(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載の方法では、金属インサート部品又は金属部材の加熱温度は、通電時間又は高周波電流の供給時間によって調整されるので、通電又は高周波電流の供給終了後に低下する。
【0007】
そして、溶融樹脂注入完了まで樹脂が部分的に硬化することを防止するために、金属インサート部品又は金属部材の温度を樹脂の溶融温度を超える温度に維持する必要がある。そのため、通電又は高周波電流の供給終了時には、金属インサート部品又は金属部材の温度は樹脂の溶融温度を大きく超えた温度とする必要があり、樹脂材が劣化するおそれがあるという課題がある。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、樹脂材の部分硬化及び劣化が生じることなく、金属部材に樹脂材を一体に成形することが可能なインサート成形装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインサート成形装置は、金属部材に樹脂材を一体に成形するインサート成形装置であって、前記金属部材が配置されるキャビティが形成された金型と、前記キャビティ内に溶融樹脂を注入する溶融樹脂供給部と、前記金属部材と電気的に導通可能な複数の電極と、前記金型と前記電極とを絶縁する絶縁体と、前記電極に電流を供給する電源と、前記金属部材の温度を検知する温度センサと、前記温度センサが検知した温度が前記予め設定した温度以下のとき、前記電源を作動し、前記温度センサが検知した温度が前記予め設定した温度を超えたとき、前記電源を停止させるように前記電源を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のインサート成形装置によれば、温度センサが検知する金属部材の予め設定した温度での維持を、温度センサが検知した温度によって、電極に電流を供給する電源の作動・停止の選択を直接に制御部によって行う。これにより、金属部材の温度は、予め設定した設定温度から僅かな幅の温度範囲に収まる。従って、樹脂の部分硬化及び劣化が生じることなく、金属部材に樹脂材を一体に成形することができる。
【0011】
尚、温度センサは、金属部材の温度を直接的に検知してもよいが、金属部材と接触して金属部材と同じ温度である部材、例えば後述する抵抗体の温度を検知することによって、金属部材の温度を関接的に検知してもよい。
【0012】
ところで、上記特許文献1に記載の方法では、金型と金属インサート部品との間に絶縁体が介在しているので、絶縁体を介して金属インサート部品から金型に伝熱する。また、上記特許文献2に記載の方法では、高周波磁気誘導コイルによって金属部材と共に金型全体が加熱される。
【0013】
よって、特許文献1,2に記載の方法では、溶融樹脂注入後に金型を素早く冷却することができず、サイクルタイムが長くなるという課題がある。また、金型が高い温度に加熱されるので、金型の寿命が短くなるという課題がある。
【0014】
そこで、本発明のインサート成形装置において、前記金属部材と前記金型との間に配置された吸熱部材を備えることが好ましい。
【0015】
この場合、吸熱部材によって電極からの熱の大部分が吸熱され、金属部材は素早く加熱させるが、金型は然程温度が上昇しない。よって、溶融樹脂注入後に金型を素早く冷却することができ、サイクルタイムが短くなる。また、金型が高温にならないので、金型の寿命が長くなる。
【0016】
さらに、本発明のインサート成形装置において、前記金属部材は抵抗体によって挟持され、前記抵抗体を介して前記金属部材は前記電極と電気的に導通され
る。
【0017】
これにより、通電された抵抗体は急速に温度が上昇し、金属部材は素早く加熱される。よって、通電加熱に要する時間が短く、熱効率が優れ、サイクルタイムも短くなる。そして、金属部材が抵抗体によって挟持されているので、金属部材全体を均一に加熱することができる。
【0018】
また、本発明のインサート成形装置において、前記電極は、前記金型の外部に配置されていることが好ましい。
【0019】
この場合、電極を金型の内部に配置する場合と比較して、電極と電源との接続構成などを簡素化することが可能となる。
【0020】
本発明のインサート成形方法は、金属部材に樹脂材を一体に成形するインサート成形方法であって、
