(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929009
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
B60C19/00 G
B60C19/00 K
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-109805(P2011-109805)
(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公開番号】特開2012-240465(P2012-240465A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
(72)【発明者】
【氏名】金成 大輔
【審査官】
佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−502765(JP,A)
【文献】
特表2003−511287(JP,A)
【文献】
特開2006−044503(JP,A)
【文献】
特開2008−279703(JP,A)
【文献】
特開2009−046068(JP,A)
【文献】
特開2010−254044(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/038585(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/072449(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/126506(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/133093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面に2つに分離できるホックまたはスナップからなる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具を備えた空気入りタイヤであって、前記ホックまたは前記スナップからなる機械的留め具は繊維からなる織布または不織布からなるテープ状部材に設置され、該テープ状部材の幅Wsと該留め具の幅Whの比率が1.2以上5.0以下であり、該テープ状部材がタイヤの周方向に沿ってタイヤ内表面に固定されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記テープ状部材は、伸縮性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記テープ状部材が、繊維からなる織布または不織布からなり、その少なくともタイヤ本体と接着する側の面に粘着層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
タイヤ内面にある前記一方の留め具に係合する他方の留め具を有する物体が、それら2つの留め具を係合させた状態でタイヤ内面に固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記他方の留め具を有する物体が、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体であることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、空気入りタイヤの内面に物体を取付ける新規な方法を実現する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤの内面に、さまざまな機能を有する物体を配設することが種々検討されてきている。
【0003】
たとえば、生タイヤのインナーライナー等に、フック・アンド・ループ留め具あるいはフック・アンド・フック留め具等の、所謂、面ファスナーを用いてタイヤタグ(高周波識別タグ)あるいはチップ等を取付けるという取付け方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に面ファスナーを加硫接着し、そのタイヤ内表面に該面ファスナーを介して吸音材を取付けたという空気入りタイヤが提案されている(特許文献2)。
【0005】
これら特許文献1、同2に提案されている面ファスナーは、取付け時において比較的強い係合力を実現し、また、取付け作業の際にも多少の位置的なズレなどを問題にせず面状での係合を実現できる点で好ましいものであった。
【0006】
一方で、これら特許文献に提案されている面ファスナーは、空気入りタイヤの内周面が湾曲した環状の曲面であること等により、面ファスナーの個々の係合素子の係合状態が理想的なものとならずに、端部や中央部などでその一部が浮いてしまい、得られる係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)を生じることがあり、期待どおりの係合力が得られないことがあった。また、比較的、温度が高めの状況のもとで高速での転動による変形と圧縮が長時間繰り返されることにより、部分的な物理的劣化の発生とそれが進行していくことによる面ファスナー全体の係合力の経時的な劣化・低下が生じて、所望
