【実施例】
【0094】
以下の実施例1、2、及び比較例1では、以下の評価用電気化学キャパシタセルを使用した。
【0095】
セル:テフロン(登録商標)製スクリュー型セル
電極:活性炭繊維布(ACF)〔ACC−5092−20(日本カイノール株式会社製〕直径10mm
集電板:白金板〔株式会社ニラコ社製〕直径11mm
セパレータ:ガラス製ろ紙〔GB−100R(東洋濾紙株式会社製)〕直径13mm
擬似参照極:白金線〔株式会社ニラコ社製〕。
【0096】
〔実施例1〕
非水系媒体として、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF
4:東洋合成工業株式会社製)を用いた。また、臭化物塩として、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(EMIBr:和光純薬工業株式会社製)を用いた。具体的には、5mlのメスフラスコを用いて、EMIBrを、1.0mol dm
−3の濃度になるようにEMIBF
4に溶解させて、非水系電解液である1.0mol dm
−3EMIBr/EMIBF
4を調製した。
【0097】
次に、電気化学キャパシタセルを作製した。具体的には、調製した1.0mol dm
−3EMIBr/EMIBF
4をサンプル管に注ぎ、該サンプル管に2枚のセパレータと2枚の電極(重量を測定済)とを入れた。その後、セパレータ及び電極の両者に非水系電解液を十分に含浸させるため、これらを減圧装置内にて、30分間、10
−1Paに保った。その後、テフロン(登録商標)製試験セルに、白金板|電極|セパレータ|参照極|セパレータ|電極|白金板となるように配置し、電気化学キャパシタセルを作製した。なお、上記白金板にはリードとして白金線が溶接されている。また、作製したセルは、密閉容器に入れられ、密閉することで空気中の水分を遮断し、かつ不活性雰囲気を維持した状態になっている。なお、全ての作業は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。
【0098】
〔実施例2〕
非水系媒体として、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF
4:東洋合成工業株式会社製)を用いた。また、ヨウ化物塩として、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(EMII:和光純薬工業株式会社製)を用いた。具体的には、5mlのメスフラスコを用いて、EMIIを、1.0mol dm
−3の濃度になるようにEMIBF
4に溶解させて、非水系電解液である1.0mol dm
−3EMII/EMIBF
4を調製した。
【0099】
次に、電気化学キャパシタセルを作製した。具体的には、調製した1.0moldm
−3EMII/EMIBF
4をサンプル管に注ぎ、該サンプル管に2枚のセパレータと2枚の電極(重量を測定済)とを入れた。その後、セパレータ及び電極の両者に非水系電解液を十分に含浸させるため、これらを減圧装置内にて30分間、10
−1Paに保った。その後、テフロン(登録商標)製試験セルに、白金板|電極|セパレータ|参照極|セパレータ|電極|白金板となるように配置し、電気化学キャパシタセルを作製した。なお、上記白金板にはリードとして白金線が溶接されている。また、作製したセルは、密閉容器に入れられ、密閉することで空気中の水分を遮断し、かつ不活性雰囲気を維持した状態になっている。なお、全ての作業は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。
【0100】
〔比較例1〕
比較例1では、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF
4:東洋合成工業株式会社製)を、非水系電解液として用いて、電気化学キャパシタセルを作製した。
【0101】
具体的には、EMIBF
4をサンプル管に注ぎ、該サンプル管に2枚のセパレータと2枚の電極(重量を測定済)とを入れた。その後、セパレータ及び電極の両者に非水系電解液を十分に含浸させるため、上記試験セルを減圧装置内にて、30分間、10
