(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヘッドストックおよび/または前記テールストックが閉塞材を鋼管の端面の傾斜に追従させる倣い機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の水圧試験装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造された鋼管の品質保証の1つとして水圧試験が実施される場合がある。鋼管の水圧試験では、鋼管内に水を供給して充満させた後、さらに加圧水を供給することにより鋼管内の水圧(圧力)を上昇させて所望の試験水圧とし、その所望の水圧を所定の時間維持する。その際に、鋼管内の水圧に変動がない、すなわち、鋼管にピンホールやクラック等の欠陥による水漏れがないかを判定する。
【0003】
このような水圧試験では、鋼管内に水および加圧水を供給することから、鋼管の両端の開口を閉塞材により閉塞する。その際、水圧試験で加圧した場合に閉塞材と鋼管との隙間から水が漏れるのを防止するためにシール処理を施す。このシール処理としては、一般的に鋼管の外面にシール材(例えば、Uパッキン)を配置する外面シール方式または鋼管の内面にシール材を配置する内面シール方式が採用される。しかし、外面シール方式または内面シール方式によるシール処理では、例えば、外径200〜760mm、肉厚15〜35mm、長さ2〜8mといった大径管が対象となると、シール性能の維持管理が困難、かつ、シール材が高価となる。このため、例えば、鋳造による鋳鉄管といった大径管では、鋼管の端面にシール材を配置する端面シール方式が多用されている。
【0004】
端面シール方式では、例えば、鋼管の両端を面板を介在させて挟持しつつ押付けることにより、鋼管の開口を閉塞させるとともに、シール処理を施すことができる。この場合、面板をシール材として作用させるため、面板と鋼管の端面とを密着させる潰し力を付与する。
【0005】
また、閉塞材としての役割も果たす面板には、水圧が作用することから、水圧試験中は閉塞材に作用する水圧に対抗する力(以下、単に「抗力」ともいう)を付与する必要がある。したがって、押付力は、水圧への抗力と、シール材の潰し力とを加算した値となる。ここで、水圧試験では、前述の通り、鋼管内に水を充満させた状態で昇圧して所望の水圧とすることから、この水圧の上昇に伴って必要な水圧への抗力も増加する。
【0006】
水圧試験における押付力は、例えば、水圧への抗力を水圧試験中の最高水圧時に閉塞材に作用する力に対応する大きさで一定値とし、これに一定のシール材の潰し力を加算したものとすれば、シール性を確保して水圧試験を行うことができる。しかし、水圧試験中の水圧への抗力を一定とする場合、加圧水を供給する前で水圧が低い時には、押付力の大部分が鋼管に作用し、その結果、鋼管に過大な圧縮応力や座屈応力が発生して問題となるおそれがある。
【0007】
この問題に関して特許文献1がある。特許文献1では、鋼管の両端を面板で閉塞した状態で管内に加圧水を供給して水圧試験を行う際に、面板の管に対する押付力(クランプ圧力)を、加圧水の水圧変化に対応させて変化させるとしている。具体的には、鋼管内の水圧より一定圧力だけ高くなるように押付力を制御し、すなわち、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に一定のシール材の潰し力を加算した値に制御する。特許文献1で提案される水圧試験方法では、鋼管内の水圧に応じて抗力を調整することにより、鋼管内の水圧が低い時に鋼管に過大な圧縮応力や座屈応力が発生するのを防止できるとしている。このような特許文献1では、鋼管の両端を挟持する際に面板を介在させ、この面板を閉塞材およびシール材として作用させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、端面シール方式を採用した水圧試験において、特許文献1では、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に一定のシール材の潰し力を加算した値に制御する水圧試験方法が提案されている。また、特許文献1では、鋼管の両端を挟持する際に面板を介在させ、この面板を閉塞材およびシール材として作用させている。ここで、本発明者らは、特許文献1に提案される水圧試験方法により水圧試験を行い、その際に面板として、ウレタンからなる板状のシール材を用いた。その結果、管内の水圧が概ね5MPaを超えると鋼管とシール材との隙間から水漏れが発生し、管内の水圧を所望の水圧にすることができなかった。