(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
80〜99.5質量%のアルミナと、0.5〜20質量%のHYゼオライトとを含有する複合酸化物担体に、長周期型周期表における第6族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属、長周期型周期表における第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属、リン、及び有機酸を担持させた触媒であって、
前記第6族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属を、触媒基準、酸化物換算にて10〜40質量%、
前記第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属を、触媒基準、酸化物換算にて1〜15質量%、
リンを、触媒基準、酸化物換算にて1.5〜8質量%、及び
有機酸由来の炭素を、触媒基準、元素換算にて0.8〜7質量%含有し、
かつ、長周期型周期表における第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属1モル当たり、有機酸を0.2〜1.2モル含有し、
窒素吸着法で測定した比表面積が110〜300m2/g、
水銀圧入法で測定した細孔容積が0.3〜0.6ml/g、
水銀圧入法で測定した細孔分布での平均細孔直径が6.5〜14nmであり、
前記HYゼオライトが、(a)SiO2/Al2O3(モル比)が、3〜10、
(b)結晶格子定数が、2.435〜2.465nm、(c)ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が、0.2〜0.9、及び(d)結晶子径が、30〜100nmである、軽油の水素化脱硫触媒。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る軽油の水素化脱硫触媒(以下、「本発明に係る触媒」ということがある。
)は、アルミナと特定の物性を有するHYゼオライトとを含有する複合酸化物担体に、長周期型周期表における第6族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属(以下、「第6族金属」と記載することがある。)、長周期型周期表における第9族元素及び第10族元素からなる群から選ばれる1種以上の金属(以下、「第9/10族金属」と記載することがある。)、リン、及び有機酸を担持させた触媒であって、比表面積や細孔容積、平均細孔直径が特定の範囲内にある炭化水素油の水素化脱硫触媒である。特定の物性を有するHYゼオライトを含むアルミナ担体を用い、かつ比表面積や細孔容積、平均細孔直径等の物性を特定の範囲内に制御することによって、比較的穏やかな脱硫条件下であっても、充分な脱硫率で水素化処理を行うことができる長寿命の水素化脱硫触媒を得ることができる。
【0011】
<HYゼオライト>
本発明に係る触媒において用いられるHYゼオライトは、下記(a)〜(d)の物性を有する。
(a)SiO
2/Al
2O
3(モル比)が、3〜10、
(b)結晶格子定数が、2.435〜2.465nm、(c)ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が、0.2〜0.9、及び(d)結晶子径が、30〜100nm。
【0012】
(a)SiO
2/Al
2O
3(モル比)
SiO
2/Al
2O
3(モル比)は、ICP分析法による化学組成分析により測定することができる。
本発明に係る触媒において用いられるHYゼオライトの化学組成分析によるバルクのSiO
2/Al
2O
3(モル比)は、3〜10であり、好ましくは5〜8である。SiO
2/Al
2O
3(モル比)が3以上であることにより、充分な量の活性点を備えることができ、難脱物質のアルキル基の異性化やベンゼン環の水素化が充分に行われる。また、SiO
2/Al
2O
3(モル比)が10以下であることにより、原料油(軽油)の分解が進行し難く、液収率の低下が抑制できる。
本発明において用いられるHYゼオライトは、天然のフォージャサイトと基本的に同一の結晶構造を有し、酸化物として下記に示す組成物を有する。
【0014】
(b)結晶格子定数
HYゼオライトの結晶格子定数(単位格子寸法)は、X線回折装置(XRD)により測定することができる。ここで、「HYゼオライトの結晶格子定数」とは、ゼオライトを構成する単位ユニットのサイズを示している。
本発明において用いられるHYゼオライトの結晶格子定数は、2.435〜2.465nmであり、好ましくは2.440〜2.460nmである。結晶格子定数が2.435nm以上であれば、難脱物質のアルキル基の異性化やベンゼン環の水素化を促進させるために必要なAl数(アルミニウム原子数)が適当であり、2.465nm以下であれば、酸点上での原料油の分解が抑制され、活性低下の主要因である炭素析出を抑制できる。
【0015】
(c)ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比
ゼオライトの全アルミニウム原子に対するゼオライト骨格内アルミニウム原子のモル数は、化学組成分析によるSiO
2/Al
2O
3(モル比)及び結晶格子定数から、下記の式(A)〜(D)を用いて算出することができる。なお、式(A)はH.K.Beyeretal.,J.Chem.Soc.,FaradayTrans.1,(81),2899(1985).に記載の式を採用したものである。
【0016】
式(A):N
A1=(ao−2.425)/0.000868
式(A)中、ao:結晶格子定数/nm、
N
Al:単位格子当たりのAl原子数、
2.425:単位格子骨格内の全Al原子が骨格外に脱離したときの結晶格子定数、
0.000868:実験により求めた計算値であり、aoとN
Alについて1次式で整理したとき(ao=0.000868N
Al+2.425)の傾き。
【0017】
式(B):〔(Si/Al)計算式〕=(192−N
Al)/N
Al
式(B)中、192:Y型ゼオライトの結晶格子定数あたりの(Si+Al)の原子数。
【0018】
式(C):〔(Si/Al)化学組成分析値〕=〔(SiO
2/Al
2O
3)モル比〕/2
式(D):〔ゼオライト骨格内Al〕/〔全Al〕=〔(Si/Al)化学組成分析値〕/〔(Si/Al)計算式〕
【0019】
本発明において用いられるHYゼオライトの全アルミニウム原子に対するゼオライト骨格内アルミニウム原子のモル比(〔ゼオライト骨格内Al]/〔全Al])は、0.2〜0.9であり、好ましくは0.4〜0.7である。〔ゼオライト骨格内Al]/〔全Al]モル比をこの範囲にすることにより、適切な異性化や水素化を行うことができる酸点が形成され、所望の脱硫活性を得ることができる。
【0020】
(d)結晶子径
本発明に係る触媒において、用いるHYゼオライトの結晶子径は、X線回折装置により測定し、下記(1)〜(4)のようにして規定する。
(1)X線回折装置より、ゼオライトの回折ピークを算出する。
(2)(533)面、(642)面、(555)面に該当するピークより、それぞれの面の半値幅を算出する。
(3)(533)面、(642)面、(555)面それぞれの半値幅をScherrerの式(E)に代入し、各面のサイズを求める。
(4)前記(3)で求めた3つの面の平均値を、ゼオライト結晶径と規定する。
【0021】
式(E):D=Kλ/βcosθ
式(E)中、D:ゼオライトの結晶子径(Å)、
K:Sherrer定数、
λ:X線波長(nm)、
β:半値幅(rad)、
θ:回折角(°)。
