特許第5929303号(P5929303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929303
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】船舶用バラスト水の処理システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 33/06 20060101AFI20160519BHJP
   B01D 24/38 20060101ALI20160519BHJP
   B01D 33/70 20060101ALI20160519BHJP
   B01D 24/46 20060101ALI20160519BHJP
   B01D 33/44 20060101ALI20160519BHJP
   B01D 33/58 20060101ALI20160519BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   B01D33/06 A
   B01D33/38
   B01D33/36
   B63B13/00 Z
   B01D33/06 D
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-38474(P2012-38474)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-173093(P2013-173093A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100139387
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100144691
【弁理士】
【氏名又は名称】小副川 みさ子
(74)【代理人】
【識別番号】100146802
【弁理士】
【氏名又は名称】戸谷 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100157794
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100159374
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 顕
(72)【発明者】
【氏名】上山 宗譜
(72)【発明者】
【氏名】大澤 功
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】中井 龍資
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−194396(JP,A)
【文献】 特開2011−251284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 33/06
B01D 24/38
B01D 24/46
B01D 33/44
B01D 33/58
B01D 33/70
B63B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を囲むように円筒配置され、該軸線を中心に回転自在に設けられており、円筒半径方向に折り曲げられたプリーツ形状を有するフィルタと、該フィルタの外周部に被処理水を流出する洗浄ノズルと、前記フィルタを囲むように設けられ前記洗浄ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、前記フィルタを透過した濾過水を前記フィルタの円筒内部から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、前記フィルタで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備え、前記フィルタを回転させるための電動モータを備えた回転フィルタ濾過装置を用いた船舶用バラスト水の処理システムであって、
前記フィルタは、有効濾過面積が5m以上であって海水中の30μm以上のプランクトンを99%以上除去可能なフィルタであり、
前記洗浄ノズルと前記フィルタの谷との距離が120mm以下に配置され、
以下a〜dの条件を満たす定常運転をされるように構成されており、
前記被処理水が、濁度が1〜1000NTUの海水である場合において、前記定常運転を12時間以上継続可能であることを特徴とする船舶用バラスト水の処理システム。
a)前記フィルタの濾過時の回転数が20rpm以上100rpm以下
b)前記洗浄ノズルから流出する洗浄水の流速が250m/分以上
c)前記フィルタの膜面積あたりの濾過流量が5.1m/h以下
d)前記排出流路からの排出水量が、前記濾過流量の5%以上
【請求項2】
軸線を囲むように円筒配置され、該軸線を中心に回転自在に設けられており、円筒半径方向に折り曲げられたプリーツ形状を有するフィルタと、該フィルタの外周部に被処理水を流出する洗浄ノズルと、前記フィルタを囲むように設けられ前記洗浄ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、前記フィルタを透過した濾過水を前記フィルタの円筒内部から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、前記フィルタで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備え、前記フィルタを回転させるための電動モータを備えた回転フィルタ濾過装置を用いた船舶用バラスト水の処理方法であって、
