(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の圧電素子は、前記キャピラリの軸方向に沿って配される2つの圧電素子であって、第1の圧電素子と、当該第1の圧電素子よりも下方に配された第2の圧電素子であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1に記載のボンディング装置。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、本発明によるボンディング装置を実施するための形態について説明する。尚、本発明のボンディング装置は、振動駆動部としてボンディングアームの先端部に一端が固定され、ボンディングアームの軸方向に沿って伸縮する2つの圧電素子と、複数の圧電素子の各々の他端に各々固定され、キャピラリの基端側周面に接触する2つのキャピラリ保持部と、ボンディングアームに少なくとも一端側が固定され、他端側がキャピラリの基端側周面のキャピラリ保持部とは反対側に接触して、キャピラリを複数のキャピラリ保持部に押圧して挟持する押圧保持部とを備え、2つの圧電素子は、キャピラリの軸方向に対して垂直の方向に各々伸縮し、2つの圧電素子を個別に振動させることにより、キャピラリ先端部の自在のコントロールすることを可能とするものである。
【0035】
以下に振動駆動部を用いたボンディング装置として、半導体チップの電極(パッド)と基板上に形成された配線用のリードとをワイヤで接合するワイヤボンディング装置について説明する。
【0036】
[ボンディング装置の第1実施形態]
最初に、本発明に係るボンディング装置の第1実施形態について、
図1乃至
図14を用いて説明する。
【0037】
[振動駆動部の構成]
図1は、ボンディング装置におけるボンディングアームの先端に取り付けた、キャピラリを振動させる振動駆動部の構成を示す斜視図、
図2(a)は、振動駆動部の構成を示す平面図、
図2(b)は、振動駆動部の構成を示す側面図 、
図3は、振動駆動部におけるキャピラリ保持部のキャピラリの取り付け部分を拡大した平面図である。
【0038】
図1、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、キャピラリ20を振動させる振動駆動部7は、ボンディングアーム3の先端に取り付けられており、圧電素子10と、キャピラリ保持部15と、キャピラリ20をキャピラリ保持部15に固定し、圧電素子10に予圧を付与する糸状体23と、を有している。
【0039】
圧電素子10は、セラミック等から成る薄い圧電素子を積み重ねて一体にしたものであり、電極端子に電圧を印加して変位を生じさせる。例えば、圧電素子10の電極端子に高周波電圧を印加することにより、高周波電圧の周波数、振幅等に応じた変位を繰り返して、振動が発生する。
【0040】
図1及び
図2(b)に示すように、振動駆動部7には上下に配置された二つの圧電素子10が、ボンディングアーム3の先端に取り付けられている。尚、
図2(b)に示す側面視で、上に位置する圧電素子10を上部圧電素子11と記し、下に位置する圧電素子10を下部圧電素子12と記す。なお、上部圧電素子11は、請求項に記載の第1の圧電素子に相当し、下部圧電素子12は、請求項に記載の第2の圧電素子に相当するものである。第2の圧電素子は、第1の圧電素子よりも下方に配されている。
【0041】
圧電素子10のボンディングアーム3に接する面は、接着等によりボンディングアーム3に固定されている。上部圧電素子11と下部圧電素子12は、それぞれが独立して駆動することが可能となっており、各々の圧電素子10は、ボンディングアーム3の軸方向に沿って伸縮する。
【0042】
キャピラリ保持部15は、圧電素子10とキャピラリ20との間に位置し、キャピラリ20を保持し、圧電素子10の振動を効率的に伝達するものであり、小型化、軽量化が図られている。尚、
図2(b)に示す側面視で、上に位置するキャピラリ保持部15を上部キャピラリ保持部16と記し、下に位置するキャピラリ保持部15を下部キャピラリ保持部17と記す。
【0043】
また、キャピラリ保持部15の圧電素子10と接する面は、接着等により圧電素子10に固定されており、上部キャピラリ保持部16は上部圧電素子11に固定され、下部キャピラリ保持部17は下部圧電素子12に固定されている。
【0044】
キャピラリ保持部15の一方の端は、圧電素子10に固定されており、キャピラリ保持部15の他端は、キャピラリ20を保持する凹部(湾曲面)15aを形成している。また、キャピラリ20の基端側周面は、キャピラリ保持部15に接触するように取り付けられている。
