特許第5930308号(P5930308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5930308移動局が中継局を介して接続されているか否かを判別する通信設備装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930308
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】移動局が中継局を介して接続されているか否かを判別する通信設備装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/26 20090101AFI20160526BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20160526BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20160526BHJP
【FI】
   H04W16/26
   H04W24/08
   H04W64/00 140
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-235105(P2012-235105)
(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-86921(P2014-86921A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 直
(72)【発明者】
【氏名】泉川 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】松中 隆志
【審査官】 望月 章俊
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−520171(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/080105(WO,A2)
【文献】 特開2005−341587(JP,A)
【文献】 特開2010−226741(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/134202(WO,A1)
【文献】 特表2007−537613(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/031034(WO,A1)
【文献】 Ericsson et al.,Relay and user location and propagation in thruwall scenarios,TSG-RAN Working Group4 (Radio) meeting #46bis R4-103969,3GPP,2010年10月11日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W4/00−H04W99/00
H04B7/24−H04B7/26
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−2
CT WG1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と、該基地局配下に設置された中継局と、前記基地局及び前記中継局と通信可能な複数の移動局とを有する無線通信システムについて、当該移動局が、前記基地局又は前記中継局のいずれの近くに位置しているかを判定する通信設備装置であって、
前記基地局又は中継局から、各移動局について異なる2つの時点における当該基地局又は中継局と当該移動局との間の遅延時間を取得する遅延時間取得手段と、
各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する遅延時間差算出手段と、
複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する移動局分類手段と、
各グループについて、当該移動局における前記遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する平均遅延時間差算出手段と、
前記平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していると判定する通信局判定手段と
を有することを特徴とする通信設備装置。
【請求項2】
前記遅延時間取得手段は、各移動局について、
前記基地局又は前記中継局との間で通信リンクの確立後の時点における第1の遅延時間と、
前記基地局又は前記中継局との間で通信リンクの切断前の時点における第2の遅延時間と
を取得することを特徴とする請求項1に記載の通信設備装置。
【請求項3】
前記通信局判定手段によって判定された、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局における第2の遅延時間の平均値を、判別遅延時間として記憶する判別遅延時間記憶手段を更に有し、
前記通信局判定手段は、前記遅延時間取得手段によって前記基地局から取得した当該移動局の第2の遅延時間が、前記判別値遅延時間よりも大きい場合、当該移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していたものと判定することを特徴とする請求項2に記載の通信設備装置。
