特許第5928824号(P5928824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928824
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】シリンジニードルキャップ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20160519BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   A61M5/32 500
   A61M5/28
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-505615(P2012-505615)
(86)(22)【出願日】2011年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2011055152
(87)【国際公開番号】WO2011114917
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-62998(P2010-62998)
(32)【優先日】2010年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149000
【氏名又は名称】株式会社大協精工
(74)【代理人】
【識別番号】100094488
【弁理士】
【氏名又は名称】平石 利子
(72)【発明者】
【氏名】河内 康
【審査官】 小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−305098(JP,A)
【文献】 特開2003−079727(JP,A)
【文献】 特表2003−511106(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0070854(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0062108(US,A1)
【文献】 米国特許第6485474(US,B1)
【文献】 仏国特許出願公開第2777787(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/28, 5/31, 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針を保護するためにプレフィルドシリンジの先端部に被嵌されるキャップであって、
透明樹脂からなるキャップ本体の内側に透明エラストマーからなる内装材が一体化されており、
記内装材には、前記プレフィルドシリンジの先端部に形成されたヘッド部の外周に密着するシール部が形成され、
前記内装材には、前記注射針の先端部が突き刺さる針先受部が形成され、
記内装材の外表面の全面が、前記キャップ本体の内表面の全面と接触していることを特徴とするシリンジニードルキャップ。
【請求項2】
前記キャップ本体の先端面には、前記内装材の針先受部の軸芯を中心とした円形の凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンジニードルキャップ。
【請求項3】
前記キャップ本体の酸素透過率(cm3/m2・day・atm)が500以上であって、前記内装材の酸素透過率(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)が1000〜40000であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリンジニードルキャップ。
【請求項4】
前記内装材の硬度が20〜75(JIS K 6253 A)であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のシリンジニードルキャップ。
【請求項5】
前記キャップ本体および内装材からなる全体の可視光透過率(400〜800nm)が20%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のシリンジニードルキャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジまたは非プレフィルドシリンジの先端部から突出する注射針を保護するためにこれらのシリンジの先端部に被嵌されるシリンジニードルキャップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場では、バイアルその他の医療用容器に充填された薬液を注射針付きシリンジに移し替えて使用することが多々ある。
一方、所定の注射液が予め所定量だけ充填されたプレフィルドシリンジも、救急時においても所定の注射液を過誤なく所定量だけ正確に投与できるため、多くの医療現場で使用されている。