【0022】
式(E)より得られる、本発明において用いられるHYゼオライトの結晶子径は、30〜100nmであり、好ましくは45〜95nmである。ゼオライトの結晶子径を前記範囲内にすることにより、異性化や水素化の促進機能を損なうことなく、活性低下の主要因である炭素析出を抑制することができ、また分解反応による液収率低下を抑制できる。
【0023】
<複合酸化物担体>
本発明に係る触媒は、担体として、主成分がアルミナであり、かつ前記HYゼオライトを含む無機酸化物を用いる。具体的には、本発明に係る触媒は、必須成分として、担体基準で、80〜99.5質量%のアルミナと、0.5〜20質量%の前記HYゼオライトとを含有する複合酸化物担体に、第6族金属、第9/10族金属、リン、及び有機酸を担持させた触媒である。
【0024】
前記複合酸化物担体の前記HYゼオライトの配合量は、担体基準で、好ましくは2〜10質量%、より好ましくは4〜8質量%である。HYゼオライトの配合量は、少なすぎても多すぎても、触媒の成型が困難となりやすい。また、少なすぎると、触媒上の酸点であるブレンステッド酸点やルイス酸点の付与が不十分となるおそれがあり、多すぎると、Moの高分散化が抑制されてしまうおそれがある。
【0025】
本発明に係る触媒の担体に用いられるアルミナは、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、中でもγ−アルミナが適している。アルミナの純度は、約98質量%以上、好ましくは約99質量%以上のものが適している。アルミナ中の不純物としては、SO
42−、Cl
−、Fe
2O
3、Na
2O等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、不純物全量で2質量%以下、好ましくは1質量%以下であることが好ましく、成分毎ではSO
42−<1.5質量%、Cl
−、Fe
2O
3、Na
2O<0.1質量%であることが好ましい。
【0026】
前記HYゼオライトを含有したアルミナ担体(複合酸化物担体)の比表面積、細孔容積、及び平均細孔直径は、特に制限されないが、軽油に対する水素化脱硫活性の高い触媒にするためには、比表面積が約230〜500m
2/g、好ましくは約300〜450m
2/g、細孔容積が約0.5〜1.0ml/g、好ましくは約0.6〜1.0ml/g、平均細孔直径が約6〜12nm、好ましくは約6.5〜11nmのものが適している。この理由は次の通りである。
【0027】
含浸溶液中で、第6族金属、第9/10族金属は錯体(第6族金属はリン酸と配位してヘテロポリ酸、第9/10族金属は有機酸と配位して有機金属錯体)を形成していると考えられる。このため、担体の比表面積が小さすぎる場合には、含浸の際、錯体の嵩高さのために金属の高分散化が困難となり、その結果、得られる触媒を硫化処理しても、前記活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密な制御が困難になると推測される。複合酸化物担体において、比表面積が約230m
2/g以上であることにより、活性金属の分散性が良好になり、脱硫活性の高い触媒が得られる。
【0028】
一方で、比表面積が500m
2/g以下であれば、細孔直径が極端に小さくならないため、触媒の細孔直径も小さくならず、好ましい。触媒の細孔直径が小さいと、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。
【0029】
複合酸化物担体においては、細孔容積内に入り込む溶媒が少なすぎる場合には、活性金属化合物の溶解性が悪くなり、金属の分散性が低下し、低活性の触媒となるおそれがある。細孔容積が約0.5ml/g以上であることにより、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔容積内に充分量の溶媒が入り込むことができる。また、活性金属化合物の溶解性を上げるために、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、酸の添加量が多すぎる場合には、担体の比表面積が極端に低下し、脱硫性能が低下する場合がある。複合酸化物担体の細孔容積が約1.0ml/g以下であることにより、充分な比表面積を有し、活性金属の分散性が良好で脱硫活性の高い触媒が得られる。
【0030】
また、触媒の細孔直径が小さい場合には、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不充分となり、脱硫活性が低下するおそれがある。複合酸化物担体の細孔直径が約6nm以上であることにより、活性金属を担持させることによって、細孔直径が充分な大きさである触媒を得ることができる。一方で、触媒の比表面積が小さいと、活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性が低下するおそれがある。複合酸化物担体の細孔直径が約12nm以下であることにより、充分な比表面積を有する触媒が得られる。
【0031】
複合酸化物担体には、アルミナ、HYゼオライト以外に、上記担体物性や最終の触媒物性を満足する範囲で、ボリア、シリカ、シリカーアルミナ、チタニア、及びジルコニア等の無機酸化物を含有してもよい。
【0032】
本発明に係る触媒の複合酸化物担体は、580〜700℃で、1.5〜3時間焼成して調製される。本発明に係る触媒は、後述するように、複合酸化物担体に活性成分を担持させた後は、200℃以下で乾燥するだけで調製するため、後述する触媒の機械的特性(側面破壊強度や最密充填かさ密度等)は複合酸化物担体の焼成で得ることになる。このため、580℃未満で1.5時間未満の焼成では、十分な機械的強度を得ることができず、700℃を超える高温度下で3時間を超える長時間の焼成を行っても、この効果が飽和するばかりでなく、焼き締めにより、複合酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔直径といった特性が却って低下してしまうおそれがある。
【0033】
<軽油の水素化脱硫触媒>
本発明に係る触媒において、前記複合酸化物担体には、第6族金属を1種類のみ担持させてもよく、2種類以上を組み合わせて担持させてもよい。前記複合酸化物担体に担持させる第6族金属としては、モリブデン、タングステンが好ましく、モリブデンが特に好ましい。
【0034】
本発明に係る触媒の第6族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、10〜40質量%、好ましくは約16〜35質量%とする。第6族金属の含有量が触媒基準、酸化物換算で10質量%以上であれば、第6族金属に起因する効果を発現させるのに十分であり、好ましい。また、第6族金属の含有量が触媒基準、酸化物換算で40質量%以下では、第6族金属の含浸(担持)工程で第6族金属の金属化合物の凝集が生じず、第6族金属の分散性がよくなり、また、効率的に分散する第6族金属含有量の限度は超えない、触媒表面積が大幅に低下しない等により、触媒活性の向上がみられ、好ましい。
【0035】
本発明に係る触媒において、前記複合酸化物担体には、第9/10族金属を1種類のみ担持させてもよく、2種類以上を組み合わせて担持させてもよい。前記複合酸化物担体に担持させる第9/10族金属としては、コバルト、ニッケルが好ましい。
【0036】
