特許第5929975号(P5929975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5929975
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20160526BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20160526BHJP
   B60C 23/04 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   B60C19/00 G
   B60C5/00 F
   B60C23/04 H
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-149459(P2014-149459)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-22868(P2016-22868A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2015年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隼人
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−240465(JP,A)
【文献】 特表2002−502765(JP,A)
【文献】 特開2007−062405(JP,A)
【文献】 特開2009−298329(JP,A)
【文献】 特開2012−025318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 19/00
B60C 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面に、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の機械的留め具であるとともに、少なくとも2つ以上の留め具構成部材から構成される機械的留め具が設置されてなる空気入りタイヤにおいて、
(a)該2つ以上の留め具構成部材がゴム被覆された複数層の繊維補強材を挟んで固定されていて、
かつ、
(b)該機械的留め具の設置位置が、該機械的留め具の中心位置Cとタイヤ赤道線Lとのタイヤ幅方向の距離D(mm)が、該タイヤの最大幅W(mm)に対して、0≦D/W≦0.40の関係を満足し、
さらに、
(c)前記複数層の繊維補強材に含まれる各繊維補強材は、複数本の繊維束が1方向に配列されて形成されてなるものであり、該繊維補強材の単位幅当たりの繊維束本数Y(本/50mm幅)が、20≦Y(本/50mm幅)≦90であ
(d)前記繊維束の1本当たりの繊維断総面積A(mm2 /繊維束)が0.05≦A(mm2 /繊維束)≦1.20であり、
(e)前記繊維束のヤング率が2〜8GPaであり、
(f)前記複数層の繊維補強材に含まれる各繊維補強材の繊維束配列方向が層間で相互に交差することによって、前記繊維補強材は全体として前記繊維束が2方向以上に配列された状態を構成しており、
(g)前記留め具を前記タイヤ内面に投影した留め具領域を通過する前記繊維補強材中の各繊維束の平均長さL(mm)が、15≦L(mm)≦200であり、
(h)前記留め具を前記タイヤ内面に投影した留め具領域を通過する前記繊維補強材中の繊維束の本数が、8〜30本である、
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記繊維補強材中の繊維束が配列されている方向が、タイヤ周方向となす角度(劣角θ)として15度≦θ≦75度であることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記2つ以上の留め具構成部材に挟み込まれる繊維補強材が、該繊維補強材を平面視したときの輪郭形状が、鋭利な角部を持たず、曲率半径が5mm以上の曲線で構成されているか、あるいは該曲率半径が5mm以上の曲線と直線の組み合わせによって構成されているものであること特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記留め具を前記タイヤ内面に投影した該留め具の輪郭形状が、該輪郭形状の重心位置から最も遠い該輪郭線上の任意の点までの距離Rが2〜60mmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
