【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電線100wを挟んで発泡シート120を二つ折りし、この二つ折りした状態で少なくとも1周巻きしているため、発泡シートを取り付けた止水部分は大径化する。この大径化した止水部分をグロメット110の小径筒部110aを治具で拡げて押し込む必要があり、グロメット110に止水部分を設けたワイヤハーネス100を通す作業に手数がかかる。かつ、グロメット110の小径筒部110aが大径化した止水部分で容易に湾曲せず、車体パネルの貫通穴を通した直後にワイヤハーネスを車体パネルに沿って90度曲げしたい場合、大きなアールとなり曲げにくい問題がある。
【0008】
さらに、発泡シートの表裏両面の全面に粘着層を設けているため、二つ折りする貼り合わせ作業時および該貼り合わせ後に巻回する作業時、発泡シートにシワがよると、シワがよった状態で粘着される。一旦、粘着されると容易に剥れず、発泡シートをシワの無い状態で貼り合わせ及び巻き付ける作業は難作業となる。前記のように、発泡シートにシワができると、該シワの部分に生じた隙間が浸水経路になり易く、止水性能の信頼性が低下する。
【0009】
これに対して、発泡シートの一方側の表面にのみ粘着層を設け、裏面側に粘着層を設け無い場合、二つ折して張り合わせる作業時および巻回する作業時に、粘着層がはがれ易いため、シワが発生すると作業をやり直しが容易となる。しかしながら、巻き終わり端での粘着力が低下し、巻き終わり端から剥がれが発生しやすくなる問題がある。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、ワイヤハーネスの電線群に巻き付けた時にシワが発生しにくく、シワが発生してもやり直しが容易で、しかも、巻き終わり端からの剥がれが発生しにくい止水シートを提供することを課題としている。かつ、該止水シートを用い、専用治具が不要で、作業性が良く、コスト高にならずに形成できるワイヤハーネスの止水構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、第1の発明として、車両に配索するワイヤハーネスに巻き付ける止水シートであって、独立発泡を有する弾性シートの一面に全面粘着層を設けていると共に、他面の一端縁に沿った部分にのみ部分粘着層を設けており、
前記全面粘着層を前記ワイヤハーネスの電線群の外周に接触する内面側として巻き付け、少なくとも一周巻回して巻き終わり部分を巻き始め部分の外周面に重ね、前記巻き始め部分の外周面に位置する前記部分粘着層と前記巻き終わり部分の内周面に位置する全面粘着層を互いに粘着する構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用の止水シートを提供している。
【0012】
特許文献1の止水シートは表裏両面の全面に粘着層を設けているため、巻き付け作業時に、一旦巻き付けると非常に剥がしにくくなり、シワが生じても巻き直しが困難な問題がある。これに対して、本発明の止水シートは片面のみ全面粘着層としているが、他面は巻き付け時に重ねる部分のみ粘着層を設けているため、巻付作業時に巻き直しが容易にでき、シワの発生を未然に防止できる。かつ、巻き終わり部分では、内周側の巻き始め側と外周側の巻き終わり側の重ね合わせ面にそれぞれ粘着層があるため、粘着力が高まり、巻き終わり端から剥がれが生じるのを防止でき、止水性能の信頼性を高めることができる。
【0013】
本発明の前記止水シートは独立発泡を有する弾性シートから形成しているため、ワイヤハーネスを構成する電線群の外面に密着させて、電線群の外周面に隙間を発生させずに巻き付けることができる。電線群の外周面と止水シートの内周面との間に隙間があると、該隙間が毛細管現象による浸水経路となって、ワイヤハーネス中に電線に沿って浸水が発生しやすくなるが、本発明では電線群の外周面に隙間を発生させずに巻き付けることができるため前記毛細管現象による浸水を防止できる。
また、前記止水シートとする弾性シートは、独立発泡であるため、洗車や高圧洗車時等に外部からの浸水を遮断できる。
【0014】
本発明の止水シートとする弾性シートはEPDM、EPT等の可撓性を有する樹脂に発泡剤を配合した成分で形成することが好ましい。
本発明の止水シートは、厚さを0.1〜5mm、好ましくは1〜2mmとしている。
該止水シートの形状は、巻き付けるワイヤハーネスの外周寸法に、重ね合わせ部分の寸法を加えた幅と、止水領域とするワイヤハーネスの長さに相当する長さ寸法とを有する細長い矩形状としている。
また、本発明の止水シートは全面接着層および部分接着層のいずれの表面にも剥離紙を貼着しており、使用時に剥離紙を剥がすようにしている。
【0015】
第2の発明として、前記第1の発明の止水シートをワイヤハーネスの電線群の外周に巻き付け、該巻き付けた止水シートの外周面に粘着テープを長さ方向に隙間をあけて螺旋状に荒巻きしているワイヤハーネスの止水構造を提供している。