本発明に係る触媒の第9/10族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、1〜15質量%、好ましくは約3〜8質量%とする。第9/10族金属の含有量が触媒基準、酸化物換算で1質量%以上であれば、第9/10族金属に帰属する活性点が十分に得られるため好ましい。また、第9/10族金属の含有量が触媒基準、酸化物換算で15質量%以下では、第9/10族金属の含浸(担持)工程で第9/10族金属の金属化合物の凝集が生じず、第9/10族金属の分散性がよくなることに加え、第9/10族金属の不活性な金属種であるCo
9S
8種、Ni
3S
2種等の前駆体であるCoO種、NiO種等の生成や、担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等の生成が生じないと考えられるため、触媒能の向上がみられ、好ましい。
【0037】
また、第9/10族金属としてコバルトとニッケルを共に担持させる場合には、Co/(Ni+Co)の比が0.6〜1の範囲、より好ましくは0.7〜1の範囲になるように使用することが望ましい。この比が0.6以上では、Ni上でコーク前駆体が生成せず、触媒活性点上にコークが被覆されず、その結果活性が低下しないため、好ましい。
【0038】
第9/10族金属、第6族金属の上記した含有量において、第9/10族金属と第6族元素の金属の最適質量比は、好ましくは、酸化物換算で、〔第9/10族金属〕/(〔第9/10族金属〕+〔第6族金属〕)の値で、0.1〜0.25である。当該値が0.1以上では、脱硫の活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相等の生成が抑制されず、脱硫活性向上の度合いが高くなるため、好ましい。当該値が0.25以下では、前述の不活性なコバルト、ニッケル種等(Co
9S
8種、Ni
3S
2種等)の生成が抑制され、触媒活性が向上されるので、好ましい。
【0039】
本発明に係る触媒のリンの含有量は、触媒基準、酸化物換算で、1.5〜8質量%、好ましくは2〜6質量%、より好ましくは3〜6質量%である。リンの含有量が1.5質量%以上では、触媒表面上で第6族金属がヘテロポリ酸を形成し、なおかつヘテロポリ酸を形成しないリンはアルミナ表面に分散するため、予備硫化工程で高分散な多層MoS
2結晶が形成されて、前述の脱硫活性点を十分に配置できると推測されるので好ましい。特に、前記の予備硫化後の触媒に二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の層を、平均積層数で2.5〜5となるように形成するためには、1.5質量%以上とすることが必要である。一方、8質量%以下では、触媒表面上で第6族金属が十分にヘテロポリ酸を形成し、かつヘテロポリ酸を形成しないリンはアルミナ表面に分散し、予備硫化工程で高品質な前記脱硫活性点を被覆しないため、活性低下を引き起こさないため、好ましい。
【0040】
第6族金属としてモリブデンを用いる場合、リン成分の含有量において、活性金属のモリブデンとリンの最適質量比は、〔P
2O
5〕/〔MoO
3〕の値で、好ましくは0.07〜0.3、より好ましくは0.09〜0.25である。モリブデンとリンの質量比が0.07以上では、コバルトとモリブデンの渾然一体化が図れること、また、硫化後、二硫化モリブデンの積層化が図れることの2点から、最終的に脱硫活性点のCoMoS相、NiMoS相、特に脱硫活性点の中で高い脱硫活性を示すCoMoS相、NiMoS相のタイプIIが得られ易く、高活性な触媒となり好ましい。一方で、モリブデンとリンの質量比が0.3以下では、触媒の表面積及び細孔容積が減少せず、触媒の活性が低下せずに、また酸量が増えず、炭素析出を招かないため、活性劣化を引き起こしにくくなるため、好ましい。
【0041】
本発明に係る触媒の有機酸由来の炭素の含有量は、触媒基準、元素換算で、0.8〜7質量%、好ましくは1〜6質量%、より好ましくは1.5〜6質量%である。この炭素は、有機酸、好ましくはクエン酸由来の炭素である。有機酸由来の炭素の含有量が0.8質量%以上では、触媒表面上で第9/10族金属が有機酸と錯体化合物を十分に形成して、この場合、予備硫化工程において錯体化されていない第6族元素の金属が第9/10族金属の硫化に先立って硫化されることにより、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)が十分に形成されるので、第9/10族金属の不活性な金属種であるCo
9S
8種、Ni
3S
2等や、担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等が形成されないと推測されるため、好ましい。
【0042】
本発明に係る触媒の有機酸由来の炭素の含有量が7質量%以下では、触媒表面上で第9/10族金属が有機酸と十分に錯体化合物を形成することができるが、一方、第6族金属が有機酸と錯体化合物を形成することはなく、また、余剰の有機酸由来の炭素が触媒表面上に残ることはなく、好ましい。第6族金属が有機酸と錯体化した場合は、活性化(硫化)の際に、第6族金属の硫化が第9/10族金属の硫化と同時に起こり、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)が効率的に形成されず、ひいては第9/10族金属の不活性な金属種であるCo
9S
8種、Ni
3S
2等が形成されると推定される。また、過剰な炭素は、触媒の被毒物質として硫化段階で脱硫活性点を被覆するため、活性低下の原因となる。
【0043】
以上のようにして調製される本発明に係る触媒は、軽油に対する水素化活性及び脱硫活性を高めるために、前述の組成を有すると共に、その比表面積、細孔容積及び平均細孔直径が、以下の値に制御される必要がある。比表面積や細孔容積、平均細孔直径等の物性を特定の範囲内に制御することによって、比較的穏やかな脱硫条件下であっても、反応条件を苛酷にせずに超深度脱硫反応を容易に達成することが可能な高性能脱硫触媒を得ることができる。
【0044】
本発明に係る触媒の比表面積[窒素吸着法(BET:Braunauer-Emmett-Tailor specific surface area)で測定したBET比表面積]は、110〜300m
2/g、好ましくは120〜200m
2/g、より好ましくは130〜180m
2/gである。比表面積が110m
2/g以上では、触媒表面上で、錯体を形成していると考えられる第6族金属(リン酸と配位してヘテロポリ酸)と第9/10族金属(有機酸と配位して有機金属錯体)が、それぞれの金属の錯体が嵩高い場合でも、十分に高分散化しており、その結果、硫化処理すると、前述の活性点形成の精密制御が容易となって、高脱硫活性の触媒となるため、好ましい。一方で、比表面積が300m
2/g以下では、細孔直径が極端に小さくならず、触媒の細孔直径も小さくならないため、水素化処理の際に、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が十分となり、脱硫活性が低下しないため、好ましい。
【0045】
本発明に係る触媒の水銀圧入法で測定した細孔容積は、0.3〜0.6ml/g、好ましくは0.3〜0.5ml/gである。細孔容積が0.3ml/g以上では、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内での拡散が十分となって脱硫活性が十分となるので、好ましい。一方で、細孔容積が0.6ml/g以下では、触媒の比表面積が極端に小さくならず、活性金属の分散性が低下せずに、高脱硫活性の触媒となるため、好ましい。
【0046】
本発明に係る触媒の水銀圧入法で測定した細孔分布での平均細孔直径は、6.5〜14nm、好ましくは9〜13nm、より好ましくは9.6〜13nmである。平均細孔直径が6.5nm以上では、反応物質が細孔内に拡散し易くなるため、脱硫反応が効率的に進行するので好ましい。一方で、平均細孔直径が14nm以下では、細孔内の拡散性が良く、細孔内表面積が減少しないため、触媒の有効比表面積が減少せず、活性が高くなるため好ましい。
