(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成樹脂製の軸受体と、軸受体に対して回転自在であると共に軸受体に被せられる環状カバーと、該環状カバーの円板部の環状下面に接触する環状上面を有すると共に軸受体の環状鍔部及び環状カバーの円板部間に配された外側円板部、該外側円板部と共に一体形成されていると共に環状カバーの円板部の内周面で規定された貫通孔に配された径方向内側の内側円板部並びに外側円板部と内側円板部との間に介在されていると共に外側円板部から斜め上方に延びて内側円板部に連接された傾斜連結部を夫々備えた環状板金と、該環状板金の外側円板部の環状下面及び軸受体間に介在されていると共に軸受体に対して環状板金を軸受体の軸心周りの方向に対して回転自在にするスラスト滑り軸受手段とを具備しているスラスト滑り軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ストラットアッセンブリの車体への取付機構においては、油圧式ショックアブソーバのピストンロッドの一端を支持するために取付板が用いられるのであるが、斯かる取付機構であると、ピストンロッドの一端を支持する取付板を必要とする上に、複雑な構造となって、コスト高を招来している。
【0005】
斯かる問題に対して、特許文献6には、ストラットアッセンブリの車体への取付機構の取付板に代えてピストンロッドの一端を支持でき、而して、取付機構を簡単化し得てコスト低減を図り得るスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構が提案されている。
【0006】
本提案に係るスラスト滑り軸受は、環状上面及び環状係合外周面を有した合成樹脂製の環状の軸受体と、この軸受体に当該軸受体の軸心の回りで相対的に回転自在となるように重ね合わされると共に軸受体の環状上面に対面した環状下面を有する合成樹脂製の環状の他の軸受体と、軸受体の環状上面及び他の軸受体の環状下面間に介在されていると共に軸受体の環状上面及び他の軸受体の環状下面のうちの少なくとも一方に摺動自在に接触した下面及び上面のうちの少なくとも一方を有したスラスト滑り軸受手段と、軸受体の環状係合外周面に係合する環状係合内周面を有した環状上カバーと、他の軸受体の環状上面に下面で接触すると共に上面で環状上カバーの下面に接触して他の軸受体の環状上面及び環状上カバーの下面間に介在されている環状板金とを具備しており、斯かるスラスト滑り軸受においては、環状板金は、両軸受体並びに環状上カバーの環状内周面の内径よりも小さな径を有した環状内周面を具備してなり、上記の問題を効果的に解決している。
【0007】
しかしながら、提案のスラスト滑り軸受では、平坦な環状板金においてナットを介してピストンロッドのねじ部に取り付けられるようになっているため、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わると、環状板金が変形してピストンロッドの相対的な回転で異音を発生する虞がある。
【0008】
また、提案のスラスト滑り軸受では、構成部品点数が多くなるばかりでなく当該スラスト滑り軸受の重量増加を惹起し、さらに当該スラスト滑り軸受自体が丈高となってピストンロッドの一端を支持する取付機構も丈高となり、広い取付スペースを必要とするなどの問題がある。
【0009】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、当該環状板金の変形を防止できてピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減でき、構成部品点数を削減して丈高を低くできるスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスラスト滑り軸受は、貫通孔を規定する円筒状の内周面を有した円筒部、該円筒部の円筒状の外周面から径方向外方に延びる環状鍔部、該環状鍔部の円筒状の外周面の下方側から径方向外方に突出する環状突出部、該環状突出部の環状上面に形成されていると共に該環状鍔部の円筒状の外周面及び環状突出部の環状上面と協働して円筒状の内周面で環状の外側凹部を規定する筒状突起部及び該筒状突起部の円筒状の外周面から径方向外方に突出する環状の係合突起部を夫々備えた合成樹脂製の軸受体と、軸受体の貫通孔と同心の貫通孔を規定する内周面並びに環状上面及び環状下面を夫々有した円板部、該円板部と共に一体形成されていると共に内周面を有した筒部及び該筒部の内周面から径方向内方に突出すると共に軸受体の係合突起部に