前記フィルタは、有効濾過面積が5m以上であって海水中の30μm以上のプランクトンを99%以上除去可能なフィルタであり、
前記洗浄ノズルと前記フィルタの谷との距離が120mm以下に配置されており、
前記被処理水が、濁度が1〜1000NTUの海水である場合において、前記定常運転を12時間以上継続可能であるように、
以下a〜dの条件を満たすように定常運転することを特徴とする船舶用バラスト水の処理方法。
a)前記フィルタの濾過時の回転数が20rpm以上100rpm以下
b)前記洗浄ノズルから流出する洗浄水の流速が250m/分以上
c)前記フィルタの膜面積あたりの濾過流量が5.1m/h以下
d)前記排出流路からの排出水量が、前記濾過流量の5%以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の航行時の安定のために貯留されるバラスト水の処理システムに関するものであり、特に船上に搭載された後に他の海域において排出されるバラスト水の高度な処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶に積載するバラスト水の処理が問題となっている。バラスト水は空荷状態でも安全に航行するために船舶に積載される海水であり、バラスト水は航海の出発時に付近の海洋から取水し、到着地において付近の海洋へ排水される。即ち、出発地の海水からなるバラスト水が到着地で排水され、例えば、日本から出港したオイルタンカーがオイル産油国のクエート等の中近東へ航行してオイルを搭載する場合、日本海域の海水がバラスト水として積載され、中近東の海域で洋上に排水されるなどとなる。このようにバラスト水が取水した海域と異なる海域に排水されると、海水中の生物が本来の生息地でない海域に移動させられることとなり、海洋の生態系に大きな影響を及ぼすこととなる。
【0003】
このため、バラスト水を浄化処理して微生物を除去あるいは殺滅、不活性化する方法が種々検討されている。たとえば特許文献1には海水を加熱して水中生物を殺菌する方法が記載され、特許文献2には蒸気を用いる方法や紫外線照射による方法が開示され、その他、電圧印加や衝撃波などの電気的方法や、次亜塩素酸ソーダなどの薬剤を投入する方法等が提案されている。また、前記殺滅処理の前段として、あるいは比較的大きな微生物の除去の目的で濾過を用いる方法も検討されており、たとえば特許文献3には濾過膜を用いたバラスト水の製造方法が記載されている。
【0004】
また、本願発明者らは、このようなバラスト水の処理を検討しており、特許文献4のような回転する円筒状プリーツフィルタを用いた濾過装置を開示している。当該バラスト水の処理装置は、軸線を囲むように円筒配置され、該軸線を中心に回転自在に設けられたフィルタと、該フィルタの外周面に向けて被処理水を流出する被処理水ノズルと、前記フィルタを囲むように設けられ前記被処理水ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、前記フィルタを透過した濾過水を前記フィルタの円筒内部から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、前記フィルタで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備えた船舶用バラスト水の処理装置である。かかる構成とすれば、円筒配置されたフィルタの外部から被処理水をフィルタ外周面に向けて噴出することでフィルタが回転しつつ連続的にフィルタ面を移動しながら濾過が行われる。これにより、フィルタの目詰まりを除去しつつ濾過を行い続けることが可能となり、同じ膜面積の平板状フィルタに比較して効率良く異物除去を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3660984号公報
【特許文献2】特許第4261955号公報
【特許文献3】特開2006−728号公報
【特許文献4】特開2011−194396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3のような従来のバラスト水処理はそれぞれに短所を有しており、その解決手段として本願発明者らは特許文献4のような処理装置を開発している。バラスト水は大量の海水であり、その処理は停泊中の船舶の限られた時間の中で極力短時間で行うことが求められる。しかし、フィルタによる濾過においては長時間の運転により目詰まりを起こす可能性があり、その都度のフィルタ交換という事態になれば時間損失による損害が大きい。特許文献4に記載の回転フィルタ濾過装置は、プリーツ形状を有するフィルタを回転させつつ濾過面に洗浄水を連続的に作用させることで、フィルタの洗浄と濾過を同時並行して行うことが特徴である。しかし、その配置と運転条件が不適切であれば、洗浄効果が十分に得られず、結果として目詰まりを起こし、必要な濾過水量を確保する前に運転停止を余儀なくされるなどの不具合が生じる。そこで、本発明の目的は、停止することなく長時間の定常運転が可能なバラスト水の処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、船上に設置でき効率的にバラスト水の浄化処理が行える手段を鋭意検討の結果本願発明に至った。
