特許第5930227号(P5930227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930227
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】高炉樋用不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20160526BHJP
   F27D 3/14 20060101ALI20160526BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C04B35/66 T
   C04B35/66 V
   F27D3/14 A
   F27D1/00 N
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-20023(P2014-20023)
(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公開番号】特開2015-147694(P2015-147694A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】安尾 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】飯田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】北村 匡譜
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−215773(JP,A)
【文献】 特開平03−164479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
F27D 1/00
F27D 3/14
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種添加材を除く耐火物原料として炭化珪素原料、アルミナ原料及びカーボン原料を含む高炉樋用不定形耐火物であって、
前記耐火物原料は、
0.3mm未満の粒度を有する第1の耐火物原料30〜60重量%と、
0.3mm以上の粒度を有する第2の耐火物原料40〜70重量%と、
からなり、
前記第1の耐火物原料100重量%は、
炭化珪素原料を0〜40重量%、
アルミナ原料を10〜95重量%、
カーボン原料を5〜50重量%、
含み、
前記第2の耐火物原料100重量%は、
炭化珪素原料を60〜100重量%、
アルミナ原料を0〜40重量%、
含む、高炉樋用不定形耐火物。
【請求項2】
前記耐火物原料に占める前記第1の耐火物原料の割合が35〜45重量%、前記第2の耐火物原料の割合が55〜65重量%である、請求項1記載の高炉樋用不定形耐火物。
【請求項3】
前記第1の耐火物原料100重量%は、
炭化珪素原料を0〜25重量%、
アルミナ原料を45〜94重量%、
カーボン原料を6〜30重量%、
含み、
前記第2の耐火物原料100重量%は、
炭化珪素原料を80〜100重量%、
アルミナ原料を0〜20重量%、
含む、請求項1又は請求項2記載の高炉樋用不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉樋の耐火物に関し、特にスラグラインへの施工に好適な不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉樋は、高炉出銑口から導出される溶銑と溶融スラグとを次工程に運ぶための経路である。また、高炉樋は、溶銑と溶融スラグとを比重の差によって分離する機能も有している。
【0003】
高炉樋の損耗は、壁部における空気と溶融スラグとの界面(スラグライン)及び溶融スラグと溶銑との界面(メタルライン)で局部的に起こることが知られている。スラグラインとメタルラインとでは損耗機構が異なるため、損耗機構に対応した材質の耐火物がスラグラインとメタルラインとに採用されている。一般に、スラグラインにはアルミナ−炭化珪素−炭素質の耐火物が採用されている(例えば、特許文献1等参照。)。また、メタルラインにはスピネル−アルミナ−炭化珪素−炭素質の耐火物が採用されている(例えば、特許文献2等参照)。
【0004】
従来、スラグライン用の耐火物材料には、高炉スラグに対する耐食性の向上が求められてきた。高炉スラグの組成は、溶鉱炉内に酸化物系の固体が残らないように、酸化物を溶解する組成に設計されており、樋内におけるスラグ組成に対して酸化物系の耐火骨材は容易に溶解してしまう。そのため、スラグラインに用いられる耐火物材料には、酸化物をできるだけ排除した、炭化珪素や炭素類を主体とした材料が用いられてきた。
