特許第5930175号(P5930175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930175
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】定着用金属複層部材
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   G03G15/20 515
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-38044(P2012-38044)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-174671(P2013-174671A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313015030
【氏名又は名称】シンジーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 新五
(72)【発明者】
【氏名】西田 晃
(72)【発明者】
【氏名】武田 実
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−233260(JP,A)
【文献】 特開2006−301562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル又はニッケル合金からなるシームレス電鋳ベルトからなる第1層と、この第1層より熱伝導性が大きな金属のメッキ層からなる第2層とを有する金属基体と、この金属基体の前記第2層側の上方に接着層を介して設けられたフッ素樹脂層とを具備し、前記金属基体の総厚に対する前記第2層の厚さの比を0.66以上0.95以下としたことを特徴とする定着用金属複層部材。
【請求項2】
請求項1に記載の定着用金属複層部材において、前記第2層が、銅又は銅合金のメッキ層からなり、前記第2層上に当該第2層より耐食性の高い金属からなる第3層をさらに設けたことを特徴とする定着用金属複層部材。
【請求項3】
請求項2に記載の定着用金属複層部材において、前記第3層は、ニッケル又はニッケル合金のメッキ層からなることを特徴とする定着用金属複層部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の定着用金属複層部材において、前記金属基体と前記フッ素樹脂層との間に弾性層を具備することを特徴とする定着用金属複層部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ベルトや加圧ベルトに用いられる定着用金属複層部材に関し、特に複写機、ファクシミリ、レーザビームプリンター等の画像形成装置の定着部の定着ベルトや加圧ベルトに用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置においては、画像形成装置の小型化、省エネルギー化、印字・複写の高速化等の要求に応えるために、ゴムロールを用いた定着ロールの代わりに無端状の定着ベルト(エンドレスベルトまたはエンドレスフィルム)を使用した定着方式が採用されている。
【0003】
このようなベルトを利用した定着装置においては、定着ベルトとして、耐熱性高分子材料であるポリイミド樹脂などで形成したものを用いると、熱伝導性が充分でないために定着速度を高めることが困難であるほか、起動時に定常温度となるのに時間がかかるという不都合がある。そこで、ニッケルなどの金属で形成し、熱伝導性や寸法精度において優れている定着ベルトが用いられ、例えば、離型層を設ける際の加熱処理に対する耐久性があり、ニッケル−炭素合金を電鋳することによって得られる基材が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、近年の画像の高精度化や印刷の高速化に伴い、幅の違う用紙を連続印刷する際などに、光沢ムラなどの画質不良が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−004660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、ニッケル電鋳を用いた基材を用い、画質不良を防止する定着用金属複層部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、ニッケル又はニッケル合金からなるシームレス電鋳ベルトからなる第1層と、この第1層より熱伝導性が大きな金属のメッキ層からなる第2層とを有する金属基体と、この金属基体の前記第2層側の上方に接着層を介して設けられたフッ素樹脂層とを具備し、前記金属基体の総厚に対する前記第2層の厚さの比を0.66以上0.95以下としたことを特