【請求項4】
前記移動局分類手段における前記単位時間幅は、第2の遅延時間が短い方から順に所定の単位時間幅毎に区分したものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の通信設備装置。
【請求項5】
前記通信局判定手段は、
各グループiについて、前記平均遅延時間差を、当該グループの単位時間幅の累積値で除算した第1の特徴量βiを算出する第1の特徴量算出手段と、
各グループiの第1の特徴量βiについて、当該グループiの累積値よりも所定値Iだけ大きいグループの特徴量βi+Iから当該特徴量βiを減算した、加重平均の第2の特徴量γを算出する第2の特徴量算出手段と
を有し、
前記通信局判定手段は、第2の特徴量γが小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、当該第2の特徴量γが小さい方のグループに属する移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していると判定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の通信設備装置。
【請求項6】
基地局と、該基地局配下に設置された中継局と、前記基地局及び前記中継局と通信可能な複数の移動局とを有する無線通信システムについて、当該移動局が、前記基地局又は前記中継局のいずれの近くに位置しているかを判定する通信設備装置における通信局判定方法であって、
前記基地局又は中継局から、各移動局について異なる2つの時点における当該基地局又は中継局と当該移動局との間の遅延時間を取得する第1のステップと、
各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する第2のステップと、
複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する第3のステップと、
各グループについて、当該移動局における前記遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する第4のステップと、
前記平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していると判定する第5のステップと
を有することを特徴とする通信局判定方法。
【請求項7】
第1のステップは、各移動局について、
前記基地局又は前記中継局との間で通信リンクの確立後の時点における第1の遅延時間と、
前記基地局又は前記中継局との間で通信リンクの切断前の時点における第2の遅延時間と
を取得することを特徴とする請求項6に記載の通信局判定方法。
【請求項8】
第5のステップは、
遅延時間が大きい方のグループに属する移動局における第2の遅延時間の平均値を、判別遅延時間として記憶し、
第1のステップによって前記基地局から取得した当該移動局の第2の遅延時間が、前記判別値遅延時間よりも大きい場合、当該移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していたものと判定することを特徴とする請求項7に記載の通信局判定方法。
【請求項9】
第3のステップにおける前記単位時間幅は、第2の遅延時間が短い方から順に所定の単位時間幅毎に区分したものであることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の通信局判定方法。
【請求項10】
第5のステップは、
各グループiについて、前記平均遅延時間差を、当該グループの単位時間幅の累積値で除算した第1の特徴量βiを算出し、
各グループiの第1の特徴量βiについて、当該グループiの累積値よりも所定値Iだけ大きいグループの特徴量βi+Iから当該特徴量βiを減算した、加重平均の第2の特徴量γを算出し、
第2の特徴量γが小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、当該第2の特徴量γが小さい方のグループに属する移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していると判定する
ことを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の通信局判定方法。
【請求項11】
基地局と、該基地局配下に設置された中継局と、前記基地局及び前記中継局と通信可能な複数の移動局とを有する無線通信システムについて、当該移動局が、前記基地局又は前記中継局のいずれの近くに位置しているかを判定する通信設備装置に搭載されたコンピュータを機能させる通信局判定プログラムであって、
前記基地局又は中継局から、各移動局について異なる2つの時点における当該基地局又は中継局と当該移動局との間の遅延時間を取得する遅延時間取得手段と、
各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する遅延時間差算出手段と、
複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する移動局分類手段と、
各グループについて、当該移動局における前記遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する平均遅延時間差算出手段と、