タイヤ内面にある前記一方の留め具に係合する他方の留め具を有する物体を、それら2つの留め具を係合させることによりタイヤ内面に固定してなることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記他方の留め具を有する物体が、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体であることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、空気入りタイヤの内面に物体を強固に取付けることができる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤの内面に、さまざまな特定機能を有する物体を配設することが種々検討されてきている。
【0003】
たとえば、生タイヤのインナーライナー等に、フック・アンド・ループ留め具あるいはフック・アンド・フック留め具等の、所謂、面ファスナーを用いてタイヤタグ(高周波識別タグ)、チップあるいは吸音材等を取付けるという取付け方法が提案されている(特許文献1−2)。
【0004】
これら特許文献1、同2に提案されている面ファスナーは、取付け時において比較的強い係合力を実現し、また、取付け作業の際にも多少の位置的なズレなどを問題にせずに面状での係合を実現できる点で好ましいものである。しかし、比較的温度が高めの状況のもとで高速での転動による変形と圧縮が長時間繰り返されることにより、部分的な物理的劣化の発生とそれが進行していくことによる面ファスナー全体の係合力の経時的な劣化・低下が生じて、所望どおりの係合力を長期間にわたって維持することが難しい場合があるという問題があった。
【0005】
本発明者らは、そうした問題がなく、特に得られる係合力が大きくかつその大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰り返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少なく、長期にわたり所望の係合力を維持できる空気入りタイヤとして、タイヤ内面に、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の留め具を有する空気入りタイヤを提案した(特許文献3−4)。
【0006】
この機械的留め具を用いる方式は、得られる係合力の大きさ、かつその大きさのばらつきや、係合作業の確実さなどの点で優れたものであり、このタイヤ内面へ一方の留め具を設けるための取り付け方法について、本発明者らは、トレッドゴムに該留め具を1個1個埋め込んで加硫により行うこと、また、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの、タイヤ内面に設けられる一方の機械的留め具を少なくとも2つ以上の留め具構成部材から構成される機械的留め具として、該2つ以上の留め具構成部材をゴム層あるいはゴムで被覆された繊維補強材を挟んで固定することを提案した(特許文献3)。
【0007】
また、該2つ以上の留め具構成部材を繊維からなる織布や不織布を挟んで固定することを提案した(特許文献4)。
【0008】
しかし、それらの方法では、留め具の形状や取り付け位置によっては、所望通りの取り付け強度が得られない場合があるという問題、ひいては、特定の機能を有する物体を配設した空気入りタイヤとしての耐久性が低下するという問題があった。
【0009】
この機械的留め具の取り付け強度は、タイヤ内に配設される特定の機能を有する物体の固有の性状(重さ、大きさ、形状など)にも応えることができるように、より高くかつ長寿命であることが要請されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2005−517581号公報
【特許文献2】特開2006−44503号公報
【特許文献3】特開2012−25318号公報
