特許第5929080号(P5929080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929080
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20160519BHJP
【FI】
   H02M7/48 V
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-217107(P2011-217107)
(22)【出願日】2011年9月30日
(65)【公開番号】特開2013-78218(P2013-78218A)
(43)【公開日】2013年4月25日
【審査請求日】2014年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏行
【審査官】 河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−227085(JP,A)
【文献】 特開2004−248450(JP,A)
【文献】 特開平09−308256(JP,A)
【文献】 米国特許第05680299(US,A)
【文献】 特開2005−348597(JP,A)
【文献】 特開2003−088133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア周期(T)毎にスイッチングを行うことにより入力を所定周波数、及び所定電圧の交流に変換して出力するインバータ回路(4)と、
前記スイッチングを制御して、インバータ出力の相電圧を6ステップモードとなるよう制御するとき、180度毎に訪れる相電圧が切替るタイミングにおいて、電圧誤差をなくすようにパルス電圧を出力するキャリア周期(T)を存在させる制御を行う制御部(5)と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1の電力変換装置において、
前記制御部(5)は、電圧ベクトルが整数回のキャリアで進む角度から計算した弦の長さが6つの基本電圧ベクトルからなる六角形の一辺の長さと等しくなるように、前記電圧ベクトルの大きさを決定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1の電力変換装置において、
前記制御部(5)は、キャリア周期(T)の開始時の電圧を示す第1電圧ベクトル(va)がキャリア周期(T)の終了時の電圧を示す第2電圧ベクトル(vb)まで変化する間に、相電圧が直流リンク電圧(Vdc)に切替る境界線、又は相電圧が0Vに切替る境界線の少なくともどちらか一方を通過した場合には、電圧ベクトルが直流リンク電圧(Vdc)又は0V一定となる区間(A,C)を通過した時間と、電圧ベクトルが直流リンク電圧(Vdc)と0Vの間で変化する区間(B)を通過した時間の電圧積算値から求めるキャリア周期(T)内の平均電圧に基づいて、前記パルス電圧の幅を決定することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力をスイッチングして所定周波数、及び所定電圧の交流に変換する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、インバータ回路を有した電力変換装置が知られている。インバータ回路は、スイッチング制御により、直流電力を可変周波数・可変電圧の交流電力に高効率変換する回路である。
【0003】
このような電力変換装置には、相電圧をいわゆる6ステップモードとするものがある。6ステップモードでは、180度毎に最大電圧(Vdc)と最小電圧(0V)を交互に切替える。しかし、キャリア周期毎にスイッチングするインバータ回路では、キャリア周期内では電圧切替のタイミングを調整することが出来ないため、180度周期でずれなく電圧を切替えることが出来ない。よって、キャリア周期で制限される切替タイミングで電圧の切替を行うとその分だけ電圧誤差が生じる(180度毎に均等にVdcと0Vを切替えたいが、Vdcと0Vの出力割合が異なり、それがアンバランスになる)。そのため、電力変換装置のなかには、キャリア周期を出力電圧の周期の整数分の1にしてキャリア信号と出力電圧とを同期させるようにしたものがある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4205157号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の例では、キャリア周期を変化させる必要があるので、制御が複雑化するという問題がある。