の係合力を長期間にわたって維持することが難しい場合があった。
【0007】
このような点に鑑み、本発明者らは、先に、特に得られる係合力が大きくかつその大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰り返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少なくて、長期にわたり所望の係合力を維持できる空気入りタイヤとして、タイヤ内面に、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具を有する空気入りタイヤを提案した(特願2010−167839)。
【0008】
ここで、該機械的留め具とは、2つの留め具に分離することができ、かつそれらを再度、物理的に係合させることができ、この係合と分離を繰返して自在に行える一対の留め具で構成されるものである。その代表的なものとして、ホックあるいはスナップと呼ばれる機械的留め具があり、衣料業界等で一般に、より具体的には、スナップボタン、リングスナップ、リングホック、アメリカンスナップ、アメリカンホック、アイレットホック、バネホックおよびジャンパーホックと呼ばれるもの等を総称し、係合箇所の面積が全面積で無限である所謂「面ファスナー」とは相違して、係合箇所が小面積(例えば、好ましくは1〜115mm
2 程度など。さらに好ましくは、4〜90mm
2 程度)の、いわば点状の留め具をいうものである。すなわち、例えば、1〜115mm
2 程度等の小面積での係合であっても機械的な雌雄構造等によって強い係合がなされるものをいい、それ自体は公知の構造のものであって構わなく、材質としては、金属製、ゴム製、合成樹脂製などのものである。この機械的留め具を用いる方式は、得られる係合力の大きさ、かつその大きさのばらつきや、係合作業の確実さなどの点で優れたものであった。
【0009】
この一方の機械的留め具の一方の留め具をタイヤ内周面に取付けた状態を
図7に示した。
図7において、空気入りタイヤ1のタイヤ内面2に、2つの留め具に分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具3が配設されている。4はトレッド部、5はサイドウォール部、6はビード部である。
【0010】
このタイヤ内面へ一方の留め具3を設けるための取り付け方法について、本発明者らは、トレッドゴムに該留め具3を1個1個埋め込んで加硫により行うことを提案した。
【0011】
しかし、その方法では、留め具の形状によっては取り付け強度が不足する場合があり、その結果、タイヤの耐久性が低下するという問題があった。また、1個1個の留め具3を配置するという作業が必要であるため、その設置位置の精度を確保するためには特別な手法を採る必要があり、そのためのコストがかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2005−517581号公報
【特許文献2】特開2006−44503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、タイヤ内面に上述した留め具を、取り付け強度の問題もなく、高い取り付け強度のもとで、したがって、空気入りタイヤの耐久性に及ぼす問題を招くこともなく、かつ、取り付け位置の精度を向上させるための他の特別な手法なども不要であり、精度良く機械的留め具のうちの一方の留め具をタイヤ内面に配設した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、下記の(1)の構成を有する。
(1)タイヤ内面に2つに分離できる
ホックまたはスナップからなる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具を備えた空気入りタイヤ
であって、前記ホックまたは前記スナップからなる機械的留め具は繊維からなる織布または不織布からなるテープ状部材に設置され、該テープ状部材の幅Wsと該留め具の幅Whの比率が1.2以上5.0以下で、前記テープ状部材がタイヤの周方向に沿って内表面に固定されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【0015】
また、かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、以下の(2)〜(
5)のいずれかの構成からなることが好ましい。
(2)前記テープ状部材は、伸縮性を有するものであることを特徴とする上記(1)
に記載の空気入りタイヤ。
