【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の方法においては、炉の搬入口および搬出口が外部に向けて開放された炉が用いられているため、外気との接触を避けることができず、低酸素濃度のガス気流を流したとしても、大気の侵入による影響を充分に抑制することができない。
【0006】
この結果、炉内における酸素濃度は、
図7に示すように両端から中央部に向かって除々に低下するため、炉の中央部が最も低酸素濃度の領域となり、電離性放射線の照射は炉の中央部で行われている。
【0007】
一方、搬入口から連続して搬入されるフッ素樹脂は、酸素濃度の低下と並行して加熱されているため、酸素濃度が充分に低下していない時点で高い温度に加熱されることになり、フッ素樹脂に残存する酸素の影響により、フッ素樹脂の架橋が阻害される恐れがある。
【0008】
また、溶融粘度が低下したフッ素樹脂を搬送するために、鉄や銅など酸化しやすい金属基材上にフッ素樹脂が塗布されているような場合には、酸素濃度が充分に低下していない時点で金属基材が加熱されると、金属基材表面が酸化されて、製品の品質が低下する恐れもある。
【0009】
さらに、前記したように、搬入口および搬出口が外部に向けて開放されて外気との接触を避けることができないため、不活性ガスの消費量が多くならざるを得ない。
【0010】
そこで、本発明は、充分に酸素濃度が低い雰囲気下で加熱を行い、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害されることや、また金属基材表面が酸化されるような問題の発生が充分に抑制され、不活性ガスの消費量を低減することができる電離性放射線照射装置および電離性放射線照射方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載する発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った
。
【0012】
当該発明は、
フッ素樹脂の融点以上の所定の温度および所定の低酸素濃度雰囲気の下、前記フッ素樹脂に電離性放射線を照射して、前記フッ素樹脂の架橋を行う電離性放射線照射装置であって、
一端に前記フッ素樹脂の搬入口、他端に電離性放射線照射後のフッ素樹脂の搬出口が設けられ、前記搬入口から前記搬出口に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンが区分けされた筒状の耐熱炉と、
前記搬入口から前記搬出口に向かって前記フッ素樹脂を搬送する搬送手段と、
前記加熱ゾーンを加熱する加熱手段と、
前記照射ゾーンの前記フッ素樹脂に、前記耐熱炉の外側から前記電離性放射線を照射する電離性放射線照射手段と、
前記冷却ゾーンを冷却する冷却手段と、
前記搬入口および搬出口に不活性ガスカーテンを形成するための第1の不活性ガス供給手段と、
前記耐熱炉内を不活性ガスで満たすための第2の不活性ガス供給手段と、
前記耐熱炉内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、前記搬入口から50cmの距離における前記耐熱炉内の
加熱ゾーンの酸素濃度を100ppm以下となるように、前記第1および第2の不活性ガス供給手段から供給される不活性ガス量を制御する制御手段と
を備えていることを特徴とする電離性放射線照射装置である。
【0013】
搬入口と搬出口に不活性ガスカーテンを形成させると共に、炉(耐熱炉)内にも不活性ガスを供給して炉内の圧力が大気の圧力よりも高くなるように制御することにより、炉内への大気の侵入を確実に抑制することができると共に、搬入口と搬出口の内側において酸素濃度を急激に低下させて、炉内の酸素濃度を
図1に示すようなバスタブ曲線状に設定することができ、搬入口近傍から搬出口近傍までを充分な低酸素濃度領域とすることができる。
【0014】
そして、
本発明においては、搬入口から50cmの距離における炉内の酸素濃度が100ppm以下となるように制御することができるため、