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、様々な外径および肉厚の鋼管に対応可能である水圧試験装置および水圧試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に一定のシール材の潰し力を加算した値に調整する水圧試験方法において、シール性を確保する手段を検討した。その結果、面板に代えて、シール材としてOリングが配設された平板を用い、Oリングで鋼管の端面と平板の隙間をシールすれば、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に一定のシール材の潰し力を加算した値に制御した場合でも、シール性を確保でき、水圧試験が可能となることを知見した。
【0012】
シール材としてOリングを用いる場合、鋼管の端面でOリングを潰して密着させるために鋼管の外径および肉厚に応じ、用いるOリングの内径を変更する必要がある。このため、様々な外径および肉厚の鋼管に対応するには、配設されるOリングの溝径が異なる平板を相当数準備する必要があり、設備コストが上昇して問題となる。そこで、本発明者らは、平板に同心円状に複数のOリングを配設することにより、上述の問題を解決できることを知見した。
【0013】
同心円状に複数のOリングを配設する際に隣り合うOリングの間隔を短くするのには限界があり、鋼管の肉厚が薄肉の場合は鋼管の端面に位置するOリングが存在しないケースがある。このようなケースでも、板状のシール材(面板)であれば、鋼管の端面にシール材が位置するので、閉塞材として板状のシール材を用いた場合にシール性を確保する方法を検討した。その結果、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御すれば、シール性を確保できることを知見した。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)の鋼管の水圧試験装置および下記(3)および(4)の鋼管の水圧試験方法を要旨としている。
(1)鋼管の水圧試験に用いる試験装置であって、鋼管の両端をその開口を閉塞する閉塞材を介在させて挟持しつつ押付け、かつ、前記閉塞材として第1閉塞材
および前記第1閉塞材上に着脱可能な第2閉塞材を使用可能であるヘッドストックおよびテールストックを備え、前記第1閉塞材が鋼管の端面と接触する側の面に同心円状に複数のOリングが配設された平板であり、前記第2閉塞材が板状のシール材であ
り、前記第1閉塞材上に前記第2閉塞材を装着した状態では、前記第1閉塞材の前記平板に配設された前記Oリングのうちの複数のOリングが、前記第2閉塞材の前記板状のシール材と接触することを特徴とする鋼管の水圧試験装置。
【0015】
(2)前記ヘッドストックおよび/または前記テールストックが閉塞材を鋼管の端面の傾斜に追従させる倣い機構を備えることを特徴とする上記(1)に記載の鋼管の水圧試験装置。
【0016】
(3)鋼管の両端をその開口を閉塞する閉塞材を介在させて挟持しつつ押付けた状態で鋼管内に加圧水を供給して鋼管の水圧試験を行う際に、前記閉塞材として板状のシール材を用いるとともに、前記押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した閉塞材に作用する水圧に対抗する力に、鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御することを特徴とする鋼管の水圧試験方法。
【0017】
(4)鋼管の両端をその開口を閉塞する閉塞材を介在させて挟持しつつ押付けた状態で鋼管内に加圧水を供給して鋼管の水圧試験を行う際に、
前記閉塞材として板状のシール材または鋼管の端面と接触する側の面に同心円状に複数のOリングが配設された平板のいずれかを選択し、前記閉塞材として
前記板状のシール材を用いる場合、前記押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した閉塞材に作用する水圧に対抗する力に、鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御し、前記閉塞材として
前記平板を用いる場合、前記押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した閉塞材に作用する水圧に対抗する力に、一定のシール材の潰し力を加算した値に制御することを特徴とする鋼管の水圧試験方法。
【0018】
本発明の鋼管の水圧試験装置は、下記の顕著な効果を有する。