−1Paに保った。その後、テフロン(登録商標)製試験セルに、白金板|電極|セパレータ|参照極|セパレータ|電極|白金板となるように配置し、電気化学キャパシタセルを作製した。なお、上記白金板にはリードとして白金線が溶接されている。また、作製したセルは、密閉容器に入れられ、密閉することで空気中の水分を遮断し、かつ不活性雰囲気を維持した状態になっている。なお、全ての作業は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。
【0102】
実施例1,2及び比較例1それぞれで作製した電気化学キャパシタセルについて、キャパシタ性能を調べた。
【0103】
まず、実施例1,2及び比較例1の電気化学キャパシタセルについて、充放電カーブを測定した。具体的には、各電気化学キャパシタセルについて、作動電圧2Vで、100mA g
−1の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。
図2は、実施例1,2及び比較例1の電気化学キャパシタセルにおける充放電カーブの測定結果を示すグラフであり、
図2(a)はセル全体の電圧に基づく充放電カーブを示し、
図2(b)は正極、負極各々の電位に基づく充放電カーブを示す。
【0104】
図2(a)に示されるように、実施例1及び2の電気化学キャパシタセルは、典型的な電気化学キャパシタの充放電カーブを示した。加えて、両者とも比較例1の電気化学キャパシタセルと比較して、充放電時間が大幅に増加した。
【0105】
図2(b)に示されるように、非水系電解液がEMIBr/EMIBF
4である実施例1の電気化学キャパシタセルでは、正極電位について、充電における初期段階及び放電における末期段階で、電気二重層応答が見られた。すなわち、充電における初期段階で正極電位の上昇が見られ、放電における末期段階で正極電位の下降が見られた。また、充電における初期段階及び放電における末期段階以外の期間では、正極電位がほぼ一定(平坦)であり、レドックス応答が見られた。また、非水系電解液がEMII/EMIBF
4である実施例2の電気化学キャパシタセルでは、充電の初期段階から正極電位がほぼ一定(平坦)であり、レドックス応答が見られた。一方、非水系電解液がEMIBF
4のみである比較例1の電気化学キャパシタセルでは、充電及び放電過程において、正極電位がそれぞれ上昇及び下降する典型的な電気二重層応答が見られた。よって、
図2(a)及び(b)の結果から、レドックス反応種を含む非水系電解液を用いることで容量が大幅に増加することがわかった。
【0106】
次に、実施例1,2及び比較例1の電気化学キャパシタセルについて、放電容量を測定した。
図3に、放電容量の測定結果を示す。
図3に示されるように、実施例2の電気化学キャパシタセルは、実施例1の電気化学キャパシタセルよりも放電容量が増加していた。I
−のレドックス反応は、Br
−よりも低い反応電位で始まる。このため、非水系電解液がEMII/EMIBF
4である実施例2の電気化学キャパシタセルは、EMIBr/EMIBF
4である実施例1の電気化学キャパシタセルよりも、充電初期からハロゲンのレドックス反応を伴うため、結果、高い放電容量が得られたと考えられる。
【0107】
また、実施例2の電気化学キャパシタセルは、比較例1の電気化学キャパシタセルと比較すると、電流密度100mA g
−1において、放電容量が2.5倍高くなっていた。また、実施例1の電気化学キャパシタセルは、比較例1の電気化学キャパシタセルよりも同電流密度において、放電容量が2倍に増加していた。
【0108】
次に、実施例1の電気化学キャパシタセルについて、レドックス反応種(臭化物)の正極から電解液あるいは負極への拡散が抑制されるか否かを確認した。具体的には、実施例1及び比較例1の電気化学キャパシタセルについて、作動電圧2.0Vで15時間保持してリーク電流試験を実施し、両電気化学キャパシタセルでリーク電流の比較を行った。結果を
図4に示す。
【0109】
図4に示されるように、実施例1の電気化学キャパシタセルは、試験開始後の4時間まで、比較例1の電気化学キャパシタセルよりも応答電流(リーク電流)が大きくなっていた。これは、実施例1の電気化学キャパシタセルにおける未充電部分の影響であると考えられる。また、試験開始4時間後以降では、リーク電流は、実施例1及び比較例1の電気化学キャパシタセルでほぼ同じであった。
図4の結果から、実施例1の電気化学キャパシタセルでは、レドックス反応種の拡散が抑制されていることが確認された。
【0110】
