(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928906
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】核酸配列計測方法、核酸配列計測用デバイス、核酸配列計測用デバイスの製造方法および核酸配列計測装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20160519BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
C12Q1/68 A
C12M1/34 Z
【請求項の数】18
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-175500(P2013-175500)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-43702(P2015-43702A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2014年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】田口 朋之
(72)【発明者】
【氏名】田名網 健雄
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−248678(JP,A)
【文献】
特表2003−526597(JP,A)
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,1999年,Vol.121,pp.2921-2922
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測方法において、
前記ターゲットを含むサンプルを調製するステップ、
前記サンプルを核酸配列計測用デバイスに供給するステップ、および
前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定するステップ、
を含み、
前記核酸配列計測用デバイスは、
結合部および基端を有し、かつ、蛍光分子が所定の位置に付加された蛍光プローブと、結合部および基端を有し、かつ、消光分子が所定の位置に付加された消光プローブと、
前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固定される固相面を有する基板と、
を備え、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部とが、互いに相補的な核酸配列を有し、
前記蛍光プローブまたは前記消光プローブの少なくとも一方は、前記ターゲットの核酸配列と相補的な核酸配列を有する検出部を有し、
前記ターゲットと前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じていない場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が維持されることにより、前記蛍光分子に接近した前記消光分子により前記蛍光分子が呈する蛍光が消光され、前記ターゲットと前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じた場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が解消されることにより、前記消光分子から離れた前記蛍光分子が蛍光を呈するような位置関係となるように、前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固相面に固定される、
ことを特徴とする核酸配列計測方法。
【請求項2】
前記サンプルの存在下で、前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定することを特徴とする請求項1に記載の核酸配列計測方法。
【請求項3】
ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測用デバイスにおいて、
結合部および基端を有し、かつ、蛍光分子が所定の位置に付加された蛍光プローブと、
結合部および基端を有し、かつ、消光分子が所定の位置に付加された消光プローブと、
前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固定される固相面を有する基板と、
を備え、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部とが、互いに相補的な核酸配列を有し、
前記蛍光プローブまたは前記消光プローブの少なくとも一方は、前記ターゲットの核酸配列と相補的な核酸配列を有する検出部を有し、
前記ターゲットと前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じていない場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が維持されることにより、前記蛍光分子に接近した前記消光分子により前記蛍光分子が呈する蛍光が消光され、前記ターゲットと前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じた場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が解消されることにより、前記消光分子から離れた前記蛍光分子が蛍光を呈するような位置関係となるように、前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固相面に固定される、
