特許第5929912号(P5929912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5929912血液浄化装置および血液浄化装置の自動プライミング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929912
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】血液浄化装置および血液浄化装置の自動プライミング方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/14 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   A61M1/14 560
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-520570(P2013-520570)
(86)(22)【出願日】2012年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2012065169
(87)【国際公開番号】WO2012173161
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-133476(P2011-133476)
(32)【優先日】2011年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中村 将太
【審査官】 川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−253555(JP,A)
【文献】 特開2007−282737(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/096321(WO,A1)
【文献】 特開2012−139405(JP,A)
【文献】 特開2010−000161(JP,A)
【文献】 特開2002−325837(JP,A)
【文献】 特開平03−060671(JP,A)
【文献】 実開平04−013144(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器の血液側にエアを導入して該血液側の内圧を高め、前記血液浄化器の透析液側に導入された透析液が前記血液側に移行しないようにしながら、前記透析液側に透析液の充填を行った後、前記血液側をプライミングすることを特徴とする、血液浄化装置のプライミング方法。
【請求項2】
血液浄化器の血液側の内圧を250〜500mmHgに制御する請求項1に記載のプライミング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管から体外に取り出した血液を浄化し、必要ならばこれに有用物質を補給することにより、生体の臓器機能を補助あるいは代行する血液浄化装置に関するもので、使用される血液浄化器を自動的にプライミングすることができるようにしたことを特徴とする。また、本発明は、上記の血液浄化装置を用いて行う自動プライミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腎不全の患者や、術後の薬液注入によって水分過多症になった患者などの重篤な状態を改善するために、血液浄化装置を使用する血液透析や血液濾過が行われている。そして、一般に、血液浄化装置は、その使用に際して、血液回路内にプライミング液(一般に、生理食塩液)を導入充填して回路内の異物および空気を除去する処理(プライミングという)を行っている。そして、血液浄化装置の自動プライミング方法および処理装置については、動脈側血液回路と静脈側血液回路を連結して血液循環路を形成し、血液ポンプを作動させてプライミング液を血液循環路に循環させるとともに、プライミング液貯留容器から血液循環路にプライミング液を所定の流量で供給することにより、ドリップチャンバーに設けたオーバーフロー用チューブよりプライミング液の一部を排出してプライミングを行うようにした人工透析装置(例えば、特許文献1)や、特許文献1の装置において、プライミング液供給系からのプライミング液をそれ自体の落差を利用して血液ポンプの上流の動脈側回路部分から静脈側回路を通ってオーバーフロー系へと流動させる静脈側洗浄排出行程と、プライミング液供給系からのプライミング液をそれ自体の落差および血液ポンプを利用して血液ポンプの下流の動脈側回路部分からオーバーフロー系へと流動させる動脈側洗浄排出行程と、前記両工程による血液循環回路内の滞留液を血液ポンプにより血液循環路全体に循環させる全体洗浄循環行程を含んでなる自動プライミング方法および装置(例えば、特許文献2)、静脈側ドリップチャンバーに液面調整ラインが設けられ、動脈側採血部に採血側コネクタが設けられるとともに、液面調整ラインに採血側コネクタと接続可能なコネクタが設けられ、さらに、プライミング液供給ラインとの接続部分より上流側の動脈側血液回路に開閉手段が設けられてなり、この開閉手段を開き液面調整ラインのコネクタと採血側コネクタを接続することにより、プライミング液ラインとの接続部分より上流側の動脈側血液回路と静脈側ドリップチャンバーより下流側の静脈側血液回路をプライミングできるようにしてなる血液浄化装置(特許文献3)が提案されている。
【0003】
