特許第5930169号(P5930169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930169
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】車両の通風量制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 11/04 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   B60K11/04 J
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-22545(P2012-22545)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-159222(P2013-159222A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】河村 憲一
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−102068(JP,A)
【文献】 特開昭60−261730(JP,A)
【文献】 実開昭62−037565(JP,U)
【文献】 実開昭64−013227(JP,U)
【文献】 実開昭63−114824(JP,U)
【文献】 実開昭59−068126(JP,U)
【文献】 特開2008−106982(JP,A)
【文献】 特開2007−001504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室を仕切るダッシュパネルの下側と前記ダッシュパネルの下側に位置するフロントクロスメンバの間に形成され前記エンジンルームを通る空気を外部に排出する開口と、前記開口を開閉する開閉手段を備えた
ことを特徴とする車両の通風量制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の通風量制御装置において、
前記開閉手段は車幅方向に延びる回動中心軸を中心にして回動することで前記ダッシュパネルの下側と前記フロントクロスメンバの間を開閉する開閉弁部材であり、
前記開閉弁部材の前記回動中心軸は、前記車両の前輪の車軸よりも前記車両の前後方向の後方に位置している
ことを特徴とする車両の通風量制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の通風量制御装置において、
前記開閉弁は、下縁が後部上方に向けて回動されることにより前記ダッシュパネルの下側と前記フロントクロスメンバの間が開かれ、
前記開閉弁を開閉する開閉駆動手段を備えた
ことを特徴とする車両の通風量制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の通風量制御装置において、
前記開閉弁は、上下方向に分割された複数の矩形状の分割弁により形成され、
前記開閉駆動手段は、複数の前記分割弁を一斉に開閉させる同期機構を備えた
ことを特徴とする車両の通風量制御装置。
【請求項5】
請求項3もしくは請求項4に記載の車両の通風量制御装置において、
前記車両のエンジンの温度状態を検出する温度状態検出手段を備え、
前記開閉駆動手段は、前記温度状態検出手段の検出情報に基づいて駆動が制御される
ことを特徴とする車両の通風量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルームに導かれる冷却風の通風量を制御する車両の通風量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両は、車体の前面のフロントグリルの開口(取風口)からエンジンルームの内部に外気を流入させ、ラジエータ等が冷却されるようになっている。エンジンルーム内に通風する空気量を増加させることで、エンジンルーム内の冷却が行える反面、空気抵抗(空力特性)や前輪揚力特性が悪化して走行性能が低下することが知られている。
【0003】
冷却性能と走行性能を両立させるため、車両前側のフロントグリルの開口を開閉するシャッタをエンジンルームに設け、シャッタを開閉することで走行風のエンジンルーム内への通風量を調整することが知られている(特許文献1参照)。冷却が必要な時に開閉部材を開いて走行風をエンジンルーム内に通風させることで、走行性能の低下を最小限に抑えて冷却性能を維持することができる。
【0004】
しかし、エンジンルームにシャッタを設けているので、エンジンルームの内部に大きなスペースを必要としていた。このため、エンジンルームのレイアウトに余裕がない車両や、衝突時の衝撃吸収等の変形代が小さい小型車両に適用することは困難であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−1504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、エンジンルームの内部のスペースに影響を与えることなく冷却性能と走行性能を両立させることができる車両の通風量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の車両の通風量制御装置は、エンジンルームと車室を仕切るダッシュパネルの下側と前記ダッシュパネルの下側に位置するフロントクロスメンバの間に形成され前記エンジンルームを通る空気を外部に排出する開口と、前記開口を開閉する開閉手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本発明では、開閉手段により、エンジンルームを通ってダッシュパネルの下側とフロントクロスメンバの間から排出される空気量を調整することができ、車両の前方からエンジンルーム内に流入する流入空気風の通風量を制御することができる。このため、エンジンルームの内部のスペースに影響を与えることなく冷却性能と走行性能を両立させることが可能になる。
【0009】
