特許第5928971号(P5928971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928971
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】カルボン酸アミドの製法
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/02 20060101AFI20160519BHJP
   C07C 233/11 20060101ALI20160519BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20160519BHJP
   C07C 235/34 20060101ALI20160519BHJP
   C07C 233/58 20060101ALI20160519BHJP
   C07C 237/22 20060101ALI20160519BHJP
   C07C 233/65 20060101ALI20160519BHJP
   C07D 207/16 20060101ALI20160519BHJP
   C07D 307/68 20060101ALI20160519BHJP
   C07D 211/16 20060101ALI20160519BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20160519BHJP
   C07D 295/182 20060101ALI20160519BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160519BHJP
   C07K 5/065 20060101ALN20160519BHJP
【FI】
   C07C231/02
   C07C233/11
   C07C233/05
   C07C235/34
   C07C233/58
   C07C237/22
   C07C233/65
   C07D207/16
   C07D307/68
   C07D211/16
   C07D487/04 145
   C07D295/182
   !C07B61/00 300
   !C07K5/065
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-546675(P2015-546675)
(86)(22)【出願日】2014年11月6日
(86)【国際出願番号】JP2014079468
(87)【国際公開番号】WO2015068770
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-233308(P2013-233308)
(32)【優先日】2013年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年−26年度、JST戦略的創造研究推進事業CREST(研究領域:「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」、研究課題「酸・塩基複合型超分子動的錯体を鍵とする高機能触媒の創製」)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彰
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/109749(WO,A1)
【文献】 特開平11−199554(JP,A)
【文献】 特開2009−046415(JP,A)
【文献】 日本化学会第93春季年会 講演予稿集IV,2013年 3月 8日,P1324, 「1 E4-31」
【文献】 ISHIHARA et al.,3,4,5-Trifluorobenzeneboronic Acid as an Extremely Active Amidation Catalyst,JOURNAL OF ORGANIC CHEMISTRY,1996年,Vol. 61,P. 4196-4197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸とアミンとの脱水縮合反応によりカルボン酸アミドを得るカルボン酸アミドの製法であって、
触媒として、メタ位及び/又はパラ位にハロゲン原子、ハロゲン化炭化水素基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ペンタフルオロスルファニル基、及びアルキルカルボニル基からなる群より選ばれた1種以上を有するアリールボロン酸か、メタ位にアルコキシ基を有するアリールボロン酸を用い、添加剤として、4位に−NR12(R1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であるか、互いに繋がって炭化水素鎖をなす)を有するピリジン又はそのN−オキシドを用いる、カルボン酸アミドの製法。
【請求項2】
前記触媒は、カルボン酸又はアミンに対して1〜10mol%使用し、前記添加剤は、前記触媒に対してモル比で1〜2倍使用する、請求項1に記載のカルボン酸アミドの製法。
【請求項3】
前記カルボン酸は、α位に水素原子を1つ有するか1つも有さないカルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸、α位若しくはβ位に保護アミノ基を有するアミノ酸、又は芳香族カルボン酸である、請求項1又は2に記載のカルボン酸アミドの製法。
【請求項4】
前記アミンは、第2級アミンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルボン酸アミドの製法。
【請求項5】
前記添加剤は、前記ピリジンのN−オキシドである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルボン酸アミドの製法。
