特許第5928939号(P5928939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928939電離性放射線照射装置および電離性放射線照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928939
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】電離性放射線照射装置および電離性放射線照射方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/10 20060101AFI20160519BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20160519BHJP
   G21K 5/00 20060101ALI20160519BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20160519BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160519BHJP
   B29C 35/08 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   G21K5/10 C
   C08J7/00 302
   C08J7/00CEW
   G21K5/00 B
   B05D3/06 A
   B05D3/06 C
   B05D7/24 302L
   B29C35/08
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-31978(P2012-31978)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-167581(P2013-167581A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】光洋サーモシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】池田 一秋
(72)【発明者】
【氏名】玉重 宏明
(72)【発明者】
【氏名】長岡 康範
(72)【発明者】
【氏名】川合 貴之
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−282688(JP,A)
【文献】 特開2002−341097(JP,A)
【文献】 特開2010−181621(JP,A)
【文献】 特開2003−020351(JP,A)
【文献】 特開2000−239399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/10
B29C 71/04
C08J 7/00−7/02、7/12−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂の融点以上の所定の温度および所定の低酸素濃度雰囲気の下、前記フッ素樹脂に電離性放射線を照射して、前記フッ素樹脂の架橋を行う電離性放射線照射装置であって、
一端に前記フッ素樹脂の搬入口、他端に電離性放射線照射後のフッ素樹脂の搬出口が設けられ、前記搬入口から前記搬出口に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンが区分けされた筒状の耐熱炉と、
前記搬入口から前記搬出口に向かって前記フッ素樹脂を搬送する搬送手段と、
前記加熱ゾーンを加熱する加熱手段と、
前記照射ゾーンの前記フッ素樹脂に、前記耐熱炉の外側から前記電離性放射線を照射する電離性放射線照射手段と、
前記冷却ゾーンを冷却する冷却手段と、
前記搬入口および搬出口に不活性ガスカーテンを形成するための第1の不活性ガス供給手段と、
前記耐熱炉内を不活性ガスで満たすための第2の不活性ガス供給手段と、
前記耐熱炉内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、前記搬入口から50cmの距離における前記耐熱炉内の加熱ゾーンの酸素濃度を100ppm以下となるように、前記第1および第2の不活性ガス供給手段から供給される不活性ガス量を制御する制御手段と
を備えていることを特徴とする電離性放射線照射装置。
【請求項2】
前記搬入口と前記照射ゾーンとの間に排気口が設けられており、
前記第1の不活性ガス供給手段および前記第2の不活性ガス供給手段による前記耐熱炉内への不活性ガス供給量の合計が、前記排気口からの排気量よりも多くなるように制御されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電離性放射線照射装置。
【請求項3】
前記第1の不活性ガス供給手段におけるガス供給量が、前記搬入口および搬出口に開口面積1cm当たり1L/分以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電離性放射線照射装置。