【0006】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、過変調制御時の出力電圧の誤差を、より容易に低減できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
キャリア周期(T)毎にスイッチングを行うことにより入力を所定周波数、及び所定電圧の交流に変換して出力するインバータ回路(4)と、
前記スイッチングを制御して、インバータ出力の相電圧を6ステップモードとなるよう制御するとき、180度毎に訪れる相電圧が切替るタイミングにおいて、電圧誤差をなくすようにパルス電圧を出力するキャリア周期(T)を存在させる制御を行う制御部(5)と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成では、パルス電圧の挿入により出力電圧が調整され、出力電圧の誤差を無くすことが出来る。出力電圧の調整幅は、挿入するパルス電圧のパルス幅で決定できる。
【0009】
また、第2の発明は、
第1の発明の電力変換装置において、
前記制御部(5)は、電圧ベクトルが整数回のキャリアで進む角度から計算した弦の長さが6つの基本電圧ベクトルからなる六角形の一辺の長さと等しくなるように、前記電圧ベクトルの大きさを決定することを特徴とする。
【0010】
この構成では、上記のように電圧ベクトル(v)の大きさを決定することで、出力誤差がキャンセルされる。
【0011】
また、第3の発明は、
第1の発明の電力変換装置において、
前記制御部(5)は、キャリア周期(T)の開始時の電圧を示す第1電圧ベクトル(va)がキャリア周期(T)の終了時の電圧を示す第2電圧ベクトル(vb)まで変化する間に、相電圧が直流リンク電圧(Vdc)に切替る境界線、又は相電圧が0Vに切替る境界線の少なくともどちらか一方を通過した場合には、電圧ベクトルが直流リンク電圧(Vdc)又は0V一定となる区間(A,C)を通過した時間と、電圧ベクトルが直流リンク電圧(Vdc)と0Vの間で変化する区間(B)を通過した時間の電圧積算値から求めるキャリア周期(T)内の平均電圧に基づいて、前記パルス電圧の幅を決定することを特徴とする。
【0012】
この構成では、出力電圧が前記平均電圧に制御されるため、出力電圧に誤差が生じない。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、パルス電圧の挿入で電圧調整を行うので、容易な制御で出力電圧誤差の修正ができる。
【0014】
また、第2の発明、及び第3の発明ではそれぞれ、容易な演算で電圧ベクトル(v)を求めることができる。それゆえ出力電圧誤差を容易に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、インバータ回路の空間電圧ベクトル図である。
図3図3は、インバータ回路におけるスイッチング波形を示す図である。
図4図4は、従来の過変調制御における出力電圧誤差を説明する図である。
図5図5は、実施形態1における電圧ベクトルの決定方法を説明する図である。
図6図6は、実施形態2における電圧ベクトルの決定方法を説明する図である。
図7図7は、従来の過変調制御における出力電圧誤差を説明する図である。
図8図8は、実施形態2における制御部における電圧ベクトルの決定動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0017】
《発明の実施形態1》
〈全体構成〉
図1は、本発明の実施形態1に係る電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。同図に示すように電力変換装置(1)は、コンバータ回路(2)、直流リンク部(3)、インバータ回路(4)、及び制御部(5)を備え、三相交流電源(6)から供給された交流の電力を所定の周波数の電力に変換して、モータ(7)に供給するようになっている。なお、本実施形態のモータ(7)は、永久磁石同期電動機であってもよいし、リラクタンス同期電動機、誘導電動機、など空間ベクトル変調を行えるモータならよい。モータ(7)は、例えば空気調和機の冷媒回路に設けられた圧縮機を駆動する。