抵抗体によって挟持された前記金属部材
を前記抵抗体を介して金型と絶縁された複数の電極と電気的に導通させると共に、前記電極に電源から電流を供給する工程と、前記金属部材の温度を検知する温度センサが検知した温度が前記予め設定した温度以下のとき、前記電源を作動し、前記温度センサが検知した温度が前記予め設定した温度を超えたとき、前記電源を停止させるように前記電源を制御する工程と、前記温度センサが検知した温度が前記予め設定した温度を超えた後、前記金属部材が配置され前記金型に形成されたキャビティ内に溶融樹脂を注入する工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明のインサート成形方法によれば、温度センサが検知する金属部材の予め設定した温度での維持を、温度センサが検知した温度によって、電極に電流を供給する電源の作動・停止の選択を直接に行う。これにより、金属部材の温度は、予め設定した設定温度から僅かな幅の温度範囲に収まる。従って、樹脂の部分硬化及び劣化が生じることなく、金属部材に樹脂材を一体に成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態であるインサート成形装置1について説明する。
【0024】
図1から
図4を参照して、インサート成形装置1は、金属部材M1に樹脂成形部M2を一体に成形してなる製品Mを得る装置である。
【0025】
インサート成形装置1は、金型10、電極ユニット20、通電ユニット30、射出ユニット40、温度センサ50及び制御ユニット60を備えている。そして、電極ユニット20がそれぞれ配置された2組の金型10が、基台71に対して回転可能に構成された回転テーブル72に設置されている。
【0026】
金属部材M1は、通電可能な金属からなる。金属部材M1の材料となる金属は、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼などの鉄鋼材料、 銅、アルミニウム、亜鉛などの単体非鉄金属、アルミニウム、 ニッケル、クロム、チタン、銅等を含む各種合金などが挙げられる。
【0027】
樹脂成形部M2の材料は、樹脂であれば、その材質は特に限定されないが、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、及びポリフェニレンスルファイド(PPS)を含む各種合成樹脂や天然樹脂が挙げられる。
【0028】
金属部材M1は、ここでは、2つの環状突起を有する円柱形状である。そして、樹脂成形部M2は、ここでは、内部に2つの環状凹部を有し、外部に段差を有する円筒形状である。
【0029】
樹脂成形部M2の環状凹部は、金属部材M1の環状突起に対応した形状となっており、これにより、金属部材M1と樹脂成形部M2との接合はさらに強度なものとなる。尚、金属部材M1の樹脂成形部M2との接触面は、粗面であれば接合強度がさらに向上するので好ましいが、鏡面であってもよい。
【0030】
各金型10は、固定金型11と可動金型12とから構成されている。固定金型11は回転テーブル72に対して設置されており、可動金型12は、固定金型11に対して開閉可能に構成されている。固定金型11及び可動金型12の互いに当接する面にそれぞれ凹部が形成されており、これら凹部が合わさって、樹脂成形部M2の外形形状を規定するキャビティCが構成される。キャビティCの金属部材M1が配置された空間を除く残余空間が、樹脂成形部M2を成形するための成形空間となる。可動金型12には、図示しないが、上面からキャビティCに連通するランナが形成されている。
【0031】
電極ユニット20は、ここでは、左右対称に構成されており、それぞれ、金属部材M1と接触する通電接点である電極21と、電極21を金属部材M1に押し付ける押圧機構22と、電極21と電気的に接続され、金型10の外面に配置された受電端子23とから構成されている。
【0032】
電極21は、金属部材M1と接触する抵抗体24、及び抵抗体24が固定された電極基体25からなる。抵抗体24は、銅より熱伝導率が高く通電により発熱する材質、例えば、カーボン、カーボン複合材、炭化ケイ素、ステンレスなどから形成されている。抵抗体24は、金属部材M1の樹脂成形部M2の外部に露出した露出部と接触する。
【0033】
