(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オフセット誤差演算部とゲイン誤差演算部を有する電流センサ誤差推定部を設け、前記検出電流値と前記補償値の重畳された値と、前記検出電流値をそれぞれオフセット誤差演算部とゲイン誤差演算部に入力してオフセット誤差とゲイン誤差を算出し、算出された各誤差信号に基づいて前記電流センサの誤差の推定を行うことを特徴とした請求項1記載の制御装置。
前記電流センサの出力側に電流誤差演算部を設け、前記電流センサ誤差推定部の出力側にスイッチを介して電流センサ誤差推定値を保存するメモリを設け、前記周期外乱オブザーバによる補償値の出力側にスイッチを接続し、前記メモリに保存された電流センサ誤差推定値と周期外乱オブザーバによる補償値を切替えて出力するよう構成し、
前記電流誤差演算部は、前記メモリに接続されたスイッチがオン状態となったときメモリに保存された電流センサ誤差推定値に基づいて検出電流値を補正することを特徴とした請求項2記載の制御装置。
前記周期外乱オブザーバの出力側は、スイッチを介して前記電流誤差演算部に接続すると共に、周期外乱オブザーバの出力側に補償値を保存するメモリを設け、振動の抑制制御が収束したとき、前記メモリに保存された補償値に基づいて検出電流値を補正することを特徴とした請求項4記載の制御装置
【背景技術】
【0002】
周期外乱の発生抑制制御としては、受変電設備での電力系統制御、ロボットによる位置決め制御、ダイナモメータシステムの軸トルク共振抑制、モータ筐体の振動抑制(電気自動車、エレベータなどの乗り心地に関連するもの)等が存在し、これら各製品での周期外乱を高精度に抑制することが要望されている。
【0003】
例えば、モータは原理的にトルクリプルを発生し、振動、騒音、乗り心地への悪影響、電気・機械共振等の種々の問題を引き起こす。特に、埋込磁石形のPMモータは、コギングトルクリプルとリラクタンストルクリプルが複合的に発生する。その対策として、トルクリプルを抑制する制御方式として周期外乱オブザーバ補償法が提案されている。
【0004】
図8は、特許文献1及び非特許文献によって公知となっている周期外乱オブザーバのn次トルクリプル周波数成分に関する制御ブロック図を示したものである。
1はトルクリプル補償値演算部で、正弦波/余弦波の制御指令rn(通常は0)と周期外乱オブザーバ3による推定値dT
A^n, dT
B^nとの差分にそれぞれ正弦波/余弦波値を乗算してそれを加算することでトルクリプル補償指令Tc*nを生成し制御対象2に出力される。制御対象2では、周期の外乱(以下周期外乱dTnという)が発生することがある。例えば、制御対象がモータであればコギングトルなどによる回転数に同期した外乱であるトルクリプルがこれに相当し、振動や騒音の要因となる。
【0005】
周期外乱オブザーバ3は周期外乱dTnを抑制するもので、周波数成分毎に複素ベクトルで表現したシステム同定モデルを外乱オブザーバの逆システムモデルを用いることで、制御対象とする周波数の外乱を直接的に推定して補償する。
これにより比較的単純な制御構成でありながら、対象とした周波数に対しては次数に関係なく高い抑制効果が得られる。
【0006】
システム同定モデルP^nの取得に関して、制御に先立って制御対象のプラントPn(=P
An+jP
Bn)に対して予めシステム同定を行い、1次元複素ベクトルの形で(1)式として表現する。
P^n=P^
An+jP^
Bn …(1)
ただし、添字のnはn次成分、変数は何れもXn=X
An+jX
Bnと表現される複素ベクトルである。
【0007】
例えば、1〜1000Hzまでのシステム同定結果を1Hz毎に複素ベクトルで表現した場合、1000個の1次元複素ベクトルの要素からなるテーブルでシステムを表現できる。または、同定結果を数式化してシステムを表現することも可能である。何れの手法も、特定の周波数成分については簡素な1次元複素ベクトルでシステムモデルの表現は可能となる。
なお、システム同定モデルに限らず文中記載のP^n,rn,dTn,dT^n,Tnも
Xn=X
An+jX
Bnと表現される複素ベクトルである。
【0008】
モータのトルクリプルは回転位相θ[rad]に準じて周期的に発生する外乱であることから、周期外乱オブザーバ3の制御としてはトルク脈動周波数成分抽出手段を用いて任意次数n(電気的回転周波数の整数倍)の余弦係数T
An,正弦係数T
Bnに変換する。周波数成分の厳密な計測手段にはフーリエ変換などがあるが、