そして、請求項2に係る本発明の車両の通風量制御装置は、請求項1に記載の車両の通風量制御装置において、前記開閉手段は車幅方向に延びる回動中心軸を中心にして回動することで前記ダッシュパネルの下側と前記フロントクロスメンバの間を開閉する開閉弁部材であり、前記開閉弁部材の前記回動中心軸は、前記車両の前輪の車軸よりも前記車両の前後方向の後方に位置していることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る本発明では、エンジンルームの後側で車両の幅方向に亘り、後部に排出される空気量を調整することができる。
【0011】
また、請求項3に係る本発明の車両の通風量制御装置は、請求項2に記載の車両の通風量制御装置において、前記開閉弁は、下縁が後部上方に向けて回動されることにより前記ダッシュパネルの下側と前記フロントクロスメンバの間が開かれ、前記開閉弁を開閉する開閉駆動手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る本発明では、開閉駆動手段により下縁を後部上方に向けて回動させることができ、開閉駆動手段に不具合が生じた場合、開閉弁が開き側に動作して外気の導入を確保することができる。
【0013】
また、請求項4に係る本発明の車両の通風量制御装置は、請求項3に記載の車両の通風量制御装置において、前記開閉弁は、上下方向に分割された複数の矩形状の分割弁により形成され、前記開閉駆動手段は、複数の前記分割弁を一斉に開閉させる同期機構を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る本発明では、複数の矩形状の分割弁を備えたので、ダッシュパネルの下側と前記フロントクロスメンバの間で、車両の上下方向に亘り、後部に排出される空気量を均等に調整することができる。
【0015】
また、請求項5に係る本発明の車両の通風量制御装置は、請求項3もしくは請求項4に記載の車両の通風量制御装置において、前記車両のエンジンの温度状態を検出する温度状態検出手段を備え、前記開閉駆動手段は、前記温度状態検出手段の検出情報に基づいて駆動が制御されることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る本発明では、温度状態検出手段の情報に基づいて、エンジンの温度状態が冷却を必要としている状態の時に開閉駆動手段を駆動することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両の通風量制御装置は、エンジンルームの内部のスペースに影響を与えることなく冷却性能と走行性能を両立させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例に係る車両の通風量制御装置を説明する側面図である。
図2図1中の平面図である。
図3図1中のIII-III線矢視図である。
図4】開閉弁の全体構造を表す外観図である。
図5】開閉駆動手段の動作ブロック図である。
図6】本発明の他の実施例に係る開閉弁の全体構造を表す外観図である。
図7図6中のVII-VII線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には本発明の一実施例に係る通風量制御装置を備えた車両の要部を表す側面視状態、図2には図1中の平面視状態、図3には図1中のIII-III線矢視状態、図4には開閉弁の外観、図5には開閉駆動手段の動作ブロックを示してある。
【0020】
図1から図3に示すように、車両1のエンジンルーム2の内部にはエンジン3が配され、エンジン3の冷却水を冷却するための熱交換器としてのラジエータ4がエンジンルーム2の前方に設けられている。ラジエータ4の前側における車両1には取風口5が設けられ、車両1の走行に伴い取風口5から走行風が冷却風としてエンジンルーム2の内部に導入される。
【0021】
車両1のエンジンルーム2はダッシュパネル(トーボード)6により車室7と仕切られている。車両1の前輪8は図示しないサスペンションを介して車両1の車体側に支持されている。サスペンションはフロントクロスメンバとしてのフロントサスペンションクロスメンバ(クロスメンバ)9を介して車体側に支持されている。
【0022】
トーボード6の下側の位置にクロスメンバ9が配された状態になり、車両1の走行に伴い取風口5から導入された走行風(冷却風)は、ラジエータ4、エンジン3等を冷却して後方に流れ、冷却風の大部分がトーボード6の下側とクロスメンバ9の間の隙間(後下部開口)11から外部に排出される。
【0023】
エンジンルーム2の内部に通風する冷却風により(取風口5から導入される外気により)、空気抵抗(空力特性)や前輪揚力特性が悪化して走行性能が低下する虞がある。このため、後下部開口11を閉じることで、取風口5から導入される外気量を減らす(流入空気風の通風量を制御する)開閉手段12が備えられている。つまり、開閉手段12により後下部開口11を閉じることで、後下部開口11から外部に排出される冷却風の量が規制され(減らされ)、取風口5から導入される外気量(走行風の導入量)が減ることになる。
【0024】
これにより、空気抵抗(空力特性)や前輪揚力特性の悪化を抑制して走行性能の低下を防止することができる。
【0025】
後下部開口11から外部に排出される冷却風の量を減らすことで、取風口5から導入される外気量が減ることになる理由は以下の通りである。
【0026】
取風口5から導入される外気量に相当する風量である、ラジエータ4の前の風速(冷却風速)をVとした場合、風速Vは、
=L・V・{ΔC/(T+1)}1/2・・・・(1)
で表すことができる。
尚、(1)式中で、Lは冷却風の漏れ係数、Vは車速、Tはラジエータ4、エンジンルーム2の内部の圧力損失の合計である。
【0027】
ΔCは、入口(取風口5)での圧力損失CPINと出口(後下部開口11)での圧力損失CPOUTとの差(ΔC=CPIN−CPOUT)であるため、出口(後下部開口11)での圧力損失CPOUTを小さくすることにより、即ち、後下部開口11を閉じて後下部開口11から外部に排出される冷却風の量を減らすことにより、風速Vが小さくなる、即ち、取風口5から導入される外気量が減少する。