【0018】
〈コンバータ回路(2)〉
コンバータ回路(2)は、三相交流電源(6)に接続され、三相交流電源(6)が出力した三相交流を全波整流する。この例では、コンバータ回路(2)は、複数(本実施形態では6つ)のダイオード(D1〜D6)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。なお、直流リンク部(3)に整流された電圧を供給できるなら、コンバータ回路(2)の相数、整流方式は限定しない。
【0019】
〈直流リンク部(3)〉
直流リンク部(3)は、コンデンサ(3a)を備えている。コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)の出力ノードにリアクトル(L1)を介して並列接続されている。このコンデンサ(3a)は、インバータ回路(4)の入力ノード間に接続され、該コンデンサ(3a)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧(Vdc))が、インバータ回路(4)に印加されている。コンデンサ(3a)は、例えば電解コンデンサによって構成する。
【0020】
〈インバータ回路(4)〉
インバータ回路(4)は、直流リンク部(3)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、接続されたモータ(7)に供給するようになっている。インバータ回路(4)は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。スイッチング素子(S)は、IGBT(Insulated-gate bipolar transistor)で構成されている。勿論、スイッチング素子(S)は、例えばFET(Field effect transistor)等の他の種類の半導体素子で構成してもよい。
【0021】
このインバータ回路(4)は、三相交流をモータ(7)に出力するので、6個のスイッチング素子(S)を備えている。詳しくは、インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続してなる3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおいて上アームのスイッチング素子(S)と下アームのスイッチング素子(S)との中点が、それぞれモータ(7)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。
【0022】
また、各スイッチング素子(S)には、還流ダイオード(D)が逆並列に接続されている。インバータ回路(4)は、これらのスイッチング素子(S)のオンオフ動作によって、直流リンク部(3)から入力された直流リンク電圧(Vdc)をスイッチングして三相交流電圧に変換する。なお、このオンオフ動作の制御は、制御部(5)が行う。
【0023】
〈制御部(5)〉
制御部(5)は、マイクロコンピュータとそれを動作させるプログラムを含み、キャリア周期(T)毎にPWM変調を行い前記スイッチングを制御している。インバータ回路(4)の相電圧一次成分(以下、基本波成分ともいう)の振幅を、正弦波駆動で駆動できる最大振幅よりも大きくしたい場合には、過変調制御(後述)を用いる。過変調制御で出力出来る最大の相電圧を出力している状態が6ステップモードと呼ばれる相電圧が180度毎に切替る状態となる。
【0024】
制御部(5)は、空間ベクトル変調によってインバータ回路(4)におけるスイッチングを制御する。図2は、インバータ回路(4)の空間電圧ベクトル図である。図2の矢印は、3相交流を出力するインバータ回路の基本電圧ベクトルを示している。各基本電圧ベクトルは、上アームの何れのスイッチング素子(S)をオンにするかを示している。例えば、ベクトル(100)は上アームではU相のスイッチング素子(S)のみをオンにすることを示している。3相インバータ回路のPWM制御では、図2の六角形の各頂点に向かう6つの基本電圧ベクトル、及び、大きさを持たない2つのゼロベクトル(000)、(111)の合計8つの基本電圧ベクトルのそれぞれに対応する8つのスイッチング状態を切替えて、所望の電圧及び位相の交流を出力する。
【0025】