【0045】
図3は、振動駆動部におけるキャピラリ保持部のキャピラリの取り付け部分を拡大した平面図である。
図3に示すように、キャピラリ保持部15によるキャピラリ20の保持は、湾曲面15aの先端付近の両端面とキャピラリ20の外周表面の2カ所をキャピラリ20の軸方向に沿って直線状に接触することにより行われる。このため、キャピラリ保持部15の湾曲面15aとキャピラリ20の表面との間に間隙ができている。
【0046】
このように、キャピラリ20の軸方向に対して、上部キャピラリ保持部16と下部キャピラリ保持部17を介して対応する上部圧電素子11と下部圧電素子12の2つの圧電素子が、キャピラリ20の軸方向に沿って上下に配されている。上部圧電素子11と下部圧電素子12は、キャピラリ20の軸方向に対して垂直の方向に各々伸縮し、かつ、キャピラリ20と反対側の面は、ボンディングアーム3に固定されている。
【0047】
図1に示すように糸状体23は、引張機構25によってキャピラリ20のキャピラリ保持部側に接する面と反対側の面の外周に沿って張られている。このように糸状体23は、キャピラリ20の基端側周面のキャピラリ保持部とは反対側の半周面に巻き回されている。尚、キャピラリ20を複数のキャピラリ保持部15に押圧して挟持する押圧保持部21は、糸状体23と引張機構25とで構成されている。
【0048】
キャピラリ20をキャピラリ保持部15に固定する糸状体23には、線径を細くして、質量、体積を極めて小さくするために、十分な引張強度、可撓性を有する金属、高強力繊維又はそれらの複合材を使用することができる。
【0049】
糸状体23は、引張機構25により引っ張られることにより張力が発生し、キャピラリ20を保持する。また、
図2(b)に示す側面視において、糸状体23は、上部キャピラリ保持部16と下部キャピラリ保持部17との間と、上部圧電素子11と下部圧電素子12との間を通過するようにして、キャピラリ20の軸方向に対して垂直を成すようにボンディングアーム3の外周に沿って張られている。
【0050】
尚、糸状体23として、所定の幅を有するテープ状の部材(テープ状体)によりキャピラリ20を押圧保持するようにしてもよい。テープ状体は、引張強度、可撓性を有し、質量、体積が小さい材質のものを使用するようにする。
【0051】
図2(a)に示すように引張機構25は、糸状体23の両端を引っ張るようにして、糸状体23に対して任意の張力を調整・保持する機能を有する。引張機構25は、ボンディングアーム取付部4側の両側面に配された棒状体26を有し、糸状体23の端付近を棒状体26によって巻くようにして、糸状体23に張力を与えるものである。尚、棒状体26をトルクドライバにより、所定のトルクで回転させることにより、キャピラリ20への予圧を調整するようにする。
【0052】
キャピラリ20は、糸状体23でボンディングアーム3の圧電素子10側に押しつけられてキャピラリ保持部15で保持される。また、糸状体23には引張機構25で張力を発生させ、キャピラリ20を押しつけることによって、キャピラリ保持部15を介してボンディングアーム3先端に取り付けられた圧電素子10に必要な予圧を付与する。
【0053】
図2(a)に示す引張機構25は、糸状体23の端付近を棒状体26によって巻くようにして、糸状体23に張力を与えるものであるが、糸状体23の端の一方を固定して、糸状体23の端の他方を引っ張ることにより、糸状体23に張力を付与するようにしてもよい。
【0054】
このように、圧電素子10の伸縮によるキャピラリ20への作用は、上部キャピラリ保持部16及び下部キャピラリ保持部17を介して行われる。
【0055】
従来技術のような超音波振動は、圧電素子が、負荷となるホーンを振動させて、キャピラリに振動振幅を伝達する。このため、ホーンの共振を利用して、ホーン上に位置するキャピラリを最大振幅で振動させなければならなかった。本発明では、ホーンを介することなしに、圧電素子10から直接キャピラリ20に振動を伝達しているため、圧電素子10の共振を利用することなく、圧電素子10が有する固有周波数領域の範囲内で自由に超音波振動を行い、ボンディングすることができる。
【0056】
このように、従来技術の超音波振動は、ホーン上でキャピラリを最大振幅で振動させる必要があったため、ホーンの長さ及びキャピラリの取付位置は、超音波振動の半波長の整数倍となるように制限されていた。本発明は、ホーンの共振を前提とした振動を使用していないため、これらの制限を受けることがない。
【0057】