前記平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、前記中継局と無線リンクを確立していると判定する通信局判定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする通信局判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局の配下に中継局が配置されている無線通信システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動局における現在位置の測位のために、GPS(Global Positioning System)のような測位機能を用いることなく、基地局から到来する電波のみを用いて測位する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、少なくとも3つの基地局からの到来電波を用いて移動局の現在位置を測位する。最初に、各基地局周辺の電波伝搬状況を予め測定し、所定の誤差補正係数を算出する。次に、誤差補正係数と各基地局の位置情報とを用いて、到来電波の中から直接波となる電波を少なくとも1つ以上推定する。次に、基地局が電波を送信した時間と、基地局から送信された電波を移動局が受信するまでの時間との時間差を算出する。そして、その時間差を用いて、移動局の現在位置を測位する。
【0003】
また、電波の到達範囲を拡大するべく基地局配下に中継局を配置した無線通信システムについて、中継局と通信する移動局であっても、その位置を推定することができる技術がある(例えば特許文献2参照)。この技術によれば、基地局及び中継局の位置が、予め認識(設定)されていることを要する。その上で、以下の3つの距離を用いる。
基地局から中継局までの距離BRD
移動局と中継局との間の遅延時間から算出した、移動局から中継局までの距離RMD
基地局と、セルセクタの中心位置との間の距離R
そして、以下のように条件に応じて判定する。
(条件1)基地局から中継局の方向へBRD+RMD離れた位置がセルセクタを中心とした半径Rの円外にある場合、移動局の位置は、セルセクタの中心とする。
(条件2)基地局から中継局の方向へBRD+RMD離れた位置がセルセクタを中心とした半径Rの円内にあるならば、移動局の位置は、基地局から中継局の方向へBRD+RMD離れた位置とする。
【0004】
更に、移動局の位置が、基地局の通信範囲内か、又は、中継局の通信範囲内かを判定する技術がある(例えば特許文献3参照)。この技術によれば、予め作成した伝搬遅延値及び伝搬ロス値の関係から、基地局の通信範囲と中継局の通信範囲とを切り分けるための閾値曲線を用いる。その閾値曲線を用いて、移動局から基地局への伝搬遅延値及び伝搬ロス値から、移動局の位置が、基地局又は中継局のいずれの通信範囲内かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−291026号公報
【特許文献2】特開2009−267626号公報
【特許文献3】特開2006−020043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によれば、少なくとも3つの基地局から直接波を含む電波を移動局の位置の測位に用いるために、移動局の周辺に十分な数の基地局が配置されている必要がある。また、到来電波の誤差を補正する係数が必要であり、この係数を算出するために、事前に基地局周辺の電波伝搬環境を測定しておく必要がある。更に、到来した電波が、基地局又は中継局のいずれから送信された電波であるかを判断することができない。
【0007】
また、特許文献2に記載された技術によれば、中継局を介した移動局の測位が可能であるが、測位の条件として、基地局のセルのセクタの中心位置及びその半径を、基地局が予め把握しておく必要がある。また、セクタの半径外にある中継局に関しては、測位対象としていない。更に、中継局は、セルのセクタの範囲内にあることから、基地局と直接通信している可能性も考えられ、移動局が、基地局又は中継局のいずれかと通信しているかを判別する処理が別途必要になる。
【0008】
更に、特許文献3に記載された技術によれば、移動局が、基地局又は中継局のいずれと通信しているかを判別するための判定閾値曲線を予め用意しておく必要がある。また、基地局、中継局の環境は周囲のマルチパスの影響、基地局と中継局間の距離を考慮すると、伝搬遅延値及び伝搬ロス置の関係を示す判定閾値曲線は一定ではなく、特定の基地局と中継局以外は、その判定をすることができない。
【0009】
そこで、本発明は、基地局及び中継局の位置を予め把握することなく、移動局が、基地局又は中継局のいずれと無線リンクを確立しているかを判定することができる通信設備装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、基地局と、該基地局配下に設置された中継局と、基地局及び中継局と通信可能な複数の移動局とを有する無線通信システムについて、当該移動局が、基地局又は中継局のいずれの近くに位置しているかを判定する通信設備装置であって、
基地局又は中継局から、各移動局について異なる2つの時点における当該基地局又は中継局と当該移動局との間の遅延時間を取得する遅延時間取得手段と、
