(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内歯車と、前記内歯車と噛合する2枚の外歯歯車と、前記両外歯歯車を支持するクランク軸と、前記両外歯歯車の回転に連動して回転するキャリヤとを備え、前記クランク軸は、その軸線周りに180度だけ位相をずらしてかつ前記クランク軸の回転中心から偏心して配置された第1及び第2の円筒カム部を有し、前記両外歯歯車は、第1及び第2の円筒カム部によりそれぞれ回転可能にかつ内歯車の軸線周りに公転可能に支持され、前記キャリヤは、その軸線周りに等間隔に固定された複数の出力ピンを有し、前記各出力ピンは、前記両外歯歯車に設けられた複数の貫通穴と係合することにより前記両外歯歯車の自転運動と連動し、前記クランク軸を入力軸として前記内歯車及び前記キャリヤのいずれか一方を出力軸としてそれぞれ回転させる偏心揺動型減速機において、
前記クランク軸は、その軸線方向に沿って延びると共に互いに連通する第1及び第2の偏心穴を有し、
前記第1の偏心穴は、前記クランク軸の第1の端面から前記クランク軸の軸線方向の中央位置へと延び、かつ前記第1の円筒カム部と同じ方向に偏心して配置され、
前記第2の偏心穴は、前記クランク軸の第2の端面から前記クランク軸の軸線方向の中央位置へと延び、かつ前記第2の円筒カム部と同じ方向に偏心して配置されるとともに、
前記クランク軸の両端面にそれぞれ設けられ、前記第1及び第2の偏心穴の開口周縁に設けられる軸端部面取りと、
前記第1及び第2の偏心穴の連通部に設けられ、前記第1の円筒カム部に近接する部分と前記第2の円筒カム部に近接する部分とにそれぞれ傾斜面として設けられる連通部面取りと、
を備え、
前記クランク軸の軸線と直交する軸線周りにおいて、前記軸端部面取りによる偶力と前記連通部面取りによる偶力とが均衡するよう、前記軸端部面取り及び前記連通部面取りが設定されている偏心揺動型減速機。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の偏心揺動型減速機をロボットアームの関節部に用いた一実施形態について、
図1〜
図9(a),(b)に基づき説明する。
【0021】
<減速機の構成>
図1に示すように、偏心揺動型の減速機1は、第1アーム41と、第2アーム42との間に設けられている。減速機1は、筒状のハウジング2、及び一対の側板4,8を備えている。ハウジング2は、第1アーム41に固定されている。側板4は、第1アーム41に面するハウジング2の端部に対し、軸受10を介して回転自在に支持されている。側板8は、第2アーム42に面するハウジング2の端部に対し、軸受14を介して回転自在に支持されている。ハウジング2の中心部には、2つの側板4,8を介して、クランク軸3が支持されている。側板4には、軸受11が保持されている。側板8には、軸受15が保持されている。クランク軸3は、両軸受11,15を介して、両側板4,8に対し回転自在に支持されている。
【0022】
クランク軸3の中央には、円筒状の2つのカム部31,32が一体形成されている。
図2に示すように、各カム部31,32は、クランク軸3の回転軸心a
1から偏心量e
1だけ偏心してそれぞれ配置されている。カム部31は、回転軸心a
1に対し、カム部32とは反対方向(
図1中の上下方向)に偏心して配置されている。
図3に示すように、カム部31は、クランク軸3の回転軸心a
1周りに、カム部32から180度だけ位相をずらして配置されている。
図3中、カム部31は、回転軸心a
1に対して上方にずれて配置されている。カム部32は、回転軸心a
1に対して下方にずれて配置されている。
【0023】
図1に示すように、カム部31の外周面には、外歯歯車5が、軸受12を介して回転自在に支持されている。カム部32の外周面には、外歯歯車6が、軸受13を介して回転自在に支持されている。
図4に示すように、外歯歯車5には、複数の貫通穴51が形成されている。外歯歯車6には、複数の貫通穴61が形成されている。各貫通穴51は、クランク軸3の回転軸心a