【請求項6】
前記触媒は、3,5−ジニトロ−4−アルキルフェニルボロン酸であり、前記添加剤は、4−ジアルキルアミノピリジン又はそのN−オキシドである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカルボン酸アミドの製法。
【請求項7】
前記触媒は、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸であり、前記添加剤は、4−ジアルキルアミノピリジン又はそのN−オキシドである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカルボン酸アミドの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸アミドの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタもしくはパラ位に電子求引性基を有するアリールボロン酸はカルボン酸とアミンとの脱水縮合触媒として有用である。脱水縮合触媒に有用なアリールボロン酸としては、例えば、3,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、3−ニトロフェニルボロン酸などを挙げることができる。最近、本発明者らは、3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸も高い触媒活性を示すことを報告している(非特許文献1)。これらのボロン触媒存在下、カルボン酸と第1級あるいは第2級アミンを1:1のモル比で混ぜ、トルエンやキシレンなどの低極性溶媒中で加熱共沸脱水すると、アミドが合成できる。推定される反応機構としては、この反応条件下、まずカルボン酸とボロン酸から混合酸無水物中間体が発生し、アミンがその中間体に対し求核攻撃することにより目的とするカルボン酸アミドが生成すると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本化学会春季年会第33春季年会予稿集1E4−31(2013年3月22−25日開催)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したカルボン酸アミドの合成反応では、α位に置換基を有しないような嵩低いカルボン酸は反応性が高いのに対し、α位に置換基を有するような嵩高いカルボン酸は比較的反応性が低い。そのため、反応性のより低い基質に対しては、より高温、より長時間の反応条件が必要となる。しかし、高温下で副反応を起こし、分解あるいはラセミ化するような基質や目的生成物に対しては適用できない。このような背景から、触媒的脱水縮合反応において、より反応を促進することが求められている。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、カルボン酸とアミンとの脱水縮合反応によりカルボン酸アミドを得るカルボン酸アミドの製法において、反応を促進させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、カルボン酸とアミンとの脱水縮合反応によりカルボン酸アミドを製造するにあたって、触媒として、メタ位及び/又はパラ位に電子求引性基を有するアリールボロン酸を用い、添加剤として、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンやそのN−オキシドを用いたところ、従来に比べて脱水縮合反応が促進されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のカルボン酸アミドの製法は、カルボン酸とアミンとの脱水縮合反応によりカルボン酸アミドを得るカルボン酸アミドの製法であって、触媒として、メタ位及び/又はパラ位に電子求引性基を有するアリールボロン酸を用い、添加剤として、4位に−NR12(R1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であるか、互いに繋がって炭化水素鎖をなす)を有するピリジン又はそのN−オキシドを用いるものである。
【0008】
本発明のカルボン酸アミドの製法によれば、従来に比べて脱水縮合反応が促進されるため、短時間あるいは低温でカルボン酸アミドを高収率で得ることができる。このように脱水縮合反応が促進されるのは、非常に反応性の高い中間体が生成するからだと考えられる。反応機構は、以下のように推察される(下記式参照)。下記式では、触媒として3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、添加剤として4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)を用い、カルボン酸(RCO2H)と第1級アミン(R’NH2)とを脱水縮合させる場合を例示している。まず、カルボン酸と触媒との間で脱水縮合が起こり、第1活性種が生成する。DMAP存在下では、アミンの代わりにDMAPが第1活性種であるアシルアンモニウムイオンと反応し、第2活性種が生成する。この第2活性種は非常に反応性に富んでいると考えられ、容易にアミドが生成する。それと共に、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸とDMAPが再生する。第1活性種から第2活性種を経てアミドが生成するルートのほかに、第1活性種から第2活性種を経ずにアミドが生成するルートも考えられるが、第2活性種を経るルートの方が支配的であると考えられる。
【0009】