図8では簡易性を重視し、プラント出力に対してフーリエ変換を簡易化した低域通過フィルタG
F(s)を通すことで、周期外乱dTnの抑制対象とする周波数成分を抽出する。これに上記抽出したシステム同定モデルの逆数P^n
-1で表現される逆システムを乗算し、低域通過フィルタG
F(s)を通した制御指令値との差分から周期外乱dTnを推定し、周期外乱推定値dT^n(=dT^
An +jdT^
Bn)としてトルクリプル補償値演算部1に出力して制御指令rnから差っ引いて周期外乱dTnを抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
制御装置としてのインバータ駆動の装置における周期外乱の発生要因は多々あるが、電流センサのオフセットおよびゲイン誤差もその一つである。オフセット誤差は主に同期周波数の1fに、ゲイン誤差は主に2fの周期外乱を発生させる。
【0012】
本発明が目的とするところは、電流センサ誤差のゲインおよびオフセットの誤差補正機能を備えた制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は、電流指令値と、電流センサによる
検出電流値から、電流制御部によって電圧指令値を生成する制御装置において、
前記電圧指令値をプラントモデル部へ入力して仮想電流値を演算し、仮想電流値は座標変換部を介して周期外乱オブザーバに入力して、周期外乱オブザーバにて補償値を算出し、算出された補償値を座標逆変換部を介して前記検出電流値に重畳して、電流センサの検出電流値を補正することを特徴としたものである。
【0014】
本発明の請求項2は、オフセット誤差演算部とゲイン誤差演算部を有する電流センサ誤差推定部を設け、前記検出電流値と前記補償値の重畳された値と、前記検出電流値をそれぞれオフセット誤差演算部とゲイン誤差演算部に入力してオフセット誤差とゲイン誤差を算出し、算出された各誤差信号に基づいて前記電流センサの誤差の推定をおこなうことを特徴としたものである。
【0015】
本発明の請求項3は、前記電流センサの出力側に電流誤差演算部を設け、前記電流センサ誤差推定部の出力側にスイッチを介して電流センサ誤差推定値を保存するメモリを設け、前記周期外乱オブザーバによる補償値の出力側にスイッチを接続し、前記メモリに保存された電流センサ誤差推定値と周期外乱オブザーバによる補償値を切替えて出力するよう構成し、前記電流誤差演算部は、前記メモリに接続されたスイッチがオン状態となったときメモリに保存された電流センサ誤差推定値に基づいて検出電流値を補正することを特徴としたものである。
【0016】
本発明の請求項4は、電流指令値と、電流センサによる
検出電流値から、電流制御部によって電圧指令値を生成する制御装置において、
前記電流センサは2相検出とし、電流センサの出力側に電流誤差演算部を設け、前記電圧指令値をプラントモデル部へ入力して仮想電流値を演算し、前記仮想電流値は関数成分検出部を介して周期外乱オブザーバに入力し、この周期外乱オブザーバにて算出された補償値と前記仮想電流値を補償値/誤差変換部へ入力して電流センサ誤差推定値を算出し、この電流センサ誤差推定値を前記電流誤差演算部に入力して、電流センサの検出電流値を補正することを特徴としたものである。
【0017】
本発明の請求項5は、前記周期外乱オブザーバの出力側は、スイッチを介して前記電流誤差演算部に接続すると共に、周期外乱オブザーバの出力側に補償値を保存するメモリを設け、振動の抑制制御が収束したとき、前記メモリに保存された補償値に基づいて検出電流値を補正することを特徴としたものである。
【0018】
本発明の請求項6は、前記電流指令値をトルク制御指令値に基づいて生成すると共に、前記電流センサの出力側に電流誤差演算部を設け、
前記プラントモデル部が、さらに前記仮想電流値に基づき出力トルクの推定値を出力し、前記電流誤差演算部が、前記プラントモデル部から出力された出力トルクの推定値と前記トルク指令値とを
比較して検出電流値の誤差を低減する補正を行うことを特徴としたものである。
【0019】
本発明の請求項7は、前記電流指令値をトルク制御指令値に基づいて生成し、
前記プラントモデル部が、さらに前記仮想電流値に基づき出力トルクの推定値を出力し、前記電流誤差演算部が、前記プラントモデル部から出力された出力トルクの推定値と前記トルク指令値とを
比較して検出電流値の誤差を低減する補正を行うことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0020】