1から偏心量e
1だけ偏心した外歯歯車5の回転軸心周りに、等間隔を置いてそれぞれ配置されている。また、各貫通穴61は、クランク軸3の回転軸心a
1から偏心量e
1だけ偏心した外歯歯車6の回転軸心周りに、等間隔を置いてそれぞれ配置されている。貫通穴51,61の各軸線は、クランク軸3の回転軸心a
1と平行である。
【0024】
図1に示すように、側板4は、複数の出力ピン7を保持している。出力ピン7の数は、貫通穴51,61の数と同じである。
図4に示すように、各出力ピン7は、クランク軸3の回転軸心a
1周りに等間隔でそれぞれ配置されている。
図1に示すように、各出力ピン7の軸線も、クランク軸3の回転軸心a
1と平行である。各出力ピン7は、外歯歯車5,6の貫通穴51,61を貫通している。各出力ピン7の先端面は、側板8の内面に当接されている。側板8には、ボルト16が、外方から挿入されている。各出力ピン7は、ボルト16により締め付けられことで、側板8に対し固定されている。
【0025】
図4に示すように、ハウジング2の内周面には、内歯車21が形成されている。
図4の二点鎖線で示すように、外歯歯車5,6は、内歯車21と1箇所で噛合するようなピッチ円径を有している。クランク軸3の回転に伴い、外歯歯車5,6は、内歯車21と噛合しながら、クランク軸3の回転軸心a
1周りをそれぞれ公転する。外歯歯車5,6の公転半径は、クランク軸3の回転軸心a
1からの偏心量e
1と一致する。貫通穴51、61の内径dは、次式(1)により示される。外歯歯車5は、貫通穴51の内周面を出力ピン7の外周面に常時接触させながら回転する。外歯歯車6も、貫通穴61の内周面を出力ピン7の外周面に常時接触させながら回転する
d=2・e
1+D …(1)
e
1はカム部31,32の偏心量であり、Dは出力ピン7の外径である。
【0026】
図1に示すように、モータ40は、ロータ401及びステータ402からなる。ロータ401は、第1アーム41に面するクランク軸3の端部に固定されている。ステータ402は、第1アーム41においてハウジング2との連結部分(連結部)に固定されている。ステータ402は、クランク軸3の回転軸心a
1と同軸に配置されている。クランク軸3は、ステータ402に電流を流すことによって回転する。側板8の外面には、第2アーム42が固定されている。第2アーム42は、側板8の回転に伴い、第2アーム42の軸線周りに旋回する。このとき、モータ40の回転運動が減速機1により減速された旋回速度で、第2アーム42は、第1アーム41に対し旋廻する。
【0027】
<クランク軸>
次に、クランク軸3の形状について詳細に説明する。
【0028】
図2に示すように、クランク軸3は、前述した2つのカム部31,32に加え、円筒部38を備えている。円筒部38の中心は、クランク軸3の回転軸心a
1と一致する。カム部31は、カム部32に対し、回転軸心a
1に沿って間隔L
2だけ離れて配置されている。カム部31,32は、同じ幅L
1、外径D
1を有している。クランク軸3の内部には、互いに連通する2つの偏心穴36,37が形成されている。各偏心穴36,37は、回転軸心a
1に沿ってそれぞれ延びている。
【0029】
図2の右側に示すように、偏心穴36は、第1アーム41に面するクランク軸3の軸端f(第1の端面)から、クランク軸3の軸線に沿って、クランク軸3の中央位置100まで延びている。偏心穴36は、軸端fを基準とした長さL
3を有している。偏心穴36は、回転軸心a
1に対して、カム部31と同じ方向(
図2の上方)に偏心量e
2だけ偏心して配置されている。偏心穴36の内径は、内径d
1として示されている。
【0030】
図2の左側に示すように、偏心穴37は、第2アーム42に面するクランク軸3の軸端g(第2の端面)から、クランク軸3の軸線に沿って、中央位置100まで延びている。偏心穴37は、軸端gを基準とした長さL
3を有している。つまり、偏心穴37の長さは、偏心穴36の長さと同じである。偏心穴37は、回転軸心a
