(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928983
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】殺菌用紫外線ランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/30 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
H01J61/30 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-68569(P2012-68569)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-201026(P2013-201026A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿又 憲紀
(72)【発明者】
【氏名】折戸 日出海
(72)【発明者】
【氏名】大野 正之
(72)【発明者】
【氏名】野口 幸男
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−023253(JP,A)
【文献】
特開2009−298686(JP,A)
【文献】
特開2007−273153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に希ガス及び水銀が封入され、内部両端にそれぞれ電極を備えた直管型発光管バルブから構成されると共に、該発光管バルブは、酸素欠損型欠陥を有する二酸化ケイ素から成り、その欠陥含有率が0.1重量%以上1重量%以下であり、透過率吸収端が、常温下では波長210nm以上220nm以下であり、高温下では長波長側へシフトする性質を持ち、800℃では波長230nm以下である特性を有するドープド石英ガラスを用いることを特徴とする殺菌用紫外線ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に波長254nmの紫外線を利用した食品包装材料・容器の表面殺菌等に用いられる紫外線ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
波長254nm(殺菌線)の紫外線を利用する殺菌方法は、有害物質が発生する危険性が無く、安全性の高い殺菌手段として近年特に利用が進んでいる。
【0003】
しかし、発光管バルブの材料として普通石英を使用した紫外線ランプは、殺菌線の他に波長185nmの紫外線も放射される為、空気中の酸素分子を解離して酸素原子を生成し、さらにこの酸素原子が酸素分子と結合してオゾンを生成する。オゾンは殺菌作用があるため、使用条件によっては有用であるが、紫外線処理装置の近くに人がいるような場合はその毒性が問題となる。さらに、オゾン濃度が0.1ppm以上になると、人体に有害となるので、オゾン濃度を0.1ppm以下に抑制する必要がある。
【0004】
オゾン生成を防止する方法として、従来は発光管バルブにオゾンレス石英を使用したランプを用いる方法、あるいは発光管は普通石英を採用し、紫外線ランプを組み込んだ紫外線照射器の前面ガラスに酸化チタンがドープされたオゾンレス石英を用いる方法が挙げられる。この種の技術に関して記載された文献としては、例えば特許文献1がある。
【0005】
しかし、オゾンレス石英を発光管バルブに採用した場合、点灯時の高温で該石英の透過率吸収端が長波長側にシフトする為、殺菌線周辺の波長領域、すなわち、波長250〜270nmの領域における光透過率が低下するという問題がある。特に高圧放電ランプの場合、発光管外表面は動作時に約800℃の高温になることが知られている。
図3中の破線は、酸化チタンがドープされた従来のオゾンレス石英ガラスの800℃における分光透過率曲線である。
【0006】
一方、波長200〜300nmの領域の光透過率を調整する手法として、発光管バルブ表面に薄膜コーティングを形成する方法もある。例えば特許文献2に記載の方法によれば、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)等の金属の酸化物とケイ素(Si)酸化物との複合酸化物から成る薄膜コーティングを、ディップ法、蒸着法、CVD法等を用いて表面に形成した基材は、この波長領域の光透過率を高い自由度で調整できるフィルターとして用いることができるとされている。
【0007】
