(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の詳細な説明
定義
“生体適合可能性”または“生体適用性”、は本明細書において通常は、材料が特定の適用において適切な宿主反応を示す能力を意味する。最も広い意味では、これは材料の有用性および/または患者への処置の有用性を超えるような形の、生体への副作用の欠如を意味する。
【0019】
“生体材料”または“組成物”、は本明細書において通常は、生物学的システムと調和することを意図された材料を意味し、より好ましくは生体の組織、器官または機能を診断、処置または封止することを意味する。生体材料とは、ゲル化点に到達したときおよび通過した時点での完全な材料(前駆体分子と、もし存在する場合は、すべての添加剤、塩基または溶媒および生体反応性剤)を意味する。組成物はゲル化点に到達する前の完全な材料を意味する。
【0020】
“前駆体成分濃度”は本明細書において質量%を意味し、これはグラムで表わされる溶質の質量を100倍し、グラムで表わされる全体の溶液の質量(たとえば溶媒および溶質の合計)で割ったものであり、:質量%=溶質質量(100)/全体溶液質量。
【0021】
“共役不飽和結合”は炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子またはヘテロ原子−ヘテロ原子の多重結合と単結合の両方を意味する。CHまたはCH2基によって配される二重結合は“ホモ共役二重結合”と表わす。
【0022】
“架橋”は本明細書において通常は、共有結合の形成を意味する。
“架橋密度”は本明細書において、それぞれの分子の2つの架橋間の平均分子量(M
c)を意味する。
【0023】
“求電子基”は本明細書において、極性結合形成反応において、求核剤由来の電子ペアを受取る能力のある官能基を意味する。求電子剤および求電子基は同義語で使用される。
【0024】
“官能性”は本明細書において通常は、前駆体分子の反応部位の数を意味する。
“反応部位”は求核基および求電子基であって、限定されるものではないが、少なくとも生体または動物の体内状態下でお互い反応することのできるものを意味する。
【0025】
“ゲル”は液体および固体の間の物質の状態をいう。たとえば“ゲル”は水溶液のいくつかの特性(たとえば、反発弾性および変形可能な状態)および固体のいくつかの特性(たとえば二次元表面において三次元を維持するのに十分な不連続性の状態)を有する。
【0026】
“ゲル化点”は本明細書において、粘性係数と弾性係数が交差する点そして粘性が上昇する点を意味する。したがって、ゲル化点は液体がゲルの半固体の特性を取り始める段階である。
【0027】
“in situ形成”は本明細書において通常は、前駆体分子の混合物が、投与の前および投与時は実質的には架橋しておらず、生体の投与部位で生理温度において、お互い共有結合を形成するという能力を意味する。
【0028】
“分子量”は本明細書において、本技術分野において通常使用されているように、いずれかの与えられたサンプル内の多くの種類の分子の平均分子量を意味する。したがって、PEG5000のサンプルは、たとえば4000から6000ダルトン(D)の範囲の重量の高分子が統計的混合状態のものを含み、1つの分子はその範囲にわたってわずかに個々に異なる分子量を有する。したがって、約2000Dから約20000Dの範囲の分子量は、平均分子量が少なくとも約2000Dであり、最大約20kDであることを示唆する。
【0029】
“多官能の”は本明細書において通常は、前駆体分子1つに付き1つ以上の官能基があることを意味する。
【0030】
“求核基”は本明細書において通常は、極性結合形成反応において、求電子剤に電子対を供する能力のある官能基を意味する。好ましくは求核剤は、生理的pHにおいてH
2Oよりもより求核的であることが好ましい。強力な求核剤の1つの例としてはチオールがありそしてこれらの官能基を有する分子を意味する。求核剤および求核基という用語は同義語として使用される。
【0031】
“オリゴマーおよびポリマー”は本明細書において、通常の単語の意味で用いる。オリゴマーは低分子量ポリマーである。オリゴマーは典型的に2から10の単量体単位を含む。本明細書においては、ポリマーは典型的に10を超える単量体単位を含む。
【0032】
“ポリ(エチレングリコール)系ポリマー”は本明細書において、ポリマーのポリマー鎖が主に、好ましくは完全にポリ(エチレングリコール)から構成されるポリマーを意味する。
【0033】
“生理的な”は本明細書において、生存している脊椎動物に見られる状態を意味する。特に生理的条件はたとえば温度、pH、などのようなヒトの生体の状態を意味する。生理温度は特に35℃から42℃、好ましくは37℃付近大気圧下においての温度を意味する。
【0034】
“高分子網目”は本明細書において実質的にすべてのモノマー、オリゴマーまたはポリマーであって前駆体分子に使用されているものが分子間結合、好ましくは共有結合によって、それらに存在する官能基を通じて結合し、高分子を形成しているという工程の生産物を意味する。
【0035】
“前駆体分子”は本明細書において、生体材料の高分子網目を形成している分子を意味する。高分子網目以外に、生体材料は添加剤および生物学的活性剤を含み得る。前駆体分子は官能性モノマー、オリゴマーおよびポリマーから選択され得る。
【0036】
“各対応物”は本明細書において与えられた前駆体分子の反応相手を意味する。求核基に対する対応物は求電子基であり、逆も成り立つ。
【0037】
“自己選択反応”は本明細書において、組成物の第1の前駆体分子は第2の前駆体分子と反応し、その速度は、組成物および/または反応部位の双方に存在する他の組成物よりも非常に速く、逆も成り立つことを意味する。本明細書において、第1の前駆体分子の求核基は、他の生物学的組成物よりも選択的に第2の前駆体分子中の求電子基と結合し、そして第2の前駆体分子中の求電子基は、他の生物学的組成物よりもより選択的に第1の前駆体中の求核基と結合する。
【0038】
“膨潤”は本明細書において、本発明の生体材料の水摂取を意味する。これは平衡膨潤、典型的には過剰なPBS緩衝液中に生体材料を設置した後(10mMリン酸緩衝生理食塩水、たとえば、シグマ社製P3813−粉体から生産した0.01Mリン酸、0.0027M塩化カリウムおよび0.138M塩化ナトリウムの緩衝液、pH7.4)、での生体材料の質量の上昇機能である。典型的には平衡膨潤は2日以内に達し、そして生体材料が生体材料分解前の最大の質量に達したときの時間で定義される。膨潤は平衡膨潤時の生体材料の質量を、架橋反応の10分後の生体材料の初期質量で割って計測される。“水摂取”および“膨潤”という用語は本明細書にわたって同義語で使われる。
【0039】
“凝集力”は本発明の生体材料が肉体的ストレスまたは環境状態に置かれた場合に完全なままを維持し、たとえば破裂、裂け目または亀裂のないという能力を意味する。“凝集力”および“破裂強度”は本明細書において同義語として使われる。
【0040】
“接着硬度”は本発明の生体材料が肉体的ストレスまたは環境状態に置かれた場合に、投与の部位の組織に接着を維持できる能力を意味する。
【0041】
組成物
人間の生体からの体液の損失を減少、防止または抑制するのに好ましく用いられる、in situ架橋可能な生体材料の製造のための組成物が提供される。組成物は少なくとも第1および第2の多官能性前駆体分子を含む。選択的な添加剤、着色剤および/または生物学的活性剤が、組成物を形成するために前駆体に加えられ得る。組成物は前駆体分子といずれかの添加剤および/または生物学的活性剤を含み、前駆体分子は生体の必要な場所において、現場で生体材料の高分子網目を形成するために重合する。前駆体分子の構造は所望とする生体材料の種類に基づき選択される。
【0042】
A.前駆体
第1の前駆体分子は少なくとも2つの求核基を含み、第2の前駆体分子は少なくとも2つの求電子基を含む。第1および第2の前駆体分子は求核基および求電子基が、生物学的状態または塩基性条件下でお互いに共有結合を形成することができるように選択される。これは異なる反応メカニズムによって達成され得る。1つの反応メカニズムは求核置換反応である。他の一実施の形態において、前駆体分子は第1の前駆体分子の求核基または部分と第2の前駆体分子の共役不飽和基または部分との間のマイケル付加反応を通じた共有結合を形成する。マイケル付加反応は、たとえばチオール、アミンまたはヒドロキシル基のような求核剤とたとえばα,β−不飽和カルボニル含有部分のような共役不飽和部分との反応を含む。
【0043】
前駆体分子の例は、限定されるものではないが、ポリエーテル誘導体、たとえばポリオキシアルキレンまたはその誘導体、ペプチド、およびポリペプチド、ポリ(ビニル ピロリジノン)(“PVP”)、およびポリ(アミノ酸)、を含む。好ましいポリオキシアルキレン誘導体はポリエチレングリコール(“PEG”)、ポリプロピレンオキシド(“PPO”)、ポリエチレンオキシド(“PEO“)、ポリエチレンオキシド−コ−ポリプロピレンオキシド(“PEO−PPO”)、コ−ポリエチレンオキシドブロックまたはランダム共重合体、ポロキサマー、メロキサポール(meroxapols)、ポロキサミン(poloxaminesおよびポリビニルアルコール(“PVA”)がある。ブロック共重合体またはホモポリマー(A=Bのとき)は直鎖(AB、ABA、ABABAまたはABCBA型、星状(A
