(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題に対応するために、強化ガラス(保護部材)の上にタッチパネルセンサーを形成する方法が採用されつつある。この場合、強化ガラスには、(1)高い機械的強度を有すること、(2)大型の強化用ガラスを大量に成形するために、オーバーフローダウンドロー法、スリットダウンドロー法等のダウンドロー法、フロート法等に適した液相粘度を有すること、(3)成形に適した高温粘度を有すること、(4)低密度であること等が求められる。
【0009】
更に、タッチパネルでは、指入力だけでなく、ペン入力等による細かな情報の検知が要求されるが、この場合、タッチパネルが検知する信号の分解能を高める必要がある。つまりタッチパネル上に形成される透明導電膜の配線パターンを緻密化する必要がある。その結果、配線パターン上に多くのセンサーが配置されることになって、電気抵抗が高くなり、この場合、電気信号に遅延が生じ、スムースな操作感が得られなくなる。
【0010】
ITO等の透明導電膜を高温で形成すると、透明導電膜の結晶性が高まり、電気抵抗を低下させることが可能になるが、強化ガラスを高温で熱処理すると、圧縮応力が消失したり、ガラスが熱収縮して正確なパターニングを行うことできないという問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みて創案されたものであり、その技術的課題は、上記要求特性(1)〜(4)を満たすと共に、高温で熱処理しても、圧縮応力が消失し難く、且つ熱収縮し難い強化ガラスを作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、所定の強化用ガラスを強化処理して、強化ガラスを得ることにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜75%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜8%、SrO+BaO 0〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 0〜14%を含有
し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5であることを特徴とする。ここで、「SrO+BaO」は、SrOとBaOの合量である。
【0013】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜75%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜4%、SrO+BaO 0〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 0〜10%を含有
し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5であることが好ましい。
【0014】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜63%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜4%、SrO+BaO 0.1〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 1〜10%を含有
し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5であることが好ましい。
【0015】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜63%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜4%、SrO+BaO 0.1〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 1〜10%を含有し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5であることが好ましい。ここで、「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量である。
【0016】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜63%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜3%、CaO 0.1〜15%、SrO 0.1〜13%、SrO+BaO 0.1〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 1〜8%を含有し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.0であることが好ましい。
【0017】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜63%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜2%未満、CaO 2〜15%、SrO 5〜13%、BaO 0.1〜8%、SrO+BaO 5.1〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 1〜8%を含有し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜0.8であることが好ましい。
【0018】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜63%、Al
2O
3 12〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜2%未満、CaO 2〜15%、SrO 8〜13%、BaO 2〜8%、SrO+BaO 10〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 1〜8%を含有し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜0.5であることが好ましい。
【0019】
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、圧縮応力層の厚み(応力深さ)が5μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」、「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計で干渉縞の本数とその間隔を観察することで算出することができる。
【0020】
本発明の強化ガラスは、内部引っ張り応力が50MPa以下であることが好ましい。ここで、「内部引っ張り応力」は、下記の数式1により算出することができる。なお、数式1における肉厚は、平板形状の場合、板厚に相当する。
【0021】
【数1】
【0022】
本発明の強化ガラスは、
30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が50×10
