特許第5929566号(P5929566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5929566液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929566
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20160526BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20160526BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20160526BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20160526BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08L79/08 Z
   C08K5/3435
   C08K5/13
   C08G73/10
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-149744(P2012-149744)
(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公開番号】特開2013-127597(P2013-127597A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2015年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-250318(P2011-250318)
(32)【優先日】2011年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】内山 克博
(72)【発明者】
【氏名】野口 峻一
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−070160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体(a)と、
B)酸化防止剤(b)と、
C)1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン及び下記式(1)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の溶剤(c)と、
を含有する液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−を含む1価の基であり、RとRとが互いに結合して環構造を形成してもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。)
【請求項2】
前記溶剤(c)の含有量が、溶剤全体の5重量%以上である請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体(a)が、前記テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物のうちの少なくともいずれかを含む化合物を用いて合成される請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記酸化防止剤(b)が、ヒンダードアミン構造を有する化合物及びヒンダードフェノール構造を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子に関し、詳しくは、印刷性が良好であって、かつ長時間駆動後において電気特性が良好な液晶表示素子を得るための液晶配向剤、並びに当該液晶配向剤を用いて作製される液晶配向膜及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、TNモード、IPSモード、FFSモードといった水平配向型、VAモードといった垂直配向型のものが知られている。これら液晶表示素子は、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。液晶配向膜の材料としては、耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などの各種特性が良好である点から、ポリアミック酸やポリイミドが一般に使用されている。
【0003】
また近年、液晶表示素子は、従来のようにパーソナルコンピュータ等の表示端末に使用されるだけでなく、例えば液晶テレビや、カーナビゲーションシステム、携帯電話、スマートフォン、インフォメーションディスプレイなど多種の用途で使用されている。このような多用途化に伴い、液晶表示素子は、駆動時間などの点において従来のものよりも過酷な条件下で使用されることがある。したがって、液晶表示素子としては、長時間の連続駆動を行った場合にも表示品位の低下が少ない(電気特性の低下が少ない)ことが求められており、そのような液晶表示素子を得るための液晶配向剤が種々提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−97188号公報
【特許文献2】特開2010−156934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液晶表示素子においても他の高分子素材と同様に、使用とともに劣化することは避けられない。また、劣化の中でも、紫外線や熱などのエネルギがきっかけとなって生じる酸化劣化は特に深刻である。一方、近年、例えばインフォメーションディスプレイなどのように液晶表示素子が長時間駆動されることが多く、この場合、酸化劣化が進むことにより、液晶表示素子の電気特性が低下して表示品位の低下を招きやすくなる。そこで、液晶表示素子の酸化劣化を抑制するべく、液晶配向剤中に添加剤として酸化防止剤を含有させることが考えられる。しかしながら、液晶配向剤中に酸化防止剤を含有させた場合、印刷性が低下するといった不都合が生じてしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、印刷性が良好であるとともに、長時間の駆動後でも電気特性を良好に維持可能な液晶表示素子を得ることができる液晶配向剤、並びに当該液晶配向剤を用いて作製される液晶配向膜及び液晶表示素子を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を達成すべく鋭意検討した結果、重合体成分及び酸化防止剤を特定の溶剤に溶解させて液晶配向剤を調製することにより上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子が提供される。
【0008】
本発明は一つの側面において、A)テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体(a)と、B)酸化防止剤(b)と、C)1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン及び下記式(1)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の溶剤(c)と、を含有する液晶配向剤を提供する。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−を含む1価の基であり、RとRとが互いに結合して環構造を形成してもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0009】