抵抗体24は、金属部材M1には確実に接触し、且つ樹脂成形部M2には接触しないように構成されている。抵抗体24は、ここでは、円錐状の先端部を有し、金属部材M1の内周端面に均一に接触するように形成されている。電極基体25は、銅、モリブデン、タングステンなどの導体から形成されている。
【0034】
尚、金型10が電極21を介して通電され加熱しないように、金型10と電極21、すなわち抵抗体24及び電極基体25との間には、ベークライト、セラミックなどからなる絶縁体13が設置されている。さらに、抵抗体24と接触する金型10の表面には、熱伝導率が非常に高い吸熱部材14が配置されている。吸熱部材14は、ここでは、金型10の表面に被覆されたカーボンナノチューブからなる薄膜層である。
【0035】
そして、金型10内には、金型10を加熱するヒータ15(
図4参照)が内蔵されている。ヒータ15は、詳細は図示しないが、例えば金型10内に形成された油路を流れる油を、電源31とは異なる加熱源で加熱して、温調機で温度調整することによって、金型10を設定温度に維持することが可能となっている。
【0036】
押圧機構22は、ここでは、電極21に対して左右方向に移動可能に構成された冷却板26と、金型10の外面と冷却板26との間に配置され、伸長方向に付勢力を付与するように配置されたばね27とから構成されている。冷却板26は、銅、モリブデン、タングステンなどの導体から形成されている。これにより、左右の2つの電極21が左右方向外側からそれぞれ押圧機構22によって内側に向って押圧されることによって、電極21で金属部材M1を挟持した状態が安定的に維持される。
【0037】
冷却板26には、図示しない冷却機構により純水や水道水などの冷却流体が循環されて、冷却可能に構成されている。また、受電端子23にも冷却機構を設けてもよい。冷却板26及び受電端子23は大部分が、金型10の外部に位置しているので、冷却機構を設けることが容易であり、冷却もし易い。
【0038】
受電端子23は、ここでは、金型10の裏面にベークライト、セラミックなどからなる絶縁体28を介して固定されている。そして、受電端子23は、金型10の外側に配置された接続導体29を介して冷却板26に接続されている。受電端子23及び接続導体29は共に、銅、モリブデン、タングステンなどの導体から形成されている。このようにして、電極21と受電端子23とは常時電気的に接続されている。
【0039】
通電ユニット30は、図示しないケーブルを介して電源31に接続された、正極と負極との2つの給電端子32から構成されている。通電ユニット30は、基台71に固定されたレール73に対して摺動可能に構成され、給電端子32と受電端子23とが接触した状態と非接触の状態を切替可能となっている。通電ユニット30は、ここでは、エアシリンダを用いてレール73上を左右方向に移動可能に構成されている。
【0040】
電源31は、ここでは、インバータ制御パルス電源である。電源31は、整流回路、ダイオードやサイリスタを有するインバータを備えており、発生させるパルスのパルス波形、パルス幅、パルス間隔、電流、電圧等のパルス特性調整要素が制御ユニット60により変更可能に構成されている。
【0041】
射出ユニット40は、ノズル41から溶融樹脂を吐出して、キャビティC内に溶融樹脂を注入する溶融樹脂供給部である。ノズル41は金型10のランナの上面側部に接続され、ノズル41から吐出された溶融樹脂はランナを通ってキャビティC内に注入される。
【0042】
温度センサ50は、金型10に形成された穴を介して、各抵抗体24の温度を検知する。温度センサ50は、ここでは、赤外線放射温度計などの非接触式のものであり、回転テーブル72の支持軸74に固定されている。尚、温度センサ50は、抵抗体24の表面に接触させて温度を測定する熱電対等の接触式センサで代用してもよく、非接触式のものと接触式のものを併用してもよい。
【0043】
抵抗体24は、金属部材M1と接触し且つ熱伝導率が高いので、その温度は金属部材M1の温度と同じとなる。よって、温度センサ50で抵抗体24の温度を検知することによって、金属部材M1の温度を関接的に検知することができる。
【0044】