−7〜100×10
−7/℃であることが好ましい。ここで、「
30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数」とは、ディラトメーター
により測定した値を指す。
【0023】
本発明の強化ガラスは、歪点が550℃以上であることが好ましい。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0024】
本発明の強化ガラスは、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度が1550℃以下であることが好ましい。ここで、「高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0025】
本発明の強化ガラスは、液相温度が1200℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0026】
本発明の強化ガラスは、液相粘度が10
3.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0027】
本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板に用いることが好ましい。
【0028】
本発明の強化ガラスは、薄膜化合物太陽電池の基板に用いることが好ましい。
【0029】
本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板に用いることが好ましい。
【0030】
本発明の強化ガラスは、フロート法で平板形状に成形されてなることが好ましい。
【0031】
本発明の強化ガラスは、(徐冷点+30℃)から(歪点−70℃)の温度域を平均冷却速度200℃/分以下で冷却することにより作製されてなることが好ましい。ここで、「徐冷点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0032】
本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜75%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜8%、SrO+BaO 0〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 0〜14%を含有
し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5であることを特徴とする。
【0033】
本発明の強化用ガラスは、厚みが2mm以下であり、強化処理(460℃のKNO
3中に6時間浸漬)後に500℃1時間の条件で熱処理した時の熱収縮量が250ppm以下であることが好ましい。ここで、「熱収縮量」は、例えば、以下の手順で算出することができる。
図1に示す通り、平板形状のガラス1の2箇所に直線状のマーキング2を入れた後、マーキング2間の距離l
0を測定する。次に、ガラス1をマーキング2に対して垂直に折り割り、2つの試験片に分割する。更に、一方の試験片のみに強化処理を施した後、強化処理後の試験片1aと強化処理していない試験片1bとを並べて、接着テープで両者を固定してから、マーキングのずれ△L
1、△L
2を測定する。この時、△L
1、△L
2は、強化処理後の試験片1aのマークキング2の位置が強化処理していない試験片1bのマークキング2の位置よりも内側にある場合を正の値とし、下記数式2を用いて、体積変化量S1を算出する。なお、強化処理は、460℃のKNO
3中に6時間浸漬することで行う。続いて、強化処理済のガラス1のみに熱処理を施す。熱処理は、500℃まで+3℃/分で昇温し、500℃で1時間保持した後、−3℃/分で室温まで降温するという条件で行う。その後、熱処理後の試験片1aと熱処理(及び強化処理)していない試験片1bとを並べて、接着テープで両者を固定してから、マーキングのずれ△L
1、△L
2を測定する。この時、△L
1、△L
2は、熱処理後の試験片1aのマークキング2の位置が熱処理していない試験片1bのマークキング2の位置よりも内側にある場合を正の値とし、下記数式2を用いて、体積変化量S2を算出する。最後に、数式3を用いて、強化用ガラスの熱収縮量Sを算出する。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【発明を実施するための形態】
【0037】
ガラスの表面に圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、歪点以下の温度でイオン交換することにより、イオン半径の大きいアルカリイオンをガラスの表面近傍に導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが薄くても、所望の圧縮応力層を形成することができる。また、風冷強化法等の物理強化法とは異なり、化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、強化処理後にガラスを切断しても、ガラスが容易に破損することがない。
【0038】
イオン交換処理は、例えば400〜550℃のKNO
3溶融塩中にガラスを1〜24時間浸漬することで行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性、用途、板厚、内部引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。なお、KNO
3溶融塩中のKイオンとガラス中のNa成分をイオン交換すると、圧縮応力層を効率良く形成することができる。
【0039】
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜75%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜8%、SrO+BaO 0〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 0〜14%を含有
し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5である。上記のように各成分の含有範囲を規制した理由を以下に説明する。
【0040】
SiO
2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiO
2の含有量は45〜75%、好ましくは45〜70%、より好ましくは45〜63%、更に好ましくは48〜60%、最も好ましくは50〜58%である。SiO
2の含有量が多過ぎると、溶融、成形が困難になることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。一方、SiO
2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0041】
Al
2O
3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。Al
2O
3の含有量は10〜25%である。Al