(1)閉塞材として同心円状に複数のOリングが配設された平板を用いることにより、設備コストを抑えて、様々な外径および肉厚の鋼管について水圧試験を行うことができる。
(2)肉厚が薄肉で前記平板で対応できない鋼管についても、閉塞材として板状のシール材を用いることにより、水圧試験を行うことができる。
【0019】
本発明の鋼管の水圧試験方法は、鋼管内の水圧に応じてシール材の潰し力を調整することから、板状のシール材を用いて鋼管の水圧試験を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の水圧試験装置および水圧試験方法について、図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明の水圧試験装置の構成例を説明する模式図である。同図に示す水圧試験は、長手方向を水平にした状態の鋼管10の両端を挟持するヘッドストック20およびテールストック30と、ヘッドストック20およびテールストック30が設けられるベッド40とを備える。テールストック30はベッド40の一端に固定されて設けられ、ヘッドストック20は低圧シリンダ(図示なし)および高圧シリンダ(図示なし)による駆動によって鋼管10の長手方向に摺動可能な状態でベッド40上に設けられている。
【0023】
このような構成の水圧試験装置は、テールストック30とヘッドストック20との間に、鋼管10を配置し、低圧シリンダの駆動によってヘッドストック20を同図にハッチングを施した矢印の方向に摺動させることによって鋼管の両端を挟持する。この際、テールストック30およびヘッドストック20は閉塞材を介在させて鋼管の両端を挟持する。
図1に示す水圧試験装置では、下記
図2および
図3に示すように、閉塞材として複数のOリングが配設された平板および板状のシール材を使用可能である。
【0024】
図2は、前記
図1に示す本発明の水圧試験装置で閉塞材として平板を介在させて鋼管の両端を挟持した状態を示す図であり、同図(a)は平板の全体を示し、同図(b)は平板と鋼管の端面との接触部を示し、同図(c)は鋼管が薄肉の場合の接触部を示す図である。同図(a)には、水圧試験の対象となる鋼管10と、テールストック30と、閉塞材である平板50とを示す。閉塞材である円形状の平板50はテールストック30に保持される。ただし、同図(a)では、平板50に配設されるOリングを省略した。
【0025】
同図(b)および(c)には、水圧試験の対象となる鋼管10と、平板50と、シール材である複数のOリング51とを示す。同図(b)に示すように、平板50には、鋼管の端面と接触する側の面に同心円状に複数のOリング51が配設されている。このような平板を介在させて鋼管の両端を挟持して押付けることにより、同図(b)に示すように、鋼管10の端面と平板とに複数のOリングが密着した状態となる。
【0026】
図3は、前記
図1に示す本発明の水圧試験装置で閉塞材として板状のシール材を介在させて鋼管の両端を挟持した状態を示す図であり、同図(a)は板状シール材の全体を示し、同図(b)は板状シール材と鋼管の端面との接触部を示す図である。同図(a)には、前記
図2にも示した水圧試験の対象となる鋼管10、テールストック30および閉塞材である平板50に加え、板状かつ円形状のシール材60を示す。ただし、同図(a)では、平板50に配設されるOリングを省略した。また、同図(b)には、水圧試験の対象となる鋼管10と、閉塞材である平板50および板状のシール材60と、平板50に配設されるOリング51とを示す。
【0027】
本発明の水圧試験装置の構成例では、閉塞材である平板50を保持するテールストック30が、板状のシール材60を着脱可能に構成される。このため、
図3(a)および(b)に示すようにテールストック30に板状のシール材60を装着した状態で鋼管10の両端を挟持すれば、鋼管10の両端を板状のシール材60を介在させて挟持することが可能となる。
【0028】
本発明の水圧試験装置の構成例は、
図1〜3に示すように、閉塞材として平板50および板状シール材60が使用可能であるヘッドストック20およびテールストック30を備える。鋼管の両端を平板50または板状シール材60を介在させて挟持した状態で、高圧シリンダの駆動によってヘッドストック20を前記
図1にハッチングを施した矢印の方向に摺動させることにより、鋼管の端面に平板50または板状シール材60を押付けることができ、すなわち、押付力を付与することができる。
【0029】
