(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929165
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】ローラクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/06 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
F16D41/06 F
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-281829(P2011-281829)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-130277(P2013-130277A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】土屋 貴
(72)【発明者】
【氏名】藤波 誠
【審査官】
北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−317807(JP,A)
【文献】
特開2003−090414(JP,A)
【文献】
米国特許第04924980(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪相当部材と、
該外輪相当部材の内側に該外輪相当部材と同心に配置される内輪相当部材と、
前記外輪相当部材の内周面と前記内輪相当部材の外周面のうちの一方の周面に、その深さが円周方向一方から他方に向かって漸減するように、円周方向に亙ってそれぞれ設けられる複数のカム面と、他方の周面に設けた円筒面との間に配置される複数のローラと、
一対の円環部と、該一対の円環部間を連結する複数の柱部とを有し、前記複数のローラを保持する保持器と、
を備えるローラクラッチであって、
前記複数のカム面は、前記ローラに対して前記一方の周面の少なくとも軸方向一側に延出して形成されており、
前記一方の周面と対向する前記保持器の少なくとも一方の円環部の対向面には、前記カム面に沿った形状を有する少なくとも一つの傾斜凸部が設けられ、
前記保持器は、所定の向きから、前記一方の周面を有する前記外輪相当部材又は前記内輪相当部材に対して配置可能であり、
前記傾斜凸部と、前記一方の周面を有する前記外輪相当部材又は前記内輪相当部材の軸方向側面との干渉のため、前記保持器は、前記所定の向きと逆向きから、前記外輪相当部材又は前記内輪相当部材に対して配置不可能であることを特徴とするローラクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ローラクラッチは、互いに同心に組み合わされた2個の部材のうち、一方の部材が両方向回転運動をした場合に、一方向の回転運動のみを他方の部材に伝達する一方向クラッチとして主に利用される。
図6に示すように、ローラクラッチ1は、外輪相当部材である外輪2と、複数本のローラ3,3と、これら各ローラ3,3を付勢する不図示のばねと、保持器10と、内輪相当部材である軸5と、を有する。
【0003】
外輪2の内周面の複数箇所には、深さが円周方向一方から他方に向かって漸減するように形成されるカム面7が外輪2の軸方向に亙って形成され、これらのカム面7が円周方向に等間隔で形成されている。そして、複数のローラ3,3は、外輪2の内周面に設けられた各カム面7と、軸5の外周面に設けられた円筒面8との間に形成された各楔空間内に配置される。
【0004】
また、保持器10は、
図7にも示すように、一対の円環部11と、該一対の円環部11間を連結する複数の柱部12と、を有し、一対の円環部11と隣接する柱部12との間に形成されるポケット13には、複数のローラ3,3が配置される。柱部12には、ばねを保持するための中央保持部14及び端部保持部15が形成されており、この保持器10に保持されたばねにより、ポケット13内に配置された複数のローラ3,3が楔空間の浅くなる側に付勢されている。また、端部保持部15の外周面には、外輪2のカム面7に向けて突出する突部16が形成されており、保持器10を外輪2に対して相対回転不能としている。
【0005】
また、特許文献1に記載のスプラグクラッチ用の保持器では、保持器の組込み方向を確実に識別できるように、保持器の一方のフランジにローレット溝を形成することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2に記載のスプラグを用いた2方向差動クラッチでは、保持器のポケットの幅寸法と、スプラグの幅寸法を規定することで、スプラグの組立の誤りを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−243446号公報
【特許文献2】特開平6−249266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、
図6及び
図7に示すローラクラッチにおいては、通常、外輪2と保持器10とは、
図8(a)に示すように正しく組みつけられるが、
図8(b)に示すように、外輪2と保持器10とが逆向きに組み付けることが物理的に可能である。このような逆組みが行われると、クラッチは、正常にロック機能を発揮しなくなる。従来、組立て前と後に外観検査を行っているが、
図6及び
図7に示すクラッチは、物理的には逆組みできる構造であるため、そのまま流出する可能性があった。
特許文献1及び2は、ローラクラッチを対象としておらず、また、特許文献1は、物理的に逆組みを抑制する構成ではない。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ローラクラッチの機能を害さずに、逆組みを物理的に防ぐことができるローラクラッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外輪相当部材と、
該外輪相当部材の内側に該外輪相当部材と同心に配置される内輪相当部材と、
前記外輪相当部材の内周面と前記内輪相当部材の外周面のうちの一方の周面に、その深さが円周方向一方から他方に向かって漸減するように、円周方向に亙ってそれぞれ設けられる複数のカム面と、他方の周面に設けた円筒面との間に配置される複数のローラと、
一対の円環部と、該一対の円環部間を連結する複数の柱部とを有し、前記複数のローラを保持する保持器と、