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなり、ガラスを成形し難くなる。また、Al
2O
3の含有量が多過ぎると、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなったり、高温粘度が高くなり、ガラスを溶融し難くなる。一方、Al
2O
3の含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。Al
2O
3の好適な下限範囲は11%以上、12%以上であり、好適な上限範囲は22%以下、20%以下、18%以下、16%以下、15%以下である。
【0042】
B
2O
3は、高温粘度、密度を低下させる効果を有すると共に、ガラスを安定化させて、結晶を析出し難くし、液相温度を低下させる効果を有する成分である。B
2O
3の含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜1%であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にB
2O
3を含有しない」とは、ガラス組成中のB
2O
3の含有量が0.1%未満の場合を指す。B
2O
3の含有量が多過ぎると、歪点が低下したり、イオン交換処理によってガラスの表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
【0043】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が高い成分である。MgOの含有量は0〜8%、好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜2%、特に好ましくは0.01〜1%、最も好ましくは0.05〜1%である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に高くなったり、ガラスが失透し易くなる。
【0044】
Na
2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、耐失透性を改善する成分である。Na
2Oの含有量は0〜14%、好ましくは0〜10%、より好ましくは1〜10%、更に好ましくは1〜8%、更に好ましくは2〜8%、特に好ましくは3〜7%未満、最も好ましくは4〜6.5%である。Na
2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また、Na
2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。一方、Na
2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下し易くなる。
【0045】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があり、更には密度、熱膨張係数が不当に高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、SrOの含有量は0〜15%、0.1〜13%、2〜13%、5〜13%、7〜13%、8〜13%、特に9〜12%が好ましい。
【0046】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があり、更には密度、熱膨張係数が不当に高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、BaOの含有量は0〜12%、0.1〜10%、0.1〜9%、0.1〜8%、1〜8%、2〜8%、特に3〜8%が好ましい。
【0047】
SrO+BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。SrO+BaOの含有量は0〜20%である。SrO+BaOの含有量が多くなると、イオン交換性能が低下する傾向があり、更には密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。しかし、SrO+BaOの含有量が少なくなると、上記効果が乏しくなる。SrO+BaOの好適な含有範囲は0.1〜20%、2〜20%、5.1〜20%、10〜20%、12〜18%、特に13〜17%である。
【0048】
上記成分以外にも、以下の成分を添加してもよい。
【0049】
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が高い成分であり、しかも耐失透性を高める成分でもある。CaOの含有量は、好ましくは0.1〜15%、1〜15%、2〜11%、3〜9%、特に4〜7%である。CaOの含有量が多過ぎると、密度、熱膨張係数が不当に高くなったり、ガラス組成のバランスが損なわれて、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。
【0050】
質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)は0〜1が好ましい。質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)を適正な範囲に規制すると、高い歪点を維持しながら、高い液相粘度を維持し易くなる。質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)の好適な下限範囲は0.1以上、0.2以上、0.3以上、特に0.4以上であり、好適な上限範囲は
1.5以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、特に0.6以下である。
【0051】
MgO+CaO+SrO+BaOは、歪点をあまり低下させずに、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に高くなったり、耐失透性が低下し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。従って、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは10〜30%、13〜27%、15〜25%、17〜23%、18〜22%、特に19〜21%である。なお、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量である。
【0052】
Li
2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、Li
2Oは、ヤング率を高める成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を大きくする効果が高い成分である。しかし、Li
2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、Li
2Oの含有量が多過ぎると、低温粘度が低下し過ぎて、応力緩和が生じ易くなり、逆に圧縮応力値が低下する場合がある。従って、Li
2Oの含有量は、好ましく
は0〜1%、特に0〜0.5%であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にLi
2Oを含有しない」とは、ガラス組成中のLi