各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する遅延時間差算出手段と、
複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する移動局分類手段と、
各グループについて、当該移動局における遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する平均遅延時間差算出手段と、
平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定する通信局判定手段と
を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の通信設備装置における他の実施形態によれば、
遅延時間取得手段は、各移動局について、
基地局又は中継局との間で通信リンクの確立後の時点における第1の遅延時間と、
基地局又は中継局との間で通信リンクの切断前の時点における第2の遅延時間と
を取得することも好ましい。
【0012】
本発明の通信設備装置における他の実施形態によれば、
通信局判定手段によって判定された、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局における第2の遅延時間の平均値を、判別遅延時間として記憶する判別遅延時間記憶手段を更に有し、
通信局判定手段は、遅延時間取得手段によって基地局から取得した当該移動局の第2の遅延時間が、判別値遅延時間よりも大きい場合、当該移動局は、中継局と無線リンクを確立していたものと判定することも好ましい。
【0013】
本発明の通信設備装置における他の実施形態によれば、移動局分類手段における単位時間幅は、第2の遅延時間が短い方から順に所定の単位時間幅毎に区分したものであることも好ましい。
【0014】
本発明の通信設備装置における他の実施形態によれば、
通信局判定手段は、
各グループiについて、平均遅延時間差を当該グループの単位時間幅の累積値で除算した、第1の特徴量βiを算出する第1の特徴量算出手段と、
各グループiの第1の特徴量βiについて、当該グループiの累積値よりも所定値Iだけ大きいグループの特徴量βi+Iから当該特徴量βiを減算した、加重平均の第2の特徴量γを算出する第2の特徴量算出手段と
を有し、
通信局判定手段は、第2の特徴量γが小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、当該第2の特徴量γが小さい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定することも好ましい。
【0015】
本発明によれば、基地局と、該基地局配下に設置された中継局と、基地局及び中継局と通信可能な複数の移動局とを有する無線通信システムについて、当該移動局が、基地局又は中継局のいずれの近くに位置しているかを判定する通信設備装置における通信局判定方法であって、
基地局又は中継局から、各移動局について異なる2つの時点における当該基地局又は中継局と当該移動局との間の遅延時間を取得する第1のステップと、
各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する第2のステップと、
複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する第3のステップと、
各グループについて、当該移動局における遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する第4のステップと、
平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定する第5のステップと
を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の通信局判定方法における他の実施形態によれば、
第1のステップは、各移動局について、
基地局又は中継局との間で通信リンクの確立後の時点における第1の遅延時間と、
基地局又は中継局との間で通信リンクの切断前の時点における第2の遅延時間と
を取得することも好ましい。
【0017】
本発明の通信局判定方法における他の実施形態によれば、
第5のステップは、
遅延時間が大きい方のグループに属する移動局における第2の遅延時間の平均値を、判別遅延時間として記憶し、
第1のステップによって基地局から取得した当該移動局の第2の遅延時間が、判別値遅延時間よりも大きい場合、当該移動局は、中継局と無線リンクを確立していたものと判定することも好ましい。
【0018】
本発明の通信局判定方法における他の実施形態によれば、第3のステップにおける単位時間幅は、第2の遅延時間が短い方から順に所定の単位時間幅毎に区分したものであることも好ましい。
【0019】
本発明の通信局判定方法における他の実施形態によれば、
第5のステップは、
各グループiについて、平均遅延時間差を当該グループの単位時間幅の累積値で除算した、第1の特徴量βiを算出し、
各グループiの第1の特徴量βiについて、当該グループiの累積値よりも所定値Iだけ大きいグループの特徴量βi+Iから当該特徴量βiを減算した、加重平均の第2の特徴量γを算出し、
