(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928987
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】ペプチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20160519BHJP
C07K 1/02 20060101ALN20160519BHJP
【FI】
C12P21/02 B
!C07K1/02
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-526474(P2012-526474)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2011066713
(87)【国際公開番号】WO2012014808
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-167212(P2010-167212)
(32)【優先日】2010年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】古川 真也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】冨家 一郎
【審査官】
野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−513697(JP,A)
【文献】
特表2008−537733(JP,A)
【文献】
ERBELDINGER, M. et al.,"Enzymatic catalysis of formation of Z-aspartame in ionic liquid - An alternative to enzymatic catalysis in organic solvents.",BIOTECHNOL. PROG.,2000年11月,Vol.16, No.6,P.1129-1131
【文献】
FUKUMOTO, K. et al.,"Room temperature ionic liquids from 20 natural amino acids.",J. AM. CHEM. SOC.,2005年 3月 2日,Vol.127, No.8,pp.2398-2399
【文献】
LOMBARD, C. et al.,"Recent trends in protease-catalyzed peptide synthesis.",PROTEIN PEPT. LETT.,2005年10月,Vol.12, No.7,P.621-629
【文献】
OHNO, H. et al.,"Amino acid ionic liquids.",ACC. CHEM. RES.,2007年11月,Vol.40, No.11,pp.1122-1129
【文献】
MIAO, W. et al.,"Ionic-liquid-supported synthesis: a novel liquid-phase strategy for organic synthesis.",ACC. CHEM. RES.,2006年12月,Vol.39, No.12,P.897-908
【文献】
MIAO, W. et al.,"Ionic-liquid-supported peptide synthesis demonstrated by the synthesis of Leu(5)-enkephalin.",J. ORG. CHEM.,2005年 4月15日,Vol.70, No.8,P.3251-3255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イオン結合によりイオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチド、(B)第二のアミノ酸又はペプチド、及び(C)ペプチド加水分解酵素をひとつの反応場に存在させ、ここで、イオン結合によりイオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを反応溶媒でかつ反応原料として用い、
第一のアミノ酸又はペプチドと第二のアミノ酸又はペプチド間にペプチド結合を形成させることを特徴とするペプチドの製造方法。
【請求項2】
第一のアミノ酸又はペプチドが、イオン液体を構成するカチオンとイオン結合することによりイオン液体化されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(B)第二のアミノ酸又はペプチドがイオン液体化されている請求項1記載の方法。
【請求項4】
反応場に水が存在する請求項3記載の方法。
【請求項5】
(A)第一のアミノ酸又はペプチドが、アミノ基又はカルボキシル基が保護されているものである請求項1〜4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
(A)イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドが、カルボキシラートである請求項1〜4の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
(A)イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドが、アミノ基が保護されているものである請求項6記載の方法。
【請求項8】