ことを特徴とする核酸配列計測用デバイス。
【請求項4】
前記蛍光プローブが、前記検出部を有することを特徴とする請求項3に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項5】
前記基板が平板であり、前記固相面が、該平板の一平面であることを特徴とする請求項3または4に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項6】
前記基板がビーズであり、前記固相面が、該ビーズの表面である、請求項3または4に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項7】
前記蛍光プローブの結合部の少なくとも一部が前記検出部として機能することを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項8】
前記消光プローブの結合部の少なくとも一部が前記検出部として機能することを特徴とする請求項3、5および6のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項9】
前記消光プローブの数が前記蛍光プローブの数よりも多いことを特徴とする請求項3〜8のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項10】
前記蛍光プローブの数と前記消光プローブの数との比が1:3である、請求項9に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項11】
前記蛍光分子が付加される前記所定の位置は、前記蛍光プローブの途中であることを特徴とする請求項3〜10のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項12】
前記消光物質が付加される前記所定の位置は、前記消光プローブの途中であることを特徴とする請求項3〜10のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項13】
前記蛍光分子が付加される前記所定の位置が複数あることを特徴とする、請求項3〜12のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項14】
前記消光物質が付加される前記所定の位置が複数あることを特徴とする、請求項3〜12のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項15】
前記蛍光プローブおよび前記消光プローブの両方が、前記検出部を有する、請求項3〜14のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイス。
【請求項16】
ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測用デバイスの製造方法において、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部とを結合させる工程と、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部が結合した状態において、前記蛍光プローブと前記消光プローブとを前記固相面に結合させる工程と、
を含む、請求項3〜15のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイスの製造方法。
【請求項17】
請求項3〜15のいずれか1項に記載の核酸配列計測用デバイスと、
前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定する蛍光読取装置と、
を有する、核酸配列計測装置。
【請求項18】
前記サンプルの存在下で、前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定する、請求項17に記載の核酸配列計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測用デバイスを用いた核酸配列計測方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAチップを用いて特定の核酸の有無や量を測定する方法が広く知られている。DNAチップは、基板などの固相面に検出対象となる核酸の相補配列を有する検出プローブが固定されて構成される。検出プローブは3´末端または5´末端のいずれかで固相面に固定される。一方、検出対象核酸(ターゲット)には蛍光分子等の修飾が施される。
【0003】
DNAチップを用いた測定では、例えば、以下の操作手順が用いられる。
【0004】
(1)サンプル中に含まれる検出対象分子をPCR等の核酸増幅技術により増幅する。同時に増幅した分子に蛍光分子を付加する。蛍光色素の付加は、例えば、色素を付加した核酸を混ぜてPCR増幅を行う、もしくは予め蛍光色素を付加したプライマを用いて増幅を行うなどによって行う。もしくは増幅後に化学修飾などによって色素を付加する。
【0005】
(2)作製した検出対象核酸(ターゲット)を含む溶液をDNAチップに添加する。検出プローブにより、蛍光修飾された対象核酸がハイブリダイゼーションにより捕集される。