図1〜3に示す水圧試験装置では、ヘッドストック20が低圧ポンプ(図示なし)および高圧ポンプ(図示なし)から供給される水または加圧水を鋼管内に注入する給水ライン(図示なし)を備え、テールストック30が鋼管内の空気を排出する排気ライン(図示なし)を備える。この給水ラインおよび排気ラインは、閉塞材を貫通して設けられる。また、排気ラインには排気弁が設けられ、鋼管10内に水が充満した段階で閉じることが可能である。
【0030】
このような構成例を採用できる本発明の水圧試験装置は、鋼管10の両端をその開口を閉塞する閉塞材を介在させて挟持しつつ押付け、かつ、閉塞材として第1閉塞材50または第2閉塞材60を使用可能であるヘッドストック20およびテールストック30を備え、第1閉塞材50が鋼管10の端面と接触する側の面に同心円状に複数のOリングが配設された平板であり、第2閉塞材60が板状のシール材であることを特徴とする。
【0031】
本発明の水圧試験装置は、閉塞材として同心円状に複数のOリング51が配設された平板50を備えるので、同一の平板を用いて様々な外径および肉厚の鋼管について水圧試験を行うことができる。このため、鋼管の外径および肉厚に応じてOリングおよび平板を準備する必要がないので、設備コストを抑えることができる。
【0032】
しかし、閉塞材として平板50を用いると、前記
図2(c)に示すように鋼管10の肉厚が薄肉の場合、鋼管10の端面と密着するOリング51が存在せず、シール性を確保することができないケースがある。このようなケースでも、本発明の水圧試験装置は、前記
図3に示すように、閉塞材として板状のシール材60を用いることによりシール性を確保することができる。
【0033】
板状のシール材は、例えば、天然ゴムまたは合成ゴムを板状に成形したものを採用することができる。天然ゴムまたは合成ゴムに圧縮応力を付与すると、圧縮応力が小さい場合は弾性変形となるが、一定の応力を超えると塑性変形が発生する。この塑性変形が発生する応力は、ゴムの材質によって変化する。このため、水圧試験でシール材の潰し力を付与した際に、塑性変形が発生しないように板状のシール材の材質を設定する、すなわち、塑性変形が発生するシール材の応力が水圧試験におけるシール材の潰し力の最大値より大きくなるように板状のシール材の材質を設定する。具体的には、ウレタンゴムやMCナイロン(登録商標)等を採用できる。
【0034】
本発明の水圧試験装置は、さらに制御手段を備え、この制御手段が閉塞材として平板を用いる場合に加圧水を供給して水圧試験を行う際の押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、一定のシール材の潰し力を加算した値に制御し、閉塞材として板状のシール材を用いる場合に加圧水を供給して水圧試験を行う際の押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御するのが好ましい。これにより、押付力が過剰となることなく、シール性を確保することができる。
【0035】
ここで、鋼管の端面が鋼管の軸と直角でなく、傾斜している場合がある。また、鋼管の端面が鋼管の軸と直角であっても、鋼管の両端を試験装置により挟持する際に搬送台車等で鋼管の外面が支持された状態の鋼管の両端を挟持するが、搬送台車の支持精度不良によって鋼管の端面が閉塞材に対して平行に接触しない場合がある。これらの場合にもシール性能を保持するため、本発明の水圧試験装置は、ヘッドストック20および/またはテールストック30が閉塞材を鋼管の端面の傾斜に追従させる倣い機構を備えるのが好ましい。倣い機構としては、例えば、下記
図4に示す球面座および弾性体を用いる方式を採用できる。
【0036】
図4は、テールストックの倣い機構の構成例を示す模式図であり、同図(a)は鋼管の軸とその端面が直角の場合、同図(b)は鋼管の端面が傾斜している場合をそれぞれ示す。同図には、水圧試験の対象である鋼管10と、テールストック30とを示す。テールストック30は、鋼管の端面を閉塞材(平板50)を介在させた状態で挟持するプレート32と、本体31と、本体31およびプレート32に接続された複数のバネ33(弾性体)とを備える。プレート32には突起部32aが設けられ、その先端形状が球面状である。この先端が球面状の突起部32aを受け入れる凹状の球面座31aが本体31に設けられている。また、プレート32は、その外周部に等角度間隔で設けられた8個のバネ33によって本体31側に付勢されている。
【0037】
このような構成の倣い機構を備えるテールストック30は、端面が傾斜している鋼管10を挟持すると、同図(b)に示すように、球面座31aによってプレート32および閉塞材(平板50)の角度が変化することにより、プレート32が鋼管10の端面の傾斜に追従する。これにより、鋼管の端面が傾斜している場合や搬送台車等の支持精度不良により鋼管の端面が閉塞材と平行にならない場合でも、シール性を確保して水圧試験を行うことが可能となる。ここで、同図に示すような倣い機構では、プレート32を本体側に付勢するバネ33を等角度間隔で3個以上設ける必要がある。