(A)イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドが、アルキルホスホニウムイオン、アルキルイミダゾリウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、アルキルピロリジニウムイオン及びアルキルピぺリジニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のカチオンとイオン結合してイオン液体化されている請求項1記載の方法。
【請求項9】
(C)ペプチド加水分解酵素が、プロテアーゼ、ペプチダーゼ及びヒドロラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
(C)ペプチド加水分解酵素が、サーモライシンである請求項9記載の方法。
【請求項11】
反応場における水の含有量が、50質量%以下である請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ペプチド結合の形成を0〜100℃の温度で行う請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ペプチド結合の形成を室温〜70℃の温度で行う請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を利用してペプチドを高い収率で合成する製造方法、特に工業的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは、医薬品の活性成分などとして幅広い需要が見込めるから、種々の方法で合成されてきた。近年では、イオン液体を利用するペプチドの合成方法が提案され、着目されている。例えば、特許文献1には、イオン液体とオリゴペプチド、オリゴサッカライド、オリゴヌクレオチドを結合させて、有機溶媒への溶解度を向上するとともに保護基としても使用する方法が開示されているが、この方法では、各反応の重合には保護基および縮合剤を使用している。非特許文献1には、イオン液体(BP6(1-butyl-3-methylimidazolium hexafluoro phosphate))中でのZ-Asp + PM→Z-APM反応を酵素(Thermolysin)を用いて実施し、イオン液体中でも酵素反応が行えることを実証している。この反応における収率は90%と高いが、著しく低濃度であり、ここに開示の反応方法は、単なる有機溶媒中での酵素反応の溶媒置換にすぎないものである。又、特許文献2には、イオン液体(4-メチル-N-ブチルピリニジウムテトラフルオロボレート)中でのペプチド合成が開示されている。ここに記載の合成方法は、非特許文献1と同様に単なる有機溶媒中での酵素反応の溶媒置換であり、20mMとかなり低濃度での反応で、しかも保護基を使用している。
非特許文献2では、アミノ酸をイオン液体残基とイオン結合により結合させ、アミノ酸がイオン液体化できることを実証しており、特に、その用途を論じていないが、当初燃料電池の電解質としての利用を検討している。非特許文献3には、イオン液体を用いたポリペプチド、オリゴ糖、その他有機合成についてのレビューが記載されており、要旨の中に、基質-イオン液体を反応中間体として用いるという記載があるが、具体的なデータは示されていない。非特許文献4には、アミノ酸結合イオン液体に関する紹介のようなレビューが記載されており、具体的なデータはないが、溶媒あるいは触媒としての将来的な利用について言及している。
しかしながら、これまでに提案されているイオン液体を利用したペプチドの合成方法は、得られるペプチドの収率が低く、工業的なペプチド製造方法として十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−537733号公報
【特許文献2】特開2008−301829号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Biotechnol. Prog. 2000, 16, 1129-1131
【非特許文献2】Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1122-1129
【非特許文献3】機能性イオン液体を担体とする液相有機合成に関する研究の発展(日本語訳:南京工業大、胡いつ(Yi Hu) 李恒 黄和 韋萍、2007年3月発行)
【非特許文献4】アミノ酸イオン液体研究の進展(日本語訳:遼寧大学、呉陽 張甜甜 宋渓明、2008年3月発行)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、イオン液体を利用してペプチドを高濃度で、かつ高収率で合成する製造方法、特に工業的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを反応溶媒でかつ反応原料として用い、これに反応させる第二のアミノ酸又はペプチド、と(C)ペプチド加水分解酵素をひとつの反応場に存在させて反応させると、上記課題を効率よく解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、(A)イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチド、(B)第二のアミノ酸又はペプチド、及びペプチド加水分解酵素をひとつの反応場に存在させ、ここで、イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを反応溶媒でかつ反応原料として用い
第一のアミノ酸又はペプチドと第二のアミノ酸又はペプチド間にペプチド結合を形成させることを特徴とするペプチドの製造方法を提供する。
【0007】
