特許第5930373号(P5930373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930373
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】排水桝補強
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/02 20060101AFI20160526BHJP
   E03F 5/10 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   E03F5/02
   E03F5/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-19591(P2012-19591)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-159892(P2013-159892A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100942
【氏名又は名称】アイレック技建株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】梅田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】宮田 信二
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】中島 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】福井 準
(72)【発明者】
【氏名】硲 昌也
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−290846(JP,A)
【文献】 特開2001−228008(JP,A)
【文献】 特開平09−242342(JP,A)
【文献】 特開2008−088715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00−11/00
E02D 29/10−29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ケーブル、送電線、ガス管等を通す洞道の排水桝(1)を補強する構造において、排水桝(1)底壁(3)の上面が繊維強化プラスチック製の底壁補強部材(11)で覆われ、排水桝(1)の側壁(5)の内面が筒状をなす繊維強化プラスチック製の側壁補強部材(12)で覆われ、側壁補強部材(12)は、周方向に分割された複数の分割部材(17)から構成され、側壁補強部材(12)の分割部材(17)の外周下部は、底壁補強部材(11)の外周部に載置されて嵌合し、隣り合う分割部材(17)同士が接合され、分割部材(17)は、アンカー(33)により排水桝(1)の側壁(5)に固定されていることを特徴とする排水桝補強構造。
【請求項2】
排水桝(1)の側壁(5)の内面を覆う側壁補強部材(12)は、上下方向及び周方向に分割されて、各段が複数の分割部材(17)から構成され、下段側の分割部材(17)の外周下部が底壁補強部材(11)の外周部に載置されて嵌合し、下段側の分割部材(17)に上段側の分割部材(17)が載置され、上段側の分割部材(17)のみがアンカー(33)により排水桝(1)の側壁(5)に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の排水桝補強構造。
【請求項3】
排水桝(1)底壁(3)を覆う底壁補強部材(11)の材料として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)層から成るものが使用されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の排水桝補強構造。
【請求項4】
排水桝(1)の底壁(3)にモルタル(25)を打設する工程と、そのモルタル(25)の上面に繊維強化プラスチック製の底壁補強部材(11)を設置する工程と、排水桝(1)の側壁(5)の内面に沿う側壁補強部材(12)の周方向の分割部材(17)を底壁補強部材(11)の外周部に載せて嵌合させ、隣り合う分割部材(17)同士を接合する工程と、側壁補強部材(12)の分割部材(17)をアンカー(33)により排水桝(1)の側壁(5)に定着させる工程と、排水桝(1)の側壁(5)と側壁補強部材(12)の間にモルタル(35)を打設する工程とから成る排水桝補強方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の排水桝補強構造又は請求項4に記載の排水桝補強方法で使用するため、排水桝の壁面に対応する形状とされていることを特徴とする繊維強化プラスチック製補強部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洞道内に設けられた排水桝を補強する構造、方法及びこれらに使用する部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、特に都市部においては、通信ケーブル、送電線、ガス管等のライフラインを地中の洞道に通すことがあり、この洞道内には、浸入した水を集めて外部へ排出するため、排水桝が設けられている。
【0003】
このような排水桝として、例えば、図17に示すように、コンクリート製の底壁51、側壁52及び隔壁53を構築し、内部に隔壁53で区画された沈殿部54及び貯蔵部55を形成したものが知られている(下記特許文献1、段落[0002]〜[0005]及び図5参照)。
【0004】
この排水桝では、洞道内に浸入した水を導入口56を通じて沈殿部54に導入し、隔壁53の上部のスクリーン57により貯蔵部55への固形物の浸入を阻止して、沈殿部54に固形物を沈殿させ、貯蔵部55に溜まった水をポンプ58により外部へ排出する。
【0005】
また、この排水桝には、外部へ排出すると環境に悪影響を与えるおそれのある油を検出する油検知器59が設けられている。