2Oの含有量が0.1%未満の場合を指す。
【0053】
K
2Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分である。また、K
2Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、更には耐失透性を改善する成分でもある。しかし、K
2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなり、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また、K
2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。上記事情を考慮すると、K
2Oの含有量は、好ましくは0〜15%、0.5〜13%、2〜10%、3〜9%、特に3〜7%である。
【0054】
Li
2O+Na
2O+K
2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎて、圧縮応力値を高め難くなる場合があると共に、高温で熱処理すると、圧縮応力が消失し易くなる。更に、Li
2O+Na
2O+K
2の含有量が多過ぎると、液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。よって、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量は、好ましくは20%以下、18%以下、15%以下、13%以下、特に12%以下である。一方、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。よって、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量は、好ましくは3%以上、5%以上、7%以上、8%以上、特に9%以上である。なお、「Li
2O+Na
2O+K
2O」は、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの合量である。
【0055】
ZrO
2は、イオン交換性能を顕著に高めると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分である。ZrO
2の含有量は、好ましくは0〜15%、0〜10%、0.001〜10%、0.1〜9%、2〜8%、特に2.5〜5%である。ZrO
2の含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。
【0056】
P
2O
5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分である。P
2O
5の含有量は、好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、特に0.5%以下である。しかし、P
2O
5の含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下し易くなる。
【0057】
Fe
2O
3は、原料の不純物として含まれる成分であり、清澄剤としても作用する成分である。Fe
2O
3の含有量は、好ましくは0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%、特に0.001〜0.05%である。Fe
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。なお、Fe
2O
3の含有量を極端に少なくするには、高純度原料を使用しなければならず、この場合、バッチコストが高騰する。
【0058】
TiO
2は、イオン交換性能を高める成分であると共に、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。TiO
2の含有量は、好ましくは0〜5%、0〜4%、0〜1%、特に0〜0.1%であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで「実質的にTiO
2を含有しない」とは、ガラス組成中のTiO
2の含有量が0.01%以下の場合を指す。
【0059】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を大きくする効果が高い成分であると共に、低温粘度を低下させずに、高温粘度を低下させる成分である。ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が不当に高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0〜6%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%であり、実質的に含有しないことが望ましい。ここで「実質的にZnOを含有しない」とは、ガラス組成中のZnOの含有量が0.1%以下の場合を指す。
【0060】
清澄剤として、SnO
2、CeO
2、Cl、SO
3の群から選択された一種又は二種以上が使用可能である。これらの成分の含有量は、合量で、好ましくは0〜3%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%である。これらの成分の含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。これらの成分の中でも、SnO
2、SO
3は、清澄効果の点で特に好ましい。SnO
2の含有量は、好ましくは0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%である。SO
3の含有量は、好ましくは0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.03〜0.4%である。
【0061】
Nb
2O
5、La
2O
3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は、合量で、好ましくは3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0062】
Co、Ni等の遷移金属酸化物は、ガラスを強く着色させて、ガラスの透過率を低下させる成分である。特に、太陽電池に用いる場合、遷移金属酸化物の含有量が多過ぎると、光電変換効率が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が、合量で、好ましくは0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料(カレットを含む)の使用量を調整することが望ましい。
【0063】
As
2O
3、Sb
2O
3、PbO、Bi
2O
3及びFは、環境的影響が懸念される成分であるため、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にAs
2O
3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs
2O
3の含有量が0.01%未満の場合を指す。「実質的にSb
2O
3を含有しない」とは、ガラス組成中のSb