図1に示すように、酸素濃度が充分に低下していない時点でフッ素樹脂が高い温度に加熱されるようなことがなく、フッ素樹脂に残存する酸素の影響によりフッ素樹脂の架橋が阻害される恐れはない。
【0015】
また、金属基材上にフッ素樹脂が塗布されている場合であっても、酸素濃度が充分に低下していない時点で金属基材が高い温度に加熱されるようなことがなく、製品の品質が低下する恐れもない。
【0016】
そして、不活性ガスカーテンにより炉内への大気の侵入を確実に抑制しているため、不活性ガスの消費量を低減することができる。
【0017】
本発明における好ましい炉としては、マッフルを挙げることができる。マッフルは内部の壁面に凹凸がないため、炉内に供給された不活性ガスと大気とが置換され易く、開始後、短時間で炉内を充分な低酸素濃度雰囲気とすることができる。
【0018】
また、当該発明は、
前記搬入口と前記照射ゾーンとの間に排気口が設けられており、
前記第1の不活性ガス供給手段および前記第2の不活性ガス供給手段による前記耐熱炉内への不活性ガス供給量の合計が、前記排気口からの排気量よりも多くなるように制御されている
ことが好ましい。
【0019】
金属基材上に塗布されるフッ素樹脂には、微量の酸素や水分などが含まれており、これらは昇温の際に気化して酸素濃度の低下を招くなど、電離性放射線照射時のフッ素樹脂の架橋に悪影響を与える。
【0020】
しかし、
本発明においては、搬入口と照射ゾーンとの間に排気口が設けられているため、フッ素樹脂の架橋に悪影響を与える酸素や水分などを容易に炉外へ排出することができる。
【0021】
また、
本発明においては、窒素など不活性ガスの供給量が排気量よりも多くなるように制御されているため、炉内が陽圧に保たれ、炉内への大気の侵入を充分に抑制することができる。そして、搬入口近傍が高温となることも充分に抑制して、金属基材の酸化を抑制することができる。
【0022】
また、当該発明は、
前記第1の不活性ガス供給手段におけるガス供給量が、前記搬入口および搬出口の開口面積1cm
2当たり1L/分以上である
ことが好ましい。
【0023】
搬入口および搬出口において、開口面積1cm
2当たり1L/分以上、不活性ガスを吹きつけることにより、大気の侵入を充分に抑制することができる不活性ガスカーテンを効率的に形成させることができると共に、炉内を充分に低酸素濃度雰囲気に維持することができる。
【0024】
また、当該発明は、
一端にフッ素樹脂の搬入口、他端に電離性放射線照射後のフッ素樹脂の搬出口が設けられ、前記搬入口から前記搬出口に向かって、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンが区分けされた筒状の耐熱炉を用いて、前記フッ素樹脂の融点以上の所定の温度および所定の低酸素濃度雰囲気の下、前記フッ素樹脂に電離性放射線を照射して、前記フッ素樹脂の架橋を行う電離性放射線照射方法であって、
前記搬入口および搬出口に不活性ガスカーテンを形成すると共に、前記耐熱炉内を不活性ガスで満たすことにより、前記耐熱炉内の圧力が大気圧よりも高く、さらに、前記搬入口から50cmの距離における前記耐熱炉内の
加熱ゾーンの酸素濃度を100ppm以下となるように設定し、
前記フッ素樹脂を、加熱ゾーン、照射ゾーン、および冷却ゾーンの順に前記搬入口から搬出口に向かって搬送し、
前記加熱ゾーンにおいて前記フッ素樹脂を加熱し、
前記照射ゾーンにおいて前記フッ素樹脂に、前記耐熱炉の外側から前記電離性放射線を照射し、
前記冷却ゾーンにおいて前記フッ素樹脂を冷却する
ことを特徴とする電離性放射線照射方法である。
【0025】
前記した通り、搬入口と搬出口に不活性ガスカーテンを形成させると共に、炉(耐熱炉)内にも不活性ガスを供給して炉内の圧力が大気の圧力よりも高くなるように制御することにより、炉内への大気の侵入を確実に抑制することができ、さらに、ワークから発生した酸素や水分などを充分に除去することができる。
【0026】
また、搬入口から50cmの距離における炉内の酸素濃度が100ppm以下となるように制御されているため、酸素濃度が充分に低下していない時点でフッ素樹脂が高い温度に加熱されることや、酸素濃度が充分に低下していない時点で金属基材が加熱されることがない。