【0006】
ところで、洞道は地下50m程の高深度に建設されることが多く、このような洞道の底壁部分に設けられる排水桝の壁面には、高い地下水圧が作用し、特に排水桝の底壁に作用する水圧は非常に高く、この水圧により排水桝の底壁にクラックが入る等の損傷が生じる場合がある。その対策として、排水桝の底壁や側壁を、鉄筋コンクリートを使用して補強することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−221124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、排水桝を鉄筋コンクリート構造により補強しようとすると、長い工事期間を要し、しかも鉄筋等の重量物を高深度の現場まで運び込む必要があるため、作業性も非常に悪いものとなる。
【0009】
そこで、この発明は、洞道の排水桝を、短い工事期間で、人力による重い作業負荷を伴うことなく補強できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明は、通信ケーブル、送電線、ガス管等を通す洞道の排水桝を補強する構造において、排水桝の少なくとも底部を、繊維強化プラスチック製補強部材で覆うこととしたのである。
【0011】
また、排水桝の側壁を、その内面に沿った筒状の繊維強化プラスチック製補強部材で覆うこととしたのである。
【0012】
さらに、繊維強化プラスチック製補強部材が複数の分割部材から構成されているものとしたのである。
【0013】
また、排水桝の底部を覆う繊維強化プラスチック製補強部材は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から成るものとしたのである。
【0014】
具体的な補強方法としては、排水桝の底壁にモルタルを打設する工程と、そのモルタルの上面に繊維強化プラスチック製の底壁補強部材を設置する工程と、底壁補強部材の外周部に載るように排水桝の側壁の内面に沿って側壁補強部材を設置する工程と、側壁補強部材をアンカーにより排水桝の側壁に定着させる工程と、排水桝の側壁と側壁補強部材の間にモルタルを打設する工程とから成るものとしたのである。
【0015】
そして、これらの排水桝補強構造又は排水桝補強方法で使用するため、繊維強化プラスチック製補強部材は、排水桝の壁面に対応する形状としたのである。
【発明の効果】
【0016】
この発明においては、軽量、高強度、高防食性を有する繊維強化プラスチック製補強部材を工場で製作して、現地組立により施工することにより、短い工事期間で、人力による重い資材の運搬等の作業を伴うことなく、所定の構造に施工することができる。
【0017】
また、繊維強化プラスチック製補強部材を、分割構造とすることにより、狭い通路を介して高深度の洞道まで人力で容易に搬入することができる。
【0018】
さらに、特に高い地下水圧が作用する底部の繊維強化プラスチック製補強部材の材料として、強度に優れたCFRPを使用することにより、軽量でありながら、高い耐水圧性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施形態に係る補強構造により補強した排水桝を示す斜視図
図2】同上の繊維強化プラスチック製補強部材その他の分解斜視図
図3】同上の底壁補強部材の分割部材を示す斜視図
図4】同上の底壁補強部材の分解斜視図
図5】FRPMの構造を示す斜視図
図6】CFRPの構造を示す斜視図
図7】同上の補強方法の準備工程を示す概略図
図8】同上の補強方法の第1工程を示す概略図
図9】同上の補強方法の第2工程を示す概略図
図10】同上の補強方法の第3工程を示す概略図
図11】同上の補強方法の第4工程を示す概略図
図12】同上の補強方法の第5工程を示す概略図
図13】同上の補強方法の第6工程を示す概略図
図14】同上の補強方法の第7工程を示す概略図
図15】同上の補強方法の最終工程を示す概略図
図16】同上の側壁補強部材の接合部分を示す拡大横断平面図
図17】従来の排水桝を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態として、排水桝を補強する構造、部材及び方法について、添付図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示すように、この排水桝1は、通信ケーブル、送電線、ガス管等を通す洞道の下床版2に設けられる円形断面のピットであり、コンクリート製の底壁3を設置し、底壁3の外周に沿って下枠4となるヒューム管を設け、下枠4の内側に側壁5となるヒューム管を設けて構築されている。
【0022】
このような排水桝1を補強する桝補強部材10は、図1及び図2に示すように、繊維強化プラスチックを材料とする円盤状の底壁補強部材11、その外周部に立設される円筒状の側壁補強部材12、側壁補強部材12の内側において底壁補強部材11の直径部分から立ち上がる隔壁部材13及び底壁補強部材11の上に載置される底板14から構成され、隔壁部材13により排水桝1の内部空間が沈殿部と貯蔵部とに区画される。
【0023】
底壁補強部材11、側壁補強部材12及び底板14は、いずれも複数の構成部材から成る分割構造とされている。すなわち、底壁補強部材11及び底板14は、それぞれ中心角が90°の扇状の分割部材15,16から構成され、側壁補強部材12は、上下2段に分割されて、各段が湾曲した4枚の分割部材17から構成されている。
【0024】
これらの分割部材15,16,17は、人力での運搬時に負担とならないように、1個当たり25kg以下とされている。
【0025】
底壁補強部材11の分割部材15は、図3及び図4に示すように、扇形の外底板18の上にリブ側板19を2枚一組として井桁状に組んで固定し、各組のリブ側板19の間に発泡ウレタン等の発泡材を詰め、リブ側板19の上に格子状のリブ天板20を固定し、外底板18の半径部に径面板21を、円弧部に周面板22を固定した構成とされている。
【0026】
