【実施例】
【0034】
(実施例1)
以下に実施例及び比較例を提示して、本発明の高炉樋用不定形耐火物を説明する。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0035】
表1及び表2では、表中に示す配合割合で原料を配合、混練することにより調整した不定形耐火物の特性を評価している。混練は、JISR2521に準じた試験方法によるタップフロー値が130〜150になるように調整した混練水量で、ミキサーにより実施した。
【0036】
各配合において使用した耐火物原料において、0.3mm未満の粒度を有する第1の耐火物原料に含まれる炭化珪素原料の純度は97%程度である。また、アルミナ原料は、純度99%程度の電融アルミナ及び仮焼アルミナである。さらに、カーボン原料は、ピッチ及びカーボンブラックである。一方、0.3mm以上の粒度を有する第2の耐火物原料に含まれる炭化珪素原料の純度は97%程度である。アルミナ原料は、純度が95%程度の電融アルミナを使用している。
【0037】
また、各種添加材として、硬化剤であるアルミナセメント、分散剤であるアルカリ金属燐酸塩系及びナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物塩系の分散剤、爆裂防止剤である金属アルミニウム、酸化防止剤である炭化ホウ素を添加している。ここでは、各種添加剤は、耐火物原料100重量%に対して、外掛けで3重量%の割合で添加している。
【0038】
調整した各高炉樋用不定形耐火物について、耐スラグ性及び耐溶銑性評価し、表1、表2中に記載した。
【0039】
耐スラグ性の評価として、各不定形耐火物を流し込み成形した供試体に対し、回転ドラム法によるスラグ侵食試験を実施している。侵食剤としてC/S(CaO/SiO
2比)≒1.2の高炉スラグを1時間あたり1.2kg使用し、1600℃で4時間にわたり試験を行った。高炉スラグは1時間ごとに排出し、新しい高炉スラグと交換した。加熱方法はアーク加熱による。試験終了後、供試体の溶損深さを測定し、表2に示す比較例1の溶損深さを100として指数表示した。このスラグ溶損指数は、数値が小さいほど溶損量が少なく、耐食性に優れていることを示している。
【0040】
また、耐溶銑性の評価として、各不定形耐火物を流し込み成形した供試体に対し、高周波誘導炉内張り法による溶銑侵食試験を実施している。侵食剤として銑鉄を13kg使用し、1600℃で4時間にわたり試験を行った。試験終了後、供試体の溶損深さを測定し、表2に示す比較例1の溶損深さを100として指数表示した。この溶銑溶損指数は、数値が小さいほど溶損量が少なく、耐食性に優れていることを示している。
【0041】
表中の総合評価欄に記載している記号は、耐スラグ性及び耐溶銑性を総合的に評価したものである。「◎」は、スラグ溶損指数が80未満、かつ溶銑溶損指数80未満である配合に付している。「○」は、スラグ溶損指数又は溶銑溶損指数のいずれか一方が80未満かつ他方が80以上90未満である配合に付している。「×」は、スラグ溶損指数90以上又は溶銑溶損指数90以上である配合に付している。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1、表2から理解できるように、実施例1〜17では、比較例1〜9に比べて耐スラグ性及び耐溶銑性がともに優れている。以下、表1及び表2に示す配合について簡単に説明する。
【0045】
表2における比較例1は従来のスラグライン材である。本実施例では、上述のように、比較例1をスラグ溶損指数及び溶銑溶損指数の基準としている。比較例1は、特許文献1が開示するスラグライン材を参考にした配合であり、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)中における炭化珪素原料の含有量が多くなっている。
【0046】
また、比較例2及び比較例3は、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)の配合割合を、それぞれ25重量%(30重量%未満)、65重量%(60重量%超)とした配合である。実施例1、実施例2及び実施例3は、比較例2及び比較例3の配合において、第1の耐火物原料の配合割合を30重量%〜60重量%の範囲内とした配合である。実施例1、実施例2及び実施例3では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例2及び比較例3では、施工水分量が増えて気孔率が増加する結果、耐スラグ性、耐溶銑性は向上していない。
【0047】
比較例4は、実施例1の配合において、0.3mm以上の粒度を有する耐火物原料(第2の耐火物原料)中における炭化珪素原料の配合割合を55重量%(60重量%未満)とした配合である。実施例5及び実施例10は、実施例1の配合において、第2の耐火物原料中における炭化珪素原料の配合割合を60重量%〜100重量%の範囲内とした配合である。また、実施例4は、実施例2の配合において第2の耐火物原料中における炭化珪素原料の配合割合を85重量%とした配合である。実施例4、実施例5及び実施例10では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例4では、炭化珪素原料の配合量が減少した結果、耐スラグ性が向上していない。