【0005】
また、スラグライン用耐火物材料の改良も様々行われてきた。例えば、特許文献1は、低気孔率で表面積の小さい炭化珪素を多量に用いることにより、耐スラグ性が大幅に向上することを開示している。また、特許文献3は、従来のスラグライン用耐火物に粒径10〜50mmの炭化珪素粗大粒を外掛け10〜40重量%添加することによって、耐スラグ性が大幅に向上することを開示している。特許文献4は、粒径15μm未満の炭化珪素超微粉を使用することにより、耐スラグ性が向上することを開示している。特許文献5は、中粒及び微粒に炭化珪素原料を多く配合すると耐スラグ性が優れることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−164479号公報
【特許文献2】特開平5−339065号公報
【特許文献3】特開平9−157043号公報
【特許文献4】特開2000−203953号公報
【特許文献5】特開2010−235342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、主樋スラグラインの最も損傷の大きい出銑口から3〜5m付近では、上述の改良品を適用しても、その耐用性は十分満足できるものではなかった。
【0008】
本発明は、このような従来の事情を鑑みて提案されたものであって、高耐用の高炉樋用不定形耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上述の従来技術により耐用性が必ずしも向上しない理由を検討した。高炉主樋スラグライン部において、損傷が最も激しいのは出銑孔から3〜5m付近である。その部分では、出銑流が樋内に落ち込み、激しく流動する。そして、このスラグの流動によって溶損が促進され、その結果、スラグライン部において溶損量が大きくなると考えられてきた。
【0010】
そこで、本願発明者らは、損傷が最も大きい出銑口から3〜5m付近から回収した使用後の高炉樋スラグライン材を詳細に解析した。その結果、溶融スラグによる溶損とともに、溶銑によって炭化珪素が損傷した形跡を確認した。この結果から、出銑口から3〜5m付近では、前述のような激しい流動とともに、銑滓分離が進んでいないことや、スプラッシュ(溶銑+溶滓)を直接受けることから、スラグに加えて溶銑の影響も受けていると判断した。特に、出銑荒出の際には、溶銑の影響を大きく受けるため、溶銑に対する耐食性が重要であると判断した。また、従来解析では、この溶銑による溶損について発見できず、そのため、材料開発においても主として溶融スラグに対する耐食性の向上を主眼として行ってきた結果、十分な耐用性が得られなかったものと判断した。
【0011】
以上の考察に基づき、本願発明者らは、耐スラグ性、耐溶銑性ともに優れた材料を探索した。その結果、微粉部分では炭化珪素をできるだけ使用せずにアルミナ等の酸化物原料を使用し、かつカーボン原料を多量に使用することにより、耐スラグ性及び耐溶銑性がともに優れた材料となることを見出した。
【0012】
アルミナは炭化珪素と比較して、高炉スラグには溶解しやすいが溶銑には溶解しにくい特徴を有している。そのため、微粉部分で炭化珪素の代わりにアルミナ等の酸化物原料を適用すると、耐溶銑性は向上させることができる。しかしながら、この構成では、耐スラグ性は低下する。一方、カーボン原料はスラグに対して濡れにくく、スラグの侵入を防止する効果がある。そのため、微粉部分でのアルミナ適用による耐スラグ性の低下をカーボン原料の多量使用により補うことが可能となる。その結果、耐スラグ性、耐溶銑性ともに優れた材料となる。本願発明者らは、以上のようにして得られた新たな知見に基づいて本発明に至った。
【0013】
まず、本発明は、各種添加材を除く耐火物原料として炭化珪素原料、アルミナ原料及びカーボン原料を含む高炉樋用不定形耐火物を前提としている。ここで、各種添加材は、硬化剤、分散剤、硬化時間調整剤、爆裂防止剤、酸化防止剤等の不定形耐火物の付加的な特性を調整するために添加される原料を意味する。そして、本発明に係る高炉樋用不定形耐火物は、耐火物原料が、0.3mm未満の粒度を有する第1の耐火物原料30〜60重量%と、0.3mm以上の粒度を有する第2の耐火物原料40〜70重量%とからなる。第1の耐火物原料100重量%は、炭化珪素原料を0〜40重量%、アルミナ原料を10〜95重量%、カーボン原料を5〜50重量%含む。また、第2の耐火物原料100重量%は、炭化珪素原料を60〜100重量%、アルミナ原料を0〜40重量%含む。
【0014】