次に、実施例1及び比較例1の電気化学キャパシタセルについて、0.5〜2.0Vの作動電圧範囲で、500mA g
−1の電流密度で1,000サイクル充放電し、各サイクルにおけるセル当たりの放電容量、およびクーロン効率の変化を調べた。
図5は、実施例1及び比較例1の電気化学キャパシタセルについて1,000サイクル充放電した場合の、セル当たりの放電容量、およびクーロン効率の変化を示すグラフである。また、
図5(a)はセル当たりの放電容量の変化を示し、
図5(b)はクーロン効率の変化を示す。なお、クーロン効率は、「(放電時間/充電時間)×100」で算出される効率である。
【0111】
図5(a)及び(b)に示されるように、実施例1の電気化学キャパシタセルは、1,000サイクルを経ても、放電容量の低下が見られず、クーロン効率もほぼ100%に維持されていた。このことから、実施例1の電気化学キャパシタセルは、安定なサイクル特性を示すことがわかる。
【0112】
〔実施例3〕
2枚の活性炭繊維布電極のうち、正極として利用するものを臭素水(1wt%;関東化学株式会社製)に浸漬させた。浸漬後、上記電極について、余分な臭素水を蒸留水で洗い流し、必要に応じて5〜10分程度の超音波洗浄を行った。そして、洗浄した2枚の電極を100℃にて1〜2日間減圧乾燥(10
−1Pa)し、臭素水で前処理した正極を得た。
【0113】
臭素水で前処理した正極を用いて、実施例1と同様の方法で電気化学キャパシタセルを作製した。なお、正極の前処理以外は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0114】
〔実施例4〕
実施例3と同様の方法で、臭素水で前処理した正極を得た。
【0115】
また、非水系媒体として、有機溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)を用いた。また、臭化物として、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(EMIBr:和光純薬工業株式会社製)を用いた。具体的には、5mlのメスフラスコを用いて、EMIBrを、1.0mol dm
−3の濃度になるようにPCに溶解させて、非水系電解液である1.0mol dm
−3EMIBr/PCを調製した。
【0116】
非水系電解液として1.0mol dm
−3EMIBr/PCを用いて、実施例3と同様の方法で電気化学キャパシタセルを作製した。
【0117】
実施例3及び4それぞれで作製した電気化学キャパシタセルについて、キャパシタ性能を調べた。
【0118】
まず、実施例3及び4の電気化学キャパシタセルについて、充放電カーブを測定した。具体的には、各電気化学キャパシタセルについて、5mA cm
−2の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。
図6は、実施例3及び4、実施例1、比較例1の電気化学キャパシタセルにおける充放電カーブの測定結果を示すグラフである。
図6(a)は実施例3及び実施例1、比較例1の電気化学キャパシタセルにおける正極、負極各々の電位に基づく充放電カーブを示し、
図6(b)は実施例4の電気化学キャパシタセルにおける正極、負極各々の電位に基づく充放電カーブを示す。
【0119】
図6(a)に示されるように、非水系電解液がEMIBr/EMIBF
4であり、かつ電極が臭素水で前処理された実施例3の電気化学キャパシタセルでは、正極電位の停滞が観側された。すなわち、正極電位がほぼ一定(平坦)であり、レドックス応答が見られた。加えて、正極の前処理を行っていない系(実施例1)と比較すると、正極電位の停滞範囲が広く、安定している。一方、実施例3の電気化学キャパシタは、比較例1の電気化学キャパシタと比較して、高容量である(充放電にかかる時間が長い)ことが明らかとなった。このことから、電極が臭素水で前処理された電極は、高容量化、正極電位の安定化という観点で、効果が非常に高いといえる。
【0120】
また、
図6(b)に示されるように、非水系電解液がEMIBr/PCであり、かつ電極が臭素水で前処理された実施例4の電気化学キャパシタセルにおいても、実施例3と同様に、正極電位の停滞が観側された。つまり、非水系媒体はイオン液体及び有機溶媒にかかわらず、両者の非水系電解液に対して、正極の臭素水による前処理は正極電位の停滞に効果的である。