【特許文献4】特開2012−240465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したような点に鑑み、本発明の目的は、得られる係合力が大きくかつその係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰り返される過酷な使用条件等によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少ないという機械的留め具を実現し、かつ、その機械的留め具のタイヤ内面への取り付け強度が大きく、特定の機能と固有の性状(重さ、大きさ、形状など)を有する所望の機能性物体を長期にわたり取り付けて維持するのに有効な、機械的留め具をタイヤ内部に有した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、以下の(1)の構成を有する。
(1)タイヤ内面に、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の機械的留め具であるとともに、少なくとも2つ以上の留め具構成部材から構成される機械的留め具が設置されてなる空気入りタイヤにおいて、
(a)該2つ以上の留め具構成部材がゴム被覆された複数層の繊維補強材を挟んで固定されていて、
かつ、
(b)該機械的留め具の設置位置が、該機械的留め具の中心位置Cとタイヤ赤道線Lとのタイヤ幅方向の距離D(mm)が、該タイヤの最大幅W(mm)に対して、0≦D/W≦0.40の関係を満足し、
さらに、
(c)前記複数層の繊維補強材に含まれる各繊維補強材は、複数本の繊維束が1方向に配列されて形成されてなるものであり、該繊維補強材の単位幅当たりの繊維束本数Y(本/50mm幅)が、20≦Y(本/50mm幅)≦90であ
(d)前記繊維束の1本当たりの繊維断総面積A(mm2 /繊維束)が0.05≦A(mm2 /繊維束)≦1.20であり、
(e)前記繊維束のヤング率が2〜8GPaであり、
(f)前記複数層の繊維補強材に含まれる各繊維補強材の繊維束配列方向が層間で相互に交差することによって、前記繊維補強材は全体として前記繊維束が2方向以上に配列された状態を構成しており、
(g)前記留め具を前記タイヤ内面に投影した留め具領域を通過する前記繊維補強材中の各繊維束の平均長さL(mm)が、15≦L(mm)≦200であり、
(h)前記留め具を前記タイヤ内面に投影した留め具領域を通過する前記繊維補強材中の繊維束の本数が、8〜30本である、
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【0013】
また、かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、好ましくは、以下の(2)〜(13)のいずれかの構成を有するものである
(2)前記繊維補強材中の繊維束が配列されている方向が、タイヤ周方向となす角度(劣角θ)として15度≦θ≦75度であることを特徴とする上記(1)に記載の空気入りタイヤ
(3)前記2つ以上の留め具構成部材に挟み込まれる繊維補強材が、該繊維補強材を平面視したときの輪郭形状が、鋭利な角部を持たず、曲率半径が5mm以上の曲線で構成されているか、あるいは該曲率半径が5mm以上の曲線と直線の組み合わせによって構成されているものであること特徴とする上記(1)または(2)に記載の空気入りタイヤ。
)前記留め具を前記タイヤ内面に投影した該留め具の輪郭形状が、該輪郭形状の重心位置から最も遠い該輪郭線上の任意の点までの距離Rが2〜60mmであることを特徴とする上記(1)〜()のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
)タイヤ内面にある前記一方の留め具に係合する他方の留め具を有する物体を、それら2つの留め具を係合させることによりタイヤ内面に固定してなることを特徴とする上記(1)〜()のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
)前記他方の留め具を有する物体が、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体であることを特徴とする上記()に記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0014】
請求項1にかかる本発明によれば、機械的留め具として得られる係合力が大きくかつその係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることもほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰り返される過酷な使用条件等によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少ないという機械的留め具を実現し、かつ、その上で、その機械的留め具自体のタイヤ内面への取り付け強度が大きな機械的留め具を有する空気入りタイヤを実現することができる。