【0047】
前記の細孔条件を満たす細孔の有効数を多くするために、触媒の細孔径分布、すなわち平均細孔直径±1.5nmの細孔直径を有する細孔の割合は、全細孔容積の30〜75%、好ましくは35〜70%、更に好ましくは40〜60%である。平均細孔直径±1.5nmの細孔直径を有する細孔の割合が75%以下では、脱硫される化合物が特定の硫黄化合物に限定されず、満遍なく脱硫することができるため、好ましい。一方、当該割合が30%以上では、軽油の脱硫に寄与しない細孔が増加せず、その結果、脱硫活性が大幅に低下することはないため、好ましい。
【0048】
また、本発明に係る触媒は、硫化処理した後に、透過型電子顕微鏡で観察した場合における二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の層の積層数の平均値が2.5〜5であるものが好ましい。すなわち、この二硫化モリブデン等の層は、複合酸化物担体上に形成されて、触媒の接触面積を大きくする役割をなすと共に、当該層内にCoMoS相、NiMoS相等の活性点が形成される。積層数の平均値が2.5以上の触媒では、低活性なCoMoS相やNiMoS相等のタイプIの割合が多くならず、高活性を発現するため好ましい。また、積層数の平均値が5以下の触媒では、高活性なCoMoS相やNiMoS相等のタイプIIが形成され、活性点の絶対数が少なくならず、高活性を発現するため好ましい。
【0049】
更に、透過型電子顕微鏡で観察した場合における二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の層の面方向の長さが、平均値で1〜3.5nm、好ましくは2〜3.5nmであるものが適している。第6族金属の二硫化物の層の面方向の長さの平均値が1nm以上では、二硫化モリブデン等の分子が単分子のみで存在することはないため、コバルトやニッケル等の第9/10族金属はスクエアピラミッド型の5配位硫黄構造を形成することができ、活性点であるCoMoS相やNiMoS相等となることができるため、好ましい。第6族金属の二硫化物の層の面方向の長さの平均値が3.5nm以下では、二硫化モリブデン等の結晶が大きくならないため、エッジ部分の絶対数が減少せず、活性点であるCoMoS相やNiMoS相等の数を十分に確保することができるため、好ましい。
【0050】
なお、分析に用いる透過型電子顕微鏡写真には、1視野当たり200以上の二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の結晶が目視できるものを用いる。
【0051】
本発明に係る触媒の触媒形状は、特に限定されず、通常、この種の触媒に用いられている種々の形状、例えば、円柱状、三葉型、四葉型等を採用することができる。本発明に係る触媒の大きさは、通常、直径が約1〜2mm、長さ約2〜5mmが好ましい。
【0052】
本発明に係る触媒の機械的強度は、側面破壊強度(SCS:Side crush strength)で約2lbs/mm以上が好ましい。SCSがこれより小さいと、反応装置に充填した触媒が圧壊し、反応装置内で差圧が発生し、水素化処理運転の続行が不可能となるおそれがある。本発明に係る触媒の最密充填かさ密度(CBD:Compacted Bulk Density)は、0.6〜1.2g/mlが好ましい。
【0053】
また、本発明に係る触媒中の活性金属の分布状態は、触媒中で活性金属が均一に分布しているユニフォーム型が好ましい。
【0054】
以上の特性を有する本発明に係る触媒を得るには、以下に説明する製造方法によることが好ましい。
【0055】
すなわち、前記した成分からなり、前記した物性を有する複合酸化物担体に、第6族金属の少なくとも1種を含む化合物、第9/10族金属の少なくとも1種を含む化合物、有機酸、及びリン酸を含有する溶液(含浸用溶液)を用い、第6族金属、第9/10族金属、リン、及び有機酸に由来する炭素を上記した含有量となるように担持し、乾燥する方法による。
【0056】
具体的には、例えば、前記した物性を有する複合酸化物担体を、これらの化合物等を含有する溶液に含浸し、200℃以下の温度で乾燥する方法により行う。200℃以下の温度で乾燥することによって、コバルト、ニッケル等の第9/10族金属の不活性な金属種を形成せずに高活性な脱硫活性点(CoMoS相タイプII、NiMoS相タイプII等)を精密に制御できる。
【0057】
前記含浸用溶液中に使用する第6族金属を含む化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、好ましくは三酸化モリブデン、モリブドリン酸である。これらの化合物の前記含浸用溶液中への添加量は、得られる触媒中に上記した範囲内で第6族金属が含有される量とする。
【0058】
前記含浸用溶液中に使用する第9/10族金属を含む化合物としては、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ニッケル6水和物等が挙げられ、好ましくは炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物である。特に好ましくは、炭酸コバルト、炭酸ニッケルに比べて分解速度が遅いクエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物である。
すなわち、分解速度が速いと、二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の層とは別に、コバルトやニッケル等の第9/10族金属が独自の層を形成してしまい、高活性なCoMoS相やNiMoS相等の形成が不十分となるのに対し、分解速度が遅いと、二硫化モリブデン等のリム−エッジ部分に、高活性なこれらの相を十分に形成することができる。
【0059】
クエン酸コバルトとしては、クエン酸第一コバルト(Co
3(C
6H
5O
7)
2)、クエン酸水素コバルト(CoHC
6H
5O
7)、クエン酸コバルトオキシ塩(Co
3(C
6H
5O
7)
2・CoO)等が挙げられ、クエン酸ニッケルとしては、クエン酸第一ニッケル(Ni
3(C
6H
5O
7)
2)、クエン酸水素ニッケル(NiHC
6H
5O
7)、クエン酸ニッケルオキシ塩(Ni
3(C
6H
5O
7)
2・NiO)等が挙げられる。
これらコバルトとニッケルのクエン酸化合物の製法は、例えば、コバルトの場合、クエン酸の水溶液に炭酸コバルトを溶かすことにより得られる。このような製法で得られたクエン酸化合物の水分を、除去しないで、そのまま、触媒調製に用いてもかまわない。
これらの化合物の上記含浸用溶液中への添加量は、得られる触媒中に上記した範囲内で第9/10族金属が含有される量とする。
【0060】
前記含浸用溶液中に使用する有機酸としては、クエン酸1水和物、無水クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、マロン酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸1水和物である。これらの有機酸は、硫黄を実質的に含まない化合物を使用することが重要である。
有機酸としてクエン酸を使用する場合は、クエン酸単独でもよく、コバルトやニッケル等の第9/10族金属とのクエン酸化合物であってもよい。
【0061】
