特許第5928919号(P5928919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928919
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】投てき消火具用消火剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/06 20060101AFI20160519BHJP
   A62C 19/00 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   A62D1/06
   A62C19/00
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-507173(P2014-507173)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058349
(87)【国際公開番号】WO2013145207
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】511265464
【氏名又は名称】株式会社メディプラン
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(72)【発明者】
【氏名】勝楽 美幸
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−119754(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/158340(WO,A1)
【文献】 特開2012−024255(JP,A)
【文献】 特開2005−288059(JP,A)
【文献】 特開2007−020966(JP,A)
【文献】 特開2007−020965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/06
A62C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
70℃〜90℃の湯400〜550mlに、リン酸水素二アンモニウム10〜80g、重炭酸アンモニウム10〜80g、硫酸アンモニウム10〜100g、炭酸カリウム50〜220gを順次溶解し、加水分解したたん白質泡消火剤、炭化水素系界面活性泡消火剤、フッ素系界面活性泡消火剤のうちのいずれか一の泡消火剤または複数の泡消火剤を100〜200g撹拌混入し水で1000mlに希釈することを特徴とする投てき消火具用消火剤の製造方法
【請求項2】
請求項1において、
消火剤が液温摂氏20度において比重が1.10〜1.14となり、H値が8.0〜8.8となるように調整することを特徴とする投てき消火具用消火剤の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投てき消火具に使用する消火剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
取り扱いが簡便で初期消火能力に優れた投てき消火具が一般家庭、病院、学校などで簡便な初期消火用具として要請されている。この要請に応える一法として、たとえば特許文献1では無水炭酸ソーダや硫酸アンモニウム、尿素などを主剤とする消火剤、特許文献2にはリン酸水素二アンモニウム、重炭酸アンモニウムを主剤とする消火剤が開示されている。また、特許文献3では衝撃により破裂する容器に消火剤を封入した投てき消火具が提案されている。
【0003】
しかし、特許文献1および特許文献2の方法では火災を消し止める不燃性ガスである炭酸ガスあるいはアンモニアガスが火災の熱によって発生しても、瞬間的発生のため、ガスは瞬時に拡散してしまい火災を起こしている空間中にガスが充満しないかぎり、完全な消火は困難である。
【0004】
特許文献3の投てき消火具は、火元から離れて消火できるという点で優れた器具であるが、使用する消火剤によって瞬時に火炎を覆うことができなければ消火は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−379015号公報
【特許文献2】特許第4437053号
【特許文献3】特許第3081531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、これまでの投てき消火具技術では消火剤性能が不十分であった。
【0007】
すなわち、従来技術では消火機構のうち特に酸素遮断型消火の重要な因子となる不燃性ガスの発生が瞬間的であり、特に投てき消火具として使用した場合には火炎のどの部分で容器が破壊するかによっては火炎全体を消火剤、または消火剤から発生した窒息性ガスが覆うことなく消火は不十分に終わる。
【0008】
本発明はこうした従来技術上の問題点を解決することを企図したものであり、発生した窒息性ガスを無駄なく利用する消火剤の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために、本願の請求項1に係る消火剤の製造方法は、消火にあたり火炎の熱によって炭酸ガス、アンモニアガスを分解発生する無機塩類とそのガスを逃がさず燃焼面を覆うように広がる発泡剤とを混合し、且つ、水で希釈してなる。
【0010】