側壁補強部材12及び隔壁部材13の材料には、図5に示すように、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)層41の間に樹脂モルタル層42を挟んだ管用の繊維強化プラスチック複合材(FRPM)が使用されている。FRPMの曲げ強さは、コンクリートの約30倍以上となっている。
【0027】
底壁補強部材11の材料には、図6に示すように、繊維強化プラスチックの中でも特に強度に優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)層43から成るものが使用されている。CFRPの曲げ強さは、FRPMの約2〜6倍となっている。底板14の材料には、FRPが使用されている。
【0028】
上記各部材を使用して排水桝を補強するには、まず、図7に示すように、排水桝1の内部を清掃し、補強部材の設置準備を行う。
【0029】
次に、図8に示すように、排水桝1の底壁3に生じたクラック6及び下枠4と側壁5との間に、低粘度の合成樹脂薬液を高圧で注入する止水工法等により漏水防止処理を施し、底壁3にモルタル25を打設する。
【0030】
続いて、図9に示すように、分割部材15をボルト及びナットで接合し、円盤状に組み立てた底壁補強部材11を排水桝1の底部に降ろして、モルタル25の上に設置し、図10に示すように、底壁補強部材11の周囲と排水桝1の側壁5との間をエポキシ樹脂26でシールする。
【0031】
次に、図11に示すように、側壁補強部材12の下段側の分割部材17を底壁補強部材11の外周部に嵌め、隣り合う分割部材17の間にエポキシ樹脂27を詰めて円筒状に配置し、その上方にエポキシ樹脂27を介して上段側の分割部材17を載せ、隣り合う分割部材17の間にエポキシ樹脂27を詰めて円筒状に配置する。
【0032】
そして、図12及び図16に示すように、側壁補強部材12の隣り合う分割部材17の接合部分を、上下段の分割部材17に亘るステンレス製の接合金物28,29により、側壁補強部材12の内面及び外面から挟持し、ステンレス製のボルト30を、側壁補強部材12の内面側から接合金物28の貫穴を介して接合金物29のねじ穴にねじ込む。
【0033】
また、この接合部分に、強度及びシール性向上のため、ハンドレイアップ法等によりFRP層31を形成する。
【0034】
ここで、FRP層31は、接合金物28の表面側を覆うように形成してもよく、分割部材17と接合金物28の間に形成してもよい。また、FRP層に代えて、紫外線の照射等で硬化する光硬化性シート等を使用してもよい。
【0035】
そして、側壁補強部材12の外面と排水桝1の側壁5の間には、スペーサー32を介在させる。
【0036】
続いて、図13に示すように、側壁補強部材12に形成された貫穴を介して、樹脂アンカー33を側壁5及び下床版2の削孔に挿入して定着させ、アンカー33の頭部と側壁補強部材12の貫穴との間をエポキシ樹脂34でシールした後、図14に示すように、側壁補強部材12の外面と側壁5の間に無収縮モルタル35を打設する。
【0037】
そして、図15に示すように、底壁補強部材11の直径部分の溝に隔壁部材13の下部を嵌め込んで、隔壁部材13を立設し、底壁補強部材11の上に底板14の分割部材16を円板を構成するように載せ、隔壁部材13と側壁補強部材12とを接合金物28で固定し、隔壁部材13と底板14とをステンレス製の接合金物36で固定する。
【0038】
最後に、側壁補強部材12と底板14の間、隔壁部材13と底板14の間、底板14の隣り合う分割部材16の間をそれぞれエポキシ樹脂でシールし、側壁補強部材12の上部と側壁5の間をエポキシ樹脂37でシールする。このように施工すると、外水圧により底壁補強部材11に作用する上揚力をアンカー33で受ける補強構造が構成される。
【0039】
上記のような桝補強部材10を使用して排水桝1を補強する方法では、軽量、高強度で高防食性を有する繊維強化プラスチック製の底壁補強部材11、側壁補強部材12、隔壁部材13及び底板14を工場で製作し、現地組立により施工するので、短い工事期間で、人力による重い資材の運搬等の作業を伴うことなく、所定の構造に施工することができ、現場コストを抑制しつつ、長期耐久性を有する補強が可能となる。
【0040】
また、底壁補強部材11、底板14及び側壁補強部材12を、それぞれ分割部材15,16,17から構成された分割構造としたので、狭い通路を介して高深度の洞道まで人力で容易に搬入することができる。
【0041】
さらに、特に高い地下水圧が作用する底壁補強部材11の材料として、強度に優れたCFRPを使用し、その断面形状をリブ構造としたので、軽量でありながら、高い耐水圧性能を得ることができる。
【0042】
なお、上記実施形態では、既設の排水桝1の補修に適用する場合を例示したが、この桝補強部材10を使用した補強方法は、新設の排水桝1の補強に適用することもできる。
【0043】
また、底壁補強部材11の材料としてCFRPを、側壁補強部材12及び隔壁部材の材料としてFRPMを、底板14の材料としてFRPをそれぞれ使用したが、排水桝1の条件に応じてこれらの材料を替えることにより、品質を確保しつつコストを抑制できる。
【0044】
また、接合部分のシール材としてエポキシ樹脂を使用したが、水質条件に応じて、ビニルエステル樹脂等、他のシール材を使用することもでき、これにより、止水性を確保し、耐用年数の長期化を図ることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 排水桝
2 下床版
3 底壁
4 下枠
5 側壁
6 クラック
10 桝補強部材
11 底壁補強部材
12 側壁補強部材
13 隔壁部材
14 底板
15,16,17 分割部材
18 外底板
19 リブ側板
20 リブ天板
21 径面板
22 周面板
25 モルタル
26,27 エポキシ樹脂
28,29 接合金物
30 ボルト
31 FRP層
32 スペーサー
33 アンカー
34 エポキシ樹脂
35 モルタル
36 接合金物
37 エポキシ樹脂
41 FRP層
42 樹脂モルタル層
43 炭素繊維強化プラスチック層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17