本発明の液晶配向剤によれば、酸化防止剤(b)を含むことにより、当該液晶配向剤を用いて作製された液晶表示素子において、液晶中や液晶配向膜中に発生したペルオキシラジカルやヒドロペルオキシドを補足又は分解することが可能である。これにより、液晶表示素子の酸化劣化を抑制することができ、液晶表示素子を長時間駆動した後にも電気特性を良好に維持することができる。また特に、本発明の液晶配向剤は、特定の溶剤(c)を使用しているため、酸化防止剤を含んでいても印刷性が良好である。
【0010】
本発明の液晶配向剤の一つの態様としては、前記溶剤(c)の含有量が、溶剤全体の5重量%以上である。この場合、印刷性をより良好にすることができる。
また、他の一つの態様としては、前記テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物のうちの少なくともいずれかを含む化合物を好ましく用いることができる。テトラカルボン酸二無水物が上記特定の化合物である場合、溶剤(c)に対する重合体(a)の溶解性がより良好となり、印刷性をより良好にすることができる。
【0011】
本発明の液晶配向剤の一つの態様としては、前記酸化防止剤(b)が、ヒンダードアミン構造を有する化合物及びヒンダードフェノール構造を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。酸化防止剤として上記の特定の化合物を用いることにより、液晶表示素子の長時間駆動による電気特性の低下をできるだけ抑制することができる。
【0012】
また、本発明は一つの側面において、上記に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜、及び当該液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供する。当該液晶配向膜を具備する液晶表示素子では、長時間駆動後にも電気特性を良好に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体(a)と、酸化防止剤(b)とを含有するものであり、当該重合体(a)及び酸化防止剤(b)が溶剤に溶解されてなる。以下、本発明の液晶配向剤について詳細に説明する。
【0014】
・重合体(a)について
<ポリアミック酸>
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明におけるポリアミック酸を合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、
脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、上記テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
ポリアミック酸を合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物としては、溶剤に対する溶解性が良好である点において、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであるのが好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、印刷性が良好である点において、特に、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0016】
上記テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物の少なくともいずれかを含む場合、それら化合物の合計の含有量は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20〜100モル%であることがより好ましく、50〜100モル%であることが更に好ましい。
【0017】
[ジアミン]
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用するジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらのジアミンは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。ここで、ジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
【0018】
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−6−アミン、3,5−ジアミノ安息香酸、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4−ジアミノ−N,N―ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン、及び下記式(A−1)
【化2】
(式中、XI及びXIIは、それぞれ、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、Rは、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、nは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などを;
【0019】
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0020】
上記式(A−1)における「−X−(R−XII−」で表される2価の基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基、*−O−、*−COO−又は*−O−C−O−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。基「−C2c+1」の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、基「X」に対して2,4−位又は3,5−位にあることが好ましい。
【0021】
上記式(A−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(A−1−1)〜(A−1−3)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
【化3】
【0022】
本発明におけるポリアミック酸を合成する際に用いられるジアミンは、芳香族ジアミン(アミノ基が芳香環に結合しているジアミン)を、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、80モル%以上含むものであることが特に好ましい。
【0023】
また、垂直配向型用の液晶配向剤に含有されるポリアミック酸を合成する場合、良好な垂直配向性を付与するべく、上記他のジアミンとしてプレチルト成分を有するものを用いるとよい。このようなプレチルト成分を有するジアミンとして具体的には、例えばドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、上記式(A−1)で表されるジアミン等を挙げることができる。なお、プレチルト成分を有するジアミンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
プレチルト成分を有するジアミンは、その合計量が、全ジアミンに対して5モル%以上含むものであることが好ましく、10モル%以上含むことがより好ましい。
【0024】
[分子量調節剤]
ポリアミック酸を合成するに際して、上記の如きテトラカルボン酸二無水物及びジアミンとともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成することとしてもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)をさらに改善することができる。
【0025】