キャピラリ保持部15は、小型化、軽量化が図られているため、圧電素子10によって直接キャピラリ20を駆動するダイレクトドライブが可能となり、効率良くキャピラリ20を振動させることができる。
【0058】
また、引張強度、可撓性を有する金属、高強力繊維又はそれらの複合材を糸状体23に使用することにより、糸状体23の線径を細くすることができ、質量、体積を極めて小さくすることができる。
【0059】
また、質量、体積が極めて小さい糸状体23により予圧を行っているため、圧電素子10が駆動する負荷の軽量小型化が図れ、圧電素子10の伸縮動作を阻害することなく安定した振動をキャピラリ20に伝達することが可能となる。
【0060】
[圧電素子の駆動回路]
次に、振動駆動部に組み込まれた圧電素子を駆動する発振器について
図4を用いて説明する。
図4は、圧電素子を駆動する発振器の構成を示すブロック図である。
【0061】
図4に示すように、上部圧電素子11と下部圧電素子12を駆動する発振器35は、波形発生器36と電力増幅器38、39とを有している。波形発生器36は、ボンディング装置1の制御部33からの指令に基づいて、所定の周波数を有する正弦波の信号を電力増幅器38、39に出力する。
【0062】
ボンディング装置1の制御部33は、上部圧電素子11と下部圧電素子12を駆動する電圧波形を生成するための正弦波の周波数、振幅、上部圧電素子11と下部圧電素子12との電圧波形の位相差、電圧のバイアス値の各データを波形発生器36に出力する。
【0063】
波形発生器36は、ボンディング装置1の制御部33からのデータに基づいて内蔵されている発振器(図示せず)の正弦波の振幅、周波数、電圧波形の位相差、電圧のバイアス値等の駆動条件を設定する。ボンディング装置1の制御部33からの指令により、波形発生器36は電力増幅器38、39に信号を出力する。
【0064】
尚、波形発生器36から電力増幅器38、39に出力される信号は、波形発生器36に設定された上部圧電素子11と下部圧電素子12のそれぞれの正弦波である電圧波形の振幅、電圧波形の周波数、上部圧電素子11と下部圧電素子12との電圧波形の位相差、電圧波形のバイアス値に基づいて生成されたものである。
【0065】
電力増幅器38、39は、波形発生器36からの信号を電力増幅して、電力増幅器38は、上部圧電素子11に出力し、電力増幅器39は、下部圧電素子12に出力する。尚、電力増幅器38、39は、波形発生器36からの指令電圧に基づいて圧電素子10を定電圧駆動するために必要な電圧、電流容量を備えている。
【0066】
このように、ボンディング装置1の制御部33から波形発生器36に出力される指令によって、正弦波の振幅、周波数、電圧波形の位相差等が制御される。尚、発振器35は電圧のバイアス値を設定することにより、正極性のみの電圧を出力することもできるため単電圧型圧電素子を用いることも可能である。
【0067】
また、上部圧電素子11と下部圧電素子12の各圧電素子10は、自己の共振周波数未満の周波数範囲で使用するようにする。これにより、キャピラリ20を低周波から高周波までの広範囲の周波数で安定した振動をさせることができる。
【0068】
[圧電素子の駆動波形及びキャピラリの第1の振動形態]
次に、振動駆動部のキャピラリの振動形態について説明する。最初に、上部圧電素子と下部圧電素子に同相の電圧波形を印加したときの、キャピラリの第1の振動形態について説明する。
【0069】
図5は、電力増幅器から圧電素子に供給される電圧の波形の一例を示す図である。
図5に示すように、電力増幅器38、39から圧電素子に供給される電圧の波形は、同相の正弦波電圧波形である。尚、
図5では、上部圧電素子11の駆動波形と下部圧電素子12の駆動波形とは同一波形であるため、駆動波形を実線で示す。
【0070】
図5に示す例では電圧波形の振幅が50V、バイアス電圧が0Vであり、正極性の最大電圧は50V、負極性の最大電圧は−50Vである。また、
図5に示すt0からt4までが1周期を示し、このときの周波数は、1/(t4−t0)である。
【0071】
また、正極電圧のみで圧電素子を駆動することも可能である。例えば、圧電素子が単電圧型圧電素子の場合には、駆動電圧が負電圧にならないよう正のバイアス電圧を印加するようにする。
【0072】
図6は、電力増幅器から圧電素子に供給される正のバイアス電圧を印加した電圧の波形の一例を示す図である。
図6に示すように、上部圧電素子11と下部圧電素子12は、t0においてそれぞれバイアス電圧75Vが印加されて、t1において上部圧電素子11と下部圧電素子12は最大電圧125Vが印加された状態である。また、t2、即ち半周期においてそれぞれバイアス電圧75Vが印加された状態に戻り、t3において上部圧電素子11と下部圧電素子12は最小電圧25Vが印加される。その後t4においてそれぞれバイアス電圧75Vが印加された状態となる。