1に対して、カム部32と同じ方向(
図2中の下方)に偏心量e
2だけ偏心して配置されている。偏心穴37の内径は、内径d
1として示されている。偏心穴37の内径も、偏心穴36の内径と同じである。
【0031】
クランク軸3の軸端fには、偏心穴36の開口縁の全周に亘って、面取り34が形成されている。同様に、クランク軸3の軸端gにも、偏心穴37の開口縁の全周に亘って、面取り35が形成されている。偏心穴36と偏心穴37との連通部には、連通部面取り33が形成されている。連通部面取り33は、クランク軸3の内周面において、カム部31に近接する部分(
図2の上部)と、カム部32に近接する部分(
図2の下部)とにそれぞれ形成されている。上側の連通部面取り33は傾斜面であり、中央位置100から軸端gへ向かうに従い偏心穴37の内周面に接近するよう傾斜している。下側の連通部面取り33も傾斜面であり、中央位置100から軸端fへ向かうに従い偏心穴36の内周面に接近するよう傾斜している。
【0032】
クランク軸3の各部の寸法は、次式(2)の関係を満たしている。
【0033】
e
1・D
12・L
1(L
1+L
2)=e
2・d
12・L
32 …(2)
e
1はカム部31,32の偏心量、D
1はカム部31,32の外径、L
1はカム部31,32の幅、L
2はカム部31,32の間隔である。e
2は偏心穴36,37の偏心量、d
1は偏心穴36,37の内径、L
3は偏心穴36,37の長さである。
【0034】
<外歯歯車の動作>
次に、2つの外歯歯車5,6の動作について説明する。
【0035】
図4に示すように、クランク軸3が回転すると、外歯歯車5は、ハウジング2の内歯車21と噛合しながら、クランク軸3の回転軸心a
1周りを公転する。このとき、外歯歯車5の歯数をZ
1、内歯車21の歯数をZ
2とすると、外歯歯車5は、クランク軸3が1回転する毎に、Z
2−Z
1で表される歯数の差だけ、クランク軸3に対して回転する。つまり、外歯歯車5は、ハウジング2に対して偏心量e
1を半径とする円の軌道に沿って1回転だけ公転すると共に、(Z
2−Z
1)/Z
1回転だけ自転する。外歯歯車5の自転運動は、貫通穴51と出力ピン7との接触部を介して、出力軸である側板4,8に伝達される。外歯歯車5と同様に、外歯歯車6の自転運動も、貫通穴61と出力ピン7との接触部を介して、側板4,8に伝達される。本実施形態において、側板4,8は、外歯歯車5,6の自転運動と連動するキャリヤを構成する。
【0036】
例えば、ロボットアームの関節部には、駆動装置が取り付けられている。このような駆動装置には、軽量であること、及び高トルク出力であることが求められる。この場合、小型の駆動モータを高速で回転させ、その回転を大きな減速比で減速させて高トルクを出力可能な偏心揺動型の減速機1が有効である。この種の減速機1では、入力軸であるクランク軸3が高速で回転する。このため、クランク軸3にアンバランスな部分が存在すると、遠心力による変動荷重が軸受11,15に作用する。この変動荷重を低減するには、高精度にクランク軸3のバランスを取る必要がある。
【0037】
<クランク軸のバランス取り>
次に、クランク軸3のバランス取りについて詳細に説明する。まず、クランク軸3を中実軸とした場合について検討する。
【0038】
図6(a)に示すように、クランク軸3が中実軸である場合(偏心穴36,37が無い場合)、クランク軸3に作用する遠心力F
cは次式(3)で表される。
【0039】
F
c=M
c・e
1・ω
2…(3)
M
cはカム部31,32の質量、e
1はカム部31,32の偏心量、ωはカム部31,32の回転速度である。2つのカム部31,32の偏心量e
1,e
1、及び質量M
c,M
cはそれぞれ同じである。
【0040】
また、質量M
cは次式(4)で表される。
【0041】
M
c=ρ・π・D
12・L
1/4 …(4)
ρは中実軸とした場合のクランク軸3の密度、D
1はカム部31,32の外径、L
1はカム部31,32の幅である。
【0042】