【0121】
以下の実施例5及び比較例2、3では、以下の実験器具を使用した。
【0122】
セル:テフロン(登録商標)製スクリュー型セル
電極:活性炭繊維布(ACF)〔ACC−5092−20(日本カイノール株式会社製〕直径10mm
集電板:白金板〔株式会社ニラコ社製〕直径11mm
セパレータ:ガラス製ろ紙〔GB−100R(東洋濾紙株式会社製)〕直径13mm
参照極:Ag/AgCl参照極〔北斗電工株式会社製〕。
【0123】
〔実施例5〕
ヨウ素を、1wt%の濃度になるように3.5mol dm
−3ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液に溶解させて、ヨウ素水を調製した。
【0124】
作製したヨウ素水をサンプル管に入れ、正極に用いるACFを入れた。また、別のサンプル管に3.5mol dm
−3NaI水溶液(電解液)を入れ、負極に用いるACF及びセパレータを入れた。正極、負極、及びセパレータに電解液を十分に含浸させるために、これらをバキュームオーブン中に入れ、30分間、減圧20kPaに保った。その後、テフロン(登録商標)製試験セルに白金板と白金線とスペーサーとをつなげ,上記正極及び上記負極を向かい合わせに並べ、その間にセパレータを挟み込むことで電気化学キャパシタセルを作製した。
【0125】
次に、組み立てた電気化学キャパシタセルを50mlビーカーに入れ、そこに電解液を加えて、電気化学キャパシタセルを電解液に浸した。それを、もう一度20kPaの下で30分間減圧含浸を行った。その後、電気化学特性を評価した。
【0126】
〔比較例2〕
電解液である3.5mol dm
−3 臭化ナトリウム(NaBr)水溶液をサンプル管に入れ、その中に2枚の電極と1枚のセパレータとを入れた。その後、電極及びセパレータに電解液を十分に含浸させるため、それらをバキュームオーブン中に入れ,30分間、減圧20kPaに保った。その後、白金集電板を含むテフロン(登録商標)製試験セルに上記2枚の電極とセパレータとを挟み込むことで電気化学キャパシタセルを作製した。そして、組み立てた電気化学キャパシタセルを50mlビーカーに入れ、そこに電解液を加え、電気化学キャパシタセルを電解液に浸した。それを、もう一度20kPaの下で30分間減圧含浸を行った。その後、電気化学特性を評価した。
【0127】
〔比較例3〕
電解液である1.75mol dm
−3硫酸水溶液をサンプル管に入れ、その中に2枚の電極と1枚のセパレータとを入れた。その後、電極及びセパレータに電解液を十分に含浸させるため、それらをバキュームオーブン中に入れ,30分間、減圧20kPaに保った。その後、白金集電板を含むテフロン(登録商標)製試験セルに上記2枚の電極とセパレータとを挟み込むことで電気化学キャパシタセルを作製した。そして、組み立てた電気化学キャパシタセルを50mlビーカーに入れ、そこに電解液を加え、電気化学キャパシタセルを電解液に浸した。それを、もう一度20kPaの下で30分間減圧含浸を行った。その後、電気化学特性を評価した。
【0128】
実施例5及び比較例2,3のそれぞれで作製した電気化学キャパシタセルについて、キャパシタ性能を調べた。
【0129】
まず、実施例5及び比較例2の電気化学キャパシタセルについて、充放電カーブを測定した。具体的には、実施例5の電気化学キャパシタセルについて、0.5〜1.0Vの作動電圧範囲で、100mA g
−1の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。また、比較例3の電気化学キャパシタセルについては、0〜1.0Vの作動電圧範囲で、100mA g
−1の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。
図7は、実施例5及び比較例2の電気化学キャパシタセルにおける充放電カーブの測定結果を示すグラフであり、正極、負極各々の電位に基づく充放電カーブを示す。なお、
図7において、実線は実施例5の電気化学キャパシタセルを示し、点線は比較例2の電気化学キャパシタセルを示す。
【0130】