制御ユニット60は、CPU、ROM、RAM、I/O等から構成されており、操作部61及び表示部62が電気的に接続されている。操作部61は、ここでは、起動スイッチ、スタートスイッチ等の各種の操作スイッチ、タッチパネル等からなる入力盤などから構成されている。操作部61から入力された情報は、制御ユニット60に送信される。
【0045】
また、制御ユニット60には、温度センサ50から検知信号が入力される。制御ユニット60は、温度センサ50から検知信号、操作部61から入力された情報及びその記憶部に格納された射出圧力、金型保持圧力、設定温度Ts、設定保持時間Hsなどの制御情報に基き、可動金型12、ヒータ15、電源31、射出ユニット40、回転テーブル72などに制御信号を出力する。尚、制御ユニット60は、本発明の制御部に相当する。
【0046】
ここで、設定温度Tsは、電極21に通電する際に設定され、温度センサ50で検知されて制御ユニット60で監視される温度である。設定温度Tsは、樹脂成形部M2を形成する樹脂の溶融温度、又はその数十℃程度内の所定温度だけ高い温度であり、予め試行実験などで適宜設定される。
【0047】
設定保持時間Hsは、金属部材M1を設定温度Tsで保持する時間であり、キャビティC内に溶融樹脂を充填するために要する時間でもある。設定保持時間Hsも、予め試行実験などで適宜設定される。
【0048】
温度センサ50は、検知温度が設定温度Tsを超えたとき、電源31をオフさせるオフ信号を電源31に直接出力する。また、温度センサ50は、検知温度が設定温度Ts以下となったとき、電源31をオンさせるオン信号を電源31に直接出力する。このように、制御ユニット60を介することなく温度センサ50から電源31に信号を直接出力するので、金属部材M1の温度Tを設定温度Tsに素早く復帰させることが可能となる。従って、金属部材M1の温度Tが設定温度Tsに常に維持される。
【0049】
また、制御ユニット60には、表示部62が電気的に接続されている。表示部62は、ここでは、デジタル表示パネル、ランプなどから構成されている。表示部62は、制御ユニット60への入力、又は制御ユニット60での演算結果に基く情報を制御ユニット60から受信し、その情報を表示する。
【0050】
次に、上述したインサート成形装置1を用いて、本発明の第1実施形態に係るインサート成形方法を実施する際の処理について
図5を参照して説明する。尚、以下のS2〜S13の処理は、制御ユニット60により実行される。S2〜S13の処理中は、ヒータ15が作動して金型10の温度が所定の設定温度に維持されると共に、図示しない冷却機構によって冷却板26に冷却流体が循環されることにより、電極21が冷却されている。
【0051】
先ず、作業者は、手前側、すなわち
図1及び
図2の左側に位置する固定金型11に、電極21間に金属部材M1を挟持させた状態で、金属部材M1を設置する(S1)。
【0052】
作業者により操作部61のスタートスイッチがONされると(S2:YES)、回転テーブル72を回転させて(S3)、金属部材M1を設置した固定金型11を奥側、すなわち
図1及び
図2の右側に移動させる。その後、可動金型12を下降させて、金型10を閉じる(S4)。
【0053】
そして、電源31を始動させ、且つ給電端子32を受電端子23に接触させて、電極21に通電する(S5)。これにより、抵抗体24が加熱されて温度が上昇し、これに伴い金属部材M1の温度も上昇する。
【0054】
その後、温度センサ50が検知する抵抗体24の温度Tが設定温度Tsを超え、且つ金型10の温度が設定温度になった後(S6:YES)、抵抗体24の設定温度Tsを維持した状態を保ちながら、射出ユニット40からキャビティC内に溶融樹脂を注入する(S7)。尚、設定温度Tsの維持は、温度センサ50が、オフ信号又はオン信号を電源31に直接出力することによって行われる。
【0055】
そして、予め設定された所定の設定温度Tsを維持した状態を保ち、予め設定された所定の設定保持時間Hsだけ溶融樹脂の注入を継続する(S8)。尚、設定保持時間Hs継続したか否かは、制御ユニット60の図示しないタイマを参照して判断される。
【0056】
設定保持時間Hs経過後、電源31を停止し、給電端子32を受電端子23から離して、電極21の通電を終了する(S9)。
【0057】