【0015】
したがって、請求項1にかかる本発明によれば、それらの効果が合わさって、特定の機能と固有の性状(重さ、大きさ、形状など)を有する各種の所望の機能性物体を、その性状等によって限定などほとんどされることなく、長期にわたりタイヤ内部に取り付けて、その機能を維持発揮させることができる、優れた機械的留め具をタイヤ内部に有する空気入りタイヤが実現されるものである。
【0016】
請求項2〜請求項のいずれかにかかる本発明の空気入りタイヤによれば、上述した請求項1にかかる本発明で得られる効果を、より明確にかつより大きく得られる点で優れた空気入りタイヤが実現されるものである。
【0017】
請求項もしくは請求項にかかる本発明によれば、タイヤ内面に、所望の機能を有する特定の機能性物体を大きな係合力と優れたその耐久性を実現しつつ取付けることができる新規な空気入りタイヤ、もしくは、該機能性物体を取り付けた新規な空気入りタイヤが実現されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)、(b)は、いずれも本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示した一部断面斜視図である。
図2】(a)、(b)は、いずれも本発明の空気入りタイヤの構造を説明するためのものであり、本発明の空気入りタイヤに使用される2つに分離できる機械的留め具のうちの一方の機械的留め具を構成する2つの部材を、1層のゴム被覆された繊維補強材を中間に挟んで互いに係合させる状態を説明する外観斜視モデル図である。
図3】(a)、(b)は、いずれも本発明の空気入りタイヤの一実施形態を説明するためのものであり、本発明の空気入りタイヤに使用される2つに分離できる機械的留め具のうちの一方の機械的留め具を構成する2つの部材を、2層のゴム被覆された繊維補強材を中間に挟んで互いに係合させる状態を説明するため一部を破砕して示した外観斜視モデル図である。
図4】(a)、(b)は、繊維補強材中の繊維束が配列している方向がタイヤ周方向Xに対してなす角度θについて説明するモデル図である。
図5】本発明で用いることのできる好ましい繊維補強材7の1例形状を説明する平面図であり、特に繊維束の本数について説明するものである。
図6】(a)〜(d)は、本発明で用いることのできる好ましい繊維補強材7の1例形状を説明する平面図であり、特に繊維補強材7を平面視したときの輪郭形状について説明するものである。
図7】(a)〜(d)は、いずれも本発明で用いることのできる好ましい機械的留め具3の1例形状を説明する平面図であり、特に機械的留め具3を平面視したときの輪郭形状について説明するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面などを用いながら、更に詳しく本発明の空気入りタイヤについて説明する。
【0020】
図1に示したように、本発明の空気入りタイヤ1は、タイヤ内面2に、2つに分離できる一対の機械的留め具のうちの一方の機械的留め具3であるとともに、少なくとも2つ以上の留め具構成部材3a、3b(図2図3)から構成される機械的留め具が設置されてなる空気入りタイヤにおいて、図3に示したように、
(a)該2つ以上の留め具構成部材3a、3bがゴム被覆された複数層の繊維補強材7を挟んで固定されていて、
かつ、
(b)該機械的留め具3の設置位置が、該機械的留め具3の中心位置Cとタイヤ赤道線CLとのタイヤ幅方向の距離D(mm)が、該タイヤの最大幅W(mm)に対して、0≦D/W≦0.40の関係を満足し、
さらに、
(c)該複数層の繊維補強材7に含まれる各繊維補強材7a、7bは、複数本の繊維束8が1方向に配列されて形成されてなるものであり、該繊維補強材の単位幅当たりの繊維束本数Y(本/50mm幅)が、20≦Y(本/50mm幅)≦90である、
ことを特徴とする。図1において、4はトレッド部、5はサイドウォール部、6はビード部である。
【0021】