係合する係合突起部を夫々備えた環状カバーと、該環状カバーの円板部の環状下面に接触する環状上面を有する径方向外側の外側円板部及び該外側円板部と共に一体形成されていると共に環状カバーの円板部の内周面で規定された貫通孔に配された径方向内側の内側円板部を夫々備えた環状板金と、該環状板金の外側円板部の環状下面及び軸受体間に介在されていると共に軸受体に対して環状板金を軸受体の軸心周りの方向に対して回転自在にするスラスト滑り軸受手段とを具備しており、内側円板部は、軸受体の円筒部の内周面の径よりも小さな径を有すると共に前記両貫通孔と同心の貫通孔を規定する円筒内面を具備しており、スラスト滑り軸受手段は、軸受体の環状上面と、当該環状上面の内周側に形成された環状深溝と、当該環状深溝を囲んでいると共に当該環状深溝より深さの浅い少なくとも一つの環状浅溝と、これら環状深溝及び環状浅溝に充填される潤滑油剤とを具備している。
【0011】
本発明のスラスト滑り軸受によれば、環状板金が外側円板部と共に一体形成されていると共に環状カバーの内周面で規定された貫通孔に配された内側円板部を備えているため、内側円板部が外側円板部の補強部(リブ)と同様の働きをなす結果、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、環状板金の変形を防止できて環状板金の変形に起因するピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減することができる。
【0012】
また、本発明のスラスト滑り軸受では、スラスト滑り軸受手段が、軸受体の環状上面と、当該環状上面の内周側に形成された環状深溝と、当該環状深溝を囲んでいると共に当該環状深溝より深さの浅い少なくとも一つの環状浅溝と、これら環状深溝及び環状浅溝に充填される潤滑油剤とを具備しているので、構成部品点数を削減して該スラスト滑り軸受自体の丈高を低くでき、該滑り軸受の取付スペースを縮小することができると共に全体的なコスト低減を図ることができる。
【0013】
本発明において、軸受体は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂から形成されているとよく、環状カバーは、好ましい例では、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂から形成されているが、これに代えて、当該熱可塑性合成樹脂にガラス繊維、ガラス粉末、ガラスビーズ、炭素繊維などの無機補強材又はアラミド繊維などの有機補強材で補強された強化熱可塑性合成樹脂であってもよく、環状板金は、好ましい例では鋼、ステンレス鋼などの鋼板から形成されているが、これらに代えて銅合金、チタン合金などの非鉄金属であってもよく、斯かる環状板金は、熱間圧延鋼板(SPHC)をプレス成形にて形成されているものが好ましい。
【0014】
スラスト滑り軸受手段は、互いに同一の深さを有している複数個の環状浅溝を有していてもよく、また、スラスト滑り軸受手段において、少なくとも一つの環状浅溝は、環状深溝の径方向の幅よりも大きな径方向の幅をもった環状幅広浅溝を有していてもよく、更に、スラスト滑り軸受手段は、軸受体の環状上面で環状板金の外側円板部の環状下面に軸受体の軸心周りの方向に回転自在に接触していても、環状浅溝及び環状深溝に充填された潤滑油剤を覆って該環状上面に配された合成樹脂製の環状シートを具備していてもよく、環状シートを具備するスラスト滑り軸受手段は、環状シートの環状上面で環状板金の外側円板部の環状下面に軸受体の軸心周りの方向に回転自在に接触していもよく、また、スラスト滑り軸受手段は、環状板金の外側円板部の環状下面のうちの少なくとも一方に施された電着塗装膜を具備していてもよく、更には、環状板金において少なくとも内側円板部は、亜鉛、銅、錫等の展延性を有する軟質金属で被覆されている環状上面及び環状下面のうちの少なくとも一方を有しているとよい。
【0015】
本発明では、外側円板部の環状下面とスラスト滑り軸受手段の軸受体の環状上面との間には、潤滑油剤、合成樹脂製の環状シート及び電着塗装膜のうちの少なくとも一つのみが介在しており、而して、スラスト滑り軸受手段の軸受体の環状上面は、外側円板部の環状下面に対してこれら潤滑油剤、合成樹脂製の環状シート及び電着塗装膜のうちの少なくとも一つを介して軸受体の軸心周りの方向において回転自在となっている結果、スラスト滑り軸受手段は、軸受体に対して環状板金を軸受体の軸心周りの方向に対して回転自在としている。
【0016】