【0073】
次に、上部圧電素子と下部圧電素子に同相の電圧波形を印加したときの、キャピラリの第1の振動形態について
図7を用いて説明する。
【0074】
図7(a)、(b)は、キャピラリの第1の振動形態を説明するモデル図であり、キャピラリの中心軸に対する糸状体による予圧、圧電素子の変位による上部キャピラリ保持部及び下部キャピラリ保持部の移動に伴うキャピラリの変位状態の一例を示すものである。
【0075】
図7(a)は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相の正極性の最大電圧が印加されたときの振動形態のモデル図、
図7(b)は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相の負極性の最大電圧が印加されたときの振動形態のモデル図である。
【0076】
図7(a)、(b)に示す破線Lcは、上部圧電素子11及び下部圧電素子12に電圧が印加されていないとき、即ち、上部圧電素子11及び下部圧電素子12の変位量が0(ゼロ)におけるキャピラリ20の中心軸の原点位置を示し、太い直線Ccは、キャピラリ20の中心軸を示す。また、矢印P1は、キャピラリ20の中心軸に作用する糸状体23による予圧を示す。キャピラリ20の中心軸Ccに接する上部に位置する三角形(符号16で示す)は、上部キャピラリ保持部16をモデル化したものであり、中心軸Ccに接する下部に位置する三角形(符号17で示す)は、下部キャピラリ保持部17をモデル化したものである。
【0077】
キャピラリの中心軸Ccに接する上部キャピラリ保持部16の交点T1は、上部キャピラリ保持部16がキャピラリ20に作用する中心点、又はキャピラリ20が上部キャピラリ保持部16に作用する中心点を示す。同様に、キャピラリの中心軸Ccに接する下部キャピラリ保持部17の交点T2は、下部キャピラリ保持部17がキャピラリ20に作用する中心点、又はキャピラリ20が下部キャピラリ保持部17に作用する中心点を示す。
【0078】
また、
図7(a)のb1は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相の正極性の最大電圧が印加されたときのキャピラリ20の先端の移動量を示し、
図7(b)のb2は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相の負極性の最大電圧が印加されたときのキャピラリ20の先端の移動量を示す。
【0079】
キャピラリ20の中心軸の右側に位置する矢印d1は、上部圧電素子11の変位による上部キャピラリ保持部16の基準位置(上部圧電素子11の変位量が0(ゼロ)の位置)からの移動量の大きさ及び移動方向を示し、矢印d2は、下部圧電素子12の変位による下部キャピラリ保持部17の基準位置(下部圧電素子12の変位量が0(ゼロ)の位置)からの移動量の大きさ及び移動方向を示す。
【0080】
また、
図7(b)に示す矢印d3は、上部圧電素子11の変位による上部キャピラリ保持部16の基準位置からの移動量の大きさ及び移動方向を示し、矢印d4は、下部圧電素子12の変位による下部キャピラリ保持部17の基準位置からの移動量の大きさ及び移動方向を示す。
【0081】
即ち、矢印d1、d2、d3、d4は、上部圧電素子11、下部圧電素子12に電圧を印加したときの、上部圧電素子11、下部圧電素子12の変位の大きさを矢印の長さで示し、変位の方向を矢印の方向で示す。尚、各圧電素子の変位の大きさは、圧電素子に印加する電圧波形の振幅の大きさに依存し、また、各圧電素子の変位の方向は、圧電素子に印加する電圧波形の極性によって決定される。
【0082】
上部圧電素子11及び下部圧電素子12の圧電素子10に電圧が印加されない状態で、引張機構25によって糸状体23を引っ張るようにして、所定の張力でキャピラリ20を上部キャピラリ保持部16及び下部キャピラリ保持部17のキャピラリ保持部15に押しつけ、キャピラリ保持部15を介して圧電素子10に予圧を与える。このとき、引張機構25によって所定の荷重で引っ張られることにより、糸状体23は伸びる。糸状体23の伸び量は、糸状体23の断面積、ヤング率(縦弾性係数)、長さにより決まる。
【0083】
上部圧電素子11及び下部圧電素子12の圧電素子10にプラスの電圧を印加することにより、圧電素子10が伸びるように変位して、キャピラリが糸状体23を伸ばすように移動して、外力としての荷重が糸状体23に作用して、糸状体23が引き延ばされる。