特に、耐火物原料の全量に占める第1の耐火物原料の割合が35〜45重量%、第2の耐火物原料の割合が55〜65重量%であることが好ましい。また、第1の耐火物原料100重量%の組成は、炭化珪素原料0〜25重量%、アルミナ原料45〜94重量%、カーボン原料6〜30重量%であり、第2の耐火物原料100重量%の組成は、炭化珪素原料80〜100重量%、アルミナ原料0〜20重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐スラグ性、耐溶銑性に優れ、従来の耐火物と比較して高耐用の高炉樋用不定形耐火物を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における高炉樋用不定形耐火物は、各種添加材を除く耐火物原料として炭化珪素原料、アルミナ原料及びカーボン原料を含む。ここで、各種添加材は、硬化剤、分散剤、硬化時間調整剤、爆裂防止剤、酸化防止剤等の不定形耐火物の付加的な特性を調整するために添加される原料である。
【0017】
耐火物原料は、0.3mm未満の粒度を有する第1の耐火物原料と、0.3mm以上の粒度を有する第2の耐火物原料とからなる。第1の耐火物原料の含有量は30〜60重量%(30重量%以上かつ60重量%以下)であり、第2の耐火物原料の含有量は40〜70重量%(40重量%以上かつ70重量%以下)である。より好ましくは、第1の耐火物原料の含有量は35〜45重量%(35重量%以上かつ45重量%以下)であり、第2の耐火物原料の含有量は55〜65重量%(55重量%以上かつ65重量%以下)である。第1の耐火物原料の含有量が30重量%未満、もしくは60重量%を超える場合、施工水分量が多くなり、耐火物の気孔率が高くなる。その結果、耐スラグ性、耐溶銑性が低下するため好ましくない。
【0018】
第1の耐火物原料は、炭化珪素原料、アルミナ原料及びカーボン原料を含む。第1の耐火物原料の全量に占める炭化珪素原料の割合は0〜40重量%(0重量%以上かつ40重量%以下)である。すなわち、0.3mm未満の粒度を有する炭化珪素原料が含まれない組成を採用することも可能である。第1の耐火物原料中に占める炭化珪素原料の割合が40重量%を超える場合、耐スラグ性は向上するが耐溶銑性が低下するため好ましくない。耐スラグ性及び耐溶銑性をより向上させる観点では、第1の耐火物原料中に占める炭化珪素原料の割合は、0〜25重量%(0重量%以上かつ25重量%以下)であることがより好ましい。
【0019】
第1の耐火物原料の全量に占めるアルミナ原料の割合は10〜95重量%(10重量%以上かつ95重量%以下)である。第1の耐火物原料中に占めるアルミナ原料の割合が10重量%未満である場合、耐溶銑性が低下するため好ましくない。また、第1の耐火物原料中に占めるアルミナ原料の割合が95重量%を超える場合、耐スラグ性が低下するため好ましくない。耐スラグ性及び耐溶銑性をより向上させる観点では、第1の耐火物原料中に占めるアルミナ原料の割合は、45〜94重量%(45重量%以上かつ94重量%以下)であることがより好ましい。
【0020】
第1の耐火物原料の全量に占めるカーボン原料の割合は5〜50重量%(5重量%以上かつ50重量%以下)である。第1の耐火物原料中に占めるカーボン原料の割合が5重量%未満である場合、耐スラグ性が低下するため好ましくない。また、第1の耐火物原料中に占めるカーボン原料の割合が50重量%を超える場合、施工水分量が多くなって気孔率が高くなる結果、耐スラグ性、耐溶銑性が低下するため好ましくない。耐スラグ性及び耐溶銑性をより向上させる観点では、第1の耐火物原料中に占めるカーボン原料の割合は、6〜30重量%(6重量%以上かつ30重量%以下)であることがより好ましい。
【0021】
一方、第2の耐火物原料は、炭化珪素原料及びアルミナ原料を含む。第2の耐火物原料の全量に占める炭化珪素原料の割合は60〜100重量%(60重量%以上かつ100重量%以下)である。すなわち、0.3mm以上の粒度を有する炭化珪素原料のみを含む組成を採用することも可能である。第2の耐火物原料中に占める炭化珪素原料の割合が60重量%未満である場合、耐スラグ性が低下するため好ましくない。耐スラグ性及び耐溶銑性をより向上させる観点では、第2の耐火物原料中に占める炭化珪素原料の割合は、80〜100重量%(80重量%以上かつ100重量%以下)であることがより好ましい。
【0022】
第2の耐火物原料の全量に占めるアルミナ原料の割合は0〜40重量%(0重量%以上かつ40重量%以下)である。第2の耐火物原料中に占めるアルミナ原料の割合が40重量%を超える場合、耐スラグ性が低下するため好ましくない。耐スラグ性及び耐溶銑性をより向上させる観点では、第2の耐火物原料中に占めるアルミナ原料の割合は、0〜20重量%(0重量%以上かつ20重量%以下)であることがより好ましい。