【化1】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカルボン酸アミドの製法は、カルボン酸とアミンとの脱水縮合反応によりカルボン酸アミドを得るカルボン酸アミドの製法であって、触媒として、メタ位及び/又はパラ位に電子求引性基を有するアリールボロン酸を用い、添加剤として、4位に−NR12(R1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であるか、互いに繋がって炭化水素鎖をなす)を有するピリジン又はそのN−オキシドを用いるものである。
【0011】
本発明のカルボン酸アミドの製法で使用するカルボン酸は、R3CO2H(R3は置換基)で表される。R3CO2Hは、脂肪族カルボン酸であってもよいし、芳香族カルボン酸であってもよい。
【0012】
脂肪族カルボン酸の場合、R3は炭化水素を基本骨格とする基である。炭化水素は、直鎖でも分岐していてもよく、環式でも非環式でもよく、飽和でも不飽和でもよい。こうした炭化水素としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、エテニル、プロペニル、ブテニルなどが挙げられる。また、炭化水素は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、β−アルコキシカルバモイル基などが挙げられる。
【0013】
芳香族カルボン酸の場合、R3は芳香環を基本骨格とする基であり、芳香環は、炭化水素系芳香環でもよいし複素環でもよい。炭化水素系芳香環としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ピレンなどが挙げられる。また、複素環としては、フラン、チオフェンなどが挙げられる。また、芳香環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。
【0014】
α位に側鎖を有さないカルボン酸つまりα位に水素原子を2つ以上有するカルボン酸(R4CH2CO2H:R4は置換基)は、アミンとの脱水縮合反応の反応基質としては反応性が高い。一方、α位に側鎖を有するカルボン酸つまりα位に水素原子を1つ有するか1つも有さないカルボン酸(R45CHCO2HやR456CCO2H:R4〜R6は同じであっても異なっていてもよく、互いに結合していてもよい置換基)やα,β−不飽和カルボン酸、芳香族カルボン酸は、比較的嵩高いため、反応性が低い。しかし、本発明のカルボン酸アミドの製法によれば、こうした反応性が低いカルボン酸であっても、穏やかな反応条件(短時間又は低温)でカルボン酸アミドが得られる。側鎖としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基などが挙げられる。アミノ基は、アルキルカルボニル基やアルコキシカルボニル基などで保護されていてもよい。こうした保護アミノ基をα位に有するカルボン酸からアミドを合成することは、ペプチド合成に繋がることから有用である。α位又はβ位に保護アミノ基を有するアミノ酸としては、例えばtert−ブトキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)、ベンゾイル(Bz)で保護されたアミノ基を有するアミノ酸などが挙げられる。
【0015】
本発明のカルボン酸アミドの製法で使用するアミンとしては、第1級アミンでもよいし第2級アミンでもよい。
【0016】
第1級アミンとしては、例えば、アルキルアミン、シクロアルキルアミン、アラルキルアミン、アリールアミンなどが挙げられる。アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミンなどが挙げられる。シクロアルキルアミンとしては、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミンなどが挙げられる。アラルキルアミンとしては、ベンジルアミン、α−メチルベンジルアミン、α−エチルベンジルアミン、フェネチルアミン、α−メチルフェネチルアミン、β−メチルフェネチルアミン、α−エチルフェネチルアミン、β−エチルフェネチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、1−(2−ナフチル)エチルアミンなどが挙げられる。アリールアミンとしては、アニリン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミンなどが挙げられる。
【0017】
第2級アミンとしては、ジアルキルアミン、アルキルアラルキルアミン、アルキルアリールアミン、環式アミンなどが挙げられる。ジアルキルアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどが挙げられる。アルキルアラルキルアミンとしては、N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェネチルアミン、N−エチルフェネチルアミンなどが挙げられる。アルキルアリールアミンとしては、N−メチルアニリン、N−メチル−1−ナフチルアミン、N−メチル−2−ナフチルアミンなどが挙げられる。環式アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、モノホリンなどが挙げられる。
【0018】
こうした第1級アミンや第2級アミンは、適宜置換基を有していてもよい。例えば、アルキル基が有する置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、第3級アミノ基、アルコキシ基などが挙げられ、アラルキル基やアリール基、環式アミンが有する置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。
【0019】
アミンとして第1級アミンを用いる場合でも第2級アミンを用いる場合でも、添加剤として4位に−NR12を有するピリジン−N−オキシドを用いることが好ましい。添加剤として4位に−NR12を有するピリジンを用いた場合に比べて、反応性が向上するからである。