【0006】
(3)捕集されていない分子や、検出プローブの核酸配列に非特異的に結合した分子からの蛍光を除去するためにDNAチップを洗浄する。期待される洗浄度によってはこの洗浄工程を何度か繰り返す。洗浄後、DNAチップの測定前に固相面をドライアップする。
【0007】
(4)蛍光読取装置での固相面の観察により、DNAチップの検出プローブが蛍光を呈するか否かでサンプル中の対象核酸の有無を確認する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】バイオチップ実用化ハンドブック、金子 陽一 他、株式会社 エヌ・ティー・エス、第604ページ、2010年4月6日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の手法では、対象核酸への蛍光分子のラベリング工程が必要となり、工程が煩雑となる。また、検出の前に洗浄工程が必要となるため、工程が煩雑となる。また、洗浄の仕方によってシグナルが低下したり、バックグラウンドノイズが増加したりする。さらに、洗浄のムラによるチップ面内でのシグナルのムラが発生する。
【0010】
一方、非特許文献1には、検出プローブにモレキュラービーコンを用いたDNAチップが報告されている。しかし、モレキュラービーコンを用いたDNAチップではターゲット非存在下での蛍光分子の消光が不十分となる。このため、オフセット光量が大きくなり、検出感度が低くなる。
【0011】
本発明の目的は、核酸検出工程を簡素化できるとともに、検出感度の良好な核酸配列計測方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の核酸配列計測方法は、ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる
標的核酸を計測す
る核酸配列計測方法において、
標的核酸を含むサンプルを調製するステップ、
前記サンプルを核酸配列計測用デバイスに供給するステップ、および
前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定するステップ、
を含み、
前記核酸配列計測用デバイスは、
結合部および基端を有し、かつ、蛍光分子が所定の位置に付加された蛍光プローブと、結合部および基端を有し、かつ、消光分子が所定の位置に付加された消光プローブと、
前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固定される固相面
を有する基板と、
を備え、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部とが、互いに相補的な核酸配列を有し、
前記蛍光プローブまたは前記消光プローブの少なくとも一方は、前記標的核酸の核酸配列と相補的な核酸配列を有する検出部を有し、
前記標的核酸と前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じていない場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が維持されることにより、前記蛍光分子に接近した前記消光分子により前記蛍光分子が呈する蛍光が消光され、前記標的核酸と前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じた場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が解消されることにより、前記消光分子から離れた前記蛍光分子が蛍光を呈するような位置関係となるように、前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固相面に固定される、
ことを特徴とする。
この核酸配列計測方法によれば、互いに独立した
分子である蛍光プローブおよび消光プローブの
それぞれの基端
が固定されるので、消光効果を適切に発揮させることが可能となり、検出感度を良好なものとすることができるとともに、ラべリング工程が不要となり、洗浄工程を省略することも可能となる。
【0013】
前記蛍光を測定するステップでは、前記核酸配列計測用デバイスに供給された溶液を洗浄しない状態で、前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定してもよい。
【0014】
本発明の核酸配列計測用デバイスは、ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる
標的核酸を計測する核酸配列計測用デバイスにおいて、
結合部および基端を有し、かつ、蛍光分子が所定の位置に付加された蛍光プローブ
と、
結合部および基端を有し、かつ、消光分子が所定の位置に付加された消光プローブと、
前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固定される固相面
を有する基板と、
を備え、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部とが、互いに相補的な核酸配列を有し、
前記蛍光プローブまたは前記消光プローブの少なくとも一方は、前記標的核酸の核酸配列と相補的な核酸配列を有する検出部を有し、