本発明によると、ペプチドを高濃度で、かつ高収率で合成することができる。本発明では、ペプチド加水分解酵素を用いるので、該酵素が有する位置特異性を利用して、最終反応生成物であるペプチドにおける構成アミノ酸の配列を容易にコントロールすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では、先ず、(A)イオン結合によりイオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを反応溶媒でかつ反応原料として用いる。ここで、当該イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドが、4級化ヘテロ原子を有する化合物、例えば、4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩やピぺリジニウム塩などを構成するカチオンと第一のアミノ酸又はペプチドがイオン結合しているものを用いるのが好ましい。具体的には、第一のアミノ酸又はペプチドが、アルキルホスホニウムイオン、アルキルイミダゾリウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、アルキルピロリジニウムイオン及びアルキルピぺリジニウムイオンから選ばれる少なくとも1種であるカチオンと、イオン結合しているものを用いるのが好ましい。ここで用いるアルキルホスホニウムイオンなどにおけるアルキル基の炭素数は1〜12であるのが好ましく、より好ましくは1〜6であり、最も好ましくは1〜4である。複数あるアルキル基は同一でも異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。より具体的には、テトラブチルフォスフォニウムイオン、テトラエチルフォスフォニウムイオン、テトラメチル4級アンモニウムイオン、テトラエチル4級アンモニウムイオン、テトラブチル4級アンモニウムイオン、ヘキシルトリエチル4級アンモニウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムイオン、1-ブチルピリジニウムイオン、1-メチル-1-ブチルピロリジニウムイオンなどがあげられる。これらは塩酸塩、臭酸塩、水酸化物塩などとして、東京化成工業株式会社、北興化学株式会社や東洋合成株式会社などから容易に入手することができる。
ここで、イオン液体とは、塩融解物ではなくて100℃以下の低温で融解するイオンからなる塩である。従って、水はイオン液体に該当しない。
【0009】
本発明において、イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドとしては、プロリン(Pro)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、ロイシン(leu)、グリシン(Gly)、メチオニン(Met)、セリン(Ser)、アラニン(Ala)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、ヒスチジン(His)、リシン(Lys)やバリン(Val)などの必須アミノ酸、その類縁体及びこれらのオリゴマーや重合体(ポリマー)があげられる。これらのうち、脂肪族アミノ酸やこれを構成成分とするオリゴマーが好ましい。又、第一のアミノ酸又はペプチドとしては、アミノ基又はカルボキシル基が保護されていてもよい。特に、これらのアミノ酸又はペプチドにおけるアミノ基が、ホルミル基、ベンジルオキシカルボニル基やブトキシカルボニル基などのアミノ保護基により保護されていてもよい。
本発明では、上記4級化ヘテロ原子を有する化合物と第一のアミノ酸又はペプチドを略等モルで混合し、非減圧下、もしくは減圧下(好ましくは20〜150mmHg)で加熱し(好ましくは40〜70℃)、水を蒸発させて脱水縮合して、イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを調製することができる。後述の実施例では、基質分解抑制のため減圧している。
本発明では、(A)イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドが、カルボキシラート、つまり、第一のアミノ酸又はペプチド中のカルボキシル基により、上記4級化ヘテロ原子を有する化合物とイオン結合を形成しているものが好ましい。
4級化ヘテロ原子を有する化合物、アミノ酸及びペプチド、イオン液体化されたアミノ酸又はペプチドについての非特許文献2(Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1122-1129)の記載は、本件明細書の記載に含まれるものとする。
【0010】
本発明では、上記(A)成分と反応させる第2の成分として、(B)第二のアミノ酸又はペプチドを用いる。この際、アミノ酸エステル又はペプチドのエステルを用いることができる、これらは、例えば、プロリン(Pro)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、ロイシン(leu)、グリシン(Gly)、メチオニン(Met)、セリン(Ser)、アラニン(Ala)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、ヒスチジン(His)、リシン(Lys)やバリン(Val)などの必須アミノ酸、その類縁体及びこれらのオリゴマーや重合体(ポリマー)であり、これらが有するカルボキシル基がアルキル基などによりエステル化されているものである。アルキル基としては、炭素数1〜12のものが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4である。これらのエステルは1種又は複数の混合物として用いてもよい。又、(B)成分としては、塩酸塩などの無機酸が付加した酸付加塩を用いるのが好ましい。