以上のとおり、本発明によれば、電流センサのゲインおよびオフセットの誤差を補正することが可能となるものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の説明に先立って、電流センサ誤差によるidq電流への影響と、対象がモータである場合のトルクへの影響について説明する。
なお、インバータ駆動において、電流制御のための3相交流電流検出方法については、3相それぞれに検出器を設ける場合と2相に検出器を設けて残りを演算から求める2つの場合がある。それぞれの形態について、センサ誤差の影響に若干の差異があるため、分けて説明する。
1−1. 3相検知におけるセンサ誤差の影響について
3相検知方式における、電流センサのオフセット及びゲイン誤差によるidqおよびトルクへの影響は次の通りである。
先ず、一般的に電流iu,iv,iwからidqへのdq座標変換式は(2)式に表せる。ここでCnθ、Snθは
cos(nθ),sin(nθ)を示す。
【0024】
ただし、φを位相角、Iを電流ピーク値として電流i
u,i
v,i
wをそれぞれ(3)式とする。
【0026】
次にオフセット誤差△i
u,△i
v,△i
wとゲイン誤差α、β、γが生じているとして検出誤差のある3相電流i´
u,i´
v,i´
wを(4)式で表す。
【0028】
(2)〜(4)式からオフセット及びゲイン誤差の存在するid´,iq´に関して(5)式に展開することができる。
【0030】
(5)式は回転同期周波数1fの項をid
1f,iq
1f、2fの項をid
2f,iq
2f、定数項をDd,Dqとして(6)式で表すことができる。
【0032】
以上よりidqに対して(5)(6)式からオフセット誤差は同期周波数1fの振動を発生させ、ゲイン誤差は2fの振動および直流成分を発生させることがわかる。
1−2. 2相検知におけるセンサ誤差の影響について
次に2相検知方式における、電流センサのオフセット及びゲイン誤差によるidq およびトルクへの影響について説明する。
検出相はU,V相とした2相検知時のi
u,i
vからid,iqへのdq座標変換式は(7)式に表せる。
【0034】
次にオフセット誤差△i
u,△i
vにゲイン誤差α、βが存在するとき誤差によるU,V相の影響は(4)式と同様になる。ただし、i
wについてはi
uとi
vか
ら(8)式で算出される。
【0036】
(3),(4),(7),(8)式からオフセットおよびゲイン誤差の存在するid´,
iq´'に関して展開すると(9)式となる。また(9)式も(6)式として表すことができる。
【0038】
以上より2相検知の場合においても、idqに対して(6)(9)式からオフセット誤差は同期周波数1fの振動を発生させ、ゲイン誤差は2fの振動および直流成分を発生させることがわかる。
2−1. センサ誤差によるトルクへの影響について
適用対象がモータである場合、この振動状態のidq によるトルクへの影響について説明する。
(6)式のidqが通電されているとして、PMモータの一般的なトルク式である(10)式から出力トルクを(11)式と表すことができる。
【0041】
ここで、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、Φ:磁束鎖交数である。
【0042】
このとき、id×iq項において1f×1fの乗算では(12)式より2fを、2f×1fの乗算では(13)式より1,3fを、2f×2fの乗算では(12)式より4fを生じるため、idq自体の1,2fに加えて高次トルクリプルも発生する。
【0043】
(a). nf×nfの乗算に関して、A〜Eを定数として
【0045】
(b). nf×mfの乗算に関して、
【0047】
以上のことをまとめると、周期外乱を低減する手法として特許文献1や非特許文献1において周期外乱オブザーバなどで提案されている。これら従来の手法によれば、例えば制御対象がモータである場合、トルクを制御対象として補償信号を生成してトルクリプルを抑制する。これによりトルクリプルは低減可能であるが、外部にトルクセンサを設置する必要がある。制御機器内部のセンサ誤差が要因であるので、センサゲインとオフセットもしくは検出電流を適切に調整出来れば、余計な計測器を用いることなくトルクリプルを低減できると考えられる。
【0048】