温度センサ50が検知する抵抗体24の温度Tが樹脂の軟化温度未満に低下したとき(S10:YES)、可動金型12を上昇させて固定金型11から離して金型10を開ける(S11)。その後、固定金型11が手前側に位置するように回転テーブル72を回転させて(S12)、製品Mを固定金型11から離型させて取り出す(S13)。
【0058】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態であるインサート成形装置101について説明する。ただし、インサート成形装置101は、上述したインサート成形装置1と類似するので、主に相違点についてのみ説明し、類似した構成は符号を流用して説明を省略する。
【0059】
図6から
図9を参照して、インサート成形装置101は、金属部材M3に樹脂成形部M4を一体に成形してなる製品Mを連続して得るフープ式の装置である。
【0060】
インサート成形装置101は、金型110、電極ユニット120、電源31、射出ユニット140、温度センサ50、制御ユニット160及び操作部161を備えている。そして、電極ユニット120が配置された1組の金型110が、基台171に設置されている。
【0061】
金属部材M3は、上述した金属部材M1と同様に通電可能な金属からなる。樹脂成形部M4の材料も、上述した樹脂成形部M2の材料と同様に、特に限定されない。
【0062】
金属部材M3は、ここでは、断面矩形状の長尺薄板である。そして、樹脂成形部M4は、ここでは、長方形状の薄板である。金属部材M3に樹脂成形部M4を一体に成形した後、下流側に設置された他の装置などで、金属部材M3が切断されて、長方形板状の金属部材に樹脂成形部M4が一体に成形したなる製品Mが得られる。ただし、インサート成形装置101において、予め長方形板状に切断した金属部材に樹脂成形部M4を一体に成形して製品Mを得てもよい。
【0063】
金型110は、固定金型111と可動金型112とから構成されている。固定金型111は基台171に固定されて、可動金型112は、固定金型111に対して開閉可能に構成されている。ここでは、可動金型112は、固定金型111の下方にて基台171に取り付けられた図示しないエアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダなどによって、一対のロッド172を介して上下動可能に構成されている。
【0064】
固定金型111及び可動金型112の互いに当接する面にそれぞれ凹部が形成されており、これら凹部が合わさって、2個の樹脂成形部M4の外形形状をそれぞれ規定するキャビティCが構成される。金属部材M3の樹脂成形部M4が一体に成形される部分がキャビティC内に位置するように、ロボットなどの搬送装置173によって、金属部材M3は搬送される。
【0065】
電極ユニット120は、ここでは、上下対称に構成されており、それぞれ、金属部材M3と接触する通電接点である電極121と、電極121を金属部材M3に押し付ける押圧機構122と、電極121と電気的に接続され、金型110の外面に配置された受電端子123とから構成されている。
【0066】
電極121は、金属部材M3と接触する抵抗体124、及び抵抗体124が固定された電極基体125からなる。抵抗体124は、銅より熱伝導率が高く通電により発熱する材質、例えば、カーボン、カーボン複合材、炭化ケイ素、ステンレスなどから形成されている。抵抗体124は、金属部材M3の樹脂成形部M4の外部に露出した露出部と接触する。
【0067】
抵抗体124は、金属部材M3には確実に接触し、且つ樹脂成形部M4には接触しないように構成されている。抵抗体124は、ここでは、金属部材M3と接触する平面状の接触面を有した直方体状に形成されており、金属部材M1の端部の表裏面とそれぞれ面接触するように構成されている。電極基体125は、銅、モリブデン、タングステンなどの導体から形成されており、その内側端部に抵抗体124がそれぞれ固定されている。
【0068】
尚、金型110が電極121を介して通電され加熱しないように、金型110と電極121、すなわち抵抗体124及び電極基体125との間には、ベークライト、セラミックなどからなる絶縁体113が設置されている。
【0069】
さらに、抵抗体124と接触する金型110の表面には、熱伝導率が非常に高い吸熱部材114が配置されている。吸熱部材114は、ここでは、金型110の表面に被覆さえたカーボンナノチューブからなる薄膜層である。そして、金型110内には、金型110を加熱するヒータ15(