第2の特徴量γが小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、当該第2の特徴量γが小さい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定することも好ましい。
【0020】
本発明によれば、基地局と、該基地局配下に設置された中継局と、基地局及び中継局と通信可能な複数の移動局とを有する無線通信システムについて、当該移動局が、基地局又は中継局のいずれの近くに位置しているかを判定する通信設備装置に搭載されたコンピュータを機能させる通信局判定プログラムであって、
基地局又は中継局から、各移動局について異なる2つの時点における当該基地局又は中継局と当該移動局との間の遅延時間を取得する遅延時間取得手段と、
各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する遅延時間差算出手段と、
複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する移動局分類手段と、
各グループについて、当該移動局における遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する平均遅延時間差算出手段と、
平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定する通信局判定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の通信設備装置、方法及びプログラムによれば、基地局及び中継局の位置を予め把握することなく、移動局が、基地局又は中継局のいずれと無線リンクを確立しているかを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】基地局からの電波の到達範囲を表すシステム構成図である。
図2】本発明における基地局配下に中継局を配置したシステム構成図である。
図3】本発明における通信設備装置の機能構成図である。
図4】本発明によって取得される遅延時間を表すシステム構成図である。
図5】本発明によって算出された遅延時間差を表す説明図である。
図6】基地局からの移動局の距離と遅延時間差との関係を表す説明図である。
図7】本発明によって算出された平均遅延時間差及び特徴量を表す説明図である。
図8】基地局からの移動局の距離と平均遅延時間差との関係を表す説明図である。
図9】基地局からの移動局の距離と特徴量β及びγとの関係を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
図1は、基地局からの電波の到達範囲を表すシステム構成図である。
【0025】
図1の無線通信システムによれば、基地局2と複数の移動局4とが、無線を介して通信する。基地局2は、通信事業者によって運用管理された移動通信網に接続されている。移動局4は、基地局2を介して移動通信網に接続することができる。
【0026】
図1によれば、基地局2からの電波の到達時間及びその範囲が、3種類の波線t1〜t3によって表されている。波線が細くなるほど時間が経過(t1<t2<t3)しており、基地局2から遠く且つ広い範囲にまで電波が到達する。一方で、波線が細くなるほど、即ちt3ほど、電波の範囲が歪んで変形している。これは、電波が広範囲にまで到達することに伴って、マルチパスの影響が大きくなっていることを表す。ここで、マルチパスの影響が大きいほど、基地局2から見て移動局4との間の往復遅延時間が長くなる。
【0027】
図1によれば、移動局4Aは、基地局2に比較的近いのに対し、移動局4Bは、基地局2から遠い。即ち、移動局4Bは、移動局4Aよりもマルチパスの影響を大きく受けていることを意味する。ここで、移動局4Aと移動局4Bとがそれぞれ、同一距離を移動した場合、マルチパスの影響によって、以下のような関係の現象が発生する。
移動局4Aについて、移動前の往復遅延時間と移動後の往復遅延時間との時間差Ta
移動局4Bについて、移動前の往復遅延時間と移動後の往復遅延時間との時間差Tb
時間差Ta<時間差Tb
【0028】
図2は、本発明における基地局配下に中継局を配置したシステム構成図である。
【0029】
図2の無線通信システムによれば、基地局2配下に中継局3が配置されており、移動局4は、基地局2に限らず、中継局3とも通信することができる。中継局3も、基地局2と同様に、通信事業者によって運用管理された移動通信網に接続されている。ここで、本発明によれば、移動通信網には、通信設備装置1が設置されている。通信設備装置1は、当該移動局が、基地局又は中継局のいずれの近くに位置しているかを判定することができる。
【0030】
図3は、本発明における通信設備装置の機能構成図である。
【0031】
図3によれば、通信設備装置1は、移動通信網に接続される通信インタフェース10と、遅延時間取得部11と、遅延時間差算出部12と、移動局分離部13と、平均遅延時間差算出部14と、通信局判定部15と、判別遅延時間記憶部16とを有する。これら機能構成部は、通信設備装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。
【0032】
[遅延時間取得部11]
遅延時間取得部11は、基地局2又は中継局3から、各移動局4について異なる2つの時点における当該基地局2又は中継局3と当該移動局4との間の遅延時間を取得する。遅延時間とは、往復遅延時間であることが好ましい。ここで、各移動局における異なる2つの時点の遅延時間とは、以下のようなものである。