従って、式(4)を式(3)に適用すると、遠心力F
cは次式(5)で表される。
【0043】
F
c=ρ・π・D
12・L
1・e
1・ω
2/4 …(5)
前述したように、カム部31,32は、
図6(b)に示すように、カム部31は、クランク軸3の回転軸心a
1の周りに、カム部32から180度だけ位相をずらして配置されている。このため、カム部31による遠心力F
cも、クランク軸3の回転軸心a
1の周りに、カム部32による遠心力F
cから180度だけ位相をずらして作用する。即ち、カム部31による遠心力F
cは、カム部32による遠心力F
cとは反対方向に作用する。
図6(a),(b)の状態では、カム部31による上向きの遠心力F
cと、カム部32による下向きの遠心力F
cとがそれぞれクランク軸3に対し作用している。
【0044】
図6(a)に示すように、カム部31,32による遠心力F
c,F
cの各作用点は、クランク軸3の回転軸心a
1上にそれぞれ配置されている。カム部31による遠心力F
cの作用点は、カム部31の軸方向の中央と対応して配置されている。カム部32による遠心力F
cの作用点は、カム部32の軸方向の中央と対応して配置されている。前述したように、カム部31,32は、クランク軸3の軸方向に沿って間隔L
2だけ離れて配置されている。このため、カム部31,32による遠心力F
c,F
cの作用点は、距離L
1+L
2(=L
1/2+L
2+L
1/2)だけ離れている。即ち、カム部31,32による遠心力F
c,F
cは、距離L
1+L
2だけ離れた2つの作用点にそれぞれ反対方向に、かつ等しい大きさで作用する集中荷重と等しい。
【0045】
このため、クランク軸3に作用する並進力は相殺される。並進力とは、クランク軸3を回転軸心a
1と直交する方向へ直線的に移動させる力を意味する。例えば、
図6(a),(b)は、2つのカム部31,32が上下方向に沿って反対側に配置されている状態を示す。この状態では、
図6(b)に示すように、クランク軸3を軸方向から見たとき、カム部31,32による遠心力F
c,F
cは、クランク軸3の重心、即ち同図に示す回転軸心a
1に作用する。このとき、カム部31による遠心力F
cは、クランク軸3を上方へ並進させる並進力として作用する。カム部32による遠心力F
cは、クランク軸3を下方へ並進させる並進力として作用する。前述したように、カム部31,32による遠心力F
c,F
cはそれぞれ反対方向に、かつ等しい大きさで作用するため、クランク軸3に作用する並進力は差し引きゼロとなる。この場合、クランク軸3の回転軸心a
1周りの力のモーメントは釣り合っている。このため、回転軸心a
1周りのアンバランスは解消される。
【0046】
しかしながら、クランク軸3をカム部31,32の偏心方向(
図6(b)の上下方向)と直交する方向、即ちクランク軸3を
図6(b)の左右方向から見たとき、
図6(a)に示すように、カム部31,32による遠心力F
c,F
cは、クランク軸3に対する偶力として作用する。このため、クランク軸3には、
図6(a)中の左回転方向へ大きさF
c・(L
1+L
2)の偶力のモーメントが作用する。本実施形態では、偶力のモーメントを抑制するため、クランク軸3に偏心穴36,37が形成されている。
【0047】
偏心穴36,37がクランク軸3の遠心力に与える効果は、偏心穴36,37の形状に合致した中実部材に作用する遠心力の効果を差引くことと等価である。中実部材71に作用する遠心力の効果は次の通りである。偏心穴36,37は、回転軸心a
1から同じ偏心量e
2だけ偏心してそれぞれ配置されている。このため、
図7(a)に示すように、中実部材71の偏心穴36に対応する第1の部分72、及び偏心穴37に対応する第2の部分73も、回転軸心a
1に対して同じ偏心量e
2だけ偏心してそれぞれ配置されている。また、第1及び第2の部分72,73の質量M
hも同じである。このため、第1及び第2の部分72,73による遠心力F
hは、次式(6)用いて表される。
【0048】
F
h=M
h・e