環状カバーの一つの例は、その円板部及び筒部間に介在されていると共に円筒状内周面、当該円筒状内周面に連接した円環状下面及び断面円弧状の半球面状外周面を夫々有した連結部を具備しており、環状板金の外側円板部は、連結部の円筒状内周面に径方向において対面している円筒状の外周面を有しており、環状板金の外側円板部は、連結部の円筒状内周面に径方向において対面している円筒状の外周面を有している。
【0017】
環状板金は、外側円板部と内側円板部との間に介在されていると共に外側円板部の内周側から斜め上方に延びて内側円板部に連接された傾斜連結部と、該外側円板部と共に一体形成されていると共に軸受体の環状上面を囲繞するように、外側円板部の環状下面の外周側から下方に垂れ下がっている下方突出部とを有していてもよい。
【0018】
好ましい例では、環状カバーは、その円板部及び筒部間に介在されていると共に断面円弧状の半球面状外周面及び半球面状内周面を有した連結部を具備しており、環状板金の外側円板部は、環状カバーの連結部の半球面状内周面に対面している半球面状外周面を有しており、環状板金の内側円板部は、外側円板部の環状下面に連接されていると共に当該外側円板部の環状下面と面一の環状下面を有している。
【0019】
本発明のスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構、好ましい例では、四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるための組合せ機構は、上記いずれかの態様のスラスト滑り軸受と、ショックアブソーバのピストンロッドとを具備しており、ピストンロッドは、軸受体の円筒部の内周面で規定される貫通孔に配された大径部と、この大径部よりも小径であって大径部に一体的に形成されていると共に環状板金の内側円板部の内周面で規定される貫通孔に配された小径部と、この小径部に刻設されたねじ部とを具備しており、環状板金は、内側円板部で、ピストンロッドの大径部及び小径部の環状段部面とねじ部に螺合されたナットの環状面とに挟持されている。
【0020】
斯かる環状板金の少なくとも内側円板部において、ピストンロッドの大径部及び小径部間の環状段部面とナットの環状面とに挟持される環状上面及び環状下面のうちの少なくとも一方は、亜鉛、銅、錫等の展延性を有する軟質金属で被覆されていると、環状段部面及びナットの環状面と内側円板部の環状上面及び環状下面のうちの少なくとも一方がほぼ全面接触して局部的な接触を回避でき、ピストンロッドからの軸方向負荷時の応力を分散できる結果、内側円板部に亀裂等の損傷を生じることがない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、当該環状板金の変形を防止できて環状板金の変形に起因するピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減でき、構成部品点数を削減して丈高を低くできるスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明の実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお
、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0024】
図1から
図13において、本例のスラスト滑り軸受1は、貫通孔2を規定する円筒状の内周面3を有した円筒部4、円筒部4の円筒状の外周面5から一体的に径方向外方に延びる環状鍔部6、環状鍔部6の円筒状の外周面7の下方側から径方向外方に一体的に突出する環状突出部8、環状突出部8の環状上面9に一体的に形成されていると共に円筒状の内周面10で環状鍔部6の円筒状の外周面7及び環状突出部8の環状上面9と協働して環状上面11で開口する環状の外側凹部12を規定する筒状突起部13、筒状突起部13の円筒状の外周面から一体的に径方向外方に突出する環状の係合突起部14及び円筒部4の内周面3側に一体的に形成された環状突起部15を夫々備えた合成樹脂製の軸受体16と、軸受体16の貫通孔2と同心の貫通孔21を規定する内周面22及び当該内周面22の下縁に連接した環状下面23を夫々有した円板部24、円板部24と共に一体形成されていると共に截頭円錐面からなる内周面25を有した筒部26及び筒部26の内周面25から一体的に径方向内方に突出すると共に軸受体16の係合突起部14に弾性的に係合する係合突起部27を夫々備えた環状カバー28と、環状カバー28の円板部24の環状下面23に接触する環状上面31を有する径方向外側の外側円板部32及び外側円板部32と共に一体形成されていると共に環状カバー28の円板部24の内周面22で規定された貫通孔21に配された径方向内側の内側円板部33を夫々備えた環状板金34と、環状板金34の外側円板部32の環状下面35及び軸受体16間に介在されていると共に軸受体16に対して環状板金34を軸受体16の軸心O周りのR方向に対して回転自在にするスラスト滑り軸受手段36と具備している。