分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。これらの具体例としては、酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを;
モノアミン化合物として、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミンなどを;
モノイソシアネート化合物として、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを、それぞれ挙げることができる。
【0026】
分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100重量部に対して、20重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下とすることがより好ましい。
【0027】
<ポリアミック酸の合成>
本発明におけるポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましい。
【0028】
ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール及びその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。
これら有機溶媒の具体例としては、上記非プロトン性極性溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、下記式(1)で表される化合物などを;
上記フェノール誘導体として、例えば、m−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;
上記アルコールとして、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを;
上記ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;
上記エステルとして、例えば、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルなどを;
上記エーテルとして、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランなどを;
上記ハロゲン化炭化水素として、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを;
上記炭化水素として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルなどを、それぞれ挙げることができる。
【0029】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒並びにフェノール及びその誘導体よりなる群(第一群の有機溶媒)から選択される一種以上、又は、第一群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第二群の有機溶媒)から選択される一種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第二群の有機溶媒の使用割合は、第一群の有機溶媒及び第二群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。
有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1〜50重量%になるような量とすることが好ましい。
【0030】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0031】
<ポリイミド及びポリイミドの合成>
本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミドは、上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0032】
上記ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造が併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるポリイミドは、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、50〜99%であることがより好ましく、60〜99%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0033】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち、後者の方法によることが好ましい。
【0034】
上記ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間であり、より好ましくは2.0〜30時間である。
【0035】
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0036】
<重合体の溶液粘度>
以上のようにして得られるポリアミック酸及びポリイミドは、これを濃度10重量%の溶液としたときに、10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0037】
・酸化防止剤(b)について
本発明の液晶配向剤は、添加剤として酸化防止剤(b)を含有する。酸化防止剤(b)は、紫外線や熱などのエネルギがきっかけとなって発生したペルオキシラジカルやヒドロペルオキシドを無効化するラジカル補足剤又は過酸化物分解剤として機能する。このような酸化防止剤(b)を液晶配向膜中に含有させることにより、液晶表示素子の長時間の使用に伴い、液晶表示素子の液晶中や液晶配向膜中にペルオキシラジカル又はヒドロペルオキシドが発生した場合に、これらを無効化し、ペルオキシラジカル等による液晶表示素子の電気特性の低下を抑制するようにしている。
【0038】
ここで、酸化防止剤(b)としては、例えば、ヒンダードアミン構造を有する化合物、ヒンダードフェノール構造を有する化合物、アルキルホスフェート構造を有する化合物(リン系酸化防止剤)、チオエーテル構造を有する化合物(イオウ系酸化防止剤)、これらの混合物(ブレンド系酸化防止剤)などが挙げられる。
【0039】
使用する酸化防止剤(b)としては、上記の中でも、ヒンダードアミン構造を有する化合物、ヒンダードフェノール構造を有する化合物又はそれらの混合物(以下、特定の酸化防止剤とも言う。)であることが好ましい。このような特定の酸化防止剤を使用した場合、それ以外の酸化防止剤(例えば、リン系酸化防止剤やイオウ系酸化防止剤)を使用する場合に比べて、液晶表示素子の長時間駆動後において、液晶表示素子の電気特性を良好に維持することができる。つまり、液晶表示素子の耐光性をより向上させることができる。
具体的には、ヒンダードアミン構造を有する化合物として下記式(d1)で表される化合物を、ヒンダードフェノール構造を有する化合物として下記式(d2)で表される化合物を好適に使用することができる。
【化4】
(式(d1)中、Rは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基、1,3−ジオキソブチル基又は1,4−ジオキソブチル基である。但し、Rは、当該Rが有する水素原子の1つを取り除いた2価の基として分子鎖の一部を形成していてもよい。R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数7〜13のアラルキル基である。Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、**−(CH−O−(nは1〜4の整数)又は**−CONH−であり、X〜Xは、それぞれ独立して単結合、カルボニル基、**−CH−CO−又は**−CH−CH(OH)−である。但し、**は、ピペリジン環と結合する結合手を示す。*は結合手を示す。)