2・ω
2…(6)
M
hは第1及び第2の部分72,73の質量、e
2は第1及び第2の部分72,73の回転軸心a
1に対する偏心量、ωは回転速度である。
【0050】
M
h=ρ・π・d
12・L
3/4 …(7)
ρは中実部材の密度である。d
1は、偏心穴36の内径(ここでは、第1及び第2の部分72,73の外径)である。L
3は、偏心穴36,37の回転軸心a
1に沿った長さ(ここでは、第1及び第2の部分72,73の長さ)である。
【0051】
従って、式(7)を式(6)に適用すると、第1及び第2の部分72,73による遠心力F
hは、次式(8)で表される。
【0052】
F
h=ρ・π・d
12・L
3・e
2・ω
2/4 …(8)
前述したように、偏心穴36,37は、回転軸心a
1周りに互いに180度だけ位相をずらして配置されている。このため、
図7(b)に示すように、第1及び第2の部分72,73も、回転軸心a
1周りに互いに180度だけ位相をずらして配置されている。また、偏心穴36,37は、それらの軸方向に隣接すると共に互いに連通している、このため、第1及び第2の部分72,73も、回転軸心a
1に沿って互いに連結された形状を有している。
【0053】
図7(a)に示すように、第1及び第2の部分72,73による遠心力F
h,F
hの各作用点は、クランク軸3の回転軸心a
1上にそれぞれ配置されている。第1の部分72による遠心力F
hの作用点は、第1の部分72の軸方向の中央に対応して配置されている。第2の部分73による遠心力F
hの作用点は、第2の部分73の軸方向の中央に対応して配置されている。このため、第1及び第2の部分72,73による遠心力F
h,F
hの作用点は、長さL
3(=L
3/2+L
3/2)だけ離れている。即ち、第1及び第2の部分72,73による遠心力F
h,F
hは、長さL
3だけ離れた2つの作用点にそれぞれ反対方向に、かつ等しい大きさで作用する集中荷重と等しい。このため、前述したカム部31,32と同様に、中実部材71を軸方向から見たとき、中実部材71に作用する並進力は相殺される。即ち、
図7(b)に示すように、上方に作用する遠心力F
hと下方に作用する遠心力F
hとは相殺される。
【0054】
しかしながら、中実部材71を第1及び第2の部分72,73の偏心方向と直交する方向から見たとき、第1及び第2の部分72,73にそれぞれ作用する遠心力F
h,F
hは、
図7(a)に示すように、中実部材71に対する偶力として作用する。即ち、中実部材71には、
図7(a)中の左回転方向へ大きさF
h・L
3の偶力のモーメントが作用する。従って、偏心穴36,37がクランク軸3の遠心力に与える効果は、
図2中の左回転方向へ向けた−F
h・L
3の偶力のモーメントとなる。
【0055】
従って、2つの偏心穴36,37を有するクランク軸3に作用する遠心力の効果は、次の通りである。まず、クランク軸3を軸方向から見たとき、
図3の上方に作用する遠心力と下方に作用する遠心力とは相殺される。このため、クランク軸3に並進力は作用しない。次に、
図2に示すように、クランク軸3をカム部31,32の偏心方向と直交する方向から見たとき、クランク軸3には、次式(9)で表される大きさの偶力のモーメントが
図2中の左回転方向へ作用する。
【0056】
偶力のモーメント=F
c・(L
1+L
2)−F
h・L
3 …(9)
式(9)に式(5)及び式(8)をそれぞれ適用すると、クランク軸3に作用する偶力のモーメントは、次式(10)で表される。
【0057】
偶力のモーメント=
{D
12・L
1・(L
1+L
2)・e
1−d
12・L
32・e
2}・ρ・π・ω
2/4 …(10)
クランク軸3の各部の寸法は、前述した式(2)の関係式を満足するように設定されている。式(10)に式(2)を適用すると、偶力のモーメントは0になることが分かる。
【0058】
実際には、次式(11)で表される外歯歯車5,6の遠心力F′を考慮する必要がある。この遠心力F′を考慮する場合、式(9)は次式(12)となる。
