(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
[導電性酸化物]
本発明の一実施形態である導電性酸化物は、Inと、Alと、ZnおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素であるMと、Oと、を含み、かつ、結晶質Al
2MO
4を含む。本実施形態の導電性酸化物は、Inと、Alと、ZnおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素であるMと、Oとを含むことから、IGZOに含まれる高価なGaを含んでいないため、IGZOに比べて安価である。また、本実施形態の導電性酸化物は、結晶質Al
2MO
4を含むことから、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の特性が安定化される。結晶質Al
2MO
4において、Mに対応するZnとMgとは、いずれも原子価が+2であり、イオン半径が極めて近似しているため、結晶質Al
2ZnO
4と結晶質Al
2MgO
4とは、いずれもスピネル型の結晶構造を有している。
【0021】
本実施形態の導電性酸化物において、結晶質Al
2MO
4として結晶質Al
2ZnO
4を含むことが好ましい。結晶質Al
2ZnO
4を含むことにより、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の特性を安定化させて、そのエッチング速度を高くすることができる。このため、結晶質Al
2ZnO
4を含む導電性酸化物は、スパッタリング法により酸化物半導体膜を形成するためのターゲットとして好適に用いられる。
【0022】
ここで、結晶質Al
2ZnO
4を含む導電性酸化物の断面積(導電性酸化物のいずれか1つの面で切断したときの断面の面積をいう、以下同じ。)に占める結晶質Al
2ZnO
4の割合は、10%以上60%以下が好ましく、14%以上50%以下がより好ましい。導電性酸化物の断面積に占める結晶質Al
2ZnO
4の割合が10%より低いと、その導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜はその特性が不安定となりエッチング速度が低くなる。導電性酸化物の断面積に占める結晶質Al
2ZnO
4の割合が60%より高いと、その導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の表面粗さRaが粗くなる。
【0023】
結晶質Al
2ZnO
4を含む導電性酸化物の断面積に占める結晶質Al
2ZnO
4の割合は、EDX(エネルギー分散型X線分析)法により求めることができる。より具体的には、導電性酸化物の試料断面に照射された入射電子ビームに起因してその断面から反射された電子(反射電子像)を観察する。そして、コントラストの異なる領域の蛍光X線分析を行なって結晶質Al
2ZnO
4の領域を特定することによって、断面積に占める結晶質Al
2ZnO
4の領域の面積の割合を測定することができる。また、表面粗さRaとは、JIS B0601:2001で規定される算術平均粗さRaをいい、AFM(原子間力顕微鏡)などにより測定できる。
【0024】
また、結晶質Al
2ZnO
4を含む導電性酸化物は、結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)および結晶質In
2O
3からなる群から選ばれる少なくとも1種類の結晶質をさらに含むことが好ましい。結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pを含むことにより、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の表面粗さRaを細かくすることができる。結晶質In
2O
3を含むことにより、導電性酸化物の熱伝導率が上昇するため、導電性酸化物をターゲットとして直流スパッタリングを実施した際に放電が安定する。また、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の電界効果移動度を高めることができる。
【0025】
結晶質Al
2ZnO
4を含む導電性酸化物において、結晶質Al
2ZnO
4、結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pおよび結晶質In
2O
3の存在は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析により求められる化学組成と、X線回折により同定される結晶相とにより、確認される。たとえば、結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pの存在は、結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pのX線回折ピークが、結晶質In
2Al
2Zn
1O
7のX線回折ピークに比べて高角側にシフトすることにより、確認される。なお、結晶質Al
2ZnO
4はスピネル型の結晶構造を有し、結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pは六方晶系の結晶構造を有し、結晶質In
2O
3は立方晶系の結晶構造を有している。
【0026】
また、本実施形態の導電性酸化物において、結晶質Al
2MO
4として結晶質Al
2MgO
4を含むことが好ましい。結晶質Al
2MgO