この種のプレフィルドシリンジとして、バレルの先端部に予め注射針が連結固定された、いわゆる注射針つきプレフィルドシリンジも多くの医療現場で使用されている。これに関連して、プレフィルドシリンジの先端部から突出する注射針を保護するためのシリンジニードルキャップが従来一般に知られている(例えば特許文献1、2参照)。
ここで、特許文献1、2には、ニードル(注射針)の先端部が突き刺さるライニング部材がケーシング内の先端部に装填されたニードルキャップが記載されている。このニードルキャップのケーシングは、透明なプラスチックで成形されており、外部から注射針を視覚的に点検できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−305098号公報
【特許文献2】USP5980495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1、2に記載されたニードルキャップは、ニードル(注射針)の先端部が突き刺さるライニング部材が不透明であるため、ニードル(注射針)の先端部を外部から視覚的に点検することはできない。また、プレフィルドシリンジの先端部のヘッド部に被嵌されるケーシングが比較的硬質のプラスチック製であるため、ヘッド部との密着性が悪く、ニードル(注射針)を収容した内部空間のシール性に難点がある。
本発明は、このような従来技術の問題点に対応してなされたものであり、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針の先端部を含む全体を外部から視覚的に点検することができ、しかも、注射針を覆った内部空間のシール性を向上させることができるシリンジニードルキャップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するため、本発明に係るシリンジニードルキャップは、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針を保護するためにプレフィルドシリンジの先端部に被嵌されるキャップであって、透明樹脂からなるキャップ本体の内側に透明エラストマーからなる内装材が一体化されており、キャップ本体または内装材には、プレフィルドシリンジの先端部に形成されたヘッド部の外周に密着するシール部が形成され、内装材には、注射針の先端部が突き刺さる針先受部が形成されていることを特徴とする。
本発明に係るシリンジニードルキャップでは、プレフィルドシリンジの先端部に被嵌されると、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針の先端部がシリンジニードルキャップの内装材に形成された針先受部に突き刺さる。そして、プレフィルドシリンジの先端部に形成されたヘッド部の外周がシリンジニードルキャップのキャップ本体または内装材に形成されたシール部に密着することで、注射針を覆ったシリンジニードルキャップの内部空間が良好にシールされる。
ここで、本発明のシリンジニードルキャップは、キャップ本体が透明樹脂からなり、内装材が透明エラストマーからなるため、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針は、先端部を含む全体がシリンジニードルキャップの外部から視認可能となる。このため、注射針の湾曲、折損、先端部の位置ずれ、注射液の漏れなどの異常や、更には内装材の針先受部に対する注射針の針刺しの痕跡からその回数まで確認することができ、プレフィルドシリンジの改ざん防止を図ることも可能となる。
本発明のシリンジニードルキャップにおいて、内装材の針先受部の軸芯を中心とした円形の凹部がキャップ本体の先端面に形成されていると、その円形の凹部を通して注射針の先端部の位置ずれを視覚的に点検することができるので好ましい。
また、本発明のシリンジニードルキャップにおいて、キャップ本体の酸素透過率(cm/m・day・atm)が500以上であって、内装材の酸素透過率(cm/m・day・atm:常温、サンプル1mm厚)が1000〜40000であると、シリンジニードルキャップがプレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態、すなわち、注射針の先端部が内装材の針先受部に突き刺さり、注射針を覆ったシリンジニードルキャップの内部空間がシールされた状態で、注射針の先端部を含む全体をEOG(エチレンオキサイドガス)や過酸化水素ガスによって確実に滅菌処理することが可能となるので好ましい。
さらに、本発明のシリンジニードルキャップにおいて、内装材の硬度が20〜75(JIS K 6253 A)であると、注射針の先端部が内装材の針先受部に容易かつ確実に突き刺さると共に、注射針の先端部にダメージを与えず、プレフィルドシリンジのヘッド部の外周が内装材のシール部に円滑に接触して確実に密着するので好ましい。