nBまたはBA
nC、ここでBは少なくともn価でありnは3から6である)または分岐(複数のAが1つのBに従属する)である。好ましい前駆体分子は、PEGおよびPEO−PPOブロック共重合体から選択される。最も好ましいPEGおよびPEO−PPOブロック共重合体がお互いの組合せで適用される。好ましい第1の前駆体分子はポリ(エチレングリコール)系ポリマーであってx個の求核基を有し、該求核基はチオール基またはアミノ基からなるグループから選択され、ここでxは2以上である。好ましくは、第2の前駆体分子は、他結合種を有するポリ(エチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)(PEO−PPO)ブロック共重合体であり、一般式(I):
A−[(C
3H
6O)
n−(C
2H
4O)
m−B]
i
(式I)
mおよびnは1から200の整数であり
iは2より大きく、好ましくは3,4,5,6,7または8
Aは分岐点
Bは共役不飽和基
を表わす。
【0044】
前駆体分子は多官能性モノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーである。好ましくは第1の前駆体分子の分子量は2kDから20kDの範囲、より好ましくは3kDから11kD、最も好ましくは5kDから10kDの範囲である。好ましい第2の前駆体分子の分子量は10kDから25kD、より好ましくは12kDから20kD、最も好ましくは14kDから18kDである。
【0045】
好ましくは、第2の前駆体分子の分岐点Aは炭素、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびエチレンアミンよりなる群から選択される。一実施の形態において、生体材料は多分岐ポリ(エチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)(PEO−PPO)ブロック共重合体で、式(I)で表わされ、Aはエチレンジアミン分子(たとえばiが4)およびBはアクリレート基(Tetronic(登録商標)−テトラアクリレート)から形成される。四分岐ポリ(エチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)(PEO−PPO)ブロック共重合体でエチレンジアミンコア分子を有するものは、BASF社からTetronic(登録商標)の商標名で販売されている。さらなる実施の形態において、組成物はTetronic(登録商標)テトラアクリレートで分子量が約15kD(Tetronic(登録商標)1107)およびPEGテトラチオールで分子量が約10kDを含む。他の実施の形態において、生体材料はTetronic(登録商標)テトラアクリレートで分子量が約15kDであるものおよびPEGテトラチオールで分子量が約5kDであるものから形成される。他の好ましい実施の形態において、生体材料はTetronic(登録商標)テトラアクリレートで分子量が約15kDであるもの、および直鎖末端官能性PEG−ジチオールで分子量が約3.4kDであるものから形成される。さらに他の実施の形態において、Tetronic(登録商標)テトラアクリレートはジチオスレイトール(DTT)と架橋される。生体材料の機械的特性(たとえば凝集力および接着強度、膨張およびゲル化時間)は前駆体分子の分岐の数およびこれらの分岐の長さに影響される。それぞれの前駆体分子の分岐の数が多いと架橋網目の密度が高くなり、凝集力が大きくなる。しかしながら得られた生体材料の吸収性が長くなる。第1の前駆体分子の鎖長は得られた生体材料の膨潤に影響を与える。ポリ(エチレングリコール)の鎖が長いほどより膨潤する生体材料が得られる。
【0046】
好ましくは前駆体分子は左右対称であり、これは分岐が同様の分子量および構造を有することを意味する。
【0047】
第1および第2の前駆体分子の官能基の合計は5以上である。一実施の形態において第1の前駆体分子は4つの官能基を有し、第2の前駆体分子は3つの官能基を有する。他の実施の形態において、第1の前駆体分子は2つの官能基を有し、第2の前駆体分子は4つの官能基を有する。また他の実施の形態において前駆体分子の1つは8つの官能基を有し、他のものは4つを有する。他の実施の形態において、前駆体分子の両方が4つ以上の官能基を有する、小さくコンパクトな前駆体分子は拡大した前駆体分子よりも強度の大きい高分子網目を構成し、これはたとえ官能基および反応対象物が両方の分子で同じであってもいえることである。
【0048】
一般的な指針として、第1および第2の前駆体成分の比率は、両方の成分の大多数の官能基が各対応物と反応するように選択される。第1および第2の前駆体分子の官能基の比率は(たとえば求電子基の求核基に対する比率)は0.7から1.2の範囲、より好ましくは0.8から1.1の範囲、最も好ましくは1である(たとえば化学量論比)。
【0049】
a.求核基
第1の前駆体分子の求核基は、たとえば共役不飽和基のような求電子基と反応することができ、それはさまざまな反応メカニズムであり、好ましくはヒト生体内における自己選択的なものであり、それは求核置換反応またはマイケル付加反応を通じるものである。有用な求核剤は、ヒトまたは動物の生体の状況下において、好ましくは共役不飽和基と付加反応、特に自己選択的マイケル付加反応を通じて共役不飽和基と反応するものである。求核剤の反応性は、不飽和基の独自性によって決まる。不飽和基の独自性は第1に生理的pHの水との反応性によって限定される。したがって、有用な求核剤は一般的に生理的pHの水よりもより求核性である。適切な求核剤は限定されるものではないが、−SH、−NH
2、−OH、−PH
2および−CO−NH−NH
2を含む。
【0050】
特定の求核剤の実用性は、想定される状況および自己選択性の求められる程度によって決まる。好ましい実施の形態において、求核剤はチオールである。しかしながら、アミンおよび/またはヒドロキシル基もまた効果的な求核剤である。
【0051】
pH、ここでは脱プロトン化アミンまたはチオールがプロトン化アミンまたはチオールよりも強力な求核性であることに特定の注意が払われる。たとえば、強力な求核剤として使用されるアミンまたはチオールのpKに特に注意が払われると、実質的な自己選択性を得ることができる。溶液のpHが前駆体分子のアミンまたはチオールのpKに近い反応条件は、共役飽和基が、システムに存在する他の求核剤よりもアミンまたはチオールと反応することを助ける。
【0052】
求核基は全体の構造において大きな撓み性を有する分子に含まれ得る。たとえば、二官能性求核基はNuc−P−Nucの形態で存在し、ここでPはモノマー、オリゴマーまたはポリマーを意味し、Nucは求核基を意味する。分岐ポリマーのように、Pは多数の求核剤で誘導され得、そしてP−(Nuc)
iを形成し、Iは1より大きい。求核剤は繰返し構造の一部であり得、たとえば(P−Nuc)
iである。明らかに、このような構造に存在するすべてのPまたは求核剤は、同一である必要はない。
【0053】
ポリエチレングリコールおよびその誘導体は、複数の一級アミノまたはチオール基を有するように、たとえば、POLY(ETHYLENE GLYCOL)CHEMISTRY:BIOTECHNICAL AND BIOMEDICAL APPLICATIONS, J. Milton Harris, cd., Plcnum Prcss, NY (1992)の第22章に記載される方法で化学的に変性され得る。最も好ましい実施の形態において第1の前駆体分子の末端に存在するチオールは、末端のヒドロキシル基をチオール基(SH)に置換することによって、PEG系ポリマーに導入される。このようにして得られた前駆体分子は、第2の前駆体分子と、メルカプロプロピオン酸基を通じてチオール基が導入された前駆体分子よりも速く反応する。
【0054】
さまざまな複数アミノ基を有するPEGがカリフォルニア州サンカルロスのNektar Therapeutics社(アラバマ州バンツビルのShearwater Polymers社の買収を通じて)およびテキサス州ヒューストンのTexaco Chemical Company社から、“Jeffamine”の名前で商業的に入手可能である。複数のアミノ基を有するPEGで本発明において有用なものは、Texaco's社製のJeffamineジアミン(“D”シリーズ)およびトリアミン(“D”シリーズ)であり、これらはそれぞれ1つの分子に2つおよび3つの一級アミノ基を含む。ポリアミン、たとえばエチレンジアミン(H
2N−CH
2CH
2−NH
2)、テトラメチレンジアミン(H
2N−(CH
2)
4−NH
2)、ペンタメチレンジアミン(カダベリン)(H
2N−(CH
2)
5−NH
2)、ヘキサメチレンジアミン(H
2N−(CH
2)
6−NH
2)、ビス(2−ヒドロキシジル)アミン(HN−(CH
2CH
2OH)
2)、ビス(2−アミノエチル)アミン(HN−(CH
2CH
2NH
2)
2)、およびトリス(2−アミノエチル)アミン(N−(CH
2CH
2NH
2)
3)もまた複数の求核基を有する合成ポリマーとして用いることができる。
【0055】
ジチオスレイトール(HS−CH
2−CHOH−CHOH−CH