徴とする定着用金属複層部材にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の定着用金属複層部材において、前記第2層が、銅又は銅合金のメッキ層からなり、前記第2層上に当該第2層より耐食性の高い金属からなる第3層をさらに設けたことを特徴とする定着用金属複層部材にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の定着用金属複層部材において、前記第3層は、ニッケル又はニッケル合金のメッキ層からなることを特徴とする定着用金属複層部材にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れか1つの態様に記載の定着用金属複層部材において、前記金属基体と前記フッ素樹脂層との間に弾性層を具備することを特徴とする定着用金属複層部材にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の定着用金属複層部材は、高精度で高耐久性に製造できるニッケル又はニッケル合金からなるシームレス電鋳ベルトからなる第1層と、第1層より熱伝導率が高い金属のメッキ層からなる第2層とを具備するので、連続印刷した際に通紙領域と非通紙領域の温度差ΔTが低くなるという効果を奏する。すなわち、連続通紙後に連続通紙した用紙より幅の広い用紙で印刷した場合でも、光沢ムラ等の画質不良が無い良好な画質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る定着用金属複層部材の断面図及び拡大図である。
図2】本発明の一実施形態に係る定着用金属複層部材を用いた定着部の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る定着用金属複層部材を用いた定着部の他の例を示す図である。
図4】試験例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、光沢ムラなどの画質不良が、用紙幅が異なる用紙を連続印刷した場合、特に用紙幅の小さな用紙を連続して多数印刷した直後、用紙幅が大きな用紙に切り替えて印刷した際に生じることを見いだし、このような画質不良は通紙領域と非通紙領域との温度差ΔTが原因で生じる可能性が高いという知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
また、通紙領域と非通紙領域との温度差ΔTが20℃以下に抑えられれば、光沢ムラなどの画像不良の発生がほとんど防止できることもわかった。
【0015】
このような知見に基づき、所定の試験後の通紙領域と非通紙領域との温度差ΔTが15℃以下となる範囲を本発明の範囲とした。
【0016】
本発明の定着用金属複層部材は、ニッケル又はニッケル合金からなるシームレス電鋳ベルトからなる無端ベルト状の第1層と、この第1層より熱伝導性が大きな金属のシームレス電鋳ベルトからなる第2層とを有する金属基体と、この金属基体の前記第2層側の上方に接着層を介して設けられたフッ素樹脂層とを具備するものである。
【0017】
かかる本発明の定着用金属複層部材は、高精度で高耐久性に製造できるニッケル又はニッケル合金からなるシームレス電鋳ベルトからなる第1層と、第1層より熱伝導性が大きな金属のシームレス電鋳ベルトからなる第2層とを具備するので、高精度で高耐久性であるばかりか、熱伝導性が極めて良好なものとなる。すなわち、定着部材として用紙幅の異なる用紙を連続して印刷しても、第1層より熱伝導性が大きい第2層を具備し且つ所定の厚さとすることにより、熱伝導性が良好で所定厚以上の第2層があるので、用紙幅が狭い用紙を連続して印刷した際に、相対的に高温となった非通紙領域の熱が通紙領域に良好に伝達して温度差ΔTが15℃以下に押さえられると考えられ、その直後、連続して用紙幅が大きな用紙を印刷しても通紙領域と非通紙領域との温度差に基づく画質不良が低減されると推定される。
【0018】
ここで、第1層は、ニッケル電鋳からなるものであり、ニッケル電鋳は、ニッケル単体からなるニッケル電鋳だけではなく、リン、鉄、コバルト、マンガンの1種または複数種の元素を含むニッケル合金電鋳を含むものである。
【0019】
第2層の金属は、第1層を構成するニッケル又はニッケル合金より熱伝導性の大きな金属であるが、ニッケル又はニッケル合金の熱伝導率の2倍以上、好ましくは3倍以上の熱伝導率を有する金属である。ニッケルの熱伝導率が90W/mK程度であるから、180W/mK以上、好ましくは270W/mK以上の金属であり、具体的には、銅(398W/mK)、銀(420W/mK)、金(320W/mK)、アルミニウム(237W/mK)などを挙げることができるが、第2層の製造面及びコストを考えると銅又は銅合金のシームレス電鋳ベルトとするのが好ましい。
【0020】