有機酸の添加量は、得られる触媒中に前記の炭素含有量で炭素が残る量とすることが重要であり、また第9/10族金属に対して有機酸の添加量を、モル比で、〔有機酸〕/〔第9/10族金属〕=0.2〜1.2、好ましくは0.4〜1、より好ましくは0.6〜1とすることが適している。当該モル比が0.2以上では、第9/10族金属に帰属する活性点が十分に得られるため好ましい。また、当該モル比が1.2以下では、含浸液が高粘度とならないため、担持工程に時間を要することはなく、活性金属が担体ペレットの内部まで含浸されるため、活性金属の分散状態は良好となり、好ましい。
【0062】
更に、第6族金属と第9/10族金属の総量に対して有機酸の添加量は、モル比で、〔有機酸〕/(〔第6族金属〕+〔第9/10族金属〕)が0.04〜0.22、好ましくは0.05〜0.20、より好ましくは0.05〜0.18とすることが適している。当該モル比が0.35以下では、金属と錯体化しきれない余剰の有機酸が触媒表面上に残ることはなく、好ましい。触媒表面上に有機酸が残っていると、硫化過程において原料油とともに流れ出る場合があり好ましくない。
【0063】
前記含浸用溶液中に使用するリン酸としては、種々のリン酸、具体的には、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられ、特にオルトリン酸が好ましい。
リン酸としては、第6族金属との化合物であるモリブドリン酸を用いることもできる。
この場合、得られる触媒中に前記含有量でリンが含有されない場合には、リン酸をさらに添加する。
【0064】
なお、第6族金属の化合物や、第9/10族金属の化合物が含浸用溶液に十分に溶解しない場合には、これらの化合物と共に、酸[硝酸、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)]を使用してもよい。当該酸としては、有機酸の使用が好ましい。有機酸を用いる場合は、得られる触媒中に、この有機酸による炭素が残存することもあるため、触媒中の炭素含有量が上記範囲内となるようにすることが重要である。
【0065】
前記含浸用溶液において、前記の各成分を溶解させるために用いる溶媒は、水である。
水に前記各成分を溶解させて含浸用溶液を調製するが、このときの温度は、0℃を超え100℃以下でよく、この範囲内の温度であれば、水に上記各成分を良好に溶解させることができる。
【0066】
前記含浸用溶液のpHは5未満が好ましい。pH5未満であれば、水酸イオンが増えず、有機酸と第9/10族金属との間の配位能力が強まり、第9/10族金属の錯体形成が促進され、その結果、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)の数を大幅に増加させることができるので、好ましい。
【0067】
このようにして調製した含浸用溶液に、前記無機酸化物担体を含浸させて、当該含浸用溶液中の前記各成分を当該無機酸化物担体に担持させる。
【0068】
含浸条件は、種々の条件を採ることができるが、通常、含浸温度は、好ましくは0℃を超え100℃未満、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜30℃であり、含浸時間は、好ましくは15分間〜3時間、より好ましくは20分間〜2時間、さらに好ましくは30分間〜1時間である。なお、温度が高すぎると、含浸中に乾燥が起こり、分散度が偏ってしまうおそれがある。また、含浸中は、攪拌することが好ましい。
【0069】
前記含浸用溶液を含浸担持させた後、窒素気流中、空気気流中、又は真空中で、常温〜約80℃で水分をある程度[LOI(Loss on ignition)50%以下となるように]除去し、その後、空気気流中、窒素気流中、又は真空中で、200℃以下、好ましくは80〜200℃で10分間〜24時間、より好ましくは100〜150℃で5〜20時間の乾燥を行う。
【0070】
乾燥を、200℃以下の温度で行うことにより、金属と錯体化していると思われる有機酸が触媒表面から離脱せず、その結果、得られる触媒を硫化処理したときに前記活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密制御が容易となり、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo
9S
8種、Ni
3S
2種等が形成されず、また二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の平均積層数が2.5〜5となると考えられ、高脱硫活性の触媒となるので好ましい。
【0071】
ただし、真空中で乾燥を行う場合は、圧力760mmHg換算で前記温度範囲になるように乾燥することが好ましい。乾燥時の圧力の範囲は、300〜900mmHg、好ましくは700〜850mmHg、より好ましくは730〜800mmHg、さらに好ましくは大気圧である。乾燥時の圧力が300mmHg以上では、760mmHg換算の沸点が200℃より高くならず、金属と錯体化している有機酸は容易に離脱しない。金属と錯体化していると思われる有機酸が触媒表面から脱離せず、その結果、得られる触媒を硫化処理すると前述の活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密制御が容易となり、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo
9S
8種、Ni
3S
2種等が形成されずに、高脱硫活性の触媒となるため、好ましい。
【0072】
<水素化脱硫触媒を用いた水素化処理方法>
本発明に係る触媒は、他の脱硫触媒と同様に、軽油の水素化処理に用いることができる。本発明に係る触媒は、非常に脱硫活性が高く、反応条件を従来の水素化処理の際の反応条件とほぼ同じとした場合のみならず、より温和とした場合であっても、軽油留分中の硫黄分の含有率を、大幅に低減させることができる。
【0073】
例えば、水素分圧3〜8MPa、300〜420℃、及び液空間速度0.3〜5h
−1の条件で、本発明に係る触媒と硫黄化合物を含む軽油留分とを接触させて脱硫を行うことによって、軽油中の難脱硫性硫黄化合物を含む硫黄化合物を減少させることができる。
【0074】
本発明に係る触媒によって水素化処理する処理対象油(原料油)としては、例えば、直留軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、水素化処理軽油、脱硫処理軽油、減圧蒸留軽油(VGO)等の軽油留分が挙げられる。これらの原料油の代表的な性状例として、沸点範囲が150〜450℃、硫黄分が5質量%以下のものが挙げられる。
【0075】
本発明に係る触媒を用いた水素化処理方法を商業規模で行うには、本発明に係る触媒の固定床、移動床、あるいは流動床式の触媒層を反応装置内に形成し、この反応装置内に原料油を導入し、前記の条件下で水素化反応を行えばよい。最も一般的には、固定床式触媒層を反応装置内に形成し、原料油を反応装置の上部に導入し、固定床を上から下に通過させ、反応装置の下部から生成物を流出させるものか、反対に原料油を反応装置の下部に導入し、固定床を下から上に通過させ、反応装置の上部から生成物を流出させるものである。
【0076】
当該水素化処理方法は、本発明に係る触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段の水素化処理方法であってもよく、幾つかの反応装置に充填して行う多段連続水素化処理方法であってもよい。
【0077】