【0025】
ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)などの熱可塑性合成樹脂から形成された合成樹脂製の軸受体16において、円筒部4は、内周面3及び外周面5に加えて環状下面40を有しており、環状下面40よりも上方に配された環状鍔部6の環状下面41及び当該環状下面41と面一になっていると共に環状突出部8の環状下面42には、R方向に互いに離間して配列された複数個の下側凹所43と当該下側凹所43に径方向において隣接していると共に下側凹所43よりも深い複数個の下側凹所44とが形成されている。
【0026】
ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)などの熱可塑性合成樹脂又はこれら熱可塑性合成樹脂にガラス繊維、ガラス粉末、ガラスビーズ、炭素繊維などの無機充填材若しくはアラミド樹脂繊維などの有機充填材で補強された強化熱可塑性合成樹脂から形成された環状カバー28は、円板部24及び筒部26間に介在されていると共に円筒状内周面51、当該円筒状内周面51の下縁に連接した環状下面52及び断面円弧状の半球面状外周面53を夫々有した環状の連結部54を具備しており、円板部24は、内周面22及び環状下面23に加えて、外縁で半球面状外周面53の上縁に連接された環状上面55を具備しており、円板部24の内周面22は、截頭円錐面56を有しており、筒部26は、内周面25に加えて、上縁で半球面状外周面53の下縁に連接された円筒状外周面57と環状下面58とを有している。
【0027】
好ましくは熱間圧延鋼板(SPHC)をプレス成形してなる環状板金34は、外側円板部32及び内側円板部33に加えて、外側円板部32及び内側円板部33間に介在されていると共に外側円板部32の内周側から斜め上方に延びて内側円板部33に連接された傾斜連結部61と、外側円板部32と共に一体形成されていると共に環状鍔部6の外周面7の上縁部を囲繞するように、外側円板部32の環状下面35の外周側から下方に垂れ下がっている環状の下方突出部62とを有している。
【0028】
軸方向において円筒部4及び環状鍔部6と円板部24との間に配された外側円板部32は、環状上面31及び環状下面35に加えて、連結部54の円筒状内周面51に径方向において対面している円筒状外周面63を有しており、傾斜連結部61は、環状カバー28の截頭円錐面56に径方向において対面している傾斜外周面64と、傾斜外周面64と平行に伸びた傾斜内周面65とを有しており、貫通孔21に配された内側円板部33は、傾斜外周面64の上縁に連接すると共に貫通孔21において上方に露出する環状上面67と、環状上面67に対して平行に伸びている環状下面68と、軸受体16の円筒部4の内周面3の径よりも小さな径を有すると共に両貫通孔2及び21と同心の貫通孔69を規定する円筒状の内周面70とを有している。
【0029】
環状板金34は、熱間圧延鋼板(SPHC)をプレス成形にて形成されているものが好ましいが、この場合、後述する少なくとも、ピストンロッドの大径部及び小径部間の環状段部面とナットの環状面とに挟持される内側円板部33の環状上面67及び環状下面68(被挟持面)は、亜鉛、銅、錫等の展延性を有する軟質金属でメッキされて被覆されていることが好ましく、斯かる金属メッキが施されていることにより、ピストンロッドの環状段部面及びナットの環状面と内側円板部33の環状上面67及び環状下面68とがほぼ全面接触して局部的な接触を回避でき、ピストンロッドからの軸方向負荷時の応力を分散できる結果、内側円板部33と内側円板部33に一体的に形成された外側円板部32に亀裂等の損傷を生じることがない。
【0030】
スラスト滑り軸受手段36は、外側円板部32の環状下面35にR方向において摺動自在に接触する軸受体16の環状上面81である円筒部4の環状上面82及び環状上面82に面一である環状鍔部6の環状上面83と、環状上面81の内周側の環状上面82に形成された環状深溝84と、環状深溝84よりも径方向に外側であって当該環状深溝84を囲んで環状上面82及び83に形成されていると共に環状深溝84より深さの浅い一方、互いに同一の深さを有している環状浅溝85及び86と、これら環状深溝84並びに環状浅溝85及び86に充填されるグリース等の潤滑油剤87とを具備しており、環状浅溝85は、環状上面82に、環状浅溝86は、環状浅溝85よりも径方向において外側であって当該環状浅溝85を囲んで環状上面83に夫々形成されており、斯かるスラスト滑り軸受手段36は、潤滑油剤87が展延された環状上面81で環状板金34の外側円板部32の環状下面35に軸心O周りのR方向に対して回転自在に接触している。