【0023】
以上の組成において、炭化珪素原料の純度は特に限定されない。耐食性の観点では、炭化珪素原料の純度は85%以上であることが好ましい。
【0024】
また、アルミナ原料には、例えば、仮焼アルミナ、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、バン土頁岩等を使用することができる。また、複数種のアルミナ原料を併用することもできる。
【0025】
さらに、カーボン原料には、例えば、ピッチ、カーボンブラック、コークス、土壌黒鉛、燐状黒鉛等を使用することができる。また、複数種のカーボン原料を併用することもできる。
【0026】
以上の耐火物原料には、公知の各種添加材を配合することができる。上述のように、添加材としては、例えば、硬化剤、分散剤、硬化時間調整剤、爆裂防止剤、酸化防止剤等を使用することができる。
【0027】
硬化剤には、例えば、アルミナセメント、粘土質原料等の常温硬化材や、珪酸塩や燐酸塩等の周知の熱硬化性結合材等を使用することができる。
【0028】
分散剤には、例えば、アルカリ金属燐酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属フミン酸塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリカルボン酸ナトリウム等の不定形耐火物に一般的に使用される物質や、これらと同様の効果が得られる物質を使用することができる。また、複数種の分散剤を併用することもできる。
【0029】
硬化時間調整剤には、硬化促進剤と硬化遅延剤とが含まれる。硬化促進剤には、例えば、消石灰、塩化カルシウム、アルミン酸ソーダ、炭酸リチウム等を使用することができ、複数種の硬化促進剤を併用することもできる。硬化遅延剤には、例えば、ホウ酸、シュウ酸、クエン酸、グルコン酸、炭酸ソーダ、砂糖等を使用することができ、複数種の硬化遅延剤を併用することもできる。
【0030】
同様に、爆裂防止剤には、例えば、金属アルミニウム、乳酸アルミ、有機繊維等を使用することができ、複数種の爆裂防止剤を併用することもできる。また、酸化防止剤には、例えば、炭化ホウ素を使用することができる。
【0031】
以上のような原料の混合方法は特に限定されず、公知の任意の混合方法を採用することができる。例えば、混合用の装置として、例えば、オムニミキサー等を使用することができる。また、混合の際に、硬化剤、分散剤、硬化時間調整剤、爆裂防止剤、酸化防止剤等の添加材を耐火物原料に混ぜ込まず、別袋とすることも可能である。
【0032】
原料の混練方法についても特に限定されず、公知の任意の混練方法を採用することができる。例えば、混練用の装置として、ボルテックスミキサーやモルタルミキサー等を使用することができる。混練水についても特に限定されない。家庭用の浄水や工業用浄水等を使用することができる。また、シリカゾル等のバインダーを含んだ液体であってもよい。
【0033】
なお、本発明で得られた高炉樋用不定形耐火物は、流し込み施工のみならず、圧送ポンプを使用した湿式吹付け施工等にも適用することができ、同様の耐用性を示すことが期待される。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
以下に実施例及び比較例を提示して、本発明の高炉樋用不定形耐火物を説明する。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0035】
表1及び表2では、表中に示す配合割合で原料を配合、混練することにより調整した不定形耐火物の特性を評価している。混練は、JISR2521に準じた試験方法によるタップフロー値が130〜150になるように調整した混練水量で、ミキサーにより実施した。
【0036】
各配合において使用した耐火物原料において、0.3mm未満の粒度を有する第1の耐火物原料に含まれる炭化珪素原料の純度は97%程度である。また、アルミナ原料は、純度99%程度の電融アルミナ及び仮焼アルミナである。さらに、カーボン原料は、ピッチ及びカーボンブラックである。一方、0.3mm以上の粒度を有する第2の耐火物原料に含まれる炭化珪素原料の純度は97%程度である。アルミナ原料は、純度が95%程度の電融アルミナを使用している。
【0037】