【0008】
本願発明は、軸線を囲むように円筒配置され、該軸線を中心に回転自在に設けられており、円筒半径方向に折り曲げられたプリーツ形状を有するフィルタと、該フィルタの外周部に被処理水を流出する洗浄ノズルと、前記フィルタを囲むように設けられ前記洗浄ノズルのノズル口を内部に備えた外筒部を有するケースと、前記フィルタを透過した濾過水を前記フィルタの円筒内部から前記ケースの外部へ導出する濾過水流路と、前記フィルタで濾過されなかった排出水を前記ケースの外部へ排出する排出流路とを備え、前記フィルタを回転させるための電動モータを備えた回転フィルタ濾過装置を用いた船舶用バラスト水の処理システムであって、前記洗浄ノズルと前記フィルタの谷との距離が120mm以下に配置され、以下a〜dの条件を満たす定常運転をされるように構成されていることを特徴とする船舶用バラスト水の処理システムおよび処理方法である。
a)前記フィルタの濾過時の回転数が20rpm以上100rpm以下
b)前記洗浄ノズルから流出する洗浄水の流速が250m/分以上
c)前記フィルタの膜面積あたりの濾過流量が5.1m/h以下
d)前記排出流路からの排出水量が、前記濾過流量の5%以上
【0009】
前述の通り、発明者らは、対象とする回転フィルタ濾過装置の適切な運転条件を見いだすべく鋭意検討の結果、定常濾過に影響を与える要因として洗浄効果と排出水量に関係があることをつきとめ、結果として長時間の定常運転を可能とするための項目と条件を見いだした。上記の構造の装置においてa)〜d)の運転条件を満たすことで、一般的な船舶に必要なバラスト水の処理を、目詰まりにより停止させることなく運転することが可能となる。
【0010】
濾過装置に流入する被処理水は、濾過されてバラスト水として利用される濾過水と、濾過されずに排出される排出水のいずれかになるため、被処理水流量=濾過流量+排出流量、となる。必要な濾過流量を確保しつつ運転する場合において、排出水量を減らしてゆくと、濾過されずにケース内に留まる被処理水中の濁質分等が次第に高濃度になり、目詰まりを一層起こしやすくなる。一方で排出流量を増やすことは、濾過全体の効率の面では不利である。そこで、濾過流量と排出流量には適切な関係が存在することとなる。また、濾過自体が安定な流量であるとしても、濾過膜の洗浄効果が劣れば、目詰まりが進行する。適切な洗浄のために、洗浄水ノズルの配置と洗浄水の流量、フィルタの回転数が寄与することが確認できた。
【0011】
本発明において処理の対象となる海水は特に制限されないが、一般的に船舶が停泊する港湾域の海水には、微生物や濁質が含まれており、濁度が1〜1000NTU(Nephelometric Turbidity Unit)程度である。問題とされる海水中の微生物として大腸菌、コレラ菌、腸球菌、ミジンコやヒトデ、アジア昆布等の幼生等が挙げられ、これらの微生物の大きさはほとんどが0.3から数百μmである。ここでのフィルタは、海水中からの濁質除去と共に微生物の除去を目的とするものである。除去対象である濁質にはシリカ等の無機質成分などが含まれており、その大きさは様々である。これらを効果的に除去するため、フィルタは、海水中の50μm以上、好ましくは30μm、さらに好ましくは10μm以上のプランクトンを濾過可能なものが用いられ、本願発明の効果を得るために好ましくは海水中の30μm以上のプランクトンを99%以上除去可能なフィルタであると良い。特に本願はフィルタの有効濾過面積が5m以上というような大面積のフィルタを用いて大量のバラスト水を処理する場合に効果的であり、好ましくは30m以上というような大型の装置において用いると長時間運転の面で有効である。
【0012】
このような本発明の装置、方法によれば、濁度が1〜1000NTUの海水である場合において、定常運転を12時間以上継続可能、すなわち少なくとも12時間の定常運転を継続可能とすることができ、バラスト水処理として適切に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の発明によれば、停止することなく長時間の定常運転が可能なバラスト水の処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる船舶用バラスト水の処理システムの代表的な全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明に用いられる回転フィルタ濾過装置の構成例を説明する縦断面模式図である。
図3図2におけるA−A横断面を示す模式図である。
図4】本発明に好適に用いられるプリーツフィルタの代表的構成を説明する斜視模式図である。
図5】洗浄水ノズルとフィルタとの位置関係を説明する図である。
図6】本発明にかかる船舶用バラスト水の処理システムの別な全体構成例を示すブロック図である。
図7図6のシステムに用いられる回転フィルタ濾過装置の構成例を説明する縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にかかる船舶用バラスト水の処理システムの装置構成および処理方法を図面を参照して説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