また(11)式のとおり、トルクには1,2f以上の高次トルクリプルも発生し、これをトルク補償にて抑制するには周期外乱オブザーバPDOの対象周波数に1,2fに加えて3,4fも加えなければならず、演算負荷が増大する。
【0049】
そこで本発明では、トルクセンサを用いず演算負荷の増加も抑えて、電流センサ誤差による周期外乱の抑制を行うものである。
【0050】
なお、上記の電流センサによる振動発生はインバータとモータの組み合わせに限らず、電流センサを用いた制御機器一般(電力系統機器など)に当てはまる問題である。よって、以下で示す各実施例はインバータとモータの例で説明するが、一般的な制御機器に対して適用可能なものである。
【実施例1】
【0051】
図1は、電流検出誤差補正の制御ブロック図を示したものである。1は制御装置となるインバータ、2は制御対象となるモータ、3は周期外乱オブザーバである。インバータ1は、トルク指令値T
*をd,q軸の電流指令値i
*dq(i
d,i
q)に変換する変換部11と、この変換部の出力i
*dqと電流センサ15及び3相/2相の座標変換部14を介して検出された信号i
dqとの差分に基づいて電圧指令値v
dqrefを算出する電流制御部12を有している。
【0052】
4はプラントモデル部、5は座標変換部、6は座標逆変換部、7は回転位置センサで、エンコーダ波形abzからロータ回転角度θと回転角速度ωを検出し、回転角度θは座標変換部5と座標逆変換部6及び3相/2相変換部14に出力し、角速度ωは周期外乱オブザーバ3へ出力する。なお、周期外乱オブザーバにおけるG
Fはローパスフィルタ、di
dqcは補償i
d,i
q値、di
*dqnは補償i
d,i
q指令値である。
【0053】
プラントモデル部4は、電流制御部12の出力v
dqref指令を入力してモータの回路方程式により仮想電流値i^
dq(i
d,i
q)を算出し、これを振動抑制対象とする。電流センサに誤差が生じている場合、電流制御部12の応答範囲内においては検出したi
dq上の振動を電流制御部12が抑制する。振動分はv
dqref指令に重畳され、これにより出力電流が振動することで周期外乱となって現れる。このためインバータ内部においてi
dqに振動は観測されない。しかし、v
dqref指令をプラントモデル部4の回路方程式を通すことで振動状態の仮想電流値i^
dqの観測が可能となる。プラントモデル部4における回路方程式は、対象がPMモータである場合は(14)式を用いる。
【0054】
【数13】
【0055】
ここで、R:電気子抵抗、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、Φ:磁束鎖交数である。
【0056】
プラントモデル部4における回路方程式に用いるパラメータ精度については、高精度なものは必要ではなく周期外乱オブザーバ3のロバスト性範囲内であれば良い。このため設計値などを適用し、周期外乱オブザーバ3の内部のシステムモデルもこれに従いあらかじめ計算可能であり、実測などによる正確な取得は必ずしも必要ではない。
【0057】
次に仮想電流値i^
dqの対象周波数成分抽出のために座標変換部5では(15)式の高調波dq変換を行う。
【0058】
【数14】
【0059】
電流id,iqが常に直交することを利用し、周期外乱オブザーバ3で抑制対象とする複素数形式の周波数成分にはidn,iqnをそれぞれ実部、虚部に設定し、
idqn=idn+jiqnとして扱う。ここからは通常の周期外乱オブザーバ3の制御則に従い補償値を算出する。
最後に座標逆変換部6では、補償値を(16)式の座標系逆変換によりdq座標系に変換する。
【0060】
【数15】
【0061】
これにより得られる補償電流検出値di
dqcを検出電流i
dqに重畳して補償値
i
dq´とし、更にi
*dqとの差分を得て電流制御部12に入力する。
【0062】
したがって、この実施例によれば、電流センサ誤差による周期外乱を低減することで
検出電流値を直接補償することが可能となる。
【実施例2】
【0063】
図2は第2の実施例を示した電流検出誤差補正のブロック図を示したものである。
図1で示す第1の実施例では振動抑制は達成できるが、電流センサの誤差値を直接求めることはできない。センサ誤差が頻繁に変動しない場合などは誤差値を学習し、センサの出力に対して直接補正を行った方が演算負荷、制御応答性の面から有用であることから、この実施例は
図1の機能に電流センサ誤差の誤差値を詳細に推定する機能を付加したものである。
【0064】