2O
3の含有量が0.01%未満の場合を指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が0.1%未満の場合を指す。「実質的にBi
2O
3を含有しない」とは、ガラス組成中のBi
2O
3の含有量が0.1%未満の場合を指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス組成中のFの含有量が0.1%未満の場合を指す。
【0064】
上記成分以外にも、他の成分を例えば10%まで、特に5%まで添加してもよい。
【0065】
本発明の強化ガラスにおいて、
30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数熱膨張係数は、好ましくは50×10
−7〜100×10
−7/℃、70×10
−7〜100×10
−7/℃、75×10
−7〜95×10
−7/℃、特に80×10
−7〜90×10
−7/℃である。このようにすれば、強化処理の際に、急激な温度変化による破損率を低減し得ると共に、ITO等の部材の熱膨張係数に整合させ易くなり、膜剥がれ等の不具合を防止し易くなる。なお、
30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数熱膨張係数を上昇させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すればよく、逆に低下させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
【0066】
本発明の強化ガラスにおいて、密度は、好ましくは3g/cm
3以下、2.9g/cm
3以下、特に2.85g/cm
3以下である。密度が低い程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、密度を低下させるには、ガラス組成中のSiO
2、P
2O
5、B
2O
3の含有量を増加、或いはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO
2、TiO
2の含有量を低減すればよい。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。
【0067】
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は、好ましくは580℃以上、600℃以上、610℃以上、特に620℃以上である。歪点は、耐熱性の指標になる特性である。歪点が高い程、強化ガラスを高温で熱処理しても、圧縮応力が消失し難くなり、機械的強度を維持し易くなる。また、歪点が高い程、強化ガラスを高温で熱処理しても、強化ガラスが熱収縮し難くなる。更に、歪点が高い程、イオン交換時に応力緩和が生じ難くなるため、高い圧縮応力値を得ることができる。なお、歪点を高めるためには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量を低減、或いはアルカリ土類金属酸化物、Al
2O
3、ZrO
2、P
2O
5の含有量を増加すればよい。
【0068】
本発明の強化ガラスにおいて、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1600℃以下、1570℃以下、1530℃以下、1500℃以下、1480℃以下、特に1450℃以下である。高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度は、ガラスの溶融温度に相当している。高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。また、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融炉等のガラス製造設備に与える負荷が小さくなると共に、ガラスの泡品位を高めることができ、結果として、強化ガラスを安価に製造することができる。なお、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B
2O
3、TiO
2の含有量を増加、或いはSiO
2、Al
2O
3の含有量を低減すればよい。
【0069】
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は、好ましくは1200℃以下、1180℃以下、1150℃以下、1120℃以下、1100℃以下、特に1080℃以下である。液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。なお、液相温度を低下させるには、ガラス組成中のNa
2O、K
2O、B
2O
3の含有量を増加、或いはAl
2O
3、Li
2O、MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2の含有量を低減すればよい。
【0070】
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は、好ましくは10
4.0dPa・s以上、10
4.2dPa・s以上、10
4.3dPa・s以上、10
4.5dPa・s以上、10
4.7dPa・s以上、特に10
4.9dPa・s以上である。液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。なお、液相粘度を上昇させるには、ガラス組成中のNa
2O、K
2Oの含有量を増加、或いはAl
2O
3、Li
2O、MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2の含有量を低減すればよい。
【0071】
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、特に600MPa以上である。圧縮応力層の圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。一方、強化ガラスに極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生し、逆に強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。また、強化ガラスに極端に大きな圧縮応力が形成されると、内部引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。よって、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは1300MPa以下、1000MPa以下、900MPa以下、800MPa以下、特に700MPa以下である。なお、ガラス組成中のAl
2O
3、TiO
2、ZrO
2、MgO、ZnOの含有量を増加、或いはSrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の圧縮応力値を大きくすることができる。また、イオン交換時間を短く、或いはイオン交換温度を下げると、圧縮応力層の圧縮応力値を大きくすることができる。
【0072】