【0059】
F′=m′e
1ω
2 …(11)
ただし、m′は外歯歯車5,6の質量である。
【0060】
(F
c+F′)・(L
1+L
2)−F
h・L
3 …(12)
<面取りによる偶力>
ここで、連通部面取り33により、クランク軸3には、
図2の左回りに偶力が作用する。しかしながら、軸端部の面取り34,35により、クランク軸3には、右回りの偶力が作用する。このため、連通部面取り33による左回りの偶力と面取り34,35による右回りの偶力とを相殺させることができる。以下、連通部面取り33及び面取り34,35がクランク軸3の偶力のモーメントに与える効果について詳細に説明する。
【0061】
まず、連通部面取り33による偶力のモーメントについて説明する。
【0062】
図8(a)に示すように、連通部面取り33が存在しない状態を想定する。即ち、連通部面取り33を形成する際に除去される2つの角部81,81が存在している状態を想定する。
図8(b)に示すように、2つの角部81,81は、2つの重り82,82を回転軸心a
1に一致する軸83に連結したモデルとして表すことができる。このモデルを用いて、2つの重り82,82を、軸83(回転軸心a
1)を中心に回転させる。2つの重り82,82が上下方向の反対側に配置されたとき、2つの重り82,82にそれぞれ作用する遠心力によって、右回りの偶力のモーメントが発生する。
【0063】
これに対して、
図2に示すように連通部面取り33が存在する状態は、
図8(b)に示すモデルから2つの重り82,82が省略された状態と一致する。この状態では、遠心力、ひいては偶力のモーメントが作用しない。従って、連通部面取り33,33を設けることで、クランク軸3に作用する右回りの偶力のモーメントを打ち消すことができる。換言すると、クランク軸3に左回りの偶力のモーメントを作用させることができる。
【0064】
次に、軸端部の面取り34,35による偶力のモーメントについて説明する。
【0065】
図9(a)に示すように、軸端部の面取り34,35が存在しない状態を想定する。即ち、面取り34,35を形成する際に除去される2つのリング状の部材84,84が存在している状態を想定する。
図9(b)に示すように、2つの部材84,84は、2つのリング状の重り85,85を回転軸心a
1に一致する軸86の両端にそれぞれ連結したモデルとして表すことができる。このモデルを用いて、2つの重り85,85を、軸86(回転軸心a
1)を中心に回転させる。2つの重り85,85が上下方向に偏心して配置されたとき、2つの重り85,85による遠心力は上下方向の反対側にそれぞれ作用する。このとき、2つの重り85,85による遠心力によって、左回りの偶力のモーメントが発生する。
【0066】
これに対して、
図2に示すように面取り34,35が存在する状態は、
図9(b)に示すモデルから2つの重り85,85が省略された状態と一致する。この状態では、遠心力、ひいては偶力のモーメントは作用しない。従って、面取り34,35を設けることで、クランク軸3に作用する左回りの偶力のモーメントを打ち消すことができる。換言すれば、クランク軸3に右回りの偶力のモーメントを作用させることになる。
【0067】
本実施形態によれば、連通部面取り33による左回りの偶力と面取り34,35による右回りの偶力とが均衡するように、連通部面取り33及び面取り34,35が設けられている。これにより、連通部面取り33による左回りの偶力と面取り34,35による右回りの偶力とを相殺させることが可能となる。よって、クランク軸3の面取り34,35は、クランク軸3の重量バランスを微調節するための軸端バランス調整部として機能する。
【0068】
<クランク軸の重量バランスの調整>
次に、クランク軸の重量バランスの調整について説明する。
【0069】
