や、アルミニウム基電線の端部に本発明端子金具が取り付けられた端子付き電線を製造することができる。
【0068】
[試験例1]
種々の組成のアルミニウム合金を用意し、前処理⇒陽極酸化処理⇒Sn層の形成という手順で、母材上に陽極酸化層とSn層とを順に具える試料を作製し、断面観察を行った。
【0069】
この試験では、素材として、6000系合金(JIS合金番号:6061)、7000系合金(JIS合金番号:7075)からなり、厚さ0.25mmの市販のアルミニウム合金板(圧延材)を用意した。この素材(圧延材)に表1に示す条件で熱処理を施した。
【0070】
【表1】
【0071】
上記熱処理を施したアルミニウム合金板の断面を走査型電子顕微鏡:SEMによって観察した。図2は、6000系合金からなる試料No.1-1のアルミニウム合金板のSEM写真(1000倍)である。図2において下方領域がアルミニウム合金であり、この中に存在する明るい色(薄い色)の粒が晶析出物(Mg2Siなど)である。図2に示すように、上記熱処理を行うことで、試料No.1-1は、アルミニウム合金全体に亘って、微細な晶析出物が均一的に分散して存在することが分かる。これらの晶析出物の大きさ(平均粒径)を求めたところ、3μm程度であった。この平均粒径は、測定対象であるアルミニウム合金板の断面をとり(n=1)、断面の顕微鏡観察像に二値化処理を施して晶析出物を抽出し、視野(130μm×100μm)中に存在する全ての晶析出物の等価面積円の直径を求め、この直径の平均とした。試料No.1-2も、試料No.1-1と同様に晶析出物が均一的に分散していることを確認している。
【0072】
上記熱処理を施した試料No.1-1,1-2のアルミニウム合金板に、脱脂→エッチング→水洗→酸洗→水洗→陽極酸化→水洗という工程で前処理と陽極酸化処理とを施した。脱脂工程は、市販の脱脂液に各試料の板を含浸した後、撹拌しながらエタノールに含浸し、その後、超音波洗浄を行った。エッチング工程では、水酸化ナトリウム水溶液(200g/L、pH12)、酸洗工程では、70質量%硝酸:400ml/Lと50質量%ふっ酸:40ml/Lとを混合した混合酸水溶液を用いた。陽極酸化工程では、希硫酸液(硝酸水溶液(200ml/L))を用い、所望の厚さ(ここでは、2μm)の陽極酸化層が得られるように通電電流・通電時間を調整した。エッチング後の水洗工程は、超音波洗浄、酸洗後の水洗工程及び陽極酸化後の水洗工程では、流水を用いた。この水洗工程後、陽極酸化層の平均厚さを測定したところ、2μmであった。
【0073】
上記陽極酸化層を形成した試料No.1-1,1-2に、Sn層を電解めっきによって形成した。ここでは、交流電解法を利用し、印加電圧:10V〜50VとしてSnめっきを行った。電解めっき用の処理液には、いわゆる二次電解着色法に用いられている公知のSnめっき用の処理液を利用した。
【0074】
上記電解めっきを施した各試料を板厚方向に切断して断面をとり、当該断面をSEM観察した。図1(A)は、6000系合金からなる試料No.1-1のSEM写真、図1(B)は、この顕微鏡写真に基づく模式説明図である。図1(A)において下方領域がアルミニウム合金からなる母材10であり、母材10直上に存在する層が陽極酸化層20であり、陽極酸化層20上に存在する層がSn層30である。図1(A)に示すように、上述の熱処理を行った試料No.1-1は、(1)母材10中に晶析出物が均一的に分散していること、(2)母材10上に厚さ2μmの陽極酸化層20,厚さ2μmのSn層30が順に形成されていること、そして、(3)陽極酸化層20を貫通し、Sn層30から母材10に連続してSn成分が存在すること、即ち、導通部31(図1(B))が存在することが分かる。特に、図1(A)に示す写真では、Sn層30及び導通部31に連続し、母材10と陽極酸化層20の境界から母材10側に突出した突部32が存在することが分かる。この突部32の最大長さ(母材10と陽極酸化層20との境界に沿った長さの最大値)を測定したところ、2.5μm程度であり、晶析出物の平均粒径と同程度であった。
【0075】
このことから、以下のように考えられる。上記熱処理を経たアルミニウム合金板の表層領域に前処理を施すことで、母材10中の晶析出物が表出され、この状態で陽極酸化処理を施すことで、図1(B)に示すように、晶析出物12上に陽極酸化層が形成されず、陽極酸化層20の表面から母材10に至る貫通孔21が形成される。或いは、晶析出物が陽極酸化処理の処理液によって溶出することで、当該晶析出物部分に陽極酸化層が形成されず、母材10表面側には、晶析出物に応じた凹部11が形成され、陽極酸化層20には、その表面から母材10の凹部11に至る貫通孔22が形成される。これら貫通孔21,22を具える陽極酸化層20にSn層30を形成すると、Sn成分は、凹部11及び貫通孔21,22を埋めた後、陽極酸化層20と貫通孔21,22に充填されたSnとで構成される表面を覆うように更に堆積されることで(電解めっきの場合、析出されることで)、Sn層30が形成されたと考えられる。このようにして凹部11及び貫通孔22にSnが充填された箇所は、当該充填されたSnによって母材10とSn層30とを電気的に接続する導通部として機能すると考えられる。晶析出物12が導電性を有する場合には、貫通孔21にSnが充填された柱状の箇所は、当該充填されたSn及び当該晶析出物12によって母材10とSn層30とを電気的に接続する導通部として機能すると考えられる。