4を含むことにより、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の特性を安定化させて、酸化物半導体膜の電界効果移動度を高めることができる。このため、結晶質Al
2MgO
4を含む導電性酸化物は、スパッタリング法により酸化物半導体膜を形成するためのターゲットとして好適に用いられる。
【0027】
ここで、結晶質Al
2MgO
4を含む導電性酸化物の断面積に占める結晶質Al
2MgO
4の割合は、2%以上60%以下が好ましく、5%以上20%以下がより好ましい。このような面積割合で結晶質MgAl
2O
4を含む導電性酸化物をスパッタリングのターゲットとして用いることにより、電界効果移動度が高い酸化物半導体膜を作製することができる。また、結晶質Al
2MgO
4を含む導電性酸化物がさらに結晶質In
2O
3を含む場合、導電性酸化物の断面積に占める結晶質In
2O
3の割合は、40%以上98%以下が好ましく、40%以上60%以下がより好ましい。このような面積割合で結晶質In
2O
3を含む導電性酸化物をスパッタリングのターゲットとして用いて、酸化物半導体膜を作製することにより、電界効果移動度が高い酸化物半導体膜を作製することができる。
【0028】
ここで、導電性酸化物の断面積に占める結晶質Al
2MgO
4および結晶質In
2O
3の割合は、以下のようにして算出する。まず、X線回析により結晶質Al
2MgO
4および結晶質In
2O
3のピークを確認する。次に、導電性酸化物を任意の面で切断する。該導電性酸化物の切断面に対し、分析型走査電子顕微鏡を用いて入射電子ビームを照射してその断面から反射された電子(反射電子像)を観察する。かかる反射電子像において、コントラストの異なる領域に対し、蛍光X線分析を行なうことにより、AlとMgとが主に観測される領域を結晶質Al
2MgO
4として特定し、Inのピークのみが観察される領域を結晶質In
2O
3として特定する。このようにして断面に占める結晶質MgAl
2O
4および結晶質In
2O
3の面積の割合を算出する。
【0029】
また、結晶質Al
2MgO
4を含む導電性酸化物は、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-s(0≦n<1、0≦t<1、0≦s≦3n+t)および結晶質In
2O
3からなる群から選ばれる少なくとも1種類の結晶質をさらに含むことが好ましい。
【0030】
結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sを含むことにより、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の電界効果移動度を高めることができる。このような結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sは、結晶質In
2Al
2MgO
7および結晶質Al
2MgO
4の結晶粉末を所定の条件で混合して改質され、結晶質In
2Al
2MgO
7中のAlおよびMgが欠損することにより形成される。このようにAlおよびMgが欠損すると(すなわちnおよびtがいずれもn>0、t>0になると)、この欠損の化学量論比に対応し、酸素の原子比が「7」よりも小さい値をとる(すなわちs>0となる)こともある。このような結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sを含む導電性酸化物をスパッタリングのターゲットとして用いて酸化物半導体膜を作製することにより、高い電界効果移動度の酸化物半導体膜を作製することができる。
【0031】
上記の結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sにおけるnおよびtの値を直接的に算出することは困難であるが、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sの存在の有無を確認することはできる。結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sの存在の有無は、導電性酸化物の組成をICP発光分析によって求めるとともに、X線回析によって結晶相を同定することによって行なう。たとえば、ICP発光分析によって導電性酸化物中のIn:Al:Mgの原子濃度比率が2:2:1であることが特定されるにもかかわらず、X線回析によって導電性酸化物中にIn
2Al
2MgO
7の存在が確認された場合、導電性酸化物中には、結晶質Al
2MgO
4とともに、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-s(0<n<1、0<t<1、0≦s≦3n+t)が存在していると判断する。また、結晶質のIn
2O
3、In
2Al
2MgO
7、およびAl
2MgO
4の存在がX線回析によって確認された場合も、ICP発光分析による組成と、分析型電子顕微鏡によって求められたIn
2O
3、In
2Al
2MgO
7、Al
2MgO
4の面積割合から考えられた組成とを対比し、AlMgの不足が生じている場合、In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sが存在しているものと考える。
【0032】
結晶質In
2O
3を含むことにより、導電性酸化物の熱伝導率が上昇するため、導電性酸化物をターゲットとして直流スパッタリングを実施した際に放電が安定する。また、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜の電界効果移動度を高めることができる。