また、薄膜コーティングの場合は、光透過率の温度に対する波長シフト特性が物質がドープされた石英ガラスの場合と逆で、高温下では短波長側にシフトする特性を有する。この為、薄膜コーティングを構成する物質の組成を適宜選択すれば、波長250〜270nmの領域における高い光透過率を確保できる可能性がある。
【0008】
しかしながら、薄膜コーティングは、確かに、石英ガラス平板を基材に採用して形成される場合は高い耐熱衝撃性、耐磨耗性を示すが、ランプ発光管バルブのように、基材が単純でない形状を有する場合には、耐熱衝撃性、耐磨耗性が乏しいという問題があった。発光管バルブ11の両端の湾曲した部位や、発光管封止の痕跡であるチップオフ部21の周辺においては(
図1参照)、どのコーティング手法を用いても、薄膜コーティングのクラックや剥離が起こり易い。また、ランプ製造時に、薄膜コーティングという余分な工程が加わる不利な側面もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−115281号公報
【特許文献2】特開平9−184903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決し、オゾン生成の抑制と、波長250〜270nmの領域の高い紫外線強度、の両立が可能であり、しかも長時間使用の場合でも高い紫外線強度が維持される殺菌用紫外線ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、高圧放電ランプの動作時に発光管バルブ表面が800℃前後の高温になることを考慮して、このような高温下でも透過率吸収端が、殺菌線のある波長250〜270nmの領域に掛からない特性を有するドープド石英ガラスを、高圧放電ランプの発光管バルブに用いることを想起した。ドープ物質には、この特性条件を満足する、酸化チタン以外の物質を材料として着目した。
【0012】
そこで、請求項1記載の本発明の殺菌用紫外線ランプは、内部に希ガス及び水銀が封入され、内部両端にそれぞれ電極を備えた直管型発光管バルブから構成されると共に、該発光管
バルブは、酸素欠損型欠陥を有する二酸化ケイ素から成り、その欠陥含有率が0.1重量%以上1重量%以下であり、透過率吸収端が、常温下では波長210nm以上220nm以下であり、高温下では長波長側へシフトする性質を持ち、800℃では波長230nm以下である特性を有するドープド石英ガラスを用いることを特徴とする。
【0013】
ここで、「透過率吸収端」とは、分光透過率曲線において紫外域の吸収帯の最も長波長側の傾斜の光透過率が50%となる波長を指す。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の本発明によれば、発光管バルブ材料のドープド石英ガラスは、透過率吸収端が常温下では210nm以上220nm以下、800℃の高温下で230nm以下であり、波長185nm付近の紫外線を殆ど透過しないので、オゾン発生量を規定範囲内に抑制され、かつ殺菌に必要な波長254nmの紫外線は800℃の高温下でも従来よりも大幅に透過率が高い為、紫外線強度を10000時間点灯後も確保することが可能な殺菌用紫外線ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の殺菌用紫外線ランプの外観概要図である。
【
図2】発光管バルブ試料の常温下における分光透過率を示す図である。
【
図3】発光管バルブ試料の800℃における分光透過率を示す図である。
【
図4】各仕様の発光管バルブを用いた紫外線ランプの分光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1はこの発明の殺菌用紫外線ランプの一実施形態について説明する為の外観概要図である。
図1において、11は、外径23.3mmのドープド石英ガラス製の発光管バルブである。このバルブ11の両端には、先端がコイル状に巻回された構造を有する電極121と122をそれぞれバルブ内側に突出させ互いに対向配置する。電極121,122は、材料としてタングステン(W)を使用する。このうち少なくとも一方の電極には、タングステンに電子放射性物質を含有させる。
【0017】
電極121,122は、それぞれ金属箔141,142の一端に溶着される。金属箔141,142の他端は、例えばモリブデン製の引出し線151,152の一端と電気的に接続する。電極121,122の溶接部から引出し線151,152の一端まで、シール管13を加熱して溶融封止する。金属箔141,142は、シール管13を形成する石英ガラスの熱膨張率に近い材料であれば何でもよいが、この条件に適ったものとして、例えば、モリブデンを使用する。バルブ11内部には、例えば、1.3μg/mm