また、本発明に係る触媒は、使用前に(すなわち、水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理して活性化する。この硫化処理は、200〜400℃、好ましくは250〜350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、それにジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、あるいは硫化水素を用いて行う。この硫化処理により、本発明に係る触媒は、前述したように、平均積層数で2.5〜5、平均面方向長が1〜3.5nmの二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の層を形成し、この二硫化モリブデン等のリム−エッジ部分に、高活性なCoMoS相やNiMoS相等の活性点を形成することとなる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の実施態様及びその効果を実施例及び比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
まず、実施例及び比較例における触媒の物理性状及び化学組成の分析方法を以下に示す。
【0079】
<比表面積>
比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、日本ベル社製の表面積測定装置(ベルソープ28)を使用した。
【0080】
<細孔容積、平均細孔直径、及び細孔分布>(使用機器)
細孔容積、平均細孔直径、及び細孔分布は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、ポロシメーター(MICROMERITICS AUTO−PORE 9200:島津製作所製)を使用した。
【0081】
(測定原理)
水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づく。水銀と円筒細孔の場合には、この法則は下記式(F)で表される。式(F)中、Dは細孔直径、Pは掛けた圧力、γは表面張力、θは接触角である。掛けた圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定した。なお、触媒の細孔水銀の表面張力は484dyne/cmとし、接触角は130度とした。
式(F):D=−(1/P)
4γcosθ
【0082】
細孔容積は、細孔へ進入した触媒グラム当たりの全水銀体積量である。平均細孔直径は、Pの関数として算出されたDの平均値である。
細孔分布は、Pを関数として算出されたDの分布である。
【0083】
(測定手順)(1)真空加熱脱気装置の電源を入れ、温度400℃、真空度5×10
−2Torr以下になることを確認した。
(2)サンプルビュレットを空のまま真空加熱脱気装置に掛けた。
(3)真空度が5×10
−2Torr以下となったら、サンプルビュレットを、そのコックを閉じて真空加熱脱気装置から取外し、冷却後、重量を測定した。
(4)サンプルビュレットに試料(触媒)を入れた。
(5)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置に掛け、真空度が5×10
−2Torr以下になってから1時間以上保持した。
(6)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置から取外し、冷却後、重量を測定し、試料重量を求めた。
(7)AUTO−PORE 9200用セルに試料を入れた。
(8)AUTO−PORE 9200により測定した。
【0084】
<化学組成の分析>(使用機器及び分析方法)
触媒中の金属分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICPS−2000:島津製作所製)を用いて行った。
金属の定量は、絶対検量線法にて行った。
【0085】
(測定手順)(1)ユニシールに、触媒0.05g、塩酸(50容量%)1ml、フッ酸一滴、及び純水1mlを投入し、加熱して溶解した。
(2)溶解後、ポリプロピレン製メスフラスコ(50ml)に移し換え、純水を加えて、50mlに秤量した。
(3)この溶液を、ICPS−2000により測定した。
【0086】
<二硫化モリブデンの層(TEM)の測定>
二硫化モリブデンの層の積層数は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、商品名:“JEM−2010”)を用いて、次の要領で測定した。
(1)触媒を流通式反応管に詰め、室温で窒素気流中に5分間保持し、雰囲気ガスをH
2S(5容量%)/H
2に切替え、速度5℃/minで昇温し、400℃に達した後、1時間保持した。その後、同雰囲気下で200℃まで降温し、雰囲気ガスを窒素に切替え、常温まで降温し、硫化処理を終了した。
(2)この硫化処理後の触媒をメノウ乳鉢で粉砕した。
(3)粉砕した触媒の少量をアセトン中に分散させた。
(4)得られた懸濁液をマイクログリッド上に滴下し、室温で乾燥して試料とした。
(5)前記試料をTEMの測定部にセットし、加速電圧200kVで測定した。直接倍率は20万倍とし、5視野を測定した。
(6)TEM写真を200万倍になるように引き延ばし(サイズ16.8cm×16.8cm)、1視野当たり200以上の二硫化モリブデン等の第6族金属の二硫化物の結晶が目視できるものを用い、二硫化モリブデンの積層数と、層の面方向の長さを測り取った。
【0087】
[製造例1]ゼオライトの調製
以降の実施例等において用いたゼオライト1は、以下の方法により調製した。
オートクレーブ容器に入れた21.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液230gに、17.0質量%のNa
2Oと22.0質量%のAl
2O
3を含有するアルミン酸ナトリウム29gを攪拌しながら加えた。アルミン酸ナトリウム添加後の溶液を攪拌しながら、SiO
2濃度24質量%の3号水硝子232gの中に加え、十分に攪拌した後、95℃で12時間加温熟成を行った。熟成終了後、温度を70℃以下となるように冷却した後、合成生成物を取り出し、ろ過、洗浄、乾燥を行い、Na−Y型種結晶を調製した。得られた種子組成物の組成は、酸化物モル比で、Na
2O/Al
2O
3=16、SiO
2/Al
2O
3=15、H
2O/Al
2O
3=330であった。
【0088】
次いで、オートクレーブ容器に、SiO
2濃度29質量%のケイ酸ナトリウム溶液を220g、33.0質量%のNa
2Oと36.5質量%のAl
2O
3を含有するアルミン酸ナトリウムを31.7g、水酸化ナトリウムを6g、純水を747.0g加え、十分に攪拌した後に、上記種結晶を8.0g(乾燥基準)添加し、再度十分に攪拌を行った後、95℃で12時間加熱熟成を行った。熟成終了後、温度を70℃以下となるように冷却した後、合成生成物を取り出し、ろ過、洗浄、乾燥を行い、Na−Y型ゼオライト1を得た。
その後、5質量%硝酸アンモニウム水溶液中にNa−Y型ゼオライト1を入れ、60℃一定条件下20分間攪拌した後、ろ過し、イオン交換処理を行った。イオン交換処理を2回繰り返した後、120℃、12時間乾燥させることによってNH
3型Yゼオライト1を得た。
さらに、得られたNH
3型Yゼオライト1を600℃、4時間空気流通下で焼成することにより、H型Yゼオライト1(以下、単に「ゼオライト1」という。)を得た。また、反応混合物中の全Al
2O
3に対する前述の種子Al
2O
3の量は、0.098モル%であった。
【0089】
ゼオライト2〜ゼオライト5についても、前記ゼオライト1の方法に従い調製した。
ゼオライト1〜ゼオライト5のSiO
2/Al
2O
3(モル比)、結晶格子定数、ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比(〔ゼオライト骨格内Al〕/〔全Al〕)、及び結晶子径を表1に示す。