2−SH)もまた複数の求核基を有する合成ポリマーとして使用できる。
【0056】
好ましい第1の前駆体分子
好ましい一実施の形態において、第1の前駆体分子は、式IIで示されるPEGテトラチオールである:
【0058】
ここでnは25から60の範囲である。
b.求電子基
第2の前駆体分子の求電子基は、好ましくは共役不飽和基である。Pおよび共役不飽和基の構造は、上記に示された求核基のものと類似している。唯一必要なことは、1つの求電子性前駆体は2つ以上の求電子基を有することである。一実施の形態において、求電子基は共役不飽和基である。
【0059】
広い種類の共役不飽和組成物において求核付加反応、特にマイケル付加反応を行なうことが可能である。下記に示される構造において、単量体、オリゴマー、多量体構造がPとして示される。Pの特定の独自性のさまざまな好ましい可能性が以下に議論される。Pは反応性共役不飽和基と対になり得、限定されるものではないが、表1の1から20の構造を含む。
【0063】
反応性二重結合は、直鎖ケトン、エステルまたはアミノ構造(1a、1b、2)の1つ以上のカルボニル基と共役させられ、またはマレイン酸またはパラキノイド誘導体(3、4、5、6、7、8、9、10)としての、2つの環形のカルボニル基と共役させられる。後者の場合は、環は結合してナフトキノン(6、7、10)または4,7−ベンズイミダゾールジオン(8)となり、カルボニル基はオキシム(9、10)に変換され得る。二重結合はたとえばスルホン(11)、スルホキシド(12)、スルホン酸塩またはスルホンアミド(13)、またはホスホン酸塩またはホスホアミド(14)のようなヘテロ原子−ヘテロ原子二重結合と共役させられる。最終的に、二重結合は4−ビニルピリジニウムイオン(15)のような電子の少ない芳香族系と共役され得る。三重結合はカルボニルまたはヘテロ原子系多重結合(16、17、18、19、20)と共役され得る。
【0064】
1a、1bおよび2のような構造は、1つまたは2つの電子求引基を有する炭素−炭素二重結合の共役を基礎としている。これらの1つは常にカルボニルであり、アミドからエステルそしてそれからフェノン構造に従って反応性が上昇する。求核付加は、立体障害の減少、またはα位における電子求引力の上昇において、より容易である。たとえば、以下の関係が存在し、CH
3<H<COOW<CN、ここでCH
3は最も小さい電子求引力を有し、CNは最も大きい電子求引力を有する。
【0065】
最後の2つの構造を用いて得られる高い反応性は、β位の置換基の嵩だかを変化させることによって調節され得る。これは求核剤の攻撃が行なわれる場所であり、反応性はP<W<Ph<Hの順で減少する。このようにして、Pの位置は求核剤に対する反応性を調節するのに用いられ得る。この化合物の群は、その毒性が多く知られ、そして薬剤に使用されるいくつかの化合物を含む。たとえば、アクリレートおよびメタアクリレートを末端に有する水溶性ポリマーがin vivo重合化される(遊離基メカニズムによる)。したがって、アクリレートおよびメタアクリレート含有ポリマーは医療製品において生体で用いられてきており、しかし非常に異なる化学反応体系のものである。
【0066】
構造3−10は非常に高い求核剤に対する反応性を示し、これは二重結合のcis立体配置および2つの電子求引基の存在に由来する。不飽和ケトンはアミドまたはイミドに比べて迅速に反応し、これはこれらのカルボニル基の電気陰性度の強さに由来する。したがって、シクロペンタジエン誘導体はマレイミド酸誘導体(3)よりも反応が速く、およびパラキノンはマレイン酸ヒドラジト(4)およびシクロヘキサノンよりも迅速に反応し、これはより広範囲の共役に由来する。最も高い反応性はナフトキノン(7)で示される。Pは不飽和基の反応性を減少させない位置に配置され得、それは環(3、5)の反対側、他の環(7、8)またはパラキノンモノオキシムを通じる酸素結合(9、10)である。求核付加反応の割合を減少させるために、Pは反応性二重結合(6、8)とも結合され得る。
【0067】
二重結合の求核負荷の発生はヘテロ原子系電子求引基を用いて得られ得る。実際、ケトン(11、12)、エステルおよびアミド(13、14)のヘテロ原子含有アナログは同様の電子求引作用をもたらす。求核負荷に対する反応性は基の電気陰性度によって上昇する。したがって構造は下記の関係、11>12>13>14を有し、ここで11は最も電気陰性度が高く14は最も電気陰性度が小さい。求核負荷に対する反応性は、芳香族との結合によっても促進される。二重結合の強力な活性化が、芳香族の電気求引基を用いることによってももたらされる。ピリジニウム様カチオン(たとえばキノリン、イミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダシン、および同様のsp
2−ニトロ基含有組成物の誘導体)を含む芳香族構造は、強力に二重結合を分極させ、そして可能な限り迅速なマイケル型負荷を起こす。
【0068】
炭素−炭素三重結合で炭素−またはヘテロ原子系電子求引性基と共役しているものは、容易に硫黄求核基と反応し、1つおよび2つの負荷から製品を与える。この反応は置換基の影響を受け、これは上記で示されたように二重結合含有アナログ組成物と類似した方法である。好ましい実施の形態において求電子基はアクリレート基である。
【0069】
好ましい第2の前駆体分子
好ましい実施の形態において、第2の前駆体分子はモノマー、オリゴマーまたはポリマーであってアクリレートを含む。特に、第2の前駆体はIaで示される組成物であり、これは式Iの特定の実施の形態である。:
【0071】
nおよびmは1から200の整数。
好ましくは、nは18から22およびmは58から62の範囲である。
【0072】
Tetronic(登録商標)はポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシド系四官能基のブロック共重合体であってBASF社から入手可能である。Tetronic(登録商標)ブロック共重合体は塩基存在下において、アクリロイルクロライドが過剰なポリマー状の遊離ヒドロキシル基を反応させることによって、たとえばアクリレート基のような共役不飽和基によって官能化され得る。他の求電子基は同様な方法で付加され得る。
【0073】
c.添加物
組成物はさらに有機および/または無機添加剤を含み、たとえば仮に予め可視的ではない場合に、投与の遂行を追跡し、または潜在的な漏出を即座に検出するためのチキソプロピック剤、X線不透過物質および/または蛍光物質、速すぎる重合を防止するための前駆体分子の安定化剤、および/または生体材料の機械的強度(たとえば最高圧縮強度およびヤング係数E)を、高分子網目の機械的強度に比べて向上させることのできるフィラーである。安定化剤の例としては、遊離基捕捉剤を含み、たとえばブチル化ヒドロキシトルエンまたはジチオスレイトールがある。適用に応じて、組成物(および生体材料)は着色剤を含み得、好ましくは染料のような有機顔料である。一実施の形態においてメチレンブルーが着色料として加えられる。メチレンブルーは着色料としてのみならず、還元剤として働くことでアクリレート含有前駆体分子の安定化剤としても機能する。それはさらにジスルフィド構造の指示薬としても機能する(なぜならそれは還元されると無色になるからである)。他の実施の形態において、ファストグリーンが着色料として添加される。他の好ましい着色料はリサミングリーンである。リサミングリーンとファストグリーンは溶液のpHによって色を変化させる能力を有する。それらは酸性条件下では緑であり塩基性条件下では青である。したがって、これらの2つの着色料は塩基性溶液中で前駆体溶液が良好に混合されていることの指示としての追加の利点を有する。
【0074】
d.塩基
第1および第2の前駆体分子のin situ架橋は塩基性条件下で行なわれる。さまざまな塩基が、生理的条件下で触媒作用を及ぼすこと、患者の生体に有害でないことの要求に適合し、そして生体材料の形成の活性剤として機能する。好ましい塩基は、制限されるものではないが、三級アルキル−アミン、たとえばトリブチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、またはN,N−ジメチルブチルアミンである。一定の組成物(主に前駆体の種類によるが)、ゲル化時間は溶液の塩基の種類およびpHによる。したがって、組成物のゲル化時間は塩基性溶液のpHを変化させることによって所望の適用に調節および調整され得る。塩基性溶液のpHの上昇はゲル化時間を減少させ、しかし生体材料の分解時間を延長させる。したがって、ゲル化時間および分解の間の妥協点が得られなければならい。好ましい実施の形態において、共有結合性架橋反応の活性剤としての塩基は、pHおよびpKの値が同じ範囲にある水性緩衝液から選択される。pKの範囲は、好ましくは9から13である。仮に塩基が塩基性の範囲において2つのpK値を有するときは、初めのものは好ましくは8.5から10の範囲であり、2つ目のものが10から13の間である。適切な緩衝液は、限定されるものではないが、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムおよびグリシンを含む。一実施の形態において、好ましい塩基は炭酸ナトリウムである。好ましくは塩基性水溶液のpHは9から14の範囲であり、より好ましくは10から13の範囲であり、さらにより好ましくは10から12の範囲である。