無機塩類は不燃ガス発生により発泡源となることから消火剤が水溶液として成立する範囲で高濃度であるほど望ましいが、水成膜性を考慮して調製するため、加水分解したたん白質泡消火剤、炭化水素系界面活性泡消火剤、フッ素系界面活性泡消火剤のうちのいずれか一の泡消火剤または複数の泡消火剤を10〜20%(重量%)撹拌混入しても泡の発生に大きく影響を与えない範囲とした。
【0011】
通常の泡消火剤または水成膜泡消火剤は使用時に3%から6%の濃度に調整して使用されるが、本発明の消火剤は発泡成分が10〜20%(重量%)である点が特徴であり、必須の構成である。
【0012】
泡消火剤は通常、水と混合し、消火剤噴霧ノズル部で発泡させられ、泡状態で火災部に供給することから、火災部と距離がある場合には高圧の噴射装置が必要となる。
【0013】
本発明の消火剤を投てき型消火具として用いる場合には消火剤は容器全体で火災部に投入、破壊されるため、投てきで届く範囲の消火が可能であり、通常の泡消火器よりも優れた特徴となる。
【発明の効果】
【0014】
こうした構成を備える本発明は高い不燃ガス発生率と派生したガスを逃がさない発泡剤により火炎全体の封鎖性向上させる消火剤を製造することができる
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では、本発明の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0016】
本発明は基本的な構成として、熱分解により炭酸ガスおよびアンモニアガスを発生する基本材料として重炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、リン酸水素二アンモニウムおよび硫酸アンモニウムを溶解する。
【0017】
これらの無機塩類の溶解では請求項1の70℃〜90℃の範囲ではほとんど熱分解は起こらないが、溶解過程でpHが大きく酸性側、あるいはアルカリ性側に触れると、それぞれ強酸性側では炭酸ガスが、強アルカリ側ではアンモニアガスが発生するので、中性付近に常時溶解液を保つように調製していく。
【0018】
無機塩類の溶解完了後、最後に発泡剤を添加する。
【0019】
すべての材料を溶解調製後、20℃における比重およびpHを測定し、比重1.10〜1.14、pH8.0〜8.8の範囲であることを確認する。
【0020】
本消火剤を投てき型消火具用いる場合には、運搬および保管に問題がなく、実際の消火使用時には投てきにより破壊されるような容器を選び充填する。
【0021】
投てき型消火具としては火災発生まで長期間安定して保存することが必要になり、消火剤の塩濃度が高いことを考えるとプラスチック容器を選択することになる。
【0022】
さらに投てき時に比較的簡単に破壊するよう容器はフィラーなどのつなぎ剤を使用しない樹脂のみの構成により、運搬時の強度を得る目的では容器肉厚等の制御によるのがよい。
【0023】
以下に、無機塩類調整後の発泡剤添加量の決定の実験例を示す。
【0024】
無機塩類溶液を調製後、発泡剤添加量を変えた消火液を用意し、ガソリンを火災源とした簡易消火実験により、発泡剤の適正添加量を決定した。発泡剤としてはヤマトプロテック社製アルファフォーム310Rを用いた。
【0025】
簡易消火実験用には200リットルのドラム缶の背面を残し底面から60cmの所で上部を切断したものに、水を10リットル入れ、ガソリンを1リットル投入、着火後30秒して、火勢が一定となったところで、試験液600mLを入れた塩化ビニル製投てき容器をドラム缶の残った背面に距離3mから投げ入れることにした。5秒以下で消火でき、そのまま待機して再発火のない薬剤を合格とした。消火できなかった場合にはドラム缶上部面を写真撮影し、消火できないで残っている面積を算出し、残面積%とした。
【0026】
発泡剤を1%(重量%、以下同じ)として消火実験を1回行った。この場合、消火できず、残面積は40%以上だった。
【0027】
発泡剤を3%として消火実験を3回行った。この場合、3回とも消火できず、残面積は27〜36%だった。
【0028】
発泡剤を5%として消火実験を2回行った。この場合、1回は5秒以下で消火でき再発火もなかったが、残りの1回は消火できず、残面積は35%だった。
【0029】
発泡剤を6%として消火実験を2回行った。この場合、1回は5秒以下で消火でき再発火もなかったが、残りの1回は消火できず、残面積は40%だった。
【0030】
発泡剤を8%として消火実験を3回行った。この場合、2回は5秒以下で消火でき再発火もなかったが、残りの1回は消火できず、残面積は30%だった。
【0031】
発泡剤を10%として消火実験を3回行った。3回とも5秒以下で消火でき再発火もなかった。
【0032】
発泡剤を12%として消火実験を2回行った。2回とも5秒以下で消火でき再発火もなかった。
【0033】
発泡剤を14%として消火実験を2回行った。2回とも5秒以下で消火でき再発火もなかった。
【0034】
発泡剤を16%として消火実験を2回行った。2回とも5秒以下で消火でき再発火もなかった。
【0035】
発泡剤を18%として消火実験を2回行った。2回とも5秒以下で消火でき再発火もなかった。
【0036】
発泡剤を20%として消火実験を2回行った。2回とも5秒以下で消火でき再発火もなかった。
【0037】
発泡剤を22%として消火実験を3回行った。この場合、2回は5秒以下で消火でき再発火もなかったが、残りの1回は消火できず、残面積は20%だった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により製造した投てき消火具用消火剤の使用により、小容量の投てき容器に当該消火剤を封入することで火災現場を選ばない初期消火用投てき型消火具が可能になる。