一方、本実施形態における過変調制御は、インバータ回路(4)の出力が、キャリア1周期(T)を通して、全相ハイ、或いは全相ローのパターンが現れない状態に制御する制御をいう。過変調制御では、相電圧の180度区間において、数キャリア周期連続して、所定のスイッチング素子(S)をオン或いはオフ状態に固定する。これにより、前記基本波成分を正弦波駆動時よりも高くすることが可能になる。所定のスイッチング素子(S)を相電圧の180度区間オン状態に固定して、次の180度区間ではオフ状態に固定することを交互に繰り返すと過変調制御で出力を最大に出来る状態となり、いわゆる6ステップモードと呼ばれる状態になる。
【0026】
本実施形態の制御部(5)は、過変調制御では、インバータ回路(4)の空間電圧ベクトル図において、6つの基本電圧ベクトルで構成される六角形の辺の長さと、電圧ベクトルが整数回のキャリアで進む角度から計算した弦の長さが等しくなるように、電圧ベクトルの大きさを決定する。そして、その電圧ベクトルに基づいて、インバータ回路(4)の出力に所定幅のパルス電圧(以下、調整パルスともいう)が挿入されるように、インバータ回路(4)の制御を行う。図3は、インバータ回路(4)におけるスイッチング波形を示す図である。図3では、上段から、(a)正弦波駆動時の相電圧波形、(b)過変調制御時の相電圧波形、 (c)過変調制御で出力出来る最大の相電圧波形(示すのは理想波形。6ステップモードと呼ぶ)、(d)6ステップモードにおいてキャリア周期の時間制約で180度の切替りタイミングがずれた場合の波形、(e)本実施形態における波形(180度区間の切替り時に調整パルスを挿入して(d)の波形で発生していた電圧誤差を無くした波形)をそれぞれ例示している。なお、(a)(b)の波形では、相電圧(矩形波)とともに、相電圧の基本波成分(サイン波)を図示してある。
【0027】
6ステップモードで動作した場合には180度区間の切替りタイミングがキャリア周期に依存するので、同図(d)に示すように、理想的波形とは電圧切り換わりタイミングにずれを生じ、そのずれが出力電圧の誤差となる。本実施形態では、以下の考え方に基づいて電圧ベクトル(v)を決定し、その電圧ベクトル(v)に応じて調整パルスを挿入し出力電圧の誤差を低減する。図4は、従来の過変調制御における出力電圧誤差を説明する図である。図4は、図2の空間電圧ベクトル図の一部を抜き出したものであり、図4の右側部分は、電圧ベクトル等を直線の時間軸(以下、時間軸直線と呼ぶ)に投影して表示したものである。また、電圧ベクトルの末尾に記載したN、N+1、N+2は、電圧ベクトルの時系列を示すものである。
【0028】
従来の過変調制御では、例えば、キャリア周期の中間点における電圧ベクトルに基づいてスイッチングが行われることがある。そうすると、図4の時間軸直線に示したように、本来の出力電圧からずれを生ずることになる。図4の例では、相電圧がゼロから直流リンク電圧(Vdc)の間で変化する区間(同図の区間(B)を参照)において、斜線部(斜線のピッチが狭い方のハッチング)で示される電圧が誤差電圧であり、同図上側の斜線部の面積分だけ出力電圧が高くなり、同図下側の斜線部の面積分だけ出力電圧が低くなる。そして、これらの斜線部の面積(すなわち誤差電圧)は、互いに異なっているので、180度区間毎に区切られた出力電圧の大きさにアンバランスが生じる(同図でいうと、区間(B)の中心が本来180度の切替りポイントになるので、区間(B)を中心に上側の電圧と下側の電圧が等しくないと電圧アンバランスが生じる。図で示すように区間(B)を中心に上側と下側で誤差の出方が違っているのでそれが誤差電圧になっている)。このような状態では、180度区間切替りのタイミング毎に異なった誤差が生じ、その誤差はキャリア周波数と電圧ベクトルの回転周波数の関係で決まった周期の誤差になる。これが出力電圧のビートとなり、電流のビートに繋がる。電流のビートは実効値の増大を招き、延いては損失を増大させる可能性がある。
【0029】
図5は、実施形態1における電圧ベクトル(v)の決定方法を説明する図である。同図は過変調制御時の電圧ベクトルを示している。電圧ベクトル(v)の大きさをLとした場合は、次の条件式(1)
n×θc×L=1/3×π×Vdc ・・・条件式(1)
(ただし、n:正の整数、θc:電圧ベクトルが1キャリア周期(T)の間に進む角度、Vdc:直流リンク電圧)