図2(a)、(b)は、本発明の参考構造を示し、2つに分離できる機械的留め具のうちの一方の機械的留め具3を構成する2つの部材3a、3bを、1層のゴム被覆された繊維補強材7を中間に挟んで互いに係合させる状態を説明する外観斜視モデル図であり、(a)は、繊維束8が1方向に配列されてゴム被覆9がされて繊維補強材7が形成されているものであり、(b)は、繊維束8a、8bが2方向の配列状態を呈して、一層の繊維補強材が形成されている場合を示している。図2図3において、10は繊維補強材7に設けられた機械的留め具3を通すための孔である。
【0022】
図3(a)、(b)は、本発明の一実施形態を示し、2つに分離できる機械的留め具のうちの一方の機械的留め具3を構成する2つの部材3a、3bを、2層のゴム被覆された繊維補強材7a、7bを中間に挟んで互いに係合させる状態を説明するため、一部を破砕して示した外観斜視モデル図であり、(a)は、繊維補強材7aの繊維束81と繊維補強材7bの繊維束82とが互いにほぼ45度の交差角度で交わるようにして、それぞれが配列されてゴム被覆9がされて繊維補強材7が形成されているものであり、(b)は、繊維補強材7aの繊維束81と繊維補強材7bの繊維束82とが互いにほぼ90度の交差角度で交わるようにして繊維補強材7が形成されている場合を示している。
【0023】
ここで、本発明において、機械的留め具とは、2つの留め具3に分離することができ、かつそれらを再度、物理的に係合させることができ、この係合と分離を繰返して自在に行える一対の留め具で構成されるものであり、前述した特許文献3,同4で記載しているものと基本的に同様なものである。その代表的なものとして、ホックあるいはスナップと呼ばれる機械的留め具があり、衣料業界等で一般に、より具体的には、スナップボタン、リングスナップ、リングホック、アメリカンスナップ、アメリカンホック、アイレットホック、バネホックおよびジャンパーホックと呼ばれるもの等を総称して言う。
【0024】
こうした機械的留め具は、係合箇所の面積が全面積で無限である所謂「面ファスナー」とは相違して、係合箇所が小面積(例えば、好ましくは1〜115mm2 程度など。さらに好ましくは、4〜90mm2 程度)の、いわば点状の留め具をいうものである。すなわち、例えば、1〜115mm2 程度等の小面積での係合であっても機械的な雌雄構造等によって強い係合がなされるものであり、それ自体は公知の構造のものであってよい。その材質としては、金属製、ゴム製、合成樹脂製などのものである。
【0025】
本発明においては、機械的留め具3の設置位置を、機械的留め具3の中心位置Cとタイヤ赤道線CLとのタイヤ幅方向の距離D(mm)が、該タイヤの最大幅W(mm)に対して、0≦D/W≦0.40の関係を満足する領域内として、その上で、該2つ以上の留め具構成部材3a、3bがゴム被覆された繊維補強材7を挟んで固定されるようにして、かつ、該繊維補強材7として、複数本の繊維束8が少なくとも1方向に配列されて形成されていて、該繊維補強材の単位幅当たりの繊維束本数Y(本/50mm幅)が、20≦Y(本/50mm幅)≦90である繊維補強材7を使用することにより、機械的留め具としての得られる係合力が大きくかつその係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰り返される過酷な使用条件等によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少ないという機械的留め具を実現するとともに、かつ、その機械的留め具のタイヤ内面への取り付け強度が大きく、特定の機能と固有の性状(重さ、大きさ、形状など)を有する所望の機能性物体を長期にわたり取り付けて維持するのに有効な、機械的留め具を内部に有した空気入りタイヤを実現できる。
【0026】
特に、機械的留め具としての係合力だけを大きくしても、その機械的留め具のタイヤ内面への取り付け強度が小さい場合には、タイヤの使用時間が経っていくにつれて、タイヤ内面に取り付けられた機能性物体が、タイヤ内面上で正しい位置でかつ正しく立った初期の配設状態を維持できなくなり、その機能を発揮できなくなるので、好ましくない。
【0027】
機械的留め具のタイヤ内面への取り付け強度を十分に高いものとする上で、2つ以上の留め具構成部材3a、3bがゴム被覆された繊維補強材7を挟んで固定されるようにして、かつ、該繊維補強材7としては、複数本の繊維束8が少なくとも1方向に配列されて形成されていて、該繊維補強材の単位幅当たりの繊維束本数Y(本/50mm幅)が、20≦Y(本/50mm幅)≦90である繊維補強材7を使用することが重要である。該繊維補強材の単位幅当たりの繊維束本数Y(本/50mm幅)が、20本/50mm幅未満の場合は、繊維補強材を設けたことにより取り付け強度を大きくする効果が十分に得られなくなり好ましくなく、90本/50mm幅よりも多いときは、一般に、該繊維補強材の存在しない周辺のタイヤ内面との剛性差が大きくなりすぎて好ましくない。