【0020】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、カルボン酸とアミンとのモル比は、通常1:1とすればよいが、一方を過剰に用いても構わない。
【0021】
本発明のカルボン酸アミドの製法で使用するアリールボロン酸は、メタ位及び/又はパラ位に電子求引性基を有している。電子求引性基としては、ハロゲン原子、ハロゲン化炭化水素基(ハロゲン原子を少なくとも1つ有する1価の炭化水素基)、ニトロ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、ペンタフルオロスルファニル基(SF5)などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。このうち、フッ素原子が好ましい。ハロゲン化炭化水素基としては、ハロゲン原子を少なくとも1つ有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルケニル基が挙げられる。このうち、水素原子がすべてハロゲン原子(特にフッ素原子)で置換された炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。そのような基としては、トリフルオロメチル基やペンタフルオロエチル基などが挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基やエトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。アルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基やエチルカルボニル基などが挙げられる。アルコキシ基は、メタ位に結合している場合に電子求引性基として機能することはよく知られている。メタ位のアルコキシ基としては、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基がより好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。パラ位は、無置換であってもよいし、置換基で置換されていてもよい。パラ位の置換基としては、例えば上述した電子求引性基が挙げられる。また、ボロン酸官能基は2つ以上存在してもよい。アリールボロン酸は、通常、単量体で単離することは難しく、環状三量体であったり、二量体であったり、オリゴマーであったりしており、それらの混合物として存在することが多い。そのため、本発明で使用するアリールボロン酸は、単量体、二量体、環状三量体及びオリゴマーのうちの1種であってもよいし2種以上の混合物であってもよい。
【0022】
こうしたアリールボロン酸の具体例としては、3,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、3−ニトロフェニルボロン酸、3,5−ジニトロフェニルボロン酸、3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸などが挙げられる。このうち、3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸は、本発明のカルボン酸アミドの製法において添加剤と塩を形成し、その塩を容易に回収して再利用することができるため、好ましい。その他に、3−フルオロフェニルボロン酸、4−フルオロフェニルボロン酸、2,3−ジフルオロフェニルボロン酸、2,4−ジフルオロフェニルボロン酸、2,5−ジフルオロフェニルボロン酸、3,4−ジフルオロフェニルボロン酸、3,5−ジフルオロフェニルボロン酸、2,3,4−トリフルオロフェニルボロン酸、2,3,5−トリフルオロフェニルボロン酸、2,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸、2,4,6−トリフルオロフェニルボロン酸、3−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、2,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、3−メトキシフェニルボロン酸、3,5−ビス(ペンタフルオロスルファニル)フェニルボロン酸、2−ヨード−5−メトキシフェニルボロン酸なども好ましい。ボロン酸官能基が2つ以上存在するアリールボロン酸としては、例えば、1,2−ジニトロ−4,5−ジボロン酸フェニル、1,4−ビス(トリフルオロメチル)−2,5−ジボロン酸フェニルなどが挙げられる。
【0023】
本発明のカルボン酸アミドの製法で使用する添加剤は、4位に−NR12(R1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であるか、互いに繋がって炭化水素鎖をなす)を有するピリジン又はそのN−オキシドである。アルキル基としては、直鎖であっても分岐していてもよい。こうしたアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。R1及びR2が互いに繋がって炭化水素鎖をなす場合、−NR12はアジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、アゼパン環などになるが、これらの環上の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい。
【0024】
