【文献】
Journal of Biological Chemistry,2004年,Vol.279,No.50,p52210−52217
【文献】
Journal of Biological Chemistry,1995年,Vol.270,No.35,p20717−20723
【文献】
Molecular and Cellular Biology,2007年,Vol.27,No.6,p2324−2342
【文献】
GenBank databases, NCBI. ACCESSION No.BC001731,2007年 9月11日,[online],[平成27年10月23日検索],インターネット,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucleotide/12804616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗体が、CAPRIN−1タンパク質を癌細胞表面上に発現する癌細胞に対するADCC活性又はCDC活性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明で用いられる配列番号2〜30のうち偶数の配列番号のポリペプチドに対する抗体の抗腫瘍活性は、後述するように、生体内で担癌動物に対する腫瘍増殖の抑制を調べることによって、あるいは、生体外で該ポリペプチドを発現する腫瘍細胞に対して、免疫細胞又は補体を介した細胞障害活性を示すか否かを調べることによって評価することができる。
【0021】
なお、配列番号2〜30のうち偶数の配列番号(すなわち、配列番号2,4,6・・28,30)のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列はそれぞれ、配列番号1〜29のうち奇数の配列番号(すなわち、配列番号1,3,5・・27,29)に示されている。
【0022】
本発明が開示する配列表の配列番号6、8、10、12及び14で示されるアミノ酸配列は、イヌ精巣組織由来cDNAライブラリーと乳癌患犬の血清を用いたSEREX法により、担癌犬由来の血清中に特異的に存在する抗体と結合するポリペプチドとして、また配列番号2及び4で示されるアミノ酸配列は、そのヒト相同因子(ホモログ)として、配列番号16で示されるアミノ酸配列は、そのウシ相同因子として、配列番号18で示されるアミノ酸配列は、そのウマ相同因子として、配列番号20〜28で示されるアミノ酸配列は、そのマウス相同因子として、配列番号30で示されるアミノ酸配列は、そのニワトリ相同因子として単離された、CAPRIN−1のアミノ酸配列である(後述の実施例1参照)。CAPRIN−1は、休止期の正常細胞が活性化や細胞分裂を起こす際に発現することが知られている。
【0023】
CAPRIN−1は、細胞表面には発現しないことが知られていたが、本検討により、CAPRIN−1タンパク質の一部が各種癌細胞の細胞表面に発現することが明らかになった。本発明では、CAPRIN−1タンパク質の内、癌細胞の細胞表面に発現する部分に結合する抗体が好ましく用いられる。癌細胞の細胞表面に発現するCAPRIN−1タンパク質中の部分ペプチドとして、配列表の配列番号2〜30のうち配列番号6および配列番号18を除く偶数番号で表されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基番号(aa)50−98又はアミノ酸残基番号(aa)233−305の領域内の連続する7個以上のアミノ酸配列から成るポリペプチドが挙げられ、具体的には例えば、配列番号37又は配列番号136(配列番号136で表されるアミノ酸配列の中でも、配列番号137又は配列番号138で表されるアミノ酸配列の領域が好ましい。)で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が挙げられ、本発明の抗体は、これらペプチドに結合する、かつ、抗腫瘍活性を示すすべての抗体が含まれる。
【0024】
本発明で用いられる上記CAPRIN−1に対する抗体は、抗腫瘍活性を発揮しうる限りいかなる種類の抗体であってもよく、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体(scFV)、抗体フラグメント、例えばFabやF(ab’)
2、などを含む。これらの抗体及びそのフラグメントは、また当業者に公知の方法により調製することが可能である。本発明においては、CAPRIN−1タンパク質と特異的に結合することが可能な抗体が望ましいし、モノクローナル抗体であることが好ましいが、均質な抗体を安定に生産できるかぎり、ポリクローナル抗体であっても良い。また、被験者がヒトである場合には、拒絶反応を回避もしくは抑制するためにヒト抗体又はヒト化抗体であることが望ましい。
【0025】
ここで、「CAPRIN−1タンパク質と特異的に結合する」とは、CAPRIN−1タンパク質に特異的に結合し、それ以外のタンパク質と実質的に結合しないことを意味する。
【0026】
本発明で用いることができる抗体の抗腫瘍活性は、後述するように、生体内で担癌動物に対する腫瘍増殖の抑制を調べることによって、あるいは、生体外で該ポリペプチドを発現する腫瘍細胞に対して、免疫細胞又は補体を介した細胞障害活性を示すか否かを調べることによって評価することができる。
【0027】
さらにまた、本発明における癌の治療及び/又は予防の対象である被験者は、ヒト、ペット動物、家畜類、競技用動物などの哺乳動物であり、好ましい被験者は、ヒトである。
【0028】
以下に、本発明に関する抗原の作製、抗体の作製、ならびに医薬組成物について説明する。
【0029】
<抗体作製用抗原の作製>
本発明で用いられるCAPRIN−1に対する抗体を取得するための感作抗原として使用されるタンパク質又はその断片は、ヒト、イヌ、ウシ、ウマ、マウス、ラット、ニワトリなど、その由来となる動物種に制限されない。しかし細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択することが好ましく、一般的には、哺乳動物由来のタンパク質が好ましく、特にヒト由来のタンパク質が好ましい。例えば、CAPRIN−1がヒトCAPRIN−1の場合、ヒトCAPRIN−1タンパク質やその部分ペプチド、ヒトCAPRIN−1を発現する細胞などを用いることができる。
【0030】
ヒトCAPRIN−1及びそのホモログの塩基配列及びアミノ酸配列は、例えばGenBank(米国NCBI)にアクセスし、BLAST、FASTAなどのアルゴリズム(Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873−5877,1993; Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389−3402, 1997)を利用することによって入手することができる。
【0031】
本発明では、ヒトCAPRIN−1の塩基配列(配列番号1もしくは3)又はアミノ酸配列(配列番号2もしくは4)を基準とした場合、これらのORF又は成熟部分の塩基配列又はアミノ酸配列と70%〜100%、好ましくは80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらに好ましくは95%〜100%、例えば97%〜100%、98%〜100%、99%〜100%又は99.5%〜100%の配列同一性を有する配列からなる核酸又はタンパク質がターゲットになる。ここで、「%配列同一性」は、2つの配列を、ギャップを導入してか又はギャップを導入しないで、最大の類似度となるようにアラインメント(整列)したとき、アミノ酸(又は塩基)の総数に対する同一アミノ酸(又は塩基)のパーセンテージ(%)を意味する。
【0032】
CAPRIN−1タンパク質の断片は、抗体が認識する最小単位であるエピトープ(抗原決定基)のアミノ酸長から、該タンパク質の全長未満の長さを有する。エピトープは、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて、抗原性又は免疫原性を有するポリペプチド断片を指し、その最小単位は、約7〜12アミノ酸、例えば8〜11アミノ酸、からなる。具体例としては、配列番号37、配列番号137又は配列番号138で表されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
【0033】
上記した、ヒトCAPRIN−1タンパク質やその部分ペプチドを含むポリペプチドは、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t―ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って合成することができる(日本生化学会編、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、化学修飾とペプチド合成、東京化学同人(日本)、1981年)。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。また、公知の遺伝子工学的手法(Sambrookら, Molecular Cloning, 第2版, Current Protocols in Molecular Biology (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubelら, Short Protocols in Molecular Biology, 第3版, A compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology (1995), John Wiley & Sonsなど)を用いて、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製し、該ポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込んで宿主細胞に導入し、該宿主細胞中でポリペプチドを生産させることにより、目的とするポリペプチドを得ることができる。
【0034】
上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法や市販の核酸合成機を用いた常法により、容易に調製することができる。例えば、配列番号1の塩基配列を含むDNAは、ヒト染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列を増幅できるように設計した一対のプライマーを用いてPCRを行うことにより調製することができる。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、耐熱性DNAポリメラーゼ(例えばTaqポリメラーゼなど)及びMg
2+含有PCRバッファーを用いて、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応行程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができるが、これに限定されない。PCRの手法、条件等については、例えばAusubelら, Short Protocols in Molecular Biology, 第3版, A compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology (1995), John Wiley & Sons(特に第15章)に記載されている。
【0035】
また、本明細書中の配列表の配列番号1〜30に示される塩基配列及びアミノ酸配列の情報に基づいて、適当なプローブやプライマーを調製し、それを用いてヒトなどのcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、所望のDNAを単離することができる。cDNAライブラリーは、配列番号2〜30のうち偶数の配列番号のタンパク質を発現している細胞、器官又は組織から作製することが好ましい。そのような細胞や組織の例は、精巣、白血病、乳癌、リンパ腫、脳腫瘍、肺癌、大腸癌などの癌又は腫瘍に由来する細胞又は組織である。上記したプローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、ならびに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Sambrookら, Molecular Cloning, 第2版, Current Protocols in Molecular Biology (1989)、Ausbelら(上記)等に記載された方法に準じて行うことができる。このようにして得られたDNAから、ヒトCAPRIN−1タンパク質やその部分ペプチドをコードするDNAを得ることができる。
【0036】
上記宿主細胞としては、上記ポリペプチドを発現可能な細胞であればいかなるものであってもよく、原核細胞の例としては大腸菌など、真核細胞の例としてはサル腎臓細胞COS1、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO等の哺乳動物細胞、ヒト胎児腎臓細胞株HEK293、マウス胎仔皮膚細胞株NIH3T3、出芽酵母、分裂酵母等の酵母細胞、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
宿主細胞として原核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、原核細胞中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、マルチクローニングサイト、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子、等を有する発現ベクターを用いる。大腸菌用発現ベクターとしては、pUC系、pBluescriptII、pET発現システム、pGEX発現システムなどが例示できる。上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで原核宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、前記DNAがコードしているポリペプチドを原核宿主細胞中で発現させることができる。この際、該ポリペプチドを、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることもできる。
【0038】
宿主細胞として真核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターを用いる。そのような発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK−CMV、pBK−RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pYES2等が例示できる。上記と同様に、上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで真核宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、前記DNAがコードしているポリペプチドを真核宿主細胞中で発現させることができる。発現ベクターとしてpIND/V5−His、pFLAG−CMV−2、pEGFP−N1、pEGFP−C1等を用いた場合には、Hisタグ(例えば(His)