基地局又は中継局との間で通信リンクの確立後の時点における第1の遅延時間
基地局又は中継局との間で通信リンクの切断前の時点における第2の遅延時間
「通信リンクの確立後/切断前」とは、例えば、第1の基地局から第2の基地局へ切り替わるハンドオーバ時や、基地局に対する接続時、基地局からの切断時、異常終了時がある。このような遅延時間は、例えば1つの基地局とその配下の全ての中継局とに接続する全ての移動局について、1日分の往復遅延時間を取得するものであってもよい。
【0033】
図4は、本発明によって取得される遅延時間を表すシステム構成図である。
【0034】
図4によれば、移動局4Aが、基地局2に対して、通信リンクを確立した第1の時点と、通信リンクを切断した第2の時点とが表されている。また、移動局4Bが、中継局3に対して、通信リンクを確立した第1の時点と、通信リンクを切断した第2の時点とが表されている。これら各時点における遅延時間が計測される。
【0035】
尚、中継局3と移動通信網との接続設備について、一定時間の設備内遅延が生じる。従って、中継局3と移動局4Bとの間で、その距離が比較的短く且つ遅延時間も短くても、通信設備装置1として取得される中継局を介した遅延時間は、一定時間だけ長くなってしまう。
【0036】
[遅延時間差算出部12]
遅延時間差算出部12は、各移動局について、第1の遅延時間と第2の遅延時間との差である遅延時間差を算出する。
【0037】
図5は、本発明によって算出された遅延時間差を表す説明図である。
【0038】
図5によれば、遅延時間取得部11によって取得された遅延時間を記録する移動局テーブル1Aが表されている。移動局テーブル1Aによれば、移動局識別子A〜K毎に、第1の往復遅延時間(n秒)と、第2の往復遅延時間(n秒)と、それらの往復遅延時間差(n秒)とが表されている。また、基地局2からの距離を横軸に表して、基地局2から見た各移動局A〜Kの距離も表している。
【0039】
図6は、基地局からの移動局の距離と遅延時間差との関係を表す説明図である。
【0040】
図6によれば、基地局2の近くに移動局A及びDが位置し、中継局3の近くに移動局G及びIが位置している。そのために、基地局2に近い移動局Aの往復遅延時間差(0.01n秒)及び移動局Dの往復遅延時間差(0.19n秒)と、中継局に近い移動局Gの往復遅延時間差(0.18n秒)及び移動局Iの往復遅延時間差(0.22n秒)とが、全体の往復遅延時間差から見て比較的短いことが理解できる。
【0041】
[移動局分離部13]
移動局分離部13は、複数の移動局を、遅延時間の大きい方から順に単位時間幅毎にグループに分類する。移動局分離部13における単位時間幅は、通信リンクの切断時における第2の遅延時間が短い方から順に所定の単位時間幅毎に区分したものである。単位時間とは、例えば1n秒であってもよい。
【0042】
図5の移動局テーブルによれば、第2の遅延時間について以下のようなグループに分類される。
[グループ] [第2の遅延時間]
1 0〜1n秒
2 1〜2n秒
3 2〜3n秒
4 4〜5n秒
5 5〜6n秒
6 6〜7n秒
7 7〜8n秒
【0043】
[平均遅延時間差算出部14]
平均遅延時間差算出部14は、各グループについて、当該移動局における遅延時間差の平均値である平均遅延時間差を算出する。
【0044】
図7は、本発明によって算出された平均遅延時間差及び特徴量を表す説明図である。
【0045】
図7のグループテーブル1Bによれば、グループ毎に、平均遅延時間差が算出されている。
グループ1によれば、それに属する移動局識別子A及びDについて遅延時間差は、0.10(=(0.01+0.19)/2)となる。
グループ2によれば、それに属する移動局識別子B及びEにおける平均遅延時間差は、0.30(=(0.30+0.30)/2)となる。
グループ3によれば、それに属する移動局識別子Cにおける平均遅延時間差は、0.80となる。
グループ4によれば、それに属する移動局識別子Jにおける平均遅延時間差は、0.90となる。
グループ5によれば、それに属する移動局識別子F及びHにおける平均遅延時間差は、1.00(=(1.10+0.90)/2)となる。
グループ6によれば、それに属する移動局識別子G及びIにおける平均遅延時間差は、0.20(=(0.18+0.22)/2)となる。
グループ7によれば、それに属する移動局識別子Kにおける平均遅延時間差は、0.60となる。
【0046】
図8は、基地局からの移動局の距離と平均遅延時間差との関係を表す説明図である。
【0047】
図8によれば、基地局2に近い移動局A及びDのグループ1における平均遅延時間差と、中継局に近い移動局G及びIのグループ6における平均遅延時間差とが、全体の平均遅延時間差から見て比較的小さいことが理解できる。
【0048】
[通信局判定部15]
通信局判定部15は、当該移動局が中継局と無線リンクを確立しているか否かを、2つの別々の方法で判定することができる。
【0049】
(第1の通信局判定方法)