【0038】
以上のような本発明の水圧試験装置を用いることができる本発明の水圧試験方法について説明する。
【0039】
本発明の鋼管の水圧試験方法は、鋼管の両端をその開口を閉塞する閉塞材を介在させて挟持しつつ押付けた状態で鋼管内に加圧水を供給して鋼管の水圧試験を行う際に、閉塞材として板状のシール材を用いる場合、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御することを特徴とする。
【0040】
前述の通り、閉塞材として板状のシール材を用いる場合、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に一定のシール材の潰し力を加算した値に制御すると、鋼管と板状のシール材との隙間から水漏れが発生し、管内の水圧を所望の水圧にすることができない。その理由は明確でないが、以下の理由が推測される。
【0041】
閉塞材として板状のシール材を用いる場合、シール材のうちで鋼管の端面と接触する部分(以下、単に「端面接触部」ともいう)は潰し力により圧縮変形する。一方、鋼管の端面と接触する部分より内側部分(以下、単に「内側部」ともいう)は鋼管内の水圧が作用して圧縮変形し、鋼管の端面と接触する部分より外側部分(以下、単に「外側部」ともいう)はほとんど変形しない。内側部の圧縮変形量が端面接触部の圧縮変形量と比べて小さく、かつ、端面接触部と内側部との圧縮変形量の差がある程度あれば、シール性が確保される。しかし、シール材の潰し力を一定として押付力を制御する場合、鋼管内の水圧が上昇すると、内側部の圧縮変形量が増加し、端面接触部との圧縮変形量の差が小さくなる。その結果、シール性が低下して水漏れが発生すると推測される。
【0042】
これに対し、本発明の水圧試験方法では、鋼管内の水圧に応じてシール材の潰し力を調整する。これにより、端面接触部と内側部との圧縮変形量の差が減少するのを防止する。その結果、押付力が過剰となることなく、シール性が確保され、鋼管内の水圧を所望の水圧にすることができ、水圧試験を行うことができる。
【0043】
本発明の水圧試験方法は、抗力を鋼管内の水圧に応じて調整する際、例えば、抗力を鋼管内の水圧に比例させればよく、より具体的には下記(1)式により抗力F1(kN)を調整することができる。
F1=(Ai×P’)/1000 ・・・(1)
ここで、P’は鋼管内の水圧(MPa)、Aiは鋼管の開口部の断面積(mm
2)である。
【0044】
本発明の水圧試験方法は、シール材の潰し力を鋼管内の水圧に応じて調整する際、例えば、鋼管内の水圧に応じて線形的にシール材の潰し力を調整すればよく、より具体的には、下記(2)式によりシール材の潰し力F2(kN)を調整することができる。
F2=Fa+Fc ・・・(2)
Fc=(Ft−Fa)/σt×σt’ ・・・(3)
Ft=(At×σt)/1000 ・・・(4)
σt=P×a ・・・(5)
σt’=P’×a ・・・(6)
ここで、Faは板状のシール材と接触するOリングの潰し力(kN)、Fcは板状のシール材の潰し力(kN)、P’は鋼管内の水圧(MPa)、σt’は鋼管内の水圧P’時の鋼管端面の面圧(MPa)、Pは所望の試験水圧(MPa)、σtは所望の試験水圧P時の鋼管端面の面圧(MPa)、Ftは所望の試験水圧P時板状のシール材潰し力、Atは鋼管の断面積(mm
2)、aは補正係数である。
【0045】
板状のシール材と接触するOリングの潰し力Faは、Oリングの単位長さあたりに必要な潰し力に、板状のシール材と接触するOリングの長さを乗ずることにより算出できる。平板に配設されたOリングのうちで複数のOリングが板状のシール材と接触する場合、板状のシール材と接触するOリングの長さは、板状のシール材と接触する複数のOリングの長さを合計した値となる。その鋼管の端面と接触するOリングの潰し力Faは、鋼管内の水圧P’に拘わらず一定値となる。
【0046】
一方、板状のシール材の潰し力Fcは、前記(3)〜(6)式から明らかなように、鋼管内の水圧に応じて線形的に増加する。前記(5)および(6)における補正係数aは、板状のシール材の弾性係数に応じて適宜設定することができる。
【0047】
本発明の鋼管の水圧試験方法は、鋼管の両端をその開口を閉塞する閉塞材を介在させて挟持しつつ押付けた状態で鋼管内に加圧水を供給して鋼管の水圧試験を行う際に、閉塞材として鋼管の端面と接触する側の面に同心円状に複数のOリングが配設された平板を用いる場合、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、一定のシール材の潰し力を加算した値に制御する。これにより、押付力が過剰となることなく、シール性を確保することができる。