【0075】
e.生物活性剤
生体材料はさらに小分子またはペプチドタンパク質であって、生体材料から徐々に拡散し組織の再生および治癒を助ける生物活性剤を含む。このような場合には、生体材料は追加の組織再生能力を有する組織シーラントおよび薬物輸送マトリックスの両方として機能する。生物活性因子および/または小分子は、単に生体材料に混合され得、または分子内に遊離チオール基を導入することにより、生体材料に共有結合され得、そして加水分解または酵素分解によって放出される。生物活性因子は成長因子であり得、好ましくはTGFβスーパーファミリーおよびPDGFからのものである。
【0076】
II.生体材料
上記に示されるように、生体材料の必要条件、および前駆体分子の選択は目的および生体内での適用部位によって決まる。好ましい実施の形態において、生体材料は体液損失を防止、減少または維持するための被覆、バリアまたはシールを形成する。体液損失は、限定されるものではないが、生体液またはガスの損失、たとえば血液損失、脳脊髄液損失または肺からのガスの損失を含む。生体材料は生体の内部または外部に適用され得る。この目的のために、生体材料は良好な接着強度および凝集力、適合性のある迅速なゲル化時間、水摂取に起因する体積の増加の低さ、および時間の経過に従う生体による完全な吸収を有するべきである。生体材料の機械的安定は主に高分子網目の架橋密度によって決まるものであるが、生体材料による水摂取は架橋密度の相互作用、および高分子網目の疎水性によって影響される。生体材料の架橋密度および疎水性特質は、主要な程度において、前駆体成分の構造および比率によって決定される。したがって生体材料の水摂取および機械的性能は前駆体成分の適切な選択によって調整および影響され得る。
【0077】
生体材料の特徴
一実施の形態において、生体材料は切断または負傷の後の脳または脊椎の硬膜のシールとして用いられ、外科的介入に伴う外部環境への脳脊髄液の溢出を防止または減少するためのものである。シーリングは縫合補助として、または硬膜のダメージがあまり大きくないときに用いられる。生体材料は、第1表面および第2表面の結合の非外科的な効果を有する唯一の密閉手段として用いられ得る。最も好ましい適用においては、組成物は頭蓋手術後の縫合された硬膜修復の縫合補助として用いられる。硬膜シーラント(以下“シーラント”と示す)として用いるときの生体材料を形成する反応時間に影響を与える1つのファクタとしては、架橋時間における組成物のpHがある。前駆体分子は水性緩衝液でpHが2から7.5の間、より好ましくは4から5の間のものに溶解する。好ましい実施の形態において、pHが4.76の酢酸ナトリウム、pK1が2.15およびpK2が7.2のリン酸ナトリウムまたは塩酸(HCl)が緩衝溶液の調製または前駆体分子溶液のpHの調製に採用される。前駆体分子(およびいずれかの添加物および/または生物活性剤)の混合後または混合中に、塩基は活性剤として反応の触媒として働くべきである。好ましくは、塩基性水溶液はpK値が9から13の範囲の少なくとも1つを有する活性剤として使用される。最も好ましくはpK2が10.33の炭酸ナトリウムまたはpK1が9.23およびpK2が12.74のホウ酸ナトリウムである。加えて、ホウ酸ナトリウムは殺菌特性を有し、そのため傷口への適用に有利に用いられる。他の一実施の形態においてグリシンがpK2が9.78の活性剤として用いられ得る。好ましくは、架橋時の組成物のpHは9から13の範囲、より好ましくは9.5から11.5の範囲、さらにより好ましくは9.8から11の範囲、さらにより好ましくは10.3から10.6の範囲である。
【0078】
硬膜シーラントとして用いられる組成物は適所にとどまり、直ちに漏出を防止するために非常に速い架橋時間を有するべきである。好ましくは組成物は2分未満で架橋し、より好ましくは1分未満および最も好ましくは5から20秒未満、そしてさらに好ましくは1から5秒未満で架橋する。
【0079】
生体材料の膨潤は、神経圧迫または局所貧血に繋がる組織の圧迫をもたらすことがあるため、制限されるべきである。前記で定義されたように、シーラントの膨潤は1.5を超えず、好ましくは1未満であり、より好ましくは0.5未満である。最も好ましくは膨潤の値は0.1から1.5の範囲であり、より好ましくは0.1から1の範囲であり、さらにより好ましくは0.1から0.8の範囲である。好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの前駆体分子がポリエチレングリコールよりも疎水性である分子を骨格として有する。たとえば、一実施の形態において、第1の前駆体分子はPEG骨格を有し、これは第2の前駆体分子がPEO/PPOブロック共重合体を骨格として有するものと組合せている。好ましくは両者の前駆体分子は3つまたは4つの末端官能性分岐を有する。最も好ましくは両者の前駆体分子は4つの末端官能性分岐を有する。好ましくは、第1の前駆体分子はPEGテトラチオール(式II)であってその分子量が4kDおよび11kDの範囲であり、より好ましくは5kDから10kDの範囲である。第2の前駆体分子は好ましくはTetronic(登録商標)テトラアクリレート(式I)であって、分子量が15kDから20kD、より好ましくは約15kDを有する。特に良好なシーラント材料の特性は、5kDまたは10kDのPEGテトラチオールをTetronic(登録商標)テトラアクリレートと組合せたときにもたらされる。第2の前駆体分子(求電子前駆体)で生体材料を形成するものの濃度は、8%から18%w/wの範囲であり、より好ましくは10%から16%w/wの範囲、そして最も好ましくは12%から14%w/wの範囲である。第1の前駆体の分子(求核前駆体分子)の濃度は第1および第2の前駆体分子の間の官能基の所望の比率によって計算され、調製される。前駆体分子の濃度の範囲は、さらに膨潤、ゲル化および生体材料の吸収時間に重要な影響を有し、このため最適な範囲はシーラントの最終的な特性にとって重要である。前駆体分子を低濃度で開始するとゲル化時間を延長することになるが、膨潤の程度が小さい生体材料を得ることができる。さらなる一実施の形態において、生体内での生体材料の分解は12週未満である。
【0080】
III.生体材料の形成方法
A.保存
第1および第2の前駆体分子は、好ましくは、使用前に官能基の分解を防ぐために、酸素不存在下の領域中で、低温、たとえば約+4℃で保存されることが好ましい。前駆体分子は乾燥粉末または緩衝液中の溶液として保存され得る。一実施の形態において、2つの前駆体分子は酸性酢酸ナトリウム緩衝液中で水溶液として保存される。他の一実施の形態において、第1の前駆体分子は乾燥粉末として保存され、第2の前駆体分子は酸性pHを有する溶液中に保存される。
【0081】
B.組織シーラントのための組成物の調製
生体材料、特に組織シーラントを形成するための組成物は、以下の一般的な方法で調製され得る:
a) 少なくとも1つの求核基、好ましくは4つの求核基を有する第1の多官能前駆体分子を準備する、これは選択的に添加物および/または生物活性剤を含む;
b) 少なくとも2つの求電子基、好ましくは4つの求電子基を有し、工程a)の求核基と生理的条件下で共有結合を形成する能力を有する、第2の多官能前駆体分子を準備する、ここで選択的に添加剤および/または生物学的活性剤を含む;
c) 工程a)およびb)を、好ましくは酸性pHを有する緩衝液に溶解する;
d) 工程c)で得られた前駆体分子溶液を混合する;および
e) 工程d)またはその後に塩基性水溶液を添加し、好ましくは水溶液緩衝液はpHが9から13の範囲であり、前記第1および第2の前駆体分子水溶液の間の架橋反応を開始させる。
【0082】
好ましい一実施の形態において、生体材料を作製する方法は以下の工程を含む;
i) 第1の前駆体分子であって、ポリ(エチレングリコール)系ポリマーであって、x個の末端チオール基を有し、ここでxは2以上であり、好ましくは3,4,5,6,7または8のものを準備する;
ii) 下記一般式の第2の前駆体分子を準備する;
A−[(C
3H
6O)
n−(C
2H
4O)
m−B]
i
mおよびnは1から200の整数であり、
iは2を超える、好ましくは3,4,5,6,7または8であり、
Aはカーボン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびエチレンジアミンから選択され、
Bは共役不飽和基である。
iii) 工程i)およびii)の前駆体分子を塩基存在下で反応させ架橋三次元網目を形成する。
【0083】
第1および第2の前駆体分子が混合されたときに、溶液が酸性のpHの場合は、架橋はゆっくりとした速度(10分から数時間)で起こる。混合物が投与の前にゲル化点に達することを防ぎ、連続的な予め定められた時間で生体材料を形成するために、前駆体分子を酸性pHの溶液で保存することが必要である。好ましくは、溶液のpHは2から6の範囲であり、より好ましくは2.5から5.5の範囲である。好ましい酸性水溶液は、酢酸緩衝液または塩酸水溶液によって得られる。
【0084】