【請求項4】
一端にフッ素樹脂の搬入口、他端に電離性放射線照射後のフッ素樹脂の搬出口が設けられ、前記搬入口から前記搬出口に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンが区分けされた筒状の耐熱炉を用いて、前記フッ素樹脂の融点以上の所定の温度および所定の低酸素濃度雰囲気の下、前記フッ素樹脂に電離性放射線を照射して、前記フッ素樹脂の架橋を行う電離性放射線照射方法であって、
前記搬入口および搬出口に不活性ガスカーテンを形成すると共に、前記耐熱炉内を不活性ガスで満たすことにより、前記耐熱炉内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、前記搬入口から50cmの距離における前記耐熱炉内の加熱ゾーンの酸素濃度を100ppm以下となるように設定し、
前記フッ素樹脂を、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンの順に前記搬入口から搬出口に向かって搬送し、
前記加熱ゾーンにおいて前記フッ素樹脂を加熱し、
前記照射ゾーンにおいて前記フッ素樹脂に、前記耐熱炉の外側から前記電離性放射線を照射し、
前記冷却ゾーンにおいて前記フッ素樹脂を冷却する
ことを特徴とする電離性放射線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂を好適に架橋することができる電離性放射線照射装置および電離性放射線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂は、従来、電離性放射線により崩壊するとされていたが、最近では、融点以上の温度および低酸素雰囲気の下、電離性放射線を照射した場合、フッ素樹脂を架橋させることができることが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
このフッ素樹脂の架橋は、炉内に低酸素濃度のガス気流を流しながら、炉内を搬送されるフッ素樹脂を融点以上に加熱して、電離性放射線を照射することにより行われている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3317452号公報
【特許文献2】特許第3736351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の方法においては、炉の搬入口および搬出口が外部に向けて開放された炉が用いられているため、外気との接触を避けることができず、低酸素濃度のガス気流を流したとしても、大気の侵入による影響を充分に抑制することができない。
【0006】
この結果、炉内における酸素濃度は、図7に示すように両端から中央部に向かって除々に低下するため、炉の中央部が最も低酸素濃度の領域となり、電離性放射線の照射は炉の中央部で行われている。
【0007】
一方、搬入口から連続して搬入されるフッ素樹脂は、酸素濃度の低下と並行して加熱されているため、酸素濃度が充分に低下していない時点で高い温度に加熱されることになり、フッ素樹脂に残存する酸素の影響により、フッ素樹脂の架橋が阻害される恐れがある。
【0008】
また、溶融粘度が低下したフッ素樹脂を搬送するために、鉄や銅など酸化しやすい金属基材上にフッ素樹脂が塗布されているような場合には、酸素濃度が充分に低下していない時点で金属基材が加熱されると、金属基材表面が酸化されて、製品の品質が低下する恐れもある。
【0009】
さらに、前記したように、搬入口および搬出口が外部に向けて開放されて外気との接触を避けることができないため、不活性ガスの消費量が多くならざるを得ない。
【0010】
そこで、本発明は、充分に酸素濃度が低い雰囲気下で加熱を行い、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害されることや、また金属基材表面が酸化されるような問題の発生が充分に抑制され、不活性ガスの消費量を低減することができる電離性放射線照射装置および電離性放射線照射方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載する発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った
【0012】
当該発明は、
フッ素樹脂の融点以上の所定の温度および所定の低酸素濃度雰囲気の下、前記フッ素樹脂に電離性放射線を照射して、前記フッ素樹脂の架橋を行う電離性放射線照射装置であって、
一端に前記フッ素樹脂の搬入口、他端に電離性放射線照射後のフッ素樹脂の搬出口が設けられ、前記搬入口から前記搬出口に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンが区分けされた筒状の耐熱炉と、
前記搬入口から前記搬出口に向かって前記フッ素樹脂を搬送する搬送手段と、