こうした添加剤としては、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、4−(N,N−ジエチルアミノ)ピリジン、4−(1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(1−ピペリジニル)−ピリジン、4−(4−メチル−1−ピペリジニル)−ピリジン及びそれらのN−オキシドなどが挙げられる。このうち、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、4−(1−ピロリジニル)−ピリジン及びそれらのN−オキシドが好ましく、N−オキシドがより好ましい。N−オキシドの方が反応をより活性化しやすいからである。
【0025】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、触媒の使用量は、反応基質に対して1〜20mol%が好ましく、1〜10mol%がより好ましい。また、触媒と添加剤とのモル比は、通常1:1であればよいが、必要に応じて1:1〜1:2の範囲に設定すればよい。
【0026】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、反応溶媒は、アミド縮合に影響しない溶媒であれば特に限定されないが、例えば炭化水素系溶媒やニトリル系溶媒、ニトロ系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン溶媒が好ましい。炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。ニトリル系溶媒としては、ブチロニトリル、プロピオニトリルなどが挙げられる。ニトロ系溶媒としては、ニトロメタン、ニトロエタンなどが挙げられる。エーテル系溶媒としては、フェニルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルなどが挙げられる。アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ブチルピロリドンなどが挙げられる。ハロゲン溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン、フルオロベンゼンなどが挙げられる。また、これらの混合溶媒を用いてもよい。
【0027】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、反応温度は反応速度などを考慮して適宜設定すればよいが、例えば、20〜200℃の範囲で設定するのが好ましく、40〜160℃の範囲で設定するのがより好ましい。また、アミド縮合では、カルボン酸アミド化合物と共に水が生成するが、カルボン酸アミド化合物の収率を向上させるには脱水を効率よく行うことが好ましい。例えば、反応温度を溶媒の還流温度とし、共沸脱水しながら還流してもよい。あるいは、反応溶液中に乾燥剤(例えばモレキュラーシーブスなど)を投入し、溶媒の還流温度未満で反応してもよい。
【0028】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、反応時間は、反応基質、反応温度などに応じて適宜設定すればよいが、通常は数分〜数10時間である。なお、アミド縮合は反応基質が完全に消費されるまで行ってもよいが、反応が進むにつれて反応基質の消失速度が極端に遅くなる場合には反応基質が完全に消費されなくても反応を終了してカルボン酸アミド化合物を取り出した方が好ましい場合もある。
【0029】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、目的とするカルボン酸アミドを単離するには、通常知られている単離手法を適用すればよい。例えば、反応混合物中の反応溶媒を減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーや再結晶などで精製することにより、目的とするカルボン酸アミド化合物を単離することができる。
【0030】
本発明のカルボン酸アミドの製法において、反応終了後、アリールボロン酸と添加剤との塩(ボロン酸塩)が反応溶液中で沈澱する場合には、沈殿したボロン酸塩を回収し、再利用してもよい。例えば、アリールボロン酸として3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸、添加剤としてDMAPを用いた場合には、ボロン酸塩を回収、再利用することができる。
【0031】
ところで、3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸は、J. Med. Chem. 1970, vol.13, p128-131に記載された方法により合成することができる。しかし、この方法では、収率が悪く、副生成物として3,5−ジニトロ−p−トルエンが多く生成してしまう。そこで、本発明者らは、この方法の改良を鋭意検討したところ、目的物を高収率で得ることに成功した。改良した方法では、反応溶媒であるニトロアルカン(例えばニトロメタン)に発煙硝酸と濃硫酸とを体積比で1:2〜1:4となるように加え、そこへp−トリルボロン酸を0℃以下(例えば−5〜0℃)で加え、その後、0℃以下で撹拌した。撹拌時間は数時間(例えば2〜4時間)とした。こうすることにより、目的物である3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸を単離収率70%で得た。ちなみに文献記載の方法では、単離収率は48%であった。
【実施例】
【0032】
以下、実験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
[一般的実験手順1]