【0033】
結晶質Al
2MgO
4を含む導電性酸化物において、結晶質Al
2MgO
4、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sおよび結晶質In
2O
3の存在は、ICP発光分析により求められる化学組成と、X線回折により同定される結晶相とにより、確認される。たとえば、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sの存在は、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sのX線回折ピークが、結晶質In
2Al
2Mg
1O
7のX線回折ピークに比べて高角側にシフトすることにより、確認される。なお、結晶質Al
2MgO
4はスピネル型の結晶構造を有し、結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-tO
7-sは六方晶系の結晶構造を有し、結晶質In
2O
3は立方晶系の結晶構造を有している。
【0034】
本実施形態の導電性酸化物は、In、Al、およびMの合計の原子比率を100原子%とすると、10〜50原子%のInと、10〜50原子%のAlと、15〜40原子%のMと、を含むことが好ましい。このような原子比率の導電性酸化物は、安価でかつスパッタリングのターゲットに好適に用いられて高物性(たとえば、エッチング速度が大きい、電界効果移動度が高いなど)の酸化物半導体膜が得られる。
【0035】
本実施形態の導電性酸化物は、N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiからなる群から選ばれる少なくとも1種類の添加元素をさらに含むことが好ましく、これらの添加元素を0.1×10
22atm/cc以上5.0×10
22atm/cc以下含むことがより好ましい。すなわち、本実施形態の導電性酸化物に含まれる添加元素の全体の濃度は、0.1×10
22atm/cc以上5.0×10
22atm/cc以下であることが好ましい。ここで、導電性酸化物に含まれる添加元素および原子濃度は、SIMS(二次イオン質量分析)によって測定することができる。
【0036】
本実施形態の導電性酸化物は、スパッタリング法のターゲットに好適に用いられる。ここで、「スパッタリング法のターゲット」とは、スパッタリング法で成膜するための材料をプレート状に加工したものや、該プレート状の材料をバッキングプレート(ターゲット材を貼り付けるための裏板)に貼り付けたものなどの総称であり、バッキングプレートは、無酸素銅、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデン、チタンなどの素材を用いて作製することができる。上述のターゲットの形状は、特に限定されるものではなく、丸型であってもよいし、角型であっても差し支えない。また、ターゲットの大きさは、径が1cmの円板状(平板丸型)であってもよいし、大型LCD(液晶表示装置)用のスパッタリングターゲットのように径が2mを超える角型(平板矩形)であってもよい。
【0037】
[酸化物半導体膜]
本発明の別の実施形態である酸化物半導体膜は、上記の実施形態の導電性酸化物を用いて形成されたものであり、好ましくは上記の実施形態の導電性酸化物をターゲットに用いてスパッタリング法により形成されたものである。本実施形態の酸化物半導体膜は、上記の実施形態の導電性酸化物を用いて形成されているため、その特性が安定化させてそのエッチング速度を高くなり、および/または、その電界効果移動度が高くなる。なお、スパッタリング法とは、スパッタリング装置内にターゲットと基板とを対向して配置して、ターゲットに電圧を印加してターゲット表面に希ガスイオンをスパッタリングし、ターゲットの構成原子を飛び出させ、このターゲットの構成原子を基板上に堆積されることにより、酸化物半導体膜を形成する方法をいう。
【0038】
[導電性酸化物の製造方法]
図1を参照して、本発明のさらに別の実施形態である導電性酸化物の製造方法は、ZnおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素をMとするとき、Al
2O
3粉末とMO粉末とを含む第1の混合物を調製する工程(S10)と、第1の混合物を仮焼することにより結晶質Al
2MO
4粉末を作製する工程(S20)と、結晶質Al
2MO
4粉末とIn
2O
3粉末とを含む第2の混合物を調製する工程(S30)と、第2の混合物を成形することにより成形体を得る工程(S40)と、成形体を焼結する工程(S50)と、を含む導電性酸化物の製造方法である。
【0039】
本実施形態の導電性酸化物の製造方法によれば、上記の工程を含むことにより、半導体酸化物を形成するために好適に用いられる安価な導電性酸化物、より詳しくは、スパッタリング法により酸化物半導体膜を形成するためのターゲットに好適に用いられる安価な導電性酸化物を効率よく製造することができる。
【0040】
(第1の混合物の調製工程)
ZnおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素をMとするとき、Al
2O
3粉末とMO粉末とを含む第1の混合物を調製する工程(S10)は、原料粉末としてAl
2O
3粉末とMO粉末(すなわちZnO粉末および/またはMgO粉末)とを混合することにより行われる。ここで、Al
2O