前記加熱ゾーンを加熱する加熱手段と、
前記照射ゾーンの前記フッ素樹脂に、前記耐熱炉の外側から前記電離性放射線を照射する電離性放射線照射手段と、
前記冷却ゾーンを冷却する冷却手段と、
前記搬入口および搬出口に不活性ガスカーテンを形成するための第1の不活性ガス供給手段と、
前記耐熱炉内を不活性ガスで満たすための第2の不活性ガス供給手段と、
前記耐熱炉内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、前記搬入口から50cmの距離における前記耐熱炉内の加熱ゾーンの酸素濃度を100ppm以下となるように、前記第1および第2の不活性ガス供給手段から供給される不活性ガス量を制御する制御手段と
を備えていることを特徴とする電離性放射線照射装置である。
【0013】
搬入口と搬出口に不活性ガスカーテンを形成させると共に、炉(耐熱炉)内にも不活性ガスを供給して炉内の圧力が大気の圧力よりも高くなるように制御することにより、炉内への大気の侵入を確実に抑制することができると共に、搬入口と搬出口の内側において酸素濃度を急激に低下させて、炉内の酸素濃度を図1に示すようなバスタブ曲線状に設定することができ、搬入口近傍から搬出口近傍までを充分な低酸素濃度領域とすることができる。
【0014】
そして、本発明においては、搬入口から50cmの距離における炉内の酸素濃度が100ppm以下となるように制御することができるため、図1に示すように、酸素濃度が充分に低下していない時点でフッ素樹脂が高い温度に加熱されるようなことがなく、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害される恐れはない。
【0015】
また、金属基材上にフッ素樹脂が塗布されている場合であっても、酸素濃度が充分に低下していない時点で金属基材が高い温度に加熱されるようなことがなく、製品の品質が低下する恐れもない。
【0016】
そして、不活性ガスカーテンにより炉内への大気の侵入を確実に抑制しているため、不活性ガスの消費量を低減することができる。
【0017】
本発明における好ましい炉としては、マッフルを挙げることができる。マッフルは内部の壁面に凹凸がないため、炉内に供給された不活性ガスと大気とが置換され易く、開始後、短時間で炉内を充分な低酸素濃度雰囲気とすることができる。
【0018】
また、当該発明は、
前記搬入口と前記照射ゾーンとの間に排気口が設けられており、
前記第1の不活性ガス供給手段および前記第2の不活性ガス供給手段による前記耐熱炉内への不活性ガス供給量の合計が、前記排気口からの排気量よりも多くなるように制御されていることが好ましい。
【0019】
金属基材上に塗布されるフッ素樹脂には、微量の酸素や水分などが含まれており、これらは昇温の際に気化して酸素濃度の低下を招くなど、電離性放射線照射時のフッ素樹脂の架橋に悪影響を与える。
【0020】
しかし、本発明においては、搬入口と照射ゾーンとの間に排気口が設けられているため、フッ素樹脂の架橋に悪影響を与える酸素や水分などを容易に炉外へ排出することができる。
【0021】
また、本発明においては、窒素など不活性ガスの供給量が排気量よりも多くなるように制御されているため、炉内が陽圧に保たれ、炉内への大気の侵入を充分に抑制することができる。そして、搬入口近傍が高温となることも充分に抑制して、金属基材の酸化を抑制することができる。
【0022】
また、当該発明は、
前記第1の不活性ガス供給手段におけるガス供給量が、前記搬入口および搬出口の開口面積1cm当たり1L/分以上であることが好ましい。
【0023】
搬入口および搬出口において、開口面積1cm当たり1L/分以上、不活性ガスを吹きつけることにより、大気の侵入を充分に抑制することができる不活性ガスカーテンを効率的に形成させることができると共に、炉内を充分に低酸素濃度雰囲気に維持することができる。
【0024】
また、当該発明は、
一端にフッ素樹脂の搬入口、他端に電離性放射線照射後のフッ素樹脂の搬出口が設けられ、前記搬入口から前記搬出口に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンが区分けされた筒状の耐熱炉を用いて、前記フッ素樹脂の融点以上の所定の温度および所定の低酸素濃度雰囲気の下、前記フッ素樹脂に電離性放射線を照射して、前記フッ素樹脂の架橋を行う電離性放射線照射方法であって、
前記搬入口および搬出口に不活性ガスカーテンを形成すると共に、前記耐熱炉内を不活性ガスで満たすことにより、前記耐熱炉内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、前記搬入口から50cmの距離における前記耐熱炉内の加熱ゾーンの酸素濃度を100ppm以下となるように設定し、
前記フッ素樹脂を、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンの順に前記搬入口から搬出口に向かって搬送し、
前記加熱ゾーンにおいて前記フッ素樹脂を加熱し、