【0084】
[圧電素子が所定の振幅で振動するために必要な力]
糸状体に予圧を掛けた状態で、圧電素子が所定の振幅で振動するために必要な力について説明する。
【0085】
例えば、糸状体の予圧(張力)をP(N)、糸状体のヤング率をE(GPa)とすると、E(GPa)は、E(GPa)=1000E(N/mm
2)である。
【0086】
糸状体のひずみをε、糸状体の断面積をA(mm
2)とすると、糸状体の予圧(張力)Pは、式(1)で示される。
P=1000E×ε×A ・・・ (1)
糸状体を半径r(mm)の円柱とすると、
P=1000E×επ×r**2 但し、**2は2乗を表す。
【0087】
糸状体の材質をザイロン(登録商標)としたときのヤング率Eは、
E=270(Gpa)=270000(N/mm
2)である。
糸状体の半径r=0.1(mm)、π=3.14とすると、予圧Pは、式(2)で示される。
P=270000×ε×3.14×0.1**2=8478×ε ・・・ (2)
【0088】
片側の糸状体の長さを100mmとすると、糸状体の全長Lは、L=200mmとなる。また、糸状体に100Nの予圧を掛けた状態での、糸状体のひずみεは、
式(2)より、ε=100/8478=0.0118
【0089】
糸状体のひずみεは、ε=ΔL/Lで示される。予圧100Nでの糸状体の伸びは、
ΔL1=ε×L=2.36mmとなる。
【0090】
また、圧電素子の最大振幅をaとし、a=3um=0.003mmをとすると、
糸状体の圧電素子による変形量は、ΔL2=2a=2×0.003=0.006mm
糸状体全体の変形量ΔLは、ΔL=ΔL1+ΔL2=2.36+0.006=2.366mmとなる。
【0091】
このときの糸状体のひずみεは、
ε=ΔL/L=2.366/200=0.01183
また、糸状体に作用している予圧(張力)P1は、式(2)より、
P1=8478×ε=8478×0.01183=100.2947N
【0092】
これにより、糸状体に印加される力、即ち、予圧100Nで圧電素子が3um変位するのに必要な力は、100.2947Nとなる。これにより、圧電素子は、変位により100.2947Nを超える力を有するものを使用する。
【0093】
また、予圧100Nで圧電素子が3um変位することにより、糸状体に印加される力は、0.2947Nであるため、予圧に与える影響は、0.3%以下である。このため、圧電素子の伸縮変位によって予圧に影響を与えることがないため、糸状体による予圧を一定に保つことができる。
【0094】
次に、糸状体に予圧を掛けた状態における糸状体の強度について説明する。ザイロン(登録商標)の引張強度5.8(Gpa)は5800(N/mm
2)であり、半径r=0.1(mm)での最大張力(糸状体に掛かる力)fは、
f=5800×3.14×0.1**2=182Nとなり、糸状体の片側の予圧50Nの張力に対して、50/182×100=27%となる。これにより、糸状体の強度は最大張力に対して3倍以上となり、十分な余裕を持つことができる。
【0095】
このように、圧電素子10の振幅は数マイクロメータであり、糸状体23も数マイクロメータ引き延ばされる。しかしながら、糸状体23の長さは、引張機構25からキャピラリ20までの長さが100ミリメートル程度であるため、全長は200ミリメートル程となり、100Nの予圧状態での糸状体23の伸びは、2.36mmであり、これに対する、数マイクロンメータの変化は、微少な値であるため、圧電素子10への予圧の変動が少ない。
【0096】
また、圧電素子10の変位が0(ゼロ)、即ち、圧電素子10に電圧が印加されない状態で、糸状体23は、張力設定時の伸び量に戻る。
【0097】
更に、圧電素子10に負極性の電圧を印加することにより、圧電素子10が縮むように変位して、糸状体23の伸び量が減少するが、その量は微少であるため、圧電素子への予圧の変動が少ない。
【0098】
このように、圧電素子10の伸縮による糸状体23のひずみは、予圧発生のための糸状体23のひずみに対して微少であるため、安定した予圧を維持することができる。
【0099】
発振器35によって、駆動波形の半周期毎にキャピラリ20の変位方向が変化し、高周波電圧を連続して上部圧電素子11と下部圧電素子12の圧電素子10に印加することにより、キャピラリ20に振動が発生する。
【0100】