6〜(His)
10)、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として、上記ポリペプチドを発現させることができる。
【0039】
発現ベクターの宿主細胞への導入は、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション、ウイルス感染、リポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、等の周知の方法を用いることができる。
【0040】
宿主細胞から目的のポリペプチドを単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒分別沈殿法、透析、遠心分離、限外ろ過、ゲルろ過、SDS−PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
<抗体の構造>
抗体は通常少なくとも2本の重鎖および2本の軽鎖を含むヘテロ多量体糖タンパク質である。IgMは別として、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖で構成される約150kDaのヘテロ四量体糖タンパク質である。典型的には、それぞれの軽鎖は1つのジスルフィド共有結合により重鎖に連結されているが、種々の免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数は変動する。それぞれの重鎖および軽鎖はまた鎖内ジスルフィド結合も有する。それぞれの重鎖は一方の端に可変ドメイン(VH領域)を有し、それにいくつかの定常領域が続く。それぞれ軽鎖は可変ドメイン(VL領域)を有し、その反対の端に1つの定常領域を有する。軽鎖の定常領域は重鎖の最初の定常領域と整列しており、かつ軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。抗体の可変ドメインは特定の領域が相補性決定領域(CDR)と呼ばれる特定の可変性を示して抗体に結合特異性を付与する。可変領域の相対的に保存されている部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれている。完全な重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ3つのCDRにより連結された4つのFRを含む。3つのCDRは重鎖ではそのN末から順にCDRH1,CDRH2,CDRH3、同様に軽鎖ではCDRL1,CDRL2,CDRL3と呼ばれている。抗体の抗原への結合特異性には、CDRH3が最も重要である。また、各鎖のCDRはFR領域によって近接した状態で一緒に保持され、他方の鎖からのCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。定常領域は抗体が抗原に結合することに直接寄与しないが、種々のエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞性細胞障害活性(ADCC)への関与、Fcγ受容体への結合を介した食作用、新生児Fc受容体(FcRn)を介した半減期/クリアランス速度、補体カスケードのC1q構成要素を介した補体依存性細胞障害(CDC)を示す。
【0042】
<抗体の作製>
本発明における抗CAPRIN−1抗体とは、CAPRIN−1タンパク質の全長又はその断片と免疫学的反応性を有する抗体を意味する。
【0043】
ここで、「免疫学的反応性」とは、生体内で抗体とCAPRIN−1抗原とが結合する特性を意味し、このような結合を介して腫瘍を障害(例えば、死滅、抑制又は退縮)する機能、が発揮される。すなわち、本発明で使用される抗体は、CAPRIN−1タンパク質と結合して腫瘍、例えば白血病、リンパ腫、乳癌、脳腫瘍、肺癌、食道癌、胃癌、腎臓癌、大腸癌などを障害することができるならば、その種類を問わない。
【0044】
抗体の例は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、抗体フラグメント(例えばFabやF(ab’)
2)などを含む。また、抗体は、免疫グロブリン分子の任意のクラス、例えばIgG,IgE,IgM,IgA,IgD及びIgY、又は任意のサブクラス、例えばIgG1,IgG2,IgG3,IgG4,IgA1,IgA2などである。
【0045】
抗体はさらに、グリコシル化の他に、アセチル化、ホルミル化、アミド化、リン酸化、またはペグ(PEG)化などによって修飾されていてもよい。
【0046】
以下に、種々の抗体の作製例を示す。
抗体が、モノクローナル抗体であるときには、例えば、CAPRIN−1を発現する乳癌細胞株SK−BR−3などをマウスに投与して免疫し、同マウスより脾臓を抽出し、細胞を分離の上、該細胞とマウスミエローマ細胞とを融合させ、得られた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、癌細胞増殖抑制作用を持つ抗体を産生するクローンを選択する。癌細胞増殖抑制作用を持つモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを単離し、当該ハイブリドーマを培養し、培養上清から一般的なアフィニティ精製法により抗体を精製することで、調製することが可能である。
【0047】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、例えば以下のようにしても作製することができる。まず、公知の方法にしたがって、感作抗原を動物に免疫する。一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。
【0048】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付すが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0049】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3U1(P3−X63Ag8U1)、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol. (1979)123, 1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978)81, 1−7)、NS−1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol. (1976)6, 511−519)、MPC−11(Margulies. D.H. et al., Cell (1976)8, 405−415)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978)276, 269−270)、FO(deSt. Groth, S.F. et al., J. Immunol. Methods (1980)35, 1−21)、S194(Trowbridge, I.S. J.Exp.Med. (1978)148, 313−323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979)277, 131−133)等が好適に使用される。
【0050】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler, G. and Milstein, C. Methods Enzymol. (1981)73, 3−46)等に準じて行うことができる。
【0051】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0052】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0053】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とするハイブリドーマを形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0054】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及び単一クローニングを行う。
【0055】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウイルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266(登録番号TIB196)と融合させ、所望の活性(例えば、細胞増殖抑制活性)を有するヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0056】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0057】
すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。
【0058】
本発明で使用可能な抗体の別の例がポリクローナル抗体である。ポリクローナル抗体は、例えば、次のようにして得ることができる。
【0059】
天然のCAPRIN−1タンパク質、あるいはGSTなどとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させた組換えCAPRIN−1タンパク質、又はその部分ペプチドをマウス、ヒト抗体産生マウス、ウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、CAPRIN−1タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。後述の実施例では、CAPRIN−1タンパク質のアミノ酸配列中、癌細胞の細胞表面に発現する領域の一部のペプチド(配列番号37で表される)に対するウサギポリクローナル抗体が作製され、抗腫瘍効果が確認されている。
【0060】
ここで、ヒト抗体産生マウスとしては、例えばKMマウス(キリンファーマ/Medarex)及びXenoマウス(Amgen)が知られている(例えば、国際公開第WO02/43478号、同第WO02/092812号など)。このようなマウスをCAPRIN−1タンパク質又はその断片で免疫するときには、完全ヒトポリクローナル抗体を血液から得ることができる。また、免疫後のマウスから脾臓細胞を取出し、ミエローマ細胞との融合法によりヒト型モノクローナル抗体を作製することができる。
【0061】
抗原の調製は、例えば、動物細胞を用いた方法(特表2007−530068)やバキュロウイルスを用いた方法(例えば、国際公開第WO98/46777号など)などに準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。
【0062】
さらにまた、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl, A.K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0063】
本発明の抗CAPRIN−1抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。しかし、ポリクローナル抗体、遺伝子改変抗体(キメラ抗体、ヒト化抗体など)などであってもよい。
【0064】
モノクローナル抗体には、ヒトモノクローナル抗体、非ヒト動物モノクローナル抗体(例えばマウスモノクローナル抗体、ラットモノクローナル抗体、ウサギモノクローナル抗体、ニワトリモノクローナル抗体など)などが含まれる。モノクローナル抗体は、CAPRIN−1タンパク質を免疫した非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ヒト抗体産生マウスなど)からの脾細胞とミエローマ細胞との融合によって得られたハイブリドーマを培養することによって作製されうる。後述の実施例では、マウスモノクローナル抗体が作製され、抗腫瘍効果が確認された。これらのモノクローナル抗体は、配列番号43、配列番号73、配列番号83、配列番号93、配列番号103、配列番号113又は配列番号123のアミノ酸配列を有する重鎖可変(VH)領域と、配列番号47、配列番号53、配列番号58、配列番号63、配列番号68、配列番号77、配列番号87、配列番号97、配列番号107,配列番号117又は配列番号127のアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)領域とを含み、ここで、該VH領域に配列番号40、配列番号70、配列番号80、配列番号90、配列番号100、配列番号110又は配列番号120のアミノ酸配列で表されるCDR1、配列番号41、配列番号71、配列番号81、配列番号91、配列番号101、配列番号111又は配列番号121のアミノ酸配列で表されるCDR2及び配列番号42、配列番号72、配列番号82、配列番号92、配列番号102、配列番号112又は配列番号122のアミノ酸配列で表されるCDR3が含まれ、該VL領域に配列番号44、配列番号50、配列番号55、配列番号60、配列番号65、配列番号74、配列番号84、配列番号94、配列番号104,配列番号114又は配列番号124のアミノ酸配列で表されるCDR1、配列番号45、配列番号51、配列番号56、配列番号61、配列番号66、配列番号75、配列番号85、配列番号95、配列番号105,配列番号115又は配列番号125のアミノ酸配列で表されるCDR2及び配列番号46、配列番号52、配列番号57、配列番号62、配列番号67、配列番号76、配列番号86、配列番号96、配列番号106、配列番号116又は配列番号126のアミノ酸配列で表されるCDR3が含まれる。
【0065】
キメラ抗体は、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体であり、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体などである。キメラ抗体の作製は公知の方法を用いて行うことができ、例えば、抗体V領域をコードするDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。
【0066】
ポリクローナル抗体には、ヒト抗体産生動物(例えば、マウス)にCAPRIN−1タンパク質を免疫して得られる抗体が含まれる。
【0067】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0068】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region; FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開第EP239400号、国際公開第WO96/02576号参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato K. et al., Cancer Research 1993, 53: 851−856)。また、様々なヒト抗体由来のフレームワーク領域に置換してもよい(国際公開第WO99/51743号参照)。
【0069】
CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato K. et al., Cancer Research 1993, 53: 851−856)。
【0070】
キメラ抗体やヒト化抗体を作製した後に、可変領域(例えば、FR)や定常領域中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換等してもよい。
【0071】
アミノ酸の置換は、例えば15未満、10未満、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下のアミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1又は2アミノ酸、の置換であり、置換抗体は、未置換抗体と機能的に同等であるべきである。置換は、保存的アミノ酸置換が望ましく、これは、電荷、側鎖、極性、芳香族性などの性質の類似するアミノ酸間の置換である。性質の類似したアミノ酸は、例えば、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン)、無極性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン)、分枝鎖アミノ酸(トレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン)などに分類しうる。
【0072】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0073】
ここで「機能的に同等」とは、対象となる抗体が本発明の抗体と同様の生物学的あるいは生化学的活性、具体的には腫瘍を障害する機能、を有すること、ヒトへの適用時に拒絶反応を本質的に起こさないことなどを指す。このような活性としては、例えば、細胞増殖抑制活性、あるいは結合活性を例示することができる。
【0074】
あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法としては、ポリペプチドに変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto−Gotoh, T. et al., (1995) Gene 152, 271−275、Zoller, MJ., and Smith, M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468−500、Kramer, W. et al., (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441−9456、Kramer, W. and Fritz, HJ., (1987) Methods Enzymol. 154, 350−367、Kunkel, TA., (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488−492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763−2766)などを用いて、本発明の抗体に適宜変異を導入することにより、該抗体と機能的に同等な抗体を調製することができる。
【0075】
上記抗CAPRIN−1抗体が認識するCAPRIN−1タンパク質のエピトープを認識する抗体は、当業者に公知の方法により得ることが可能である。例えば、抗CAPRIN−1抗体が認識するCAPRIN−1タンパク質のエピトープを通常の方法(例えば、エピトープマッピングなど)により決定し、該エピトープに含まれるアミノ酸配列を有するポリペプチドを免疫原として抗体を作製する方法や、通常の方法で作製された抗体のエピトープを決定し、抗CAPRIN−1抗体とエピトープが同じ抗体を選択する方法などにより得ることができる。ここで、「エピトープ」は、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて、抗原性又は免疫原性を有するポリペプチド断片を指し、その最小単位は、約7〜12アミノ酸、好ましくは8〜11アミノ酸からなる。
【0076】
本発明の抗体の親和定数Ka(k
on/k
off)は、好ましくは、少なくとも10
7M
−1、少なくとも10
8M
−1、少なくとも5×10
8M
−1、少なくとも10
9M
−1、少なくとも5×10
9M
−1、少なくとも10
10M
−1、少なくとも5×10
10M
−1、少なくとも10
11M
−1、少なくとも5×10
11M
−1、少なくとも10
12M
−1、あるいは、少なくとも10
13M
−1である。
【0077】
本発明の抗体は、抗腫瘍剤とコンジュゲートすることができる。抗体と抗腫瘍剤との結合は、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオール基などと反応性の基(例えば、コハク酸イミジル基、ホルミル基、2−ピリジルジチオ基、マレイイミジル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシ基など)をもつスペーサーを介して行うことができる。
【0078】
抗腫瘍剤の例は、文献等で公知の下記の抗腫瘍剤、すなわち、パクリタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、シクロホスファミド、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、チオテパ、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファン、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、ウレドーパ(uredopa)、アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethilenethiophosphoramide)、トリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)、ブラタシン、ブラタシノン、カンプトセシン、ブリオスタチン、カリスタチン(callystatin)、クリプトフィシン1、クリプトフィシン8、ドラスタチン、ズオカルマイシン、エレウテロビン、パンクラチスタチン、サルコジクチン(sarcodictyin)、スポンジスタチン、クロランブシル、クロロナファジン(chloRNAphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、カリケアマイシン(calicheamicin)、ダイネマイシン、クロドロネート、エスペラマイシン、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、デトルビシン(detorbicin)、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、アドリアマイシン(ADRIAMYCIN)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンC、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin)、デノプテリン(denopterin)、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate)、フルダラビン(fludarabine)、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6−アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine);アンドロゲン類、例えばカルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone)、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン、フロリン酸(frolinic acid)、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、アミノレブリン酸、エニルウラシル、アムサクリン(amsacrine)、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、エダトラキセート(edatraxate)、デフォファミン(defofamine)、デメコルシン(demecolcine)、ジアジコン(diaziquone)、エルフォルニチン (elfornithine)、酢酸エリプチニウム(elliptinium)、エポチロン(epothilone)、エトグルシド(etoglucid)、レンチナン、ロニダミン(lonidamine)、メイタンシン(maytansine)、アンサミトシン(ansamitocine)、ミトグアゾン(mitoguazone)、ミトキサントロン、モピダンモール(mopidanmol)、ニトラエリン(nitraerine)、ペントスタチン、フェナメット(phenamet)、ピラルビシン、ロソキサントロン(losoxantrone)、ポドフィリン酸(podophyllinic acid)、2−エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン(razoxane)、リゾキシン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム(spirogermanium)、テニュアゾン酸(tenuazonic acid)、トリアジコン(triaziquone)、ロリジン(roridine)A、アングイジン(anguidine)、ウレタン、ビンデシン、ダカーバジン、マンノムスチン(mannomustine)、ミトブロニトール、ミトラクトール(mitolactol)、ピポブロマン(pipobroman)、ガシトシン(gacytosine)、ドキセタキセル、クロランブシル、ゲムシタビン(gemcitabine)、6−チオグアニン、メルカプトプリン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ビンブラスチン、エトポシド、イホスファミド、マイトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ノバントロン(novantrone)、テニポシド、エダトレキセート(edatrexate)、ダウノマイシン、アミノプテリン、キセローダ(xeloda)、イバンドロナート(ibandronate)、イリノテカン、トポイソメラーゼインヒビター、ジフルオロメチロールニチン(DMFO)、レチノイン酸、カペシタビン(capecitabine)、並びにそれらの薬学的に許容可能な塩又は誘導体を包含する。
【0079】
あるいは、本発明の抗体には、文献等で公知の、
211At、
131I、
125I、
90Y、
186Re、
188Re、
153SM、
212Bi、
32P、
175Lu、
176Luなどの放射性同位体を結合することも可能である。放射性同位体は、腫瘍の治療や診断のために有効なものが望ましい。
【0080】
本発明の抗体は、CAPRIN−1と免疫学的反応性を有する抗体、あるいは、CAPRIN−1を特異的に認識する抗体である。該抗体は、それを投与する対象動物において拒絶反応がほとんど又はまったく回避されるような構造をもつ抗体であるべきである。そのよう抗体としては、例えば対象動物がヒトである場合、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体(例えばヒト−マウスキメラ抗体)、単鎖抗体、二重特異性抗体などが挙げられる。これらの抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域がヒト抗体由来のものであるか、あるいは、重鎖及び軽鎖の可変領域が非ヒト動物抗体由来の相補性決定領域(CDR1、CDR2及びCDR3)とヒト抗体由来のフレームワーク領域からなるものであるか、あるいは、重鎖及び軽鎖の可変領域が非ヒト動物抗体由来のものであり、かつ、重鎖及び軽鎖の定常領域がヒト抗体由来のものである組換え型抗体である。好ましい抗体は、前2つの抗体である。
【0081】
これらの組換え型抗体は、次のようにして作製することができる。ハイブリドーマなどの抗体産生細胞からヒトCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体、マウスモノクローナル抗体、ラットモノクローナル抗体、ウサギモノクローナル抗体、ニワトリモノクローナル抗体など)をコードするDNAをクローニングし、これを鋳型にして該抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域をコードするDNAをRT−PCR法等により作製し、Kabat EU numbering system(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5thEd. Public Health Service, National Institute of Health, Bethesda, Md. (1991))に基づいて軽鎖及び重鎖の各可変領域の配列又は各CDR1、CDR2、CDR3の配列を決定する。
【0082】
さらに、これらの各可変領域をコードするDNA又は各CDRをコードするDNAを、遺伝子組換え技術(Sambrookら,Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))又はDNA合成機を用いて作製する。ここで、上記ヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、ヒト抗体産生動物(例えば、マウス)にヒトCAPRIN−1を免疫したのち、該免疫動物から切除した脾細胞とミエローマ細胞とを融合させることによって作製することができる。これとは別に、必要に応じて、遺伝子組換え技術又はDNA合成機を用いてヒト抗体由来の軽鎖又は重鎖の可変領域及び定常領域をコードするDNAを作製する。
【0083】
ヒト化抗体の場合には、ヒト抗体由来の軽鎖又は重鎖の可変領域をコードするDNA中のCDRコーディング配列を、それらに対応する、ヒト以外の動物(例えばマウス、ラット、ニワトリなど)由来の抗体のCDRコーディング配列と置換したDNAを作製し、それによって得られたDNAをそれぞれ、ヒト抗体由来の軽鎖又は重鎖の定常領域をコードするDNAと連結することによって、ヒト化抗体をコードするDNAを作製することができる。
【0084】
キメラ抗体の場合には、ヒト以外の動物(例えばマウス、ラット、ニワトリなど)由来の抗体の軽鎖又は重鎖の可変領域をコードするDNAをそれぞれ、ヒト抗体由来の軽鎖又は重鎖の定常領域をコードするDNAと連結することによって、キメラ抗体をコードするDNAを作製することができる。
【0085】
