(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928982
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】手摺付浴槽
(51)【国際特許分類】
A47K 3/02 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
A47K3/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-63269(P2012-63269)
(22)【出願日】2012年3月21日
(65)【公開番号】特開2013-192758(P2013-192758A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 稔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 里江
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暢孝
【審査官】
藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−168043(JP,A)
【文献】
特開2009−138515(JP,A)
【文献】
特開2001−95714(JP,A)
【文献】
特開平9−217474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/02−4/00
A47K 13/00−17/02
A47C 7/00−7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する一対の長辺側内壁面と相対する一対の短辺側内壁面とからなる内槽を有する上面視長方形状の浴槽と、前記一対の長辺側内壁面それぞれに取り付けられた一対の手摺と、を備えた手摺付浴槽において、
前記手摺の上面全体には、入浴者が入浴者の手の平により下方に押圧力を加えるための被押圧面部が形成されており、
前記被押圧面部は、前記浴槽の短辺方向の中心側に向かって、全体が下降傾斜していることを特徴とする手摺付浴槽。
【請求項2】
前記手摺は、入浴者が立ち上がる際に入浴者により把持される把持部を備えており、
この把持部は、前記被押圧面部を有すると共に、横断面視において前記被押面部の下方側に向う法線方向に鋭角状に突出した指掛け部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の手摺付浴槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手摺付浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入浴者が着座姿勢から立ち上がる際の動作を補助するために、相対する内壁面それぞれに手摺を取り付けた浴槽が知られている(例えば、特許文献1)。そして、その浴槽に設けられた手摺として、上面がほぼ水平に形成されたタイプのものが知られている。
【0003】
図7は、この種の手摺を使い、入浴者が自らの上半身を上方に押し上げることによって立ち上がるときの様子を表す図である。この図が示すように、入浴者Mは、浴槽1の相対する内壁に対し同じ高さに取り付けられた一対の手摺11の上面に、左右それぞれの手を載せ、その上面に対して垂直な方向に力(
図7中、P)を加えることにより、上半身の押し上げを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−166793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記手摺11を使って入浴者Mが上半身を押し上げる際、入浴者は手摺11の上面に対して垂直に力を加えるために、下腕A2をその上面に対し略垂直に立てようと自らの肘を張り出し、結果的に脇を開いてしまう。脇を開くと、上腕A1と胴体のなす角αが脇を締めたときよりも大きくなり、上腕A1と下腕A2の回転中心となる肘が胴体からより離れた状態となってしまう。そのため、上半身を押し上げるために必要な肩周りの力が効率良く伝達できず、上半身を押し上げる際の入浴者Mの負担が大きくなってしまう。したがって、入浴者Mの負担を軽減させるためには、入浴者Mに脇を締めた状態で手摺11の上面へ力を加えさせることが望ましい。
【0006】
しかし、脇を締めた状態で手摺11の上面に対し力を加えた場合、