但し、銅又は銅合金の場合には、表面に酸化被膜が形成され易いので、銅又は銅合金のシームレス電鋳ベルトからなる第2層上に当該第2層より耐食性の高い金属からなる第3層をさらに設けるのが好ましい。
【0021】
第3層は、耐食性を付与できる程度の厚さの薄膜でよいので、必ずしも電鋳で形成する必要はなく、めっきで形成してもよい。なお、第3層を構成する金属として、金、銀、クロム、ニッケル、ニッケル合金等が挙げられ、ニッケルやニッケル合金が特に好ましい。
【0022】
本発明の定着用金属複層部材は、二層、三層又はそれ以上の多層構造の無端ベルト状の金属基体を具備するが、金属基体の総厚に対する第2層の厚さの比(以下、第2層膜厚比ともいう)が、0.66以上0.95以下である。
【0023】
第2層の厚さの比が上述した範囲より小さいと、通紙領域と非通紙領域との通紙後の温度差ΔTが15℃より大きくなる。一方、上述した範囲より大きいと、耐久性、寸法精度や耐食性など全てに優れたものが設計できなくなり、第1層を省くと、耐久性、寸法精度等が低下する。
【0024】
ここで、金属基体の総厚は、20〜100μm、好適には25〜60μmの範囲にあるのが好ましい。これ以上薄いと、全体として強度が確保できず、また、これより厚いと、曲げ応力が大きくなり、耐久性が低下する傾向となる。
【0025】
本発明の金属基体は、ニッケルシームレス電鋳ベルトを基体本体としているので、寸法精度が良好で、表面性が良好なものである。
【0026】
そして、本発明の定着用金属複層部材は、金属基体の第2層側、すなわち、二層構造の場合には第2層上に、三層構造の場合には第3層上に、第一接着層を介して設けられた弾性層と、この弾性層上に第二接着層を介して設けられたフッ素樹脂層を具備するものである。
【0027】
ここで、弾性層は、耐熱性に優れた材料からなるのが好ましく、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられ、特にシリコーンゴムが好ましい。弾性層の厚さは、例えば、20〜1000μmであり、好ましくは50〜500μmである。これは、トナー定着性を向上させ、画像の高画質化を図るためである。なお、仕様によっては弾性層はなくてもよい。
【0028】
フッ素樹脂層は、具体的には、PFAチューブ、好適には熱収縮性のチューブが好ましい。また、接着層は、フッ素樹脂層を強固に接着するために、好適には、PFA粒子を含有する接着剤の塗布層をPFAを溶融させる温度で加熱処理することにより形成されたものである。
【0029】
また、フッ素樹脂層は、内面を改質処理して接着性を向上させた熱収縮性のPFAチューブとし、シリコーン系接着剤を塗布した後に、前述したPFAチューブを被覆し、接着剤と密着させ、シリコーンゴム系接着剤の硬化温度に加熱して形成したものでもよい。
【0030】
さらに、フッ素樹脂層は、例えば、PFA粒子をスプレー又はディッピング等による塗布層としてもよく、具体的には、PFA粒子を含有した接着剤層を塗布した後に、前述したフッ素樹脂層を塗布し、熱により、フッ素樹脂層と接着層とを溶融させることで形成したものでもよい。
【0031】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。図1には、本発明の定着用金属複層部材の一例、すなわち、三層構造の金属基体を有する定着用金属複層部材の概略図を示す。
【0032】
定着用金属複層部材10は、ニッケルシームレス電鋳ベルトからなる無端ベルト状の第1層11と、銅又は銅合金からなる第2層12と、耐食性膜としての第3層13とからなる金属基体を具備し、第3層13上に、第一接着層14を介して設けられた弾性層15と、この弾性層15上に第二接着層16を介してフッ素樹脂層17を設けたものである。
【0033】
第1層11は、ニッケル又はニッケル合金のシームレス電鋳ベルト(以下、ニッケルシームレス電鋳ベルトともいう)からなる無端ベルト状のものである。ニッケル合金としては、リン、鉄、コバルト、マンガンの1種または複数種の元素を含むニッケル合金を挙げることができる。ニッケルシームレス電鋳ベルトからなる第1層11は、Ni−P合金電鋳であるのが好ましく、リンを0.05質量%以上1質量%以下の含有率で含有するものであるのがさらに好ましい。なお、ニッケルシームレス電鋳ベルトからなる第1層11中のリン含有率が0.05質量%未満であると、第1層11の耐熱疲労特性が十分に向上しなくなる虞があり、リンの含有率が1質量%を超えると、第1層11の柔軟性が悪くなる虞がある。
【0034】
ニッケルシームレス電鋳ベルトからなる第1層11は、一般に、硫酸ニッケルや塩化ニッケルを主成分とするワット浴やスルファミン酸ニッケルを主成分とするスルファミン酸浴等のニッケル電鋳浴を用いて、電鋳法により形成することができる。電鋳法は、母型の表面に厚メッキを行い、これを母型から剥離して製品を得る方法である。
