特許第5929122号(P5929122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5929122-ころ軸受 図000002
  • 特許5929122-ころ軸受 図000003
  • 特許5929122-ころ軸受 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929122
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20160519BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C33/58
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-257486(P2011-257486)
(22)【出願日】2011年11月25日
(65)【公開番号】特開2013-113324(P2013-113324A)
(43)【公開日】2013年6月10日
【審査請求日】2014年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】牧原 由行
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭46−031601(JP,Y1)
【文献】 特開2009−204148(JP,A)
【文献】 米国特許第03601458(US,A)
【文献】 独国特許出願公開第102005019474(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56、33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径に軌道が形成された円筒部を備えた外輪と、前記外輪の軌道に配置される複数のころと、前記ころを保持する保持器とを備えたころ軸受であって、
前記外輪は、前記円筒部の軸方向両端とそれぞれつながって、前記円筒部の径方向内方に前記ころの端面に向けて軸方向に延在する折り返し部を備え、前記折り返し部の軸方向ころ側端部に、前記外輪の軸線に交差すると共に、径方向外方に突出するフランジ部を有し、 前記折り返し部の内径面は、前記円筒部と平行な円筒面であって前記ころと対向する前記フランジ部の軸方向ころ側端面が、前記ころに向けて突出する凸形状のころ案内面を構成していることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記フランジ部の径方向外方端部が、さらに軸方向反ころ側に湾曲し、径方向外方において、前記ころ案内面と、前記ころの端面との間に空隙が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状ころ軸受等のころ軸受に係り、より詳しくは、金属板をプレス加工することにより製作される外輪を有するころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板をプレス加工することにより製作される外輪を有するころ軸受には外輪軌道部に重ねるよう折曲して鍔部を形成するタイプがある(特許文献1参照)。前記タイプのころ軸受は鍔部を先曲し、保持器を外輪に組込んで、ころを保持器の径方向内方からはめ込むため、鍔部後曲げが不要となって加工工数の削減により製造コストが低減する。
【0003】
上記タイプのころ軸受の主要部を図3に示す。外輪120は、一枚の金属板をプレス加工することにより製作されるもので、円筒部121の軸方向両側端部に円筒部121に対して内径側に180度屈曲された折り返し部123が形成されることで、断面が横向きのU字形になっている。上記2つの折り返し部123の先端面126がころ130の案内面になっており、また、2つの折り返し部123の内周面124が保持器4の案内面になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−264930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ころ軸受100のころ130の案内面である上記折り返し部123の先端面126はプレス加工による破断面であり、精度の確保が難しい。このため、先端面126ところ130の端面132との接触面において接触面圧が極端に高い位置が発生し油膜切れが生じることがある。
前記油膜切れが生じると、ころ案内面の摩擦抵抗は大きくなり、焼付きが発生し軸受寿命が低下する場合がある。
【0006】
本発明は保持器案内面の潤滑性能を向上させることで、ころ軸受の摩擦損失の軽減と軸受寿命の向上との両方を満足するころ軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内径に軌道が形成された円筒部を備えた外輪と、前記外輪の軌道に配置される複数のころと、前記ころを保持する保持器とを備えたころ軸受であって、前記外輪は、前記円筒部の軸方向両端とそれぞれつながって、前記円筒部の径方向内方に前記ころの端面に向けて軸方向に延在する折り返し部を備え、前記折り返し部の軸方向ころ側端部に、前記外輪の軸線に交差すると共に、径方向外方に突出するフランジ部を有し、前記折り返し部の内径面は、前記円筒部と平行な円筒面であって前記ころと対向する前記フランジ部の軸方向ころ側端面が、前記ころに向けて突出する凸形状のころ案内面を構成していることである。
【0008】
本発明の構成によると、ころ案内面である外輪の前記折り返し部のフランジ部の軸方向内方側端面は鋼板の表面であり、破断面にくらべ表面が円滑で、接触面圧が極端に高くなることによる油膜切れが発生することはない。すなわち、ころ案内面の安定した潤滑状態を得やすい。その結果、ころ軸受の摩擦抵抗は軽減し、高速条件下で使用しても、焼きつき等の不具合を回避でき、ころ軸受の寿命をこの種の従来のころ軸受よりも延長できる。
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載したころ軸受において、前記フランジ部の径方向外方端部が、さらに軸方向反ころ側に湾曲し、径方向外方において、前記ころ案内面と、前記ころの端面との間に空隙が形成されていることである。