図8に示すように、脇を開いた状態のときよりも肘が胴体に近づき、下腕A2と手摺11の上面の法線とがなす角βが脇を開いたときよりも大きくなるため、手摺11に加えた力が、手摺11の上面と平行な方向へ作用しやすくなる。したがって、入浴者Mが上半身を押し上げる際、手摺11上面で手が滑りやすくなり、入浴者が怪我をする恐れがある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、入浴者が自身の上半身を手摺を使って押し上げる際、入浴者の手の滑りを防止すると共に、入浴者にかかる負担を軽減することが可能な手摺付浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る手摺付き浴槽は、
相対する一対の長辺側内壁面と相対する一対の短辺側内壁面とからなる内槽を有する上面視長方形状の浴槽と、一対の長辺側内壁面それぞれに取り付けられた一対の手摺
と、を備えた手摺付浴槽において、
手摺の上面全体には、入浴者が入浴者の手の平により下方に押圧力を加えるための被押圧面部が形成されており、被押圧面部
は、浴槽の短辺方向の中心側に向かって、全体が下降傾斜していることを特徴とする。
【0009】
一対の手摺の被押圧面部が浴槽内側下方に傾斜している場合、被押圧面部に垂直に力を加えるためには、入浴者は肘を胴体に近づけて胴体とは反対側の斜め下方に力が加えられるよう両腕を配置しなければならない。通常、入浴者は自身の上半身を押し上げる際、被押圧面部にできる限り大きな力を加えようと被押圧面部に対し垂直に力を加えることから、本発明のように一対の手摺が有する被押圧面部をそれぞれ浴槽内側下方に傾斜させることによって、入浴者が上半身を押し上げる際に入浴者に自然と肘を胴体に近づけさせ、脇を締めさせることができる。これにより、入浴者が上半身を押し上げる際、腕に加えている力を上半身を持ち上げるための力として有効に作用させることが可能となる。また、入浴者が被押圧面部に対して垂直に力を加えることから、入浴者が加えた力が被押圧面部と平行な方向に作用することを防止できる。したがって、本発明は、入浴者が上半身を押し上げる際の、入浴者の手の滑りを防止すると共に、入浴者にかかる負担を軽減することが可能となる。
【0010】
本発明は、好ましくは、手摺は、入浴者が立ち上がる際に入浴者により把持される把持部を備えており、この把持部は、被押圧面部を有すると共に、横断面視において被押面部の下方側に向う法線方向に鋭角状に突出した指掛け部が設けられている。
【0011】
このように構成された本発明においては、入浴者が被押圧面部を有する把持部を握った際に、指掛け部に指をかけることができる。特に、本発明においては、この指掛け部が、手摺の横断面視において、被押圧面部が入浴者に押圧される方向に鋭角状に突出しているため、鈍角状に突出している場合に比べ、指先でこの指掛け部をしっかりと挟み込むことができる。したがって、入浴者の手をよりしっかりと把持部に固定させることができるため、より確実に手の滑りを防止することが可能となると共に、これによって脇を締めた状態を維持しやすくなることから、より確実に入浴者の負担を軽減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の手摺付浴槽によれば、入浴者が自身の上半身を手摺を使って押し上げる際、入浴者の手の滑りを防止すると共に、入浴者にかかる負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る手摺付浴槽の全体斜視図。
【
図2】
図1のX−X線に沿って切断した手摺付浴槽の概略断面図。
【
図3】本発明の実施形態における手摺付浴槽の平面図。
【
図4】入浴者が本発明の実施形態における手摺を握った際の様子を表す図。
【
図5】入浴者が本発明の実施形態における手摺付浴槽を使って自身の上半身を押し上げる際の様子を表す図。
【
図6】本発明における手摺の他の実施形態の横断面形状を表す図。
【
図7】脇を開いた状態で従来の手摺を使って入浴者が自身の上半身を押し上げる際の様子を表す図。
【
図8】脇を締めた状態で従来の手摺を使って入浴者が自身の上半身を押し上げる際の様子を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る手摺付浴槽の全体斜視図である。
図2は、
図1のX−X線に沿って切断した手摺付浴槽の概略断面図である。
図3は、本実施形態における手摺付浴槽の平面図である。
【0016】
図1〜
図3に示すように、本実施形態の手摺付浴槽2は、内槽部4、リム部6、外槽部8、および、手摺10を備えている。
【0017】
手摺10は、入浴者が着座姿勢から立ち上がる際などの動作を補助するためのものであり、
図4に示すように、手摺10の長手方向に垂直な断面の形状は、角に丸みを帯びた正三角形となっている。そして、この手摺10は、その長手方向に沿って全て同一の断面形状となるよう構成されている。
【0018】