【0031】
以上のスラスト滑り軸受1では、係合突起部14への係合突起部27の合成樹脂の撓み性を利用した弾性装着(スナップフィット)をもって軸受体16と環状カバー28とは、軸方向(上下方向)に環状板金34を挟んで互いに重ね合わされて連結されており、軸心Oの回りの軸受体16に対する環状板金34の相対的なR方向の回転において、環状板金34の外側円板部32の環状下面35及び軸受体16間に介在されているスラスト滑り軸受手段36の環状上面82及び83と環状上面82及び83に接触する環状板金34の外側円板部32の環状下面35との間にR方向の摺動を生じさせ、而して、軸心Oの回りの軸受体16に対する環状板金34の相対的なR方向の回転を低い摩擦トルクをもって行わせることができる。
【0032】
斯かるスラスト滑り軸受1は、
図14に示すように、ピストンロッド91を具備した油圧式のショックアブソーバ(図示せず)と斯かる油圧式のショックアブソーバを取り囲んで配されたコイルばね92とを有した車輌のストラット型サスペンション93に取付機構94を介して車体に取り付けられる。
【0033】
車輌、例えば四輪自動車におけるストラット型サスペンション93は、油圧式のショックアブソーバ及びコイルばね92に加えて、コイルばね92の一端を受容する上部ばね座部材95と、ピストンロッド91を取り囲んで配されたバンプストッパ96とを具備しており、取付機構94は、芯金97が埋設されたゴム製の弾性部材98と、上部ばね座部材95並びに軸受体16の環状鍔部6及び環状突出部8の夫々の環状下面41及び42間に介在されたスぺーサ部材99とを具備しており、スラスト滑り軸受1は、取付機構94の弾性部材98とスぺーサ部材99を介してストラット型サスペンション93の上部ばね座部材95との間に配されており、しかも、円筒部4の下端部が上部ばね座部材95の中央の貫通孔100に挿入されて上部ばね座部材95により軸心Oに直交する方向、即ち、径方向に関して位置決めされており、スぺーサ部材99の内周面は、円筒部4の外周面5に接触しており、スラスト滑り軸受1を囲繞した弾性部材98は、その内周面で、環状カバー28の半球面状外周面53、環状上面55及び円筒状外周面57に接触して配されている。
【0034】
ピストンロッド91は、貫通孔2を貫通して配された大径部111と、大径部111よりも小径であって大径部111に一体的に形成されていると共に環状板金34の貫通孔69を貫通して配された小径部112と、小径部112に刻設されたねじ部113とを具備しており、環状板金34は、内側円板部33においてピストンロッド91の大径部111及び小径部112間の環状段部面114と、ねじ部113に螺合されたナット115の環状面116との間でこれら環状段部面114及び環状面116によって挟持されている。
【0035】
大径部111は、その外周面121で軸受体16の貫通孔2を規定する内周面3にR方向に回転自在に接触しており、ナット115は、その外周面で弾性部材98の環状の内周面122に接触して弾性部材98に対してR方向に回転しないようにねじ部113に螺合してピストンロッド91に固定されており、環状カバー28は、環状段部面114と環状面116とにより内側円板部33において挟持された環状板金34を介してピストンロッド91に対してR方向に回転しないように弾性部材98に保持されている。
【0036】
以上のスラスト滑り軸受1とピストンロッド91との組合せ機構では、ステアリング操作によりコイルばね92が軸心Oの回りでR方向に回転されると、環状板金34に対して軸受体16が同様にR方向に相対的に回転され、軸受体16のこの回転は、スラスト滑り軸受手段36の環状上面82及び83並びに環状上面82及び83に展延すると共に環状深溝84、環状浅溝85及び86に充填されたグリース等の潤滑油剤87とこれらに接触する環状板金34の外側円板部32の環状下面35とのR方向の摺接により許容され、したがってステアリング操作も抵抗なく行われる。
【0037】