【化5】
(式(d2)中、Rは、炭素数4〜16の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に「−O−」及び「−S−」のうちの少なくともいずれかを含む基である。R10は、水素原子又は炭素数1〜16の炭化水素基であり、aは、0〜3の整数である。但し、aが2又は3の場合、複数のR10は独立して上記定義を有する。*は結合手を示す。)
【0040】
上記式(d1)のRについて、炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等を挙げることができる。
炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、3−クロロ−4−メチルフェニル基、4−ピリジニル基、2−フェニル−4−キノリニル基、2−(4’−t−ブチルフェニル)−4−キノリニル基、2−(2’−チオフェニル)−4−キノリニル基等を;
炭素数7〜13のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基等を;それぞれ挙げることができる。
〜Rの炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基及び炭素数7〜13のアラルキル基としては、上記Rの説明において、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基及び炭素数7〜13のアラルキル基として例示したものをそれぞれ挙げることができる。
【0041】
上記式(d1)において「−X−R」で表される基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、オクチルオキシ基、ホルミル基、アセチル基、フェニル基、ベンジル基、1,3−ジオキソブチル基、1,4−ジオキソブチル基、4−ピリジニルカルボニル基、ベンゾイル基、2−フェニル−4−キノリニル基、2−(4’−t−ブチルフェニル)−4−キノリニル基、2−(2’−チオフェニル)−4−キノリニル基、式「−CONH−Ph(但し、Phはフェニル基、3−フルオロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基又は3−クロロ−4−メチルフェニル基である)」で表される基等が挙げられる。
【0042】
なお、Rは、炭素原子が有する水素原子の1つを取り除いた2価の基として分子鎖の一部を形成していてもよい。この場合、「−X−R」で表される2価の基としては、「−X−R」で表される基の説明において例示した1価の基の各々において、炭素原子が有する水素原子の1つを取り除いたものを挙げることができる。
【0043】
上記式(d1)において「−X−R」、「−X−R」、「−X−R」、「−X−R」で表される基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、ベンゾイル基、4−ホルミルベンゾイル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エチル基等が挙げられる。なお、「−X−R」、「−X−R」、「−X−R」及び「−X−R」は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0044】
上記式(d2)のRについて、炭素数4〜16の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などを挙げることができる。具体的には、脂肪族炭化水素基として、例えば上記Rの説明で炭素数4〜16のアルキル基として例示したものを;脂環式炭化水素基として、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基等、アダマンチル基、トリシクロデカニル基等を;芳香族炭化水素基として、例えばフェニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ベンジル基、フェネチル基等を;それぞれ挙げることができる。また、Rは、上記例示した炭素数4〜16の炭化水素基の炭素−炭素結合間に、「−O−」及び「−S−」のうちの少なくともいずれかを1つ以上含む1価の基であってもよい。
の好ましい具体的としては、例えばt−ブチル基、1−メチルペンタデシル、1−エチルペンタデシル、オクチルチオメチル基、デシルチオメチル基、ドデシルチオメチル基、テトラデシルチオメチル基等が挙げられる。
【0045】
10の炭素数1〜16の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等のほか、上記Rの説明で例示した基を挙げることができる。
10の結合位置は特に限定しないが、フェノール性水酸基に対してオルト位であるか又はRに対してパラ位であることが好ましく、前者がより好ましい。
10の好ましい具体例としては、例えばメチル基、エチル基、t−ブチル基、1−メチルペンタデシル、1−エチルペンタデシル等が挙げられる。
【0046】
酸化防止剤(b)としては市販品を用いることもできる。この場合の具体例としては、アミン構造を有する化合物の市販品として、例えばアデカスタブLA−52、LA−57、LA−63、LA−68、LA−72、LA−77、LA−81、LA−81、LA−82、LA−87、LA−402、LA−502(以上、ADEKA製)、CHIMASSORB119、CHIMASSORB2020、CHIMASSORB944、TINUVIN622、TINUVIN123、TINUVIN144、TINUVIN765、TINUVIN770、TINUVIN111、TINUVIN783、TINUVIN791(以上、BASFジャパン製)等を;
フェノール構造を有する化合物の市販品として、例えばアデカスタブAO−20、同AO−30、同AO−40、同AO−50、同AO−60、同AO−80、同AO−330(以上、ADEKA製)、IRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGAOX1076、IRGANOX1098、IRGANOX1135、IRGANOX1330、IRGANOX1726、IRGANOX1425、IRGANOX1520、IRGANOX245、IRGANOX259、IRGANOX3114、IRGANOX3790、IRGANOX5057、IRGANOX565、IRGAMOD295(以上、BASFジャパン製)等を;
【0047】
リン系酸化防止剤の市販品として、例えばアデカスタブPEP−4C、同PEP−8、同PEP−36、HP−10、2112(以上、ADEKA製)、IRGAFOS168、GSY−P101(以上、堺化学工業製)、IRGAFOS168、IRGAFOS12、IRGAFOS126、IRGAFOS38、IRGAFOS P−EPQ(以上、BASFジャパン製)等を;
イオウ系酸化防止剤の市販品として、例えばアデカスタブAO−412、同AO−503(以上、ADEKA製)、IRGANOX PS 800、IRGANOX PS 802(以上、BASFジャパン製)等を;
ブレンド系酸化防止剤の市販品として、例えばアデカスタブA−611、同A−612、同A−613、同AO−37、同AO−15、同AO−18、328(以上、ADEKA製)、TINUVIN111、TINUVIN783、TINUVIN791(以上、BASFジャパン製)等を;挙げることができる。なお、酸化防止剤(b)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
酸化防止剤(b)の含有割合としては、液晶表示素子の酸化劣化の抑制と印刷性の向上とを両立させる観点から、重合体(a)の100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部であり、より好ましくは0.01〜5重量部であり、特に好ましくは0.1〜3重量部である。