3粉末およびMO粉末の純度は、特に制限はないが、製造する導電性酸化物の品質を高くする観点から、99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が好ましい。また、Al
2O
3粉末とMO粉末との混合割合は、特に制限はないが、結晶質Al
2MO
4粉末の収率を高める観点から、モル比率で、Al
2O
3:MO=1:0.95〜1.05が好ましい。
【0041】
また、Al
2O
3粉末とMO粉末との混合方法は、特に制限はなく、乾式の混合方法であっても、湿式の混合方法であってもよい。このような混合方法として、通常のボールミルによる混合、遊星ボールミルによる混合、ビーズミルによる混合、超音波による撹拌混合などの方法が好適に用いられる。湿式の混合方法を用いた場合の乾燥方法としては、自然乾燥であっても、スプレードライヤなどを用いた強制乾燥であってもよい。
【0042】
(結晶質Al
2MO
4粉末の作製工程)
結晶質Al
2MO
4粉末を作製する工程(S20)は、上記の第1の混合物を仮焼することにより行われる。第1の混合物の仮焼温度は、800℃以上1200℃未満が好ましい。仮焼温度が800℃未満であると、未反応の原料粉末が残存し十分な結晶性を有する結晶質Al
2MO
4粉末を作製することが困難となる。仮焼温度が1200℃以上であると、仮焼により得られる結晶質Al
2MO
4粉末の粒径が大きくなりそのままでは後の焼結工程で緻密な焼結体を得ることが困難となり、焼結工程前に結晶質Al
2MO
4粉末の粉砕に時間を要する。仮焼雰囲気は、特に制限はないが、粉末からの酸素の脱離を抑制し、また簡便である観点から、大気雰囲気が好ましい。
【0043】
仮焼による結晶質Al
2MO
4粉末の形成は、ICP発光分析により求められる化学組成と、X線回折により同定される結晶相とにより、確認される。
【0044】
このようにして得られる結晶質Al
2MO
4粉末は、平均粒径が0.1μm以上1.5μm以下であることが好ましい。ここで、粉末の平均粒径は、光散乱法により算出した値を採用するものとする。
【0045】
(第2の混合物の調製工程)
結晶質Al
2MO
4粉末とIn
2O
3粉末とを含む第2の混合物を調製する工程(S30)は、結晶質Al
2MO
4粉末とIn
2O
3粉末とを混合することにより行われる。ここで、In
2O
3粉末の純度は、特に制限はないが、製造する導電性酸化物の品質を高くする観点から、99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が好ましい。また、結晶質Al
2MO
4粉末とI
2O
3粉末との混合割合は、特に制限はないが、導電性酸化物の導電性を高める観点から、モル比率で、結晶質Al
2MO
4:I
2O
3=1:0.95〜1が好ましい。
【0046】
また、結晶質Al
2MO
4粉末とI
2O
3粉末との混合方法は、特に制限はなく、乾式の混合方法であっても、湿式の混合方法であってもよい。このような混合方法として、通常のボールミルによる混合、遊星ボールミルによる混合、ビーズミルによる混合、超音波による撹拌混合などの方法が好適に用いられる。湿式の混合方法を用いた場合の乾燥方法としては、自然乾燥であっても、スプレードライヤなどを用いた強制乾燥であってもよい。
【0047】
また、添加元素を含む導電性酸化物を製造する場合は、結晶質Al
2MO
4粉末およびIn
2O
3粉末とともに、N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiからなる群より選択された少なくとも1種類の添加元素を含む原料粉末を混合する。かかる添加元素原料粉末は、特に制限はないが、構成元素および添加元素以外の不純物元素混入と酸素脱離とを抑制する観点から、AlN粉末、Al
2O
3粉末、SiO
2粉末、TiO
2粉末、V
2O
5粉末、Cr
2O
3粉末、ZrO
2粉末、Nb
2O
3粉末、MoO
2粉末、HfO
2粉末、Ta
2O
3粉末、WO
3粉末、SnO
2粉末、およびBi
2O
3粉末が好適に用いられる。このような添加元素原料粉末を添加することにより、導電性酸化物がN、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種類の添加元素を含むものとなり、電界効果移動度の高い酸化物半導体膜を作製することができる導電性酸化物を作製することができる。
(成形工程)
第2の混合物を成形することにより成形体を得る工程(S40)において、第2の混合物を成形する方法は、特に制限はないが、生産性が高い観点から、プレス成形、CIP(冷間等方圧プレス)成形、鋳込み成形などの方法が好適に用いられる。また、段階的に効率的に成形する観点から、プレス成形した後、さらにCIP成形することが好ましい。
【0048】
(焼結工程)
成形体を焼結する工程(S50)により、導電性酸化物が得られる。成形体の焼結温度は、成形体が含んでいる結晶質Al
2MO
4粉末(ここで、MはZnおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素である)の種類によって異なる。
【0049】
成形体が結晶質Al
2MO
4粉末として結晶質Al
2ZnO
4粉末を含む場合は、その成形体の焼結温度は、1280℃以上1500℃未満が好ましい。焼結温度が1280℃未満であると、結晶質Al
2ZnO
4粉末とIn
2O
3粉末との焼結が十分でなく、スパッタリングのターゲットとして必要な緻密な焼結体を作製するのが困難である。焼結温度が1500℃以上であると、結晶質Al
2ZnO