これらのうち、分子中に芳香族環や複素環を有するアミノ酸やこれを構成成分とするオリゴマーが好ましく、特にフェニルアラニン(Phe)メチルエステルなどが好ましい。
【0011】
本発明では、第二のアミノ酸又はペプチドのアミノ基が保護されていないものを用いるのが好ましいが、第二のアミノ酸又はペプチドのアミノ基が保護されているものを用いることもできる。
本発明では、(B)第二のアミノ酸エステル又はペプチドとして、第二のアミノ酸又はペプチドがイオン液体化されているものを用いることができる。この場合、イオン液体化するために上記したのと同じ4級化ヘテロ原子を有する化合物を用い、上記(A)成分についてと同様の方法でイオン液体化することができる。この場合には、反応場に(D)水を存在させるのが好ましい。その量は反応場全体の50質量%以下であるのが好ましく、特に、2〜20質量%存在させるのが好ましい。
【0012】
本発明では、上記(A)イオン結合によりイオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを反応溶媒でかつ反応原料として用いて、(B)第二のアミノ酸又はペプチドと反応させることを特徴とする。すなわち、本発明では、本質的に、イオン液体化した(A)成分以外の成分を反応溶媒としてもちいない。換言すると、本発明では、イオン液体化した(A)成分に、(B)第二のアミノ酸又はペプチドが溶解して、反応が行われる。従って、本発明では、イオン液体化(A)成分を、(B)第二のアミノ酸又はペプチドに対して等当モル以上の量で、好ましくは、第一のアミノ酸:第二のアミノ酸のモル比が、20:1〜1:1で、より好ましくは10:1〜2:1で使用する。しかしながら、(B)第二のアミノ酸又はペプチドのイオン液体化した(A)成分への溶解性が低い場合には、溶解している部分の反応の進行により、順次、未溶解の(B)第二のアミノ酸又はペプチドがイオン液体化した(A)成分に溶解していくので、量の過剰の程度は、(A)成分と(B)成分の特性によって決定されるものである。
本発明では、上記反応において、イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドを反応溶媒かつ基質として用いることにより、第一のアミノ酸又はペプチドが大過剰である環境下で、添加する第二のアミノ酸又はペプチドと第一のアミノ酸またはペプチドのアミノ基とを反応させることにより、第二のアミノ酸に保護基を導入しなくとも、選択的に目標とするペプチドを生成する。
本発明では、上記反応により、当該第一のアミノ酸又はペプチドのカルボキシル基と当該第二のアミノ酸又はペプチドのアミノ基との間にペプチド結合を形成させるのがよい。
【0013】
本発明では、(C)ペプチド加水分解酵素の存在下で(A)成分と(B)成分を反応させて、当該第一のアミノ酸又はペプチドと当該第二のアミノ酸又はペプチド間にペプチド結合を形成させることを特徴とする。本発明では、この反応の際に、反応系の全質量に対して50質量%以下の水、特に、5〜20質量%の水が存在しているのが好ましい。
(C)ペプチド加水分解酵素としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ及びヒドロラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、特にサーモライシンであるのが好ましい。このような酵素は、Sigma-Aldrich Corporationから容易に入手することができる。
(C)ペプチド加水分解酵素は、反応系に1〜4質量%の量で存在させるのが好ましい。
本発明では、(C)ペプチド加水分解酵素が有する位置特異性を利用して、最終反応生成物であるペプチドにおける構成アミノ酸の配列を容易にコントロールすることができる。
本発明の反応系には、実質的に水が存在するので、反応系のpHを4〜10.5の範囲に調整するのが好ましい。
【0014】
本発明では、(A)イオン液体化された第一のアミノ酸又はペプチドと(B)第二のアミノ酸又はペプチドの反応は、両者を混合し、0〜100℃の温度、好ましくは、室温(20℃)〜70℃、好ましくは30℃〜40℃の温度に保持して行うのが好ましい。反応の終了はHPLCによる生成物反応の停止確認により確認するのが好ましく、最終反応生成物は、樹脂、有機溶媒、および晶析の方法により単離するのがよく、その同定はHPLCにより行うのがよい。
尚、アミノ基又はカルボキシル基が保護されている第一や第二のアミノ酸又はペプチドを反応原料として用いた場合には、これらの保護基を、常法により、例えば、接触還元法
等により、脱離(脱保護)させることができる。
本発明の合成方法により得られたペプチド(オリゴペプチドやポリペプチド)は、機能性食品や調味料などを含む食品、輸液などの栄養組成物や飼料などの有効成分として、医薬品の活性成分として、又、各種試薬の有効成分などとして、幅広く使用することができる。
次に本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0015】
実施例1 ジペプチド生成酵素反応におよぼすアミノ酸基質ベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸(Z−Asp)のイオン液体化による基質アミノ酸の高濃度化および反応溶媒化の影響
市販のZ−Aspと40質量%水酸化テトラブチルフォスフォニウム(以下TBP−OH)を等モル(Z−Asp:TBP−OH=1:1)で混合し(合計50g)、50mmHgに減圧しながら60℃に加温した水浴中で攪拌し、水を蒸発させることで脱水縮合を行った。このようにして調製したベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸テトラブチルフォスフォニウム(以下Z−Asp−TBP)は無色透明の液体であった。