図7に示されるように、電極がヨウ素水で前処理された実施例5の電気化学キャパシタセルでは、正極電位の停滞が観側された。すなわち、ヨウ素化物のレドックス応答により、正極電位がほぼ一定(平坦)であった。一方、比較例2の電気化学キャパシタセルでは、正極において、時間とともに正極電位が変化する典型的な電気二重層応答が見られた。加えて、実施例5の電気化学キャパシタの充電前正極電位は、比較例2の充電前正極電位よりも高電位であった。よって、実施例5の電気化学キャパシタは、セル電圧変位が小さいにもかかわらず比較例2の電気化学キャパシタと同程度の充放電時間を示すことから、高容量であることが明らかとなった。
【0131】
これらの結果から、電解液が水系・非水系に関わらず、ハロゲンを含む水溶液で電極を浸漬する前処理を行い、ハロゲン化物を含む電解液を使用することで、キャパシタの高容量化、正極電位の維持を実現できることがわかった。
【0132】
次に、実施例5及び比較例3の電気化学キャパシタセルについて、充電電流密度100mA g
−1にて1.0Vまで充電後、100〜10,000mA g
−1の各放電電流密度にて放電した際の放電容量を測定した。
図8に、放電容量の測定結果を示す。
図8の結果から、全ての電流密度において、実施例5(loaded I
2)の電気化学キャパシタセルは、一般的な水系電解液である硫酸(H
2SO
4)を用いた比較例3(aqueous H
2SO
4 solution)よりも放電容量が高くなっていることがわかった。
【0133】
次に、実施例5及び比較例3の電気化学キャパシタセルについて、5,000mA g
−1の電流密度で100,000サイクル充放電し、セル当たりの放電容量を調べた。
図9は、実施例5(loaded I
2)及び比較例3(aqueous H
2SO
4solution)の電気化学キャパシタセルについて100,000サイクル充放電した場合の、セル当たりの放電容量を示すグラフである。
【0134】
図9に示されるように、実施例5の電気化学キャパシタセルは、100,000サイクルを経ても、放電容量の低下が見られなかった。このことから、実施例5の電気化学キャパシタセルは、安定なサイクル特性を示すことがわかった。加えて、100,000サイクルの間、比較例3の電気化学キャパシタが示す放電容量をはるかに上まわっており、ハロゲンを含む水溶液で前処理し、ハロゲン化物を含む電解液を用いる電気化学キャパシタの優位性が明白である。
【0135】
以下の実施例6では、実施例1と同じ評価用電気化学キャパシタセルを使用した。
【0136】
〔実施例6〕
非水系媒体として、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF
4:東洋合成工業株式会社製)を用いた。また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウム(LiBr:キシダ化学株式会社製))を用いた。具体的には、5mlのメスフラスコを用いて、LiBrを、1.0mol dm
−3(1.0M)の濃度になるようにEMIBF
4に溶解させて、非水系電解液であるLiBr/EMIBF
4を調製した。次に、実施例1と同様に電気化学キャパシタセルを作製した。
【0137】
以下の実施例7および比較例4では、以下の評価用電気化学キャパシタセルを使用した。
【0138】
セル:テフロン(登録商標)製スクリュー型セル
正極:活性炭繊維布(ACF)〔ACC−5092−20(日本カイノール株式会社製)直径12mm
負極:ハードカーボン 直径12mm
導電助剤:アセチレンブラック(AB)
結着剤 :アセチレンブタジエンゴム(40重量%)(SBR)
増粘剤 :カルボキシメチルセルロース(2重量%)(CMC)
組成比 :ハードカーボン:AB:SBR:CMC=93:3:2:2
集電板:白金板〔株式会社ニラコ社製〕直径11mm
セパレータ:ガラス製ろ紙〔GB−100R(東洋濾紙株式会社製)〕直径13mm
擬似参照極:白金線〔株式会社ニラコ社製〕。
【0139】
〔実施例7〕
非水系媒体として、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を1:1の体積比にて用いた。また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウム(LiBr:キシダ化学株式会社製)を用いた。具体的には、5mlのメスフラスコを用いて、LiBrを、1.0mol dm
−3の濃度になるようにEC/DMCの混合溶媒に溶解させて、非水系電解液であるLiBr/EC/DMCを調製した。
【0140】