3の水銀と2.7kPaの圧力のアルゴンガスが封入される。
【0018】
引出し線151,152の他端は、例えば、セラミック製の口金161,162の内部で電気的に接続された耐紫外線を有する、例えば、フッ素樹脂で被覆された電線171,172を介して図示しない電源回路に接続される。
こうして高圧水銀ランプである殺菌用紫外線ランプ100が作製される。
【0019】
ここで、発光管バルブの材質が、酸化チタンがドープされた従来のオゾンレス石英である以外は前記殺菌用紫外線ランプ100と同じ仕様である、比較用の殺菌用紫外線ランプを別途用意し、紫外線ランプにおける発光管バルブ材質の違いによる、殺菌線付近の紫外線の発光強度の比較評価実験を行なった。
【0020】
バルブ11の仕様(材質)は次の2通りである。仕様1は本発明の実施例のドープド石英ガラス、仕様2は石英ガラスに酸化チタンを数%ドープさせた従来のオゾンレス石英ガラスである。仕様1のドープド石英ガラスは、純粋な石英ガラスの構成成分である二酸化ケイ素(SiO
2)におけるSi−Oネットワークの一部に、酸素原子が欠損した状態(いわゆる酸素欠損型欠陥)を生成させた材料を用いる。その欠陥の含有率は、0.1重量%以上1重量%以下が好ましい。酸素欠損型欠陥を有する石英ガラスは、真空紫外域の紫外線により誘発される、いわゆるEプライムセンターの構造の生成により、波長200〜250nmの紫外線を吸収するとされている。欠陥含有率を調整することで、この波長域での光透過率を所望の値となるようにすることができる。
【0021】
本実験における各仕様のバルブの分光透過率曲線を、20℃前後の常温については
図2に、800℃の高温については
図3にそれぞれ示す。分光透過率曲線は、各バルブ試料の光透過率を分光光度計で測定して得られたものである。ここで、バルブ試料の光透過率とは、円筒状バルブを管軸に沿って切り出した半円筒状試料片について、バルブ表面に垂直に光を入射させて測定された光透過率を指す。光透過率の測定は、バルブ表面の塵、汚れ物質等の異物が除去された状態で行なった。
【0022】
まず、
図2に示す常温下での分光透過率曲線について見ると、仕様2のバルブは、光透過率は、250〜260nmの波長領域でおよそ80〜85%、260nm以上の波長領域で85%以上であるが、250nm以下では短波長側へ向かうにつれて急激に透過率が低下し、波長220nm付近で透過率が0%となっている。透過率吸収端は233nmである。
【0023】
これに対して、仕様1のバルブは、250〜260nmの波長領域でおよそ87〜90%、260nm以上の波長領域で90%以上であり、室温下でも従来のオゾンレス石英ガラスよりも光透過率が高く、また、250nm以下では短波長側へ向かうにつれて透過率が低下するが、従来のオゾンレス石英ガラスよりも光透過率が10〜数10%程度高くなっている。透過率吸収端は215nmである。
【0024】
次に、
図3に示す800℃の高温下での分光透過率曲線について見ると、まず、仕様1、仕様2とも、室温下に比べて長波長側にシフトを起こしている。仕様2は、250〜260nmの波長領域で、短波長側へ向かうにつれて光透過率がおよそ50%からおよそ20%へと低下していき、260nm以上の波長領域でも、300nm以上にならないと光透過率が90%以上に達しない。250nm以下の波長領域でも、短波長側へ向かうにつれて、220nmにおける0%に向けて光透過率が低下していく。透過率吸収端は260nmである。
【0025】
これに対して、仕様1のバルブは、250〜260nmの波長領域で77〜83%、殺菌線(254nm)付近で80%、300nm以上で88%以上の高い光透過率を有している。また、250nm以下の波長領域でも、短波長側へ向けた光透過率の低下も仕様2に比べて緩やかである。透過率吸収端は225nmである。
【0026】
次に、これら仕様1及び2の各バルブを用いて作製した紫外線ランプの評価結果について説明する。
図4は、各仕様のバルブを用いた紫外線ランプを専用点灯容器内でランプ電力1.6kWにて点灯した時の、紫外域から可視域にかけての分光スペクトルを比較したものである。なお、発光強度は、純粋石英ガラス製バルブを用いて作製した紫外線ランプの、波長365nmにおける発光強度を100とした相対値で示している。
【0027】
図4からも分かる通り、仕様1と2の分光スペクトルは300nm以下の波長領域において相違が現われ、特に殺菌線付近においては、幅20〜30nmの広い波長範囲にわたって仕様1のランプの発光強度が仕様2より高く、波長254nmにおいてはおよそ20数倍も高かった。