図1は、本願発明にかかる船舶用バラスト水の処理システムの全体構成を模式的に示した説明図である。図1において、海洋から取水された海水である被処理水は配管31を経てポンプ21により送られ、配管32を通じて濾過手段であるフィルタ装置12に供給される。フィルタ装置12において濾過された濾過水は配管33を経て紫外線照射装置などの殺滅手段13(必須ではない。)に送られる。また、フィルタ装置12において濾過されなかった排出水は、配管35を経て装置外部へ導出される。殺滅処理を経た海水は、配管34、配管36を経てタンク11に送られる。
【0017】
図2および図3は、濾過手段としての回転フィルタ濾過装置の代表的な構成例を説明する模式図である。図2は、回転フィルタ濾過装置の縦断面、図3は、図2におけるA−A横断面を示す。円筒形状のフィルタ101は回転中心となる軸線141を囲むように配置されており、中心に配置された中心配管(配管は回転しない)の周囲を回転自在に取り付けられている。フィルタとしては円筒の半径方向に山谷を繰り返すように折り目が付けられたプリーツフィルタが好ましく用いられる。フィルタの上下面は水密に塞がれている。回転自在な取り付け構造は、同じく水密構造とする必要があるが、特に限定されることなく既知の構造が用いられる。フィルタ全体を覆うようにケース103が設けられる。ケース103は外筒部131、蓋部132、底部133で構成され、底部133には排出流路108が設けられる。また、ケース103内に被処理水としての海水を導入するため被処理水配管106と、被処理水を洗浄水としてフィルタの濾過面方向に噴出するための洗浄水ノズル102が設けられる。洗浄水ノズル102は、そのノズル口121をケース103の外筒部131内に備えるように被処理水配管106から延設され、被処理水がフィルタの外周面に向かって流出するように構成されている。
【0018】
本例の場合、洗浄水ノズルから噴出した被処理水はプリーツフィルタのプリーツ外周面に当たり、その圧力によってフィルタの洗浄効果が得られる。円筒状のフィルタ101はフィルタ中心軸に電動モータ140の軸141を連結し、強制的に回転させる構成としている。回転により、フィルタの洗浄部位が順次変化し、円筒外面の全体が洗浄され得る。電動モータの回転数は一定でも良いし、人為的に任意に定めることも可能であるが、濾過水の濁度やフィルタ内外の圧力などを検出して濾過の状態に応じて制御するとより好ましい。
【0019】
濾過されない被処理水および、ケース内に沈殿した濁質分は、ケース底部の排出流路から順次排出される。このように濁質分や残った被処理水が連続的に常に排出されつつ濾過が進行される点がこの装置の特徴であり、バラスト水に求められる10〜20ton/時間、さらには100ton/時間を超える処理量を確保するために効果がある。なお、図では排出流路にバルブなどを記載していないが、保守用や流量調節用に必要な機器が設けられる。一方、フィルタ101により濾過された濾過水はフィルタ内部にて中心配管104に設けられた取水穴105を通して濾過水流路107に導かれ、ケース外部に導出される。
【0020】
図4は、本発明に好適に用いられるプリーツフィルタの代表的構成を説明する斜視模式図である。このフィルタは帯状の平面基材を山谷交互に折りたたむことで、いわゆるプリーツ形状とし、さらに円筒状につなぎ合わせて構成されたものである。図4において円筒状プリーツフィルタであるフィルタ101の円筒外側から濾過対象となる被処理水が供給され、フィルタによって濾過された水が円筒内側から排出される。
【0021】
フィルタの基材には多孔質樹脂シートが用いられる。材質として例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等からなる延伸多孔質体、相分離多孔体、不織布等の多孔質構造物が利用される。バラスト水処理では高流量処理を行うため、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる不織布が特に好適に用いられる。また、寸法例として、プリーツフィルタの外径は700mm、軸方向長さ320mm、有効面積としての高さ280mm、プリーツ深さ70mm、プリーツ数420折、が挙げられ、必要な処理水量に応じて有効面積を変えたり、複数のフィルタを並列に用いたりすることなどが可能である。
【0022】
図5は、洗浄水ノズル102のノズル口121と、プリーツフィルタとの位置関係を説明する図である。ノズル口先端から、フィルタの谷部表面までの距離dを、洗浄ノズルとフィルタの谷との距離、と呼ぶ。
【0023】
図6は、本願発明にかかる船舶用バラスト水の処理システムの別な全体構成を模式的に示した説明図である。図1と同じ要素には同じ符号を付けており、説明は省略する。図1と異なるのは、フィルタ装置12において、濾過されていない被処理水を洗浄水として循環させるための配管37,ポンプ22,配管38により構成される循環流路が追加されていることである。これにより、被処理水ノズルと洗浄水ノズルが別個独立に設けられる事になる。
【0024】
かかる構造を図7を用いて説明する。図2と同じ要素には同じ符号を付けており、説明は省略する。図6で説明した循環流路は具体的には、取水流路151、ポンプ152,洗浄水流路153により構成される。洗浄水ノズル102へは洗浄水流路153から循環供給される被処理水が供給される。外部からの被処理水は、別途、被処理水流路106から被処理水ノズル112を経てケース内に流入する。図1と異なり、被処理水の供給量とは独立して洗浄水の流量(流速)を制御することが可能となり、洗浄効果の制御の自由度が高まる点に特徴がある。