ここで、SiO
2/Al
2O
3(モル比)は、ICP分析法による化学組成分析から測定した。結晶格子定数は、ASTM D3906に準じてX線解析装置(XRD)を用いて測定した。全Al原子に対するゼオライト骨格内Alのモル比は、化学組成分析値とXRDによる測定値とから計算した。詳細は前述の通りに行った。
【0090】
【表1】
【0091】
[実施例1]
3.4gのゼオライト1と218.8gのアルミナ水和物とを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して、直径1/16インチの柱状成形物のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比=6/94、細孔容積=0.82ml/g、比表面積=321m
2/g、平均細孔直径=8.9nm)を得た。
これとは別に、イオン交換水43.4gに、クエン酸第一コバルト17.09gと、リン酸(85%水溶液)3.72gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸29.34gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液(含浸用溶液)を調製した。
ナス型フラスコ中に、前記ゼオライト−アルミナ複合担体50gを投入し、そこへ前記含浸用溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。その後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Aを得た。
触媒Aは、比表面積が147m
2/g、細孔容積が0.44ml/g、平均細孔直が12.0nmであった。
【0092】
[実施例2]
実施例1のゼオライト1をゼオライト2に置き換えた以外は実施例1と同様にして、実施例1と同一形状のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比=6/94、細孔容積=0.79ml/g、比表面積=329m
2/g、平均細孔直径=8.8nm)を得た。このゼオライト−アルミナ複合担体50gをナス型フラスコ中に投入し、そこへ実施例1と同じ含浸用溶液の全量を実施例1と同様にして添加浸漬後、実施例1と同様にして風乾、乾燥、焼成を行い、触媒Bを得た。
触媒Bは、比表面積が155m
2/g、細孔容積が0.41ml/g、平均細孔直が12.5nmであった。
【0093】
[実施例3]
実施例1のゼオライト1をゼオライト3に置き換えた以外は実施例1と同様にして、実施例1と同一形状のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比=6/94、細孔容積=0.81ml/g、比表面積=317m
2/g、平均細孔直径=8.7nm)を得た。このゼオライト−アルミナ複合担体50gをナス型フラスコ中に投入し、そこへ実施例1と同じ含浸用溶液の全量を実施例1と同様にして添加浸漬後、実施例1と同様にして風乾、乾燥、焼成を行い、触媒Cを得た。
触媒Cは、比表面積が157m
2/g、細孔容積が0.42ml/g、平均細孔直が12.1nmであった。
【0094】
[実施例4]
実施例1のゼオライト1をゼオライト4に置き換えた以外は実施例1と同様にして、実施例1と同一形状のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比=6/94、細孔容積=0.79ml/g、比表面積=315m
2/g、平均細孔直径=8.5nm)を得た。このゼオライト−アルミナ複合担体50gをナス型フラスコ中に投入し、そこへ実施例1と同じ含浸用溶液の全量を実施例1と同様にして添加浸漬後、実施例1と同様にして風乾、乾燥、焼成を行い、触媒Dを得た。
触媒Dは、比表面積が150m
2/g、細孔容積が0.41ml/g、平均細孔直が12.2nmであった。
【0095】
[実施例5]
イオン交換水43.2gに、炭酸コバルト7.56gと三酸化モリブデン21.4gとクエン酸1水和物12.02gとリン酸(85%水溶液)5.16gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌することにより、含浸用溶液を調製した。
ナス型フラスコ中に、実施例2と同様に調製したゼオライト−アルミナ複合担体50gを投入し、そこへ前記含浸用溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。その後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Eを得た。
触媒Eは、比表面積が149m
2/g、細孔容積が0.43ml/g、平均細孔直が11.8nmであった。
【0096】
[実施例6]
イオン交換水43.2gに、炭酸コバルト7.56gと三酸化モリブデン21.4gとクエン酸1水和物4.41gとリン酸(85%水溶液)5.16gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。
ナス型フラスコ中に、実施例2と同様に調製したゼオライト−アルミナ複合担体50gを投入し、そこへ上記の含浸用溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。その後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Fを得た。
触媒Fは、比表面積が146m
2/g、細孔容積が0.43ml/g、平均細孔直が12.8nmであった。
【0097】
[比較例1]
実施例1のゼオライト1をゼオライト5に置き換えた以外は実施例1と同様にして、実施例1と同一形状のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比=6/94、細孔容積=0.81ml/g、比表面積=312m
2/g、平均細孔直径=8.6nm)を得た。このゼオライト−アルミナ複合担体50gをナス型フラスコ中に投入し、そこへ実施例1と同じ含浸用溶液の全量を実施例1と同様にして添加浸漬後、実施例1と同様にして風乾、乾燥、焼成を行い、触媒aを得た。
触媒aは、比表面積が145m
2/g、細孔容積が0.44ml/g、平均細孔直が12.0nmであった。
【0098】
[比較例2]
イオン交換水43.2gに、炭酸コバルト7.56gと三酸化モリブデン21.4gとクエン酸1水和物17.36gとリン酸(85%水溶液)5.16gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌して含浸用溶液を調製した。
ナス型フラスコ中に、実施例2で調製したゼオライト−アルミナ複合担体50gを投入し、そこへ前記含浸用溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。その後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒bを得た。
触媒bは、比表面積が154m
2/g、細孔容積が0.42ml/g、平均細孔直が12.9nmであった。
【0099】
[比較例3]
イオン交換水43.2gに、炭酸コバルト7.56gと三酸化モリブデン21.4gとクエン酸1水和物1.34gとリン酸(85%水溶液)5.16gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌して含浸用溶液を調製した。