ここでは、脱水共沸還流でアミドを合成する手順を説明する。まず、丸底フラスコに、カルボン酸とアリールボロン酸とDMAPと溶媒を入れる。そのフラスコに、テフロン(登録商標)で被覆されたマグネティックスターラーバーを入れ、綿栓とモレキュラーシーブス4Å(ペレット)を入れた側管付き滴下ロートを取り付ける。滴下ロートの上には、還流冷却器を取り付ける。混合液を5分間室温で撹拌し、その後、アミンを滴下する。その混合液を脱水共沸還流条件下で水を除去しながら所定時間加熱する。反応混合液を室温に冷却し、その後、溶媒を減圧留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、目的とするアミドを得る。なお、モレキュラーシーブス4Åは予めよく乾燥したものを用いる。
【0033】
[一般的実験手順2]
ここでは、乾燥剤で脱水しながら低温でアミドを合成する手順を説明する。まず、マグネティックスターラーバーを入れたシュレンクフラスコに、カルボン酸とアリールボロン酸と乾燥したモレキュラーシーブス4Å(粉末)を入れる。溶媒を加え、混合液を10分間激しく撹拌する。その後、アミンを加える。その混合液を窒素雰囲気下、50℃で所定時間激しく撹拌する。反応混合液をセライトでろ過し、無水Na2SO4で乾燥し、酢酸エチルで3回抽出し、溶媒を減圧留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、目的とするアミドを得る。
【0034】
[実験例1−1〜1−14]
一般的実験手順1にしたがって、α位に側鎖を有するカルボン酸である2−メチル−3−フェニルプロパン酸(1mmol)と第1級アミンであるベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。反応時間は、対比のために2時間に統一した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸と添加剤は、いずれも反応基質に対して5mol%使用した。アリールボロン酸としては、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(触媒A)又は3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸(触媒B)を用い、添加剤としては、表1に示す化合物を用いた。これらの結果を表1に示す。なお、DMAP及びDMAPOは4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン及びそのN−オキシドの略であり、PPY及びPPYOは4−(1−ピロリジニル)ピリジン及びそのN−オキシドの略である。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、添加剤としてジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルイミダゾール、イミダゾール、ピリジン、2−アミノ−5−メチルピリジンを加えた場合には(実験例1−3〜1−7,1−14)、添加剤を加えなかった場合(実験例1−1)と比べてアミドの収率が向上しなかった。これに対して、添加剤としてDMAP,DMAPO,PPY,PPYOを加えた場合には(実験例1−8〜1−13)、触媒A,Bのいずれであっても、添加剤を加えなかった場合(実験例1−1,1−2)と比べてアミドの収率が格段に向上した。また、添加剤としてDMAPOやPPYOを加えた場合には、DMAPやPPYを加えた場合に比べてより強い反応促進効果が認められた。
【0037】
なお、触媒Bは、以下の手順により合成した。まず、発煙硫酸(1.5mL)と濃硫酸(4.5mL)とニトロメタン(15mL)の混合液を撹拌しつつ、その中へp−トリルボロン酸(固体,1.0g,7.4mmol)を少量ずつ加えた。加えている間、温度を−5〜0℃に維持し、その後0℃で3時間維持した。反応混合液を酢酸エチルで抽出し、氷水で3回洗浄した。溶媒を除去し、残渣をヘキサンとトルエンで洗浄して、触媒Bつまり3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸を収率70%で得た。
【0038】
[実験例2−1〜2−29]
一般的実験手順1にしたがって、α位に側鎖を有する各種のカルボン酸(1mmol)と各種のアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)又はベンゼン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸と添加剤は基本的には反応基質に対して5mol%使用したが、実験例2−17,2−18,2−22,2−26〜2−28では反応基質に対して10mol%使用した。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表2及び表3から明らかなように、α位に側鎖を有するカルボン酸と第1級アミンとの反応では、いずれの場合も、DMAPやDMAPOによる反応促進効果が認められた(実験例2−1〜2−16,2−23〜2−29)。一方、α位に側鎖を有するカルボン酸と第2級アミンとの反応では、DMAPによる反応促進効果はほとんど認められなかったが(実験例2−17)、DMAPOやPPYOによる反応促進効果は顕著に認められた(実験例2−18〜2−22)。このことから、アミンとして第2級アミンを用いる場合には、添加剤としてN−オキシドを用いるのが好ましい。
【0042】
[実験例3−1〜3−25]
一般的実験手順1にしたがって、芳香族カルボン酸あるいはα,β−不飽和カルボン酸(1mmol)と各種のアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)又はベンゼン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸は反応基質に対して5mol%使用し、添加剤は反応基質に対して5〜10mol%使用した。これらの結果を表4及び表5に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