ところで、上記特許文献1および特許文献2の血液浄化装置は、動脈側血液回路と静脈側血液回路を連結して血液循環路を形成するものであり、プライミングに際してオーバーフローラインを必要としている。そして、このオーバーフローラインは、静脈側ドリップチャンバーの液面調整ラインに1メートル程度の長さを有するオーバーフロー用チューブを着脱自在に接続してなるものであり、治療中の液面調整がしにくいため、治療に際してオーバーフロー用チューブを取り外す必要があった。従って、その接続・取り外しに余分に手間がかかる上、チューブに付着している排出された使用済プライミング液の残液が、手に付着したり床に滴ったりして不潔であり、また、感染の問題がある。また、上記特許文献3の血液浄化装置は、プライミングに際してオーバーフローラインを必要としないものではあるが、ドリップチャンバー内にプライミング液(生食)を満たしてエアを追い出すためには、動脈側ドリップチャンバー、静脈側ドリップチャンバー及び血液浄化器を反転する必要があり、そのため、プライミングに際して余分な手作業が必要になり、面倒であった。
【0004】
そこで、本出願人は、すでに、プライミングに際して動脈側エアトラップチャンバや静脈側エアトラップチャンバ、血液浄化器の反転操作を必要としない、また、オーバーフロー用チューブを必要としない血液浄化装置および、その血液循環路のプライミング方法を提案している(特許文献4)。このものは、血液浄化器と血液回路、血液ポンプ、該血液ポンプの上流側で動脈側血液回路に接続されたプライミング液供給ライン、静脈側血液回路に設けられた静脈側エアートラップおよび気泡センサーを含んでなる血液浄化装置において、前記静脈側エアートラップに、前記プライミング液供給ラインと接続可能なラインが設けられてなる血液浄化装置、および、落差を利用して、プライミング液供給ラインとの接続部分より上流側の動脈側血液回路と静脈側エアートラップより下流側の静脈側血液回路をプライミングする工程と、血液ポンプを駆動して、静脈側エアートラップより上流側の血液循環路をプライミングする工程とを含んでなる上記血液浄化器の血液循環路のプライミング法である。
【0005】
しかしながら、特許文献4の血液浄化装置は、プライミングに際して、静脈側エアートラップとプライミング液供給ラインとの接続および切り離しを手動で行う必要があり、プライミングを完全に自動化することができるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】実公平5−19075号公報
【特許文献2】特許公報第2659914号
【特許文献3】特開2004−357957号公報
【特許文献4】特開2007−190068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、如上の事情に鑑みてなされたもので、血液循環路のプライミング操作を完全自動化することができる血液浄化装置および、その血液浄化装置のプライミング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の血液浄化装置は、血液浄化器と血液回路、血液ポンプ、この血液ポンプの上流側で動脈側血液回路に接続されたプライミング液供給ライン、静脈側血液回路に設けられた静脈側エアトラップチャンバ(静脈チャンバ)を含んでなり、前記静脈チャンバに、前記血液浄化器の血液側にエアを導入して加圧するエア加圧ラインが設けられるとともに、このエア加圧ラインに前記血液浄化器の血液側の内圧を制御する圧力制御手段が設けられてなることを特徴とする。
ここで、エア加圧ラインは、上流端にエアフィルタが設けられ下流端が静脈チャンバに接続されたエア供給路と、このエア供給路に設けられた、上流側のエア供給手段と、下流側の開閉弁を含んでなる。
【0009】
また、本発明の血液浄化器のプライミング方法は、血液浄化器の血液側にエアを導入してこの血液側の内圧を高め、前記血液浄化器の透析液側に導入された透析液が前記血液側に移行しないようにしながら、前記透析液側に透析液の充填を行った後、前記血液側をプライミングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果が期待できる。すなわち、本発明の血液浄化装置によれば、プライミングに際して、血液浄化器の血液側にエアを導入してこの血液側の内圧を高めることができるので、先に血液浄化器の透析液側に透析液を導入したときに、透析液側の内圧より血液側の内圧を大きくすることができ、従来発生していた透析液側に導入された透析液の血液側への移行(血液側のプライミングに際しエアブロッキングの原因になっていた)を防ぐことができる。従って、先に透析液側に透析液の充填を行った後、前記血液側をプライミングすることができるので、先に血液側にプライミング液を導入したときに必要な静脈側チャンバや血液浄化器の反転操作を必要としない。
本発明のプライミング方法では、血液浄化器の透析液側にカプラを取り付け、透析液ラインを接続した状態からプライミング操作を行うことができるので、血液浄化器のプライミング操作を完全に自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の血液浄化装置の実施例を示す概略説明図である。
図2】本発明の血液浄化装置の他の実施例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
血液浄化器と血液回路、血液ポンプ、この血液ポンプの上流側で動脈側血液回路に接続されたプライミング液供給ライン、静脈側血液回路に設けられた静脈側エアトラップチャンバ(静脈チャンバ)を含んでなり、前記静脈チャンバに、前記血液浄化器の血液側にエアを導入して加圧するエア加圧ラインが設けられ、この加圧ラインに前記血液浄化器の血液側の内圧を制御する圧力制御手段が設けられている。エア加圧ラインは、上流端にエアフィルタが設けられ下流端が静脈チャンバに接続されたエア供給路と、このエア供給路に設けられた、上流側のエア供給手段と、下流側の開閉弁からなる。