【0049】
・溶剤について
本発明の液晶配向剤は、上記重合体(a)と酸化防止剤(b)とが溶剤中に溶解されて構成される。かかる溶剤として、本発明の液晶配向剤は、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン及び下記式(1)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の溶剤(c)を含んでいる。当該溶剤(c)はいずれも、ポリアミック酸やポリイミドに対する溶解性が高く、かつ沸点が高い。このような溶剤(c)を用いることにより、液晶配向剤の基板への印刷中において、印刷機上からの溶剤の揮発を抑制することができ、印刷機上に重合体成分や酸化防止剤が析出しにくくなる結果、印刷性を良好にできる。
【化6】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−を含む1価の基であり、RとRとが互いに結合して環構造を形成してもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0050】
式(1)のR及びRにおける炭素数1〜6の炭化水素基としては、飽和でも不飽和でもよい。また、R及びRは、炭素数1〜6の炭化水素基の炭素−炭素単結合間に「−O−」を含むものであってもよい。R及びRの具体例としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基のほか、これらの基の炭素−炭素結合間に「−O−」を含む基などを挙げることができる。なお、式(1)において、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよい。
ここで、炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
また、脂環式炭化水素基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等を;芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基等を;挙げることができる。
及びRは、互いに結合することにより、R及びRが結合する窒素原子と共に環を形成してもよい。R,Rが互いに結合して形成される環としては、例えばピロリジン環、ピペリジン環等が挙げられる。また、これらの環には、メチル基等の1価の鎖状炭化水素基が結合されていてもよい。
及びRとして好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子又はメチル基である。
の炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的には、上記R及びRの炭素数1〜6のアルキル基の説明で例示した基を挙げることができる。中でも、Rが炭素数1〜4のアルキル基のものを好ましく使用することができる。
【0051】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、イソプロポキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド、n−ブトキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドなどが挙げられる。これらの中でも、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミドを好ましく使用することができる。
【0052】
溶剤(c)としては、上記例示の化合物を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミドのうちの1種又は2種以上組み合わせた溶剤を特に好ましく使用することができる。
溶剤(c)は、印刷中における重合体(a)や酸化防止剤(b)の析出を抑制して印刷性を良好にする観点から、液晶配向剤に含まれる全溶剤に対し、5重量%以上用いることが好ましく、10重量%以上用いることがより好ましい。また、溶剤(c)の含有量の上限について、形成された液晶配向膜中における溶剤の残存量を少なくして電気特性を良好にする観点から、液晶配向剤に含まれる全溶剤に対して、好ましくは90重量%以下であり、より好ましくは70重量%以下であり、更に好ましくは50重量%以下である。
【0053】
本発明の液晶配向剤の調製に使用される溶剤としては、上記の溶剤(c)以外のその他の溶剤を使用することができる。その他の溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0054】
<その他の成分>
本発明の液晶配向剤は、上記の如き重合体(a)、酸化防止剤(b)及び溶剤を含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば、上記特定重合体以外のその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ基含有化合物」という)、官能性シラン化合物等を挙げることができる。
【0055】
[その他の重合体]
上記その他の重合体は、溶液特性や電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体としては、例えばポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
その他の重合体を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、該組成物中の全重合体量に対して50重量%以下が好ましく、0.1〜40重量%がより好ましく、0.1〜30重量%が更に好ましい。
【0056】
[エポキシ基含有化合物]
エポキシ基含有化合物は、液晶配向膜における基板表面との接着性を向上させるために使用することができる。ここで、エポキシ基含有化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を好ましいものとして挙げることができる。その他、エポキシ基含有化合物の例としては、国際公開第2009/096598号記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサンも用いることができる。
これらエポキシ化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して40重量部以下が好ましく、0.1〜30重量部がより好ましい。
【0057】
[官能性シラン化合物]
上記官能性シラン化合物は、液晶配向剤の印刷性を向上させるために使用することができる。このような官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
これら官能性シラン化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、重合体の合計100重量部に対して2重量部以下が好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
【0058】
その他の成分としては、上記のほか、分子内に少なくとも一つのオキセタニル基を有する化合物(以下、「オキセタニル基含有化合物」)などを挙げることができる。当該オキセタニル基含有化合物として具体的には、例えば1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(アロンオキセタンOXT−121(XDO))、ジ[2−(3−オキセタニル)ブチル]エーテル(アロンオキセタンOXT−221(DOX))、1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(HQOX)などが挙げられる。
