(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929507
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】動力伝達チェーンの検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/02 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
G01M13/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-117378(P2012-117378)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-245943(P2013-245943A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】山本 育生
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−120455(JP,A)
【文献】
特開昭58−060238(JP,A)
【文献】
特開2006−102784(JP,A)
【文献】
特開平09−318345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/02
F16G 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクおよび前記複数のリンクを連結する複数のピンからなり2つのプーリ間に巻き掛けられて使用される動力伝達チェーンの検査方法であって、
予張力付与用第1プーリと予張力付与用第2プーリとの間に前記動力伝達チェーンを巻き掛けて前記動力伝達チェーンに予張力を付与する予張力付与工程を備えており、
前記予張力付与工程において、リンク抜けがない場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界未満であり、かつ、リンク抜けがある場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界以上となるように予張力を一定の値にまで増加させ、その後、予張力を当該一定の値に保持した状態で所定時間前記動力伝達チェーンの周長を測定し、時間とともに前記動力伝達チェーンの周長が増加し続ける場合に、リンク抜けが生じていると判定する動力伝達チェーンの検査方法。
【請求項2】
複数のリンクおよび前記複数のリンクを連結する複数のピンからなり2つのプーリ間に巻き掛けられて使用される動力伝達チェーンに所定の大きさの予張力を付与する装置に設けられて前記動力伝達チェーンのリンク抜けの有無を検査する検査装置であって、
予張力測定手段と、
予張力付与時の前記動力伝達チェーンの周長を所定時間計測する周長測定手段と、
前記周長測定手段で得られる前記動力伝達チェーンの周長の増加量を計算する周長増加量演算手段と、
リンク抜けがない場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界未満であり、かつ、リンク抜けがある場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界以上となるように予張力を一定の値にまで増加させ、その後、予張力を当該一定の値に保持した状態に維持された時における前記動力伝達チェーンの周長の増加量が正の場合にリンク抜けが生じていると判定する判定手段とを備えている動力伝達チェーンの検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力伝達チェーンの検査方法および検査装置、さらに詳しくは、自動車等の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)に好適な動力伝達チェーンの検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達チェーンとして、複数のリンクと、複数のリンクを互いに屈曲可能に連結する複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備えているものが知られている。特許文献1には、耐久性を向上させるために、その製造工程において、張力を動力伝達チェーンに予め付与(予張)して、リンクに適当な残留圧縮応力を付与するとともに、この際、合わせて動力伝達チェーンの周長を測定する検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−209190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の動力伝達チェーンでは、複数のリンクをピンに取り付けていく工程の途中に、取付け不良(リンクの抜けなど)が生じる可能性がある。従来、リンクの抜けについては、目視による検査が行われているが、計測値による検査が行われていないため、確実にリンクの抜けを検出することができないという問題があった。上記特許文献1には、動力伝達チェーンの周長を測定することが記載されているが、測定した動力伝達チェーンの周長をどのように利用するかについての記載はない。
【0005】
この発明の目的は、動力伝達チェーンの周長の測定値を利用して、確実にリンクの抜けを検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による動力伝達チェーンの検査装置は、複数のリンクおよび前記複数のリンクを連結する複数のピンからなり2つのプーリ間に巻き掛けられて使用される動力伝達チェーンの検査方法であって、予張力付与用第1プーリと予張力付与用第2プーリとの間に前記動力伝達チェーンを巻き掛けて前記動力伝達チェーンに予張力を付与する予張力付与工程を備えており、前記予張力付与工程において、
