特許第5930294号(P5930294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

特許5930294収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法
<>
  • 特許5930294-収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法 図000004
  • 特許5930294-収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法 図000005
  • 特許5930294-収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法 図000006
  • 特許5930294-収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930294
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   G01N33/38
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-102161(P2012-102161)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-231598(P2013-231598A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】三谷 裕二
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】谷村 充
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一平
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−290902(JP,A)
【文献】 特開2009−007202(JP,A)
【文献】 特開2009−263164(JP,A)
【文献】 特開2011−001251(JP,A)
【文献】 太平洋セメント研究報告,2013年,No.164,Page.14-22
【文献】 コンクリート工学年次論文集,2012年 6月15日,Vol.34 No.1,Page.430-435 ROMBUNNO.1064
【文献】 日本建築学会学術講演梗概集A−1 材料施行,2004年,Vol.2004,Page.31-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)および(B)の過程を含む、収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法。
(A)無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値と、拘束された同一配合の普通コンクリートのひび割れ特性値から回帰直線を求める、回帰分析過程
(B)前記回帰直線上の点であって低収縮コンクリートのひび割れ特性値を示す点が指す乾燥収縮ひずみ値(ε)と、普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値(ε)との差(ε−ε)を指標に用いて、ひび割れ低減効果を乾燥収縮ひずみ値により定量的に表して評価する、ひび割れ低減効果の評価過程。
【請求項2】
前記ひび割れ特性値がひび割れ係数、またはひび割れ本数である、請求項1に記載の収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の定量的評価方法を用いて、収縮低減材料の種類および/または配合量を選定する、収縮低減材料の選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの収縮ひび割れに対する収縮低減材料の低減効果を、定量的に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは引張強度が低いため、コンクリートの収縮によりひび割れ(収縮ひび割れ)が発生する場合がある。この収縮ひび割れは、コンクリート構造物の美観を損なうほか、コンクリートの水密性・気密性の低下、鉄筋の腐食等の、構造物の耐久性低下の原因になる。したがって、コンクリートの耐久性を確保するには、この収縮ひび割れを制御する必要がある。
【0003】
従来、収縮ひび割れの制御に、膨張材や収縮低減剤等の収縮低減材料が用いられてきた。膨張材は主に石灰系とエトリンガイト系があり、水和によりそれぞれ水酸化カルシウムやエトリンガイトの結晶が生成して、コンクリート中の空隙を埋めるとともに膨張して収縮を制御(補償)するものである。また、収縮低減剤は主にグリコールエーテル系とポリカルボン酸エーテル系があり、コンクリート中の水の表面張力を低下させて乾燥収縮の主因である毛細管張力を緩和して収縮を制御するものである。これらの材料は、前記のように作用機構が異なるため、ひび割れ制御の目的や程度に応じて選定し、単独使用または併用されている。
【0004】
そして、ひび割れ制御において収縮低減材料の適切な選定や使用を担保するために、該材料のひび割れ低減効果を評価できる手段が望まれている。
例えば、非特許文献1では、付着解析によって鉄筋比、鉄筋径、コンクリート強度、壁長さ、拘束率、乾燥収縮量、およびクリープ係数等のパラメータと、ひび割れ幅、ひび割れ本数、およびひび割れ間隔との関係を調べ、ひび割れ幅等を算定する式が提案されている。しかし、該文献の方法はひび割れ幅等を直接数値で示すことができるが、収縮低減材料のひび割れ低減効果を評価するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】徐泰錫ほか「鉄筋コンクリート壁の収縮ひび割れの幅と間隔」、コンクリート工学年次論文集、Vol.28、No.1、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、収縮低減材料のひび割れ低減効果を、ひび割れ係数やひび割れ本数に基づき、定量的に評価するための簡易な方法を提供することを目的とする。ここで、ひび割れ係数とは、(ひび割れ幅の合計)/(ひび割れの観測区間の距離)をいう。
また、以下、ひび割れ本数およびひび割れ係数を合わせて「ひび割れ特性値」といい、収縮低減材料を含まないコンクリートと含むコンクリートを、それぞれ「普通コンクリート」および「低収縮コンクリート」という。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的にかなう評価方法を検討したところ、特定の処理過程を経て得られる乾燥収縮ひずみ値の差(後掲の図4に一例として示すεとεの差)は、収縮低減材料のひび割れ低減効果の定量的指標になることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供する。
[1]以下の(A)および(B)の過程を含む、収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法。
(A)無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値と、拘束された同一配合の普通コンクリートのひび割れ特性値から回帰直線を求める、回帰分析過程