【0028】
また、機械的留め具3の設置位置は、図1(a)、(b)に示したように、機械的留め具3の中心位置Cとタイヤ赤道線CLとのタイヤ幅方向の距離D(mm)が、該タイヤの最大幅W(mm)に対して、0≦D/W≦0.40の関係を満足する領域内とすることが重要であり、特に、該機械的留め具を介して取り付けられる特定機能を有する物体が高さ15mm以上の大きさを有する場合は、タイヤ内面歪みによって物体の振り子運動が誘発されやすくなるため、上述した0≦D/W≦0.40の関係を満足することが重要である。0≦D/W≦0.40の関係を満足する領域内は、タイヤ転動中のタイヤ内面の歪みが比較的小さい(特に、タイヤ幅方向の歪みが小さい)ので、特定機能を有する物体の脱落が小さくなる方向であり重要なものである。
【0029】
また、繊維補強材は、ゴム被覆されたものを使用することも重要であり、タイヤの加硫工程時には、タイヤのゴムと該ゴム被覆された繊維補強材が強固に加硫接合されるとともに、該繊維補強材自体も繊維間に含浸したゴムが加硫し、タイヤ内面と繊維補強材ひいては機械的留め具との接着・接合がより強くなされる。
【0030】
かかる本発明の空気入りタイヤでは、その内面に取付けを所望する物体を、一対の機械的留め具を介して係合させて取り付けることができることになるので、物理的に得られる係合力が大きく、かつその係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがない。さらに、長時間繰り返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少ない。従って所望の係合力を長期にわたり維持すること、ひいては内面に取付けられた物体の機能を長期にわたり発揮させることができる。
【0031】
その上、タイヤ内面と取付け物体の係合位置(係合点)の位置決めは、タイヤ内面の留め具の設置位置に対応して、自動的に正確に行なわれることとなり、該物体の設置位置(設置点)に高度な正確さが要請される場合にも簡単に対応することができる。これは、タイヤ内面という狭い湾曲面状の立体空間内でのことであるので意義は大きい。
【0032】
維補強材を構成する繊維束は、ヤング率が1〜15GPaである繊維束から構成されていることが好ましい。ヤング率がかかる範囲内にある繊維束を使用することにより、ゴム被覆された繊維補強材は、比較的柔軟なゴム系複合材料を実現してなるものであり、該繊維補強材がタイヤの転動により繰り返し加えられる転動歪みに対して、より追従することができるので、優れた耐久性を得ることができるからである。特に本発明では、該ヤング率2〜8GPaの範囲に設定する。例えば、ナイロン6の繊維束は4GPaであり、この範囲内に入るものである。
【0033】
本発明において、繊維補強材は、複数本の繊維束が、少なくとも1方向に配列されて形成されてなるものを用いることが重要であり、その理由は、タイヤの転動により繰り返し加えられる転動歪みは、通常、少なくとも一つのほぼ一定方向のもとで繰り返し加えられるものだからである。特に、赤道上ないしはその付近の位置では、タイヤ幅方向の歪みよりもタイヤ周方向での転動歪みがより大きい。
【0034】
ただ、タイヤの転動により繰り返し加えられる転動歪みは、タイヤ周方向での歪みとタイヤ幅方向での歪みが存在することは明らかであり、その2方向の歪みに対抗する上で、繊維補強材は、複数本の繊維束が2方向以上に配列されて形成されてなることが、さらに好ましい(図2(b)、図3(a)、(b))。
【0035】
上述した繊維補強材中の繊維束の配列方向は、1方向で配列されている場合、少なくとも2方向で配列されている場合のいずれにおいても、少なくとも、その配列方向として、タイヤ周方向となす角度(劣角θ)として15度≦θ≦75度を呈する繊維束が存在するように構成することが好ましい。
【0036】