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の厚みは、好ましくは5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、特に30μm以上である。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが破損し難くなる。一方、圧縮応力層の厚みが大き過ぎると、強化ガラスを切断加工し難くなる。よって、圧縮応力層の厚みは、好ましくは100μm以下、80μm以下、60μm以下、50μm以下、特に40μm以下である。なお、ガラス組成中のK
2O、P
2O
5の含有量を増加、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。また、イオン交換時間を長く、或いはイオン交換温度を上げると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。なお、上記の圧縮応力層を得るためには、400〜550℃のKNO
3溶融塩中で2〜24時間、特に10〜18時間イオン交換処理を行うことが好ましい。
【0073】
本発明の強化ガラスにおいて、内部引っ張り応力は、好ましくは50MPa以下、40MPa以下、30MPa以下、特に25MPa以下である。内部引っ張り応力が小さい程、強化ガラス内部の欠陥により、強化ガラスが破損し難くなると共に、強化ガラスを切断する際に切断不良が発生し難くなる。しかし、内部引っ張り応力が極端に小さくなると、強化ガラス表面の圧縮応力値や応力深さが低下して、強化ガラスの機械的強度が低下し易くなる。よって、内部引っ張り応力は、好ましくは5MPa以上、10MPa以上、特に15MPa以上である。
【0074】
本発明の強化ガラスは、基板又はカバーガラスとして用いる場合、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは10Å以下、5Å以下、特に2Å以下である。ここで、「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値を指す。ガラスの理論強度は、本来非常に高いが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破損に至ることが多い。これは、ガラスの表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、表面を未研磨とすれば、本来のガラスの機械的強度を損ない難くなり、ガラスが破損し難くなる。また、表面を未研磨とすれば、研磨工程を省略できるため、ガラスの製造コストを低廉化することができる。また、表面全体(切断面を除く)を未研磨とすれば、ガラスが更に破損し難くなる。更に、切断面から破損に至る事態を防止するため、切断面に面取り加工等を施してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、未研磨で表面精度が良好な平板形状のガラスを得ることができる。
【0075】
基板又はカバーガラスとして用いる場合、板厚は、好ましくは3.0mm以下、1.5mm以下、1.0mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下である。板厚が薄い程、強化ガラスを軽量化することできる。また、本発明の強化ガラスは、板厚が薄くても、破損し難い利点を有している。つまり、板厚が薄い程、本発明による効果が大きくなる。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、ガラスの表面精度が良好になり、且つ板厚を容易に薄くすることができる。
【0076】
本発明の強化ガラスにおいて、500℃1時間の条件で熱処理した時の熱収縮量は、好ましくは250ppm以下、200ppm以下、180ppm以下、150ppm以下、130ppm以下、110ppm以下、80ppm以下、特に60ppm以下である。熱収縮量が大き過ぎると、高精細のITO等をパターニングし難くなり、タッチセンサーの動作不良等を惹起する虞がある。ここで、「熱処理」は、以下のようにして算出する。
図1に示すように、強化ガラスの2箇所に直線状のマーキングを入れた後、マーキング間の距離l
0を測定する。次に、強化ガラスをマーキングに対して垂直に折り割り、2つの試験片に分割する。試験片の一方のみに熱処理を施す。熱処理は、500℃まで+3℃/分で昇温し、500℃で1時間保持した後、−3℃/分で室温まで降温するという条件で行う。その後、熱処理後の試験片と熱処理していない試験片とを並べて、接着テープで両者を固定してから、マーキングのずれ△L
1、△L
2を測定する。この時、△L
1、△L
2は、熱処理後の試験片のマークキングの位置が熱処理していない試験片のマークキングの位置よりも内側にある場合を正の値とし、上記数式2を用いて、体積変化量を算出する。
【0077】
本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 45〜75%、Al
2O
3 10〜25%、B
2O
3 0〜10%、MgO 0〜8%、SrO+BaO 0〜20%、
Li2O 0〜1%、Na
2O 0〜14%を含有
し、質量比(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が0.1〜1.5であることを特徴とする。本発明の強化用ガラスの技術的特徴(好適な成分範囲、好適な特性、好適な態様等)は、原則として、本発明の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。
【0078】
本発明の強化用ガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入した後、1500〜1600℃で加熱溶融し、得られた溶融ガラスを清澄した上で、成形装置で成形し、これを徐冷装置内で徐冷することにより製造することができる。
【0079】
成形方法として、フロート法を採用することが好ましい。フロート法は、安価で大量にガラスを成形し得ると共に、大型のガラスも容易に成形することができる。また、フロート法であれば、上記の冷却速度に設定し易くなり、強化用ガラスの熱収縮を低減し易くなる。フロート法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。特に、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、上記の通り、未研磨で表面精度が良好なガラスを効率良く作製することができる。プレス法で成形すれば、小型のガラスを効率良く製造することができる。
【0080】
本発明の強化用ガラスは、(徐冷点+30℃)から(歪点−70℃)の温度域を平均冷却速度200℃/分以下、150℃/分以下、100℃/分以下、特に80℃/分以下で冷却されてなることが好ましい。平均冷却速度が速過ぎると、強化用ガラスを熱処理した時に、強化用ガラスの熱収縮量が大きくなると共に、強化ガラスを熱処理した時に、強化ガラスの熱収縮量が大きくなる。なお、上記冷却は、製造コストの観点から、成形後に連続的に行うことが好ましく、また徐冷炉内で行うことが好ましい。
【0081】
本発明の強化用ガラスは、460℃のKNO