ナス型フラスコ中に、実施例2で調製したゼオライト−アルミナ複合担体50gを投入し、そこへ前記含浸用溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。その後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒cを得た。
触媒cは、比表面積が160m
2/g、細孔容積が0.44ml/g、平均細孔直が11.7nmであった。
【0100】
[比較例4]
イオン交換水43.2gに、炭酸コバルト10.41gと三酸化モリブデン22.1gとクエン酸1水和物3.13gとリン酸(85%水溶液)5.30gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌して含浸用溶液を調製した。
ナス型フラスコ中に、実施例2で調製したゼオライト−アルミナ複合担体50gを投入し、そこへ前記含浸用溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。その後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒dを得た。
触媒dは、比表面積が159m
2/g、細孔容積が0.43ml/g、平均細孔直が11.6nmであった。
【0101】
触媒A〜F及び触媒a〜dの元素分析値を表2に、触媒性状を表3に示す。表2中、CoO、MoO
3、P
2O
5は触媒基準、酸化物換算の値であり、Cは触媒基準、元素換算の値である。また、表3中、「SA」は比表面積(m
2/g)を、「PV」は細孔容積(ml/g)を、「MPD」は平均細孔直径(nm)を、「PSD」は細孔分布(MPD±1.5nmに全細孔容積のうち何%の細孔容積が含まれているか)(%)を、それぞれ意味する。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
[直留軽油の水素化処理反応1]
実施例1〜6及び比較例1〜4において調製した触媒A〜F及び触媒a〜dを用い、以下の要領にて、下記性状の直留軽油の水素化処理を行った。
先ず、触媒を高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。
次に、反応温度に加熱した原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で水素化反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0105】
触媒の前処理条件:圧力(水素分圧);5.0MPa、雰囲気;水素及び原料油(液空間速度:1.5h
−1、水素/オイル比:200m
3(normal)/m
3)、温度;常温約22℃で水素及び原料油を導入し、20℃/hで昇温し、300℃にて24時間維持し、次いで反応温度である350℃まで20℃/hで昇温させた。
【0106】
水素化反応条件:反応温度;350℃、圧力(水素分圧);5.0MPa、液空間速度;1.5h
−1、水素/オイル比;200m
3(normal)/m
3。
【0107】
原料油の性状:油種;中東系直留軽油、比重(15/4℃);0.8603、蒸留性状;初留点が227.5 ℃、50%点が308.5℃、90%点が360.5℃、終点が385.0℃、硫黄成分;1.57質量%、窒素成分;160質量ppm、30℃における動粘度;6.441cSt、流動点;0℃、くもり点;1.0℃、セイボルトカラー;−16。
【0108】
反応結果については、以下の方法で解析した。
360℃で反応装置を運転し、6日経過した時点で生成油を採取し、その性状を分析した。その後、各触媒について生成油硫黄分が8質量ppmとなる温度で200日の運転を行った。この生成油硫黄分一定運転に際して、触媒の劣化による生成油硫黄分上昇を抑えるために、運転温度を補償しながら運転した。
【0109】
〔1〕脱硫率(HDS)(%):
原料中の硫黄分を脱硫反応によって硫化水素に転換することにより、原料油から消失した硫黄分の割合を脱硫率と定義し、原料油及び生成油の硫黄分析値から以下の式により算出した。測定結果を表4に示す。
〔2〕脱硫反応速度定数(Ks):
生成油の硫黄分(Sp)の減少量に対して、1.3次の反応次数を得る反応速度式の定数を脱硫反応速度定数(Ks)とした。なお、反応速度定数が高い程、触媒活性が優れていることを示している。測定結果を表4に示す。
【0110】
脱硫率(%)=〔(Sf-Sp)/Sf〕×100
脱硫反応速度定数=〔1/(Sp)
(1.3-1)-1/(Sf)
(1.3-1)〕×(LHSV)×1/(1.3-1)
【0111】
上記脱硫率と脱硫反応速度定数の両式中、Sfは原料油中の硫黄分(質量%)、Spは反応生成油中の硫黄分(質量%)、LHSVは液空間速度(h
−1)である。
【0112】
〔3〕比活性(%):
比活性は、下記式から求めた。測定結果を表4に示す。
比活性(%)=
〔各脱硫反応速度定数〕/〔比較触媒aの脱硫反応速度定数〕×100
【0113】
【表4】
【0114】
表4に示すように、実施例1〜6の触媒A〜Fは、比較例1〜4の触媒a〜dよりも、脱硫率が高く、脱硫反応速度定数も大きく、比活性も139%以上と非常に高かった。触媒a〜dを用いた場合には、生成油の硫黄分は25〜68質量ppmであったのに対して、触媒A〜Fを用いた場合には、15質量ppm以下にまで硫黄分を低減させることができた。
【0115】
特に、触媒Aと触媒aとを比較すると、同じ含浸用溶液を用いて活性成分を担持させたにもかかわらず、触媒Aのほうが触媒aよりも脱硫反応速度定数が明らかに大きく、触媒に含まれているゼオライトの結晶子径が、触媒の脱硫反応速度定数に影響を与えることが明らかである。また、触媒A〜Fがいずれも高い脱硫活性を示したことから、触媒に含まれているゼオライトの結晶子径を30〜100nmとすることにより、高活性の水素化脱硫触媒が製造し得ることがわかった。
【0116】
また、同じ無機酸化物担体に担持させたにもかかわらず、有機酸がコバルト1モル当たり1.28モルも担持されている触媒bと、有機酸がコバルト1モル当たり0.1モルしかない触媒cと、有機酸がコバルト1モル当たり0.17モルしかない触媒dは、有機酸がコバルト1モル当たり0.3〜1.0モル担持されている触媒B、E及びFよりも明らかに比活性が小さかった。これらの結果から、担体への有機酸の担持量、特に第9/10族金属の担持量に対するモル比が、脱硫活性に大きく影響すること、また、有機酸由来の炭素が触媒基準、元素換算で0.8〜7質量%、モル比で〔有機酸〕/〔第9/10族金属〕=0.2〜1.2となるように有機酸と第9/10族金属を担持させることにより、比較的重質な軽油をも高い脱硫活性で水素化処理可能な水素化脱硫触媒を製造し得ることがわかった。
【0117】
さらに、表5には、50日後と100日後における運転温度を示した。なお、比較例1(触媒a)及び比較例4(触媒d)は100日目に達する前に運転温度が400℃に達した。また、比較例3(触媒c)は50日目に達する前に運転温度が400℃に達したため評価を中止した。
この結果、実施例1〜6の触媒A〜Fを用いた場合には、50日目の運転温度と100日目の運転温度との差が5〜12℃であり、長期間生成油硫黄分一定運転した場合でも、運転温度はさほど上昇させる必要はなかった。これに対して、比較例2の触媒bを用いた場合には、100日目には、50日目の運転温度よりも17℃以上も上昇させる必要があった。これらの結果から、本発明に係る触媒が、長期間にわたって安定した活性を維持できることが明らかである。
【0118】
【表5】
【0119】
以上の結果から明らかなように、本発明に係る触媒は、従来の軽油水素化処理の場合とほぼ同じ水素分圧や反応温度等の条件下で、超深度脱硫領域での軽油の脱硫反応に対して極めて優れた活性を有していることがわかる。