また、キャピラリ20の振動数は、上部圧電素子11と下部圧電素子12の圧電素子10を駆動する高周波電圧の周波数によって決まる。上部圧電素子11と下部圧電素子12の圧電素子10は、発振器35からの高周波電圧により、振動が誘起されて上部キャピラリ保持部16と下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリ20に振動が伝搬される。
【0101】
上部圧電素子と下部圧電素子に同相の電圧波形を印加したときには、
図7(a)に示すように、上部キャピラリ保持部16の移動量の大きさ及び移動方向d1及び下部キャピラリ保持部17の移動量の大きさ及び移動方向d2は、それぞれ同一であり、また、
図7(b)に示すように、上部キャピラリ保持部16の移動量の大きさ及び移動方向d3及び下部キャピラリ保持部17の移動量の大きさ及び移動方向d4は、それぞれ同一であるため、キャピラリ20は垂直状態のまま水平に移動する。また、キャピラリ20の先端の移動量は、平面に対して原点位置Lcからの移動量b1、b2である。
【0102】
尚、2つの圧電素子を使用したキャピラリの第1の振動形態について説明したが、圧電素子の個数は2個に限定するものではなく、1個であってもよく、また、3個以上であってもよい。
【0103】
[キャピラリの第2の振動形態]
次に、圧電素子に同一周波数で互いに180°位相差を有する波形の電圧を印加した場合のキャピラリの第2の振動形態について説明する。
【0104】
図8は、電力増幅器から圧電素子に供給される互いに180°位相差を有する電圧の波形を示す図である。
【0105】
図9は、キャピラリの第2の振動形態を説明するモデル図であり、(a)は、上部圧電素子に正極性の最大電圧を、下部圧電素子に負極性の最大電圧が印加されたときの振動形態のモデル図、(b)は、上部圧電素子に負極性の最大電圧を、下部圧電素子に正極性の最大電圧が印加されたときの振動形態のモデル図である。
【0106】
図8に示すように、電力増幅器38、39から出力される供給電圧の波形は、同一周波数で互いに180°位相差を有する正弦波電圧波形である。上部圧電素子11には、発振器35からの実線で示す正弦波の波形を有する高周波電圧が印加される。また、下部圧電素子12には、上部圧電素子11に印加される正弦波の高周波電圧の位相を180度ずらした点線で示す正弦波の波形を有する高周波電圧が、発振器35から印加される。
【0107】
図8に示すt1での最大電圧が印加されたときには、
図9(a)に示すように、上部圧電素子11の振動面が伸びるように動作して、上部キャピラリ保持部16を介してキャピラリは、矢印d5で示すように、ボンディングアーム3側と反対の方向に移動する。また、下部圧電素子12の振動面が縮むように動作して、下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリは、矢印d6で示すように、ボンディングアーム3側に移動する。
【0108】
一方、
図8に示すt3での最大電圧が印加されたときには、
図9(b)に示すように、上部圧電素子11の振動面が縮むように動作して、上部キャピラリ保持部を介してキャピラリは、矢印d7で示すように、ボンディングアーム3側に移動する。また、下部圧電素子12の振動面が伸びるように動作して、下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリは、矢印d8で示すように、ボンディングアーム3側と反対側の方向に移動する。
【0109】
このように、糸状体23とキャピラリ20とが接している弧の位置を支点(
図9に示す円の中心S1)として、キャピラリ20が振れる。即ち、支点s1より下のキャピラリ20の先端が、ボンディングアーム3側に振れたときには、キャピラリ20の上部の他端は、キャピラリ20の先端とは反対側の方向に振れる。
【0110】
図8に示す180°位相差を有する電圧の波形によって上部圧電素子及び下部圧電素子を駆動することにより、
図9(a)、(b)に示すように、糸状体23がキャピラリ20と接する位置を支点s1として、キャピラリ20の先端部分が、原点位置Lcを中心として円弧(楕円)動作を行う。このときのキャピラリ20の先端の移動量は、平面に対して原点位置Lcからb3、b4である。
【0111】
また、上部圧電素子及び下部圧電素子に印加する電圧の振幅を変えることにより、円弧動作における径の大きさを可変することができる
【0112】
また、反転動作では、同相動作と比較して、キャピラリ先端の振幅(振れ量)は円弧動作によって拡大することができる。
【0113】
また、反転動作では、各圧電素子がプッシュプル動作となるため、キャピラリ20に接触している糸状体23の位置が支点となり、糸状体23の伸びが発生しないため、予圧のバネ定数変化を打ち消し、予圧のバネ性が圧電素子の伸びを阻害することによる効率低下をさらに防止することが可能である。