図2において20は電流センサ誤差推定部で、オフセット誤差演算部21とゲイン誤差演算部22を備えている。なお、周期外乱オブザーバ30には、
図1で示す変換部5,6が含まれた電流センサ誤差補償用の周期外乱オブザーバとなっており、また、8は2相/3相の座標変換部である。
【0065】
図2に示す制御ブロック図により、電流i
d,i
qの補償値i
dq´と電流センサ15の出力で補正前のi
uvwsens値を比較することでセンサ誤差を推定する。オフセット誤差演算部21では、十分に振動が抑制されセンサ誤差を補正している状態において、電流i
uvwsensと座標変換部8により3相に変換したi
dq´に対し、その直流成分と1f成分の絶対値を抽出する。十分にセンサ誤差が補正された状態では、i
dq´にセンサ誤差は生じなく、逆にi
uvwsensは真値にセンサ誤差が生じた状態で観測される。よって両者を比較することでセンサ誤差を推定することが可能である。オフセット誤差については両者の差分をとることで得られる。
また、ゲイン誤差演算部22についても同様の演算を行い、ゲイン誤差については除算により誤差値を求める。
【0066】
したがって、この実施例によれば、センサ誤差が頻繁に変動しない場合などでは誤差値を学習し、求まった誤差値に基づいて電流センサ15の検出値に対して直接補正を加えることで、演算負荷の軽減、制御の応答性の向上が図られるものである。
【実施例3】
【0067】
図3は第3の実施例を示した電流検出誤差補正の制御ブロック図を示したものである。
図2で示した実施例において、電流センサ誤差を推定して直接電流センサ15の出力が補正できれば、周期外乱オブザーバ30を常に動作させる必要はない。よって実施例3では、電流センサ誤差補償用の周期外乱オブザーバ30による補償電流値を用いるか、メモリに保存した誤差推定値により直接センサ出力に補正を行うかをスイッチにより切り替えるように構成したものである。
【0068】
図3において、9はメモリ、16は電流誤差演算部、SW1〜SW3はスイッチである。電流センサ誤差推定部20による誤差値の学習により、センサ誤差が変動しないと推定されたときのスイッチSW2,SW3をオン状態にして誤差値をメモリ9に記憶する。インバータにおける電流誤差演算部16は、メモリ9に記憶された推定誤差値を参照して電流センサ15の出力値i
uvwsensに対する補正演算を実行して座標変換部14に出力する。
【0069】
スイッチSW2,SW3がオン状態のときには、スイッチSW1がオフ状態となっており、したがって周期外乱オブザーバ30からの電流i
d,i
qの補償値di
dqcはインバータには入力されず、座標変換部14の出力i
dqが入力されて指令値i
*dqとの差分が得られる。
【0070】
一方、センサ誤差が頻繁に発生して振動が十分に抑制されていない場合では
スイッチSW2,SW3はオフ状態となり、スイッチSW1がオン状態となる。
この状態では、周期外乱オブザーバ30からの補償値di
dqcと検出値i
dqとの差演算を行ってi
dq´を求め、このi
dq´と指令値i
*dqとの差分が得られる。
【0071】
したがって、この実施例によれば、一度電流センサ誤差が推定出来れば、以降は演算負荷を低減させることができる。同時に、補償の応答性に関して周期外乱オブザーバによる出力の補償値では周期外乱オブザーバの応答性により限界があるが、誤差推定値により直接補償すれば応答良く電流センサ誤差を補正できるものである。
【実施例4】
【0072】
前記各実施例では、電流センサの検出相数については3相検出の例(3相検知のみが有効な手法ではなく2相検知時でも適用可能である)であるが、2相検知の場合には振動抑制の補償値からセンサ誤差値を直接推定可能となる。
【0073】
汎用的な制御機器においては、コスト面から電流センサは2相検知である場合が多い。2相検知の場合、直接センサ誤差値が得られる点において有用である。
【0074】
図4で示す第4の実施例において10は関数成分検出部で、プラントモデル部4の出力i^
qを抑制対象として入力して周期外乱オブザーバ3に出力する。また、i^
qは補償値を誤差分に変換する補償/誤差変換部6aにも入力され、補償/誤差変換部6aから電流誤差演算部16に対して補正信号が出力される。
【0075】
図4の構成に基づき、i^
q を抑制対象として周期外乱オブザーバを適用すると、1fに対する補償値diq
c,1fはdiq
a1, diq
b1を定数として(17)式の形式で出力される。
オフセット誤差について(9)式との係数比較により(18)式を導く。