【0028】
分光スペクトルにおけるこうした差異は、両仕様による紫外線ランプの殺菌性能にも表われている。仕様1、2それぞれ紫外線ランプを搭載した紫外線殺菌試験装置を用いて、プラスチック容器表面に紫外線照射を行い、照射後の指標菌の生存数を測定する殺菌試験を行なったところ、菌の生存数を照射前の10
−6に減少させる殺菌効果を得るのに、仕様2のランプではおよそ20分の紫外線照射が必要であったが、仕様1のランプの場合は、4分の照射で十分であった。なお、オゾン発生濃度について比較すると、仕様1、2の紫外線ランプをそれぞれ搭載した紫外線照射装置の筐体内でのオゾン濃度を測定したところ、いずれも0.1ppm以下であり、問題のない濃度レベルであった。また、波長254nmにおける照度維持率の推移を比較したが、仕様1、2の紫外線ランプのいずれも、点灯時間10000時間において照度維持率が90%以上であった。
【0029】
上記説明では、ドープド石英ガラスは、石英ガラス中に酸素欠損型欠陥を生成させた材料である例を挙げたが、本発明ではこれに限定される訳ではなく、ドープド石英ガラスの材料としてこの他に、純粋な石英ガラスの成分である二酸化ケイ素の一部を、透過率吸収端が室温下では波長210nm以上220nm以下であり、800℃の高温下でも波長230nmより長波長側に存在しない物質、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化二オブ(Nb
2O
3)等から成る金属酸化物の群から選択した少なくとも1種類に置き換えて作製した材料であってもよい。この金属酸化物の含有率は、0.1重量%〜1重量%が好ましい。或いは、石英ガラス中のOH基含有率やフッ素含有率を適宜調整した材料を用いてもよい。
【0030】
なお、酸化チタンは、近紫外域に強い吸収帯を有しており、含有率の制御による透過率の調整が難しく、石英ガラスに含有させる微量成分としては用いないのが好ましい。
【0031】
要するに、本発明では、透過率吸収端が、常温下では210nm以上220nm以下であり、高温下では長波長側へシフトする性質を持ち、800℃では230nm以下であるドープド石英ガラスを材料に用いた発光管バルブにより作製した紫外線ランプであれば同様の効果がある。
【0032】
800℃の高温下での透過率吸収端の好ましい範囲の下限値を示していないのは、次の理由による。すなわち、高温下での長波長シフトの幅は、多くの場合、10nm程度であるが、高温下での透過率吸収端の挙動は独立に規定される訳ではなく、室温下でのそれに影響されており、ドープド石英ガラスの材料に含まれる物質の種類や比率によって、5〜15nmと幅が多少異なり、また分光透過率曲線の傾斜の形態も多少異なるからである。
【0033】
透過率吸収端が、常温下で210nm未満の場合は、185nmにおける光透過率が無視できない大きさとなり、オゾン生成が起こる為好ましくない。また、透過率吸収端が常温下で220nm超の場合は、800℃の高温下で透過率吸収端が230nmを超えることとなり、殺菌線(254nm)付近の透過率が70%程度ないしはそれ以下に低下し、従って、殺菌線の発光強度が十分でなくなり好ましくない。
なお、本発明では、高温下でのドープド石英ガラスの分光透過率特性は、800℃で規定したが、これは、次の理由による。すなわち、当該ドープド石英ガラスを発光管材料とする紫外線ランプには、点灯時に800℃を超える発光管表面温度に達するものもあるが、測定に使用する分光光度計の高温側の使用限界が900℃程度であるためである。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、生成するオゾンの濃度を規定内に押さえながら波長254nmの紫外線強度を従来よりも飛躍的に高めることのできる紫外線ランプを提供することができる。また、発光管バルブ自体に光透過率調整機能がある材料からランプを製造できるので、薄膜コーティングのように、ランプ製造時に別途コーティング工程を設ける必要がない利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、食品包装材料・容器の表面殺菌等に用いる紫外線ランプに利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
100…紫外線ランプ
11…発光管バルブ
121、122…電極
13…シール管
141、142…金属箔
151、152…引出し線
161、162…口金
171、172…電線
21…チップオフ部