【実施例】
【0032】
以下、実験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
[一般的実験手順1]
ここでは、脱水共沸還流でアミドを合成する手順を説明する。まず、丸底フラスコに、カルボン酸とアリールボロン酸とDMAPと溶媒を入れる。そのフラスコに、テフロン(登録商標)で被覆されたマグネティックスターラーバーを入れ、綿栓とモレキュラーシーブス4Å(ペレット)を入れた側管付き滴下ロートを取り付ける。滴下ロートの上には、還流冷却器を取り付ける。混合液を5分間室温で撹拌し、その後、アミンを滴下する。その混合液を脱水共沸還流条件下で水を除去しながら所定時間加熱する。反応混合液を室温に冷却し、その後、溶媒を減圧留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、目的とするアミドを得る。なお、モレキュラーシーブス4Åは予めよく乾燥したものを用いる。
【0033】
[一般的実験手順2]
ここでは、乾燥剤で脱水しながら低温でアミドを合成する手順を説明する。まず、マグネティックスターラーバーを入れたシュレンクフラスコに、カルボン酸とアリールボロン酸と乾燥したモレキュラーシーブス4Å(粉末)を入れる。溶媒を加え、混合液を10分間激しく撹拌する。その後、アミンを加える。その混合液を窒素雰囲気下、50℃で所定時間激しく撹拌する。反応混合液をセライトでろ過し、無水Na
2SO
4で乾燥し、酢酸エチルで3回抽出し、溶媒を減圧留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、目的とするアミドを得る。
【0034】
[実験例1−1〜1−14]
一般的実験手順1にしたがって、α位に側鎖を有するカルボン酸である2−メチル−3−フェニルプロパン酸(1mmol)と第1級アミンであるベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。反応時間は、対比のために2時間に統一した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸と添加剤は、いずれも反応基質に対して5mol%使用した。アリールボロン酸としては、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(触媒A)又は3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸(触媒B)を用い、添加剤としては、表1に示す化合物を用いた。これらの結果を表1に示す。なお、DMAP及びDMAPOは4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン及びそのN−オキシドの略であり、PPY及びPPYOは4−(1−ピロリジニル)ピリジン及びそのN−オキシドの略である。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、添加剤としてジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルイミダゾール、イミダゾール、ピリジン、2−アミノ−5−メチルピリジンを加えた場合には(実験例1−3〜1−7,1−14)、添加剤を加えなかった場合(実験例1−1)と比べてアミドの収率が向上しなかった。これに対して、添加剤としてDMAP,DMAPO,PPY,PPYOを加えた場合には(実験例1−8〜1−13)、触媒A,Bのいずれであっても、添加剤を加えなかった場合(実験例1−1,1−2)と比べてアミドの収率が格段に向上した。また、添加剤としてDMAPOやPPYOを加えた場合には、DMAPやPPYを加えた場合に比べてより強い反応促進効果が認められた。
【0037】
なお、触媒Bは、以下の手順により合成した。まず、発煙硫酸(1.5mL)と濃硫酸(4.5mL)とニトロメタン(15mL)の混合液を撹拌しつつ、その中へp−トリルボロン酸(固体,1.0g,7.4mmol)を少量ずつ加えた。加えている間、温度を−5〜0℃に維持し、その後0℃で3時間維持した。反応混合液を酢酸エチルで抽出し、氷水で3回洗浄した。溶媒を除去し、残渣をヘキサンとトルエンで洗浄して、触媒Bつまり3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸を収率70%で得た。
【0038】
[実験例2−1〜2−29]
一般的実験手順1にしたがって、α位に側鎖を有する各種のカルボン酸(1mmol)と各種のアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)又はベンゼン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸と添加剤は基本的には反応基質に対して5mol%使用したが、実験例2−17,2−18,2−22,2−26〜2−28では反応基質に対して10mol%使用した。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表2及び表3から明らかなように、α位に側鎖を有するカルボン酸と第1級アミンとの反応では、いずれの場合も、DMAPやDMAPOによる反応促進効果が認められた(実験例2−1〜2−16,2−23〜2−29)。一方、α位に側鎖を有するカルボン酸と第2級アミンとの反応では、DMAPによる反応促進効果はほとんど認められなかったが(実験例2−17)、DMAPOやPPYOによる反応促進効果は顕著に認められた(実験例2−18〜2−22)。このことから、アミンとして第2級アミンを用いる場合には、添加剤としてN−オキシドを用いるのが好ましい。
【0042】
[実験例3−1〜3−25]
一般的実験手順1にしたがって、芳香族カルボン酸あるいはα,β−不飽和カルボン酸(1mmol)と各種のアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)又はベンゼン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸は反応基質に対して5mol%使用し、添加剤は反応基質に対して5〜10mol%使用した。これらの結果を表4及び表5に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