【0076】
【数16】
【0077】
【数17】
【0078】
同様に2fに対する補償値diq
c,2fはdiq
a2, diq
b2を定数として(19)式の形式で出力される。
ゲイン誤差について(9)式との係数比較により(21)式を導く。ただし、この時ゲイン誤差に平衡分はなく、(20)式の条件を満たしているものとする。
(20)式の条件を非平衡分と平衡分が混在する場合に適用すると、非平衡分の誤差は補償されて振動は抑制されるが平衡分の直流誤差が残留する。なお、ここで、平衡誤差とは、各センサの同一方向誤差(2つのセンサ誤差が±x%と同じ)と、非平衡誤差を各センサの異方向誤差(2つのセンサ誤差が+x%,−y%と異なる)と定義する。
【0079】
【数18】
【0080】
【数19】
【0081】
【数20】
【0082】
(18),(21)式により周期外乱オブザーバ3出力di
qcnの補償値を変換部6aによって変換することでセンサ誤差値を求め、センサ出力の検出値に対して直接補正を行いセンサ誤差による周期外乱を抑制する。なお、本実施例ではU,V相検知について説明したが、それ以外の相の組み合わせでは(9)式の形態が変わるのみで基本的な手法は同様である。
また、上記ではq軸を抑制対象としたが、d軸としても同様に行える。
【0083】
したがって、この実施例によれば、電流センサ誤差によって周期外乱が発生する制御対象に対し、2相検知式の制御器において電流センサ誤差による振動を抑制するセンサ誤差値の推定機能を備えたことで、直接に電流センサ誤差の推定が可能となるものである。
【実施例5】
【0084】
図4で示した実施例において、電流センサ誤差を推定して直接電流センサ15の出力が補正できれば、周期外乱オブザーバ3を常に動作させる必要はない。よって実施例5では、周期外乱オブザーバ3による補償電流値を用いるか、この補償電流値をメモリに保存した固定値を適用するかスイッチSWにより切替えるように構成したものである。
【0085】
図5はこの実施例の周期外乱オブザーバの制御ブロックを示したもので、電流センサ誤差補償用の周期外乱オブザーバ30aには、
図4で示す関数成分検出部10と変換部6aの機能が組み込まれている。周期外乱オブザーバ30aで算出した誤差推定値(オフセット誤差、ゲイン誤差)はメモリ9に記憶されると共に、スイッチSWの接点bを通して電流誤差演算部16に入力される。
【0086】
一方、メモリ9に記憶された誤差推定値は、スイッチSWの接点aを通して電流誤差演算部16に入力される。スイッチSWは、振動の抑制制御が収束されたと判断されたときに、接点bより接点a側に切り替わる。
【0087】
したがって、この実施例によれば、一度電流センサ誤差が推定出来れば、以降は演算負荷を低減させることができる。同時に、補償の応答性に関して周期外乱オブザーバ出力の補償値では周期外乱オブザーバの応答性には限界があるが、誤差推定値により直接補償すれば応答良く電流センサ誤差を補正することが可能となる。
【実施例6】
【0088】
この実施例は、センサ誤差による平均トルクに与える影響を補正するものである。実施例1〜4においては、ゲイン誤差の平衡誤差が平均トルクに与える影響については振動を伴わないため、補正を行うことができない。また実施例1(
図1)の手法では(5)式で示したゲイン誤差による直流誤差については補正されない。
【0089】
第6の実施例は、センサ誤差による平均トルクに与える影響も補正するものである。
図6は、
図1で示す実施例1に平均トルク補正機能を付加した場合を示したものであり、
図7は、
図4で実施例4に平均トルク補正機能を付加した場合を示したもので、
図6,7に設けられた電流誤差演算部16a,16bが
図1及び
図4と異なる部分である。
【0090】
図6,
図7において、先ず、モータの回路方程式に適用する各パラメータ精度が平均トルクに対して十分とする。プラントモデル部4の回路方程式から得られる仮想電流値i^
dq値を(10)式に適用すれば、出力トルクTをT^として推定することができる。出力トルクT^とトルク指令値T
*を比較して誤差を低減するように電流センサ全相のゲインに対して補正を行う。誤差低減について例えば
図6に示すPI制御部40を適用する。なお、この誤差低減演算についてはPI演算以外の手法を用いても達成可能である。
【0091】
したがって、この実施例によれば、電流センサによる振動を抑制した上、平均トルクに影響を与えるゲインの平衡誤差の補正が可能となるものである。