前記照射ゾーンにおいて前記フッ素樹脂に、前記耐熱炉の外側から前記電離性放射線を照射し、
前記冷却ゾーンにおいて前記フッ素樹脂を冷却する
ことを特徴とする電離性放射線照射方法である。
【0025】
前記した通り、搬入口と搬出口に不活性ガスカーテンを形成させると共に、炉(耐熱炉)内にも不活性ガスを供給して炉内の圧力が大気の圧力よりも高くなるように制御することにより、炉内への大気の侵入を確実に抑制することができ、さらに、ワークから発生した酸素や水分などを充分に除去することができる。
【0026】
また、搬入口から50cmの距離における炉内の酸素濃度が100ppm以下となるように制御されているため、酸素濃度が充分に低下していない時点でフッ素樹脂が高い温度に加熱されることや、酸素濃度が充分に低下していない時点で金属基材が加熱されることがない。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、充分に酸素濃度が低い雰囲気下で加熱を行い、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害されることや、また金属基材表面が酸化されるような問題の発生が充分に抑制され、さらに、不活性ガスの消費量を低減することができる電離性放射線照射装置および電離性放射線照射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施の形態に係る電離性放射線照射装置の雰囲気の温度と酸素濃度を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る電離性放射線照射装置の概要を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る電離性放射線照射装置における雰囲気温度とワーク温度の関係を模式的に示す図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る電離性放射線照射装置の概要を模式的に示す図である。
図5】本発明の一実施例の電離性放射線照射装置における酸素濃度測定方法を説明する図である。
図6】本発明の一実施例の電離性放射線照射装置における酸素濃度測定結果を示す図である。
図7】従来の電離性放射線照射装置における雰囲気温度と酸素濃度の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
1.電離性放射線照射装置
(1)全体構成
はじめに、電離性放射線照射装置の全体構成について説明する。図2は、本発明の一実施の形態に係る電離性放射線照射装置の概要を模式的に示す図である。
【0031】
図2に示すように、電離性放射線照射装置は、ステンレス製の筒状で水平に配置されるマッフル41と、不活性ガス供給口43bを有する第1の不活性ガス供給手段と、不活性ガス供給口43aを有する第2の不活性ガス供給手段と、電離性放射線照射器44と、搬送装置42と、図外の制御手段とを備えており、マッフル41にはヒーター41cと冷却装置41eが設けられている。以下、各構成手段について順次説明する。
【0032】
(2)マッフル
マッフル41の両端には、搬入口41aおよび搬出口41bが設けられ、搬入口41a側から搬出口41b側に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーンおよび冷却ゾーンの順に区分けされている。そして、加熱ゾーンの不活性ガス供給口43a、43bの間には排出口43cが設けられている。
【0033】
加熱ゾーンにはヒーター41cが設けられている。また、照射ゾーンには照射窓を備えた照射部45が設けられ、照射部45の上方には電離性放射線照射器44が配置されている。また、冷却ゾーンには冷却装置41eが設けられている。
【0034】
上記のヒーター41cおよび冷却装置41eは、マッフル41の外側に設けられていることが好ましい。マッフル41の外側に設けることにより、シームなどの隙間や穴などがないマッフル41とすることができ、大気中の酸素の侵入を確実に防止することができる。
【0035】
(3)搬送装置
搬送装置42は、マッフル41内に挿通させて設けられており、フッ素樹脂を途切れることなく搬入口41aから搬入し、マッフル41内を所定のスピードで搬送後、搬出口41bから搬出する。搬送装置42としては、マッフル41内に万遍なく不活性ガスを行きわたらせやすく、また不活性ガスカーテンを形成しやすいため、メッシュベルトやローラーコンベア(ローラーハース)などが好ましく用いられる。
【0036】
(4)電離性放射線照射器
電離性放射線照射器44は、照射ゾーンにおいて搬送中のフッ素樹脂に対して、照射窓を通じて電離性放射線を照射する。照射窓には、電離性放射線を通過させるために好適な金属箔、具体的にはチタンやベリリウムの箔(厚み:5〜50μm)が張られている。
【0037】
電離性放射線照射器44としては、例えば加速電圧が100keV〜10Mevの一般的な商用電子線照射器が好ましく用いられ、加速電圧に対応して適宜選択される。