【0059】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、このとき、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得ることができない。一方、固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得ることができず、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
【0060】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法
による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは20〜30℃である。
【0061】
<液晶配向膜及び液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備するものである。本発明の液晶表示素子は、IPS型やTN型、STN型、FFS型といった水平配向型の動作モードに適用してもよいし、VA型のような垂直配向型の動作モードに適用してもよい。
【0062】
以下に、本発明の液晶表示素子の製造方法を説明するとともに、その説明の中で本発明の液晶配向膜の製造方法についても説明する。本発明の液晶表示素子は、例えば以下の(1)〜(3)の工程により製造することができる。工程(1)は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程(2)及び(3)は各動作モードに共通である。
【0063】
[工程(1):塗膜の形成]
先ず基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。
【0064】
(1−1)TN型、STN型又はVA型液晶表示素子を製造する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布し、次いで、各塗布面を加熱(好ましくは予備加熱(プレベーク)及び焼成(ポストベーク)からなる二段階加熱)することにより塗膜を形成する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面及び透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0065】
液晶配向剤の塗布後、塗布した配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は好ましくは0.25〜10分であり、より好ましくは0.5〜5分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。この焼成(ポストベーク)温度は、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃である。ポストベーク時間は好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。このようにして、形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0066】
(1−2)IPS型又はFSS型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板の電極形成面と、電極が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤をそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。このとき使用される基板及び透明導電膜の材質、塗布方法、塗布後の加熱条件、透明導電膜又は金属膜のパターニング方法、基板の前処理ならびに形成される塗膜の好ましい膜厚については上記(1−1)と同様である。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。
【0067】
上記(1−1)及び(1−2)のいずれの場合も、基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって配向膜となる塗膜が形成される。このとき、本発明の液晶配向剤に含有される重合体が、ポリアミック酸であるか、又はイミド環構造とアミック酸構造とを有するイミド化重合体である場合には、塗膜形成後に更に加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
【0068】
[工程(2):ラビング処理]
TN型、STN型、IPS型又はFFS型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜を、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理を施す。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。一方、VA型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対しラビング処理を施してもよい。
【0069】
さらに、上記のように形成された液晶配向膜に対し、液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成した上で先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにしてもよい。この場合、得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
【0070】
[工程(3):液晶セルの構築]
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。ここで、塗膜に対してラビング処理を行った場合には、2枚の基板は、各塗膜におけるラビング方向が互いに所定の角度、例えば直交又は逆平行となるように対向配置される。
【0071】
液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外光硬化性のシール材を塗布し、さらに液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。
いずれの方法による場合でも、上記のようにして製造した液晶セルにつき、さらに、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0072】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、添加して使用してもよい。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0073】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビやインフォメーションディスプレイなどの表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0075】
合成例における各重合体溶液の溶液粘度及びポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度[mPa・s]は、所定の溶媒を用い、重合体濃度10重量%に調製した溶液について、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH−NMRを測定した。得られたH−NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1−A/A×α)×100 …(1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0076】