単鎖抗体の場合には、この抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域とをリンカーを介して直線状に連結された抗体であり、重鎖可変領域をコードするDNA、リンカーをコードするDNA、及び軽鎖可変領域をコードするDNAを結合することによって単鎖抗体をコードするDNAを作製することができる。ここで、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域はいずれも、ヒト抗体由来のものであるか、あるいは、CDRのみヒト以外の動物(例えばマウス、ラット、ニワトリなど)由来の抗体のCDRによって置換されたヒト抗体由来のものである。また、リンカーは、12〜19アミノ酸からなり、例えば15アミノ酸の(G
4S)
3(G. −B. Kimら,Protein Engineering Design and Selection 2007, 20(9): 425−432)が挙げられる。
【0086】
二重特異性抗体(diabody)の場合には、この抗体は2つの異なるエピトープと特異的に結合可能な抗体であり、例えば重鎖可変領域AをコードするDNA、軽鎖可変領域BをコードするDNA、重鎖可変領域BをコードするDNA、及び軽鎖可変領域AをコードするDNAをこの順序で結合する(ただし、軽鎖可変領域BをコードするDNAと重鎖可変領域BをコードするDNAとは上記のようなリンカーをコードするDNAを介して結合される。)ことによって二重特異性抗体をコードするDNAを作製することができる。ここで、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域はいずれも、ヒト抗体由来のものであるか、あるいは、CDRのみヒト以外の動物(例えばマウス、ラット、ニワトリなど)由来の抗体のCDRによって置換されたヒト抗体由来のものである。
【0087】
上記のようにして作製された組換えDNAを、1つ又は複数の適当なベクターに組み込み、これを宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞、酵母細胞、昆虫細胞など)に導入し、(共)発現させることによって組換え型抗体を作製することができる(P.J. Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY、P. Shepherd and C. Dean., Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS; J.W. Goding., Monoclonal Antibodies: principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESS)。
【0088】
上記の方法によって作製される本発明の抗体は、例えば以下の(a)〜(k)の抗体が挙げられる。
【0089】
(a)配列番号40、41および42を含む重鎖可変領域と配列番号44、45および46を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号43の重鎖可変領域および配列番号47の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0090】
(b)配列番号40,41および42を含む重鎖可変領域と配列番号50,51および52を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号43の重鎖可変領域および配列番号53の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0091】
(c)配列番号40,41および42を含む重鎖可変領域と配列番号55,56および57を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号43の重鎖可変領域および配列番号58の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0092】
(d)配列番号40,41および42を含む重鎖可変領域と配列番号60,61および62を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号43の重鎖可変領域および配列番号63の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0093】
(e)配列番号40,41および42を含む重鎖可変領域と配列番号65,66および67を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号43の重鎖可変領域および配列番号68の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0094】
(f)配列番号70、71および72を含む重鎖可変領域と配列番号74,75および76を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号73の重鎖可変領域および配列番号77の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0095】
(g)配列番号80,81および82を含む重鎖可変領域と配列番号84,85および86を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号83の重鎖可変領域および配列番号87の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0096】
(h)配列番号90,91および92を含む重鎖可変領域と配列番号94,95および96を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号93の重鎖可変領域および配列番号97の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0097】
(i)配列番号100,101および102を含む重鎖可変領域と配列番号104,105および106を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号103の重鎖可変領域および配列番号107の軽鎖可変領域で構成される抗体)
(j)配列番号110,111および112を含む重鎖可変領域と配列番号114,115および116を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号113の重鎖可変領域および配列番号117の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0098】
(k)配列番号120,121および122を含む重鎖可変領域と配列番号124,125および126を含む軽鎖可変領域とを含む抗体(好ましくは配列番号123の重鎖可変領域および配列番号127の軽鎖可変領域で構成される抗体)。
【0099】
ここで、配列番号40、41および42、配列番号70,71および72、配列番号80,81および82、配列番号90,91および92、配列番号100,101および102、配列番号110,111および112、配列番号120,121および122に示すアミノ酸配列はそれぞれ、マウス抗体重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3であり、また、配列番号44、45および46、配列番号50,51および52、配列番号55,56および57、配列番号60,61および62、配列番号65、66および67、配列番号74,75および76、配列番号84、85および86、配列番号94,95および96、配列番号104,105および106、配列番号114,115および116、配列番号124,125および126に示すアミノ酸配列はそれぞれ、マウス抗体軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3である。
【0100】
また、本発明のヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体又は二重特異性抗体は、例えば以下の抗体である(抗体(a)で例示する)。
【0101】
(i)重鎖の可変領域が配列番号40、41および42のアミノ酸配列及びヒト抗体由来のフレームワーク領域のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖の可変領域が配列番号44、45および46のアミノ酸配列及びヒト抗体由来のフレームワーク領域のアミノ酸配列を含む抗体(好ましくは重鎖可変領域に配列番号43のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖可変領域に配列番号47のアミノ酸配列を含む抗体)。
【0102】
(ii)重鎖の可変領域が配列番号40、41および42のアミノ酸配列及びヒト抗体由来のフレームワーク領域のアミノ酸配列を含み、かつ、重鎖の定常領域がヒト抗体由来のアミノ酸配列を含み、並びに、軽鎖の可変領域が配列番号44、45および46のアミノ酸配列及びヒト抗体由来のフレームワーク領域のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖の定常領域がヒト抗体由来のアミノ酸配列を含んでなる抗体(好ましくは重鎖の可変領域が配列番号43のアミノ酸配列を含み、かつ、重鎖の定常領域がヒト抗体由来のアミノ酸配列を含む、並びに、軽鎖の可変領域が配列番号47のアミノ酸配列を含み、かつ、軽鎖の定常領域がヒト抗体由来のアミノ酸配列を含んでなる抗体)。
【0103】
なお、ヒト抗体重鎖及び軽鎖の定常領域及び可変領域の配列は、例えばNCBI(米国:GenBank、UniGeneなど)から入手可能であり、例えばヒトIgG1重鎖定常領域については登録番号J00228、ヒトIgG2重鎖定常領域については登録番号J00230、ヒトIgG3重鎖定常領域については登録番号X03604、ヒトIgG4重鎖定常領域については登録番号K01316、ヒト軽鎖κ定常領域については登録番号V00557、X64135、X64133など、ヒト軽鎖λ定常領域については登録番号X64132、X64134などの配列を参照することができる。
【0104】
上記抗体は、好ましくは、細胞障害活性を有しており、これによって抗腫瘍効果を発揮することができる。
【0105】
また、上記抗体における重鎖及び軽鎖の可変領域やCDRの特定の配列は、単に例示を目的としたものであり、特定の配列に限定されないことは明らかである。ヒトCAPRIN−1に対する別のヒト抗体又は非ヒト動物抗体(例えばマウス抗体)を産生しうるハイブリドーマを作製し、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を回収し、ヒトCAPRIN−1との免疫学的結合性及び細胞障害活性を指標として目的の抗体であるか否かを判定する。それによって目的のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを識別したのち、上記のとおり、該ハイブリドーマから目的の抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAを作製し配列決定し、該DNAを別の抗体の作製のために利用する。
【0106】
さらに本発明の上記抗体は、CAPRIN−1を特異的に認識するという特異性を有する限り、上記(i)から(iv)の各抗体の特にフレームワーク領域の配列及び/又は定常領域の配列において、1若しくは数個(好ましくは、1若しくは2個)のアミノ酸の置換、欠失又は付加があってもよい。ここで数個とは、2〜5個、好ましくは2個又は3個を意味する。
【0107】
本発明はさらに、本発明の上記抗体をコードするDNA、あるいは、上記抗体の重鎖又は軽鎖をコードするDNA、あるいは、上記抗体の重鎖又は軽鎖の可変領域をコードするDNAも提供する。そのようなDNAは、例えば抗体(a)の場合、配列番号40、41および42のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む重鎖可変領域をコードするDNA、配列番号44、45及び46のアミノ酸配列をコードする塩基配列含む軽鎖可変領域をコードするDNA、などを含む。
【0108】
これらの配列のDNAによってコードされる相補性決定領域(CDR)は、抗体の特異性を決定する領域であるため、抗体のそれ以外の領域(すなわち、定常領域及びフレームワーク領域)をコードする配列は他の抗体由来の配列であってもよい。ここで他の抗体とはヒト以外の生物由来の抗体も含むが、副作用低減の観点からはヒト由来のものが好ましい。すなわち、上記のDNAでは、重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域及び各定常領域をコードする領域がヒト抗体由来の対応アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むことが好ましい。
【0109】
さらに、本発明の抗体をコードするDNAの別の例は、例えば抗体(a)の場合、配列番号43のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む重鎖可変領域をコードするDNA、軽鎖可変領域をコードする領域が配列番号47のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAなどである。ここで、配列番号43のアミノ酸配列をコードする塩基配列の例は、配列番号48の塩基配列である。また、配列番号47のアミノ酸配列をコードする塩基配列の例は、配列番号49の塩基配列である。これらのDNAでも、重鎖及び軽鎖の各定常領域をコードする領域がヒト抗体由来の対応アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むことが好ましい。
【0110】
本発明のDNAは、例えば上記の方法又は以下の方法で得ることができる。まず、本発明の抗体に関わるハイブリドーマから、市販のRNA抽出キットを用いて全RNAを調製し、ランダムプライマー等を用いて逆転写酵素によりcDNAを合成する。次いで既知のマウス抗体重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子の各可変領域において、それぞれ保存されている配列のオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法によって、抗体をコードするcDNAを増幅させる。定常領域をコードする配列については、既知の配列をPCR法で増幅することによって得ることができる。DNAの塩基配列は、配列決定用プラスミド又はファージに組み込むなどして、常法により決定することができる。
【0111】
本発明で用いられる抗CAPRIN−1抗体によるCAPRIN−1発現癌細胞に対する抗腫瘍効果は、以下の機序により起こると考えられる。
【0112】
CAPRIN−1発現細胞のエフェクター細胞抗体依存的細胞障害性(ADCC)、及びCAPRIN−1発現細胞の補体依存的細胞障害性(CDC)。
【0113】
従って、本発明で用いられる抗CAPRIN−1抗体の活性評価は、以下実施例に具体的に示されるように、生体外でCAPRIN−1を発現する癌細胞に対して上記ADCC活性又はCDC活性を測定することで評価することができる。
【0114】
本発明で用いられる抗CAPRIN−1抗体は、癌細胞上のCAPRIN−1タンパク質と結合し、上記活性によって、抗腫瘍作用を示すことから、癌の治療あるいは予防に有用であると考えられる。すなわち本発明は、抗CAPRIN−1抗体を有効成分とする、癌の治療及び/又は予防のための医薬組成物を提供する。抗CAPRIN−1抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト化抗体にすることが好ましい。