【0013】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1について、図1を用いて説明する。
図1は本発明の一実施例を示す血液浄化装置(血液透析装置)の概略説明図である。
図1に示すように、実施例1の血液析装置は、血液浄化器(血液透析器)1と血液回路21、22、血液ポンプ3、この血液ポンプ3の上流側で動脈側血液回路21に接続されたプライミング液供給ライン4、静脈側血液回路22に設けられた静脈チャンバ23を含んでなり、静脈チャンバ23には、血液透析器1の血液側にエアを導入して加圧するエア加圧ライン5が設けられるとともに、このエア加圧ライン5に血液透析器1の血液側の内圧を制御する圧力制御手段6が設けられている。
【0014】
図1において、透析治療時の患者からの血液は、動脈側血液回路21から血液透析器1の血液通路に供給され静脈側血液回路22を通って患者に戻される(以下、これら血液の通路を総称して血液循環路という)。動脈側血液回路21には、上流側から順に、開閉弁V1、血液ポンプ3が設けられている(必要ならば動脈側エアトラップチャンバを設けてもよい)。そして、血液ポンプ3と開閉手段V1の間の動脈側血液回路21には、プライミング液供給ライン4が接続されており、プライミング液供給ライン4には、その上流にプライミング液容器41が設けられ、下流には開閉手段V3が設けられている。
一方、静脈側血液回路22には、上流側から順に、静脈チャンバ23、静脈側血液回路22への気泡の混入の有無を検知するための気泡センサ24、開閉手段V2が設けられており、排出されたプライミング液は廃液容器(図示していない)に流入する。静脈チャンバ23には圧力計PVが設けられており、静脈側の内圧が測定されるようになっている。また、静脈チャンバ23には、エア加圧ライン5が設けられるとともに、このエア加圧ライン5に血液透析器1の血液側の内圧を制御する圧力制御手段6が設けられている。
【0015】
エア加圧ライン5は、血液透析器1の血液側にエアを導入して加圧するためのラインで、上流端にエアフィルタ52が設けられ下流端が静脈チャンバ23に接続されたエア供給路51と、このエア供給路51に設けられた、上流側のエア供給手段(エアポンプ)53と、下流側の開閉弁V4からなる。エアポンプ53は、圧力制御手段6によって血液透析器1の血液側に導入されるエアの圧力が250〜500mmHgになるように制御されている。尚、7は除水制御装置、71は透析液供給ライン、72は透析液排出ラインである。
【0016】
プライミングに際しては(最初は開閉弁V1、V2、V3、V4が閉になっている)、先ず開閉弁V4を開になり、エアポンプ53が駆動されて、エア加圧ライン5から静脈チャンバ23を通って血液透析器1の血液側にエアを導入される。次いで、開閉弁V3が開になり、透析液ポンプ(図示していない)が駆動されて、除水制御装置7から透析液供給ライン71を通って血液透析器1の透析液側に透析液が充填される。このとき、血液側の内圧が透析液側の内圧と同等またはそれより大きくなるように圧力制御手段6によりエア圧が制御されている。透析液側の透析液充填が終了したら、開閉弁V4が閉になり、開閉弁V1、V3が開になって、落差により、プライミングライン4を通ってプライミング容器41のプライミング液が、動脈側血液回路21とプライミング液供給ライン4との接続部分25より上流側の血液循環路に導入され、この部分がプライミングされる。接続部分25より上流側の血液循環路のプライミングが終了すると、開閉弁V1が閉になり、開閉弁V2が開になって、血液ポンプ3が駆動されて、動脈側血液回路21とプライミング液供給ライン4との接続部分25より下流側の血液循環路に導入され、血液透析器1の血液側を含む接続部分25より下流側の血液循環路がプライミングされる。これで、血液循環路の完全自動プライミングが終了する。
尚、エアの圧力が血液透析器1の透析液側の内圧より大きくなるように制御されておれば、透析液側の透析液充填が終了したときに、同時に血液透析器1のリーク検査を行うことができる。すなわち、透析液側の透析液充填が終了したときに、血液側の内圧(圧力計PVで測定される)が圧力制御手段6で設定された圧力よりも低くなっている場合、血液透析器1にリークが発生していると思われるので、その交換が必要になる。
【0017】
(実施例2)
次に実施例2について図2を用いて説明する。
図2は、本発明の他の一実施例を示す血液浄化装置(血液透析装置)の概略説明図である。
図2に示すように、本発明の血液透析装置は、図1において、プライミング液供給ライン4が透析液供給装置7の透析液ポンプ(図示していない)より下流側で透析液供給ライン71に接続されたことを特徴とする。
この装置の場合、血液循環路のプライミングは、血液透析器1の血液側のプライミング液が透析液になること、および動脈側血液回路21とプライミング液供給ライン4との接続部分25より上流側の血液循環路のプライミングに、透析液ポンプ(図示していない)が駆動されること、を除けば実施例1と同様である。
【符号の説明】
【0018】
1 血液浄化器(血液透析器)
21 動脈側血液回路
22 静脈側血液回路
23 静脈側エアトラップチャンバ(静脈チャンバ)
24 気泡センサ
25 動脈側血液回路とプライミング液供給ラインとの接続部分
3 血液ポンプ
4 プライミング液供給ライン
41 プライミング液容器
5 エア加圧ライン
51 エア供給路
52 エアフィルタ
53 エア供給手段(エアポンプ)
6 圧力制御手段
7 除水制御装置
71 透析液供給ライン
72 透析液排出ライン
V1、V2、V3、V4 開閉弁
図1
図2