図9参照)が内蔵されている。
【0070】
押圧機構122は、ここでは、電極121に対して上下方向に移動可能に構成された冷却板126と、金型110と冷却板126との間に配置され、伸長方向に付勢力を付与するように配置されたばね127とから構成されている。冷却板126は、銅、モリブデン、タングステンなどの導体から形成されている。これにより、上下の2つの電極121が上下方向外側からそれぞれ押圧機構122によって内側に向って押圧されることによって、電極121で金属部材M3を挟持した状態が安定的に維持される。
【0071】
冷却板126には、図示しない冷却機構により純水や水道水などの冷却流体が循環されて、冷却可能に構成されている。また、電極基体125にも冷却機構を設けてもよい。冷却板126は全て、電極基体125は大部分が、金型110の外部に位置しているので、冷却機構を設けることが容易であり、冷却もし易い。
【0072】
受電端子123は、ここでは、冷却板126に固定されることにより、金型110の裏側に配置されている。受電端子123及び冷却板126は、銅、モリブデン、タングステンなどの導体から形成されている。このようにして、電極121と受電端子123とは常時電気的に接続されている。そして、受電端子123と金型110とは絶縁体113を介して絶縁されている。
【0073】
電源31は、基台171に固定され、受電端子123と図示しないケーブルを介して電気的に接続されている。
【0074】
射出ユニット140のノズル141は金型110の上面側部に接続され、ノズル141から吐出された溶融樹脂はノズル141の先端から直接2個のキャビティC内に同時に注入される。
【0075】
温度センサ50は、基台171に固定され、金型110に形成された穴を介して、各抵抗体124の温度を検知する。抵抗体124は、金属部材M3と接触し且つ熱伝導率が高いので、その温度は金属部材M3の温度と同じとなる。よって、温度センサ50で抵抗体124の温度を検知することによって、金属部材M3の温度を関接的に検知することができる。
【0076】
制御ユニット160は、温度センサ50から検知信号、操作部161から入力された情報及びその記憶部に格納された射出圧力、金型保持圧力、設定温度Ts、設定保持時間Hsなどの制御情報に基き、可動金型112、ヒータ15、電源31、射出ユニット140、搬送装置173などに制御信号を出力する。尚、制御ユニット160は、本発明の制御部に相当する。
【0077】
次に、上述したインサート成形装置101を用いて、本発明の第2実施形態に係るインサート成形方法を実施する際の処理について
図10を参照して説明する。尚、以下のS22〜S31の処理は、制御ユニット160により実行される。S22〜S31の処理中は、ヒータ15が作動して金型110の温度が所定の設定温度に維持されると共に、図示しない冷却機構によって冷却板126に冷却流体が循環されている。
【0078】
作業者により操作部161のスタートスイッチがONされると(S21:YES)、搬送装置173によって金属部材M3を搬送して、固定金型111上に金属部材M3の樹脂成形部M4が一体に成形される部分を設置する(S22)。その後、可動金型112を下降させて、金型110を閉じる(S23)。
【0079】
そして、電源31を始動させて、電極121に通電する(S24)。これにより、抵抗体124が加熱されて温度が上昇し、これに伴い金属部材M3の温度も上昇する。
【0080】
その後、温度センサ50が検知する抵抗体124の温度Tが設定温度Tsを超えた後(S25:YES)、抵抗体124の設定温度Tsを維持した状態を保ちながら、射出ユニット40から各キャビティC内に溶融樹脂を注入する(S26)。尚、設定温度Tsの維持は、温度センサ50が、オフ信号又はオン信号を電源31に直接出力することによって行われる。
【0081】
そして、予め設定された所定の設定温度Tsを維持した状態を保ち、予め設定された所定の設定保持時間Hsだけ溶融樹脂の注入を継続する(S27)。
【0082】
設定保持時間Hs経過後、電源31を停止して、電極121の通電を終了する(S28)。そして、図示しない冷却機構により冷却板126に冷却流体を循環させて、電極21を冷却する(S29)。
【0083】