前記標的核酸と前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じていない場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が維持されることにより、前記蛍光分子に接近した前記消光分子により前記蛍光分子が呈する蛍光が消光され、前記標的核酸と前記検出部とのハイブリダイゼーションが生じた場合、前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部との結合が解消されることにより、前記消光分子から離れた前記蛍光分子が蛍光を呈するような位置関係となるように、前記蛍光プローブおよび前記消光プローブのそれぞれの基端が固相面に固定される、
ことを特徴とする。
この核酸配列計測用デバイスによれば、互いに独立した
分子である蛍光プローブおよび消光プローブの
それぞれの基端
が固定されるので、消光効果を適切に発揮させることが可能となり、検出感度を良好なものとすることができるとともに、ラべリング工程が不要となり、洗浄工程を省略することも可能となる。
【0015】
前記検出部は前記蛍光プローブに設けられてもよい。
【0016】
前記固相面は、平面基板上またはビーズ上に設けられてもよい。
【0017】
前記結合部の少なくとも一部が前記検出部として機能してもよい。
【0018】
前記消光プローブが前記蛍光プローブよりも多くてもよい。
【0019】
本発明の核酸配列計測用デバイスの製造方法は、ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる
標的核酸を計測する核酸配列計測用デバイスの製造方法において、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部とを結合させるステップと、
前記蛍光プローブの結合部と前記消光プローブの結合部が結合した状態において、前記蛍光プローブと前記消光プローブとを前記固相面に結合させるステップと、
を
含む。
この核酸配列計測用デバイスの製造方法によれば、
蛍光プローブの結合部と消光プローブの結合部とが結合
した状態で、蛍光プローブおよび消光プローブを固相面に
固定させるので、蛍光プローブ
と消光プローブ
との位置関係を適切に管理でき、消光効果を適切に発揮させることが可能となるため、検出感度を良好なものとすることができる。
【0020】
本発明の核酸配列計測装置は、
核酸配列計測用デバイスと、
前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定する
蛍光読取装置と、を有することを特徴とする。
この核酸配列計測装置によれば、互いに独立した
分子である蛍光プローブおよび消光プローブの
それぞれの基端
が固定されるので、消光効果を適切に発揮させることが可能となり、検出感度を良好なものとすることができるとともに、ラべリング工程が不要となり、洗浄工程を省略することも可能となる。
【0021】
前記核酸配列計測装置は、前記核酸配列計測用デバイスに供給された溶液を洗浄しない状態で、前記核酸配列計測用デバイスからの蛍光を測定してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の核酸配列計測方法によれば、互いに独立した
分子である蛍光プローブおよび消光プローブの
それぞれの基端
が固定されるので、消光効果を適切に発揮させることが可能となり、検出感度を良好なものとすることができるとともに、ラべリング工程が不要となり、洗浄工程を省略することも可能となる。
【0023】
本発明の核酸配列計測用デバイスによれば、互いに独立した
分子である蛍光プローブおよび消光プローブの
それぞれの基端
が固定されるので、消光効果を適切に発揮させることが可能となり、検出感度を良好なものとすることができるとともに、ラべリング工程が不要となり、洗浄工程を省略することも可能となる。
【0024】
本発明の核酸配列計測用デバイスの製造方法によれば、
蛍光プローブの結合部と消光プローブの結合部とが結合
した状態で、蛍光プローブおよび消光プローブを固相面に
固定させるので、蛍光プローブ
と消光プローブ
との位置関係を適切に管理でき、消光効果を適切に発揮させることが可能となるため、検出感度を良好なものとすることができる。
【0025】
本発明の核酸配列計測装置によれば、互いに独立した
分子である蛍光プローブおよび消光プローブの
それぞれの基端
が固定されるので、消光効果を適切に発揮させることが可能となり、検出感度を良好なものとすることができるとともに、ラべリング工程が不要となり、洗浄工程を省略することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による核酸配列計測方法に使用されるDNAチップの構成を示す図。
【
図3】ターゲットを検出する原理を模式的に示す図。
【
図5】モレキュラービーコンを検出プローブとしたDNAチップと、本発明の核酸配列計測方法に使用されるDNAチップにおけるターゲット非存在下でのスポット光量を比較したグラフを示す図。
【
図7】蛍光プローブと消光プローブの存在比を変化させた場合のハイブリダイズ光量およびオフセット光量の変化をグラフにより示した図。
【
図8】消光プローブ数を蛍光プローブ数よりも多くした場合の状態を模式的に示す図。
【
図9】変形例を示す図であり、(a)は蛍光プローブおよび消光プローブをビーズ表面に固定する例を示す図、(b)は、蛍光分子および消光物質がプローブの途中に位置している例を示す図。
【
図10】変形例を示す図であり、(a)は、複数個所に蛍光分子および消光物質が付加された例を示す図、(b)は、ターゲットが消光プローブに結合する例を示す図。