【0114】
[キャピラリの第3の振動形態]
以下に、各圧電素子の駆動電圧波形の振幅比を変えたときのキャピラリの第3の振動形態について説明する。
図10は、上部圧電素子と下部圧電素子とに供給される電圧波形が同相であり、上部圧電素子と下部圧電素子との電圧波形の振幅比が1対2のときの電圧波形を示す図である。
【0115】
図11は、キャピラリの第3の振動形態を説明するモデル図であり、(a)は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相で振幅比が1対2の正極性の電圧が印加されたときの振動形態のモデル図、(b)は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相で振幅比が1対2の負極性の電圧が印加されたときの振動形態のモデル図である。
【0116】
図10に示すように、電力増幅器38、39から出力される供給電圧の波形は、同一周波数で同相の正弦波電圧波形である。上部圧電素子11には、発振器35から下部圧電素子12の電圧波形の半分の振幅を有する実線で示す正弦波の高周波電圧が印加される。また、下部圧電素子12には、上部圧電素子11に印加される正弦波の振幅が2倍の点線で示す正弦波の高周波電圧が、発振器35から印加される。
【0117】
図10に示すt1での最大電圧が印加されたときには、
図11(a)に示すように、上部圧電素子11の振動面が伸びるように動作して、上部キャピラリ保持部16を介してキャピラリ20は、矢印d9で示すように、ボンディングアーム3側と反対の方向に移動する。また、下部圧電素子12の振動面が伸びるように動作して、下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリ20は、矢印d10で示すように、ボンディングアーム3側と反対の方向に移動する。
【0118】
このときの矢印d10の移動量(矢印の長さ)は、矢印d9の移動量の2倍である。これにより、キャピラリ20の先端は、キャピラリ20の中心軸Ccの最上点を支点s2として、移動量b5を移動する。
【0119】
また、
図10に示すt3での最大電圧が印加されたときには、
図11(b)に示すように、上部圧電素子11の振動面が、縮むように動作したときには、上部キャピラリ保持部16を介してキャピラリ20は、矢印d11で示すように、ボンディングアーム3側の方向に移動する。また、下部圧電素子12の振動面が、縮むように動作したときには、下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリ20は、矢印d12で示すように、ボンディングアーム3側の方向に移動する。
【0120】
このときの矢印d12の移動量(矢印の長さ)は、矢印d11の移動量の2倍である。これにより、キャピラリの先端は、キャピラリの中心軸はCcの最上点を支点s2として、ボンディングアーム3側に移動する。このときのキャピラリの先端の移動量はb6である。
【0121】
[キャピラリの第4の振動形態]
次に、
図10に示す各圧電素子の駆動電圧波形の振幅比と異なる振幅比におけるキャピラリの第4の振動形態について説明する。
図12は、上部圧電素子と下部圧電素子とに供給される電圧波形が同相であり、上部圧電素子と下部圧電素子との電圧波形の振幅比が2対1のときの電圧波形を示す図である。
【0122】
図13は、キャピラリの第4の振動形態を説明するモデル図であり、(a)は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相で振幅比が2対1の正極性の電圧が印加されたときの振動形態のモデル図、(b)は、上部圧電素子及び下部圧電素子に同相で振幅比が2対1の負極性の電圧が印加されたときの振動形態のモデル図である。
【0123】
図12に示すように、電力増幅器38、39から出力される供給電圧の波形は、同一周波数で同相の正弦波電圧波形である。上部圧電素子11には、発振器35から下部圧電素子12の電圧波形の2倍の振幅を有する実線で示す正弦波の高周波電圧が印加される。また、下部圧電素子12には、上部圧電素子11に印加される正弦波の振幅が半分の点線で示す正弦波の高周波電圧が、発振器35から印加される。
【0124】
図12に示すt1での最大電圧が印加されたときには、