リンク抜けがない場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界未満であり、かつ、リンク抜けがある場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界以上となるように予張力を一定の値にまで増加させ、その後、予張力を当該一定の値に保持した状態で、所定時間前記動力伝達チェーンの周長を測定し、時間とともに前記動力伝達チェーンの周長が増加し続ける場合に、
リンク抜けが生じていると判定するものである。
【0007】
この発明による動力伝達チェーンの検査装置は、
複数のリンクおよび前記複数のリンクを連結する複数のピンからなり2つのプーリ間に巻き掛けられて使用される動力伝達チェーンに所定の大きさの予張力を付与する装置に設けられて前記動力伝達チェーンの
リンク抜けの有無を検査する検査装置であって、予張力測定手段と、予張力付与時の前記動力伝達チェーンの周長を所定時間計測する周長測定手段と、前記周長測定手段で得られる前記動力伝達チェーンの周長の増加量を計算する周長増加量演算手段と、
リンク抜けがない場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界未満であり、かつ、リンク抜けがある場合にはリンク内部に発生する最大主応力値が弾性限界以上となるように予張力を一定の値にまで増加させ、その後、予張力を当該一定の値に保持した状態に維持された時における前記動力伝達チェーンの周長の増加量が正の場合に
リンク抜けが生じていると判定する判定手段とを備えているものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の動力伝達チェーンの検査方法および検査装置によると、従来から実施されている予張力付与装置を使用した予張力付与工程において、動力伝達チェーンの周長を利用したリンクの抜けの有無の判定が可能となる。これにより、目視による判定に頼らずに済み、確実にリンクの抜けを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、この発明による動力伝達チェーンの検査方法および検査装置が対象とする1例である動力伝達チェーンの1実施形態の一部を示す平面図である。
【
図2】
図2は、動力伝達チェーンがプーリに取り付けられた状態を示す正面図である。
【
図3】
図3は、動力伝達チェーンの検査方法および検査装置の1実施形態を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、動力伝達チェーンの検査方法および検査装置で利用している周長変化の特徴を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、この発明による動力伝達チェーンの検査方法および検査装置が対象とする1例としての動力伝達チェーンの一部を示している。
【0012】
動力伝達チェーン(1)は、複数のリンク(11)と、複数のリンク(11)同士を屈曲可能に連結する複数の第1ピン(14)および複数の第2ピン(15)とを備えている。
【0013】
リンク(11)は、チェーン進行方向前側に位置する前挿通部(12)と、チェーン進行方向後側に位置する後挿通部(13)とを有している。
【0014】
動力伝達チェーン(1)は、チェーン幅方向に並ぶ複数のリンクで構成されるリンク列をチェーン進行方向(前後方向)に3つ並べて1つのリンクユニットとし、この3列のリンク列からなるリンクユニットをチェーン進行方向に複数連結して形成されている。この実施形態では、リンク枚数が9枚のリンク列とリンク枚数が8枚のリンク列2つとが1つのリンクユニットとされている。
【0015】
進行方向後側の一方のリンク(11)の前挿通部(12)と進行方向前側の他方のリンク(11)の後挿通部(13)とが対応するようにリンク(11)同士が重ねられている。各第1ピン(14)および各第2ピン(15)は、チェーン幅方向に重なり合う複数の前挿通部(12)および後挿通部(13)に嵌め合わされている。
【0016】
上記動力伝達チェーン(1)は、動力伝達装置としての無段変速機(10)で使用される。無段変速機(10)は、
図2に示すように、1対のプーリ(図示は一方のプーリだけ)(2)と、両プーリ(2)に巻き掛けられた動力伝達チェーン(1)とを備えている。
【0017】
プーリ(2)は、プーリ軸(2e)に固定された固定シーブ(2a)と、プーリ軸(2e)上に軸方向移動可能に支持された可動シーブ(2b)とを備えている。固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)は、それぞれ相対向する円錐面状のシーブ面(2c)(2d)を有している。
【0018】
第1ピン(14)の両端面は、プーリ(2)の相対向する1対のシーブ面(2c)(2d)間に挟持され、第1ピン(14)の両端面と各シーブ面(2c)(2d)との間の力により、動力伝達チェーン(1)とプーリ(2)との間で動力が伝達される。可動シーブ(2b)は、油圧アクチュエータ(図示略)によって、固定シーブ(2a)側に押圧されており、これにより、動力伝達チェーン(1)をクランプするためのクランプ力がプーリ(2)に与えられる。
【0019】
図2において、実線で示した位置にあるプーリ(2)の可動シーブ(2b)を固定シーブ(2a)に対して接近または離隔させると、プーリ(2)における動力伝達チェーン(1)の巻き掛け径は、同図に鎖線で示すように、接近時には大きく、離隔時には小さくなる。
【0020】
1対のプーリ(2)のうち図示省略した他方のプーリでは、その固定シーブが図示した固定シーブ(2a)とは、動力伝達チェーン(1)を間にして、軸方向反対側に配置されている。そして、その可動シーブが図示したプーリ(2)の可動シーブ(2b)とは逆向きに移動する。これにより、無段変速機(10)の変速比が無段階に変化する。
【0021】
リンク(11)は、例えば、ばね鋼や炭素工具鋼製とされる。リンク(11)の材質は、ばね鋼や炭素工具鋼に限られるものではなく、軸受鋼などの他の鋼でももちろんよい。リンク(11)は、前後挿通部(12)(13)がそれぞれ独立の貫通孔(柱有りリンク)とされていてもよく、前後挿通部(12)(13)が1つの貫通孔(柱無しリンク)とされていてもよい。第1ピン(14)および第2ピン(15)の材質としては、軸受鋼などの適宜な鋼が使用される。