【
図11】変形例を示す図であり、(a)は、ターゲットを蛍光プローブ側に結合させる場合と、消光プローブ側に結合させる場合におけるハイブリダイズ光量とオフセット光量とを比較した結果をグラフにより示した図、(b)は、蛍光プローブに対して隣接する未結合の消光プローブによる消光の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明による核酸配列計測方法の実施形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明による核酸配列計測方法に使用されるDNAチップの構成を示す図、
図2はプローブの構成例を示す図である。
【0029】
図1および
図2に示すように、DNAチップは、基板などの固相面100に、検出対象となる核酸であるターゲット30の相補配列に蛍光分子11を付加した蛍光プローブ10と、消光物質12を付加した消光プローブ20と、がそれぞれ固定されて構成される。本発明では、蛍光共鳴エネルギー転移による消光の原理が用いられ、消光物質12としては、DABCYLやBHQなどの公知の物質を使用できる。
【0030】
図2に示すように、蛍光プローブ10は、3´末端から設けられ、ターゲット30の相補配列とされる数塩基分のX部12と、X部12に続いて設けられ、ターゲット30の相補配列とされる検出配列13と、検出配列13に接続され5´末端まで続くリンカー14と、を備え、蛍光プローブ10の3´末端に蛍光分子11が固定される。
【0031】
消光プローブ20は、5´末端から設けられる数塩基分のY部22と、Y部22に続いて設けられ、ターゲット30の相補配列とされる検出配列23と、検出配列23に接続され3´末端まで続くリンカー24と、を備え、消光プローブ20の5´末端に消光物質21が固定される。
【0032】
蛍光プローブ10および消光プローブ20は、それぞれリンカー14およびリンカー24を介して固相面100に固定化される。また、蛍光プローブ10のX部12の配列と消光プローブ20のY部22の配列とは、互いに相補的とされる。また、蛍光プローブ10のX部12と消光プローブ20のY部22とが互いに結合可能な位置に蛍光プローブ10および消光プローブ20が固定されるとともに、蛍光プローブ10のX部12と消光プローブ20のY部22とが結合したときに、消光物質21が蛍光分子11に接近し、これにより蛍光分子11が消光状態となるような位置関係が確保されている。
【0033】
また、蛍光プローブ10とターゲット30との親和性を、X部12およびY部22による蛍光プローブ10と消光プローブ20との親和性よりも高く設計することが望ましい。
【0034】
次に、DNAチップによりターゲット30を検出する原理および操作手順について説明する。
図3はターゲットを検出する原理を模式的に示す図、
図4はターゲットを検出する操作手順を示す図である。
【0035】
図3に示すように、ターゲット30が存在しないときは蛍光分子11および消光物質21にそれぞれ隣接した数塩基分のX部12およびY部22(
図2)が結合することにより、蛍光分子11と消光物質21が接近した状態にある。この状態では励起光が照射されても消光物質21の影響により蛍光分子11は蛍光を呈さない。
【0036】
図4に示すように、サンプル50に対し、遺伝子(ターゲット30)の増幅を行う(ステップ1)。次に、増幅後のターゲット30を含む溶液をDNAチップの固相面100に供給し、ハイブリダイゼーションを行う(ステップ2)。
【0037】
図3に示すように、ターゲット30が蛍光プローブ10と結合するとX部12およびY部22の結合が外れて消光物質21と蛍光分子11の距離が離れることで消光状態が解かれ、励起光の照射により蛍光分子11が蛍光を呈するようになる。したがって、
図4に示すように、蛍光読取装置60での固相面100の観察により、蛍光プローブ10が蛍光を呈するか否かでサンプル中の対象核酸(ターゲット30)の有無を確認することができる(ステップ3)。またこの時、溶液中に含まれる捕集されていないターゲット分子30は蛍光を呈さないために、洗浄する必要がない。したがって、ターゲット溶液存在下で、溶液を通して固相表面100を観察することが可能である。このため、洗浄の影響を排した状態での光量が測定できるとともに、ハイブリダイゼーション中のリアルタイム測定も可能となる。
【0038】
遺伝子の増幅を行った段階(ステップ1)で、遺伝子が増幅されたか否かを確認する試験を行い、遺伝子が増幅されている場合にのみハイブリダイズ(ステップ2)を行うようにしてもよい。これにより、サンプル50に遺伝子が含まれている場合にのみステップ2、ステップ3の操作により遺伝子の種類(菌種等)が調べられることになり、DNAチップや操作に要する不要なコストを削減することができる。
【0039】
なお、遺伝子の存在の有無を検査するタイミングは、増幅終了後に限定されず、増幅反応中であってもよい。検査の手法としては、電気泳動、抗原抗体反応、質量分析やリアルタイムPCR法などを適宜、利用することができる。
【0040】
また、核酸(ターゲット30)はタンパク質や糖鎖などに結合させても良い。この場合には、核酸(ターゲット30)に対するタンパク質や糖鎖などの相互作用が確認できる。
【0041】