【0115】
なお、抗CAPRIN−1抗体と癌細胞表面上のCAPRIN−1タンパク質との結合親和性が高い程、抗CAPRIN−1抗体による、より強い抗腫瘍活性が得られる。従って、CAPRIN−1タンパク質と高い結合親和性を有する抗CAPRIN−1抗体を獲得できれば、より強い抗腫瘍効果が期待でき、癌の治療及び/または予防を目的とした医薬組成物として適応することが可能になる。高い結合親和性として、前述したように、結合定数(親和定数)Ka(k
on/k
off)が、好ましくは、少なくとも10
7M
−1、少なくとも10
8M
−1、少なくとも5×10
8M
−1、少なくとも10
9M
−1、少なくとも5×10
9M
−1、少なくとも10
10M
−1、少なくとも5×10
10M
−1、少なくとも10
11M
−1、少なくとも5×10
11M
−1、少なくとも10
12M
−1、あるいは、少なくとも10
13M
−1であることが望ましい。
【0116】
<抗原発現細胞への結合>
抗体がCAPRIN−1に結合する能力は、実施例で述べられるようなたとえば ELISA、ウエスタンブロット法、免疫蛍光およびフローサイトメトリー分析などを用いた結合アッセイを利用して特定することができる。
【0117】
<免疫組織化学染色>
CAPRIN−1を認識する抗体は、当業者に周知の方法での免疫組織化学により、外科手術の間に患者から得た組織や、自然にまたはトランスフェクション後にCAPRIN−1を発現する細胞系を接種した異種移植組織を担持する動物から得た組織から、パラホルムアルデヒドまたはアセトン固定した凍結切片またはパラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋した組織切片を使用して、CAPRIN−1との反応性に関して試験することができる。
【0118】
免疫組織化学染色のため、CAPRIN−1に対して反応性のある抗体を、様々な方法で染色させることができる。例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ヤギ抗マウス抗体やヤギ抗ウサギ抗体を反応させることにより、可視化することができる。
【0119】
<医薬組成物>
本発明の癌の治療及び/又は予防のための医薬組成物の標的は、CAPRIN−1遺伝子を発現する癌(細胞)であれば特に限定されない。
本明細書で使用される「腫瘍」及び「癌」という用語は、悪性新生物を意味し、互換的に使用される。
【0120】
本発明において対象となる癌としては、配列番号2〜30のうち偶数の配列番号のアミノ酸配列又は7以上の連続アミノ酸からなるその部分配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子を発現している癌であり、好ましくは、乳癌、脳腫瘍、白血病、肺癌、リンパ腫、肥満細胞腫、食道癌及び大腸癌である。
【0121】
これらの特定の癌には、例えば、乳腺癌、複合型乳腺癌、乳腺悪性混合腫瘍、乳管内乳頭状腺癌、肺腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌、神経上皮組織性腫瘍である神経膠腫、脳室上衣腫、神経細胞性腫瘍、胎児型の神経外胚葉性腫瘍、神経鞘腫、神経線維腫、髄膜腫、慢性型リンパ球性白血病、リンパ腫、消化管型リンパ腫、消化器型リンパ腫、小〜中細胞型リンパ腫、盲腸癌、上行結腸癌、下行結腸癌、横行結腸癌、S状結腸癌、直腸癌が包含されるが、これらに限定されない。
【0122】
また、対象となる動物は、哺乳動物であり、例えば霊長類、ペット動物、家畜類、競技用動物などを含む哺乳動物であり、特にヒト、イヌおよびネコが好ましい。
【0123】
本発明で用いられる抗体を医薬組成物として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
【0124】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0125】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−60と併用してもよい。
【0126】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0127】
投与は、経口又は非経口であり、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
【0128】
また、患者の年齢、体重、性別、症状などにより適宜投与方法を選択することができる。抗体又は抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重、年齢、性別、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0129】
<ポリペプチド及びDNA>
本発明は更に、上記抗体(a)〜(k)に関わる以下のポリペプチド及びDNAも提供する。
【0130】
(i)配列番号43、配列番号73、配列番号83、配列番号93、配列番号103、配列番号113および配列番号123のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードするDNA。
【0131】
(ii)配列番号47、配列番号53、配列番号58、配列番号63、配列番号68、配列番号77、配列番号87、配列番号97、配列番号107,配列番号117配列番号127のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードするDNA。
【0132】
(iii)配列番号48、配列番号78、配列番号88、配列番号98、配列番号108、配列番号118および配列番号128の塩基配列を含むDNA。
【0133】
(iv)配列番号49、配列番号54、配列番号59、配列番号64、配列番号69、配列番号79、配列番号89、配列番号99、配列番号109、配列番号119及び配列番号129の塩基配列を含むDNA。
【0134】
(v)配列番号40、41および42、配列番号70,71および72、配列番号80,81および82、配列番号90,91および92、配列番号100,101および102、配列番号110,111および112、配列番号120,121および122に示すアミノ酸配列からなる群から選択される、重鎖CDRポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードするDNA。
【0135】
(vi)配列番号44、45および46、配列番号50,51および52、配列番号55,56および57、配列番号60,61および62、配列番号65,66および67、配列番号74,75および76、配列番号84,85および86、配列番号94,95および96、配列番号104,105および106、配列番号114,115および116、配列番号124,125および126に示すアミノ酸配列からなる群から選択される、軽鎖CDRポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードするDNA。
【0136】
これらのポリペプチド及びDNAは、上記のとおり、遺伝子組換え技術を用いて作製することができる。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの具体例によって制限されないものとする。
【0138】
実施例1 SEREX法による新規癌抗原タンパクの同定
(1)cDNAライブラリーの作製
健常な犬の精巣組織から酸グアニジウム−フェノール−クロロホルム法(Acid guanidium−Phenol−Chloroform法)により全RNAを抽出し、Oligotex−dT30 mRNA purification Kit(宝酒造社製)を用いてキット添付のプロトコールに従ってポリA RNAを精製した。
【0139】
この得られたmRNA(5μg)を用いてイヌ精巣cDNAファージライブラリーを合成した。cDNAファージライブラリーの作製にはcDNA Synthesis Kit, ZAP−cDNA Synthesis Kit, ZAP−cDNA GigapackIII Gold Clonig Kit (STRATAGENE社製)を用い、キット添付のプロトコールに従ってライブラリーを作製した。作製したcDNAファージライブラリーのサイズは7.73×10
5pfu/mlであった。
【0140】
(2)血清によるcDNAライブラリーのスクリーニング
上記作製したイヌ精巣cDNAファージライブラリーを用いて、イムノスクリーニングを行った。具体的にはΦ90×15mmのNZYアガロースプレートに2210クローンとなるように宿主大腸菌(XL1−Blue MRF’)に感染させ、42℃、3〜4時間培養し、溶菌斑(プラーク)を作らせ、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を浸透させたニトロセルロースメンブレン(Hybond C Extra: GE Healthcare Bio−Scinece社製)でプレートを37℃で4時間覆うことによりタンパク質を誘導・発現させ、メンブレンにタンパク質を転写した。その後メンブレンを回収し0.5%脱脂粉乳を含むTBS(10mM Tris−HCl, 150mM NaCl pH7.5)に浸し4℃で一晩振盪することによって非特異反応を抑制した。このフィルターを500倍希釈した患犬血清と室温で2〜3時間反応させた。
【0141】
上記患犬血清としては、乳癌の患犬より採取した血清を用いた。これらの血清は−80℃で保存し、使用直前に前処理を行った。血清の前処理方法は、以下の方法による。すなわち、外来遺伝子を挿入していないλ ZAP Expressファージを宿主大腸菌(XL1−Blure MRF’)に感染させた後、NZYプレート培地上で37℃、一晩培養した。次いで0.5M NaClを含む0.2M NaHCO
3 pH8.3のバッファーをプレートに加え、4℃で15時間静置後、上清を大腸菌/ファージ抽出液として回収した。次に、回収した大腸菌/ファージ抽出液をNHS−カラム(GE Healthcare Bio−Science社製)に通液して、大腸菌・ファージ由来のタンパク質を固定化した。このタンパク固定化カラムに患犬血清を通液・反応させ、大腸菌及びファージに吸着する抗体を血清から取り除いた。カラムを素通りした血清画分は、0.5%脱脂粉乳を含むTBSにて500倍希釈し、これをイムノスクリーニング材料とした。
【0142】
かかる処理血清と上記融合タンパク質をブロットしたメンブレンをTBS−T(0.05% Tween20/TBS)にて4回洗浄を行った後、二次抗体として0.5%脱脂粉乳を含むTBSにて5000倍希釈を行ったヤギ抗イヌIgG(Goat anti Dog IgG−h+I HRP conjugated: BETHYL Laboratories社製)を、室温1時間反応させ、NBT/BCIP反応液(Roche社製)を用いた酵素発色反応により検出し、発色反応陽性部位に一致するコロニーをΦ90×15mmのNZYアガロースプレート上から採取し、SM緩衝液(100mM NaCl、10mM MgClSO
4、50mM Tris−HCl、0.01%ゼラチン pH7.5)500μlに溶解させた。発色反応陽性コロニーが単一化するまで上記と同様の方法で、二次、三次スクリーニングを繰り返し、血清中のIgGと反応する30940個のファージクローンをスクリーニングして、5個の陽性クローンを単離した。
【0143】
(3)単離抗原遺伝子の相同性検索
上記方法により単離した5個の陽性クローンを塩基配列解析に供するため、ファージベクターからプラスミドベクターに転換する操作を行った。具体的には宿主大腸菌(XL1−Blue MRF’)を吸光度OD
600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液250μlさらにExAssist helper phage(STRATAGENE社製)1μlを混合した後37℃で15分間反応後、LB培地を3ml添加し37℃で2.5〜3時間培養を行い、直ちに70℃の水浴にて20分間保温した後、4℃、1000×g、15分間遠心分離を行い上清をファージミド溶液として回収した。次いでファージミド宿主大腸菌(SOLR)を吸光度OD
600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液10μlを混合した後37℃で15分間反応させ、50μlをアンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB寒天培地に播き37℃一晩培養した。トランスフォームしたSOLRのシングルコロニーを採取し、アンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB培地37℃にて培養後、QIAGEN plasmid Miniprep Kit(キアゲン社製)を使って目的のインサートを持つプラスミドDNAを精製した。
【0144】
精製したプラスミドは、配列番号31に記載のT3プライマーと配列番号32に記載のT7プライマーを用いて、プライマーウォーキング法によるインサート全長配列の解析を行った。このシークエンス解析により配列番号5,7,9,11,13に記載の遺伝子配列を取得した。この遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列(配列番号6,8,10,12,14)を用いて、相同性検索プログラムBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を行い既知遺伝子との相同性検索を行った結果、得られた5個の遺伝子全てがCAPRIN−1をコードする遺伝子であることが判明した。5個の遺伝子間の配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において塩基配列100%、アミノ酸配列99%であった。この遺伝子のヒト相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列94%、アミノ酸配列98%であった。ヒト相同因子の塩基配列を配列番号1,3に、アミノ酸配列を配列番号2,4に示す。また、取得したイヌ遺伝子のウシ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列94%、アミノ酸配列97%であった。ウシ相同因子の塩基配列を配列番号15に、アミノ酸配列を配列番号16に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とウシ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列94%、アミノ酸配列93〜97%であった。また、取得したイヌ遺伝子のウマ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列93%、アミノ酸配列97%であった。ウマ相同因子の塩基配列を配列番号17に、アミノ酸配列を配列番号18に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とウマ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列93%、アミノ酸配列96%であった。また、取得したイヌ遺伝子のマウス相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列87〜89%、アミノ酸配列95〜97%であった。マウス相同因子の塩基配列を配列番号19,21,23,25,27に、アミノ酸配列を配列番号20,22,24,26,28に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とマウス相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列89〜91%、アミノ酸配列95〜96%であった。また、取得したイヌ遺伝子のニワトリ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列82%、アミノ酸配列87%であった。ニワトリ相同因子の塩基配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とニワトリ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列81〜82%、アミノ酸配列86%であった。