【0035】
ニッケルシームレス電鋳ベルトからなる第1層11を得るには、ステンレス、黄銅、アルミニウム等からなる円筒を母型とし、その表面にニッケル電鋳浴を用いてニッケルメッキ膜を形成することができる。母型がシリコーン樹脂や石膏などの不導体である場合には、黒鉛、銅粉、銀鏡、スパッタリングなどにより、導電性処理を行う。金属母型への電鋳では、ニッケルメッキ膜の剥離を容易にするために、母型の表面に酸化膜、化合物膜、黒鉛粉塗布膜などの剥離膜を形成するなどの剥離処理を行うことが好ましい。
【0036】
ニッケル電鋳浴は、ニッケルイオン源、アノード溶解剤、pH緩衝剤、その他の添加剤を含む。ニッケルイオン源としては、スルファミン酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケルを例示することができる。アノード溶解剤としては、ワット浴の場合、塩化ニッケルがこの役割を果たしており、他のニッケル浴では、塩化アンモニウム、臭化ニッケルなどが用いられている。ニッケルメッキは、一般に、pH3.0〜6.2の範囲で行われるが、この間の望ましい範囲に調整するために、ホウ酸、ギ酸、酢酸ニッケルなどのpH緩衝剤が用いられる。その他の添加剤としては、平滑化、ピット防止、結晶微細化、残留応力の低減などを目的として、例えば、光沢剤、ピット防止剤、内部応力減少剤などが用いられる。
【0037】
ニッケル電鋳浴としては、スルファミン酸浴が好ましい。スルファミン酸浴の組成としては、スルファミン酸ニッケル四水塩300〜600g/L、塩化ニッケル0〜30g/L、ホウ酸20〜40g/L、適量の界面活性剤、適量の光沢剤などを含有するものを挙げることができる。pHは2.5〜5.0、好ましくは3.5〜4.7である。浴温は20〜65℃、好ましくは40〜60℃である。なお、ニッケル合金電鋳からなる第1層11を得る場合は、亜リン酸ナトリウムのような水溶性リン含有酸の塩、スルファミン酸第1鉄、スルファミン酸コバルト、スルファミン酸マンガン等のスルファミン酸金属塩、フッ化チタンカリウムなどを適宜添加したニッケル金属電鋳浴を用いればよい。
【0038】
上記ニッケル電鋳浴、特にスルファミン酸ニッケル浴にリンを添加して上記条件で電鋳を行うことにより得られる、Ni−P合金電鋳からなる第1層11は、耐熱疲労特性が改善される。
【0039】
第2層12は、ニッケルシームレス電鋳ベルトより熱伝導率の大きな金属からなり、第1層11との接着性、シームレス電鋳ベルトの製造上の点から、銅又は銅合金からなるのが好ましい。
【0040】
第2層12は、電解メッキにより得るのが好ましい。例えば、第1層11の表面にメッキ浴を用いてメッキ膜を形成し、第2層12とすればよい。第2層12をメッキにより得ることにより、第1層11との密着性に優れたものとなる。例えば、第2層12が銅からなる場合は、銅メッキ浴を用いて銅メッキ膜を形成する。銅メッキ浴としては、硫酸銅メッキ浴、ピロリン酸銅メッキ浴、シアン化銅メッキ浴、無電解銅メッキ浴等が挙げられ、硫酸銅メッキ浴を用いるのが好ましく、硫酸銅150〜250g/L、硫酸30〜150g/L、塩酸0.125〜0.25ml/L、適量の光沢剤を含有するものを挙げることができる。なお、第2層12は、無電解メッキ法、物理蒸着法、化学蒸着法等により形成してもよい。
【0041】
第2層12が、銅又は銅合金のメッキ層の場合には、耐食性を付与するための第3層13を設ける。第3層13は、電解メッキにより形成するのが好ましい。例えば、第2層12の表面にメッキ浴を用いてメッキ膜を形成し、第3層13とすればよい。このとき、第2層12の表面が空気にほとんど接触することのないように形成するのが好ましい。これにより、第2層12の腐食をより効果的に防止することができる。第3層13を電解メッキにより形成することにより、第2層12との密着性に優れたものとなり、また、厚さ3μm以下の第3層13を高精度で形成することができる。なお、第3層13がニッケル又はニッケル合金からなる場合は、第1層11と同様の方法により得ることができる。また、Ni−P合金、Ni−Fe合金、Ni−Co合金、Ni−Co−P合金、Ni−Mn合金等のニッケル合金からなる第3層13は、第1層11と同様の方法で電極等を適宜変更することにより得ることができる。なお、第3層13は、無電解メッキ法、物理蒸着法、化学蒸着法等により形成してもよい。
【0042】
第3層13の厚さは、0.5μm〜2μm、好ましくは、1μm前後である。なお、厚さが0.5μm未満となると第2層12の酸化防止の十分な効果が得られなくなる虞がある。
【0043】
第一接着層14は、シリコーン系接着剤を用いるのが好ましく、厚さは1〜15μmが好ましい。弾性層15は、本実施形態では、シリコーンゴムからなる。
【0044】