このように、本発明の核酸配列計測方法によれば、固相面100に固定されたプローブに蛍光/消光の仕掛けを施してあるため、検出対象分子(ターゲット30)を蛍光分子などが何も付加されていない状態で検出できる。そのため、対象分子に蛍光等の修飾が困難な系にもアレイ(DNAチップ)でのハイブリダイズ検出が適応可能になる。また、対象分子(ターゲット30)自体は蛍光を呈さないため、プローブに捕集されていない余剰の対象分子が存在する状態で測定が可能になり、検出前の洗浄工程を省略できる。
【0042】
また、ラべリング工程が不要なうえ、洗浄工程を省略することによってハイブリダイズの実験にかかる手間がさらに短縮され、作業時間とともにコストが削減される。さらに、洗浄工程の不備による性能悪化、光量低下、背景光上昇、あるいはバラつきの発生等を回避することが可能となる。従来の手法では、洗浄の仕方や、洗浄度、洗浄のムラなどに起因するシグナルや背景光の上昇とバラつきのリスクが発生するが、本発明によればこのようなリスクを回避できる。それによりアレイ面上でより均一な結果を得ることができ、検出の再現性も向上する。
【0043】
また、モレキュラービーコンを検出プローブとしたDNAチップと比較して、ターゲット非存在下での計測光量、すなわち背景光を大きく低下させることができる。
【0044】
図5は、モレキュラービーコンを検出プローブとしたDNAチップと、本発明の核酸配列計測方法に使用されるDNAチップにおけるターゲット非存在下でのスポット光量を比較したグラフを示す図である。
図5に示すように、本発明の核酸配列計測方法に使用されるDNAチップでは、モレキュラービーコン型DNAチップに対して、ターゲット非存在下でのスポット光量を1/10以下に抑制することができることが、本発明者の実験により判明している。これは、本発明にかかるDNAチップでは、蛍光プローブと消光プローブを、それぞれ独立したプローブとして形成しているため、ターゲット非存在下で消光物質と蛍光分子近傍のプローブがステム構造を形成しやすくなったためであると推定している。このように、本発明によれば、背景光の減少により検出感度や測定精度を向上させることができる。
【0045】
また、本発明の核酸配列計測方法によれば、ハイブリダイズのリアルタイム観察が可能となる。すなわち、DNAアレイに検出対象分子(ターゲット)を含む溶液を添加した状態のまま(ウェット状態)でのアレイ観察が可能となる。それにより洗浄の影響を排した状態の光量の確認やハイブリダイズのリアルタイム観察が可能となる。したがって、サンプル濃度が高く、ハイブリダイゼーションが早く進む場合など、状況によっては、より短時間でハイブリダイゼーションを終了させることが可能となる。
【0046】
次に、本発明の核酸配列計測方法にかかるDNAチップの製造方法について説明する。
図6は本発明の核酸配列計測方法にかかるDNAチップの製造方法を示す図である。以下、
図6に即してDNAチップの製造手順を説明する。
【0047】
(1)溶液調製
まず、蛍光プローブ10および消光プローブ20を混合したプローブ液を調製し、プローブ濃度を調整する。
【0048】
(2)カップリング
次に、プローブ液を加熱後、急冷し、蛍光プローブ10と消光プローブ20をカップリングさせる。これにより、X部12およびY部22を介して蛍光プローブ10と消光プローブ20が結合される。ここでは、例えば、プローブ液を95℃に加熱後、5分間温度を保持し、その後、25度に急冷することで蛍光プローブ10と消光プローブ20をカップリングさせる。
【0049】
(3)固相面への固定
次に、蛍光プローブ10と消光プローブ20がカップリングした状態にあるプローブ液を固相面にスポットして、蛍光プローブ10と消光プローブ20を固相面100に固定化する。
【0050】
(4)洗浄
次に、固相面100を洗浄し、固定化されていない余剰のプローブを除去する。以上の手順により、DNAチップが製造される。
【0051】
このように、X部12およびY部22を介して互いに結合された状態で、蛍光プローブ10および消光プローブ20を固相面100に結合させるので、蛍光プローブ10および消光プローブ20の位置関係を適切に管理でき、消光効果を適切に発揮させることが可能となるため、検出感度を良好なものとすることができる。
【0052】
本発明の核酸配列計測方法は上記実施形態に限定されず、以下のような種々の変形が可能である。
【0053】
蛍光体を修飾した蛍光プローブと消光物質を修飾した消光プローブの存在比を変えてそれぞれを固定化することで、消光状態における消光効率を制御することができる。例えば、消光プローブを蛍光プローブよりも多くすると、カップリングされる蛍光分子の確率が高まり、消光効率が上昇する。それによって対象分子が存在していないときの蛍光(オフセット光量)を低く抑えることができる。また、蛍光プローブを消光プローブよりも多くすると、消光作用を受ける蛍光プローブの確率が低くなり、対象物質検出後に呈する蛍光(ハイブリダイズ光量)がより強くなる。
【0054】
図7は、蛍光プローブと消光プローブの存在比(プローブ液における蛍光プローブ数と消光プローブ数の比)を変化させた場合のハイブリダイズ光量およびオフセット光量の変化をグラフにより示した図である。
図7に示すように、本発明者による実験によれば、消光プローブ数を蛍光プローブ数よりも多くするほど、オフセット光量が減少する(蛍光プローブ数:消光プローブ数=1:1、1:2、1:3の場合を参照)。また、蛍光プローブを消光プローブよりも多くすると、ハイブリダイズ光量が強くなる(蛍光プローブ数:消光プローブ数=2:1の場合を参照)。
【0055】
図8は、消光プローブ数を蛍光プローブ数よりも多くした場合の状態を模式的に示す図である。