が成り立つときには、電圧ベクトル(v)がnキャリア周期の間に進む円弧の長さと、図2で示した基本電圧ベクトル60度分の円弧の長さ(図5では区間(B)の基本電圧ベクトルからなる円弧の長さ)が同じ大きさになる。そのため、このLで電圧ベクトル(v)をコントロールすると誤差がキャンセルされる。図5に示すように、0V側で出力電圧が低くなり(0V側の電圧が大きくなる)、且つVdc側で電圧が高くなる(すなわち、Vdc側の電圧が大きくなる)。そして、0V側とVdc側の電圧が同じ大きさで大きくなっている。つまり、共に同じ大きさで電圧が大きくなるため電圧のアンバランスがなくなる。
【0030】
なお、条件式(1)については、電圧ベクトルの軌道を円弧で計算しているが、区間(B)では電圧を直線的に調整できるので本来は直線で考えるべきである。そのため、
2×L×sin(n×θc/2)=2×Vdc×sin30° ・・・条件式(2)
が本来の条件式となる。ただし、近似的には、条件式(1)を利用しても差し支えない。
【0031】
〈電力変換装置(1)の動作〉
正弦波駆動状態における動作は、一般的なインバータ回路と同様である。一方、過変調制御時は、制御部(5)が前記条件式(条件式(1)、(2)の何れか)を用いて電圧ベクトル(v)を決定する。電圧ベクトル(v)が決定されると、スイッチング素子(S)のオン時間が定まり、制御部(5)は、該オン時間に基づいて挿入する調整パルスのパルス幅を決定する。
【0032】
これにより、本実施形態では、過変調制御時の出力電圧のアンバランスが解消し、出力電圧誤差が低減する。そして、この電圧ベクトル(v)の大きさの制御は、例えばキャリア周期を変える従来例と比べ容易な制御で実現できる。
【0033】
《発明の実施形態2》
実施形態2の電力変換装置(1)は、制御部(5)における過変調制御時の電圧ベクトル(v)の決定方法が実施形態1とは異なる。図6は、実施形態2における電圧ベクトル(v)の決定方法を説明する図である。図6の右側部分は、U相の電圧ベクトル等を時間軸直線に投影して表示したものである。
【0034】
図7は、従来の過変調制御における出力電圧誤差を説明する図である。図7では、1つのキャリア周期(T)における電圧ベクトル(v)の軌跡が、U相電圧(vu)がゼロから直流リンク電圧(Vdc)の間で変化する領域と、それ以外の領域に跨る場合の誤差を示している。
【0035】
キャリア周期(T)の開始時の電圧ベクトルを第1電圧ベクトル(va)、キャリア周期(T)の終了時の電圧ベクトルを電圧ベクトル(vb)とすると、図7に示すように、電圧ベクトル(va)と電圧ベクトル(vb)がキャリア周期(T)内で区間(A)、(B)、(C)の何れかを跨いだ場合に、キャリア周期(T)の中間点における電圧ベクトルに基づいてスイッチングを行うと、同図の黒丸で示す電圧がキャリア周期(T)内の平均電圧と等しくならない。これにより、インバータ回路(4)は、同図に示した斜線部の誤差電圧分だけ電圧を大きく出しすぎてしまう。なお、図6等の時間軸直線において、区間(A)は、U相電圧(vu)が直流リンク電圧(Vdc)となる区間、区間(B)は、U相電圧(vu)がゼロから直流リンク電圧(Vdc)の間で変化する区間、区間(C)は、U相電圧(vu)がゼロとなる区間である。
【0036】
本実施形態では、1つのキャリア周期(T)における電圧ベクトル(v)の軌跡が、相電圧がゼロから直流リンク電圧(Vdc)の間で変化する領域と、それ以外の領域に跨る場合に、1キャリア周期(T)中の平均電圧を求めて電圧ベクトル(v)を決定することで上記誤差電圧を低減する。本実施形態での平均電圧とは、図6に示すように、U相電圧(vu)の時間軸直線において、斜線で囲まれた部分の面積から求まる積分平均である。
【0037】
例えば、U相についてみると、U相電圧(vu)がゼロから直流リンク電圧(Vdc)の間で変化するベクトル空間における領域をベクトル空間領域(BB)(時間軸直線の区間(B)が対応)とすると、制御部(5)は、第1電圧ベクトル(va)の終点、及び第2電圧ベクトル(vb)の終点の間にベクトル空間領(BB)と該ベクトル空間領域(BB)以外の領域の境界線が少なくとも1つ存在する場合には、U相電圧が、1キャリア周期(T)の中で、Vdcまたは0V一定となる区間(区間(A)と区間(C))を通過した時間と、相電圧がVdcと0Vの間で変化する区間(区間(B))を通過した時間の電圧積算値から求めるキャリア周期内の平均電圧に基づいて、電圧ベクトルを求める。なお、本実施形態の制御部(5)は、以下の3つの条件(1)〜(3)の成否を確認し、いずれかの条件が成立した場合に、前記平均電圧に基づいて電圧ベクトル(v)を求める。