表4及び表5から明らかなように、芳香族カルボン酸と第1級アミンとの反応(実験例3−1〜3−13,3−18〜3−22)やα,β−不飽和カルボン酸と第1級アミンとの反応(実験例3−23〜3−25)では、DMAPやDMAPOによる反応促進効果が認められた。一方、芳香族カルボン酸と第2級アミンとの反応では、DMAPによる反応促進効果は認められなかったが(実験例3−14)、DMAPOやPPYOによる反応促進効果は認められた(実験例3−15〜3−17)。アリールボロン酸と添加剤とのモル比は、1:1〜1:2で良好な結果が得られた。
【0046】
[実験例4−1〜4−7]
実験例4−1〜4−7では一般的実験手順2にしたがって、α位に側鎖を持たないカルボン酸(1mmol)とベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸と添加剤は反応基質に対して10mol%使用した。これらの結果を表6に示す。
【0047】
【表6】
【0048】
表6から明らかなように、α位に側鎖を持たないカルボン酸である1−ナフタレン酢酸と第1級アミンであるベンジルアミンとの脱水縮合反応は、乾燥剤であるモレキュラーシーブスの存在下、50℃という穏やかな条件でも、DMAPやDMAPOによる反応促進効果が認められた(実験例4−1〜4−3)。この反応では、DMAPを用いた場合に比べてDMAPOを用いた場合の方が反応促進効果が高かった(実験例4−1,4−2)。カルボン酸として4−フェニルブタン酸を用いた場合も、DMAP又はDMAPOによる反応促進効果が認められた(実験例4−4〜4−7)。
【0049】
[実験例5−1〜5−4]
一般的実験手順1にしたがって、触媒として触媒Bつまり3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸、添加剤としてDMAP又はDMAPOを用いて、カルボン酸(1mmol)とアミン(1mmol)との脱水縮合反応によるアミド合成を行った。触媒と添加剤はいずれも反応基質に対して5mol%使用し、溶媒はトルエンを5mL使用した。実験例5−1では、シクロヘキシルカルボン酸とベンジルアミンとの反応、実験例5−2では、3−フェニルプロピオン酸と3,5−ジメチルピペリジンとの反応、実験例5−3及び実験例5−4では、安息香酸とn−ヘキシルアミンとの反応を行った。各実験例において、1回目の反応終了後に触媒Bと添加剤との塩を回収し、それを2回目の反応に利用した。3回目の反応も、同様にして回収した触媒Bの塩を利用した。表7には、3回のアミドの平均収率と触媒Bの塩の平均回収率を示す。
【0050】
なお、触媒Bと添加剤との塩の回収は、以下のようにして行った。アミド縮合反応後、反応混合液を室温まで冷却した。その後、溶媒の半分を減圧留去し、混合液を0℃で20分間放置した。この間、3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸のDMAP塩(又はDMAPO塩)が沈澱した。固液分離後、得られた固体をヘキサンとトルエンの1:1(体積比)の混合溶媒で注意深く洗浄し、DMAP(又はDMAPO)と3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸とのモル比が1:1〜2:3の塩を得た。ちなみに、触媒BのDMAP塩やDMAPO塩は反応溶液中で沈澱になったが、そのほかの触媒のDMAP塩やDMAPO塩は沈澱にならなかった。
【0051】
【表7】
【0052】
表7から明らかなように、実験例5−1〜5−4のいずれにおいても、アミドの平均収率が高く、触媒Bの塩の平均回収率も高かった。このことから、触媒BとDMAP(又はDMAPO)との組合せは、触媒Bの塩がリサイクル可能なため、コスト的に有利であるし、環境にもやさしいと言える。
【0053】
[実験例6−1〜6−15]
表8の上段に記載した式に示すように、N−Boc−シタグリブチンの合成を行った。これらは、カルボン酸として、β位に保護アミノ基を有するアミノ酸を用いた例である。代表的な実験例として、実験例6−2の手順を以下に示す。5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩114.3mg(0.50mmol)に4M苛性ソーダ水溶液0.125mL(0.50mmol)を加えたのち水を蒸発乾固した。これにフルオロベンゼン2.5mL、(3R)−N−Boc−4−(1,3,4−トリフルオロフェニル)−3−アミノ−ブタン酸183.3mg(0.55mmol)、更に触媒A(13mg, 0.05mmol)、DMAPO(7mg, 0.05mmol)を加え、100℃(オイルバス温度)で23時間、共沸脱水を行いながら反応した。反応混合物を濃縮後、2mLの酢酸エチルに溶かし、40mLのヘキサンをゆっくり滴下することによって、目的とするN−Boc−シタグリブチンを205mg(収率81%)の白色固体として得た。表8の他の実験例も、この手順に準じて行った。
【0054】
実験例6−1〜6−15の結果を表8に示す。実験例6−1〜6−4では、メタ位にCF
3基を有するアリールボロン酸(触媒A,C)を用い、実験例6−5〜6−10では、オルト位とパラ位にフッ素原子を有するアリールボロン酸(触媒D,E,F)を用いた。実験例6−11,6−12では、メタ位に電子求引性基として機能するメトキシ基を有し、
オルト位にヨウ素原子を有するアリールボロン酸(触媒G)
を用いた。実験例6−13では、メタ位にニトロ基を有するアリールボロン酸(触媒H)、実験例6−14ではメタ位とパラ位にフッ素原子を有するアリールボロン酸(触媒I)、実験例6−15ではパラ位にCF
3基を有するアリールボロン酸(触媒J)を用いた。
【0055】
【表8】
【0056】