図8に示すように、DNAチップ上に固定された消光プローブ数が蛍光プローブ数よりも多い場合には、消光プローブ20と結合していない蛍光プローブ10の発生頻度が低下するため、オフセット光量が減少すると推測される。
【0056】
上記実施形態では、蛍光プローブ10のX部12の配列をターゲット30と相補的なものとしているが、蛍光プローブ10のX部12および消光プローブ20のY部22の配列をターゲットの種類に関わらず共通化した配列としてもよい。この場合、X部12およびY部22をターゲットの種類と無関係に同一の構造とし、検出配列13および検出配列23(
図2)のみをターゲットの種類に応じて変えればよいため、設計が容易となる。また消光/発光の特性が検出対象によらず一定となる利点がある。
【0057】
また、蛍光プローブおよび消光プローブが固定される固相面は基板上の平面に限られない。蛍光プローブおよび消光プローブをビーズ表面に固定してもよい。
図9(a)は蛍光プローブおよび消光プローブをビーズ表面に固定する例を示している。
図9(a)に示すように、ビーズ40の表面に蛍光プローブ10および消光プローブ20を固定することにより、蛍光プローブ10および消光プローブ20がビーズ40を中心として放射状に広がった形状となる。この場合、プローブを固定する固相面の表面積が大きくなり、単位面積当たりのプローブ量を増やすことができる。また、検出対象分子を捕集したビーズをその大きさや磁気等で回収することで、検出対象分子の選択的な回収も可能となる。回収した分子は後工程における別の試験などに使用可能となる。
【0058】
蛍光分子もしくは消光物質はプローブの先端についていなくてもよい。
図9(b)は、蛍光分子および消光物質がプローブの途中に位置している例を示している。
図9(b)の例では、蛍光分子11および消光物質21が、それぞれ蛍光プローブ10Aおよび消光プローブ20Aの途中に付加されている。ただし、消光作用が生じるように、蛍光プローブ10Aおよび消光プローブ20Aが結合した状態において、消光物質21が蛍光分子11に接近するように互いに向き合う位置となるように設計することが望ましい。蛍光分子もしくは消光物質をプローブの先端以外の位置に付加する場合には、プローブの先端にはさらに別の修飾が可能となる利点がある。
【0059】
蛍光分子と消光物質はそれぞれ複数種類・複数個所に付加されてもよい。
図10(a)は、複数個所に蛍光分子および消光物質が付加された例を示す図である。
図10(a)の例では、蛍光プローブ10Bに蛍光分子11,11,11が、消光プローブ20Bに消光物質21,21,21が、それぞれ付加されている。複数の蛍光分子および消光物質を1つのプローブに付加する場合、それぞれの蛍光分子または消光物質の種類を異なるものとしてもよい。1つのプローブに複数の蛍光分子および消光物質を付加した場合、検出対象分子が結合した際の蛍光量が増加し、より高感度な検出が可能となる。
【0060】
上記実施形態では蛍光プローブ10の検出配列13だけでなく、消光プローブ20にも検出配列23を設けているが、蛍光プローブのみにターゲットと相補的な検出配列を設けてもよい。ただし、両者のプローブに検出配列を設けることにより、ターゲットの結合頻度を高めることができると考えられる。
【0061】
上記実施形態では、ターゲット30が蛍光プローブ10に結合する設計としているが、ターゲットが消光プローブに結合する設計としてもよい。この場合、ターゲットが近接することによる蛍光分子の特性の変化を回避できる。
【0062】
図10(b)は、ターゲットが消光プローブに結合する例を示す図である。
図10(b)の例では、消光プローブ20Cにターゲット30に対してより親和性のある配列を与え、ターゲット30が蛍光プローブ10Cではなく、消光プローブ20Cに結合するようにしてもよい。この場合、蛍光プローブ10Cにもターゲットと相補的な検出配列を設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0063】
但し、本発明者による実験では、ターゲットを蛍光プローブ側に結合させると、オフセット光量は変わらないが、ハイブリダイズ光量が大きくなる結果が得られている。
図11(a)は、ターゲットを蛍光プローブ側に結合させる場合と、消光プローブ側に結合させる場合におけるハイブリダイズ光量とオフセット光量とを比較した結果をグラフにより示した図である。このように、ターゲットを消光プローブ側に結合させる場合にハイブリダイズ光量が抑制されるのは、蛍光プローブに対して隣接する未結合の消光プローブが消光する効果があるものと推定される。
図11(b)は、かかる効果が発生する様子を示す図である。
図11(b)に示すように、ターゲット30が消光プローブ20Cに結合した場合に、蛍光プローブ10Cに隣接する未結合の消光プローブ20C´によって蛍光プローブ10Cの蛍光が消光される。
【0064】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、ハイブリダイゼーションによりサンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測用デバイスを用いた核酸配列計測方法等に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 蛍光プローブ
11 蛍光分子
12 X部(結合部)
13 検出配列(検出部)
14 リンカー(基端)
20 消光プローブ
21 消光物質
22 Y部(結合部)
23 検出配列(検出部)
24 リンカー(基端)
60 蛍光読取装置(核酸配列計測装置)