を備えるローラクラッチであって、
前記複数のカム面は、前記ローラに対して前記一方の周面の少なくとも軸方向一側に延出して形成されており、
前記一方の周面と対向する前記保持器の少なくとも一方の円環部の対向面には、前記カム面に沿った形状を有する少なくとも一つの傾斜凸部が設けられ
、
前記保持器は、所定の向きから、前記一方の周面を有する前記外輪相当部材又は前記内輪相当部材に対して配置可能であり、
前記傾斜凸部と、前記一方の周面を有する前記外輪相当部材又は前記内輪相当部材の軸方向側面との干渉のため、前記保持器は、前記所定の向きと逆向きから、前記外輪相当部材又は前記内輪相当部材に対して配置不可能であることを特徴とするローラクラッチ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のローラクラッチによれば、複数のカム面は、ローラに対して少なくとも軸方向一側に延出して形成されており、一方の周面と対向する保持器の少なくとも一方の円環部の対向面には、カム面に沿った形状を有する少なくとも一つの傾斜凸部が設けられ
、保持器は、所定の向きから、一方の周面を有する外輪相当部材又は内輪相当部材に対して配置可能であり、傾斜凸部と、一方の周面を有する外輪相当部材又は前記内輪相当部材の軸方向側面との干渉のため、保持器は、所定の向きと逆向きから、外輪相当部材又は内輪相当部材に対して配置不可能である。これにより、ローラクラッチの機能を害さずに、逆組みを物理的に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るローラクラッチの保持器の斜視図である。
【
図2】(a)は、
図1の保持器が正組みされた場合の側面図であり、(b)は、
図1の保持器が逆組みされた場合の側面図である。
【
図3】(a)は、第1変形例の保持器が正組みされた場合の側面図であり、(b)は、第1変形例の保持器が逆組みされた場合の側面図である。
【
図4】(a)は、第2変形例の保持器が正組みされた場合の側面図であり、(b)は、第2変形例の保持器が逆組みされた場合の側面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るローラクラッチを示し、(a)は、保持器が正組みされた場合の側面図であり、(b)は、保持器が逆組みされた場合の側面図である。
【
図7】従来のローラクラッチの保持器を示す斜視図である。
【
図8】(a)は、
図7の保持器が正組みされた場合の側面図であり、(b)は、
図7の保持器が逆組みされた場合の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態に係るローラクラッチについて図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態のローラクラッチは、
図6に示す従来のローラクラッチ1と、保持器10の構成において異なるのみである。このため、従来技術と実質的に同等な構成については、同一符号を付して、説明を省略あるいは簡略化する。
【0015】
図1に示すように、保持器10は、外輪2の複数のカム面7と対向する一対の円環部11の一方の外周面(対向面)に、カム面7に沿った形状を有する複数の傾斜凸部17が設けられている。
【0016】
これにより、
図2(a)に示すように、保持器10と外輪2が正しい向きで組み付けられた場合には、複数の傾斜凸部17が、少なくとも軸方向一端に亙って形成された複数のカム面7にそれぞれ嵌まり込む。一方、
図2(b)に示すように、保持器10を外輪2に対して逆向きに組み込もうとした場合には、複数の傾斜凸部17が、複数のカム面7に嵌まり込むことができず、外輪2の軸方向側面と干渉する。したがって、ローラクラッチ1の機能を害せずに、組立の際に視覚的、感覚的、物理的に組み立てる方向がわかり、逆組みを防止することができる。
【0017】
なお、
図3(a)及び(b)に示す第1変形例のように、複数のカム面7に対して1つおきに複数の傾斜凸部17が設けられてもよく、あるいは、
図4(a)及び(b)に示す第2変形例のように、複数のカム面7に対して1つの傾斜凸部17のみが設けられてもよく、いずれの構成においても、逆組みを防止することができる。
【0018】
(第2実施形態)
図5に示す第2実施形態のローラクラッチ1aでは、内輪5aの外周面の複数箇所に、深さが円周方向一方から他方に向かって漸減するように形成されるカム面7aが内輪5aの軸方向に亙って形成され、これらのカム面7aが円周方向に等間隔で形成されている。そして、複数のローラ3,3は、内輪5aの外周面に設けられた各カム面7aと、外輪2の内周面に設けられた円筒面8aとの間に形成された各楔空間内に配置される。
【0019】
この場合にも、保持器10は、内輪5aの複数のカム面7aと対向する一対の円環部11の一方の内周面(対向面)に、カム面7aに沿った形状を有する複数の傾斜凸部17aが設けられている。
【0020】
これにより、
図5(a)に示すように、保持器10と内輪5aが正しい向きで組み付けられた場合には、複数の傾斜凸部17aが、少なくとも軸方向一側に延出して形成された複数のカム面7にそれぞれ嵌まり込む。一方、
図5(b)に示すように、保持器10を内輪5aに対して逆向きに組み込もうとした場合には、複数の傾斜凸部17aが、複数のカム面7aに嵌まり込むことができず、内輪5aの軸方向側面と干渉する。したがって、ローラクラッチ1aの機能を害せずに、組立の際に視覚的、感覚的、物理的に組み立てる方向がわかり、逆組みを防止することができる。
【0021】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、本実施形態では、保持器10の一対の円環部11の一方にのみに、傾斜凸部が設けられる構成としたが、一対の円環部11の両側に傾斜凸部17が設けられても良い。
また、本発明は、傾斜凸部17を有することで、保持器10が外輪2と相対回転不能になるため、突部16を有しない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1、1a ローラクラッチ
2 外輪(外輪相当部材)
3 ローラ
5 軸(内輪相当部材)
5a 内輪(内輪相当部材)
7、7a カム面
8、8a 円筒面
10 保持器
11 円環部
12 柱部
13 ポケット
17、17a 傾斜凸部