好ましい一実施の形態において、第1および第2の前駆体分子は酸性pHを有する緩衝液に溶解される。他の好ましい実施の形態において、第1の前駆体分子は乾燥粉末であり、第2の前駆体分子は酸性pHを有する緩衝液に溶解されており、そして2つの前駆体分子は塩基に接触する前に混合される。第1および第2の前駆体分子、存在する場合は、いずれかの添加剤および/または生物活性剤は選択的に混合の前に殺菌される。これは好ましくは前駆体成分および他の可溶性成分の細菌ろ過と、不溶性成分のガンマ線照射によって行なわれる。前駆体分子で工程a)、b)で得られたものおよび/または工程d)で得られた混合物は好ましくは低温下において長期間保存され得る。適用の前に、前駆体分子(および存在するのであれば他の成分)はお互い混合され、そして第2に活性剤として塩基性水溶液と混合される。塩基性水溶液の導入の際には、組成物は迅速にゲル化する。好ましくは、塩基性水溶液を有する組成物のpHは9から13の範囲であり、より好ましくは9.5から11.5の範囲であり、さらにより好ましくは9.8から11の範囲であり、さらにより好ましくは10.3から10.6の範囲であり、これはゲル化が2分未満、好ましくは10秒未満、より好ましくは5秒未満で起こることを可能にする。混合はさまざまな方法がある。一実施の形態において3つのシリンジであって、1つは求核前駆体を含み、他は求電子前駆体を含み、そして3つめは塩基性水溶液を含むものが3方向接続デバイスを用いて相互に連結される。シリンジの内容物は、3方向連結デバイスの排出口に存在する静的混合物を強く押すことによって混合される。組成物は静的ミキサを注射針に接続することによって、生体の処置が必要な場所に直接的に注射される。第2の実施の形態において、前駆体分子溶液の1つは塩基性溶液と混合される。これは塩基性溶液を含むシリンジを、好ましくは求電子前駆体(選択的には添加剤および/または生物活性剤も含む)を含むシリンジを接続デバイスを通じて接続し、それはそれぞれの内容物をシリンジからシリンジを通じた混合を可能にする。静的ミキサは接続デバイスの一部でもあり得る。混合は均質混合物が得られたときに完了する。混合の後に、1つのシリンジは塩基/前駆体分子の混合物を含み、他のシリンジは空となる。次に、空のシリンジは接続デバイスから取り除かれ、他の前駆体分子と、選択的に、さらに添加剤および/または生物活性剤を含むものを含むシリンジに置換えられる。再び、シリンジからシリンジの混合がそれぞれの内容物の均質混合物を得るための1つの方法である。続いて混合物を含むシリンジは、注射針に接続され、組成物は生体の必要な部位に注射される。
【0085】
代替的に、塩基/前駆体混合物を含むシリンジと、他の前駆体を含むシリンジは、2方向接続デバイスであって、その排出口に静的ミキサを含むものを通じて相互に接続される。2方向接続デバイスは2つの区画を有するシリンジであり得る。内容物は静的ミキサを通じてシリンジの内容物を押し出すことによって混合される。静的混合物は注射針に直接に接続されるか、または、混合物はさらなるシリンジに押出され、その後注射針に接続される。
【0086】
好ましい実施の形態において、第1および第2の前駆体分子溶液、好ましくは第1および第2の前駆体分子が酢酸ナトリウム緩衝液に溶解されているものが混合され(いずれかの添加物または生物活性剤を必要であればともに)、活性化剤、塩基性溶液とともに組織上に噴霧される。
【0087】
IV.in situ架橋可能な組成物の形成のためのキット
本発明のキットは、本発明に係る生体材料を形成するために用いられる部品のセットである。キットは少なくとも1つの第1の前駆体成分および1つの第2の前駆体成分を含む。キットは1つ以上の機器を含むことができ、たとえばそれはシリンジまたは2つの区分を有するシリンジであり、それは第1および第2の前駆体分子とさらにいずれかの添加剤および/または生物学的活性剤を投与するためである。キットはさらに前駆体分子および塩基性水溶液を保存するための容器を含むことができる。キットはまた複数の容器の内容物をお互いに移送するためまたは容器の内容物を2つの区画を有するシリンジに移送するための無針機器を含むことができる。選択的に、キットはまた塩基性水溶液を含むことができる。好ましくは、塩基は第3の容器に保存される。選択的に、第1および/または第2の前駆体分子は1つ以上の添加剤および/または生物学的活性剤を含む。前駆体分子は患者に投与する前に1つ以上の機器に入れることができる。キットはまた染料、たとえばメチレンブルー、リサミングリーンまたはファストグリーンを含むことができ、それは生体材料の可視化を容易にするために生体材料に添加することができる。好ましい一実施の形態、および特に適切な生体材料の適用において、前駆体分子水溶液は2つの区画を有する機器の1つの区画に保存され、塩基性水溶液は同じ機器の第2の区画に保存される。機器の排水口はスプレーノズルを含み、それは典型的に静的ミキサと接続され、塩基性水溶液を前駆体分子水溶液と混合するのを最適化する。前駆体分子水溶液(およびいずれかの添加剤または生物学的活性剤、必要であれば)は予め混ぜられた状態で区画に含まれることができ、または前駆体分子は区画の中で膜によって分離されており、その膜は取り除くことまたは破壊されることによって分子の混合を可能にする。
【0088】
他の一実施の形態において、キットはガラス製バイアルであり得、第1の前駆体分子を乾燥粉末として含む、第1の容器(真空条件下)と、ガラス製バイアルであり得、第2の前駆体分子であって、酸性pHを有する水性緩衝溶液に溶解されたものを含む第2の容器とを含む。選択的に、第1または第2の容器は1つ以上の色素トロピック剤およびX線不透過性物質または着色剤よりなる群から選択される1つ以上の添加剤を含むことができる。第2の容器の内容物は無針移送機器(Mix2Vial(登録商標)20/20、Wcst社製)を通じて第1の容器に移送される。その後第1および第2の前駆体分子は混合され、酸性pHを有する水性緩衝水溶液中に溶解される。第3の容器は、ガラス製バイアルであり得、塩基性水溶液を含む。好ましくは、2つの区画を有するシリンジは2つの充填アダプタを装着している。2つの区画を有するシリンジの2つの区画は、異なる容量を有する。好ましくは、前駆体分子の混合物を受取る区画の容量は、塩基性水溶液を受取る区画の容量の10倍以上である。前駆体分子を含む容器と塩基を含む容器は結合手段に接続され、それらの内容物はシリンジのピストンを引くことによって、シリンジの2つの区画に同時に移送される。結合手段と2つの容器はシリンジから取り除かれ、シリンジには取外し可能なスプレーノズルが備え付けられる。前駆体分子溶液および塩基性水溶液の混合はスプレーノズルで行なわれ、得られた緊密な混合物は所望の場所に噴霧される。
【0089】
V.組成物の使用
多官能の前駆体成分は所望の特性を有する生体材料を生産するために選択され、調製される。前駆体分子は生理的温度において、シーラントの特定の要求までin situ架橋することが可能である。好ましい一実施の形態において、本発明の組成物および生体材料は生体液の損失の防止、減少、阻害または抑制のために使用される。他の一実施の形態において、本発明の組成物および生体材料は組織の表面を被覆するのに用いられる。
【0090】
A.組織シーラント
一実施の形態において本発明の組成物および生体材料は組織シーラントとして用いられる。好ましい一実施の形態において、in situ架橋可能な組成物は生体液の損失の減少、阻害または抑制するための被覆材、障壁またはシーラントを形成するための生体材料を形成する。特に、生体材料は医療行為の後の体液損失の阻害、減少または抑制のために用いることができる。好ましい医療行為としては、限定されるものではないが、脳または脳神経外科手術がある。
【0091】
B.組織シーラント以外の医学的適応
開示された生体材料は外科的手段における使用に限定されるものではない。生体材料は、いずれかの体の部位における創傷の創傷被覆材として用いられ得る。一実施の形態において、生体材料は外傷からの血液損失を防止または減少するための被覆材の分野でも用いられ得る。他の一実施の形態において、生体材料は手術後の抗接着を減少または防止するために用いられ得る。
【実施例】
【0092】
材料
エチレンジアミンテトラキス(ポリ(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ブロック共重合体)(BASF社製のtetronic(登録商標)1107mol.wt.15kD)がアクリレート基によって末端官能基化され、エチレン、ジアミン、テトラキス((ポリ(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ブロック共重合体)−アクリレート)(テトロニック−テトラアクリレート、分子量15kD)となり、これはBiomaterials 25(2004)に記載された方法による。
【0093】
緩衝液の調製
0.3Mトリエタノールアミン(TEA)が、1.11gをmilli−Q水25ml中に溶解し、pHを5M塩酸の添加により調節して調製された。
TBSが、NaCl 8g、KCl 0.2gおよびトリス塩3gをMilliQ水1Lに溶解し、pHを5M NaOHで調節して調製された。
グリシン緩衝液:グリシン7.5gおよびNaCl 5.85gをMilliQ水1Lに溶解し、pHを5M NaOHで調節して調製された。
酢酸緩衝液:10mM acidic acidおよび10mMの酢酸ナトリウム緩衝液がMilliQ水で調製された。2つの緩衝液は所望のpHを得るための比率で混合された。