4が形成されず結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pのみが形成されるため、導電性酸化物をターゲットとするスパッタリングにより得られる酸化物半導体膜は、その特性が不安定になり、その表面粗さRaが大きくなるとともにそのエッチング速度が低くなる。ここで、成形体の焼結温度が1280℃以上1300℃未満の場合は、結晶相には結晶質Al
2ZnO
4および結晶質In
2O
3が形成される。形成体の焼結温度が1300℃以上1500℃未満の場合は、結晶相には結晶質Al
2ZnO
4および結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pが形成される。
【0050】
成形体が結晶質Al
2MO
4粉末として結晶質Al
2MgO
4粉末を含む場合は、その成形体の焼結温度は、1300℃以上1500℃以下が好ましい。焼結温度が1300℃未満であると、結晶質Al
2MgO
4粉末とIn
2O
3粉末との焼結が十分でなく、スパッタリングのターゲットとして必要な緻密な焼結体を作製するのが困難である。焼結温度が1500℃より高いと、Mgが脱離してしまい、焼結体の組成ばらつきが発生し不均質となる。ここで、成形体の焼結温度が1300℃以上1390℃未満であると結晶相には結晶質Al
2MgO
4および結晶質In
2O
3が形成される。形成体の焼結温度が1390℃以上1500℃
以下の場合は、結晶相には結晶質Al
2ZnO
4および結晶質In
2Al
2(1-n)Zn
1-tO
7-sが形成される。
【実施例】
【0051】
[実施例A]
1.第1の混合物の調製
Al
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET(Brunauer,Emmett,Teller)比表面積:10m
2/g)と、ZnO粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:4m
2/g)とを、Al
2O
3:ZnO=1:1のモル混合比率で、ボールミル装置を用いて3時間粉砕混合することにより、第1の混合物としてAl
2O
3−ZnO混合物を作製した。粉砕混合の際の分散媒としては、水を用いた。この混合物を、スプレードライヤで乾燥させることにより、第1の混合物を得た。
【0052】
2.結晶質Al
2ZnO
4粉末の作製
得られた第1の混合物を、酸化アルミニウム製ルツボに入れて、大気雰囲気中で900℃の温度で5時間仮焼した。こうして、結晶質Al
2ZnO
4で形成される仮焼粉末である結晶質Al
2ZnO
4粉末が得られた。結晶質Al
2ZnO
4の存在は、ICP発光分析により求められる化学組成と、X線回折により同定される結晶相とにより、確認した。
【0053】
3.第2の混合物の調製
得られた結晶質Al
2ZnO
4粉末(仮焼粉末)と、In
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:5m
2/g)とを、結晶質Al
2ZnO
4:In
2O
3=1:0.95のモル混合比率で、ボールミル装置を用いて6時間粉砕混合することにより、第2の混合物としてIn
2O
3−結晶質Al
2ZnO
4混合物を調製した。粉砕混合の際の分散媒としては、水を用いた。この混合物を、スプレードライヤで乾燥させることにより、第2の混合物を得た。
【0054】
4.成形
得られた第2の混合物を、面圧1.0トンf/cm
2の条件でプレス成形し、各面圧2.0トンf/cm
2の条件でCIP成形することにより、8個の直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を得た。
【0055】
5.焼結
得られた8個の成形体を、1250℃(例A1)、1280℃(例A2)、1300℃(例A3)、1350℃(例A4)、1375℃(例A5)、1400℃(例A6)、1450℃(例A7)、1500℃(例AR1)の温度でそれぞれ5時間焼結することにより、導電性酸化物として結晶質の組成比率が互いに異なる8個の焼結体(例A1〜A7、および例AR1)が得られた。
【0056】
得られた焼結体(導電性酸化物)について、それらの相対密度を以下の方法により算出した。まず、得られた焼結体の嵩密度をアルキメデス法により測定した。次いで、その焼結体を粉砕してその粉末をピクノメータ法により真密度を測定した。次いで、嵩密度を真密度で除することによりその焼結体の相対密度を算出した。
【0057】
また、それらの導電性酸化物の断面積に占める結晶質Al
2ZnO
4、結晶質In
2Al
2(1-m)Zn
1-qO
7-pおよび結晶質In
2O
3の割合を、それらの導電性酸化物の主表面を研磨して、研磨後の主表面のEDX(エネルギー分散型X線分析)により、算出した。結果を表1にまとめた。
【0058】
6.スパッタリングによる酸化物半導体膜の作製および評価
得られた上記8個の導電性酸化物をターゲットとして、DC(直流)マグネトロンスパッタリングにより、8個の酸化物半導体膜をそれぞれ作製した。具体的には、スパッタリング装置の成膜室内の水冷している基板ホルダ上に、成膜用基板として25mm×25mm×厚さ0.6mmの合成石英ガラス基板を配置した。上記の導電性酸化物を、その主表面が上記の合成石英ガラス基板の主表面に対向するように40mmの距離に配置した。ここで、合成石英ガラス基板は、その主表面の一部領域を金属マスクで被覆した。
【0059】
次に、成膜室内を1×10