また、本発明のシリンジニードルキャップにおいて、キャップ本体および内装材からなる全体の可視光透過率(400〜800nm)が20%以上であると、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針の全体を外部から視覚的に容易かつ確実に点検することが可能となるので好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るシリンジニードルキャップでは、プレフィルドシリンジの先端部に被嵌されると、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針の先端部がシリンジニードルキャップの内装材に形成された針先受部に突き刺さる。そして、プレフィルドシリンジの先端部に形成されたヘッド部の外周がシリンジニードルキャップのキャップ本体または内装材に形成されたシール部に密着することで、注射針を覆ったシリンジニードルキャップの内部空間がシールされる。
ここで、本発明のシリンジニードルキャップは、キャップ本体が透明樹脂からなり、内装材が透明エラストマーからなるため、プレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態においても、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針は、先端部を含む全体がシリンジニードルキャップの外部から視認可能となる。このため、注射針の湾曲、折損、先端部の位置ずれ、注射液の漏れなどの異常や、更には内装材の針先受部に対する注射針の針刺しの痕跡からその回数まで確認することができ、プレフィルドシリンジの改ざん防止を図ることも可能となる。
従って、本発明に係るシリンジニードルキャップによれば、プレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態において、プレフィルドシリンジの先端から突出する注射針の先端部を含む全体をシリンジニードルキャップの外部から視覚的に点検することができ、しかも、注射針を覆ったシリンジニードルキャップの内部空間を良好にシールすることができる。
本発明のシリンジニードルキャップにおいて、キャップ本体の酸素透過率(cm/m・day・atm)が500以上であって、内装材の酸素透過率(cm/m・day・atm:常温、サンプル1mm厚)が1000〜40000であると、シリンジニードルキャップがプレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態、すなわち、注射針の先端部が内装材の針先受部に突き刺さり、注射針を覆ったシリンジニードルキャップの内部空間がシールされた状態で、注射針の先端部を含む全体をEOGや過酸化水素ガスによって確実に滅菌処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係るシリンジニードルキャップをプレフィルドシリンジと共に示す正面図である。
図2図1に示したシリンジニードルキャップがプレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態を示す正面図である。
図3図1に示したシリンジニードルキャップの断面構造を拡大して示す縦断面図である。
図4図1に示したシリンジニードルキャップがプレフィルドシリンジの先端部に被嵌される際の途中状態を拡大して示す縦断面図である。
図5図1に示したシリンジニードルキャップがプレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態を拡大して示す縦断面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係るシリンジニードルキャップの断面構造を拡大して示す縦断面図である。
図7図6に示したシリンジニードルキャップがプレフィルドシリンジの先端部に被嵌された状態を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照して本発明に係るシリンジニードルキャップの一実施形態を説明する。図1および図2に示すように、一実施形態に係るシリンジニードルキャップ10は、予め所定の注射液が所定量だけ充填されるプレフィルドシリンジ20の先端部に被嵌されるキャップである。
プレフィルドシリンジ20は、注射液(図示省略)が充填されるバレル21の先端部に注射針22が予め連結固定されて突出するタイプのものであり、バレル21内には、注射液を押し出すためのガスケット23を先端部に有するプランジャロッド24が挿入される。
バレル21の先端部には、テーパ筒状のネック部21Aと、このネック部21Aの先端に連続して若干拡径するヘッド部21Bとが一体に形成されており、これらの中心部に注射針22が配置されて突出している。
シリンジニードルキャップ10は、図3図5に拡大して示すように、砲弾状の内部空間を有する円筒状のキャップであり、キャップ本体としての外層部11と、その内側に内装材として一体化される内層部12とを有する2層構造とされている。