(3)前記テープ状部材が、繊維からなる織布または不織布からなり、その少なくともタイヤ本体と接着する側の面に粘着層を有することを特徴とする上記(1)
または(2)に記載の空気入りタイヤ。
(
4)タイヤ内面にある前記一方の留め具に係合する他方の留め具を有する物体
が、それら2つの留め具を係合させ
た状態でタイヤ内面に固定
されていることを特徴とする上記(1)〜(
3)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(
5)前記他方の留め具を有する物体が、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体であることを特徴とする上記(
4)に記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0016】
請求項1にかかる本発明によれば、取り付け強度の問題もなく、高い取り付け強度のもとで、したがって、空気入りタイヤの耐久性に及ぼす問題を招くこともなく、かつ、取り付け位置の精度を向上させるための他の特別な手法なども不要であり、精度良く機械的留め具のうちの一方の留め具をタイヤ内面に配設した空気入りタイヤが実現される。
【0017】
請求項2にかかる本発明によれば、留め具付きテープ状部材をタイヤ内表面に取付ける際の作業性が良い点で優れた空気入りタイヤが提供される。
【0019】
請求項
3にかかる本発明によれば、留め具付きテープ状部材をタイヤ内表面に取付ける際の作業性が良い点で優れた空気入りタイヤが提供される。
【0020】
請求項
4もしくは請求項
5にかかる本発明によれば、タイヤ内面に、所望の機能を有する物体を大きな係合力と優れたその耐久性を実現しつつ取付けた新規な空気入りタイヤが提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示した一部断面斜視図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明の空気入りタイヤに使用される2つに分離できる機械的留め具のうちの一方の留め具の代表的な形状を説明するためのものであり、さらに、それ(一方の留め具)が2つの部材から構成されていることを説明する外観斜視モデル図であり、(c)は、その一方の留め具の2つの部材を、テープ状部材を中間に介在させて互いに係合させる状態を説明する外観斜視モデル図である。
【
図3】本発明で規定するテープ状部材の幅Wsと留め具の幅Whをモデル的に示した要部平面図である。
【
図4】(a)は留め具をテープ状部材に取付けた状態を説明するモデル断面図、(b)は(a)に示した留め具付きテープ状部材をタイヤ内表面に固定した状態を示したモデル断面図である。
【
図5】(a)〜(e)は、本発明の空気入りタイヤの一実施形態として、留め具付きテープ状部材の各種の配置例を示した一部断面斜視図である。
【
図6】(a)〜(d)は、本発明の空気入りタイヤに、機械的留め具を介して取付けられる物体をモデル的に説明する概略断面図である。
【
図7】本発明者らが先に提案をした留め具付き空気入りタイヤを示した一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、更に詳しく本発明の空気入りタイヤについて、説明する。
【0023】
本発明の空気入りタイヤは、
図1にその構造をモデル的に示したように、空気入りタイヤ1のタイヤ内面2に、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具3を備えた空気入りタイヤにおいて、該機械的留め具3は繊維からなる織布または不織布からなるテープ状部材7に設置され、該テープ状部材の幅Wsと該留め具の幅Whの比率(Ws/Wh)が1.2以上5.0以下であり、該テープ状部材がタイヤの周方向に沿ってタイヤ内表面に固定されていることを特徴とする。
【0024】
ここで、機械的留め具とは、背景技術の項で述べたと全く同様のものであり、2つの留め具に分離することができ、かつそれらを再度、物理的に係合させることができ、この係合と分離を繰返して自在に行える一対の留め具で構成されるものである。その代表的なものとして、ホックあるいはスナップなどと呼ばれる機械的留め具がある。
【0025】
本発明では、その2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具3を、直接タイヤ内に埋め込んで設けるのではなく、繊維からなる織布または不織布からなるテープ状部材7に設置するようにし、そのテープ状部材をタイヤの周方向に沿ってタイヤ内表面に固定することによりタイヤ内面に設けている。このようにして留め具3を設けると、タイヤ内面のゴム層に直接埋め込む場合よりも機械的留め具の取り付け強度を大きく向上させることができ、該留め具の取付け耐久性を向上させることができる。特に、背景技術の項で述べた先願の発明の如くにカーカス層やインナーライナー層に留め具を設置したときはカーカス層やインナーライナー層の性能に影響を及ぼすことがあり、タイヤ耐久性を低下させることがあるが、本発明では、テープ状部材に留め具が設けられるので、カーカス層やインナーライナー層の性能に影響を及ぼすことが少ない。また、タイヤの加硫工程時には、タイヤのゴムがテープ状部材の繊維間に含浸し、タイヤ内面とテープ状部材ひいては留め具との接着・接合がより強くなされる。またテープ状部材に対して留め具を設置するので、取り付け作業が簡単であり、また、テープ状部材にマーキングをしておくことなどにより、取り付け位置をより高い精度のもとで取付けることができるという利点もある。