-4Paまで減圧した。次いで、合成石英ガラス基板と導電性酸化物(ターゲット)との間にシャッターを入れた状態で、成膜室内へArガスを1Paの圧力まで導入し、30Wの直流電力を印加してスパッタリング放電を起こし、これによって導電性酸化物(ターゲット)表面のクリーニング(プレスパッタ)を10分間行なった。次いで、成膜室内へ20Paの圧力までArガスを導入し、50Wの直流電力を印加してスパッタリング放電を起こし、上記シャッターを外して1時間酸化物半導体膜を成膜した。なお、基板ホルダに対しては、特にバイアス電圧は印加されておらず、水冷がされているのみであった。酸化物半導体膜の成膜後に合成石英ガラス基板を成膜室から取り出したところ、合成石英ガラス基板上において金属マスクで覆われていなかった領域のみにIn−Al−Zn系複合酸化物(IAZO)の酸化物半導体膜が形成された。得られた酸化物半導体膜は、その結晶性をX線回折(リガク社製SmartLab)により評価したところ、非晶質(アモルファス)であった。
【0060】
(1)表面粗さRaの評価
得られた酸化物半導体膜の表面粗さRaを、AFM(原子間力顕微鏡)により10μm×10μm角の範囲で測定した。結果を表1にまとめた。
【0061】
(2)エッチング速度の評価
合成石英ガラス基板上において、酸化物半導体膜が形成された領域と金属マスクに覆われて酸化物半導体膜が形成されなかった領域との間の段差を触針式表面粗さ計で測定することによって、成膜された酸化物半導体膜の厚さを求めた。
【0062】
その後、モル比率でリン酸:酢酸:水=4:1:100のエッチング水溶液を調製し、酸化物半導体膜が形成された合成石英ガラス基板をそのエッチング液内に浸漬させた。このとき、エッチング液は、ホットバス内で50℃に昇温されていた。浸漬時間を2分間に設定し、その間にエッチングされずに残った酸化物半導体膜の厚さを触針式の表面粗さ計にて測定した。エッチング前後における酸化物半導体膜の厚さの差をエッチング時間で割ることによりエッチング速度を算出した。結果を表1にまとめた。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、例A1〜A7に示すように、Inと、Alと、Znと、Oと、を含み、かつ、結晶質Al
2ZnO
4を含む導電性酸化物は、それをターゲットとするスパッタリングにより、安定した特性を有しエッチング速度が高い酸化物半導体膜を作製することができた。さらに、例A3〜A7に示すように、断面積に占める結晶質Al
2ZnO
4の割合が10%以上60%以下の導電性酸化物は、それをターゲットとするスパッタリングにより、表面粗さRaが細かい酸化物半導体膜を作製することができた。
【0065】
[実施例B]
(例B1〜B6)
実施例Bの例B1〜B6においては、結晶質Al
2MgO
4と結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-nO
7-4n(0≦n<1)とを含む導電性酸化物を作製した。
【0066】
1.第1の混合物を調製
Al
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:5m
2/g)と、MgO粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:6m
2/g)とを、モル混合比率がAl
2O
3:MgO=1:1となるようにボールミル装置に入れた。これらの粉末を分散溶媒として水を用いて30分間粉砕混合した。その後、スプレードライヤによって水を揮発させることにより、Al
2O
3−MgO混合物からなる第1の混合物を得た。
【0067】
2.結晶質Al
2MgO
4粉末の作製
次に、上記の第1の混合物を酸化アルミニウム製ルツボに入れて、900℃の大気雰囲気中で5時間の仮焼を行なうことにより、結晶質Al
2MgO
4粉末が得られた。結晶質Al
2MgO
4の存在は、ICP発光分析により求められる化学組成と、X線回折により同定される結晶相とにより、確認した。
【0068】
3.第2の混合物の調製
上記の結晶質Al
2MgO
4粉末とIn
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:8m
2/g)とを、モル混合比率がAl
2MgO
4:In
2O
3=1:1となるようにボールミル装置に入れた。そして、これらの粒子を分散溶媒として水を用いて6時間粉砕混合した。その後、スプレードライヤによって水を揮発させることにより、第2の混合物であるIn
2O
3−結晶質Al
2MgO
4混合物を得た。
【0069】
4.成形
上記で得られた第2の混合物を、面圧1.0トンf/cm
2の条件でプレス成形し、各面圧2.0トンf/cm
2でCIP成形することにより、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を作製した。
【0070】
5.焼結
このようにして得られた成形体を大気雰囲気中にて、以下の表2の「焼結温度」の欄に示す温度で5時間焼成することにより導電性酸化物を作製した。なお、焼結温度を1390℃以上1500℃以下としたことにより、結晶質Al
2MgO
4および結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-nO
7-4nを含む導電性酸化物が得られた。
【0071】
(例B7)
例B1に対し第2の混合物の調製方法ならびに成形体の焼結温度が異なる他は、例B1と同様の製造方法によって、例B7の導電性酸化物を作製した。すなわち、例B7では、第2の混合物を調製する工程において、結晶質Al
2MgO
4粉末とIn