【0038】
(5)不活性ガス供給手段
不活性ガス供給口43bを有する第1の不活性ガス供給手段は、搬入口41aおよび搬出口41bのそれぞれの近傍に設けられている。また、不活性ガス供給口43aを有する第2の不活性ガス供給手段は、搬入口41aおよび搬出口41bの間に設けられている。なお、不活性ガス供給口43aの数は限定されず、マッフル41のサイズなどに応じて適宜設定される。そして、加熱ゾーンの不活性ガス供給口43a、43bの間には排出口43cが設けられている。
【0039】
(6)制御手段
制御手段は、電離性放射線照射装置を総括的に制御するものであり、また、マッフル41内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、搬入口41aから50cmの距離のマッフル41内の酸素濃度が100ppm以下となるように、第1および第2の不活性ガス供給手段から供給される不活性ガス量を制御する。
【0040】
2.電離性放射線照射方法
次に、前記の電離性放射線照射装置を用いて行う電離性放射線照射方法について各工程に分けて説明する。
【0041】
(1)フッ素樹脂の準備工程
フッ素樹脂コーティング材を準備する。フッ素樹脂の形態は特に限定されないが、ディスパージョンを用いて、鉄、銅、アルミニウム、SUSなどの金属基材上にコーティングされたものが好ましく用いられる。また、フッ素樹脂単体のシートを用いてもよい。
【0042】
コーティング厚みとしては、1〜100μmが好ましく、5〜50μmであるとより好ましいが、前記したディスパージョンを用いたコーティングにおいては、厚すぎる場合クラックが入るため、厚み100μmのコーティングには、2〜3回のコーティングに分けて行われる。
【0043】
(2)初期工程(不活性ガスの供給)
第1の不活性ガス供給手段を用いて不活性ガス供給口43bからマッフル41内に不活性ガスを供給することにより、搬入口41aおよび搬出口41bに不活性ガスカーテンを形成させる。そして、不活性ガスを供給しながら、フッ素樹脂や金属基材から発生したガスを排出し、不活性ガスの供給量が排出量より多くなるように制御することにより、マッフル41内に不活性ガスを満たし、マッフル41内を大気圧より高い圧力とすると共に、マッフル41内の搬入口から50cmの距離における酸素濃度を100ppm以下にする。
【0044】
これにより、酸素濃度が充分に低下していない時点で高い温度に加熱されて、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害される恐れや金属基材が酸化される恐れを防止することができる。
【0045】
フッ素樹脂が金属基材上にコーティングされている場合には、100℃以下の領域において酸素濃度が既に100ppm以下となっているようにすることが好ましい。これにより、金属基材の酸化をより充分に抑制することができる。
【0046】
不活性ガス供給口43aからマッフル41内へ供給する不活性ガスの供給量としては、マッフル41内の雰囲気の圧力が大気圧よりも高くなるよう充分な量、具体的には例えば搬入口41aおよび搬出口41bの総開口面積1cm当たり1L/分以上の不活性ガス、例えば窒素ガスを供給する。
【0047】
そして、搬入口41a側では、フッ素樹脂の搬入に際して大気がフッ素樹脂や搬送手段に巻き込まれて侵入しやすいため、不活性ガス供給口43bから供給する不活性ガスの供給量を、搬入口41a側を搬出口41b側よりも多く、具体的には1.2倍以上とする。これにより、搬入口41a側からの大気の巻き込みを抑制することができる。
【0048】
(3)加熱工程
次に、搬送装置42により、搬入口41aからマッフル41内にフッ素樹脂を搬入し、不活性ガスにより形成された所定の低酸素雰囲気下、加熱ゾーンを搬送して、照射ゾーンの手前でフッ素樹脂の温度が、フッ素樹脂の融点以上、融点+30℃以下となるように加熱する。
【0049】
(4)照射工程
次に、照射ゾーンにおいて、不活性ガスにより形成された酸素濃度100ppm以下の低酸素雰囲気下、加熱されたフッ素樹脂に対して、照射窓の金属箔を通じて電離性放射線を照射する。
【0050】
照射する電離性放射線の加速電圧は、フッ素樹脂の厚みなどを考慮して適宜設定される。また、照射線量としては、10〜1000kGyが好ましく、100〜500kGyであるとより好ましい。
【0051】
このとき、照射ゾーンにおいては、加熱ゾーンから冷却ゾーンに向かって10℃以上の温度差、好ましくは図3に示すように100℃以上の温度差の負の温度勾配を設けることが好ましい。このような負の温度勾配を設けることにより、電離性放射線照射による昇温を抑制して、フッ素樹脂の分解温度を超えた危険な温度領域に入ることを回避することができる。なお、図3において、実線は上記した負の温度勾配を設けた場合におけるマッフル41内の温度を示し、破線は、上記した温度勾配を設けない場合におけるワーク(フッ素樹脂)の温度を示している。