【0016】
ワイヤハーネスの外周面に前記止水シートを巻き付けた状態で、該止水シートの巻き終わり部分の内周面と巻き始め部分の外周面の重ね合わせ面が互いの粘着層同士が接触して固着されるため、巻き終わり端から剥がれにくい。しかしながら、ワイヤハーネスを配索経路に沿って急減に曲げる場合、ワイヤハーネスの軸線方向に延在させている粘着層同士の固着部分に曲げ方向の大きな負荷がかかり、該負荷は巻き終わり端が剥れる方向に作用し、曲げ部分に所謂口開き状の剥がれが生じる恐れがある。よって、本発明では、前記止水シートの巻き付け部分の外周に粘着テープを隙間をあけた螺旋巻きで荒巻きし、急激な曲げ部分でも前記止水シートの巻き終わり端から剥がれが発生するのを防いでいる。
このように、前記止水シートを巻き付けることで止水性能を確保しているため、テープを隙間なく巻き付けで止水を図る必要はなく、かつ、前記粘着テープを隙間なくハーフラップ巻きにすると、ワイヤハーネスが固くなり、配索経路に沿わせる柔軟性が損なわれるため、該粘着テープは前記のように荒巻きにしている。
該粘着テープとし、汎用されている塩化ビニールテープの一面に粘着剤が塗布された粘着テープ等が用いられる。
【0017】
ワイヤハーネスが浸水領域を通過する領域において、該ワイヤハーネスの外周面に巻き付けた前記止水シートの外周面にテープを螺旋巻きで荒巻きすることにより、当該浸水領域での浸水発生を効果的に防止できる。
【0018】
また、第3の発明として、車体パネルの貫通穴に装着するグロメットをワイヤハーネスに外嵌し、該グロメットの小径筒部に前記第1の発明の止水シートをワイヤハーネスの電線群の外周に巻き付けた状態で貫通させているワイヤハーネスの止水構造を提供している。
【0019】
前記グロメットの小径筒部から外部に延在する前記止水シートの外周面にテープを螺旋巻きで荒巻きしていることが好ましい。
【0020】
前記グロメットは、エンジンルームと車室とを仕切る車体パネルに穿設した貫通穴に装着し、該グロメットから浸水領域となる前記エンジンルーム側へ下方傾斜して延在させ、該ワイヤハーネスが最低高さ位置に達する部位と前記グロメットとの間の長さ寸法(L)と高低差の高さ寸法(H1)の積を設定値以上として、前記グロメットを貫通する部位のワイヤハーネスの電線群に止水剤を充填せずに、止水していることが好ましい。
また、前記(L)×(H1)が設定値未満の場合、ワイヤハーネスに外装するプロテクタに排水穴を設けることで、浸水面を下げることが可能で、プロテクタの排水穴下面とグロメットとの高低差の高さ(H2)とすると、前記(L)×(H2)が設定値を満たせば止水剤を充填せずに止水することが可能である。
言い換えれば、前記ワイヤハーネスの配索経路中の最低位置から排水できる構成としても、前記(L)×(H1)もしくは(L)×(H2)が設定値未満であれば、グロメットを貫通する部分のワイヤハーネスの電線群に止水剤を充填し、線間止水して止水性能を高めることが好ましい。
また、グロメットの小径筒部に挿入する部分では、該小径筒部に内嵌することで止水シートの巻付状態を保持できるため、外周面をテープで螺旋巻きする必要がない。
【0021】
自動車のエンジンルームと車室を仕切る車体パネル(所謂ダッシュパネル)に穿設したワイヤハーネス挿通用の貫通穴から車室への浸水を防止するために、グロメットを介在させており、該グロメットにより貫通穴の内周面とワイヤハーネスの外周面の隙間からの浸水発生を防止できる。
車室への浸水発生の要因として、さらに、エンジンルーム側でワイヤハーネスの電線間に侵入した水が毛細管現象によりワイヤハーネスの電線間の隙間を伝って車室へ浸水する場合がある。また、洗車時、特に高圧洗浄時に直接に外部からワイヤハーネスに水が吹き付けられる場合、ワイヤハーネスに外装したシート材を透過してワイヤハーネス中に浸水を生じる場合がある。この洗車時等で外部から直接にワイヤハーネスに水が吹き付けられ場合、本発明の止水シートは独立発泡材から形成しているため、外部からの内部への浸水を防止でき、かつ、止水シートの巻き終わ部をしっかりと巻き付け状態で固着して剥がれを発生させないため、止水シートを長さ方向に伝って生じる浸水も防止できる。
【0022】
しかしながら、エンジンルーム内に位置するワイヤハーネス先端のコネクタ接続側等でワイヤハーネスの電線外周面に水滴が付着し、この水滴が電線群の隙間に浸水すると、前記毛細管現象でグロメット内へ浸水してくる。この毛細管現状による浸水に関して、本発明者が実験を繰り返して結果、浸水発生位置からグロメットまでの長さ寸法(L)と、高低差の高さ寸法(H1)または(H2)の積に応じて、毛細管現象でグロメットまで浸水が生じる場合と、生じない場合があることを知見した。すなわち、前記(L)×(H1)または(L)×(H2)の積が設定値未満であるとグロメット中のワイヤハーネスの線間止水を行い、設定値以上であると前記線間止水をしなくても、止水機能を保持できる。