ここで、キャップ本体としての外層部11は透明樹脂からなり、内装材としての内層部12は透明エラストマーからなる。このような2層構造は、内層部12の外周に外層部11を接着した構造であってもよいが、本実施形態においては、金型の一部を交換して二度射出成形を行ういわゆる2色成形により、内層部12と外層部11とが一体に射出成形された構造とされている。
ここで、シリンジニードルキャップ10の内層部12の先端部には、プレフィルドシリンジ20の注射針22の先端部が突き刺さる針先受部12Aが形成されている。
また、シリンジニードルキャップ10の内層部12の内周面には、プレフィルドシリンジ20のバレル21の先端部に形成されたヘッド部21Bの外周が密着するシール部12Bと、このヘッド部21Bを軸方向に位置決めするリング状突起12Cとが形成されている。
一方、シリンジニードルキャップ10の外層部11の先端面には、内層部12の軸芯を中心とした円形凹部11Aが内層部12の針先受部12Aに対面して形成されている。
ここで、シリンジニードルキャップ10の内層部12を構成する透明エラストマーとしては、酸素透過率が1000〜40000(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)、好ましくは1500〜30000(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)、より好ましくは1800〜5000(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)、可視光透過率(400〜800nm)が20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であって、硬度が20〜75(JIS K 6253 A)、圧縮永久歪(JIS K 6262:23℃×24時間、小形試験片)が27%以下、好ましくは21%以下、より好ましくは16%以下の範囲内にあるエラストマー、例えばオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー(SBS、SIS、SIBS、SEBS等)、シリコーン系エラストマー(シリコーンゴム等)などが好適に使用される。
オレフィン系エラストマーとしては、炭素数2〜20のα−オレフィン重合体若しくは共重合体、またはエチレンと不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸エステルとの共重合体が挙げられる。例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、プロピレン単独共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、1−ブテン単独重合体、1−ブテン・エチレン共重合体、1−ブテン・プロピレン共重合体、メチルペンテン系樹脂、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等を挙げることができる。
これらの中でも、メチルペンテン系樹脂がシリンジニードルキャップの内層部12のより優れた酸素その他のガス透過性の観点から好ましい。メチルペンテン系樹脂は、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等のメチルペンテン化合物の単独重合体であってもよいし、メチルペンテン化合物を主モノマーとする共重合体であってもよい。メチルペンテン共重合体としては、前記メチルペンテン化合物とα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
メチルペンテン化合物としては、4−メチル−1−ペンテンを、α−オレフィンとしては炭素数2〜24程度のものを好ましく用いることができる。
炭素数2〜24程度のα−オレフィンとしては、たとえばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセン、1−ヘキサデセン、1−ドデセン、1−テトラドデセン等が挙げられ、これらのなかでも、炭素数6〜20の1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセン、1−ヘキサデセン、1−ドデセン、1−テトラドデセン等が好ましい。
メチルペンテン共重合体は、主成分のメチルペンテン化合物の含有量が80以上100重量%未満で、共重合成分であるα-オレフィンの含有量が20以下0重量%超であることが優れたガス透過性、酸素透過性の点で好ましい。
メチルペンテン系樹脂の融点は、耐熱性の面から、210〜280℃が好ましく、230〜250℃であることがより好ましい。
メチルペンテン系樹脂の温度260℃、5kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、0.1〜200g/10分、好ましくは1〜150g/10分の範囲内にあることが成形性や機械的強度等の点で望ましい。