温度センサ50が検知する抵抗体124の温度Tが樹脂の軟化温度未満になったとき(S30:YES)、冷却を終了させ(S31)、その後、可動金型112を上昇させて固定金型111から製品Mを離型させる(S32)。
【0084】
そして、搬送装置173によって金属部材M3を搬送して、固定金型111上に金属部材M3の樹脂成形部M4が一体に成形される部分を設置する(S22)。以降同様に、S22以下を繰り返す。
【0085】
(実施形態の効果)
以上説明したように、第1及び第2の実施形態では、金属部材M1,M3に樹脂成形部M2,M4が一体に成形され完成した製品Mが得られる。溶解樹脂をキャビティCに注入する際に、設定温度Tsを維持した状態が保持されるので、樹脂成形部M2,M4の樹脂は良質なものとなる。以下、具体的に説明する。
【0086】
従来は、温度センサから入力された検知信号を受けた制御部が電源にオン又はオフを指示していたので、
図11に示すように、実際の温度が設定温度から大きく、例えば数℃から数十℃乖離することがあった。設定温度より高温になり過ぎると、樹脂が劣化するという問題がある。また、設定温度を保持する時間が長いと、逆に設定温度未満になる場合も生じ、この場合には、樹脂が部分的に硬化して均一性が失われるという問題があった。
【0087】
本実施形態では、設定温度Tsの維持は、温度センサ50がオフ信号又はオン信号を電源31に直接出力することによって行われるので、
図12に示すように、設定温度Tsは上下1℃以内程度に収まる。これによって、樹脂成形部M2,M4は均質で良質なものとなる。
【0088】
さらに、金属部材M1,M3の両端部を抵抗体24,124で挟んだ状態で、電極21,121に通電することにより、金属部材M1,M3全体を均一に加熱することができる。
【0089】
さらに、抵抗体24,124と直接する金属部材M1,M3は抵抗体24,124と同様に加熱されて均一に加熱される。そして、電極21,121全体を銅などで形成した場合と比較して(
図11参照)、
図12に示すように、通電された抵抗体24,124は急速に温度が上昇するので、通電加熱する時間が短く、熱効率が優れ、サイクルタイムも短くなる。
【0090】
さらに、抵抗体24,124と金型10,110との間には吸熱部材14,114が介在しており、この吸熱部材14,114によって抵抗体24,124からの熱の大部分が吸熱されるので、金型10,110は然程温度が上昇しない。よって、
図12に示すように、溶融樹脂注入後に金型10,110を素早く冷却することができ、サイクルタイムが短くなる。また、金型10,110が高温にならないので、金型10,110の寿命が長くなる。
【0091】
(実施例)
以下、本発明の実施例に挙げて説明する。
【0092】
上述したインサート成形装置101を用いて、金属部材M3と樹脂成形部M4とを一体に成形した。ただし、金属部材M3は、長さ49mm、幅12mm、厚さ1.5mmの長方形状板であり、樹脂成形部M4は、長さ49mm、幅12mm、厚さ3.0mmの長方形状板であった。そして、接合面は一辺12mmの正方形状であった。
【0093】
金属部材M3の材質は、アルミニウム(A1050)又はステンレス鋼(SUS304)であった。樹脂成形部M4の材質は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミドMXD−6(PAMXD−6)又はポリフェニレンスルファイド(PPS)であった。
【0094】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)としては東レ株式会社製の1101G−X54を、ポリアミド6としては宇部興産株式会社製の1015GC6を、ポリアミドMXD−6としては三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製の1012Fを、ポリフェニレンスルファイドとしては東ソー株式製のBGX−130を使用した。
【0095】
溶融樹脂の温度、金型110の設定温度、溶融樹脂の射出圧力、金型110の保圧、設定温度Ts、設定保持時間Hs、電極121への印加電流Iは、表1に示すように設定した。
【0096】
接合した部材に対して引張剪断試験を行った結果、全ての実施例で樹脂成形部M4の母材が破断した。これより、接合強度は強固であることが分かった。