【0038】
条件(1):第1電圧ベクトル(va)の終点が区間(A)に存在し、且つ第2電圧ベクトル(vb)の終点が区間(B)又は区間(C)に存在する場合。
【0039】
条件(2):第1電圧ベクトル(va)の終点が区間(B)に存在し、且つ第2電圧ベクトル(vb)の終点が区間(A)又は区間(C)に存在する場合。
【0040】
条件(3):第1電圧ベクトル(va)の終点が区間(C)に存在し、且つ第2電圧ベクトル(vb)の終点が区間(A)又は区間(B)に存在する場合。
【0041】
なお、前記3つの条件(1)〜(3)が成立しない場合は、制御部(5)は、キャリア周期(T)の中間点における電圧ベクトル(v)を求める。
【0042】
〈電力変換装置(1)の動作〉
図8は、制御部(5)における電圧ベクトル(v)の決定動作を説明するフローチャートである。制御部(5)は、ステップ(S01)からステップ(S06)の動作により、電圧ベクトル(v)を決定する。
【0043】
まず、ステップ(S01)では、制御部(5)は、インバータ回路(4)が出力すべき電圧の大きさから、過変調制御かそうでないかを判断する。出力すべき電圧の基本波成分の振幅が直流リンク電圧(Vdc)の1/2よりも小さい場合は、過変調制御ではないと判断し、制御部(5)は、ステップ(S03)の処理に移行する。ステップ(S03)では、制御部(5)は、キャリア周期(T)の中間点における出力電圧から電圧ベクトル(v)を求め、該電圧ベクトル(v)に応じ、インバータ回路(4)のスイッチング状態を決定する。
【0044】
一方、制御部(5)は、出力すべき電圧の基本波成分の振幅が直流リンク電圧(Vdc)の1/2よりも大きい場合には、過変調制御と判断する。過変調制御時には、制御部(5)は、ステップ(S02)の処理に移行する。ステップ(S02)では、キャリア周期(T)の開始時に出力すべき電圧に対応した第1電圧ベクトル(va)と、キャリア周期(T)の終了時に出力すべき電圧に対応した第2電圧ベクトル(vb)を求め、ステップ(S04)の処理に移行する。ステップ(S04)では、前記条件(1)〜(3)が成立するか否かを調べる。前記条件(1)〜(3)の何れかが成立した場合には、ステップ(S05)の処理に移行し、何れも成立しなかった場合にはステップ(S06)の処理に移行する。ステップ(S06)の処理に移行した場合には、ステップ(S03)と同様に、キャリア周期(T)の中間点において出力すべき電圧から電圧ベクトル(v)を求め、該電圧ベクトル(v)に応じ、インバータ回路(4)のスイッチング状態を決定する。
【0045】
一方、制御部(5)の処理がステップ(S05)に移行するのは、1つのキャリア周期(T)における電圧ベクトル(v)の軌跡が、ベクトル空間領域(BB)と該ベクトル空間領域(BB)以外の領域の境界線の少なくとも1つを跨ぐ場合である。この場合には、例えば、ステップ(S03)のように、キャリア周期(T)の中間点において出力すべき電圧から電圧ベクトル(v)を求めたとすれば、実際に出力すべき電圧とは異なる電圧がインバータ回路(4)から出力されることになる(図7参照)。
【0046】
これに対し、本実施形態では、ステップ(S05)において、1キャリア周期(T)の中で、Vdcまたは0V一定となる区間(区間(A)と区間(C))を通過した時間と、相電圧がVdcと0Vの間で変化する区間(区間(B))を通過した時間の電圧積算値からキャリア周期内の平均電圧を求める。そして、該平均電圧に基づいて、挿入する前記調整パルスの幅を決定する。このように、平均電圧を用いて電圧ベクトル(v)を決定することで、インバータ回路(4)の出力電圧の誤差が低減し、キャリア周期(T)の中間点において出力すべき電圧から電圧ベクトル(v)を求める場合と比べ、出力電圧の誤差をより小さくすることが可能になる。そして、この平均電圧による制御は、例えばキャリア周期を変える従来例と比べ容易な制御で実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、入力をスイッチングして所定周波数、及び所定電圧の交流に変換する電力変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 電力変換装置
4 インバータ回路
5 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8