ホウ酸緩衝液:100mMホウ酸緩衝液および50mMテトラホウ酸ナトリウム十水和物緩衝液が調製された。2つの緩衝剤は所望のpHを得るための比率で混合された。
炭酸塩緩衝液:100mM炭酸ナトリウム緩衝液および100mM重炭酸塩ナトリウム緩衝液がMilliQ水で調製された。2つの水溶液は所望のpHを得るための比率で混合された。
【0094】
ゲル化試験
ゲル化時間を評価するために、第1の前駆体分子水溶液および第2の前駆体分子水溶液について、表2に示される特定の量を、エッペンドルフチューブにピペッティングした。ゲル化の早い材料については、それぞれの第1の前駆体水溶液の水滴(同じ容量)が第2の前駆体水溶液に早期に接触するのを防ぐために、内部の壁に置かれた。エッペンドルフをボルテックスに設置するのと同時に、タイマーで計測を開始した。水溶液は正確に5秒間混合された。混合した直後に、混合溶液は針で探査され、そして“ゲル化点”(引抜いた後に針に細い糸が残る点)記録時間、細い糸が水溶液から引抜かれたときに針に付着し続けている時点、が“ゲル化点”として記録された。ゲル化の早い組成については、5秒での探査後の状態が記録された(たとえば細い糸、太い糸および/または硬いゲル)。代替的に、混合はシリンジからシリンジへの混合によっても行なわれた。これについては、第1の前駆体分子溶液および第2の前駆体分子溶液がシリンジに摂取され、それらのシリンジは連結器で接続され、水溶液は10回押戻したり押出されたりされた。混合液は秤量皿に移され、ゲル化点が上記の“針探査”に示されたもので計測された。初期のゲル化の後に、ヒドロゲルは典型的に、広範囲な架橋が達成されるまで粘着性を維持している。材料が完全な架橋(粘着性の特性を創出している)に要する時間は“固定時間”として記録され、これはその時間の後は材料が触られても損傷しないものである。
【0095】
実施例1:組織シーラント組成物
1a:組成物1:テトロニック−テトラアクリレートおよびPEG−SH−10
第1の前駆体分子溶液
ポリ(エチレングリコール)テトラスルフィドリル(“PEG−SH−10”)(分子量10kD)235mgおよびリサミングリーン0.1mgが、pH5の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)315mgがpH5の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
塩基性溶液
pH9.8の50mMホウ酸緩衝液0.22mL
1b:組成物2:テトロニック−テトラアクリレートおよびPEG−SH−5
第1の前駆体分子溶液
ポリ(エチレングリコール)テトラスルフィドリル(“PEG−SH−5”)(分子量5kD)112mgおよびリサミングリーン0.1mgが、pH5の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)315mgが、pH5の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
塩基性溶液
pH10.4の50mMホウ酸緩衝液0.22mL
1c:組成物3:テトロニック−テトラアクリレートおよびPEG−SH−5
第1の前駆体分子溶液
ポリ(エチレングリコール)テトラスルフィドリル(“PEG−SH−5”)(分子量5kD)168mgが、pH4.9の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)472mgが、pH4.9の20mM酢酸緩衝液2mLに溶解される。
塩基性水溶液
pH11.0の250mM炭酸塩緩衝液0.3mL
1d:組成物4:テトロニック−テトラアクリレートおよびPEG−SH−5
第1の前駆体分子溶液
ポリ(エチレングリコール)テトラスルフィドリル(“PEG−SH−5”)(分子量5kD)192mgが、pH4.9の5mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)472mgが、pH4.9の15mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
塩基性溶液
pH11.0の250mM炭酸塩緩衝液0.3mL
1e:組成物5:テトロニック−テトラアクリレートおよびDTT
第1の前駆体分子溶液
ジチオスレイトール(DTT、分子量154g/mol)2.5mgが、pH8.5の0.3Mポリエタノールアミン緩衝液500μLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)120mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液500μLに溶解される。
または
第1の前駆体分子溶液
ジチオスレイトール3.15mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液500mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)150mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液500μLに溶解される。
【0096】
1f:組成物6:テトロニック−テトラアクリレートおよび2分岐PEG−SH−3.4
第1の前駆体分子溶液
ポリ(エチレングリコール)ジスルフィドリル(“PEG−SH−3.4”)(分子量3.4kD)156mgが、pH5.5の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)315mgが、pH5.5の10mM酢酸緩衝液1mLに溶解される。
塩基性溶液
pH10.0の250mM炭酸塩緩衝液0.3mL
1g:組成物7:テトロニック−テトラアクリレートおよび8分岐PEG−SH−10第1の前駆体分子水溶液
8分岐ポリ(エチレングリコール)オクタスルフィドリル(“8 arm PEG−SH−10”)(分子量5kD)161mgが、pH4.9の10mMの酢酸1mLに溶解される。
第2の前駆体分子
テトロニック−テトラアクリレート(15kD)472mgが、pH4.9の20mM酢酸2mLに溶解される。
塩基性溶液
pH11.0の0.25M炭酸ナトリウム緩衝液0.3mL
1h:組成物8:テトロニック−テトラアクリレートおよび4分岐PEG−SH−5
472mgのテトロニック−テトラアクリレート,15kD
492mgのPEG−テトラジオール、5kD
0.55mg塩酸
9.5mg炭酸ナトリウム
0.15mgメチレンブルー水溶物
投与のための水3.3g
キットの準備
HCl貯蔵液5mMが、100mM HCl溶液5mLをmilli−Q−水95mLに希釈して準備された。メチレンブルー貯蔵液、1mg/mLで5mM塩酸中のものが20mgのメチレンブルーを20mLのHCl貯蔵液に溶解して準備された。テトロニック−テトラアクリレート再構成のための緩衝液が、5mM HClと0.05mg/mLメチレンブルーから調製された。これはHCl貯蔵液で1:20の比率で希釈され、pHは2.3−2.6の範囲内に調整された。塩基性溶液(炭酸塩緩衝液)のpHは11.35−11.45の範囲内に調整された。472mgのテトロニック−テトラアクリレートは3mLの冷却緩衝液テトロニック−テトラアクリレート中に溶解され、可溶化を容易にするために5分間保存された。溶液は1分間3000rpmで遠心分離され、空気の泡を取除かれ、PEG−テトラジオール192mgを含むバイアルにピペッティングされそしてやさしく振ることによって溶解された。ポリマー再構成の後、混合液3mLは1:10の2つの区画を有するシリンジの大きな区画に移送された。小さな区画は0.4mLの300mM炭酸ナトリウムで満たされている。プランジャが挿入され、空気が注意深くシリンジから取除かれ、スプレーノズルが取付けられた。
【0097】
1i:DuraSeal(登録商標)の準備
DuraSeal(Confluent Surgical Inc社)(登録商標)が取扱説明書に従って準備された。
【0098】
1j:組成物10:テトロニック−テトラアクリレートおよび2分岐PEG−SH−3.4
ポリ(エチレングリコール)ジスルフィドリル(“PEG−SH−3.4”)133mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液500μLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(“PEG−SH−3.4”)(分子量3.4kD)220mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液500μLに溶解される。
【0099】
1k:組成物11:テトロニック−テトラアクリレートおよび2分岐PEG−SH−3.4
ポリ(エチレングリコール)ジスルフィドリル(“PEG−SH−3.4”)(分子量3.4kD)107mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液1.5mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)220mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液500μLに溶解される。