フェニルアラニン(以下Phe)に対し1.2倍等量の硫酸および5倍等量のメタノールを添加し、水浴中70℃で30分間留出成分を還流しながら攪拌した。その後、水浴温度を120℃へ上昇させ、缶内温度が90℃になるまで蒸発成分を流出させた。缶内液温が90℃に達したら、メタノールの追添を開始し、蒸発成分を留出させながら液温を90℃に保った。メタノール追添を開始して6.5時間後に反応液を回収した。このようにして最終的にフェニルアラニンメチルエステル−モノメチル硫酸塩(以下PM−MHS)を調製した。
【0016】
このようにしてイオン液体化したZ−Asp−TBPに対し、100mmol/LとなるようPM−MHSを完全に溶解させた後、水浴中で37℃に加温し、25g/dL−Na
2CO
3溶液を用いてpH6.0に調整した。次に、Z−Asp−TBPに対し10mg/mLのサーモライシンを添加し、酵素反応をスタートした(反応系全体に対する水の量10質量%)。反応開始後48時間で酵素反応を終了し、各経時サンプルをHPLCで分析し、Z−アスパラギン酸フェニルアラニンメチルエステル(Z−APM)の生成確認を行った。結果を表1に示す
上記で使用したアミノ酸Z−AspおよびPheは市販品であり、本実験で使用したサーモライシンはSigmaより購入した。また、TBP−OHは北興化学より購入した。
表1
【0017】
実施例2 Z−APM生成酵素反応におよぼすPM−MHS濃度の影響
実施例1に記載のZ−Aspのイオン液体化により調製したZ−Asp−TBPに対し、100あるいは1000mmol/LとなるようPM−MHSを完全に溶解させた後、水浴中で37℃に加温し、25g/dL−Na
2CO
3溶液を用いてpH6.0に調整した。次に、Z−Asp−TBPに対し10mg/mLのサーモライシンを添加し、酵素反応をスタートした(反応系全体に対する水の量10質量%)。反応開始後48時間で酵素反応を終了し、各経時サンプルをHPLCで分析し、Z−APM(ベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸フェニルアラニンメチルエステル)の生成確認を行った。結果を表2に示す。
表2
【0018】
実施例3 Z−APM生成酵素反応におよぼすサーモライシン濃度の影響
実施例1に記載のZ−Aspのイオン液体化により調製したZ−Asp−TBPに対し、1000mmol/LとなるようPM−MHSを完全に溶解させた後、水浴中で37℃に加温し、25g/dL−Na
2CO
3溶液を用いてpH6.0に調整した。次に、Z−Asp−TBPに対し10あるいは40mg/mLのサーモライシンを添加し、酵素反応をスタートした(反応系全体に対する水の量10質量%)。反応開始後48時間で酵素反応を終了し、各経時サンプルをHPLCで分析し、Z−APMの生成確認を行った。結果を表3に示す。
表3
【0019】
実施例4 ホルミルアスパラギン酸フェニルアラニンメチルエステル(F−APM)生成酵素反応におよぼすアミノ酸基質ホルミルアスパラギン酸(F−Asp)のイオン液体化による基質アミノ酸の高濃度化および反応溶媒化の影響
特公昭55−26133号の方法に準じて調製した無水ホルミルアスパラギン酸(以下F−Asp=O)を10倍等量の酢酸メチルエステルに懸濁し、さらにF−Asp=Oに対して1.5倍等量の水を添加して室温で6時間攪拌した。そこで析出した結晶を濾過し、F−Aspを得た。
上記の方法で得られたF−Aspと市販の40% TBP−OHを等モル(Z−Asp:TBP−OH=1:1)混合し、50mmHgに減圧しながら60℃に加温した水浴中で攪拌し、水を蒸発させることで脱水縮合を行った。このようにして調製したホルミルアスパラギン酸テトラブチルフォスフォニウム(F−Asp−TBP)は無色透明の液体であった。
上記でF−Aspのイオン液体化により調製したF−Asp−TBPに対し、1000mmol/LとなるようPM−MHSを均一に混合した後、水浴中で37℃に加温し、25g/dL−Na
2CO
3溶液を用いてpH6.0に調整した。次に、F−Asp−TBPに対し40mg/mLのサーモライシンを添加し、酵素反応をスタートした。反応開始後48時間で酵素反応を終了し、各経時サンプルをHPLCで分析し、ホルミルアスパラギン酸フェニルアラニンメチルエステル(以下F−APM)の生成確認を行った。結果を表4に示す
表4
【0020】
実施例5 アミノ酸のイオン液体化に用いるイオン液体種がZ−APM生成酵素反応に与える影響
Z−Aspと市販の40%水酸化テトラエチルアンモニウム(以下TEA−OH)を等モル(Z−Asp:TEA−OH=1:1)で混合し、50mmHgに減圧しながら60℃に加温した水浴中で攪拌し、水を蒸発させることで脱水縮合を行った。このようにして調製したベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸テトラエチルアンモニウム(以下、Z−Asp−TEA)は無色透明の液体であった。
上記の方法によりイオン液体化したZ−Asp−TEAに対し、1000mmol/LとなるようPM−MHSを完全に溶解させた後、水浴中で37℃に加温し、25g/dL−Na
2CO
3溶液を用いてpH6.0に調整した。次に、Z−Asp−TEAに対し40mg/mLのサーモライシンを添加し、酵素反応をスタートした。反応開始後48時間で酵素反応を終了し、各経時サンプルをHPLCで分析し、Z−APMの生成確認を行った。結果を表5に示す。
ここで使用したTEA−OHは東洋合成株式会社より購入した。
【0021】
表5