【0022】
動力伝達チェーン(1)は、所要数の第1ピン(14)および第2ピン(15)を所定ピッチで垂直状に配置してチェーンとして組み立てられたときの配列状態で保持した後、所要数のリンク(11)を順次圧入していくことにより製造される。圧入は、各ピン(14)(15)のチェーン径方向の内側縁部とリンク(11)のチェーン径方向の内側縁部との間および各ピン(14)(15)のチェーン径方向の外側縁部とリンク(11)のチェーン径方向の外側縁部との間において行われている。圧入代は0.005mm〜0.1mmとされている。
【0023】
この製造に際し、リンク圧入工程に異常が起こり、1枚または複数枚のリンク(11)が所定の箇所に配置されない状態で、製造工程が完了することがある。このような不良(リンクの抜け)は、リンク(11)の抜けの有無を目視で判断することで検出できるが、リンク(11)が多数枚使用されていることから、目視での判断だけでは、リンク(11)の抜けを完全に検出できない可能性がある。
【0024】
以下に示す動力伝達チェーンの検査方法および検査装置は、動力伝達チェーンの周長の測定値を利用して、リンクの抜けを検出するためのものである。
【0025】
図3は、検査装置を備えた予張力付与装置を示している。
【0026】
予張力付与装置(31)は、第1プーリ(32)と、第2プーリ(33)と、回転駆動装置(34)と、進行方向移動テーブル(35)と、進行方向駆動装置(36)と、荷重センサ(予張力測定手段)(37)と、位置センサ(周長測定手段)(38)と、制御部(39)とを備えている。なお、制御部(39)は、図示を省略するCPUやメモリ(RAM)の他、プログラムが格納されたROM等の一般的なコンピュータとして構成されている。
【0027】
回転駆動装置(34)は、第1プーリ(32)の回転軸を回転させる。進行方向移動テーブル(35)は、進行方向駆動装置(36)に駆動されることにより、第2プーリ(33)をチェーン進行方向に移動させてプーリ(32)(33)の軸間距離を接近または離隔させて、動力伝達チェーン(1)に作用する張力を調整する。荷重センサ(37)は、予張力を計測する。位置センサ(38)は、動力伝達チェーン(1)の周長を演算するために第2プーリ(33)の位置を検出する。制御部(39)は、回転駆動装置(34)および進行方向駆動装置(36)を制御するとともに、荷重センサ(37)および位置センサ(38)の出力を処理する。
【0028】
制御部(39)には、回転駆動装置(34)の駆動を制御する回転駆動処理部(41)、進行方向駆動装置(36)の駆動を制御する進行方向駆動処理部(42)、荷重センサ(37)の出力に基づく予張力を制御する予張力処理部(43)および位置センサ(38)の出力に基づく周長を制御する周長処理部(44)などが設けられている。動力伝達チェーン(1)の周長は、位置センサ(38)によって測定された第2プーリ(33)の位置に基づいて求められる第1プーリ(32)と第2プーリ(33)との軸間距離Lと、あらかじめ制御部(39)に記憶されている、第1プーリ(32)の軸心から第1プーリ(32)と動力伝達チェーン(1)との接触部分までの径D1と、第2プーリ(33)の軸心から第2プーリ(33)と動力伝達チェーン(1)との接触部分までの径D2と、を用いて、周長=π(D1+D2)+2Lで算出される。
【0029】
制御部(39)には、さらに、周長処理部(44)で得られる周長の所定間隔ごとの増加量を計算する周長増加量演算手段(45)と、予張力が一定とされた時における周長増加量が正の場合に不良品であると判定する判定手段(46)とが付加されている。
【0030】
予張力付与装置(31)では、付与される張力の大きさは、リンク(11)内部に発生する最大主応力値がリンク(11)の弾性限界以上でかつ塑性限界以下となるように設定され、これにより、リンク(11)内部に適正な残留圧縮応力が付与される。
【0031】
図4に示すグラフは、予張力付与中の動力伝達チェーン(1)の周長の変化を示している。実線で示す正常品では、まず、予張力を増加させると、これに伴って、周長が増加し、予張力を一定とした段階で、周長は増加しなくなり、予張力を除去すると、元の長さに戻る。これに対し、破線で示すリンク抜け不良品では、正常品に比べて、リンク(11)が抜けている分、強度が不足しているので、予張力を増加させると、これに伴って、周長が増加し、予張力を一定とした段階でも、周長が増加する。すなわち、図に示す傾きθが正となる。したがって、この周長の増加量(傾きθ)を見ることで、リンク(11)の抜けを検出することができる。
【0032】
なお、一定量の予張力が付与されている状態で、動力伝達チェーン(1)の周長が増加する場合、周長の増加割合が、あらかじめ制御部(39)にて記憶されている閾値としての増加割合よりも大きくなることで、リンク抜けのような動力伝達チェーン(1)の異常品を検出する制御であってもよい。
【0033】
図3に示す装置は、上記の知見に基づき予張力付与装置に不良品(リンク(11)の抜け)の検査機能を追加したもので、周長増加量演算手段(45)および判定手段(46)が不良品の検査装置を構成する部分となっている。この実施形態では、予張力付与工程における動力伝達チェーン(1)の周長を利用して、不良品かどうかが判定される。具体的には、予張力が一定値に到達した後、所定時間動力伝達チェーン(1)の周長を測定して、動力伝達チェーン(1)の周長の増加量(傾きθ)を演算し、時間とともに動力伝達チェーン(1)の周長が増加し続ける(θ>0の)場合に、不良品であると判定する。これにより、目視によるリンク(11)の抜けの判定に頼らずに済み、確実にリンク(11)の抜けを検出することができる。
【符号の説明】
【0034】
(1):動力伝達チェーン、(2)(3):プーリ、(11):リンク、(14):第1ピン、(15):第2ピン、(31):予張力付与装置、(32):予張力付与用第1プーリ、(33):予張力付与用第2プーリ、(37):荷重センサ(予張力測定手段)、(38):位置センサ(周長測定手段)、(45):周長増加量演算手段、(46):判定手段