【0145】
(4)各組織での遺伝子発現解析
上記方法により得られた遺伝子に対しイヌ及びヒトの正常組織及び各種細胞株における発現をRT−PCR法により調べた。逆転写反応は以下の通り行なった。すなわち、各組織50〜100mg及び各細胞株5〜10×10
6個の細胞からTRIZOL試薬(invitrogen社製)を用いて添付のプロトコールに従い全RNAを抽出した。この全RNAを用いてSuperscript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(invitrogen社製)により添付のプロトコールに従いcDNAを合成した。PCR反応は、取得した遺伝子特異的なプライマー(配列番号33及び34に記載)を用いて以下の通り行った。すなわち、逆転写反応により調製したサンプル0.25μl、上記プライマーを各2μM、0.2mM各dNTP、0.65UのExTaqポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を25μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、94℃−30秒、60℃−30秒、72℃−30秒のサイクルを30回繰り返して行った。なお、上記遺伝子特異的プライマーは、配列番号5の塩基配列(イヌCAPRIN−1遺伝子)中の206番〜632番及び配列番号1の塩基配列(ヒトCAPRIN−1遺伝子)中の698番〜1124番塩基の領域を増幅するものであった。比較対照のため、GAPDH特異的なプライマー(配列番号35及び36に記載)も同時に用いた。その結果、
図1に示すように、健常なイヌ組織では精巣に強い発現が見られ、一方イヌ乳癌及び腺癌組織で発現が見られた。さらに、取得した遺伝子のヒト相同因子の発現を併せて確認したところ、イヌCAPRIN−1遺伝子と同様、正常組織で発現が確認できたのは精巣のみだったが、癌細胞では乳癌、脳腫瘍、白血病、肺癌、食道癌細胞株など、多種類の癌細胞株で発現が検出され、特に多くの乳癌細胞株で発現が確認された。この結果から、CAPRIN−1は精巣以外の正常組織では発現が見られず、一方、多くの癌細胞で発現しており、特に乳癌細胞株に発現していることが確認された。
【0146】
なお、
図1中、縦軸の参照番号1は、上記で同定した遺伝子の発現パターンを、参照番号2は、比較対照であるGAPDH遺伝子の発現パターンを示す。
【0147】
(5)CAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体の作製
CAPRIN−1に結合する抗体を得るために、CAPRIN−1由来ペプチド(Arg−Asn−Leu−Glu−Lys−Lys−Lys−Gly−Lys−Leu−Asp−Asp−Tyr−Gln(配列番号37))を合成した。このペプチド1mgを抗原として、等容量の不完全フロイントアジュバント(IFA)溶液と混合し、これを2週間毎に4回、ウサギの皮下に投与を行った。その後血液を採取し、ポリクローナル抗体を含む抗血清を得た。さらにこの抗血清をプロテインG担体(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて精製し、CAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体を得た。また、抗原を投与していないウサギの血清を上記と同様にしてプロテインG担体を用いて精製したものをコントロール抗体とした。
【0148】
(6)癌細胞上での抗原タンパクの発現解析
次にCAPRIN−1遺伝子の発現が多く確認された乳癌細胞株7種(MDA−MB−157, T47D, MRK−nu−1, MDA−MB−231V, BT20, SK−BR−3, MDA−MB−231T)について、その細胞表面上にCAPRIN−1タンパク質が発現しているかどうかを調べた。上記で遺伝子発現が認められた各ヒト乳癌細胞株それぞれ10
6細胞を1.5mlのミクロ遠心チューブにて遠心分離した。これに上記(5)で調製したCAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体2μg(5μl)を添加し、さらに95μlの0.1%牛胎児血清を含むPBSで懸濁後、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、5μlのFITC標識ヤギ抗ラビットIgG抗体(サンタクルズ社製)及び95μlの0.1% 牛胎児血清(FBS)を含むPBSで懸濁し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、CAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体の代わりに上記(5)で調製したコントロール抗体を用いて行い、コントロールとした。その結果、抗ヒトCAPRIN−1抗体を添加された細胞は、コントロールに比べて、いずれも蛍光強度が30%以上強かった。具体的には、MDA−MB−157が184%、T47Dが221%、MRK−nu−1が115%、MDA−MB−231Vが82%、BT20が32%、SK−BR−3が279%、MDA−MB−231Tが80%の蛍光強度の増強を示した。このことから、上記ヒト癌細胞株の細胞膜表面上にCAPRIN−1タンパクが発現していることが確認された。なお、上記蛍光強度の増強率は、各細胞における平均蛍光強度(MFI値)の増加率にて表され、以下の計算式により算出した。
【0149】
平均蛍光強度の増加率(蛍光強度の増強率)(%)=((抗ヒトCAPRIN−1抗体を反応させた細胞のMFI値)−(コントロールMFI値))÷(コントロールMFI値)×100
【0150】
(7)免疫組織化学染色
(7)−1 マウスおよびイヌ正常組織におけるCAPRIN−1の発現
マウス(Balb/c、雌)およびイヌ(ビーグル犬、雌)をエーテル麻酔下およびケタミン/イソフルラン麻酔下で放血させ、開腹後、各臓器(胃、肝臓、眼球、胸腺、筋肉、骨髄、子宮、小腸、食道、心臓、腎臓、唾液腺、大腸、乳腺、脳、肺、皮膚、副腎、卵巣、膵臓、脾臓、膀胱)をそれぞれPBSの入った10cmディッシュに移した。PBS中で各臓器を切り開き、4% paraformaldehyde(PFA)を含む0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)で一晩還流固定した。還流液を捨て、PBSで各臓器の組織表面をすすぎ、10%ショ糖を含むPBS溶液を50ml容の遠心チューブに入れ、その中に各組織を入れて4℃で2時間ローターを用いて振とうした。20%ショ糖を含むPBS溶液に入れ替え、4℃で組織が沈むまで静置後、30%ショ糖を含むPBS溶液に入れ替え、4℃で組織が沈むまで静置した。組織を取り出し、必要な部分を手術用メスで切りだした。次に、OCTコンパウンド(Tissue Tek社製)をかけて組織表面になじませた後、クライオモルドに組織を配置した。ドライアイスの上にクライオモルドをおいて急速凍結させた後、クライオスタット(LEICA社製)を用いて10〜20μmに薄切し、スライドガラスごとヘアードライアーで30分間風乾し、薄切組織がのったスライドガラス作製した。次にPBS−T(0.05% Tween20を含む生理食塩水)を満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲んだ後、ブロッキング液として、マウス組織はMOMマウスIgブロッキング試薬(VECTASTAIN社製)を、イヌ組織は10%FBSを含むPBS−T溶液をそれぞれのせ、モイストチャンバー上で室温で1時間静置した。次に、実施例4で作製した癌細胞表面に反応する、配列番号:73の重鎖可変領域と配列番号:77の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体(モノクローナル抗体#6)をブロッキング液で10μg/mlに調製した溶液をのせ、モイストチャンバー内で4℃下で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、ブロッキング液で250倍に希釈したMOMビオチン標識抗IgG抗体(VECTASTAIN社製)をのせ、モイストチャンバー内で室温で1時間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、アビジンービオチンABC試薬(VECTASTAIN社製)をのせ、モイストチャンバー内で室温で5分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAB 10mg+30% H
2O
2 10μl/0.05M Tris−HCl(pH7.6)50ml)をのせ、モイストチャンバー内で室温で30分間静置した。蒸留水でリンスし、ヘマトキシリン試薬(DAKO社製)を載せて室温で1分間静置後、蒸留水でリンスした。70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れた後、キシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。その結果、CAPRIN−1は、唾液腺、腎臓、結腸、胃の各組織において細胞内で僅かに発現が認められたが、細胞表面での発現は認められず、また、その他の臓器由来の組織では全く発現が認められなかった。なお、本結果は、配列番号:103の重鎖可変領域と配列番号:107の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体(モノクローナル抗体#9)を用いた場合も同様であった。
【0151】
(7)−2 イヌ乳癌組織におけるCAPRIN−1の発現
病理診断で悪性乳癌と診断されたイヌの凍結された乳癌組織108検体を用いて、上述と同様の方法で凍結切片スライド作製および実施例4で作製したモノクローナル抗体#6を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、CAPRIN−1は108検体中100検体(92.5%)で発現が確認され、特に異型度の高い癌細胞表面に強く発現していた。なお、本結果は、実施例4で作製したモノクローナル抗体#9を用いた場合も同様であった。
【0152】
(7)−3 ヒト乳癌組織におけるCAPRIN−1の発現
パラフィン包埋されたヒト乳癌組織アレイ(BIOMAX社製)の乳癌組織188検体を用いて、免疫組織化学染色を行った。ヒト乳癌組織アレイを60℃で3時間処理後、キシレンを満たした染色瓶に入れて5分ごとにキシレンを入れ替える操作を3回行った。次にキシレンの代わりにエタノールおよびPBS−Tで同様の操作を行った。0.05% Tween20を含む10mM クエン酸緩衝液(pH6.0)を満たした染色瓶にヒト乳癌組織アレイを入れ、125℃で5分間処理後、室温で40分以上静置した。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPENで囲み、Peroxidase Block(DAKO社製)を適量滴下した。室温で5分間静置後、PBS−Tを満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。ブロッキング液として、10%FBSを含むPBS−T溶液をのせ、モイストチャンバー内で室温で1時間静置した。次に実施例4で作製した癌細胞表面に反応するモノクローナル抗体#6を5%FBSを含むPBS−T溶液で10μg/mlに調製した溶液をのせ、モイストチャンバー内で4℃で一晩静置し、PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、Peroxidase Labelled Polymer Conjugated(DAKO社製)適量滴下し、モイストチャンバー内で室温で30分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAKO社製)をのせ、室温で10分程度静置した後、発色液を捨て、PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、蒸留水でリンスし、70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れた後、キシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。その結果、CAPRIN−1は全乳癌組織188検体の内、138検体(73%)で強い発現が認められた。なお、本結果は、実施例4で作製したモノクローナル抗体#9を用いた場合も同様であった。
【0153】
(7)−4 ヒト悪性脳腫瘍におけるCAPRIN−1の発現
パラフィン包埋されたヒト悪性脳腫瘍組織アレイ(BIOMAX社製)の悪性脳腫瘍組織247検体を用いて、上述(7)−3と同様の方法で実施例4で作製したモノクローナル抗体#6を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、CAPRIN−1は全悪性脳腫瘍組織247検体の内、227検体(92%)で強い発現が認められた。なお、本結果は、実施例4で作製したモノクローナル抗体#9を用いた場合も同様であった。
【0154】
(7)−5 ヒト乳癌転移リンパ節におけるCAPRIN−1の発現
パラフィン包埋されたヒト乳癌転移リンパ節組織アレイ(BIOMAX社製)の乳癌転移リンパ節組織150検体を用いて、上述(7)−3と同様の方法で実施例4で作製したモノクローナル抗体#6を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、CAPRIN−1は全乳癌転移リンパ節組織150検体の内、136検体(90%)で強い発現が認められた。すなわち、乳癌から転移した癌組織においてもCAPRIN−1は強く発現することが判った。なお、本結果は、実施例4で作製したモノクローナル抗体#9を用いた場合も同様であった。
【0155】
実施例2 CAPRIN−1に対する抗体の癌細胞に対する抗腫瘍効果(ADCC活性)
