【実施例】
【0033】
以下、本発明の理解を深めるために実施例および参考例により発明内容を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【0034】
(実施例1)酪酸とドコサヘキサエン酸の併用の、皮膚線維化抑制効果
(1)ヒト皮膚由来線維芽細胞 CC-2511(Clonetics)を使用し、10% ウシ胎児血清(FBS) 、ペニシリン(50 U/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM) を用いて、5% CO
2、37℃の条件下で培養した。実験には8継代以下の細胞を使用した。
【0035】
(2)6穴プレートに28×10
4 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に酪酸ナトリウム(Sigma)を、0、1、4、16、64 mMの濃度で、およびドコサヘキサエン酸(DHA)(Sigma)を100μM添加した。酪酸ナトリウムおよびDHAのいずれも添加していないものをコントロールとした。添加24時間後にmRNA抽出して各種線維化マーカーについての解析を行った。
【0036】
各種線維化マーカー(α-SMA、Collagen I型、Collagen III型、TGF-β1)の発現量の解析は、以下のようにして行った。
TRIzol(invitrogen) を用いて線維芽細胞からmRNAを抽出し、iScript cDNA synthesis kit (BioRad) を用いて逆転写を行った。得られたcDNAについて、以下の表1に示すプライマーとSYBR Green RealTime PCR Master Mix2 (TaKaRa) を用いて、MyiQ (BioRad) により、リアルタイム定量PCR(real-time PCR)を行った。リアルタイム定量PCRの条件は、95℃30秒、アニーリング(温度はプライマーに依存する:表1参照)30秒、72℃30秒を、40サイクルで行った。リファレンス遺伝子としてGAPDH遺伝子のmRNA発現量を解析した。GAPDH遺伝子の相対発現量に基づき、試料ごとのmRNA発現量を補正した。ΔΔCt法にて目的遺伝子の相対的発現量を求めた。
【表1】
【0037】
さらに、酪酸16 mMおよびDHA100 μM添加24時間後の検体に対して、免疫蛍光抗体法にてF-actin を染色することにより、線維芽細胞内のストレスファイバーの発現を解析した。
【0038】
(3)統計学的解析は、多重比較検定 (Turkey-Kramer法) を行った。
【0039】
各種線維化マーカーの発現量の解析結果を、
図1〜4に示す。酪酸単独およびDHA単独と比較して、酪酸およびDHAを併用した場合は、α-SMA、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量が低く、これら遺伝子のmRNA発現が抑制されることがわかった。特に、酪酸が1〜16mMの場合に高い抑制効果が見られた。
【0040】
蛍光顕微鏡を用いて200倍で観察した、免疫蛍光抗体法の結果を
図5に示す。コントロールでは、核周囲の細胞質内にF-actinが発現しており、ストレスファイバーが形成されているが、DHAの添加によりストレスファイバーが減少し、酪酸の添加ではさらに減少した。酪酸とDHAの混合添加では、ストレスファイバーが消退していた。線維状の蛍光(緑色: Molecular Probes社のAlexa Fluor(登録商標) 488 phalloidin)がF-actinを示し、球状の蛍光(青色:DAPI)が核を示す。非添加および単独添加と比較して、酪酸とDHAの併用は、細胞質内でのストレスファイバー形成を抑制することがわかった。
【0041】
(参考例1)酪酸の皮膚線維化抑制効果
(1)実施例1と同様にして、ヒト皮膚由来線維芽細胞 CC-2511(Clonetics)を使用して実験を行った。
【0042】
(2)6穴プレートに28×10
4 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に酪酸ナトリウムを0 mM(コントロール)、1、4、16、64 mMの濃度で添加した。添加24もしくは48時間後にmRNAを抽出して、実施例1と同様にして線維化マーカーについての解析を行った。
【0043】
(3)6穴プレートに28×10
4 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に酪酸ナトリウムを0 mM(コントロール)、1、4、16、64、256 mM の濃度で添加し、添加24時間後にTrypan blue-exclusion test法(Gibco社のTrypan blue染色液)にて細胞数及び細胞生存率(viability)を評価した。
【0044】
結果を
図6に示す。酪酸はα-SMA、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現を抑制することがわかった。また細胞生存率は、1、4、16、64mMの酪酸で処理した場合は、コントロールの場合と有意差がなく、細胞毒性を有さないことがわかった。
【0045】
(参考例2)ドコサヘキサエン酸の皮膚線維化への影響の確認
(1)実施例1と同様にして、ヒト皮膚由来線維芽細胞 CC-2511(Clonetics)を使用した。ドコサヘキサエン酸が0 mMである場合をコントロールとした。
【0046】
(2)6穴プレートに28×10
4 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後にドコサヘキサエン酸を0 mM(コントロール)、25、50、100 mMの濃度で添加した。添加24時間後にmRNA抽出して、実施例1と同様にして線維化マーカーについての解析を行った。
【0047】
結果を
図7に示す。ドコサヘキサエン酸はα-SMA、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現を抑制することがわかった。
【0048】
(実施例2)酪酸とドコサヘキサエン酸の併用の、ケロイド由来線維芽細胞における皮膚線維化抑制効果
ヒト前胸部ケロイド由来線維芽細胞を使用し、10% ウシ胎児血清(FBS)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM) を用いて、5% CO
2、37℃の条件下で培養した。実験には4継代以下の細胞を使用した。
【0049】
6穴プレートに28×10
4cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に短鎖脂肪酸である酪酸ナトリウム(Sigma)を、0、4、16 mMの濃度で、および多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)(Sigma)を100μM添加した。酪酸ナトリウムおよびDHAのいずれも添加していないものをコントロールとした。添加48時間後にBrdU assay(Roche)にて細胞増殖性を評価した。添加48時間後にmRNA抽出して各種線維化マーカーについての解析を行った。
【0050】
さらに、酪酸16 mMおよびDHA100 μM添加48時間後の検体に対して、実施例1に記載の同様にして、免疫蛍光抗体法にてF-actin を染色することにより、線維芽細胞内のストレスファイバーの発現を解析した。また、添加96時間後の検体に対して、免疫蛍光抗体法のDAPI(核)染色により、線維芽細胞のapoptosis動態を解析した。
【0051】
各種線維化マーカー(α-SMA、Collagen I型、CollagenIII型、TGF-β1)の発現量の解析は、以下のようにして行った。
TRIzol(invitrogen) を用いて線維芽細胞からmRNAを抽出し、iScript cDNA synthesis kit (BioRad) を用いて逆転写を行った。得られたcDNAについて、実施例1と同様に、表1に示すプライマーとSYBR Green RealTimePCR Master Mix2 (TaKaRa) を用いて、MyiQ(BioRad) により、リアルタイム定量PCR(real-time PCR)を行った。リアルタイム定量PCRの条件は、95℃30秒、アニーリング(温度はプライマーに依存する:表1参照)30秒、72℃30秒を、40サイクルで行った。リファレンス遺伝子としてGAPDH遺伝子のmRNA発現量を解析した。GAPDH遺伝子の相対発現量に基づき、試料ごとのmRNA発現量を補正した。ΔΔCt法にて目的遺伝子の相対的発現量を求めた。
統計学的解析は、多重比較検定 (Turkey-Kramer法)を行った。
【0052】
各種線維化マーカーの発現量の解析結果を
図8に示す。酪酸はα-SMA、TGF-β1、Collagen III型のmRNA発現、および細胞増殖性を有意に抑制することがわかった。DHAはα-SMA、Collagen III型のmRNA発現を有意に抑制することがわかった。酪酸およびDHAを併用した場合は、α-SMA、TGF-β1、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量、および細胞増殖性を有意に抑制し、特に線維化マーカーの発現において、酪酸単独およびDHA単独と比較して強い抑制効果が認められた。
【0053】
免疫蛍光抗体法の結果を
図9および10に示す。
図9において、コントロールでは、核周囲の細胞質内にF-actinが発現しており、ストレスファイバーが形成されているが、DHAの添加によりストレスファイバーが減少し、酪酸の添加ではさらに減少していた。酪酸とDHAの混合添加では、ストレスファイバーが消退していた。また
図10では、矢印で示す細胞において、核が断片化し、apoptosisが観察された。コントロールでは、apoptosis細胞は観察されないが、DHAの添加ではapoptosis細胞が観察された。酪酸の添加では細胞増殖を抑制した上でapoptosis細胞が観察された。酪酸とDHAの混合添加では、細胞増殖を抑制した上で、単独添加より多くのapoptosis細胞が観察され、さらに核の断片化が単独添加よりも進行していた。
図9および
図10の画像は蛍光顕微鏡を用いて200倍で観察されたものである。
以上の結果から非添加および単独添加と比較して、酪酸とDHAの併用は、細胞質内でのストレスファイバー形成を抑制し、さらにapoptosis促進効果を有することがわかった。
【0054】
(実施例3)酪酸とドコサヘキサエン酸の併用の、翼状片由来線維芽細胞における皮膚線維化抑制効果
【0055】
ヒト再発翼状片由来線維芽細胞を使用し、10% ウシ胎児血清(FBS)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM) を用いて、5% CO
2、37℃の条件下で培養した。実験には4継代以下の細胞を使用した。
【0056】
6穴プレートに28×10
4cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に短鎖脂肪酸である酪酸ナトリウム(Sigma)を、0、4、16 mMの濃度で、および多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)(Sigma)を100μM添加した。酪酸ナトリウムおよびDHAのいずれも添加していないものをコントロールとした。添加48時間後にTrypan blue-exclusion test法(Gibco社のTrypan blue染色液)、BrdU assay(Roche)にて細胞数、細胞生存率(viability)及び細胞増殖性を評価した。添加48時間後にmRNA抽出して各種線維化マーカーについての解析を行った。
【0057】
各種線維化マーカー(α-SMA、Collagen I型、CollagenIII型、TGF-β1)の発現量の解析は、以下のようにして行った。
TRIzol(invitrogen) を用いて線維芽細胞からmRNAを抽出し、iScript cDNA synthesis kit (BioRad) を用いて逆転写を行った。得られたcDNAについて、実施例1と同様に表1に示すプライマーとSYBR Green RealTimePCR Master Mix2 (TaKaRa) を用いて、MyiQ(BioRad) により、リアルタイム定量PCR(real-time PCR)を行った。リアルタイム定量PCRの条件は、95℃30秒、アニーリング(温度はプライマーに依存する:表1参照)30秒、72℃30秒を、40サイクルで行った。リファレンス遺伝子としてGAPDH遺伝子のmRNA発現量を解析した。GAPDH遺伝子の相対発現量に基づき、試料ごとのmRNA発現量を補正した。ΔΔCt法にて目的遺伝子の相対的発現量を求めた。
【0058】
統計学的解析は、多重比較検定 (Turkey-Kramer法)を行った。
【0059】
結果を
図11に示す。酪酸はα-SMA、TGF-β1、Collagen III型のmRNA発現、および細胞増殖性を有意に抑制することがわかった。DHAはα-SMA、Collagen III型のmRNA発現を有意に抑制することがわかった。酪酸およびDHAを併用した場合は、α-SMA、TGF-β1、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量、および細胞増殖性を有意に抑制し、特に線維化マーカーの発現において、酪酸単独およびDHA単独と比較して強い抑制効果が認められた。