【0026】
かかる本発明の空気入りタイヤは、その内面に取付けを所望する物体を、一対の機械的留め具を介して係合させて取付けることができることになるので、物理的に得られる係合力が大きく、かつその係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがなく、さらに、長時間繰り返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少ない。従って所望の係合力を長期にわたり維持すること、ひいては内面に取付けられた物体の機能を長期にわたり発揮させることができるのである。
【0027】
その上、タイヤ内面と取付け物体の係合位置(係合点)の位置決めは、タイヤ内面の留め具の設置位置に対応して、自動的に正確に行なわれることとなり、該物体の設置位置(設置点)に高度な正確さが要請される場合にも簡単に対応することができる。これは、タイヤ内面という狭い湾曲面状の立体空間内でのことであるので意義は大きい。また、面ファスナーの場合と比較して、係合力が大きくかつその係合力の経時的な低下・劣化も小さく、長期にわたり係合状態を正確かつ強固に維持することができる。
【0028】
そして、タイヤ内面の留め具の設置位置は、テープ状部材の固定位置を、所望に応じて正確かつ精度よく固定することによって、留め具の位置も所望に応じて正確かつ精度良く設置できる。
【0029】
テープ状部材の機能・作用は、留め具を設置することが主たるものなので、
図1や
図3で示したように、留め具3の幅Whと織布または不織布からなるテープ状部材7の幅Wsの比率(Ws/Wh)が1.2以上5.0以下であるようにして形成することが重要であり、必要以上にテープ状部材7の幅Wsを大きくすることはない。Ws/Whの値が1.2未満のときは、タイヤ内面とテープ状部材の接合力が、留め具の大きさ(幅Wh)のわりに小さくなるので好ましくない。なお、留め具の大きさ(幅)Whは、それが複数列あときは、オーバーラップ分を除いた幅である(
図3の(b))。留め具3の幅Whとテープ状部材7の幅Wsの比率(Ws/Wh)は、作業のしやすさや接合力の点で、好ましくは1.5以上3.5以下である。テープ状部材7の厚さは、作業のしやすさや接合力の点で、0.01〜3.0mmであることが好ましい。テープ状部材7には、予めゴム引きがされていてもよい。テープ状部材7は、高い物性と品質の安定性の点から化学繊維あるいは合成繊維の長繊維(フィラメント繊維)からなる織布または不織布であることが好ましく、中でも、目付が20〜300g/m
2 程度の平織物あるいはスパンボンド不織布、フラッシュ紡糸法による不織布あるいはメルトブロー不織布などが高強度、高耐久性などの点から特に好ましく使用することができる。特に上述した目付の範囲であれば、前述の取付け耐久性を確保しつつ、ゴム(または粘着層等)が繊維間あるいは糸間に含浸しやすく強力な加硫接着が得られやすいので好ましい。より好ましい目付は30〜200g/m
2 である。繊維は、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維などの化学繊維あるいは合成繊維であることが高い品質で安定して得られる点で好ましい。
【0030】
図1で示したように、複数の留め具3をテープ状部材7に設置する場合は、テープ状部材上で等間隔に設置することが好ましく、そうすることによりタイヤ内面で等間隔に設置することが簡単かつ正確に実現できる。
【0031】
留め具を設置したテープ状部材は、加硫前のグリーンタイヤの内面に該テープ状部材を圧着して固定してもよく、あるいは、成形ドラム上に巻き付けてもよく、あるいは、タイヤの内面をなすタイヤのインナーライナー層に材料段階で予め接着・圧着してもよく、あるいはインナーライナー層にプレアッシー成形により成形をしてもよい。
【0032】
テープ状部材を固定(加硫工程以前での固定)するには、どのような方法でもよく、例えば接着剤あるいは粘着剤を用いてもよい。すなわち、テープ状部材は、その少なくともタイヤ本体と接着する側の面に粘着層あるいは接着層を有することが好ましい。それらの層があれば、該テープ状部材のインナーライナー層(インナーライナー材料)とのタック性が向上するので作業性が向上するからである。粘着層をなす粘着剤は、タックを向上させるものであればよく特に限定されないが、樹脂製のもの、ゴム製のものなどが好ましく使用できる。