次に、電気化学キャパシタセルを作製した。具体的には、調製した1.0mol LiBr/EC/DMCをサンプル管に注ぎ、該サンプル管に2枚のセパレータ、正極および負極(重量を測定済)を入れた。その後、セパレータ、正極および負極に非水系電解液を十分に含浸させるため、これらを減圧装置内にて、30分間、10
−1Paに保った。その後、テフロン(登録商標)製試験セルに、白金板|正極|セパレータ|参照極|セパレータ|負極|白金板となるように配置し、電気化学キャパシタセルを作製した。なお、上記白金板にはリードとして白金線が溶接されている。また、作製したセルは、密閉容器に入れられ、密閉することで空気中の水分を遮断し、かつ不活性雰囲気を維持した状態になっている。なお、全ての作業は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。
【0141】
〔比較例4〕
非水系媒体として、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を1:1の体積比にて用いた。また、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6:キシダ化学株式会社製)を用いた。具体的には、5mlのメスフラスコを用いて、LiPF
6を、1.0mol dm
−3の濃度になるようにEC/DMCの混合溶媒に溶解させて、非水系電解液であるLiPF
6/EC/DMCを調製した。次に、実施例7と同様にして電気化学キャパシタセルを作製した。
【0142】
〔実施例8〕
LiBrに代えてヨウ化リチウム(LiI:キシダ化学株式会社製)を用いた以外は実施例6と同様にして、電気化学キャパシタセルを作製した。
【0143】
〔比較例5〕
LiBrに代えてLiPF
6を用いた以外は、実施例6と同様にして、電気化学キャパシタセルを作製した。
【0144】
実施例6、7、比較例4、実施例8および比較例5の電気化学キャパシタセルについてキャパシタ性能を調べた。
【0145】
まず、比較のために実施例1に係る、リチウム塩が使用されていない電気化学キャパシタセルについて、2V、2.3V、2.4Vの3種類の作動電圧にて100mA g
−1の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。
図11(a)は、実施例1の電気化学キャパシタセルにおける充放電カーブの測定結果を示すグラフである。
【0146】
一方、実施例6に係る、ハロゲン化リチウムが使用された電気化学キャパシタセルについて、2.0V、2.5V、2.6V、2.7V、3.0Vの5種類の作動電圧にて100mA g
−1の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。
図11(b)は、実施例6の電気化学キャパシタセルにおける充放電カーブの測定結果を示すグラフである。同図に示すように、ハロゲン化リチウムを添加した系では、正極電位の増大が観測され、電気化学キャパシタセルの作動電圧が拡大されている。
【0147】
さらに、実施例1および実施例6に係る電気化学キャパシタセルについて、2.0V〜3.0Vの作動電圧、500mA g
−1の電流密度にて1000サイクル充放電したときのクーロン効率を測定した。
図12(a)は、実施例1に係る電気化学キャパシタセルの測定結果を示すグラフであり、
図12(b)は、実施例6に係る電気化学キャパシタセルの測定結果を示すグラフである。
【0148】
図12(a)に示すように、実施例1に係る電気化学キャパシタセルでは、作動電圧が2.3Vの測定条件でクーロン効率が90%程度となっており、作動電圧が2.4Vの測定条件でクーロン効率が84%程度となり、さらに作動電圧を上げるにつれてクーロン効率が低下した。すなわち、2.4V付近で負極からハロゲン化物イオンが拡散しているものと推察される。
【0149】
これに対して、
図12(b)に示すように、実施例6に係る電気化学キャパシタセルでは、作動電圧が2.0V〜2.5Vではクーロン効率が95%以上と高い値が示されており、作動電圧が2.8Vでクーロン効率が90%程度となっている。すなわち、非水系電解液にハロゲン化リチウムを添加することにより、2.8Vの高い作動電圧であっても、負極からハロゲン化物イオンが拡散せず(離れず)、クーロン効率が高い電気化学キャパシタセルの作製に成功していることがわかる。