本発明では、上述したように、0≦D/W≦0.40の関係を満足する領域内に機械的留め具を設けるが、この領域では、タイヤの転動により繰り返し加えられる転動歪みは、タイヤ周方向での歪みとタイヤ幅方向での歪みが存在するものであり、特に、タイヤ赤道とその付近の領域では、タイヤ周方向の歪みがタイヤ幅方向の歪みよりも大きいことから、タイヤ周方向に対して繊維束の配列方向に角度を持たせることが有効であり、タイヤ周方向となす角度(劣角)θとして15度≦θ≦75度とすることが好ましく、歪みによる応力を低減でき、繊維補強材7を設けた効果をより大きく発揮できるようになる。
【0037】
本発明者らの各種知見によれば、より好ましいタイヤ周方向となす角度(劣角θ)は、30度≦θ≦60度であり、また、機械的留め具を設けるより好ましい領域は0≦D/W≦0.2の領域である。
【0038】
上述した関係を、図4(a)、(b)にモデル図を示して説明すると、図4(a)は図2(a)に示したように繊維束8が一方向に配列している例を示し、タイヤ周方向Xに対して一方向に配列している繊維束8が、タイヤ周方向と角度(劣角)θをなしている。(a)図の右に示している図は左に示した図のモデル拡大図である。図4(b)は図3(a)、(b)に示したように繊維束81、82が2方向に配列している例を示し、タイヤ周方向Xに対して繊維束81、82が、それぞれタイヤ周方向と角度(劣角)θ1、θ2をなしている。この図4(b)に示した図の右に示している図は左に示した図のモデル拡大図である。
【0039】
この図4(b)に示したように、少なくとも繊維束81、82が少なくとも2方向に配列している例の場合は、タイヤ周方向となす少なくとも2つの角度(劣角)θ1、θ2のうち、少なくとも1つが15度≦θ≦75度を呈するようにして繊維補強材7を構成するとよい。
【0040】
繊維補強材を構成する繊維は、高い物性と品質の安定性の点から化学繊維あるいは合成繊維の長繊維(フィラメント繊維)からなるものが好ましく、中でも、目付が20〜300g/m2 程度の繊維引き揃えシート、あるいはすだれ織物、平織物などが高強度、高耐久性などの点から特に好ましく使用することができる。特に、上述した目付の範囲であれば、取付け耐久性を確保しつつ、ゴムが繊維間あるいは繊維束間に含浸しやすく強力な加硫接着が得られやすいので好ましい。より好ましい目付は30〜200g/m2 である。繊維は、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維などの化学繊維あるいは合成繊維であることが高い品質で安定して得られる点で好ましい。
【0041】
繊維束とは、代表的には、1本の糸状を呈して複数本の繊維が集合している単位のものをいう。あるいは、複数本の糸状のものが、引き揃えられてあるいは撚り合わせなどにより複合された形態のもので、1本として扱うことができるものでもよい。
【0042】
本発明において、留め具3をタイヤ内面に投影した留め具領域11を通過する繊維補強材中の繊維束の平均長さL(mm)は、15≦L(mm)≦200である。これを図4(a)、(b)で説明すると、留め具3をタイヤ内面に投影した留め具領域11を通る繊維束は、図4(a)で811、図4(b)で811、821であり、各繊維束は、繊維補強材7に設けられた機械的留め具3を通すための孔10によって、分断されている。その分断された後の繊維補強材中の該繊維束の長さの平均長さL(mm)が、15≦L(mm)≦200の範囲内であることが好ましいのである。機械的留め具をタイヤ内面に抑えるために機能する繊維束の長さには、安定的な固定力を生むための下限があり、本発明者らの知見によれば該下限は15mmである。また、繊維束の長さが長すぎると、歪みによる応力が大きくなり、留め具、取り付け物体の脱落の危険性が生じてくるので、本発明者らの知見によれば、該上限は200mmである。また、留め具の取り付け強度を十分に得る上で、より好ましくは60≦L(mm)≦90範囲内である。
【0043】
また、留め具をタイヤ内面に投影した留め具領域11を通過する繊維補強材7中の繊維束の本数は、4〜90本であることが好ましい。機械的留め具をタイヤ内面に抑える機能を有する繊維補強材は、より安定的な固定力を生むために下限となる繊維束の本数があり、一方で、本数が多すぎると、繊維補強材の柔軟性がなくなってしまい、留め具、取り付け物体の脱落の危険性が生じてくるので、上限となる繊維束の本数がある。そのため、本発明では、この繊維束の本数を8〜30本に設定する。ここで「留め具領域11を通過する繊維補強材7中の繊維束の本数」とは、全方向の通過する繊維束の合計本数であり、例えば、図5に示したモデルの例では、斜め数字で示したように6本である。
【0044】