【0033】
テープ状部材は、伸縮性を有するものであることが好ましい。特に、成形ドラムに巻き付けて本発明にかかる空気入りタイヤを製造する場合には、適度な伸縮性があれば該巻き付けが容易となり好ましい。そうした観点からテープ状部材は好ましくは長さ方向の引張弾性率が30〜1200kPaであることが好ましく、破断伸びは40〜800%(JiSK6251)であることが好ましい。引張弾性率、破断伸びが、この範囲よりも小さいとテープ状部材の取扱い性(ハンドリング性)が悪く、一方、この範囲よりも大きいとタイヤの膨張時に脱落することがあり好ましくない、
タイヤ製品においてテープ状部材をタイヤ内表面へ固定する方法は、加硫接着による方法が好ましく、また、テープ状部材に一対の機械式留め具のうちの一方の留め具を固定する方法は、該テープ状部材を表裏から挟んで一方の留め具を形成しつつ、同時に該テープ状部材に固定もされているものであることが好ましい。
【0034】
図2(a)と(b)は、一対の機械式留め具のうちの一方の留め具3を分解した状態をそれぞれ示しており、一方の留め具3は、少なくとも2つの部材3a、3bからなっていて、かつ、それら2つの部材が、
図2(c)にモデルを示したように、テープ状部材7を表裏から挟んで固定されて一方の留め具3を形成することが好ましい。
【0035】
これら2つの部材3a、3bは一体的に固定されて、一対の機械的留め具のうちの一方の留め具3を形成し、
図4(a)に断面図を示したように、テープ状部材7を挟んで固定される。テープ状部材7は、
図4(b)に断面図を示したように、留め具3を固定した状態でタイヤ内面2上に加硫接着により固定される。8はインナーライナー層である。
【0036】
留め具3は、特に限定されるものではないが、テープ状部材7から最も突出している部分の高さHが0mm〜3.5mmであり、かつ、タイヤ内部に露出している部分の外径Dが4mm〜12mmであることが好ましい。テープ状部材7の表面から最も突出している部分の高さH、タイヤ内部に露出している部分の外径Dは、
図4(a)にモデルを示したとおりであり、高さHが3.5mmよりも大きいと、カーカスやベルト構造がタイヤ加硫時の圧力で留め具の部材3aもしくは3b側にテープ状部材7を介して押されて歪んでしまうことがあるので好ましくない。また、外径Dが4mm未満であるとタイヤ加硫時などに、タイヤ内表面に対して角度が安定せず、留め具3の底面をタイヤ内周面に平行に設置することが難しくなり好ましくない。外径Dが12mmよりも大きいと、タイヤ転動時のタイヤ内面の変形/回復に追従することが難しくなり、故障を生じやすくなるので好ましくない。このような寸法の留め具3を用いる場合、その材料は金属製あるいは合成樹脂製(特に、好ましくはナイロンやポリエステル製)とすることが成形や加工が容易であり好ましい。
【0037】
留め具3の部材のうち、タイヤ内面と接する部材3bは、タイヤ内面と接合される側は平面状であることが、より安定した留め具3の固定ができるので好ましい。
【0038】
本発明において、タイヤ内面において、留め具3はタイヤ内面に少なくとも2個設置され、タイヤ幅方向でその設置位置が実質的に同一な、単数または複数の列をなして配置されていることが好ましい。その代表的な形態例を
図5(a)〜(d)に示した。(a)は、センターに1列、(b)は左右両方のトレッド端付近にて各1列、(c)は一方のトレッド端付近のみに設けられた並列な2列、(d)は一方のトレッド端付近のみに設けられた千鳥配列のように移相をずらした2列、の例である。
【0039】
これらの図に示したように留め具3の列は何列あってもよい。テープ状部材7は、その留め具3の列に対応して、適宜に、留め具3の幅Whとテープ状部材7の幅Wsの比率(Ws/Wh)が1.2以上5.0以下を満たすように配されればよい。
【0040】
また、留め具3を設置する領域は、タイヤの内面であれば良く、取付けられる物体の機能に応じて、トレッド部4に対応する領域、サイドウォール部5に対応する領域、さらにあるいはビード部6に対応する領域のいずれに設けるようにしてもよい。本発明者らの知見によれば、留め具3を設ける列は2列以上であることが好ましく、また、設置領域はトレッド部に対応した領域あるいはビード部に対応した領域が実際的であり好ましい。
【0041】
図5(e)は、特にビード部6に対応する領域に留め具3を設ける場合をモデル的に示している。このビード部6に留め具3を設けたいような場合には、本発明の如くに、テープ状部材7を介して設置する態様が特に有効である。タイヤ回転に伴って、遠心力が、取付けられた物体を引き剥がそうとする方向の成分を伴って留め具に加えられることになり、そうした力に対抗する上で、高い取り付け強度を実現する本発明が有効だからである。
【0042】