また、各種添加材として、硬化剤であるアルミナセメント、分散剤であるアルカリ金属燐酸塩系及びナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物塩系の分散剤、爆裂防止剤である金属アルミニウム、酸化防止剤である炭化ホウ素を添加している。ここでは、各種添加剤は、耐火物原料100重量%に対して、外掛けで3重量%の割合で添加している。
【0038】
調整した各高炉樋用不定形耐火物について、耐スラグ性及び耐溶銑性評価し、表1、表2中に記載した。
【0039】
耐スラグ性の評価として、各不定形耐火物を流し込み成形した供試体に対し、回転ドラム法によるスラグ侵食試験を実施している。侵食剤としてC/S(CaO/SiO比)≒1.2の高炉スラグを1時間あたり1.2kg使用し、1600℃で4時間にわたり試験を行った。高炉スラグは1時間ごとに排出し、新しい高炉スラグと交換した。加熱方法はアーク加熱による。試験終了後、供試体の溶損深さを測定し、表2に示す比較例1の溶損深さを100として指数表示した。このスラグ溶損指数は、数値が小さいほど溶損量が少なく、耐食性に優れていることを示している。
【0040】
また、耐溶銑性の評価として、各不定形耐火物を流し込み成形した供試体に対し、高周波誘導炉内張り法による溶銑侵食試験を実施している。侵食剤として銑鉄を13kg使用し、1600℃で4時間にわたり試験を行った。試験終了後、供試体の溶損深さを測定し、表2に示す比較例1の溶損深さを100として指数表示した。この溶銑溶損指数は、数値が小さいほど溶損量が少なく、耐食性に優れていることを示している。
【0041】
表中の総合評価欄に記載している記号は、耐スラグ性及び耐溶銑性を総合的に評価したものである。「◎」は、スラグ溶損指数が80未満、かつ溶銑溶損指数80未満である配合に付している。「○」は、スラグ溶損指数又は溶銑溶損指数のいずれか一方が80未満かつ他方が80以上90未満である配合に付している。「×」は、スラグ溶損指数90以上又は溶銑溶損指数90以上である配合に付している。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1、表2から理解できるように、実施例1〜17では、比較例1〜9に比べて耐スラグ性及び耐溶銑性がともに優れている。以下、表1及び表2に示す配合について簡単に説明する。
【0045】
表2における比較例1は従来のスラグライン材である。本実施例では、上述のように、比較例1をスラグ溶損指数及び溶銑溶損指数の基準としている。比較例1は、特許文献1が開示するスラグライン材を参考にした配合であり、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)中における炭化珪素原料の含有量が多くなっている。
【0046】
また、比較例2及び比較例3は、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)の配合割合を、それぞれ25重量%(30重量%未満)、65重量%(60重量%超)とした配合である。実施例1、実施例2及び実施例3は、比較例2及び比較例3の配合において、第1の耐火物原料の配合割合を30重量%〜60重量%の範囲内とした配合である。実施例1、実施例2及び実施例3では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例2及び比較例3では、施工水分量が増えて気孔率が増加する結果、耐スラグ性、耐溶銑性は向上していない。
【0047】
比較例4は、実施例1の配合において、0.3mm以上の粒度を有する耐火物原料(第2の耐火物原料)中における炭化珪素原料の配合割合を55重量%(60重量%未満)とした配合である。実施例5及び実施例10は、実施例1の配合において、第2の耐火物原料中における炭化珪素原料の配合割合を60重量%〜100重量%の範囲内とした配合である。また、実施例4は、実施例2の配合において第2の耐火物原料中における炭化珪素原料の配合割合を85重量%とした配合である。実施例4、実施例5及び実施例10では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例4では、炭化珪素原料の配合量が減少した結果、耐スラグ性が向上していない。
【0048】
比較例5は、実施例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)中における炭化珪素原料の配合割合を45重量%(40重量%超)とした配合である。実施例13は、実施例1の配合において、第1の耐火物原料中における炭化珪素原料の配合割合を30重量%とした配合である。実施例13では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例5では、炭化珪素原料の配合量が増加した結果、耐溶銑性向上の効果が小さくなっている。