また、繊維補強材7は、繊維補強材7を平面視したときの輪郭形状が、鋭利な角部を持たず、曲率半径が5mm以上の曲線で構成されているか、あるいは該曲率半径が5mm以上の曲線と直線の組み合わせによって構成されているものであることが好ましい。具体的な形状例を図6(a)、(b)、(c)、(d)に示した。ここに示したように、角部を丸めた長方形あるいは正方形などの矩形状のもの、円形状のもの、楕円形状のもの、角部を丸めた正六角形状などの正多角形状のもの、などが好ましい形状例である。
【0045】
また、機械的留め具3は、タイヤ内面に投影した該留め具3の輪郭形状が、該輪郭形状の重心位置から最も遠い該輪郭線上の任意の点までの距離Rが2〜60mmであることが好ましい。タイヤ内面に装着される留め具の径は、固定強度を確保するために下限となる大きさがある一方で、大きすぎると空気入りタイヤ製造時における加硫故障の危険性が高くなるため、上限となる値が存在するものであり、本発明者らの知見によれば、上述した距離Rは2〜60mmである。図7(a)、(b)、(c)、(d)に、それぞれ円形、三角形、楕円形、歯車形の場合を例にとり、重心位置から最も遠い該輪郭線上の任意の点までの距離Rを例示した。
【0046】
繊維補強材7のタイヤ内面への接着面積S(cm2)は、12≦S(cm2)≦300、を満足することが好ましい。300cm2よりも大きいときは、歪みによる応力が大きくなり部材脱落につながる危険があり、12cm2よりも小さいときは、安定した固定力を得ることが難しくなり好ましくない。
【0047】
本発明によれば、一対の機械的留め具のうちの、他方の留め具を有している物体が、タイヤ内面側の対である留め具3と係合されることによって空気入りタイヤの内面に配設される。
【0048】
該他方の留め具を有している物体は、近年の空気入りタイヤのハイテク化に伴い、さまざまな機能を有したものとして構成することができ、例えば、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、などのいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体などが代表的なものである。
【実施例】
【0049】
参考例1−6、実施例1−、比較例1−3
機械的留め具部材として、図7(a)に示した形態のものを用いて、表1に示した各種の繊維補強材を使用して、図2(a)、図3(b)に示した繊維補強材を空気入りタイヤ(195/65R15)のトレッド部内周面の赤道部に1個の機械的留め具部材3を該タイヤの加硫成形工程で加硫接着させて設けた。該空気入りタイヤの最大幅は195mmである(参考例1−6、実施例1−、比較例1−3)。
【0050】
留め具の固定位置、繊維補強材の性状などは、表1に示したとおりである。
【0051】
【表1】
【0052】
留め具の耐久性の試験と評価方法は、以下の通りの内容で行ったものである。
(1)留め具の耐久性の試験
各試験タイヤのタイヤ内面の機械的留め具に、重さ100gのウェイトを他方の対の機械的留め具を用いて固定した。その状態でドラム走行耐久試験を行い、タイヤ内面の留め具が該内面から脱落するまでの走行距離を求め、繊維強化材をもちいておらず、ゴムシートのみを用いた比較例1の走行距離を指数100として、他の実施例、比較例のものを指数評価した。指数は100よりも大きいほど優れていて、長い距離を走行できたことを示している。試験タイヤ(195/65R15)の空気圧は210kPa、走行速度は81km/時間、荷重を2時間ごとに最大付加荷重の13%ずつ増加させていく強制試験である。
【0053】
得られた各試験タイヤの結果からわかるように、本発明に係る空気入りタイヤは、機械的留め具の固定強度が非常に大きい優れたものである。
【符号の説明】
【0054】
1:空気入りタイヤ
2:タイヤ内周面
3:機械的留め具
3a:機械的留め具の構成部材
3b:機械的留め具の構成部材
4:トレッド部
5:サイドウォール部
6:ビード部
7、7a、7b:ゴム被覆された繊維補強材
8、8a、8b:繊維束
81、82:繊維束
9:ゴム被覆
10:機械的留め具を通すための孔
11:留め具をタイヤ内面に投影した留め具領域
C:機械的留め具の中心位置
CL:タイヤ赤道線
D:機械的留め具3の中心位置Cとタイヤ赤道線CLとのタイヤ幅方向の距離(mm)
X:タイヤ周方向
W:タイヤの最大幅W(mm)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7