【実施例】
【0025】
以下に各種条件下で海水の濾過を行った結果を示す。いずれの実験においても、所定の条件において12時間の連続運転を行い、フィルタの目詰まりの有無を確認した。目詰まりは、フィルタ内外の水圧の差である差圧測定により判定し、差圧が50kPa以上になった場合を目詰まり「有」と判断した。用いた海水は、佐賀県伊万里市において採取した標準的な海水であり、塩分濃度2〜4%、濁度1〜1000NTUである。
【0026】
装置構成の異なる3種類の装置において同様の実験を行った。装置Aは、図2に示した装置であって、海水中の30μm以上のプランクトンを99%以上除去可能な不織布製のプリーツフィルタを用いている。プリーツフィルタの外径は334mm、軸方向長さ200mm、プリーツ深さは70mm、プリーツ数210折である。外筒部外径は406mmφとした。装置Bは、装置Aと同様の構成、材質であり、装置を大型化したものである。プリーツフィルタの外径は700mm、軸方向長さ309mm(有効面積としての高さ204mm)、プリーツ深さ70mm、プリーツ数420折、であり、かかるフィルタを3段重ねで用いた。装置Cは、図7に示した構成で被処理水と洗浄水ノズルを別々に備えた装置であり、フィルタは装置Aと同じものを使用した。ここで、ノズル口はプリーツの長さ方向に長辺、プリーツ間隔方向に短辺を持つ長形開口である。ノズル口とフィルタの谷部表面との間隔d(図5参照)をノズル距離(mm)とした。
【0027】
それぞれの装置において、実験した結果を表1、表2,表3に示す。洗浄流速は、洗浄ノズルからケース内部に流れる洗浄水としての被処理水の流速である。大きいほど洗浄効果が高い。また、被処理水ノズルが洗浄ノズルを兼ねる場合は、投入される被処理水の量が多くなる。有効濾過面積(m)は、プリーツフィルタにおいて濾過に実効のある部分の表面積である。濾過水量(m/h(時間))は、フィルタによって濾過され、濾過水流路から排出される濾過水の量であり、その値をフィルタの有効濾過面積で割ったものが、面積当たりの濾過水量(m/h)である。濾過水量は、その装置で処理できるバラスト水の量を表すものであり、大きいほど一定時間に多くの処理が行える。排出水量(m/h)は、濾過されずに排出流路からケース外部に排出される水量である。排出比率(%)は、排出水量÷濾過水量を百分率で表したものであって、100%であれば濾過される水量と濾過されずに排出される水量が同じということになる。排出水量と濾過水量の和が装置に投入される被処理水の量であるので、排出比率が小さい程、濾過の効率は高い(多くの処理を行える)ことになる。一方、排出比率が小さいと、ケース内に濾過されずに滞留する被処理水の濁度が高くなり、フィルタの目詰まりが起こりやすくなる傾向がある。回転数(rpm)はフィルタの回転数であり、洗浄効果に影響する。
【0028】
表1は、装置Aによる実験結果である。データ番号1〜5を見ると、洗浄流速が200m/分では目詰まりが認められ、250m/分以上であれば良いことが判る。データ番号5〜9では、回転数10rpmと120rpmで目詰まりが認められ、その間20以上100以下では良好であることが判る。データ番号9〜11により、ノズル距離が150mmになると目詰まりが認められ、120mm以下が必要である。データ番号12〜14からは、面積当たりの濾過水量が6m/hになると目詰まりが認められ、5.1m/h以下であれば良いことが判る。また、データ番号15と16より、排出比率3.7%で目詰まりを認め、7.4%では目詰まりしないことが判る。
【0029】
次に装置Bによる実験結果を表2に示す。データ番号21〜23からは、面積当たりの濾過水量が6m/hになると目詰まりが認められ、5.1m/hであれば良いことが判る。データ番号24と25を見ると、洗浄流速が206m/分では目詰まりが認められ、250m/分以上であれば良いことが判る。また、データ番号26と27より、排出比率3.9%で目詰まりを認め、5.1%では目詰まりしないことが判る。
【0030】
次に装置Cによる実験結果を表3に示す。データ番号31〜33を見ると、洗浄流速が200m/分では目詰まりが認められ、250m/分以上であれば良いことが判る。データ番号34〜35からは、面積当たりの濾過水量が6m/hでは目詰まりが認められ、4.3m/hであれば良いことが判る。また、データ番号36〜38より、排出比率4.0%で目詰まりを認め、5.0%、40%では目詰まりしないことが判る。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【符号の説明】
【0034】
10 バラスト水の処理システム
11 タンク
12 回転フィルタ濾過装置
13 紫外線照射装置
21、22 ポンプ
31、32、33、34、35、36、37、38 配管
101 フィルタ
102 洗浄水ノズル
103 ケース
104 中心配管
105 取水穴
106 被処理水流路
107 濾過水流路
108 排出流路
112 被処理水ノズル
121 ノズル口
131 外筒部
132 蓋部
133 底部
140 電動モータ
141 軸
151 取水流路
152 ポンプ
153 洗浄水流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7