【0100】
1l:組成物12:テトロニック−テトラアクリレートおよび2分岐PEG−SH−3.4
ポリ(エチレングリコール)ジスルフィドリル(“PEG−SH−3.4”)(分子量3.4kD)354mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液1.5mLに溶解される。
第2の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)240mgが、pH8.5の0.3Mトリエタノールアミン緩衝液100μLに溶解される。
【0101】
1m:組成物13:テトロニック−テトラアクリレートおよび2分岐PEG−SH−3.4
ポリ(エチレングリコール)ジスルフィドリル(“PEG−SH−3.4”)(分子量3.4kD)140.7mgが、pH10.1,9.8および9.6の100mMホウ酸緩衝液50μLに溶解される。
第1の前駆体分子溶液
テトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)286mgが、pH8.5の100mMホウ酸緩衝液50μLに溶解される。
【0102】
実施例2a:第1および第2の前駆体分子の混合物の安定性
第1の前駆体分子
194mgのポリ(エチレングリコール)テトラスルフィドリル(“PEG−SH−5”)(分子量5kD)が1mLの10mM酢酸緩衝液pH4.9に溶解される。緩衝液は100mMの酢酸緩衝液と100mMの酢酸ナトリウム緩衝液をpH4.9になるまで混ぜ、緩衝液を1:10v/vの比率で水に溶解する。
第2の前駆体分子溶液
545mgのテトロニック−テトラアクリレート(分子量15kD)が酢酸緩衝液pH4.9に溶解される。緩衝液は100mMの酢酸および100mMの酢酸ナトリウム緩衝液をpH4.9になるまで混合しそしてそのバッファを1:5v/vの比率で水で希釈する。
塩基性溶液
0.3mLの250mM炭酸塩緩衝液pH11.0
第1および第2の前駆体分子が30秒間ボルテックスで混合されたときのみに、ゲル化が30分以内に生じる。ゲル化時間が針を溶液に浸したり取出したりして測定され、その時間は糸が材料の高度な架橋を示すように形成されるまで計測された。前駆体分子の濃度が低いとき、たとえば前駆体分子溶液が実施例1cおよび1d(組成物3および組成物4)に示されるように調製されたときは、ゲル化は1時間後に初めて起こる。塩基性水溶液が前駆体分子の混合物に適用されると、両者の混合物のゲル化は数秒以内(10秒未満)である。
【0103】
実施例2b:対応するポリマー中に存在するアクリレートおよびチオール官能基の数の間の比率の効果
第1の前駆体分子溶液および第2の前駆体分子溶液であって実施例1.cで定義されたものは異なる容量比率で混合される(0.25:1、0.375:1、0.5:1、0.675:1および0.75:1)。これらの比率はチオールのモル濃度のアクリレートのモル濃度に対する比率で1:0.5、1:0.75、1:1、1:1.25および1:1.5に対応する。第1の前駆体分子溶液および第2の前駆体分子溶液はボルテックスで30秒間混合された。0.2mLの50mMホウ酸緩衝液pH9.3がその後追加され、その容量は前駆体分子水溶液の合計量の10分の1に対応する。混合物はボルテックスでちょうど5秒間混合された。針を溶液に浸したり出したりして、材料の高度な架橋を示す糸が形成されるまで測定された。10−11秒の最小ゲル化時間がアクリレート対チオールのモル比が1:1および1:0.75のサンプルで得られた。ゲル化時間は他の比率では13−15秒に上昇した。
【0104】
実施例3:生体材料の調製
3a:組成物1,2,3,4および6からの生体材料の調製
所望の部位に医薬組成物を適用する前に、第1および第2の前駆体分子溶液が連結器によって接続されている異なる2つのシリンジに充填される。第1および第2の前駆体分子溶液は1つのシリンジに含まれている材料を他のシリンジに移送することによって混合される(典型的には、溶液は10回押戻したり押出したりされる)。たとえ、混合物がその調製後10−20分間安定であっても、理想的には医薬組成物はその調整後5分以内に使用されるべきである。生体材料は、第1および第2の前駆体分子および活性化剤を含む混合物を散布チップまたは噴霧チップが装着された2つの区画を有する装置を用いて、異常部位に送達することにより、所望の部位にin situ形成される。生体材料は、2つの区画を有する装置の内容物の送達の1分未満の間で形成される。
【0105】
3b:組成物5,10,11,12および13からの生体材料の調製
第1および第2の前駆体分子溶液が、連結器で接続された2つの異なるシリンジに充填される。第1および第2の前駆体分子溶液は1つのシリンジに含まれている材料を他のシリンジに移送することによって混合される。ゲル化点はシリンジ内で到達し、生体材料はシリンジから押出され金型に送達される。
【0106】
3c:組成物7からの生体材料の調製
2つの前駆体分子がシリンジからシリンジへの混合方法によって混合される。塩基性溶液を追加せず、前駆体分子は30分以内にゲル化する。これは前駆体分子の混合液は使用前30分間保存され得ることを意味する。300μLの0.25M炭酸ナトリウム緩衝液、pH11.0が添加されたときは、ゲル化は数秒以内に生じた(5秒未満)。
【0107】
実施例4:生体材料の膨潤/分解
生体材料の膨潤および分解を評価するために、実施例1aおよび1bで記された組成物から生体材料が調製された。
【0108】
組成物を所望の場所に適用する前に、第1および第2の前駆体分子溶液が連結器で接続された2つの異なるシリンジ内に充填される。第1および第2の前駆体分子は1つのシリンジの内容物を他のシリンジに移送することによって混合される(典型的には、溶液は10回押戻したり押出されたりされる)。たとえ、混合物は調製後10−20分間安定していても(混合物が10〜20分間の前にはゲル化点に到達しないことにする)、組成物は理想的には調製後5分以内に使用されるべきである。生体材料は所望の部位においてin situで形成され、それは散布チップまたは噴霧チップのいずれかを備える2つの区分を有する装置を用いて第1および第2の前駆体分子および塩基性溶液を含む混合物を所望の部位に供給することによって行なわれる。生体材料は2つの区画を有する装置の内容物が運ばれた後5秒未満で形成される。組成物は秤量皿に広げられ、そして生体材料からなる1mmの層が形成される。反応溶液を含む秤量皿がその後37℃の腐植化環境に設置され、5分間硬化される。直径が1.2cmの3つのディスクがそれぞれのフィルムから切出される。試料はリン酸緩衝溶液(PBS)を含むチューブ内に置かれ、そして37℃のインキュベータに設置される。生体材料は、異なる時間点においてスパチュラを用いてチューブから取除かれる。生体材料は慎重にティッシュペーパーを用いて過剰な水を取除くように乾燥され、そして計量される。生体材料はその後それぞれのチューブに戻されそしてインキュベータに戻される。膨潤は実施例1aの組成物から形成された生体材料は0.87±0.11の値に到達し、実施例1bの組成物から形成された生体材料は0.32±0.06%に到達し、それはPBSで37℃で2日間の後である。両方の生体材料とも完全に28から35日以内に溶解した(
図1および2)。
【0109】
実施例5:圧縮試験
実施例1aに示されたような組成物1から形成された8つの生体材料の試料および実施例1bに示されたような組成物2から形成された生体材料の8つの試料が、組成物1および2 100μLを切断された1mLシリンジに充填して調製された。生体材料は5−10分間硬化され、その後金型から取除かれた。直径5mm、高さ11.5mmの円柱が得られた。4つの生体材料が10mM PBS pH7.4内に設置され、4つの生体材料は乾燥チューブ内に置かれた。チューブは37℃で24時間インキュベートされた。pH9.8および10.4を有する塩基性水溶液でのゲル化時間は、それぞれ均一の試料を作製するには非常に速かったため、塩基性溶液のpHはpH9.6まで下げられた。試料は“Zwick Matcrialprufung 1456”機器で計測された。ヤング係数(破屑係数)は50Nロードセルで決定され、最終強度は20kNロードセルであった。プレロード速度は0.05から0.1mm/sに上げられそして待ち時間は3sに減少された。ヤング係数は3%圧縮で計測され、しかし速度は0.08mm/sであった。同様の速度が圧力のための20kNロードセルにも適用され材料にひびが入るまで計測された。それぞれの生体材料の試料が乾燥状態で圧縮されそしてその後PBS中で24時間インキュベーションされた。99%まで圧縮されたときに、乾燥状態(空気中37℃で24時間保管された)で破壊された生体材料はなかった。湿潤状態では、障害の生じた圧力は組成物1から形成された生体材料では3.8±2.5N/mm
2であり、組成物2から形成された生体材料では1.51±0.17N/mm
2であった。障害の生じた圧力パーセントは組成物1から形成された生体材料では91±3%であり、組成物2から形成された生体材料では88±2%であった。ヤング係数が組成物1から形成された生体材料では0.125±0.005N/mm
2であり、組成物2から形成された生体材料では0.10±0.00N/mm