【0052】
(5)冷却工程
次に、冷却ゾーンにおいて、電離性放射線が照射されたフッ素樹脂を冷却してマッフル41の搬出口41bから搬出する。
【0053】
このようにすることにより、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害されたり、金属基材表面が高い温度に加熱されて酸化されたりすることなく、フッ素樹脂の架橋を適切に行うことができる。
【0054】
3.他の実施の形態
金属基材上へコーティングされたフッ素樹脂の架橋を行う場合、フッ素樹脂の金属基材上へのコーティングと電離性放射線の照射とを、連続工程として行うことができる。このようにすることにより、コーティング工程と電離性放射線照射工程とを分けた場合に発生するフッ素樹脂が金属基材から剥がれる問題を回避することができる。
【0055】
図4は、本実施の形態に係る電離性放射線照射装置の概要を模式的に示す図である。図4において、61はマッフルであり、61aは搬入口であり、61bは搬出口であり、61cはヒーターであり、61eは冷却装置であり、62は搬送装置であり、63a、63bは不活性ガス供給口であり、63cは排出口であり、64は電離性放射線照射器であり、65は照射部である。また、搬入口61aよりも上流側の搬送装置62にはロール状の金属基材にフッ素樹脂をコーティングするコーターが設けられている。
【0056】
そして、搬送装置62により搬送される金属基材上に、コーターを用いてコーティングされたフッ素樹脂は、引き続いて、マッフル61の搬入口61aに搬送された後、前記と同様に電離性放射線が照射されてフッ素樹脂の架橋が行われる。このようにフッ素樹脂のコーティング後、直ちに架橋することにより、フッ素樹脂が金属基材から剥がれることを充分に抑制することができる。
【実施例】
【0057】
次に実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。本実施例においては、ステンレス製のマッフル中に搬送装置としてメッシュベルトを挿通した電離性放射線照射装置において、マッフル内に不活性ガスを供給したときのマッフル内の雰囲気の酸素濃度を測定した。
【0058】
1.測定条件および測定方法
図5に本実施例で用いた電離性放射線照射装置の概要を模式的に示す。図5において111はマッフルであり、111aは搬入口であり、111bは搬出口であり、112はメッシュベルトである。113aはマッフル内への不活性ガス供給口であり、ロ、ハ、ニの箇所に設けられている。113bは不活性ガスカーテンを形成するための不活性ガス供給口であり、イ、ホの箇所に設けられている。また、A〜Iは酸素濃度測定点の位置を示す。そして、113cは排出口である。
【0059】
用いたマッフルのサイズ、メッシュベルトのスピード、使用した不活性ガス、不活性ガスの供給量などは以下の通りである。
【0060】
マッフル長 :2.4m
開口部(搬入口、搬出口)サイズ:高さ50mm、幅200mm、
メッシュベルトのスピード :40mm/分
不活性ガス :窒素(酸素濃度1ppm以下)
不活性ガスの供給量 :イ:80、ロ:30、ハ:60、ニ:60、ホ:60
(単位L/分)
ガスの排出量 :ヘ:15L/分
酸素濃度測定 :東レ社製酸素濃度計LC−450Aを用いて測定
【0061】
2.測定結果
測定結果を表1および図6に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1および図6より、搬入口からわずか30cmの位置Aですでにフッ素樹脂の架橋に好適な100ppmをはるかに下回っており、またいずれの測定点の測定結果も10ppmを下回る非常に低い値であることが分かる。このような結果が得られたのは、マッフル内が正圧となるようにマッフル内部に充分な量の窒素ガスを供給して、大気の侵入を抑制したこと、搬入口および搬出口に窒素ガスカーテンを形成し、マッフル内の雰囲気と大気との接触を防止したことによる。
【0064】
上記したようにA〜Iのいずれの位置でも酸素濃度が100ppmを大きく下回っているため、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害されることがなく、熱により酸化されやすい鉄や銅などの金属基材上に形成されたフッ素樹脂であっても金属基材表面が酸化されることがない。
【0065】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0066】
41、61、111 マッフル
41a、61a、111a 搬入口
41b、61b、111b 搬出口
41c、61c ヒーター
41e、61e、42、62、112 冷却装置
43a、43b、63a、63b、113a、113b 不活性ガス供給口
43c、63c、113c 排出口
44、64 電離放射線照射器
45、65 照射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7