【0048】
比較例5は、実施例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)中における炭化珪素原料の配合割合を45重量%(40重量%超)とした配合である。実施例13は、実施例1の配合において、第1の耐火物原料中における炭化珪素原料の配合割合を30重量%とした配合である。実施例13では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例5では、炭化珪素原料の配合量が増加した結果、耐溶銑性向上の効果が小さくなっている。
【0049】
比較例6は、実施例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるカーボン原料の配合割合を5重量%未満とした配合である。実施例9、実施例15、実施例16は、実施例1の配合において、第1の耐火物原料中におけるカーボン原料の配合割合をそれぞれ、20重量%、6重量%、40重量%(5重量%〜50重量%の範囲内)とした配合である。また、実施例8は、実施例2の配合において、第1の耐火物原料中におけるカーボン原料の配合割合を20重量%とした配合である。実施例8、実施例9、実施例15、実施例16では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例6ではカーボン原料の配合量が減少した結果、耐スラグ性が低下している。
【0050】
また、比較例7は、実施例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるカーボン原料の配合割合を60重量%(50重量%超)とした配合である。比較例7では、施工水分量が増えて気孔率が増加する。そのため、カーボン原料の配合量が増加することによる耐スラグ性向上効果が得られるが、耐溶銑性が低下している。
【0051】
比較例8は、比較例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)における炭化珪素原料の配合割合を50重量%とした配合である。実施例17は、比較例8の配合において、第1の耐火物原料における炭化珪素原料の配合割合を35重量%(0重量%〜40重量%の範囲内)とし、アルミナ原料の配合割合を18重量%(10重量%〜95重量%の範囲内)とした配合である。実施例17では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例8では、カーボン原料の配合量増加に起因する耐スラグ性向上効果が得られているが、耐溶銑性の向上効果はあまり得られていない。
【0052】
比較例9は、比較例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるアルミナ原料の配合割合を5重量%とし、炭化珪素原料を45重量%とした配合である。カーボン原料の配合量増加に起因する耐スラグ性向上効果が得られているが、耐溶銑性が低下している。
【0053】
なお、実施例6、実施例7、実施例11、実施例14から理解できるように、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるアルミナ原料の配合割合を90重量%に増大させても、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られている。また、実施例12から理解できるように、実施例9の配合において、アルミナ原料を15重量%に増大させても、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られている。
(実施例2)
上述の比較例5及び実施例1を実炉に適用した。各不定形耐火物は、4000m
3級及び5000m
3級の高炉に付随している主樋全長約20mの上流側約8mの部分のスラグラインに流し込み施工を行った。実炉施工回数は比較例5が13回、実施例1が14回である。
【0054】
評価は、比較例5及び実施例1それぞれの耐火物において,初回残銑抜き点検時までの損傷量(mm)を初回残銑抜き点検までに通銑した溶銑量(t)で割った損耗速度(mm/t)を算出することで実施した。損耗速度は、実炉に施工した全耐火物についてそれぞれ算出した全損耗速度の平均とした。損耗速度が小さいほど高耐用な耐火物であると評価できる。初回残銑抜き点検までの通銑量は約3万tである。
【0055】
比較例5の損耗速度は4.4mm/ktであり、実施例1の損耗速度は3.4mm/ktであった。すなわち、耐スラグ性のみが優れる比較例5よりも、耐スラグ性、耐溶銑性がともに優れる実施例1の方が実炉において良好な結果が得られた。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、耐スラグ性、耐溶銑性に優れ、従来の耐火物と比較して高耐用の高炉樋用不定形耐火物を実現することができる。