表8から明らかなように、実験例6−1〜6−12で用いた触媒A,C〜Gでは、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてN−Boc−シタグリブチンの収率が高かった。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。実験例6−13〜6−15で用いた触媒H〜Jでは、DMAPOを添加した場合のみ検討したが、いずれもN−Boc−シタグリブチンを高収率で得ることができた。
【0057】
[実験例7−1〜7−6]
一般的実験手順1にしたがって、表9の上段に記載した式に示すように、安息香酸(1mmol)とベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、対応するアミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、触媒は反応基質に対して5mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して5mol%使用した。これらの結果を表9に示す。実験例7−1,7−2では、触媒Aを用い、実験例7−3,7−4では、両方のメタ位にニトロ基を有するアリールボロン酸(触媒K)を用い、実験例7−5,7−6では、触媒Fを用いた。
【0058】
【表9】
【0059】
表9から明らかなように、触媒A,Kでは、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が顕著に高かった(実験例7−1〜7−4)。すなわち、触媒A,Kのいずれを用いた場合でも、DMAPOによる反応促進効果が認められた。また、オルト位に電子吸引性基を有する触媒Fでも、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が高かった(実験例7−5,7−6)。すなわち、触媒Fを用いた場合でも、触媒A,Kほどではないが、DMAPOによる反応促進効果が認められた。
【0060】
[実験例8−1〜8−3]
一般的実験手順1にしたがって、表10の上段に記載した式に示すように、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸(1mmol)とベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、対応するアミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、触媒は反応基質に対して5mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して0mol%又は5mol%使用した。これらの結果を表10に示す。実験例8−1,8−2では、触媒Gを用い、実験例8−3では、触媒Aを用いた。
【0061】
【表10】
【0062】
表10から明らかなように、実験例8−1〜8−2で用いた触媒Gでは、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が高かった。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。実験例8−3で用いた触媒Aでは、DMAPOを添加した場合のみ行ったが、非常に高収率で対応するアミドが得られた。
【0063】
[実験例9−1〜9−2]
一般的実験手順1にしたがって、表11の上段に記載した式に示すように、光学活性なカルボン酸(0.5mmol)と光学活性なアミン(0.5mmol)との脱水縮合反応により、対応するジペプチドを合成した。これらは、カルボン酸として、α位に保護アミノ基を有するアミノ酸を用いた例である。触媒として触媒Gを使用し、溶媒としてフッ化ベンゼン(2.5mL)を使用した。触媒Gは反応基質に対して10mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して0mol%又は10mol%使用した。これらの結果を表11に示す。表11から明らかなように、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてジペプチドの収率が高かった。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。また、いずれも若干のエピ化が起こったものの、ジアステレオマー比(dr)はDMAPOを添加した場合の方がやや高かった。
【0064】
【表11】
【0065】
[実験例10−1〜10−2]
一般的実験手順1にしたがって、表12の上段に記載した式に示すように、3−フェニルプロピオン酸(0.5mmol)と反応性の低いアニリン(0.5mmol)との脱水縮合反応により、対応するアミドを合成した。触媒として触媒Gを使用し、溶媒としてベンゼン(2.5mL)を使用した。触媒Gは反応基質に対して5mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して0mol%又は5mol%使用した。これらの結果を表12に示す。表12から明らかなように、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が大幅に改善された。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。
【0066】
【表12】
【0067】
ところで、本発明者らは、既に、α−ヒドロキシカルボン酸とアミンとの脱水縮合反応において、メチルボロン酸が触媒として有効に機能することを出願しているが(PCT/JP2013/53500)、この反応系にDMAPOを添加した場合には触媒活性が抑制されてしまうことを確認した。こうしたことから、DMAPやDMAPOはどのような反応系でも反応を促進するわけではないことがわかった。
【0068】
本出願は、2013年11月11日に出願された日本国特許出願第2013−233308号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。