3溶融塩中でイオン交換処理を10時間行った時、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、500MPa以上、特に600MPa以上になることが好ましく、圧縮応力層の厚みが5μm以上、10μm以上、特に15μm以上になることが好ましい。
【0082】
本発明の強化用ガラスにおいて、強化処理(460℃のKNO
3中に6時間浸漬)後に500℃1時間の条件で熱処理した時の熱収縮量は、好ましくは250ppm以下、200ppm以下、180ppm以下、150ppm以下、130ppm以下、110ppm以下、80ppm以下、特に60ppm以下である。熱収縮量が大き過ぎると、高精細のITO等をパターニングし難くなり、タッチセンサーの動作不良等を惹起する虞がある。
【0083】
なお、強化処理前に強化用ガラスを切断加工してもよいが、製造コストの観点から、強化処理後に強化ガラスを切断加工することが好ましい。
【実施例1】
【0084】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0085】
表1〜5は
、試料No.1
〜34を示している。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出し、平板形状に成形した。得られたガラスについて、種々の特性を評価した。
【0092】
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
【0093】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0094】
歪点、徐冷点及び軟化点は、ASTM C336に記載の方法に基づいて測定した値である。
【0095】
高温粘度10
4.0dPa・s、10
3.0dPa・s、10
2.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0096】
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。
【0097】
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0098】
なお、未強化ガラスと強化ガラスは、ガラスの表層において、微視的にはガラス組成が異なっているものの、ガラス全体としては、ガラス組成が実質的に相違していない。従って、熱膨張係数、密度、粘度等の特性値は、未強化ガラスと強化ガラスで実質的に相違していない。
【0099】
試料No.8の両表面を光学研磨した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は、460℃6時間の条件でKNO
3溶融塩中に各試料を浸漬することで行った。次に、試料No.8の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、干渉縞の本数とその間隔を観察し、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。算出に際し、試料No.8の屈折率を1.52、光学弾性定数を26[(nm/cm)/MPa]とした。更に、上記イオン交換処理後の試料No.8について、540℃まで+5℃/分で昇温し、540℃で20分保持した上で、−10℃/分で室温まで降温した後、再度、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。
【0100】
試料No.34の両表面を光学研磨した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は、420℃−2時間の条件でKNO
3溶融塩中に各試料を浸漬することで行った。次に、試料No.34の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、干渉縞の本数とその間隔を観察し、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。算出に際し、試料No.8の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。更に、上記イオン交換処理後の試料No.34について、540℃まで+5℃/分で昇温し、540℃で20分保持した後に−10℃/分で室温まで降温した後、再度、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。
【0101】
次に、試料No.8、34に記載のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、平板形状のガラス(厚み0.7mm)を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽から出たガラスを徐冷炉内を通過させた。その際、徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように、温度設定を行った。次に、得られたガラスから縦30mm×横160mm×0.7mm厚のガラスを切り出し、強化用ガラスを得た。この強化用ガラスについて、熱収縮量(S)を以下の手順で測定した。
【0102】
まず短冊状の試験片(強化用ガラス)の端から20〜40mmの付近に、縦方向にマーキングを行った後、横方向に折り割った。折り割った試験片の一方のみに、上記の強化処理を施した後、強化処理後の試験片と強化処理していない試験片とを並べて、接着テープで両者を固定してから、マーキングのずれ△L
1、△L
2を測定した。この時、△L
1、△L
2は、強化処理後の試験片のマークキングの位置が強化処理していない試験片のマークキングの位置よりも内側にある場合を正の値とし、上記数式2を用いて、体積変化量S1を算出した。続いて、強化処理済のガラスのみに熱処理を施した。熱処理は、500℃まで+3℃/分で昇温し、500℃で1時間保持した後、−3℃/分で室温まで降温するという条件で行った。その後、熱処理後の試験片と熱処理(及び強化処理)していない試験片とを並べて、接着テープで両者を固定してから、マーキングのずれ△L
1、△L
2を測定した。この時、△L
1、△L
2は、熱処理後の試験片のマークキングの位置が熱処理していない試験片のマークキングの位置よりも内側にある場合を正の値とし、下記数式2を用いて、体積変化量S2を算出した。最後に、数式3を用いて、強化用ガラスの熱収縮量を算出した。
【0103】
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜33は、歪点が613℃以上であるため、高温で熱処理しても、圧縮応力が消失し難く、且つ熱収縮し難いと考えられる。また、試料No.1〜33は、高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度が1523℃以下であるため、溶融性に優れている。更に、試料No.1〜33は、液相温度が1153℃以下、液相粘度が10
4.0dPa・s以上であり、耐失透性に優れている。
【0104】
一方、試料No.34は、液相粘度が高いものの、歪点が低いため、540℃20分間の条件で熱処理により圧縮応力層が完全に消失すると共に、500℃1時間の条件で熱処理した時の熱収縮量が270ppmであった。