表4及び表5から明らかなように、芳香族カルボン酸と第1級アミンとの反応(実験例3−1〜3−13,3−18〜3−22)やα,β−不飽和カルボン酸と第1級アミンとの反応(実験例3−23〜3−25)では、DMAPやDMAPOによる反応促進効果が認められた。一方、芳香族カルボン酸と第2級アミンとの反応では、DMAPによる反応促進効果は認められなかったが(実験例3−14)、DMAPOやPPYOによる反応促進効果は認められた(実験例3−15〜3−17)。アリールボロン酸と添加剤とのモル比は、1:1〜1:2で良好な結果が得られた。
【0046】
[実験例4−1〜4−7]
実験例4−1〜4−7では一般的実験手順2にしたがって、α位に側鎖を持たないカルボン酸(1mmol)とベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、アミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、アリールボロン酸と添加剤は反応基質に対して10mol%使用した。これらの結果を表6に示す。
【0047】
【表6】
【0048】
表6から明らかなように、α位に側鎖を持たないカルボン酸である1−ナフタレン酢酸と第1級アミンであるベンジルアミンとの脱水縮合反応は、乾燥剤であるモレキュラーシーブスの存在下、50℃という穏やかな条件でも、DMAPやDMAPOによる反応促進効果が認められた(実験例4−1〜4−3)。この反応では、DMAPを用いた場合に比べてDMAPOを用いた場合の方が反応促進効果が高かった(実験例4−1,4−2)。カルボン酸として4−フェニルブタン酸を用いた場合も、DMAP又はDMAPOによる反応促進効果が認められた(実験例4−4〜4−7)。
【0049】
[実験例5−1〜5−4]
一般的実験手順1にしたがって、触媒として触媒Bつまり3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸、添加剤としてDMAP又はDMAPOを用いて、カルボン酸(1mmol)とアミン(1mmol)との脱水縮合反応によるアミド合成を行った。触媒と添加剤はいずれも反応基質に対して5mol%使用し、溶媒はトルエンを5mL使用した。実験例5−1では、シクロヘキシルカルボン酸とベンジルアミンとの反応、実験例5−2では、3−フェニルプロピオン酸と3,5−ジメチルピペリジンとの反応、実験例5−3及び実験例5−4では、安息香酸とn−ヘキシルアミンとの反応を行った。各実験例において、1回目の反応終了後に触媒Bと添加剤との塩を回収し、それを2回目の反応に利用した。3回目の反応も、同様にして回収した触媒Bの塩を利用した。表7には、3回のアミドの平均収率と触媒Bの塩の平均回収率を示す。
【0050】
なお、触媒Bと添加剤との塩の回収は、以下のようにして行った。アミド縮合反応後、反応混合液を室温まで冷却した。その後、溶媒の半分を減圧留去し、混合液を0℃で20分間放置した。この間、3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸のDMAP塩(又はDMAPO塩)が沈澱した。固液分離後、得られた固体をヘキサンとトルエンの1:1(体積比)の混合溶媒で注意深く洗浄し、DMAP(又はDMAPO)と3,5−ジニトロ−p−トリルボロン酸とのモル比が1:1〜2:3の塩を得た。ちなみに、触媒BのDMAP塩やDMAPO塩は反応溶液中で沈澱になったが、そのほかの触媒のDMAP塩やDMAPO塩は沈澱にならなかった。
【0051】
【表7】
【0052】
表7から明らかなように、実験例5−1〜5−4のいずれにおいても、アミドの平均収率が高く、触媒Bの塩の平均回収率も高かった。このことから、触媒BとDMAP(又はDMAPO)との組合せは、触媒Bの塩がリサイクル可能なため、コスト的に有利であるし、環境にもやさしいと言える。
【0053】
[実験例6−1〜6−15]
表8の上段に記載した式に示すように、N−Boc−シタグリブチンの合成を行った。これらは、カルボン酸として、β位に保護アミノ基を有するアミノ酸を用いた例である。代表的な実験例として、実験例6−2の手順を以下に示す。5,6,7,8−テトラヒドロ−3−(トリフルオロメチル)−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩114.3mg(0.50mmol)に4M苛性ソーダ水溶液0.125mL(0.50mmol)を加えたのち水を蒸発乾固した。これにフルオロベンゼン2.5mL、(3R)−N−Boc−4−(1,3,4−トリフルオロフェニル)−3−アミノ−ブタン酸183.3mg(0.55mmol)、更に触媒A(13mg, 0.05mmol)、DMAPO(7mg, 0.05mmol)を加え、100℃(オイルバス温度)で23時間、共沸脱水を行いながら反応した。反応混合物を濃縮後、2mLの酢酸エチルに溶かし、40mLのヘキサンをゆっくり滴下することによって、目的とするN−Boc−シタグリブチンを205mg(収率81%)の白色固体として得た。表8の他の実験例も、この手順に準じて行った。
【0054】
実験例6−1〜6−15の結果を表8に示す。実験例6−1〜6−4では、メタ位にCF3基を有するアリールボロン酸(触媒A,C)を用い、実験例6−5〜6−10では、オルト位とパラ位にフッ素原子を有するアリールボロン酸(触媒D,E,F)を用いた。実験例6−11,6−12では、メタ位に電子求引性基として機能するメトキシ基を有し、オルト位にヨウ素原子を有するアリールボロン酸(触媒G)用いた。実験例6−13では、メタ位にニトロ基を有するアリールボロン酸(触媒H)、実験例6−14ではメタ位とパラ位にフッ素原子を有するアリールボロン酸(触媒I)、実験例6−15ではパラ位にCF3基を有するアリールボロン酸(触媒J)を用いた。
【0055】
【表8】
【0056】