2O
3粉末に加え、AlN粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:5m
2/g)を加えたことにより、In
2O
3−AlN−結晶質Al
2MgO
4混合粉体からなる第2の混合物を得た。かかる第2の混合物を用いて、1390℃の焼結温度で、大気圧、窒素雰囲気にて5時間焼結することにより、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を作製した。
【0072】
(例B8〜B20)
例B8〜B20では、例B7に対し、第2の混合物の調整方法ならびに成形体の焼結温度および焼結雰囲気が異なる他は、例B7と同様の製造方法によって、例B8〜B20の導電性酸化物を作製した。すなわち、例B8〜B20では、例B7のAlN粉末を、添加元素を含む酸化物粉末(Al
2O
3粉末、SiO
2粉末、TiO
2粉末、V
2O
5粉末、Cr
2O
3粉末、ZrO
2粉末、Nb
2O
3粉末、MoO
2粉末、HfO
2粉末、Ta
2O
3粉末、WO
3粉末、SnO
2粉末、Bi
2O
3粉末)に代え、表2に示す焼結温度で、大気中にて焼結を行ない、例B8〜B20の導電性酸化物を作製した。
【0073】
(例BR1)
例BR1では、例B1〜B20の導電性酸化物の製造方法とは異なる工程により導電性酸化物を作製した。すなわち、例BR1の導電性酸化物の製造方法では、まずAl
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:11m
2/g)と、MgO粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:4m
2/g)と、In
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:5m
2/g)とを、モル混合比率がIn
2O
3:Al
2O
3:MgO=1:1:1となるようにビーズミル装置に投入した。そして、これらの混合粉末を分散溶媒として水を用いて30分間粉砕混合した。その後、スプレードライヤによって水を揮発させることにより、In
2O
3−Al
2O
3−MgO混合物を得た。
【0074】
次に、得られた混合物を酸化アルミニウム製ルツボに入れて、1200℃の大気雰囲気中で5時間の仮焼を行なうことにより、結晶質In
2Al
2MgO
7粉末を得た。
【0075】
上記で得られた結晶質In
2Al
2MgO
7粉末を一軸加圧成形によって成形することにより、直径100mm、厚さ9mmの円板状の成形体を作製した。この成形体を大気雰囲気中にて1500℃で5時間焼成することにより、例BR1の導電性酸化物を作製した。粉末の混合方法と、焼結温度が1500℃以上であることとにより、結晶質In
2Al
2MgO
7のみが形成され、結晶質MgAl
2O
4および結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-nO
7-4nは形成されなかった。
【0076】
(例BR2)
例BR2では、例B1〜B20の導電性酸化物の製造方法とは異なる工程により導電性酸化物を作製した。すなわち、まずIn
2O
3粉末(純度:99.99質量%、BET比表面積:5m
2/g)をビーズミル装置に投入した。そして、In
2O
3粉末を分散溶媒として水を用いて30分間粉砕混合した。その後、スプレードライによって水を揮発させることにより、In
2O
3のみからなる造粒粉を形成した。
【0077】
次に、上記で得られた造粒粉を一軸加圧成形によって成形することにより、直径100mm、厚さ9mmの円板上の成形体を作製した。このようにして作製した成形体を大気雰囲気中にて1500℃で5時間焼結することにより例BR2の導電性酸化物を作製した。
【0078】
(例B21〜B26)
例B1に対し第1の混合物および第2の混合物中の原料粉末の混合比率が異なると共に焼結温度が1390℃未満である他は、例B1と同様の方法によって、例B21〜B26の導電性酸化物を作製した。すなわち、例B21〜B26では、表3の「原子濃度比率」の欄に示す原子比率となるように、Al
2O
3粉末と、MgO粉末と、In
2O
3粒子との混合比率を調整した。なお、焼結温度を1390℃未満としたことにより、導電性酸化物が結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-nO
7-4nを含まなかった。
【0079】
(例B27)
例B7に対し焼結温度が異なる他は、例B7と同様の方法によって、例B27の導電性酸化物を作製した。なお、焼結温度を1390℃未満としたことにより、導電性酸化物は結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-nO
7-4nを含まなかった。
【0080】
(例B28〜B40)
例B8〜B20のそれぞれに対し焼結温度が異なる他は、例B8〜B20のそれぞれと同様の方法によって、例B28〜B40のそれぞれの導電性酸化物を作製した。なお、焼結温度を1390℃未満としたことにより、導電性酸化物が結晶質In
2Al
2(1-n)Mg
1-nO
7-4nを含まなかった。
【0081】
例B1〜B40および例BR1〜BR2の導電性酸化物に対し、ICP発光分析を用いてIn、Al、およびMgの原子比率(単位:原子%)を測定した。その結果を表2および3中の「原子濃度比率」の欄に示す。また、例B1〜B40および例BR1〜BR2で作製した導電性酸化物を任意の一面で切断し、該切断面を分析型走査電子顕微鏡を用いて蛍光X線分析することにより、導電性酸化物の断面積を占める結晶質Al