2であり、これは湿潤状態においてである。乾燥状態では、組成物2から形成された生体材料のヤング係数は0.561±0.152N/mm
2であり、これはヤング係数が0.152±0.024N/mm
2を示す組成物1から形成された生体材料よりも高かった。
【0110】
実施例6:生体材料の接着力および凝集力
生体材料の接着力および凝集力がバースト試験で試験された。バースト試験測定はASTMF−2329−04(外科的シーラントのバースト試験のための標準試験)に基づき行なわれた。関連する圧力センサ(DeltaOhm TP704−2BGI)が0−2bar(最大圧力4bar)および0.1mbarの結果の範囲内の測定に用いられた。一定の流量を有するシリンジポンプがポンプ作動液(Alaris, Asena GH)として使用される。バースト圧力試験のために、組成物8およびDuraSeal(登録商標)が実施例1hおよび1iに示されたように調製され、そして湿潤コラーゲン膜に適用される。同一のサンプル形状を保証するために、コラーゲン膜が覆いの下に置かれ、それを通じてシーラントが適用される。サンプルは覆いが慎重に取除かれる前に硬化される。サンプルの厚さおよび重さを計測した後に、サンプルは試験装置内に固定されそして別個に試験される。上昇する圧力、これはコラーゲンに作製済みの孔を通じてシーラントに直接的に働くものである、が持続的に計測される。シーラントが破裂した後に、ポンプは止めることができ、収集されたデータの評価を行なうことができる。異なるサンプルの特定の破裂力の比較を許容するために、その厚みが試験前に1mmに正規化された。2つの合成外科的シーラントのバースト試験は明らかにその障害に対する抵抗力について異なることが示された。一方、組成物8から形成された生体材料は平均240mmHgの圧力で破裂し、DuraSeal(登録商標)は平均74mmHgの圧力で破裂する。両方のシーラントの凝集障害率は90%であり、これは試験で用いられたコラーゲン膜への良好な接着を示す。
【0111】
実施例7:ヒツジ硬膜の外科的シーリング
3時間前に屠殺されたヒツジの硬膜が解剖された。皮膚が外科用メスを用いて取除かれ、頭蓋骨に骨ナイフを用いて長方形の切込みが作られた。頭蓋骨は持上げられ、そして硬膜はまだ一部が頭蓋骨に接着しているため、硬膜が頭蓋骨から慎重に切取られ、脳に戻された。組成物1および2(実施例1aおよび1bに示されたように)が硬膜上に薄いフィルムとして広げられ、1分間硬化された。体液の漏れは観察されなかった。丸く平坦なスパチュラが硬化した材料を硬膜から除去/剥がすのに用いられた。ゲルの外観、ゲル化時間、および接着力が1−5のスケールで定量的に評価された。ゲルの外観に関しては、グレード1は不均一なゲルに対応する。グレード2は大部分に凹凸があるゲルに、グレード3は凹凸のある部分がいくつかあるゲルに、グレード4は均一な滑らかなゲルに対応する。ゲル化時間については、グレード1は5−100%の組成物が流れ出すことに対応する。グレード2は約20−50%の組成物が流出すること、グレード3は約5−10%の組成物が流出すること、およびグレード4は約0−5%の組成物が流出することに対応する。接着力については、グレード1はゲルが力を加えずに剥がれることを意味する。グレード2はゲルが小さな力で剥がれること、グレード3はゲルを取除くのに中程度の力が必要とされること、グレード4はゲルを取除くのに微小な力が必要なこと、そしてグレード5はゲルが取除かれないことを意味する。組成物2については、pHがゲル化時間を減少させるために10.4まで上昇された。対照的に、組成物はまた脳に直接と同様に湿潤コラーゲン膜にも適用された。組成物から形成された両方の生体材料とも硬膜に良好に接着することがわかった(組成物1から形成された生体材料はグレード4、組成物2から形成された生体材料はグレード3)。生体材料の硬膜に対する接着力はコラーゲン膜に対する接着力よりも良好であることが示された。対照的に、生体膜をヒツジの脳(軟膜およびくも膜層で覆われている)に適用したときは、簡単に剥がすことができた。組成物1は迅速にゲル化し(グレード4)、適用の最終時点では、いくつかの凹凸のある部分が形成された、これは散布器に接触している半ゲル化材料によるものである(ゲル外観グレード4)。一方、組成物2はむしろ遅くゲル化し(グレード2)、とれは塩基性水溶液のpHが10.4まで上昇したときもであり、すべての生産物が適用部位にとどまるわけではなく側面に流出し、それは特に硬膜が水平でないときであった。しかしながら、材料が適用された場所では、材料の薄い膜が維持された。30秒以内に、材料は硬く粘着性のないヒドロゲルを形成した(外観グレード5)。
【0112】
実施例8:ヒツジ硬膜切断モデル
麻酔下のヒツジの硬膜を剥き出しにし、硬膜およびくも膜を2cm角の切断を作製し、脳脊髄液の漏出が起きるようにした。血管は大まかに4/0ポリプロピレン縫合糸を用いて修復したが、1mmの隙間が残った。実施例1hで示される組成物8が下記の方法で使用された。
【0113】
部品の滅菌
すべての塗布器部品、ポーチ、ガラス製バイアルおよび閉鎖器が21.8kGy量のガンマ線放射によって滅菌された。その後滅菌材料の操作のいずれも滅菌フードの中で行なった。緩衝液およびテトロニック−テトラアクリレート溶液は0.22μmPESシリンジフィルタを通じて滅菌ろ過された。PEG−SH−5はキット中に滅菌しないで供給され、そして0.22μmPESシリンジフィルタを通じて、キット準備中にテトロニック−テトラアクリレートとともに再構成された後に滅菌された。
【0114】
緩衝液の調製
塩基水溶液は炭酸ナトリウム1.59gを50mLの投与可能な水溶液に溶解して調製された。記録されたpHは11.38であった。
【0115】
テトロニック−アクリレート溶液は471mgのテトロニック−テトラアクリレートを3mLの5mM HClで0.05mg/mlメチレンブルーを含有するものに溶解することによって調製された。再構成は10−20秒間ボルテックスし、4℃で10分間溶液を保存し、2500rpmで5分間遠心分離することによって達成された。5mM HCl溶液は100mM HCl溶液を投与可能な水溶液に溶解することによって調製された。メチレンブルーは10mg/mlメチレンブルー濃度で、5mM HCl溶液中で準備されその後5mM HClで希釈された。
【0116】
無菌充填およびキットの包装
2つの区画を有するシリンジは滅菌前にピストンが取付けられる。400mLの炭酸ナトリウムがシリンジの小さいほうの区画に充填され、4スプレーヘッドおよびプランジャとともにポーチ1に梱包された。PEG−SH−5はポリマー192mgをガラス製バイアルに入れて準備した。ガラス製バイアルはエタノールが吹き付けられそして粉末がガラスバイアルに外側に触れずに注がれた。バイアルは波型キャップで栓をされた。テトロニック−テトラアクリレート溶液は20mLシリンジに摂取され、そして3.3mLはシリンジからシリンジ連結器を通じて5mLシリンジに移送された。シリンジは連結栓で締められた。バイアル、5mLシリンジ、ブルーおよびピンクの針およびシリンジフィルタがポーチ2に包装され熱癒着された。ポーチ1および2は大きなポーチにためられ、熱癒着された。キットは−10℃から−25℃未満で保存され、ドライアイスとともに輸送された。実験の当日に、キットは保存庫から取出され安全に解凍するまで常温に置かれた。使用時にキットは滅菌現場で開封された。テトロニック−テトラアクリレート溶液はPEG−SH−5粉末を含むバイアルに移送された。粉末はバイアルを1−2分間緩やかに攪拌することによって再構成された。混合物がシリンジに再び取出され、シリンジは滅菌フィルタおよびブルーの針に接続され、2つの区画を有するシリンジの大きな区画に移送された。取出し容器が2つの区画を有するシリンジに取付けられ、残存している空気が2つの区画を有するシリンジから取除かれた。スプレーノズルが2つの区画を有するシリンジに設置され、これで塗布器が使用できる状態になった。組成物は硬膜血管の上に噴霧され、生体材料が5秒未満で固形化した。硬膜血管は慎重にCSF漏出の再現を確認された。シーラントは手術中に体液漏出を止めることができた。生体材料は1週間後もまだ残存しているが12週間後に完全に吸収された。
【0117】
実施例9:高濃度でのテトロニック−アクリレートの熱ゲル化特性試験
組成物11(実施例1kとして記述)および組成物12(実施例1lとして記述)のゲル化特性が直鎖PEG−SH−3.4kDaとともに比較された。ゲル形成は組成物11における化学架橋を通じて起こると予測されそして組成物12では物理的方法(熱−ゲル化)とそれに伴う化学架橋を通じて生じると予測された。組成物11は30秒間のシリンジからシリンジへの混合の後1.5分以内にゲル化し、そして溶液を針を通じて秤量皿に適用した後2−3.5分の固定時間を有していた。組成物12の場合は、ゲルは37℃の周囲の水浴によって暖められた秤量皿に上に適用されたときに形成され、材料が下に流れ落ちるのが防止された。しかしながら、固定化時間は4−55分で上昇しており、ゲル化が組成物11より長かった。
【0118】
実施例10:pHの反応速度論への影響
組成物10(実施例1jとして調製)のゲル化時間対緩衝液のpHが
図3に示されている。これによるとゲル化時間はpHの上昇に伴って減少する。同様の反応が組成物13(実施例1mとして調製)でも観察された。