【0076】
試料No.1-2も、試料No.1-1と同様に母材上に陽極酸化層及びSn層を順に具え、更に、導通部や突部が存在することを確認している。
【0077】
作製した試料No.1-1,1-2について、導通の不可を調べた。ここでは、陽極酸化層及びSn層の一部を除去して母材の一部を露出させ、陽極酸化層及びSn層を具える箇所と、露出させた箇所とのそれぞれに端子を接続し、4端子法によって導通状態を調べた。その結果、試料No.1-1,1-2はいずれも、導通がとれることが確認できた。この理由は、図1(A)に示すように、母材表面に絶縁物からなる陽極酸化層が存在するものの、当該陽極酸化層の一部に上述の導通部が存在したため、と考えられる。
【0078】
作製した試料No.1-1,1-2について以下の密着性試験を行った。密着性試験は、図3に示すように試験板SのSn層の表面に市販の粘着テープTを貼り付ける(長さ20mm)。そして、粘着テープTの一端部を上方に引っ張り上げ、粘着テープTにおいてSn層に貼り付けられた領域と引っ張り上げた領域とがつくる角度が90°となるように粘着テープTを剥がす。なお、粘着テープTは、住友スリーエム株式会社製メンディングテープ スコッチ(登録商標) 810-1-12を用いた。試料No.1-1の結果を表2に示す。表2の密着性試験後において、粘着テープTの接合領域は、破線で囲まれた領域である。
【0079】
【表2】
【0080】
陽極酸化層の上にSn層を具え、かつ当該陽極酸化層に導通部を具える試料No.1-1では、密着性試験後、Sn層が全く剥離していないことが分かる。この理由は、母材と陽極酸化層とが密着性に優れ、かつ陽極酸化層とSn層とが密着性に優れるためであると考えられる。また、図1(A)に示すように、Sn層から連続して母材にまでSn成分が充填されたことで(特に突部32を具える)ことで、Sn層と陽極酸化層との密着性が更に高められたと考えられる。試料No.1-2も、試料No.1-1と同様にSn層が全く剥離しなかったことを確認している。
【0081】
[効果]
上記試験結果から、アルミニウム合金からなる端子金具において、その表面の少なくとも一部に陽極酸化層を具え、更にその上にSn層を具えることで、Sn層が剥離し難く、長期に亘り、母材表面にSn層を存在させることができるといえる。そして、陽極酸化層を貫通して、Sn層から母材に連続するようにSn成分が存在する(導通部を具える)ことで、導通をとることができるといえる。また、このような導通部が存在する陽極酸化層は、溶体化処理及び時効処理を施したアルミニウム合金からなる素材を用いることで形成できるといえる。
【0082】
そして、端子金具において別の接続対象と電気的に接続される電気的接続部における接点領域に、上述の導通部を具える陽極酸化層とSn層とを具えることで、接続抵抗を低くし、低抵抗な接続構造が得られると期待される。より具体的には、オス型端子金具に具えるオス型嵌合部の接点領域やメス型端子金具に具えるメス型嵌合部の接点領域に上述の導通部を具える陽極酸化層とSn層と具えることで、当該Sn層を接点材料として良好に利用でき、接続抵抗が低い接続構造(例えば、電線の端末接続構造)が得られると期待される。
【0083】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。例えば、アルミニウム合金の組成、熱処理条件、前処理条件、陽極酸化条件、Sn層の形成条件などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明端子金具及び本発明電線の端末接続構造は、例えば、自動車や飛行機などの移動用機器、ロボットなどの産業機器などにおける配線構造の構成部材に好適に利用することができる。特に、本発明端子金具及び本発明電線の端末接続構造は、主成分がアルミニウムであることで軽量であることから、自動車用ワイヤーハーネスの構成部材に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 母材 11 凹部 12 晶析出物 20 陽極酸化層 21,22 貫通孔
30 Sn層 31 導通部 32 突部 S 試験板 T 粘着テープ
100F メス型端子金具 100M オス型端子金具 110 ワイヤバレル部
120 インシュレーションバレル部 130 メス型嵌合部 131 箱部
132,133 弾性片 140 オス型嵌合部 200 電線 210 導体 220 絶縁層
図3
図4
図1
図2