<重合体(a)の合成>
[重合例1:ポリイミド(PI−1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA)22.4g(0.1モル)、ジアミンとしてp−フェニレンジアミン(PDA)2.2g(0.02モル)、3,5−ジアミノ安息香酸(DAB)7.6g(0.05モル)、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル(HCDA)10.5g(0.02モル)及びコレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン(HCODA)4.9g(0.01モル)、をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)190gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液について、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は88mPa・sであった。
【0077】
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMP442gを追加し、ピリジン11.9g及び無水酢酸15.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換(本操作によって脱水閉環反応に使用したピリジン及び無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約65%のポリイミド(PI−1)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は55mPa・sであった。
【0078】
[重合例2:ポリイミド(PI−2)の合成]
テトラカルボン酸二無水物としてTCA22.5g(0.1モル)、ジアミンとしてPDA4.3g(0.04モル)、DAB3.1g(0.02モル)、HCDA5.2g(0.01モル)及びHCODA14.9g(0.03モル)、をNMP200gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液について、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
【0079】
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMP464gを追加し、ピリジン7.9g及び無水酢酸10.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約51%のポリイミド(PI−2)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は39mPa・sであった。
【0080】
[重合例3:ポリイミド(PI−3)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物(BODA)24.9g(0.10モル)、ジアミンとしてPDA2.2g(0.02モル)、DAB7.6g(0.05モル)、HCDA10.4g(0.02モル)及びHCODA4.9g(0.01モル)、をNMP200gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液について、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は70mPa・sであった。
【0081】
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMP464gを追加し、ピリジン11.8g及び無水酢酸15.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約63%のポリイミド(PI−3)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は53mPa・sであった。
【0082】
[重合例4:ポリイミド(PI−4)の合成]
テトラカルボン酸二無水物としてTCA22.4g(0.10モル)、ジアミンとしてPDA6.5g(0.06モル)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DDM)4.0g(0.02モル)、HCDA5.2g(0.01モル)及びHCODA4.9g(0.01モル)、をNMP172gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液について、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は101mPa・sであった。
【0083】
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMP400gを追加し、ピリジン10.3g及び無水酢酸13.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約55%のポリイミド(PI−4)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は65mPa・sであった。
【0084】
[重合例5:ポリイミド(PI−5)の合成]
NMPに代えて1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)を用いた以外は、上記重合例1と同様にしてポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液について、DMIを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は90mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液を用いてポリイミドの合成を行った。合成は、NMPに代えてDMIを用いた以外は、上記重合例1と同様にして行い、これによりイミド化率約66%のポリイミド(PI−5)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、DMIを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は56mPa・sであった。
【0085】
[重合例6:ポリイミド(PI−6)の合成]
NMPに代えてN−エチル−2−ピロリドン(NEP)を用いた以外は、上記重合例2と同様にしてポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液について、NEPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は59mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液を用いてポリイミドの合成を行った。合成は、NMPに代えてNEPを用いた以外は、上記重合例2と同様にして行い、これによりイミド化率約49%のポリイミド(PI−6)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NEPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は38mPa・sであった。
【0086】
<液晶配向剤の調製>
[実施例1]