メチルペンテン系樹脂としては、4−メチル−1−ペンテン系樹脂が好ましい。4−メチル−1−ペンテン系樹脂は、4−メチル−1−ペンテンの単独重合体であってもよいし、または4−メチル−1−ペンテン・α−オレフィン共重合体であってもよい。この共重合体は、4−メチル−1−ペンテンを主成分とし、その含有量は80〜99.9重量%、好ましくは90〜99.9重量%である。
また、共重合体の構成成分であるα−オレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20、好ましくは6〜20のα−オレフィンが挙げられ、その含有量は0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。4−メチル−1−ペンテンと共重合するα−オレフィンは、1種または2種以上の組合せであってもよい。
4−メチル−1−ペンテン系樹脂は、市販品を使用することもでき、たとえば三井化学(株)製のオピュラン(登録商標)や、TPXMX001、MX002、MX004、MX021、MX321、RT18、DX845(いずれも登録商標)などが挙げられる。
また、一実施形態のシリンジニードルキャップ10の内層部12は、前記メチルペンテン系樹脂に軟化剤が添加されてなることが好ましい。軟化剤を添加することにより、プレフィルドシリンジ20の先端から突出する注射針22の先端部をシリンジニードルキャップ10の内層部12に形成された針先受部12Aに対し容易かつ確実に突き刺すことができる。前記軟化剤は、粘度の温度依存性が低く、剪断安定性に優れることが望ましく、粘度は5〜100Pa・sの範囲が好ましい。
メチルペンテン系樹脂の軟化剤としては、ポリ塩化ビニルの懸濁液、水素化液体ゴム、塩素変性液体ゴム、液状ポリオレフィン、流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、スクワラン、ジオクチルヘキサン、オリーブスクワラン、米スクワラン及び高級飽和脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上の物質が挙げられる。
ポリ塩化ビニルの懸濁液としては、ポリ塩化ビニルをフタル酸エステル、アジピン酸エステル等の可塑剤に分散させたものが挙げられる。液体ゴムとしては、液状ブタジエンゴム、液状スチレン−ブタジエンゴム、液状ブタジエン−アクリロニトリルゴム、液状クロロプレンゴム、ポリイソブチレン、ブチルゴム、液状イソプレンゴム等が挙げられ、これらの水素化物や塩素化物も使用可能である。液状ポリオレフィンとしては、ポリエチレンオリゴマー、ポリプロピレンオリゴマー等の液状ポリオレフィンオリゴマーが挙げられる。高級飽和脂肪酸エステルとしては、炭素数が10〜20個の飽和脂肪酸のエステルが好適であり、椰子油、蓖麻子油、オリーブ油、ホホバ油等が使用できる。
これらの中では、流動パラフィン、液状ポリオレフィンオリゴマー、スクワラン、ジオクチルヘキサン、オリーブスクワラン、米スクワランのように常温で液状の化合物が好ましく、流動パラフィン、液状ポリオレフィンオリゴマー、スクワラン、ジオクチルヘキサン、オリーブスクワラン、米スクワランのように分子内に分岐構造を持ち不飽和結合の少ない化合物がより好ましい。さらにより好ましいのは、流動パラフィン、液状ポリオレフィンオリゴマーである。最も好ましいのは、流動パラフィンである。
上記液状ポリオレフィンオリゴマーは、エチレンとα−オレフィンとのコオリゴマーで、極性基を含まないものであることが好ましい。
α−オレフィンとしては炭素数2〜24程度のものを好ましく用いることができ、このようなα−オレフィンとして、たとえばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセン、1−ヘキサデセン、1−ドデセン、1−テトラドデセン等を好適に用いることができる。
シリンジニードルキャップ10の内層部12を構成する液状ポリオレフィンオリゴマーと、上記メチルペンテン系樹脂その他の透明エラストマーとの量比は、酸素その他のガス透過性、外層部11を構成する透明樹脂との密着性、および内層部12の成形性等を考慮して注射針22を容易かつ確実に突き刺せる範囲内で適宜調整することができる。重量比は、液状ポリオレフィンオリゴマー:透明エラストマー=5:100〜40:100であることが好ましく、10:100〜25:100であることがより好ましい。
上記流動パラフィンは、種々の長さのアルカンから成る長鎖炭化水素鎖の混合物からなる液状物質であり、本発明の範囲内において、公知のものを何ら制限なく用いることができる。また、日本工業規格JIS K2283に定められる測定方法により求められる37.78℃における動粘度が50〜90mm2/Sである流動パラフィンを好適に用いることができる。