次にCAPRIN−1に対する抗体が、CAPRIN−1を発現する腫瘍細胞を障害することができるかどうかを検討した。実施例1で調製したヒトCAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体を用いて評価を行った。CAPRIN−1の発現が確認されている2種類のヒト乳癌細胞株、T47D及びMDA−MB−157をそれぞれ10
6個50ml容の遠心チューブに集め、100μCiのクロミウム51を加え37℃で2時間インキュベートした。その後10%牛胎児血清を含むRPMI1640培地で3回洗浄し、96穴V底プレート1穴あたり10
3個ずつ添加した。これに、上記ヒトCAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体をそれぞれ1μgずつ添加し、さらにウサギの末梢血から分離したリンパ球をそれぞれ2×10
5個ずつ添加して、37℃、5% CO
2の条件下で4時間培養した。培養後、障害を受けた腫瘍細胞から放出される培養上清中のクロミウム(Cr)51の量を測定し、ヒトCAPRIN−1由来ペプチドに対するポリクローナル抗体による各癌細胞に対するADCC活性を算出した。その結果、T47D及びMDA−MB−157それぞれに対して、それぞれ15.4%及び17.3%のADCC活性が確認された(
図2及び
図3参照)。一方、抗原が免疫されていないウサギの末梢血から調製したコントロール抗体(実施例1(5))を用いて同様の操作を行った場合、及び抗体を添加しなかった場合には、活性はほとんど認められなかった(
図2及び3参照)。従って、CAPRIN−1に対する抗体を用いたADCC活性により、CAPRIN−1を発現する腫瘍細胞を障害することができることが明らかになった。
【0156】
なお、細胞障害活性は、上記のように、本発明で用いられるCAPRIN−1に対する抗体、マウスリンパ球及びクロミウム51を取り込ませた10
3個の各白血病細胞株を混合して4時間培養し、培養後培地に放出されたクロミウム51の量を測定して、以下計算式
*により算出した各白血病細胞株に対する細胞障害活性を示した結果である。
【0157】
*式:細胞障害活性(%)=CAPRIN−1に対する抗体及びマウスリンパ球を加えた際のT47D及びMDA−MB−157からのクロミウム51遊離量÷1N塩酸を加えた標的細胞からのクロミウム51遊離量×100。
【0158】
実施例3 ヒト新規癌抗原タンパクの作製
(1)組換えタンパク質の作製
実施例1で取得した配列番号1の遺伝子を基に、以下の方法にてヒト相同遺伝子の組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で作製した各種組織・細胞cDNAよりRT−PCR法による発現が確認できたcDNAを1μl、SacIおよびXhoI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号38および39に記載)を各0.4μM, 0.2mM dNTP, 1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃−10秒、68℃−2.5分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号2のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約2.1kbpのDNA断片を精製した。
【0159】
精製したDNA断片をクローニングベクターPCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをSacIおよびXhoI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、SacI、XhoI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30a(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0160】
(2)組換えタンパク質の精製
上記で得られた、配列番号1の遺伝子を発現するそれぞれの組換え大腸菌を30μg/ml カナマイシン含有LB培地にて600nmでの吸光度が0.7付近になるまで37℃で培養後、イソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド終濃度が1mMとなるよう添加し、37℃で4時間培養した。その後4800rpmで10分間遠心し集菌した。この菌体ペレットをリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し、さらに4800rpmで10分間遠心し菌体の洗浄を行った。
【0161】
この菌体をリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し、氷上にて超音波破砕を行った。大腸菌超音波破砕液を6000rpmで20分間遠心分離し、得られた上清を可溶性画分、沈殿物を不溶性画分とした。
【0162】
可溶性画分を、定法に従って調整したニッケルキレートカラム(担体:Chelating Sepharose(商標)Fast Flow(GE HealthCare社)、カラム容量5ml、平衡化緩衝液50mM塩酸緩衝液(pH8.0))に添加した。未吸着画分をカラム容量の10倍量の50mM塩酸緩衝液(pH8.0)と20mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて洗浄操作を行った後、直ちに、100mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて6ベッド溶出した。クマシー染色によって目的タンパク質の溶出を確認した100mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)溶出画分を強陰イオン交換カラム(担体:Q Sepharose(商標)Fast Flow(GE HealthCare社)、カラム容量5ml、平衡化緩衝液としての20mMリン酸緩衝液(pH8.0))に添加した。未吸着画分をカラム容量の10倍量の20mMリン酸緩衝液(pH7.0)と200mM塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて洗浄操作を行った後、直ちに、400mM塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて5ベッド溶出を行い、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する各タンパク質の精製画分を得た。
【0163】
上記方法によって得られた各精製標品のうち、200μlを1mlの反応用緩衝液(20mM Tris−Hcl, 50mM NaCl, 2mM CaCl
2 pH7.4)に分注を行った後、エンテロキナーゼ(Novagen社製)2μl添加した後、室温にて一晩静置、反応を行い、Hisタグを切断し、Enterokinase Cleavage Capture Kit(Novagen社製)を用いて添付プロトコールに従って精製を行った。次に、上記方法によって得られた精製標品1.2mlを、限外ろ過NANOSEP 10K OMEGA(PALL社製)を用いて、生理用リン酸緩衝液(日水製薬社製)置換した後、HTタフリンアクロディスク0.22μm(PALL社製)にて無菌ろ過を行い、これを以下の実験に用いた。
【0164】
実施例4 CAPRIN−1に対するモノクローナル抗体の作製
実施例3で調製した配列番号2に示される、抗原タンパク質(ヒトCAPRIN−1)100μgを等量のMPL+TDMアジュバント(シグマ社製)と混合し、これをマウス1匹当たりの抗原溶液とした。抗原溶液を6週齢のBalb/ccマウス(日本SLC社製)の腹腔内に投与後、1週間毎にさらに3回および24回投与を行い免疫を完了した。最後の免疫から3日後に摘出したそれぞれの脾臓を滅菌した2枚のスライドガラスに挟んで擦り潰し、PBS(−)(日水社製)を用いて洗浄し1500rpmで10分間遠心して上清を除去する操作を3回繰り返して脾臓細胞を得た。得られた脾臓細胞とマウスミエローマ細胞SP2/0(ATCCから購入)とを10:1の比率にて混和し、そこに37℃に加温した10% FBSを含むRPMI1640培地200μlとPEG1500(ベーリンガー社製)800μlを混和して調製したPEG溶液を加えて5分間静置して細胞融合を行った。1700rpmで5分間遠心し、上清を除去後、Gibco社製のHAT溶液を2%当量加えた15% FBSを含むRPMI1640培地(HAT選択培地)150mlで細胞を懸濁し、96穴プレート(ヌンク社製)の1ウェル当たり100μlずつ、プレート15枚に播種した。7日間、37℃、5% CO
2の条件で培養することで、脾臓細胞とミエローマ細胞が融合したハイブリドーマを得た。
【0165】
作製したハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1タンパクに対する結合親和性を指標にハイブリドーマを選抜した。実施例3で調製したCAPRIN−1タンパク溶液1μg/mlを96穴プレート1ウェル当たりに100μl添加し、4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで3回洗浄後、0.5% Bovine Serum Albumin(BSA)溶液(シグマ社製)を1ウェル当たり400μl添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、1ウェル当たり400μlのPBS−Tでウェルを3回洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μl添加し、室温にて2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを3回洗浄した後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(インビトロジェン社製)を1ウェル当たり100μl添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを3回洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μl添加して15〜30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μl添加して反応を停止させ吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、吸光度値が高かった抗体を産生するハイブリドーマを複数個選抜した。
【0166】
選抜したハイブリドーマを96穴プレート1ウェル当たりに0.5個となるようにプレートに添加し培養した。1週間後、ウェル中に単一のコロニーを形成しているハイブリドーマが観察された。それらウェルの細胞をさらに培養して、クローニングされたハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1タンパクに対する結合親和性を指標にハイブリドーマを選抜した。実施例3で調製したCAPRIN−1タンパク溶液1μg/mlを96穴プレート1ウェル当たりに100μl添加し、4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで3回洗浄後、0.5% BSA溶液を1ウェル当たり400μl添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、1ウェル当たり400μlのPBS−Tでウェルを3回洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μl添加し、室温にて2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを3回洗浄後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(インビトロジェン社製)を1ウェル当たり100μl添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを3回洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μl添加して15〜30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μl添加して反応を停止させ吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、CAPRIN−1タンパクに反応性を示すモノクローナル抗体を産生する150個のハイブリドーマ株を得た。
【0167】
次にそれらモノクローナル抗体の内、CAPRIN−1が発現する乳癌細胞の細胞表面に反応性を示すものを選抜した。具体的には、10
6個のヒト乳癌細胞株MDA−MB−231Vを1.5ml容のミクロ遠心チューブにて遠心分離し、これに上記各ハイブリドーマの培養上清100μlを添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、0.1% FBSを含むPBSで500倍希釈したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(インビトロジェン社製)を添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、抗体の代わりに何も処理していない6週齢のBalb/cマウスの血清をハイブリドーマ培養用培地で500倍希釈したものを用いて行い、コントロールとした。その結果、コントロールに比べて蛍光強度が強い、すなわち、乳癌細胞の細胞表面に反応するモノクローナル抗体11個(#1〜#11)を選抜した。
【0168】
実施例5 選抜した抗体の特徴付け
(1)抗CAPRIN−1モノクローナル抗体の可変領域遺伝子のクローニング
実施例4で選抜した11個のモノクローナル抗体をそれぞれ産生する各ハイブリドーマ株から、mRNAを抽出し、マウスFR1由来配列およびマウスFR4由来の配列に特異的なプライマーを使用したRT−PCR法により、全ての抗CAPRIN−1モノクローナル抗体の重鎖可変(VH)領域および軽鎖可変(VL)領域の遺伝子を取得した。配列決定のために、それら遺伝子をpCR2.1ベクター(インビトロジェン社製)にクローニングした。
【0169】
(1)−1 RT−PCR
10
6個の各ハイブリドーマ株から、mRNA micro purification kit(GEヘルスケア社製)を用いてmRNAを調製し、SuperScriptII 1st strand synthesis kit(インビトロジェン社製)を用いて、得られたmRNAを逆転写してcDNAを合成した。これら操作は各キットの添付プロトコールに従って行った。
【0170】
得られたcDNAを用いて、PCR法により抗体遺伝子の増幅を行った。
VH領域の遺伝子取得のために、マウス重鎖FR1配列に特異的なプライマー(配列番号130)およびマウス重鎖FR4配列に特異的なプライマー(配列番号131)を使用した。またVL領域の遺伝子取得のために、マウス軽鎖FR1配列に特異的なプライマー(配列番号132)およびマウス軽鎖FR4に特異的なプライマー(配列番号133)を使用した。これらプライマーはJones, S.T. and Bending, M.M. Bio/Technology 9, 88−89 (1991)を参考に設計した。PCRは、Ex−taq(タカラバイオ社製)を用いた。10×EX Taq Buffer 5μl、dNTP Mixture(2.5mM)4μl、プライマー(1.0μM)各2μl、Ex Taq(5U/μl)0.25μlにcDNAサンプルを加え、滅菌水により総量50μlとした。94℃で2分処理後、変性94℃1分、アニーリング58℃30秒、伸長反応72℃1分の組み合わせで30サイクルの条件で行った。