留め具3を2列以上の列をなして設ける場合、列同士の間隔は150mm以下とするのが好ましく、またその下限としては20mm〜30mm程度までとすることが好ましい。ただし、タイヤ内面に取付けられる所望の機能を有する物体の性状に応じても、好ましい列の間隔の大小、ピッチ、列本数などは変更されるべきものである。
【0043】
留め具3の列およびテープ状部材7は、周方向で全周にわたり連続して存在している必要はなく、途切れた部分が存在していてもよい。
【0044】
なお、扁平率45以下などのような低扁平サイズのタイヤの内面に留め具3を設置する場合には、トレッドセンター(赤道部)付近以外の領域に、設置位置を設けることが好ましい。トレッドセンター(赤道部)付近に留め具3を配置して、該位置に物体を取付けた場合、リム組み時の最終段階でホイールにタイヤを完全に嵌合させるとき時に、ホイールのフランジ部と該物体が緩衝する可能性が高いので、これを回避するために、むしろいずれか一方のトレッド端寄りに配置する方が、実際のリム組み作業上対処しやすいからである。
【0045】
本発明者らの知見によれば、留め具3を設置する好ましい位置は、タイヤ周方向でいうと、少なくとも周上4箇所(90度間隔など)に設置すると良い。最も好ましくは90度間隔よりも小さい間隔で、全周にわたり断続して配置することである。その際、より好ましくは等間隔で配置することである。
【0046】
留め具を設けたテープ状部材を付けて加硫する場合、留め具がブラダーへ損傷を与えることを避けるために、該留め具の突出部にはカバーを付けて加硫するようにしてもよい。該カバーは該留め具と係合する一対の他方の留め具であってもよい。
【0047】
また、一対の機械的留め具3のうち、凹型と凸型あるいは雌型と雄型の対のいずれをタイヤ側に設置するようにしてもよい。あるいは対の双方(凹型と凸型、あるいは雌型と雄型)が混在して存在するように設置してもよい。
【0048】
本発明によれば、一対の機械的留め具のうちの、他方の留め具を有している物体が、タイヤ内面側の対である留め具と係合されることによって空気入りタイヤの内面に配設される。
【0049】
該物体は、近年の空気入りタイヤのハイテク化に伴い、さまざまな機能を有したものであり、例えば、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、などのいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体などが代表的なものである。
【0050】
図6(a)〜(d)に、該取付けられる物体9の好ましい構造の各種例をモデル的に示した。物体9には、一対の機械的留め具のうちの他方の留め具10を予め設置したシート材(布・フィルム・ゴムシート等)11を、貼り付けるかあるいは該シート材11によって包被することによって、該物体9を構成できる(
図6(a)〜(c))。
図6(a)は物体9のタイヤ側の面だけを該シート材11によって包被している例、(b)は物体9の反タイヤ側の面の一部以外を除いて該シート材11によって包被している例、(c)は物体9の全部の面を該シート材11によって包被している例を示している。物体9が、例えばスポンジのように全体が柔らかいものの場合には、該物体の上面と下面間を挟んで留め具10を設置しても良い。この態様が
図6(d)に示したものであり、シート材11は使用しなくても、あるいは適宜に使用してもよい。シート材11は、適宜な可撓性を有した布、フィルム、ゴムシート等を使用することが好ましい。
【0051】
物体9は、その所望の特性に対応して決定されればよく、特に限定されるものではないが、例えば、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体である場合などが好ましいものである。特に、スポンジあるいは発泡合成樹脂材などの弾性多孔質材料からなる吸音材は、近年、タイヤ発生騒音の低減下が強く望まれているので、本発明で使用される物体として好ましいものである。また、面ファスナー部材も、さらにその面ファスナー部材が、他の物体を良好に取付けするための介在体として機能できるので、本発明で使用される物体として有用かつ好ましいものである。
【0052】
該組合せのうち、特に具体的な組合せ効果が期待できるのは、(イ)バランスウェイトと吸音材、(ロ)吸音材と紫外線検知材、(ハ)吸音材と乾燥剤、(ニ)電子回路と乾燥剤、の組合せ等である。すなわち、一方の物体(第1の物体)の持つ特別な機能を、その機能を長期にわたり安定して発揮させることを実現させるのに有効な機能物体として、第2の物体を併用することが、特に有効である。
【符号の説明】
【0053】
1:空気入りタイヤ
2:タイヤ内周面
3:留め具
3a:留め具の構成部材
3b:留め具の構成部材
4:トレッド部
5:サイドウォール部
6:ビード部
7:テープ状部材
8:インナーライナー層
9:物体
10:留め具(物体側)
11:シート材(布・フィルム・ゴムシート等)
Ws:テープ状部材の幅
Wh:タイヤ内面に取付けられる留め具の幅