前述したように、偏心穴36,37、連通部面取り33、及び軸端部の面取り34,35を所定の形状にすることにより、原理的には、クランク軸3のアンバランスを無くすことはできる。しかしながら、クランク軸3の各部の形状誤差に起因するアンバランスが残る虞がある。そこで、このアンバランスの量を計測した後、計測されたアンバランス量に基づき、面取り34,35をバイトなどの切削工具により旋削する。こうして、
図2に示す面取り34,35の深さL
4,L
5をそれぞれ適切な値とすることにより、クランク軸3のアンバランスの量を所望の値以下に容易に抑えることができる。
【0070】
<配線の挿通>
図5は、減速機1をロボットアームの関節部に用いた場合において、クランク軸3内に配線を通した例を示す。クランク軸3の内部に配線を通す際には、まず第1アーム41に減速機1を固定する。次に、筒状のガイド部502をクランク軸3に接触しないように挿入する。第1アーム41に面するガイド部502の端部には、配線ブラケット501が取り付けられている。配線ブラケット501を、第1アーム41の内部に固定する。そして、配線ブラケット501を介して第1アーム41に固定されたガイド部502内に、配線500を通す。このとき、偏心穴36と偏心穴37との連通部分には、連通部面取り33が設けられている。このため、偏心穴36,37の偏心による段差に配線500が引っ掛かることはない。このため、配線500のガイド部502に対する挿入作業、ひいてはロボットアームの関節部を円滑に組み立てることができる。第2アーム42の先端に設けられる図示しないハンドには、電流が配線500を通じて供給される。
【0071】
<実施の形態の効果>
従って、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0072】
(1)2つの偏心穴36,37を設けることにより、クランク軸3の回転時のアンバランスを低減することができる。ひいては、クランク軸3を支持する軸受11,15に作用する変動荷重を低減することもできる。このため、減速機1の軸受の寿命を長くすることができる。また、クランク軸3の回転時のアンバランスに起因する減速機1の振動の発生を抑制することもできる。
【0073】
クランク軸3に偏心穴36,37を設けただけで、クランク軸3の回転時のアンバランス量の値、ひいてはクランク軸3を支持する軸受11,15に作用する変動荷重の値を、所望の値以下に容易に抑えることができる。また、減速機1の軸受の寿命を所望値より長くすることもでき、クランク軸3の回転時のアンバランスに起因する減速機1の振動を所望値より小さくすることもできる。
【0074】
(2)クランク軸3の両端部には、軸端バランス調整部としての面取り34,35が設けられている。この場合、面取り34,35の面取り深さなどを調整することにより、クランク軸3の偶力のモーメントを調節できる。また、面取り34,35をクランク軸3の両端に設けることで、偶力の腕の長さを最長にすることもできる。よって、クランク軸3の軸線に直交する軸線周りに偶力が生じる場合、そのバランスを取るための調整量を小さく抑えることができる。
【0075】
(3)クランク軸3の両端部における面取り34,35を利用して、クランク軸3の偶力のバランスを調整するようにした。このため、特別な工程を付加することなく、面取り工程における面取り量を増減することで、クランク軸3の回転バランスを微調整することができる。
【0076】
(4)減速機1の軸受11,15の寿命が長くなる。これに伴い、減速機1を用いたロボット等の製品寿命も長くなる。また、振動が少なくなるため、第2アーム42又はハンドの位置を精度良く決めることができる。
【0077】
(5)配線又は配管を、減速機1に形成された2つの偏心穴36,37に通すことができる。このため、減速機1又はロボットアームのための配線スペースを小さくすることができる。従って、配線等により外部からロボットの動きが干渉されることはない。
【0078】
(6)2つの偏心穴36,37の連通部分(段差部分)には、連通部面取り33,33が設けられている。このため、配線50の挿入作業が簡単になる。
【0079】
<他の実施の形態>
本実施形態は、次のように変更してもよい。