【0048】
閉塞材として平板を用いる場合、抗力を鋼管内の水圧に応じて調整する際に、例えば、前記(1)式により抗力F1を調整することができる。シール材の潰し力F2は一定とし、この潰し力はOリングの単位長さあたりに必要な潰し力に、鋼管と接触するOリングの長さを乗ずることにより算出できる。平板に配設されたOリングのうちで複数のOリングが鋼管の端面と接触する場合、鋼管と接触するOリングの長さは、鋼管の端面と接触する複数のOリングの長さを合計した値となる。
【0049】
また、本発明の鋼管の水圧試験方法は、閉塞材に応じて押付力の制御方式を使い分ける実施形態を採用することができる。すなわち、閉塞材として板状のシール材を用いる場合、押付力を、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御し、閉塞材として平板を用いる場合、鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、一定のシール材の潰し力を加算した値に制御してもよい。これにより、様々な外径および肉厚の鋼管について水圧試験を行うことができる。
【実施例】
【0050】
本発明の水圧試験装置および水圧試験方法による効果を検証するため、鋼管の水圧試験を行った。
【0051】
[試験方法]
本試験では、前記
図1〜3に示す水圧試験装置を用いて水圧試験を行った。本発明例1では、閉塞材として鋼管の端面と接触する側の面に同心円状に複数のOリングが配設された平板とした。平板は厚さ25mmのステンレス鋼板を用いた。また、Oリングは、材質をゴムとし、Oリング断面径が5.1mm、内径が179.3〜716.6mmのものを6.7〜30mm間隔で13本配設した。水圧試験の対象である鋼管は、材質がオーステナイトステンレス鋼であり、その寸法が外径275mm、肉厚73mmおよび長さ405mmの継目無鋼管を用いた。
【0052】
本発明例2では、閉塞材として板状のシール材を用いた。板状のシール材は、材質をMCナイロン(登録商標)とし、厚さを20mmとした。水圧試験の対象である鋼管は、材質がオーステナイトステンレス鋼であり、その寸法が外径275mm、肉厚73mmおよび長さ405mmの継目無鋼管を用いた。
【0053】
本発明例1および本発明例2の試験手順を、下記
図5および
図6を参照しながら説明する。
【0054】
図5は、閉塞材として平板を用いて水圧試験を行った際の押付力の変化を示す模式図であり、本発明例1の押付力の変化を示す図である。同図は、横軸を時間とし、縦軸を押付力、抗力または潰し力とした。
【0055】
本発明例1では、テールストックとヘッドストックとの間に鋼管を配置した状態でヘッドストックを摺動させて鋼管を挟持した。この際、低圧シリンダによってヘッドストックをテールストック側に摺動させることによりヘッドストックから鋼管の端面に作用させた力、すなわち、鋼管に付与した押付力は226.4kNであった。
【0056】
続いて、低圧ポンプによって鋼管内に水を供給して充満させる際に必要な押付力を、高圧シリンダによってヘッドストックをテールストック側にさらに摺動させることにより、付与した。水を充満させる際の押付力は、水圧への抗力にシール材の潰し力を加算した値に制御した。ここで、水を充満させる際の水圧が3.15MPaで一定であることから、この水圧を用いて前記(1)式により算出される抗力41.2kNを、水を充満させる際の水圧への抗力とした。また、シール材の潰し力は226.4kNで一定とした。ここで、Oリングの単位長さあたりに必要な潰し力は6.9N/m、鋼管と接触するOリングの本数は3本であったが、本試験では、便宜的にOリングの単位長さあたりに必要な潰し力6.9N/mに13本のOリングの長さの合計を乗じた値である226.4kNにシール材の潰し力を設定した。
【0057】
上記押付力を付与した状態で、鋼管内の雰囲気を排出しつつ低圧ポンプによって鋼管内に水を供給して充満させた。鋼管内に水が充満した時に、低圧ポンプを停止させるとともに、排気ラインの排気弁を閉じ、その後、高圧ポンプにより鋼管内に加圧水を供給することにより鋼管内の水圧を所望の水圧まで上昇させた。
【0058】
高圧ポンプにより鋼管内に加圧水を供給する際、押付力を、前記(1)式により鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、一定のシール材の潰し力226.4kNを加算した値に制御した。鋼管内の水圧が45MPaに到達した時に、高圧ポンプによる加圧水の供給を停止し、30分間にわたって鋼管内の水圧を維持した。