図3によれば、第1の通信局判定方法は、平均遅延時間差判定部151によって実行される。平均遅延時間差判定部151は、平均遅延時間差が小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定する。図8を参照すると、平均遅延時間差が小さい方から順にグループ1及び6が選択される。ここで、グループ1に属する移動局A,Dの遅延時間と、グループ6に属する移動局G,Iの遅延時間とを比較すると、グループ6の方が遅延時間が大きい。そうすると、グループ6に属する移動局G,Iは、中継局3と無線リンクを確立していると判定することができる。
【0050】
ここで、判別遅延時間記憶部16を用いるものであってもよい。判別遅延時間記憶部16は、通信局判定部15によって判定された、遅延時間が大きい方のグループに属する移動局における第2の遅延時間の平均値を、判別遅延時間として記憶する。図8によれば、グループ6に属する移動局G,Iにおける第2の遅延時間の平均値6.68(=(6.77+6.50)/2)を、判別遅延時間として記憶する。
【0051】
判別遅延時間記憶部16を用いる場合、通信局判定部15は、遅延時間取得部11によって基地局から取得した当該移動局の第2の遅延時間が、判別値遅延時間よりも大きい場合、当該移動局は、中継局と無線リンクを確立していたものと判定する。
【0052】
(第2の通信局判定方法)
第2の通信局判定方法は、第1の特徴量算出部152及び第2の特徴量算出部153によって実行される。
【0053】
図9は、基地局からの移動局の距離と特徴量β及びγとの関係を表す説明図である。
【0054】
第1の特徴量算出部152は、各グループiについて、平均遅延時間差を当該グループの単位時間幅の累積値で除算した、第1の特徴量βiを算出する。
グループ1について、β1=(平均遅延時間差0.10n秒)/(グループ1の累積値1)=0.10となる。
グループ2について、β2=(平均遅延時間差0.30n秒)/(グループ2の累積値2)=0.15となる。
グループ3について、β3=(平均遅延時間差0.80n秒)/(グループ3の累積値3)=0.27となる。
グループ4について、β4=(平均遅延時間差0.90n秒)/(グループ4の累積値4)=0.23となる。
グループ5について、β5=(平均遅延時間差1.00n秒)/(グループ5の累積値5)=0.20となる。
グループ6について、β6=(平均遅延時間差0.20n秒)/(グループ6の累積値6)=0.03となる。
グループ7について、β7=(平均遅延時間差0.60n秒)/(グループ7の累積値7)=0.09となる。
【0055】
次に、第2の特徴量算出部153は、各グループiの第1の特徴量βiについて、当該グループiの累積値よりも所定値Iだけ大きいグループの特徴量βi+Iから当該特徴量βiを減算した、加重平均の第2の特徴量γを算出する。第2の特徴量γは、特徴量βi+Iから見た特徴量βiに対する傾きを意味する。また、傾きの判定長さとなる所定値I=2とする。
グループ1について、γ1=β3−β1=0.27−0.10= 0.17となる。
グループ2について、γ2=β4−β2=0.23−0.15= 0.08となる。
グループ3について、γ3=β5−β3=0.20−0.27=−0.07となる。
グループ4について、γ4=β6−β4=0.03−0.23=−0.20となる。
グループ5について、γ5=β7−β5=0.09−0.20=−0.11となる。
グループ6について、γ6=β8−β6=0.15−0.03= 0.12となる。
グループ7について、γ7=β9−β7=0.17−0.09= 0.08となる。
【0056】
各時間単位の傾きを表す第2の特徴量γが、連続して正の値であって且つ上昇傾向となる場合、基地局又は中継局に近づいていると理解できる。一方で、第2の特徴量γが、下降傾向となる場合、基地局又は中継局から遠ざかっていると理解できる。
【0057】
そして、通信局判定部15としては、第2の特徴量γが小さい方から順に少なくとも2つのグループに属する移動局について、当該第2の特徴量γが小さい方のグループに属する移動局は、中継局と無線リンクを確立していると判定する。
【0058】
図9によれば、第2の特徴量γの最大値をγm1とし、そのγm1が含まれる分布を第1の分布とし、その時間単位をXとする。
次に、最大値γ1が含まれる第1の分布を除外した第2の特徴量γの中で最大値をγm2とし、そのγm2が含まれる分布を第2の分布とし、その時間単位をYとする。
ここで、γm1及びγm2の時間単位であるX及びYを比較し、X<Yであるならば、Yには、中継局の機器遅延が含まれていると推測できる。これによって、Xは、基地局と無線リンクを確立していると判定することができる。一方で、Yは、中継局と無線リンクを確立していると判定することができる。
【0059】
以上、詳細に説明したように、本発明の通信設備装置、方法及びプログラムによれば、基地局及び中継局の位置を予め把握することなく、移動局が、基地局又は中継局のいずれと無線リンクを確立しているかを判定することができる。
【0060】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0061】
1 通信設備装置
10 通信インタフェース
11 遅延時間取得部
12 遅延時間差算出部
13 移動局分離部
14 平均遅延時間差算出部
15 通信局判定部
151 平均遅延時間差判定部
152 第1の特徴量算出部
152 第2の特徴量算出部
16 判別遅延時間記憶部
2 基地局
3 中継局
4 移動局
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9