合成したポリイミド(PI−1)100重量部を含有する溶液に、酸化防止剤としてIRGANOX1010(BASFジャパン社製)をポリイミド(PI−1)100重量部に対して3重量部、溶剤としてNMP、エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル(BC)及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)を加え、溶媒組成がNMP:BC:DMI=30:50:20(重量比)、固形分濃度6.5重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより液晶配向剤を調製した。
[実施例2〜14、比較例1〜7]
使用するポリイミド、酸化防止剤及び溶剤組成をそれぞれ下記表1に記載のとおり変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により液晶配向剤をそれぞれ調製した。
【0087】
<印刷性の評価>
上記で調製したそれぞれの液晶配向剤につき印刷性について評価した。評価は以下のようにして行った。まず、調製した液晶配向剤の各々につき、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷機株式会社製、オングストローマー形式「S40L−532」)を用いて、アニロックスロールへの液晶配向剤の滴下量を往復20滴(約0.2g)の条件にて、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布した。基板への塗布は、1分間隔で新しい基板を用いながら20回実施した。
続いて、液晶配向剤を1分間隔でアニロックスロール上にディスペンス(片道)し、その都度、アニロックスロールと印刷版とを接触させる作業(以下、空運転という)を合計10回行った(この間、ガラス基板への印刷は行わない)。なお、この空運転は、液晶表示素子の通常の製造プロセスにおいて行われるものではなく、液晶配向剤の基板への印刷を意図的に過酷な状況下で実施するようにするために行った操作である。
【0088】
10回の空運転の後、ガラス基板を用いて本印刷を行った。本印刷では、空運転後、基板を30秒間隔で5枚投入し、液晶配向剤を塗布した後のそれぞれの基板を80℃で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、200℃で10分間加熱(ポストベーク)して、膜厚約80nmの塗膜を形成した。この塗膜のパターンエッジ部分(印刷パターンの外周部分)を倍率20倍の顕微鏡で観察することにより印刷性を評価した。評価は、空運転後の本印刷1回目から析出物(ポリイミド及び酸化防止剤と思われる)が観察されない場合を優良(○)、空運転後の本印刷1回目では析出物が観察されるが、本印刷を5回実施する間に析出物が観察されなくなる場合を良好(△)、本印刷を5回繰り返した後においても析出物が観察される場合を不良(×)として行った。その評価結果を下記表1に示す。なお、印刷性が良好な液晶配向剤では、連続で基板を投入している間に析出物が良化(消失)することが実験により分かっている。
また、空運転の回数をそれぞれ15回、20回、25回に変更した以外は上記と同様の操作を行うことにより液晶配向剤の印刷性を評価した。その評価結果について下記表1に併せて示す。
【0089】
<液晶表示素子の製造>
[製造例1]
厚さ1mmのITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に、上記で調製した実施例1の液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、ホットプレートにて80℃で1分間プレベークを行った。次いで、プレベーク後の基板を210℃にて30分間ポストベークした。これにより、膜厚約80nmの液晶配向膜を形成した。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。次に、上記一対の基板のうちの一方において、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム玉入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネマチック液晶(メルク製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより液晶セルを製造した。
[製造例2〜14、比較製造例1〜7]
使用する液晶配向剤を実施例2〜14、比較例1〜7のものに変更した以外は、上記製造例1と同様の方法により液晶セルをそれぞれ製造した。
【0090】
<耐光性の評価>
上記製造した各液晶セルについて、70℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を、東陽テクニカ製VHR−1により測定した。この値を初期電圧保持率VHR1[%]とした。次いで、VHR1測定後の液晶セルに対し、カーボンアークを光源とするウェザーメータを用いて650時間の光照射を行った。光照射後の液晶セルにつき、上記と同様の方法により電圧保持率を測定した。この値を光照射後電圧保持率VHR2[%]とした。光照射の前後における電圧保持率の低下量ΔVHR[%]を下記式(2)から求め、ΔVHRにより耐光性を評価した。その結果を下記表1に示す。なお、ΔVHRが小さいほど耐光性が良好であることを示す。
ΔVHR[%]=VHR1−VHR2 …(2)
【0091】
【表1】
【0092】
なお、表1における溶剤組成の記号及び酸化防止剤の記号は、それぞれ以下の意味である。
a:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)
b:エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル(BC)
c:γ−ブチロラクトン(GBL)
d:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)
e:N−エチル−2−ピロリドン(NEP)
f:3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド
g:3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド
F−1:IRGANOX1010(フェノール系酸化防止剤)
F−2:アデカスタブLA−72(アミン系酸化防止剤)
F−3:TINUVIN622(アミン系酸化防止剤)
F−4:IRGAFOS12(リン系酸化防止剤)
F−5:IRGANOX PS 800(イオウ系酸化防止剤)
F−6:アデカスタブAO−40(フェノール系酸化防止剤)
【0093】
表1に示すように、実施例の液晶配向剤を用いたものではいずれも、液晶表示素子の耐光性が良好であった。中でも、酸化防止剤としてヒンダードアミン系又はヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いたもの(実施例1〜4、6、8〜14)では、長時間の光照射の前後において電圧保持率の低下量が2.1〜3.1%と少なく、耐光性が特に良好であった。
また、印刷性について、実施例の液晶配向剤では、10回の空回転後の本印刷において1回目から析出物が観察されなかった。また、空運転の回数を20回、25回に増やした場合には、本印刷1回目では析出物が観察されたものの5回の本印刷が終わるまでの間に析出物が消失した。これらのことから、実施例の液晶配向剤は、印刷中に析出物が発生しにくく、印刷性が良好であることが分かった。
これに対し、比較例のうち、酸化防止剤を含まないもの(比較例1、2、5)では、印刷性は良好であるものの、長時間の光照射による電圧保持率の低下量が9.3〜12.3%と大きく、耐光性がさほど良好でなかった。また、酸化防止剤を含むが溶剤(c)を含まないもの(比較例3、4、6、7)では、10回の空回転後の本印刷において析出物が観察され、また、空運転の回数を15回に増やすと、5回の本印刷の全てにおいて析出物が観察されており、印刷性がさほど良好でなかった。