シリンジニードルキャップ10の内層部12を構成する流動パラフィンと、上記メチルペンテン系樹脂その他の透明エラストマーとの量比は、酸素その他のガス透過性、外層部11を構成する透明樹脂との密着性、および内層部12の成形性等を考慮して注射針22を容易かつ確実に突き刺せる範囲内で適宜調整することができる。重量比は、流動パラフィン:透明エラストマー=5:100〜40:100であることが好ましく、10:100〜25:100であることがより好ましい。
流動パラフィンの具体例としては、松村石油社製のホワイトオイル(例えば、P−40、P−70、P−120又はP−400)や、出光興産社製のIPソルベント(例えばIPソルベント2028、同2835)等を挙げることができる。上記のホワイトオイルは炭素数が18〜30のアルカンの混合物であり、上記のIPソルベントは炭素数が16〜20のアルカンの混合物である。例えば、P−40の平均分子量は250であるので、炭素数は18となる。また、P−70の平均分子量は322であるので、炭素数は23となる。さらに、松村石油研究所製のモレスコホワイトP−260、モレスコホワイトP−350(37.78℃における動粘度 75.5mm2/S)、モレスコホワイトP−260(37.78℃における動粘度 56.0mm2/S)や、sonneborn社製のCarnation、Klearol、Kaydol、Hydrobrite 1000や、カネダ(株)製のハイコールK−230、ハイコールK−290、ハイコールK−350等を挙げることができる。その他にも、関東化学社、和光純薬工業社、松本油脂製薬社等から入手することができる。
本発明で用いる流動パラフィンの炭素数(平均炭素数)は、たとえば10〜30が好ましい。
また、一実施形態のシリンジニードルキャップ10の内層部12は、さらにシリコーンオイルなどの潤滑剤が添加されてなることが好ましい。
注射針の外面や内面には、人体等に注射する際の穿刺抵抗を下げ、穿刺時等の痛みを和らげる等の目的で、シリコーンオイルがコーティングされていることが知られている。ところが、かかる注射針をシリンジニードルキャップに刺し込んで保管した場合に、注射針にコーティングされたシリコーンゴムの全部または一部が剥ぎ取られてしまうことがある。本発明は、シリンジニードルキャップの内層部にさらにシリコーンオイルが添加されているので、そのような場合でも、当該キャップの内層部に含有されるシリコーンオイルを注射針のシリコーンオイルが剥ぎ取られた部分等に再び付着等させることができ、上記目的を達成することができる。潤滑剤の添加量は0.2〜20重量部程度が好ましい。
シリコーンオイルとしては、公知のものを用いることができる。具体的には、ジアルキルシリコーンオイル(例えば、ジメチルシロキサン、ヘキサンメチルジシクロキサン、テトラメチルジシクロキサン、オクタメチルトリシクロキサン、ヘキサンメチルトリシロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、トリフロロプロピルヘプタメチルトリシロキサン、ジエチルテトラメチルジシロキサン等)、環状ジアルキルシリコーンオイル(例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、テトラ(トリフロロプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等)、メチルフェニルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アルキルアラルキル変性シリコーンオイル等が挙げられる。
また、市販品も好適に用いることができ、上記メチルフェニルシリコーンオイルの具体例としては、KF−50−100、KF−50−3000(信越化学工業(株)製)、TSF431(東芝シリコーン(株)製)などが挙げられ、上記ポリエーテル変性シリコーンオイルの具体例としては、KF−6011(信越化学工業(株)製)、TSF4730(東芝シリコーン(株)製)などが挙げられる。
内層部12の酸素透過率を1000〜40000(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)としたのは、酸素透過率が1000未満では、ガス滅菌による滅菌速度が著しく遅くなり、酸素透過率が40000を超えると酸素透過による薬液の劣化が懸念されるためである。
内層部12の可視光透過率を20%以上としたのは、可視光透過率が20%未満ではエラストマー内部の注射針22の先端部が視認不可能となるからである。なお本発明においては、可視光透過率は高いほど良いが、エラストマー材料では70%(800nmにおいて)以上のものは開発されていないようである。
なお、ここでいう可視光透過率は、特に断りのない限り可視領域(400〜800nm)の最小の透過率をいい、通常、波長が短いほど光線透過率は減少することから、400nmの光線透過率をさす。なお、800nmの光線透過率は、50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上であることが好ましい。その理由は前述と同じである。さらに、400nmから800nmまでの間の光線透過率のチャートに吸収ピークがなく、直線状に光線透過率が推移するものが好ましい。注射針22を視認するうえでは無色透明が好ましいからである。