【0150】
次に、負極としてハードカーボンを用いた実施例7および比較例4に係る電気化学セルについて、1.6〜3.6Vの電圧範囲、500mA g
−1の電流密度にて測定したセル全体の電圧を示す。
図13は、実施例7及び比較例4の電気化学キャパシタセルにおける充放電カーブの測定結果を示すグラフであり、
図13(a)はセル全体の電圧に基づく充放電カーブを示し、
図13(b)は正極、負極各々の電位に基づく充放電カーブを示す。
【0151】
図13(a)に示されるように、実施例7に係るLiBrを用いた電気化学キャパシタセルは最大約3.5Vのセル電圧を示した。ハロゲンを含まないLiPF
6を用いた比較例4の結果と実施例7の結果とを比較すると、実施例7では、充放電時間が約4倍となっており、ハロゲン化リチウムを使用した電気化学キャパシタセルは、セル電圧および充放電時間の両方に優れることが分かる。
【0152】
また、
図13(b)に示されるように、非水系電解質がLiBr/EC/DMCである実施例7の電気化学キャパシタセルでは、正極電位について、充電における初期段階及び放電における末期段階で、電気二重層応答が見られた。すなわち、充電における初期段階で正極電位の上昇が見られ、放電における末期段階で正極電位の下降が見られた。また、充電における初期段階及び放電における末期段階以外の期間では、正極電位がほぼ一定(平坦)であり、レドックス応答が見られた。また、非水系電解液がEMII/EMIBF
4である実施例2の電気化学キャパシタセルでは、充電の初期段階から正極電位がほぼ一定(平坦)であり、レドックス応答が見られた。
【0153】
一方、非水系電解液がLiBr/EC/DMCである比較例4の電気化学キャパシタセルでは、充電及び放電過程において、正極電位がそれぞれ上昇及び下降する典型的な電気二重層応答が見られた。よって、
図13(a)及び(b)の結果から、LiBrのレドックス反応種を含む非水系電解液を用いることで容量が大幅に増加することが分かった。
【0154】
実施例7における作動電圧は3.6Vであり、本発明に係る非リチウム系の非水系電解質を使用した場合の作動電圧(2V)よりも優れた結果が得られており、作動電圧の拡大に成功したことが明確に示されている。
【0155】
図14は、実施例7及び比較例4の電気化学キャパシタセルについて、1000mA g
−1の電流密度で1,000サイクル充放電した場合の、セル当たりの放電容量、およびクーロン効率の変化を示すグラフである。
図14(a)はセル当たりの放電容量の変化を示し、
図14(b)はクーロン効率の変化を示す。
【0156】
図14(a)に示されるように、実施例7の電気化学キャパシタセルでは、1000サイクルまで約25mA h g
−1の放電容量を示したが、比較例4の電気化学キャパシタセルでは、600サイクルで約0mA h g
−1の放電容量となり、本発明の優位性が示されている。また、
図14(b)に示されるように、実施例7の電気化学キャパシタセルでは、1000サイクルまでのクーロン効率がほぼ100%であり、セル当たりの放電容量に加えて、クーロン効率についても優れたサイクル特性が示されている。
【0157】
実施例8および比較例5にて作製した電気化学キャパシタセルについて、充放電カーブを測定した。また、比較のため、実施例6の電気化学キャパシタセルについても充放電カーブを測定した。具体的には、電気化学キャパシタセルについて、作動電圧0.5〜2V(セル電圧)で、100mA g
−1の電流密度で充放電を行ったときの充放電カーブを測定した。
図15は、実施例6、8及び比較例5の電気化学キャパシタセルにおける正極、負極各々の電位に基づく充放電カーブを示すグラフである。
【0158】
図15に示すように、ハロゲン化リチウムとしてヨウ化リチウムを使用した実施例8では、充電の初期段階から正極電位がほぼ一定(平坦)であり、レドックス応答が見られた。一方、負極電位については、LiBrの実施例6と同様に、負極電位の変化が直線的であり、電気二重層応答が観測された。このように、ハロゲン化リチウムとしてLiIを使用した場合であっても、本発明に係るハロゲン化物がハロゲン化リチウムである電気化学キャパシタセルを作製できることが示されている。
【0159】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。