第二接着層16は、PFA粒子を含有する接着剤を用い、PFAを溶融して形成されたものである。第二接着層16の厚さは、接着性を確保できる範囲でできるだけ薄い方が好ましく、例えば、1μm〜20μm、好ましくは、1μm〜10μmである。
【0045】
また、フッ素樹脂層17は、高離型のPFAからなるものが挙げられる。フッ素樹脂層17の厚さは、例えば、1〜150μmであり、好ましくは5〜30μmである。
【0046】
このような定着用金属複層部材10は、例えば、図2(a)に示すように使用される。定着用金属複層部材10は、内部にヒータを内蔵する押圧部材20を具備し、押圧部材20で加圧ロール30に押圧された状態で使用される。
【0047】
図2(b)は、押圧部材21とは別にヒータ22を内蔵するものである。また、励磁コイル(熱源)が定着用金属複層部材10の内側又は外側に配置される電磁誘導発熱形式のベルトとしても使用できることはいうまでもない。
【0048】
図3には、このような他の使用形態の例を示す。図3(a)は、押圧部材20、21ではなく、定着用金属複層部材10の内側に、定着ロール23を配置し、定着ロール23で定着用金属複層部材10を加圧ロール30に押圧するものである。定着用金属複層部材10を加熱する加熱手段は定着ロール23に内蔵してもよいし、定着用金属複層部材10の外側に配置してもよい。図3(b)は、定着用金属複層部材10の内側に加圧ロール30と定着用金属複層部材10を介して対向するインナーロール24とヒータを内蔵する加熱ロール25とを配置し、両者で定着用金属複層部材10を回転駆動するものである。なお、この場合も、加熱ロール25のヒータ22を定着用金属複素部材10の外側に配置してもよい。
【0049】
このように、定着ベルトの使用態様は特に限定されるものではない。
【0050】
また、本発明の定着用金属複層部材は、上述したような定着ベルトに好適に用いられるものであるが、転写直後に定着を行う転写・定着ベルト等にも用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明を限定するものではない。
【0052】
(サンプル1〜15)
スルファミン酸ニッケルを500g/L、亜リン酸ナトリウムを150mg/L、硼酸を30g/L、一次光沢剤としてナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸三ナトリウムを1.0g/L、二次光沢剤として2−ブチン−1,4−ジオールを20mg/L添加して、所望のスルファミン酸リン電鋳浴を調製した。
【0053】
この電鋳浴を60度、pHを4.5として、外径30mmのステンレス鋼製の円筒状母型を陰極とし、デポラライズドニッケルを陽極として、16A/dmの電流密度下で電鋳を行い、母型の外周面に電析体を下記表1の厚さに形成した。この電析体を有する母型から電析体を引き抜き、内径30mm、下記表1の厚さのニッケルリン合金電鋳からなる第1層を得た。第1層は、リンの含有率が0.5質量%である。
【0054】
この第1層上に、以下の電解浴からなる第2層を形成した。具体的には、まず、硫酸銅を180g/L、硫酸を60g/L、チオ尿素を0.04g/L、糖蜜を0.8g/L添加して、所望の硫酸銅電解浴を調整した。次に、この電解浴の浴温を45℃とし、上記電析体を陰極、含リン銅を陽極として、5A/dmの電流密度下でめっきを行い、第1層上に下記表1の厚さの銅からなる第2層を形成した。
【0055】
この第2層上に、上記と同様の方法によりニッケルリン合金からなる厚さ1μmの第3層を形成し、これを電解浴から取り出し、電析体の両端部のバリを切り剥がして、三層構造の金属基体を得た。
【0056】
この各金属基体にシリコーン系接着剤を塗布し、シリコーンゴムを100μmの厚さで形成した後、フッ素系接着剤を塗布し、PFAチューブを被覆し、330℃で加熱処理を行い、サンプル1〜15とした。
【0057】
(試験例1)通紙後の温度分布
上述したサンプル1〜15の定着ベルトとし、一方、加圧ロールとして、φ24の金属製芯金にシリコーンゴムを3mm、PFAチューブを30μmの厚さになるように成形したものを用い、図2(b)の構成の定着部を用い、B4用紙を100枚連続通紙を行った後の、定着ベルトの表面の用紙端部の内側10mmを通紙領域とし、用紙端部の外側10mmを非通紙領域として、温度差ΔTを非接触型温度計にて測定した。結果を下記表1及び図4に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(結果のまとめ)
総厚に対する第2層の厚さの比が0.66以上(0.95以下)のサンプルにおいて温度差ΔTが15℃以下となっていることがわかった。
【符号の説明】
【0060】
10 定着用金属複層部材
11 第1層
12 第2層
13 第3層
14 第一接着層
15 弾性層
16 第二接着層
17 フッ素樹脂層
図1
図2
図3
図4