(B)前記回帰直線上の点であって低収縮コンクリートのひび割れ特性値を示す点が指す乾燥収縮ひずみ値(ε)と、普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値(ε)との差(ε−ε)を指標に用いて、ひび割れ低減効果を乾燥収縮ひずみ値により定量的に表して評価する、ひび割れ低減効果の評価過程
[2]前記ひび割れ特性値がひび割れ係数、またはひび割れ本数である、前記[1]に記載の収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の定量的評価方法を用いて、収縮低減材料の種類および/または配合量を選定する、収縮低減材料の選定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の評価方法によれば、コンクリートの収縮ひび割れに対する収縮低減材料の低減効果を簡易かつ定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】拘束ひび割れ試験体の概略図である。
図2】無拘束試験体の乾燥収縮ひずみの経時変化を示す図である。
図3】拘束ひび割れ試験体のひび割れ状況を示す図である。
図4】(a)は乾燥材齢182日における無拘束試験体の乾燥収縮ひずみ値と、拘束ひび割れ試験体のひび割れ係数との関係を示す図であり、(b)は乾燥材齢182日における無拘束試験体の乾燥収縮ひずみ値と、拘束ひび割れ試験体のひび割れ本数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のとおり、(A)回帰分析過程と(B)ひび割れ低減効果の評価過程を含む、収縮低減材料によるひび割れ低減効果の定量的評価方法、および収縮低減材料の選定方法である。
以下、本発明について各過程等に分け詳細に説明する。
【0012】
1.回帰分析過程
該過程は、無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値と、拘束された同一配合の普通コンクリートのひび割れ特性値から回帰直線を求めるものである。
ここで、無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値の測定は、例えば、JIS A 1129に準じて行うことができる。また、前記拘束された普通コンクリートは、例えば、図1に示す拘束ひび割れ試験体等が挙げられる。
ひび割れ幅は、例えば、図1に示す拘束ひび割れ試験体の打設面と底面の中央部と、両側面から約1.5mm内側の3点(合計で6点)をクラックスケールで測定してその平均値で示すことができる。
【0013】
また、前記回帰分析は、例えば、無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値を説明変数に、拘束された同一配合の普通コンクリートのひび割れ特性値を目的変数にして、最小二乗法を用いて行うことができる。もっとも、これとは反対に、無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値を目的変数に、拘束された同一配合の普通コンクリートのひび割れ特性値を説明変数にしてもよい。
【0014】
2.ひび割れ低減効果の評価過程
該過程は、前記回帰直線上の点であって低収縮コンクリートのひび割れ特性値を示す点が指す乾燥収縮ひずみ値(ε)と、普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値(ε)との差(ε−ε)を指標に用いて、ひび割れ低減効果を乾燥収縮ひずみ値により定量的に表して評価するものである。
また、前記評価過程において、図4(a)に示すように、前記の無拘束の普通コンクリートの乾燥収縮ひずみ値と、拘束された同一配合の普通コンクリートのひび割れ係数から求めた回帰直線(上の直線)と、無拘束の低収縮コンクリートの乾燥収縮ひずみ値と、拘束された同一配合の低収縮コンクリートのひび割れ係数から求めた回帰直線(下の直線)の傾きがほぼ同じで、切片が異なる場合は、前記無拘束の普通コンクリートと前記無拘束の低収縮コンクリートの乾燥収縮ひずみ値の差を、膨張材による乾燥収縮ひずみの低減効果とし、また、前記2つの回帰直線の乾燥収縮ひずみ軸における切片の差(乾燥収縮ひずみ値の差)を、膨張材の初期の膨張ひずみによる効果とみなし、膨張材のひび割れ低減効果を膨張材の異なる作用ごとに分離して評価することもできる。
以上述べたように、本発明の評価方法の特徴は、ひび割れ係数(ひび割れ幅)やひび割れ本数という、ひび割れ制御の直接的な対象に関連させて、収縮低減材料のひび割れ低減効果を乾燥収縮ひずみ値により定量的に表して評価する点にある。
【0015】
4.収縮低減材料の選定方法
該方法は、前記定量的評価方法を用いて、収縮低減材料の種類および/または配合量を選定するものである。
現在、有効成分や作用機構が異なる収縮低減材料が多く市販されているため、それらの中からコンクリートのひび割れ制御の目的や程度に応じて、好適な収縮低減材料やその配合量等を選定することは前記JISの試験方法では困難であったが、本発明の評価方法を用いれば、収縮低減材料等を簡易に選定することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.コンクリート試験体の作製
表1に示す材料を用いて、表2に示す配合のコンクリートを、20℃、相対湿度80%の室内で混練して、普通コンクリートPL1〜3と低収縮コンクリートEX1および2の拘束ひび割れ試験体(図1に示す。JIS A 1151を参考にした。)を、各コンクリートにつき2体ずつ合計10体作製した。また、前記コンクリートの無拘束試験体(100×100×400mmの試験体の中心部に埋込型ひずみ計を設置)を作製した。
なお、各コンクリートのスランプは18±2.5cm、空気量は4.5±1.5%になるように調整した。また、コンクリートの養生条件は、コンクリートの仕上げ面をポリエステルフィルムで被覆し、その上を湿布で覆った状態にして20℃で材齢7日まで湿潤養生した後、20℃、相対湿度60%で気中養生した。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
2.乾燥収縮ひずみ、ひび割れ幅、ひび割れ本数の測定等
前記拘束ひび割れ試験体は、図1に示すとおり、ひび割れの観測区間をJIS A 1151に規定する試験体の300mmから1000mmに延長するとともに、コンクリート内部に、鉄筋比が0.5%となるように異形鉄筋D10を埋設したものである。また、該試験体はひび割れの性状を把握し易くするために拘束鋼材の断面積を大きくして、JIS A 1151に規定する拘束鋼材比を約8%から38.5%に変更して拘束度を高めたものである。そして、前記埋込型ひずみ計により前記無拘束試験体の乾燥収縮ひずみの経時変化を測定するとともに、乾燥材齢182日の拘束ひび割れ試験体のひび割れ幅とひび割れ本数を測定し、該ひび割れ幅からひび割れ係数(ひび割れ幅の合計(mm)/1000(mm))を算出した。なお、ひび割れ幅は、打設面と底面の中央部と、両側面から約1.5mm内側の3点(合計で6点)をクラックスケールで測定し、その平均値で示した。
無拘束試験体の乾燥収縮ひずみの経時変化を図2に示し、拘束ひび割れ試験体のひび割れ状況を図3に示し、乾燥材齢182日における無拘束試験体の乾燥収縮ひずみ値と拘束ひび割れ試験体のひび割れ特性値との関係を図4に示す。
図4から分かるように、本発明の評価方法によれば、コンクリートの収縮ひび割れに対する収縮低減材料の低減効果を簡易かつ定量的に評価することができる。
図1
図2
図3
図4