手摺10は、平面視形状が矩形である手摺付浴槽2における長辺側の相対する内槽部4の長辺側側壁(4aおよび4b)にそれぞれ一つずつ取り付けられている。より具体的には、長辺側側壁4a、4bの裏側から、ネジ等を脚部材12を介して手摺10にねじ込むことによって、長辺側側壁4a、4bそれぞれに手摺10を取り付けている。なお、本実施形態においては、手摺10は、その長手方向において脚部材12が設けられていない部分全てが把持可能であり、この把持可能な部分が本発明の把持部に相当する。
【0019】
なお、本実施形態において、手摺10は、その一側面が取り付け先の長辺側側壁の内側側面と平行になるよう取り付けられているため、脚部材12は直方体をなすものでよく、複雑な形状を要しないことから、この脚部材12の製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0020】
また、長辺側側壁4a、4bは、水平面に対して垂直となるよう形成されており、手摺10の横断面形状は略正三角形であることから、長辺側側壁4a、4bに取り付けられている手摺10の一側面10aは、
図2に示すように水平面に対して30度傾いた状態となっている。すなわち、一対の手摺10の一側面10aはそれぞれ、内槽部4の内側下方へ傾斜した状態となっている。なお、この一対の手摺10は、同一の高さになるよう内槽部4の長辺側側壁4a、4bそれぞれに取り付けられている。さらに、
図3に示すように、この一対の手摺10は、内槽部4の短手方向の中心線Cに対して左右対称となる位置に取り付けられている。
【0021】
このようにして取り付けられた一対の手摺10は、
図2および
図4に示すように、上方を指向する一側面10aが入浴者の手の平によって押圧される被押圧面部を構成し、内槽部4の底面14を指向する一側面10bおよび内槽部4の側面を指向する一側面10cは、入浴者が手摺10を握る場合に、親指と他の指により挟まれる被挟持部をなすと共に、これらの側面が交わる部分の近傍は、手摺10の把持時に、屈折した指先に力(
図4におけるPa、Pb)が加えられることによって、指先で挟み込まれる指掛け部10dを構成している。
【0022】
次に、本実施形態の入浴者の立ち上がり動作において、入浴者が上半身を押し上げる際の入浴者の手摺10への力の加え方について説明する。
図5は、入浴者が自身の上半身を押し上げるときの様子を表した図である。
【0023】
入浴者Mは、上半身を押し上げる際、内槽部4の内側下方へ傾斜した被押圧面部10aに大きな力を加えようとして、自然とその被押圧面部10aに対して垂直に力を加えることが可能な位置へと腕を配置する。被押圧面部10aに対し垂直に力を加えるためには、肘を胴体に近づけることにより下腕A2が被押圧面10aに対して略垂直になるよう腕を配置しなければならないため、入浴者Mは、自然と胴体と上腕A1とのなす角度αを小さくし、脇を締めた状態となる。
【0024】
この状態で、入浴者Mは自身の上半身を上方へ押し上げるために被押圧面10aに対して力を加える。上半身を押し上げる際、入浴者Mの脇は開きづらく、このとき腕に加えている力が上半身を起こすための力として有効に作用する。これにより、入浴者Mは小さな負担で楽に上半身を押し上げることが可能となる。また、入浴者Mは脇を締めた状態で被押圧面10aに対して垂直に力を加えることができるため、加えた力が被押圧面部10aと平行な方向に分散することがなく、手の平が被押圧面部10a上で滑ることを防止することができる。
【0025】
また、本実施形態においては、手摺10の指掛け部10dに入浴者が指を掛け、この指掛け部10dを指先に力を加えて挟み込むことにより、より確実に手を手摺10に固定させることができるため、手が滑って手摺10の中心軸S周りに手が回転することを防止することができる。
【0026】
さらに、
図2に示すように、本実施形態においては、手摺付浴槽2を上面視した場合、手摺10の全域が被押圧面部10aからなるよう構成されているため、入浴者が手摺10に手の平を載せる際、自然と手の平を被押圧面部10aに載せることできる。したがって、入浴者が上半身を押し上げる際、入浴者は自然に脇を締めた状態となり、これにより、より確実に入浴者にかかる負担を軽減することが可能となる。
【0027】
なお、本発明の実施形態においては、手摺10の横断面形状は、角に丸みのある正三角形であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、
図6に示すように五角形のものなど、他の多角形であってももちろん構わない。なお、
図6に示した例では、例えば、手摺30の上面30aを被押圧面部とし、この被押圧面部30aの法線方向下方へ鋭角状に突出している突出部を指掛け部とすることができる。
【符号の説明】
【0028】
2…手摺付浴槽
4…内槽部
4a、4b…長辺側側壁
6…リム部
8…外槽部
10…手摺
10a…被押圧面部(手摺10の一側面)
10b、10c…手摺10の一側面
10d…指掛け部
12…脚部材
14…底面