【0171】
(1)−2 クローニング
上記で得られた各PCR産物を用いてアガロースゲルにて電気泳動を行い、VH領域およびVL領域それぞれのDNAバンドを切り出した。DNA断片はQIAquick Gel purification kit(キアゲン社製)を用いてその添付プロトコールに従って行った。精製した各DNAはTAクローニングキット(インビトロジェン社製)を用いてpCR2.1ベクターにクローニングした。連結したベクターをDH5aコンピテントセル(TOYOBO社製)に定法に従い形質転換を行った。各形質転換体それぞれ10クローンを培地(100μg/mlアンピシリン)で37℃一晩培養後、各プラスミドDNAをQiaspin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて精製した。
【0172】
(1)−3 配列決定
上記で得られた各プラスミド中のVH領域およびVL領域の遺伝子配列解析は、M13フォワードプライマー(配列番号134)およびM13リバースプライマー(配列番号135)を用いて、蛍光シーケンサー(ABI社製DNAシーケンサー3130XL)により、ABI社製のビッグダイターミネーターVer3.1サイクルシーケンシングキットを用いて、その添付プロトコールに従い行った。その結果、各々の遺伝子配列が決定された(各々10クローンで一致)。
【0173】
得られたモノクローナル抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号43、配列番号73、配列番号83、配列番号93、配列番号103、配列番号113、および配列番号123に、軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号47、配列番号53、配列番号58、配列番号63、配列番号68、配列番号77、配列番号87、配列番号97、配列番号107,配列番号117および配列番号127に示す。
【0174】
すなわち、モノクローナル抗体#1は配列番号:43の重鎖可変領域と配列番号:47の軽鎖可変領域から成り、#2は配列番号:43の重鎖可変領域と配列番号:53の軽鎖可変領域から成り、#3は配列番号:43の重鎖可変領域と配列番号:58の軽鎖可変領域から成り、#4は配列番号:43の重鎖可変領域と配列番号:63の軽鎖可変領域から成り、#5は配列番号:43の重鎖可変領域と配列番号:68の軽鎖可変領域から成り、#6は配列番号:73の重鎖可変領域と配列番号:77の軽鎖可変領域から成り、#7は配列番号:83の重鎖可変領域と配列番号:87の軽鎖可変領域から成り、#8は配列番号:93の重鎖可変領域と配列番号:97の軽鎖可変領域から成り、#9は配列番号:103の重鎖可変領域と配列番号:107の軽鎖可変領域から成り、#10は配列番号:113の重鎖可変領域と配列番号:117の軽鎖可変領域から成り、#11は配列番号:123の重鎖可変領域と配列番号:127の軽鎖可変領域から成る。
【0175】
(2)取得したモノクローナル抗体を用いた各種癌細胞表面でのCAPRIN−1の発現
次にCAPRIN−1遺伝子の発現が確認された乳癌細胞株7種(MDA−MB−157,T47D,MRK−nu−1,MDA−MB−231V,BT20,SK−BR−3,DA−MB−231T)およびその他の乳癌細胞株3種(MDA−MB−231C,MCF−7,ZR75−1)、グリオーマ細胞株6種(T98G,SNB19,U251,U87G)、腎臓癌細胞株3種(Caki−1,Caki2,A498)、胃癌細胞株1種(MKN45)、大腸癌細胞株1種(Caco2)、肺癌細胞株3種(A549、QG56、PC8)、白血病細胞株3種(Namalwa、BDCM、RPI1788)について、その細胞表面上にCAPRIN−1タンパク質が発現しているかどうかを調べた。各細胞株それぞれ10
6細胞を1.5ml容のミクロ遠心チューブにて遠心分離した。これに実施例4で作製した癌細胞表面に反応する、#1から#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を含むハイブリドーマ上清(100μl)を添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、0.1% FBSを含むPBSで500倍希釈したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(インビトロジェン社製)で懸濁し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、#1から#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を含むハイブリドーマ上清の代わりに上記(5)で調製したコントロール抗体を用いて行い、コントロールとした。その結果、#1〜#11のモノクローナル抗体を添加された細胞は、コントロールに比べて、いずれも蛍光強度が30%以上強かった。具体的例を挙げると、#9のモノクローナル抗体を用いた場合、MDA−MB−157が211%、T47Dが145%、MRK−nu−1が123%、MDA−MB−231Vが251%、BT20が168%、MDA−MB−231Tが94%の蛍光強度の増強を示した。このことから、上記ヒト癌細胞株の細胞膜表面上にCAPRIN−1タンパクが発現していることが確認された。なお、上記蛍光強度の増強率は、各細胞における平均蛍光強度(MFI値)の増加率にて表され、以下の計算式により算出した。
【0176】
平均蛍光強度の増加率(蛍光強度の増強率)(%)=((抗ヒトCAPRIN−1抗体を反応させた細胞のMFI値)−(コントロールMFI値))÷(コントロールMFI値)×100
【0177】
(3)CAPRIN−1に対する抗体の癌細胞に対する抗腫瘍効果(ADCC活性)
上記で選抜した#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体の癌細胞に対する細胞障害活性(ADCC活性)を評価した。#1〜#11のモノクローナル抗体を産生する各ハイブリドーマをハイブリドーマSFM(インビトロジェン社製)培地を用いて培養し、得られた上清をHitrap ProteinA SepharoseFF(GEヘルスケア社製)を用いて精製し、PBS(−)に置換して0.22μmのフィルター(ミリポア社製)で濾過したものを活性測定用の抗体として用いた。10
6個のヒト乳癌細胞株MDA−MB−157を50ml容の遠心チューブに集め、100μCiのクロミウム51を加え37℃で2時間インキュベートした。その後10%FBSを含むRPMI1640培地で3回洗浄し、96穴V底プレート1穴あたり10
3個ずつ添加して標的細胞とした。これに、上記精製抗体をそれぞれ1μg添加し、さらにマウス脾臓から分離したマウスリンパ球を2×10
5個添加して、37℃、5%CO
2の条件下で4時間培養した。培養後、障害を受けた腫瘍細胞から放出される培養上清中のクロミウム51の量を測定し、抗CAPRIN−1抗体による癌細胞に対するADCC活性を算出した。その結果、#1〜#11の全てのモノクローナル抗体が、MDA−MB−157に対して、20%以上のADCC活性を示した。具体的には、例えば、#1は22.1%、#2は29.1%、#6は30.2%、#9は32.4%の細胞障害活性が得られた(
図4参照)。一方、実施例4で作製した、CAPRIN−1タンパク自体には反応するが、癌細胞の細胞表面に反応しないモノクローナル抗体を用いて同様の操作を行った場合、細胞障害活性は認められなかった(
図4参照)。以上の結果より、取得した抗CAPRIN−1モノクローナル抗体(#1〜#11は、ADCC活性によってCAPRIN−1を発現する癌細胞を障害することが示された。
【0178】
(4)CAPRIN−1に対する抗体の癌細胞に対する抗腫瘍効果(CDC活性)
上記で選抜した#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体の癌細胞に対する細胞障害活性(CDC活性)を評価した。ウサギから採血した血液をエッペンドルフチューブに入れ、室温で60分間、静置した後3000rpmで5分間、遠心分離することで、CDC活性測定用の血清を調製した。ヒト乳癌細胞であるMDA−MB−231Vを10
5個を50ml容の遠心チューブに集め、100μCiのクロミウム51を加え37℃で2時間インキュベートした後、10%FBSを含むRPMI培地で3回洗浄した。その後上記で調製したウサギ血清を50%含むRPMI培地で懸濁し、96穴V底プレート1穴あたり10
3個ずつ添加した。これに上述(3)で得た#1〜#11のモノクローナル抗体をそれぞれ1μgずつ添加して、37℃、5%CO
2の条件下で4時間培養した。培養後、障害を受けた腫瘍細胞から放出される培養上清中のクロミウム51の量を測定し、ハイブリドーマ上清中の抗CAPRIN−1モノクローナル抗体によるMDA−MB−231Vに対するCDC活性を算出した。その結果、#1〜#11の全てのモノクローナル抗体が、30%以上のCDC活性を示した。一方、実施例4で作製した、CAPRIN−1タンパク自体には反応するが、癌細胞の細胞表面に反応しないモノクローナル抗体を用いて同様の操作を行った場合、細胞障害活性は認められなかった。従って、CAPRIN−1に対するモノクローナル抗体(#1〜#11)は、CDC活性によっても、CAPRIN−1を発現する腫瘍細胞を障害することができることが明らかになった。
【0179】
実施例6 マウス生体内における抗CAPRIN−1モノクローナル抗体の抗腫瘍効果
次に、取得した#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体の担癌マウス生体内における抗腫瘍効果を評価した。使用した抗体は上記と同様に各ハイブリドーマの培養上清をカラム精製したものを用いた。
【0180】
CAPRIN−1を発現するマウス由来の癌細胞株を移植した担癌マウスを用いて、#1〜#11CAPRIN−1に対するモノクローナル抗体の抗腫瘍効果を検討した。70匹のBalb/cマウス(日本SLC社製)の背部皮下に、1匹あたり10
6個のCT26細胞(ATCCより購入)を移植し、腫瘍が直径7mm程度の大きさになるまで成長させた。その内、60匹の担癌マウスに対して、#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体および実施例4で作製した、CAPRIN−1タンパク自体には反応するが、癌細胞の細胞表面に反応しないモノクローナル抗体1種を1匹あたり300μg(300μl)ずつ、1抗体につき5匹に腹腔内投与した。その後、2日間計3回、同量の各抗体を各担癌マウスの腹腔に投与し、毎日腫瘍の大きさを計測し、抗腫瘍効果を観察した。一方、残り10匹の担癌マウスに対して、抗体の代わりにPBS(−)を投与し、これをコントロール群とした。抗腫瘍効果の観察の結果、#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を投与した検討群は、腫瘍が抗体投与開始時の腫瘍体積を100%とした場合に、4日目には50%程度にまで退縮し、6日目には10%程度、8日目には数%にまで腫瘍が退縮し、11〜14日目までには腫瘍はほぼ完全に退縮した(
図5参照)。一方、コントロール群では、4日目、6日目、8日目、11日目にはそれぞれ、約260%,350%,550%,800%にまで腫瘍が増大した(
図5参照)。また、CAPRIN−1タンパク自体には反応するが、癌細胞の細胞表面に反応しないモノクローナル抗体を投与した群では、抗腫瘍効果は得られず、コントロール群と同様に腫瘍が増大した。この結果から、取得した#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体は、CAPRIN−1を発現する癌細胞に対して、生体内で強い抗腫瘍効果を発揮することが示された。なお、腫瘍の大きさは、長径×短径×短径×0.5の計算式を用いて、体積を算出した。
【0181】
さらに、マウス癌細胞株N1E細胞(ATCCより購入)が移植された担癌マウス(Balb/c)に対して、#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を上記と同様に投与した結果、抗体投与後15日目には完全に腫瘍が退縮した。一方コントロール群では約950%にまで腫瘍は増大した(
図6参照)。
【0182】
実施例7 癌細胞の細胞表面に反応するCAPRIN−1に対する抗体が結合するCAPRIN−1タンパク質中のペプチドの同定
上記で取得した、癌細胞の細胞表面に反応する#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を用いて、それらが認識するCAPRIN−1タンパク質中の部分配列の同定を行った。
【0183】
まず、PBSで1μg/μlの濃度に溶解した組換えCAPRIN−1タンパク質溶液100μlに、終濃度が10mMになるようにDTT(Fluka社製)を添加し、95℃、5分間反応させてCAPRIN−1タンパク質内のジスルフィド結合の還元を行い、次に終濃度20mMのヨードアセトアミド(和光純薬社製)を添加し、37℃、遮光条件下にて30分間チオール基のアルキル化反応を行った。得られた還元アルキル化CAPRIN−1タンパク質40μgに、#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体をそれぞれ50μg添加し、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)1mlにメスアップして撹拌混合しながら4℃で一晩反応させた。
【0184】
次に、トリプシン(プロメガ社製)を終濃度0.2μgとなるように添加し、37℃1時間、2時間、4時間、12時間反応させた後、予め1%BSA(シグマ社製)を含むPBSでブロッキングし、PBSで洗浄したプロテインA−ガラスビーズ(GE社製)と1mM 炭酸カルシウム、NP−40緩衝液(20mM リン酸緩衝液(pH7.4)、5mM EDTA、150mM NaCl、1%NP−40)中で混合し、それぞれ30分間反応させた。
【0185】
反応液を25mM 炭酸アンモニウム緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、0.1% ギ酸100μlを用いて抗原抗体複合体を溶出し、溶出液についてQ−TOF Premier(Waters−MicroMass社製)を用いてLC−MS解析を行った。解析は機器に付属のプロトコルに従った。
【0186】
その結果、#1〜#11のCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体がいずれも認識するCAPRIN−1の部分配列として、配列番号136のポリペプチドが同定された。さらに、モノクローナル抗体#2〜#5、#6〜#8および#10が認識する、上記配列番号136のポリペプチド中の部分配列として配列番号137のペプチドが同定され、さらにその部分配列ペプチドである配列番号138のペプチドをモノクローナル抗体#2〜#5が認識することが判った。