スラスト滑り軸受1では、スラスト滑り軸受手段36の環状上面82及び83と環状上面82及び83に展延する潤滑油剤87とでもって環状板金34の環状下面35に対して軸受体16をR方向に回転自在に配しているために、軸受体16、環状板金34及び環状カバー28の三部品から構成できる結果、構成部品点数を削減してスラスト滑り軸受1自体の丈高を低くでき、スラスト滑り軸受1の取付スペースを縮小することができると共に全体的なコスト低減を図ることができる上に、環状板金34でピストンロッド91の一端を支持でき、ストラット型サスペンション93の車体への取付機構におけるピストンロッド91の一端を支持するための取付部材を省き得、而して、取付機構を簡単化し得てコスト低減を図り得る。
【0038】
また、スラスト滑り軸受1によれば、傾斜連結部61を介して外側円板部32と共に一体形成されていると共に環状カバー28の内周面22で規定された貫通孔21に配された内側円板部33を環状板金34が備えているため、内側円板部33が外側円板部32の補強部(リブ)と同様の働きをなす結果、大きな力がピストンロッド91を介して環状板金34に加わっても、環状板金34の変形を防止できて環状板金34の変形に起因するピストンロッド91の相対的なR方向の回転での異音の発生を低減することができる。
【0039】
加えて、スラスト滑り軸受1では、環状鍔部6の環状下面41及び環状突出部8の環状下面42に形成された下側凹所43及び44により、環状鍔部6及び環状鍔部6の外周面7の下方に一体に形成された環状突出部8の肉厚を均等にして成形時の肉厚不同に起因するヒケ等の成形不良や寸法不良を解消することができるが、斯かる効果を格別に要求しない場合には、下側凹所43及び44は特に設けなくてもよい。
【0040】
更にスラスト滑り軸受1によれば、環状突起部62が軸受体16の環状鍔部6の外周面7に係合するようになっているために、環状板金34と軸受体16との径方向の相対位置を保持することができる。
【0041】
スラスト滑り軸受1において、少なくとも、ピストンロッド91の大径部111及び小径部112間の環状段部面114とナット115の環状面116とに挟持される内側円板部33の環状上面67及び環状下面68を、亜鉛、銅、錫等の展延性を有する軟質金属でメッキして被覆することにより、環状段部面114及び環状面116と環状段部面114及び環状面116に挟持される内側円板部33の環状上面67及び環状下面68とをほぼ全面接触させて局部的な接触を回避でき、ピストンロッド91からの軸方向負荷時の応力を分散できる結果、内側円板部33に亀裂等の損傷を生じさせることをなくし得る。
【0042】
スラスト滑り軸受手段36は、
図15及び
図16に示すように、環状上面81、環状深溝84、環状浅溝85及び86並びに潤滑油剤87に加えて、環状溝84、85及び86に充填されるグリース等の潤滑油剤87を覆って環状上面81に配された合成樹脂製の環状シート131を具備していてもよく、環状シート131は、環状上面81と環状板金34の外側円板部32の環状下面35との間に介在されていると共に環状上面132では環状板金34の外側円板部32の環状下面35に、環状下面133では環状上面81にそれぞれR方向に回転自在に接触しており、斯かるスラスト滑り軸受手段36では、環状上面81に対する環状シート131の環状下面133のR方向の摺動及び環状板金34の環状下面35に対する環状シート131の環状上面132のR方向の摺動のうちの少なくとも一方で、軸受体16に対して環状板金34を軸受体16の軸心O周りのR方向に回転自在にしており、環状シート131により密閉された環状深溝84、環状浅溝85及び86に充填された潤滑油剤87は、環状シート131からの軸方向荷重を支持するようになっている。
【0043】
合成樹脂製の環状シート131は、好ましくは、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっており、軸受体16の環状突起部15の外径よりも大きい内径の環状の内周面134と環状鍔部6の外周面7の外径よりも小さい外径の外周面135とを有していると共に0.05mmから1.0mmの軸方向の厚みを有しているとよい。
【0044】
図15及び
図16に示すスラスト滑り軸受1では、軸心Oの回りの軸受体16に対する環状板金34の相対的なR方向の回転において、環状シート131の環状上面132と環状板金34の外側円板部32の環状下面35との間の合成樹脂同士の摺動又は環状シート131の環状下面133と軸受体16の環状上面81との間の潤滑油剤87を介する合成樹脂同士の摺動、好ましくは前者の摺動を生じさせ、而して、軸心Oの回りの軸受体16に対する環状板金34の相対的なR方向の回転を極めて低い摩擦トルクをもって行わせることができ、しかも、先のスラスト滑り軸受手段36において、0.05mmから1.0mm程度の厚みの薄い環状シート131を介在させるだけであるから、