【0059】
所定時間にわたって鋼管内の水圧を維持した後、排気弁を開き、鋼管内の水圧を下降させた。その際も、水圧を上昇させた際と同様に、押付力を、前記(1)式により鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、一定のシール材の潰し力226.4kNを加算した値に制御した。鋼管内の水が全て排出された後も、高圧シリンダによって押付力を低下させた。
【0060】
図6は、閉塞材として板状のシール材を用いて水圧試験を行った際の押付力の変化を示す模式図であり、本発明例2の押付力の変化を示す図である。同図は、横軸を時間とし、縦軸を押付力、抗力または潰し力とした。
【0061】
本発明例2では、テールストックとヘッドストックとの間に鋼管を配置した状態でヘッドストックを摺動させて鋼管を挟持した。この際、低圧シリンダによってヘッドストックをテールストック側に摺動させることにより鋼管に付与した押付力は226.4kNであった。
【0062】
続いて、低圧ポンプによって鋼管内に水を供給して充満させる際に必要な押付力を、高圧シリンダによってヘッドストックをテールストック側にさらに摺動させることにより、付与した。水を充満させる際の押付力は、水圧への抗力にシール材の潰し力を加算した値に制御した。ここで、水を充満させる際の水圧が3.12MPaで一定であることから、この水圧を用いて前記(1)式により算出される抗力41.2kNを、水を充満させる際の水圧への抗力とした。また、シール材の潰し力は、前記(2)式により算出して401.6kNとした。ここで、板状のシール材と接触するOリングの潰し力Faは226.4kNとし、板状のシール材の潰し力Fcは、水圧が3.12MPaで一定であることから、175.2kNとした。また、板状のシール材と接触するOリングの潰し力Faは、Oリングの単位長さあたりに必要な潰し力6.9N/mに板状のシール材と接触する13本のOリングの長さの合計を乗じた値とした。前記(5)および(6)式では、補正係数a=1.34とした。
【0063】
上記押付力を付与した状態で、鋼管内の雰囲気を排出しつつ低圧ポンプによって鋼管内に水を供給して充満させた。鋼管内に水が充満した時に、低圧ポンプを停止させるとともに、排気ラインの排気弁を閉じ、その後、高圧ポンプにより鋼管内に加圧水を供給することにより鋼管内の水圧を所望の水圧まで上昇させた。
【0064】
高圧ポンプにより鋼管内に加圧水を供給する際、押付力を、前記(1)式により鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、前記(2)式により鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御した。鋼管内の水圧が45MPaに到達した時に、高圧ポンプによる加圧水の供給を停止し、30分間にわたって鋼管内の水圧を維持した。
【0065】
所定時間にわたって鋼管内の水圧を維持した後、排気弁を開き、鋼管内の水圧を下降させた。その際も、水圧を上昇させた際と同様に、押付力を、前記(1)式により鋼管内の水圧に応じて調整した抗力に、前記(2)式により鋼管内の水圧に応じて調整したシール材の潰し力を加算した値に制御した。鋼管内の水が全て排出された後も、高圧シリンダによって押付力を低下させた。
【0066】
[試験結果]
図7は、閉塞材として平板を用いた試験(本発明例1)の結果を示す図であり、経過時間と鋼管内の圧力との関係を示す図である。
図8は、閉塞材として板状のシール材を用いた試験(本発明例2)の結果を示す図であり、経過時間と鋼管内の圧力との関係を示す図である。
図7および
図8から、本発明例1および本発明例2ともに、鋼管内の水圧を45MPaまで上昇させるとともに、その水圧を所定の時間にわたって維持することができた。したがって、本発明の水圧試験装置および水圧試験方法により、シール性を確保できることが明らかになった。
【0067】
本発明例1では、前述の通り、シール材の潰し力を、Oリングの単位長さあたりに必要な潰し力6.9N/mに13本のOリングの長さの合計を乗じた値である226.4kNに設定した。これは、鋼管の外径および肉厚に基づき、鋼管の端面と接触するOリングの本数およびそれらの長さの合計を算出する手間を省くためである。Oリングの単位長さあたりに必要な潰し力に鋼管と接触する3本のOリングの長さの合計を乗じた値に設定しても、当然、本発明例1と同様にシール性を確保できる。