【0028】
開閉手段12により、エンジンルーム2を通って後下部開口11から排出される空気量を調整することができ、車両1の前方からエンジンルーム2の内部に流入する流入空気風の通風量を制御することができる。このため、取風口5から導入される外気量を必要最小限の量に調整することで、冷却性能を維持した状態で走行性能の低下を防止することができる。
【0029】
従って、エンジンルーム2の内部のスペースに影響を与えることなく冷却性能と走行性能を両立させることが可能になる。
【0030】
開閉手段12は、車両1の車幅方向に延びる回動中心軸を中心にして回動することで後下部開口11を開閉する開閉弁部材であり、回動中心軸は、左右の前輪8の回転中心軸を結ぶ車軸10よりも車両1の後方に位置している。
【0031】
図1から図4に基づいて開閉手段12を具体的に説明する。
【0032】
トーボード6の下側には、軸受け15を介して開閉軸16が回動自在に支持され、開閉軸16は開閉駆動手段としての開閉モータ17により回動駆動される。開閉軸16には樹脂製で板状の開閉弁18の上縁が固定され、開閉弁18の下縁の中心には排気管13が配される切欠き19が形成されている。
【0033】
尚、排気管13がクロスメンバ9の下部に配されている場合には、切欠き19は不要である。
【0034】
排気管13に対向する切欠き19には金属部材20が設けられている。また、開閉弁18の下縁にはクロスメンバ9に接触するゴム製のシール21が設けられている。金属部材20により排気管13の熱から開閉弁18が保護され、シール21により開閉弁18が閉じられた際の流入空気風の漏れが抑制される。
【0035】
開閉弁18は、開閉モータ17の駆動により開閉軸16が回動されることで開閉し、開閉弁18は、下縁が後部上方に向けて回動することで開き状態となるように配されている。トーボード6の下側とクロスメンバ9の間の隙間である後下部開口11が開くことで、冷却風が後下部開口11から外部に排出され、取風口5から導入される外気量を確保することができる(冷却性能維持)。
【0036】
開閉モータ17の駆動により開閉弁18が閉じて後下部開口11が閉じられることで、後下部開口11から外部に排出される冷却風の量が規制され(減らされ)、取風口5から導入される外気量が減らされる(走行性能の低下防止)。
【0037】
開閉弁18は、開閉モータ17により下縁が後部上方に向けて回動されるので、開閉モータ17に不具合が生じた場合であっても、車両1の走行に伴って開閉弁18が開き側に動作するため、外気の導入を確保することができ、エンジンルーム2内の冷却を維持することができる。
【0038】
開閉モータ17は、温度状態検出手段から得られる情報である、エンジン3の温度状態(冷却水温、運転状態等)に基づいて、冷却が必要な時に開閉弁18を開くように駆動が制御されている。
【0039】
即ち、図5に示すように、開閉モータ17はモータ制御ECU31の指令に基づいて駆動が制御される。モータ制御ECU31にはエンジン3の回転速度等の運転状態の情報がエンジンECU32から送られ、温度状態が検出される。また、モータ制御ECU31にはエンジン3の冷却水温を検出する水温センサ33の情報が送られ、温度状態が検出される。
【0040】
このため、モータ制御ECU31の指令に基づいて開閉モータ17の駆動が制御されることで、エンジン3の温度状態(冷却水温、運転状態等)に基づいて、開閉弁18を開閉することができる。従って、冷却を必要としている状態の時に開閉モータ17を駆動して開閉弁18を開くことができる。
【0041】
上述した通風量制御装置は、エンジンルーム2の内部のスペースに影響を与えることがない、トーボード6の下側とクロスメンバ9の間の隙間である後下部開口11に開閉手段12を設け、後下部開口11から外部に排出される冷却風の量を開閉手段12によって規制することで(減らすことで)、取風口5から導入される外気量を減らし、空気抵抗(空力特性)や前輪揚力特性の悪化を抑制して走行性能の低下を防止することができる。また、冷却が必要な時に開閉手段12によって後下部開口11を開くことで、取風口5から導入される外気量を増加させ、冷却性能を維持することができる。
【0042】
この結果、エンジンルーム2の内部のスペースに影響を与えることがない状態で、冷却性能と走行性能を両立させることが可能になる。
【0043】
図6図7に基づいて開閉手段の他の実施例を説明する。図6には本発明の他の実施例に係る開閉弁の外観、図7には図6中のVII-VII線矢視を示してある。
【0044】
トーボード6の下側には、後下部開口11に対応した枠材35が設けられ、枠材35には3枚の矩形状の樹脂製の分割弁36が3枚設けられている。つまり、分割弁36は、上下方向に分割された状態になっている。それぞれの分割弁36は車両の幅方向に延びる軸周りで回動自在に枠材35に支持されている。枠材35には開閉モータ37が備えられ、開閉モータ37の駆動力は同期機構38を介して3枚の分割弁36に伝達される。
【0045】
後下部開口11を開閉する場合、開閉モータ37を駆動することで、同期機構38を介して3枚の分割弁36が一斉に開閉する。このため、トーボード6の下側とクロスメンバ9の間で、車両の上下方向に亘り、後部に排出される空気量を均等に調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、車両の通風量制御装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 車両
2 エンジンルーム
3 エンジン
4 ラジエータ
5 取風口
6 ダッシュパネル(トーボード)
7 車室
8 前輪
9 フロントサスペンションクロスメンバ(クロスメンバ)
10 車軸
11 後下部開口
12 開閉手段
13 排気管
15 軸受け
16 開閉軸
17、37 開閉モータ
18 開閉弁
19 切欠き
20 金属部材
21 シール
31 モータ制御ECU
32 エンジンECU
33 水温センサ
35 枠材
36 分割弁
38 同期機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7