【0080】
・本実施形態において、面取り34,35の深さL
4,L
5を増減させることにより、クランク軸3のアンバランス量を微調整したが、次のように変更してもよい。例えば、
図10(a)に示すように、クランク軸3の少なくとも一方の端部に追加の穴87を加工したり、
図10(b)に示すように、バランス重り88を付加したりしてもよい。また、穴87及びバランス重り88の双方により、クランク軸3のバランスを調整してもよい。また、クランク軸3の端部ではなく、円筒部38の周面を部分的に除去することにより、バランスを調整してもよい。この場合、穴87及びバランス重り88が軸端バランス調整部として機能する。
【0081】
クランク軸3の偶力のバランス調整に穴87を用いた場合、クランク軸3の組付けが終了した後でも、穴87の数、深さ、径を増減することにより、クランク軸3の回転バランスを微調整することができる。クランク軸3の偶力のバランス調整にバランス重り88を用いた場合、クランク軸3の組付けが終了した後でも、バランス重り88の数又は重量を増減すれば、クランク軸3の回転バランスを微調整することができる。
【0082】
・本実施形態において、2つの偏心穴36,37を設けたが、次のように変更してもよい。即ち、
図11(a)に示すように、クランク軸3には、回転軸心a
1に沿って貫通する穴91が形成されている。穴91の内周面からクランク軸3の一部を除去することで、第1及び第2の凹部92,93が形成されている。第1及び第2の凹部92,93は、カム部31,32の偏心方向に沿って反対側にそれぞれ配置されている。即ち、第1及び第2の凹部92,93は、回転軸心a
1周りに180度だけ位相をずらしてそれぞれ配置されている。具体的には、
図11(b)に示すように、第1の凹部92は、クランク軸3の内周面においてカム部31に近接して(
図11(b)の上側)に配置されている。
図11(c)に示すように、第2の凹部93は、クランク軸3の内周面においてカム部32に近接して(
図11(c)中の下側)に配置されている。また、第1及び第2の凹部92,93は、回転軸心a
1周りに半周(180度の範囲)に亘り形成されている。
図11(b)に示すように、第1の凹部92は、上側の半周に亘り形成されている。
図11(c)に示すように、第2の凹部93は、下側の半周に亘り形成されている。更に、
図11(a)に示すように、第1及び第2の凹部92,93は、クランク軸3の軸線方向において異なる位置にそれぞれ形成されている。第1及び第2の凹部92,93は、凹部を設けない場合のクランク軸3に作用する偶力のモーメントを打ち消すように作用する。よって、クランク軸に作用する遠心力による偶力のモーメントが低減される。従って、クランク軸3の回転時におけるアンバランスが抑制される。
【0083】
・本実施形態において、クランク軸3の各部の寸法を、必ずしも、式(2)満たすように設定する必要はない。この場合でも、偏心穴36,37による偶力のモーメントの低減効果は得られるため、クランク軸3に作用する偶力のモーメントが低減される。
【0084】
・本実施形態において、偏心穴36,37の長さL
3は同じであったが、異なっていてもよい。この場合も、偏心穴36,37による偶力低減効果は得られる。
【0085】
・クランク軸3から連通部面取り33,33を省略してもよい。この場合も、2つの偏心穴36,37による偶力低減効果は得られる。
【0086】
・クランク軸3から面取り34,35を省略してもよい。この場合も2つの偏心穴36,37による偶力低減効果は得られる。
【0087】
・本実施形態において、2つの側板4,8からなるキャリヤを出力軸としたが、内歯車21(ハウジング2)を出力軸としてもよい。この場合、ハウジング2と第1アーム41との連結、及び側板8と第2アーム42との連結を解除する。そして、内歯車21(ハウジング2)を第2アーム42に連結する。
【0088】
・本実施形態において、減速機1を、ロボットアームの関節部に適用したが、これに以外のものに適用してもよい。