【0049】
比較例6は、実施例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるカーボン原料の配合割合を5重量%未満とした配合である。実施例9、実施例15、実施例16は、実施例1の配合において、第1の耐火物原料中におけるカーボン原料の配合割合をそれぞれ、20重量%、6重量%、40重量%(5重量%〜50重量%の範囲内)とした配合である。また、実施例8は、実施例2の配合において、第1の耐火物原料中におけるカーボン原料の配合割合を20重量%とした配合である。実施例8、実施例9、実施例15、実施例16では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例6ではカーボン原料の配合量が減少した結果、耐スラグ性が低下している。
【0050】
また、比較例7は、実施例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるカーボン原料の配合割合を60重量%(50重量%超)とした配合である。比較例7では、施工水分量が増えて気孔率が増加する。そのため、カーボン原料の配合量が増加することによる耐スラグ性向上効果が得られるが、耐溶銑性が低下している。
【0051】
比較例8は、比較例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)における炭化珪素原料の配合割合を50重量%とした配合である。実施例17は、比較例8の配合において、第1の耐火物原料における炭化珪素原料の配合割合を35重量%(0重量%〜40重量%の範囲内)とし、アルミナ原料の配合割合を18重量%(10重量%〜95重量%の範囲内)とした配合である。実施例17では、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られているのに対し、比較例8では、カーボン原料の配合量増加に起因する耐スラグ性向上効果が得られているが、耐溶銑性の向上効果はあまり得られていない。
【0052】
比較例9は、比較例1の配合において、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるアルミナ原料の配合割合を5重量%とし、炭化珪素原料を45重量%とした配合である。カーボン原料の配合量増加に起因する耐スラグ性向上効果が得られているが、耐溶銑性が低下している。
【0053】
なお、実施例6、実施例7、実施例11、実施例14から理解できるように、0.3mm未満の粒度を有する耐火物原料(第1の耐火物原料)におけるアルミナ原料の配合割合を90重量%に増大させても、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られている。また、実施例12から理解できるように、実施例9の配合において、アルミナ原料を15重量%に増大させても、良好な耐スラグ性及び耐溶銑性が得られている。
(実施例2)
上述の比較例5及び実施例1を実炉に適用した。各不定形耐火物は、4000m級及び5000m級の高炉に付随している主樋全長約20mの上流側約8mの部分のスラグラインに流し込み施工を行った。実炉施工回数は比較例5が13回、実施例1が14回である。
【0054】
評価は、比較例5及び実施例1それぞれの耐火物において,初回残銑抜き点検時までの損傷量(mm)を初回残銑抜き点検までに通銑した溶銑量(t)で割った損耗速度(mm/t)を算出することで実施した。損耗速度は、実炉に施工した全耐火物についてそれぞれ算出した全損耗速度の平均とした。損耗速度が小さいほど高耐用な耐火物であると評価できる。初回残銑抜き点検までの通銑量は約3万tである。
【0055】
比較例5の損耗速度は4.4mm/ktであり、実施例1の損耗速度は3.4mm/ktであった。すなわち、耐スラグ性のみが優れる比較例5よりも、耐スラグ性、耐溶銑性がともに優れる実施例1の方が実炉において良好な結果が得られた。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、耐スラグ性、耐溶銑性に優れ、従来の耐火物と比較して高耐用の高炉樋用不定形耐火物を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、耐スラグ性、耐溶銑性に優れ、従来の耐火物と比較して高耐用の高炉樋用不定形耐火物を実現することができ、高炉樋用不定形耐火物として有用である。