【0010】
本発明の構成によれば、フランジが湾曲することにより、フランジ部の軸方向剛性が向上し、ころ端面ところ案内面の接触位置の変動が押えられ、ころ端面ところ案内面の間の摩擦抵抗が安定する。また、ころ軸受の回転状態において潤滑剤が前記空隙に沿ってころ案内面ところ端面との接触部に補給され、ころ案内面の潤滑状況はさらに改善する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保持器案内面の潤滑性能を向上させることで、ころ軸受の摩擦損失の軽減と軸受寿命の向上との両方を満足するころ軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態のころ軸受の断面図である。
図2図1の主要部の拡大断面図である。
図3】従来のころ軸受の主要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
各図の説明において、軸受の軸方向中心に向かう方向を軸方向内方、軸受の軸方向両端に向かう方向を軸方向外方と称する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態のころ軸受の断面図である。
図2図1の主要部の右側半分の拡大断面図である。なお、本実施形態は左右対称である。
【0015】
図1および図2に示すように、ころ軸受1は、外輪2、針状ころ3、保持器4を備える。
外輪2は鋼板をプレス加工することによって製作され、軸方向中央の内径部に軌道が形成された円筒部と前記円筒部の両端部から前記ころの端面に向けて捲き込むように180°折り返された折り返し部23が形成されている。
【0016】
折り返し部23のころ側端部は径方向外方に屈曲して軸中心線と略直角に拡径するフランジ部25を形成している。フランジ部25の径方向外方端部はさらに軸方向外方に屈曲し、フランジ部25は軸方向内方に凸形状となっており、フランジ部25の軸方向内方側面は軸方向内方に凸形状のころ案内面26となっている。両側の折り返し部23の内径面24は、軌道部22と平行な円筒面となっており、両内径面24の内径寸法は互いに等しく、両内径面24は保持器4のガイド面となっている。
【0017】
外輪2は鋼板からなるパイプ材を用いて、次の工程で製造される。所定の長さに切断されたパイプ材は両端の折り返し部23に形成される部分の内径寸法を加工可能な肉厚に拡径される。次に、パイプ材の端部を半径方向内方に絞り込むと同時に先端部を軸方向内方に折込み、フランジ部25の原型が形成される。
【0018】
次に先端のフランジ部25の原型を軸方向内方に折込むと同時に、円筒部端部を半径方向内方に絞り込むことにより折り返し部23が形成され、フランジ部25の原型は半径方向外方に広がるフランジ部25となる。このとき、フランジ部25の軸方向内方端面の径方向内方には加工時の変形によって面取り形状が形成される。
次にフランジ部25、折り返し部23の成型の後、外輪2は熱処理によって所定の硬さに硬化される。
【0019】
ころ3は円筒形のいわゆる針状ころで円筒形の転動面31と転動面31の両側に転動面31に対して直角な平面の端面32を有している。
【0020】
保持器4は金属板をプレス加工によって円筒形に形成されている。保持器4は軸方向に対峙する2個の耳部41と複数の柱部42から構成され、複数の柱部42は両耳部41を軸方向に連結し、これにより複数のころ2を転動可能に保持する複数のポケット43を区画形成する。ポケット43の円周方向の幅の最小値はころ3の直径より僅かに小さい。両耳部41の外径面44は両折り返し部23の内径面24と半径方向に接触する接触面となっている。
【0021】
ころ軸受1において、複数のころ3は、保持器4のポケット43に保持され、両端面32が湾曲部のころ案内面26にガイドされ、転送面31が外輪2の軌道22に接して配置されている。
【0022】
ころ軸受1は保持器4を外輪2の軌道22にポケット43を径方向内方に対峙して配置し、各ころ3を半径方向内方より外輪2の軌道部22にむけて、保持器4の各ポケット43に圧入して組立てられる。このように、ころ3と保持器4とを外輪2の軌道22に組み込んだ後に折り返し部23を後曲げする必要がなくなり、後曲げのための焼鈍等の熱処理工程が不要である。
【0023】
ころ軸受1において、外輪2のころ案内面26は軸方向内方、すなわち、ころ3の端面32側に凸形状であり、案内面26と、ころ3の端面32とは案内面26の凸形状頂点部の接触部27で接触する。ここで、フランジ部25は軸方向内方に凸形状となっており、平面に較べ、フランジ部25の軸方向剛性が向上し、ころ3にスキューが生じた場合にも、ころ端面ところ案内面の接触状態の変動が押えられ、接触部27の摩擦抵抗が安定する。
【0024】
また、接触部27の半径方向内方にはころ端面32ところ案内面26との間に半径方向内方に開放された空隙28、接触部27の半径方向外方にはころ端面32ところ案内面26との間に半径方向外方に開放された空隙29が介在する。
【0025】
軸受1が潤滑剤による潤滑条件下で回転すると、ころ案内面の空隙28、空隙29から接触部27に潤滑剤は補給され、ころ案内面の潤滑状況は従来品にくらべ大幅に改善できる。また、ころ案内面26は鋼板の表面であり、破断面にくらべ表面が円滑で、接触面圧が極端に高くなることはない。
その結果、高速条件下で使用しても、ころ案内面の潤滑剤の枯渇や油膜切れが抑えられ、焼きつき等の不具合を回避でき、ころ軸受の寿命をこの種の従来のころ軸受よりも延長できる。
【0026】
上述の実施形態において、外輪の湾曲部のころ案内面は軸方向内方に凸形状であるが、この発明では外輪の湾曲部のころ案内面は軌道121と平行な平面であっても良い。
【0027】
上述の実施形態において、外輪の湾曲部は両端の鍔部の折り曲げ部に形成されているが、この発明では外輪の湾曲部は一方の鍔部の折り曲げ部のみに形成されていても良い。
【符号の説明】
【0028】
1 ‥ 軸受
2 ‥ 外輪
22 ‥ 軌道
23 ‥ 折り返し部
25 ‥ フランジ部
26 ‥ ころ案内面
28、29‥ 空隙
3 ‥ ころ
4 ‥ 保持器
図1
図2
図3