表8から明らかなように、実験例6−1〜6−12で用いた触媒A,C〜Gでは、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてN−Boc−シタグリブチンの収率が高かった。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。実験例6−13〜6−15で用いた触媒H〜Jでは、DMAPOを添加した場合のみ検討したが、いずれもN−Boc−シタグリブチンを高収率で得ることができた。
【0057】
[実験例7−1〜7−6]
一般的実験手順1にしたがって、表9の上段に記載した式に示すように、安息香酸(1mmol)とベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、対応するアミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、触媒は反応基質に対して5mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して5mol%使用した。これらの結果を表9に示す。実験例7−1,7−2では、触媒Aを用い、実験例7−3,7−4では、両方のメタ位にニトロ基を有するアリールボロン酸(触媒K)を用い、実験例7−5,7−6では、触媒Fを用いた。
【0058】
【表9】
【0059】
表9から明らかなように、触媒A,Kでは、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が顕著に高かった(実験例7−1〜7−4)。すなわち、触媒A,Kのいずれを用いた場合でも、DMAPOによる反応促進効果が認められた。また、オルト位に電子吸引性基を有する触媒Fでも、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が高かった(実験例7−5,7−6)。すなわち、触媒Fを用いた場合でも、触媒A,Kほどではないが、DMAPOによる反応促進効果が認められた。
【0060】
[実験例8−1〜8−3]
一般的実験手順1にしたがって、表10の上段に記載した式に示すように、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸(1mmol)とベンジルアミン(1mmol)との脱水縮合反応により、対応するアミドを合成した。溶媒はトルエン(5mL)を使用した。また、触媒は反応基質に対して5mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して0mol%又は5mol%使用した。これらの結果を表10に示す。実験例8−1,8−2では、触媒Gを用い、実験例8−3では、触媒Aを用いた。
【0061】
【表10】
【0062】
表10から明らかなように、実験例8−1〜8−2で用いた触媒Gでは、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が高かった。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。実験例8−3で用いた触媒Aでは、DMAPOを添加した場合のみ行ったが、非常に高収率で対応するアミドが得られた。
【0063】
[実験例9−1〜9−2]
一般的実験手順1にしたがって、表11の上段に記載した式に示すように、光学活性なカルボン酸(0.5mmol)と光学活性なアミン(0.5mmol)との脱水縮合反応により、対応するジペプチドを合成した。これらは、カルボン酸として、α位に保護アミノ基を有するアミノ酸を用いた例である。触媒として触媒Gを使用し、溶媒としてフッ化ベンゼン(2.5mL)を使用した。触媒Gは反応基質に対して10mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して0mol%又は10mol%使用した。これらの結果を表11に示す。表11から明らかなように、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてジペプチドの収率が高かった。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。また、いずれも若干のエピ化が起こったものの、ジアステレオマー比(dr)はDMAPOを添加した場合の方がやや高かった。
【0064】
【表11】
【0065】
[実験例10−1〜10−2]
一般的実験手順1にしたがって、表12の上段に記載した式に示すように、3−フェニルプロピオン酸(0.5mmol)と反応性の低いアニリン(0.5mmol)との脱水縮合反応により、対応するアミドを合成した。触媒として触媒Gを使用し、溶媒としてベンゼン(2.5mL)を使用した。触媒Gは反応基質に対して5mol%使用し、添加剤であるDMAPOは反応基質に対して0mol%又は5mol%使用した。これらの結果を表12に示す。表12から明らかなように、DMAPOを添加した場合の方が添加しなかった場合に比べてアミドの収率が大幅に改善された。すなわち、DMAPOによる反応促進効果が認められた。
【0066】
【表12】
【0067】
ところで、本発明者らは、既に、α−ヒドロキシカルボン酸とアミンとの脱水縮合反応において、メチルボロン酸が触媒として有効に機能することを出願しているが(PCT/JP2013/53500)、この反応系にDMAPOを添加した場合には触媒活性が抑制されてしまうことを確認した。こうしたことから、DMAPやDMAPOはどのような反応系でも反応を促進するわけではないことがわかった。
【0068】
本出願は、2013年11月11日に出願された日本国特許出願第2013−233308号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えば医薬品や農薬、化粧品の中間体などを製造する際に利用することができる。