図15及び
図16に示すスラスト滑り軸受1においても、それ自体の丈高を低くでき、それの取付スペースを縮小することができると共に全体的なコスト低減を図ることができる。
【0045】
上記のスラスト滑り軸受1のいずれにおいても、スラスト滑り軸受手段36は、環状深溝84並びに環状浅溝85及び86を具備しているが、これに代えて、
図17に示すように、環状深溝84と、環状深溝84並びに環状浅溝85及び86の径方向の幅よりも大きな幅をもった環状幅広浅溝136と、環状深溝84、環状幅広浅溝136に充填された潤滑油剤87を具備してもよく、
図17に示すスラスト滑り軸受手段36でも、環状深溝84及び環状幅広浅溝136に充填されるグリース等の潤滑油剤87を覆って環状上面81に配された
図15及び
図16に示す合成樹脂製の環状シート131を具備していてもよい。
【0046】
図1から
図13に示すスラスト滑り軸受1において、スラスト滑り軸受手段36は、環状上面81、環状深溝84、環状浅溝85及び86に加えて、外側円板部32の環状下面35に施された電着塗装膜を具備してもよく、斯かる電着塗装膜は、低摩擦性の電着塗装膜としての樹脂膜を得るべく、好ましくは、樹脂塗料のカチオン電着で行われていてもよいが、その他の電着で行われてもよい。
【0047】
斯かる電着塗装膜は、
図15及び
図16又は
図17に示すスラスト滑り軸受1のスラスト滑り軸受手段36に適用してもよい。
【0048】
上記のスラスト滑り軸受1では、環状カバー28は、円板部24と、円板部24と共に一体形成されている筒部26と、筒部26の内周面25から径方向内方に突出する係合突起部27と、円板部24及び筒部26間に介在された連結部54とを夫々備えており、環状板金34は、外側円板部32と、外側円板部32と共に一体形成されている内側円板部33と、外側円板部32及び内側円板部33間に介在された傾斜連結部61とを夫々備えているが、これ代えて、
図18に示すように、貫通孔21を規定する円筒状の内周面22及び環状下面23を有した薄肉の円板部141と、円板部141と共に一体形成されていると共に截頭円錐面からなる内周面25を有した薄肉の筒部142と、筒部142の内周面25から径方向内方に突出する係合突起部27と、円板部141及び筒部142間に介在されていると共に断面円弧状の半球面状外周面143及び半球面状内周面144を有した環状の連結部145とを具備して環状カバー28を構成し、環状上面31及び環状下面35に加えて、連結部145の断面円弧状の半球面状内周面144に対面していると共に環状上面31に連接した断面円弧状の半球面状外周面146を有した外側円板部32と、環状上面67及び貫通孔69を規定する内周面70に加えて、外側円板部32の環状下面35に連接されていると共に外側円板部32の環状下面35と面一の環状下面68を有する一方、傾斜外周面64に代えて、円筒状の内周面22に対面する円筒状の外周面147を有した厚肉の内側円板部33とを具備して環状板金34を構成してもよい。
【0049】
図18に示すスラスト滑り軸受1においては、環状突起部15は、その環状の上面が環状下面68に対して環状隙間をもって環状下面68よりも下方に位置するように、円筒部4の内周面3側に当該円筒部4の環状上面82に一体的に形成されており、下方突出部62は、その外周面が連結部145の半球面状内周面144に沿って且つ当該半球面状内周面144に接触して延びると共に外側円板部32の環状下面35の外周側から下方に垂れ下がって外側円板部32の環状下面35に一体的に形成されており、環状板金34は、下方突出部62の外周面の半球面状内周面144への接触により、環状カバー28との径方向の相対位置を保持することができるようになっている。
【0050】
図18に示すスラスト滑り軸受1においても、
図1から
図13に示すスラスト滑り軸受手段36、
図15及び
図16に示すスラスト滑り軸受手段36、
図17に示すスラスト滑り軸受手段36及び上記の電着塗装膜を具備したスラスト滑り軸受手段36のうちのいずれかのスラスト滑り軸受手段を適用してもよい。
【0051】
また、
図15及び
図16並びに
図17及び
図18のいずれのスラスト滑り軸受1においても、ピストンロッド91の大径部111及び小径部112間の環状段部面114とナット115の環状面116とに挟持される内側円板部33の環状上面67及び環状下面68を、亜鉛、銅、錫等の展延性を有する軟質金属でメッキして被覆してもよい。