可視光透過率は、約1mm厚の平板状サンプルを作成し、分光光度計(UV―Vis Spectrophotometer UV―2450:株式会社島津製作所製)を用いて測定した。なお、積層体については、それぞれ約1mm厚の平板状サンプルを作成しそれらを重ね合わせて、同様に測定した。
内層部12の硬度を20〜75(JIS K 6253 A)としたのは、硬度が20未満ではシリンジニードルキャップ10とプレフィルドシリンジ20の先端部との密着強度が弱くなり、シリンジニードルキャップ10の内部空間を確実にシールすることが困難となり、硬度が75を超えると注射針22の先端部にダメージを与えたり、コアリングを発生するといった問題が生ずるためである。なお、好ましくは硬度35〜65、より好ましくは硬度40〜60である。
内層部12の圧縮永久歪を27%以下としたのは、圧縮永久歪が27%を超えると長期の保存においてシリンジニードルキャップ10が塑性変形を起こし、シリンジニードルキャップ10とプレフィルドシリンジ20の先端部との密着強度が弱くなり、シリンジニードルキャップ10の内部空間を確実にシールできない虞があるからである。なお、本発明においては、圧縮永久歪は低いほど良いが、エラストマー材料では8%未満のものは開発されていないようである。
一方、シリンジニードルキャップ10の外層部11を構成する透明樹脂としては、酸素透過率(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)が500以上、可視光透過率が70%以上である透明樹脂、例えばメチルペンテン系樹脂、プロピレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートやこれらに酸素透過性に優れる材質を混合したものなどが好適に使用される。
これらの中でも、メチルペンテン系樹脂が外層部11のより優れた酸素その他のガス透過性の観点から好ましい。メチルペンテン系樹脂としては、前記した内層部12に用いることができるものと同じものを用いることができる。
本発明では、外層部11を構成する透明樹脂および内層部12を構成する透明エラストマーが同種のものであることが好ましく、いずれもメチルペンテン系樹脂であることが好ましい。同種のものを用いることによって、外層部11と内層部12との接着性が良好となる。
外層部11の酸素透過率(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)を500以上としたのは、酸素透過率が500未満では、ガス滅菌による滅菌速度が著しく遅くなるからである。なお、酸素透過率は高いほど良いが、硬質プラスチック材料で5000を超えるものは開発されていないようである。
外層部11の可視光透過率を70%以上としたのは、可視光透過率が70%未満では注射針22の先端部が視認不可能となるからである。なお本発明においては、可視光透過率は高いほど良い。なお、高い酸素透過率を有するプラスチックとしてはポリメチルペンテンの94%程度が限界のようである。
以上のように構成された一実施形態に係るシリンジニードルキャップ10は、プレフィルドシリンジ20の先端から突出する注射針22を保護するため、図1および図2に示すように、プレフィルドシリンジ20のバレル21の先端部に押し込まれて被嵌される。
その際、図4に示す途中状態では、バレル21の先端部に一体に形成されたヘッド部21Bの上縁部がシリンジニードルキャップ10の内層部12に形成されたリング状突起12Cに係合することで、ヘッド部21Bが所定の位置に仮位置決めされる。すなわち、注射針22がシリンジニードルキャップ10の内層部12の針先受部12Aに突き刺さる直前の位置にヘッド部21Bが仮位置決めされる。
そこで、注射針22の先端部がシリンジニードルキャップ10の中心部に向くようにしてシリンジニードルキャップ10をバレル21の先端部に更に押し込む。すると、図5に示すように、注射針22の先端部がシリンジニードルキャップ10の内層部12の針先受部12Aの中心部付近に突き刺さり、かつ、バレル21の先端部のヘッド部21Bの外周がシリンジニードルキャップ10の内層部12のリング状突起12Cを乗り越えてシール部12Bに密着する。
その際、内層部12の硬度が20〜75であるため、注射針22の先端部が内層部12の針先受部12Aに容易かつ確実に突き刺さると共に、ヘッド部21Bの外周が内層部12のリング状突起12Cを円滑に乗り越えてシール部12Bに確実に密着する。
こうして、プレフィルドシリンジ20の注射針22がシリンジニードルキャップ10に覆われ、かつ、注射針22を覆ったシリンジニードルキャップ10の内部空間が確実にシールされることにより、注射針22が外気から遮断された状態に保持される。