2MgO
4の割合および結晶質In
2O
3の割合を算出した。その結果を表2および3中の「断面積中のAl
2MgO
4割合」、「断面積中のIn
2O
3割合」の欄に示す。なお、例B1〜B20の導電性酸化物の断面およびX線回析による評価では結晶質In
2O
3の領域を確認できなかった。
【0082】
例B1〜B40で作製した導電性酸化物に対し、粉末X線回折法によって結晶解析を行なった。具体的には、X線としてCuのKα線を照射して回折角2θを測定し、この回折ピークによってIn
2O
3およびAl
2MgO
4がいずれも結晶質であることを確認した。一方、例BR1で作製した導電性酸化物は、Al
2MgO
4の存在が分析型走査電子顕微鏡およびX線回析による評価を用いても確認されず、X線回析でIn
2Al
2MgO
7の回析ピークが確認された。
【0083】
また、例B1〜B40および例BR1〜BR2で作製した導電性酸化物をSIMSにより、添加元素の組成および該添加元素の1cm
3当りの原子数(atom/cm
3)を算出した。その結果を表2および3の「添加元素」および「濃度」の欄に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
(評価:電界効果移動度)
例B1〜B40および例BR1〜BR2で得られた導電性酸化物をターゲットとして用いて、DC(直流)マグネトロンスパッタ法により酸化物半導体膜を成膜した。該酸化物半導体膜をチャネル層として備えるTFTを作製し、各TFTの電界効果移動度を算出することにより、例B1〜B40および例BR1〜BR2の導電性酸化物の性能を評価した。
【0087】
上記の電界効果移動度は、具体的には次のようにして算出した。まず、例B1〜B40および例BR1〜BR2で得られた導電性酸化物を直径3インチ(76.2mm)で厚さ5.0mmのターゲットに加工した。そして、直径3インチの面がスパッタ面となるようにターゲットをスパッタリング装置内に配置した。一方、スパッタリング装置の水冷されている基板ホルダに、25mm×25mm×0.5mmの導電性Siウェハ(<0.02Ωcm)からなる成膜用基板を配置し、成膜用基板の表面の一部を金属マスクで覆った。このとき、ターゲットと成膜用基板との距離は40mmであった。
【0088】
そして、スパッタリング装置内を1×10
-4Pa程度まで真空引きし、基板とターゲットとの間にシャッターを入れた状態で、成膜室にArガスを導入して成膜室内の圧力を1Paとし、さらにターゲットに120Wの直流電力を印加してスパッタリング放電することにより、ターゲット表面のクリーニング(プレスパッタ)を10分間行なった。
【0089】
その後、流量比率で15体積%の酸素ガスを含むArガスを成膜室内に導入して成膜室内の圧力を0.8Paとし、さらにターゲットに120Wのスパッタ直流電力を印加することにより、ガラス基板上に70nmの厚みの酸化物半導体膜を成膜した。なお、基板ホルダは、水冷するのみでバイアス電圧を印加しなかった。
【0090】
このようにして作製した酸化物半導体膜を所定のチャネル幅およびチャネル長さに加工するために、酸化物半導体膜上に所定の形状のレジストを塗布、露光、現像した。そして、この酸化物半導体膜付きのガラス基板を、リン酸:酢酸:水=4:1:100のモル比率に調整したエッチング水溶液に浸漬させることにより、所定のチャネル幅およびチャネル長さとなるように酸化物半導体膜をエッチングした。
【0091】
次に、酸化物半導体膜上のうちのソース電極およびドレイン電極が形成される部分のみが露出するように、酸化物半導体膜上にレジストを塗布、露光、現像した。上記でレジストを形成していない部分(電極形成部)に対し、スパッタリング法を用いてTiからなる金属層、Alからなる金属層、Moからなる金属層を、この順に形成することにより、Ti/Al/Moの3層構造で膜厚が100nmのソース電極およびドレイン電極を形成した。その後、酸化物半導体膜上のレジストを剥離することにより、In−Al−Mg−Oからなる酸化物半導体膜をチャネル層として備えるTFTを作製した。
【0092】
上記のようにして作製したTFTに対し、以下のようにして電界効果移動度(μ
fe)を算出した。まず、TFTのソース電極およびドレイン電極の間に5Vの電圧を印加し、ソース電極と、Siウエハからなるゲート電極との間に印加する電圧(V
gs)を−10Vから20Vに変化させて、そのときのドレイン電流(I
ds)を式(1)に代入することにより、V
gs=10Vでのg
m値を算出した。次に、上記で算出したg
m値を式(2)に代入し、さらにW=20μm、L=15μmを代入することにより電界効果移動度(μ
fe)を算出した。この結果を表2および3の「電界効果移動度」の欄に示す。なお、電界効果移動度の値が高いほど、TFTの特性が良好であることを示す。
【0093】
g
m=dI
ds/dV
gs ・・・式(1)
μ
fe=g
m・L/(W・C
i・V
ds) ・・・式(2)
(評価結果と考察)
表2および3に示される結果から、例B1〜B40の導電性酸化物を用いて作製した酸化物半導体膜は、例BR1〜BR2の導電性酸化物を用いて作製した酸化物半導体膜に比して、TFTの電界効果移動度が高い値を示している。これは、例B1〜B40の導電性酸化物が、In、Al、Mg、Oを含み、かつ結晶質として結晶質Al
2MgO
4を含むことによるものと考えられる。
【0094】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。