ここで、一実施形態のシリンジニードルキャップ10は、外層部11が透明樹脂からなり、内層部12が透明エラストマーからなる2層構造とされており、しかも外層部11および内層部12の全体の可視光透過率(400〜800nm)が20(400nm)〜50%(800nm)以上、好ましくは25(400nm)〜55(800nm)%、より好ましくは30(400nm)〜65(800nm)%であるため、プレフィルドシリンジ20の先端から突出する注射針22は、内層部12の針先受部12Aに突き刺さった先端部を含めて全体がシリンジニードルキャップ10の外部から視認可能となる。
すなわち、プレフィルドシリンジ20の先端から突出する注射針22の全体がシリンジニードルキャップ10の外周面から視認可能となり、その注射針22の先端部の位置ずれがシリンジニードルキャップ10の先端面の円形凹部11Aから視認可能となる。
従って、一実施形態のシリンジニードルキャップ10によれば、プレフィルドシリンジ20の先端から突出する注射針22の有無は勿論のこと、注射針22の湾曲、折損、先端部の位置ずれ、注射液の漏れなどの異常を的確に点検することが可能となり、更にはシリンジニードルキャップ10の内層部12の針先受部12Aに対する注射針22の針刺しの痕跡からその回数まで確認することができ、プレフィルドシリンジ20の改ざん防止を図ることも可能となる。
さらに、一実施形態のシリンジニードルキャップ10は、外層部11の酸素透過率が500以上(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)の範囲内にあり、内層部12の酸素透過率が1000〜40000(cm3/m2・day・atm:常温、サンプル1mm厚)の範囲内にあるため、図5に示した状態、すなわち、注射針22の先端部が内層部12の針先受部12Aに突き刺さり、注射針22を覆ったシリンジニードルキャップ10の内部空間がシールされた状態においても、注射針22の先端部を含む全体を図示しないEOGまたは過酸化水素ガス滅菌装置により確実に滅菌処理することができる。
本発明のシリンジニードルキャップは、図3図5に示したシリンジニードルキャップ10に限定されるものではなく、例えば図6図7に示すシリンジニードルキャップ30として構成することができる。このシリンジニードルキャップ30は、砲弾状の内部空間を有するキャップ本体31と、その内側先端部に充填された内装材32とが一体化されたものである。
キャップ本体31は、図3図4に示したシリンジニードルキャップ10の外層部11に相当するものであり、外層部11と同様の透明樹脂からなる。一方、内装材32は、図3図4に示したシリンジニードルキャップ10の内層部12の針先受部12Aに相当するものであり、内層部12と同様の透明エラストマーからなる。
ここで、キャップ本体31の先端面には、針先受部としての内装材32を中心とする円形凹部31Aが内装材32に対面して形成されている。また、キャップ本体31の内周面には、プレフィルドシリンジ20のバレル21の先端部に形成されたヘッド部21Bの外周が密着するシール部31Bが形成されている。
図6に示したシリンジニードルキャップ30では、図7に示すようにプレフィルドシリンジ20の先端部に被嵌された状態において、注射針22の先端部が針先受部としての内装材32の中心部付近に突き刺さり、かつ、バレル21の先端部のヘッド部21Bの外周がキャップ本体31の内周のシール部31Bに密着する。従って、図6図7に示したシリンジニードルキャップ30も、図3図5に示したシリンジニードルキャップ10と同様の作用効果を奏する。
本発明のシリンジニードルキャップは、図3図5に示したシリンジニードルキャップ10や図6図7に示したシリンジニードルキャップ30に限定されるものではない。例えば図3図5に示したシリンジニードルキャップ10や図6図7に示したシリンジニードルキャップ30の外周には、プレフィルドシリンジ20のバレル21の先端部から引き抜く際の滑り止め機能を有する適宜の形状の指掛け部、例えばリング状の凹凸部やローレット状の指掛け部を形成することができる。
さらに、図3図5に示したシリンジニードルキャップ10の外層部11の先端面には、円形凹部11Aに代わる浅い円錐状の凹部を形成することができる。同様に、図6図7に示したシリンジニードルキャップ30のキャップ本体31の先端面には、円形凹部31Aに代わる浅い円錐状の凹部を形成することができる。これらの場合、注射針22の先端部の位置ずれは円錐の頂点からのずれとして容易に点検することができる。
【符号の説明】
【0009】
10 :シリンジニードルキャップ
11 :外層部
11A:円形凹部
12 :内層部
12A:針先受部
12B:シール部
12C:リング状突起
20 :プレフィルドシリンジ
21 :バレル
21A:ネック部
21B:ヘッド部
22 :注射針
23 :ガスケット
24 :プランジャロッド
30 :シリンジニードルキャップ
31 :キャップ本体
31A:円形凹部
31B:シール部
32 :内装材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7