図13(a)に示すように、上部圧電素子11の振動面が伸びるように動作して、上部キャピラリ保持部16を介してキャピラリ20は、矢印d13で示すように、ボンディングアーム3側と反対の方向に移動する。また、下部圧電素子12の振動面が伸びるように動作して、下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリ20は、矢印d14で示すように、ボンディングアーム3側と反対の方向に移動する。
【0125】
このときの矢印d14の移動量(矢印の長さ)は、矢印d13の移動量の半分である。これにより、キャピラリの中心軸Ccは、中心軸Ccの最下点を支点s3として、キャピラリ20の先端は移動しない。
【0126】
また、
図12に示すt3での最大電圧が印加されたときには、
図13(b)に示すように、上部圧電素子11の振動面が縮むように動作して、上部キャピラリ保持部16を介してキャピラリ20は、矢印d15で示すように、ボンディングアーム3側の方向に移動する。また、下部圧電素子12の振動面が縮むように動作して、下部キャピラリ保持部17を介してキャピラリ20は、矢印d16で示すように、ボンディングアーム3側の方向に移動する。
【0127】
このときの矢印d15の移動量(矢印の長さ)は、矢印d16の移動量の2倍である。これにより、キャピラリ20の中心軸Ccは、中心軸Ccの最下点を支点s4として、キャピラリの先端は移動しない。
【0128】
以上述べたように、本発明のボンディング装置における圧電素子の駆動では、キャピラリに様々な動作を行うようにすることが可能である。例えば、
図7の圧電素子の同相動作において、各圧電素子の駆動電圧波形の振幅比を変えることによって、キャピラリの円弧動作の支点の位置を変えることが可能である。
【0129】
また、例えば、
図12に示す電圧波形で圧電素子を駆動することにより、ボンディング時に、キャピラリによって接合を阻害する異物を接合面から掃き出させる動きをさせることも可能となる。
【0130】
本発明のボンディング装置は、2つの圧電素子を使用した構造により、各圧電素子への駆動電圧波形に対して、様々な関数的操作(振幅、位相、周波数、波形)を加えることによって、ボンディング接合に必要な効果を得るためのキャピラリ動作をすることが可能である。尚、2つの圧電素子を使用した実施形態について説明したが、圧電素子の個数は2個に限定するものではなく、3個以上であってもよい。
【0131】
[ワイヤボンディング装置]
次に、ボンディングアームに振動駆動部を実装したワイヤボンディング装置について
図14を用いて説明する。
図14は、ボンディングアームに振動駆動部を実装したボンディング装置の構成を示すブロック図である。
【0132】
図14に示すように、ボンディング装置1としてのワイヤボンディング装置1のボンディングアーム3は、ボンディングアーム取付部4を介してボンディングヘッド2の駆動アームに取り付けられている。
【0133】
ボンディングヘッド2の駆動アームには、ボンディングアーム3を上下方向に揺動するリニアモータ40と、ボンディングアーム3におけるキャピラリ20の位置を検出するエンコーダ41を備えている。
【0134】
リニアモータ40は、駆動ユニット45により制御されて、リニアモータ40の可動部が上下移動することにより、支持軸42を介してボンディングアーム3は上下方向に揺動する。ボンディングヘッド2は、XYテーブル47上に搭載されており、駆動ユニット45によりXYテーブル47を制御することにより、ボンディングアーム3のキャピラリ20をワーク上のボンディング点の直上に位置させることができる。
【0135】
尚、
図14に示すボンディング装置1としてのワイヤボンディング装置1は、ボンディングヘッド2にワイヤ53の把持を行うワイヤクランプ機構(図示せず)、キャピラリ先端にボールを形成するためのトーチロット(図示せず)及びワイヤを供給するワイヤ供給機構(図示せず)等を有している。
【0136】
ボンディング動作は、XYテーブル47によりキャピラリ20が、ボンディング点の直上に位置するように制御する。ボンディングヘッド2は、リニアモータ40によりボンディングアームを下降させて、エンコーダによりキャピラリ20の先端がボンディング点にタッチしたかを検出する。
【0137】
尚、通常は、第1のボンディング点は、半導体素子50のパッドであり、第2のボンディング点は、リードフレーム51のリードである。キャピラリの先端には、第1のボンディング点に接合するボール52又は第2のボンディング点に接合するワイヤが繰り出されている。
【0138】
キャピラリ20の先端がボンディング点にタッチしたことをエンコーダ41の信号から確認後、ボンディングアーム3のキャピラリ20にボンディング荷重を印加し、また、発振器35から圧電素子10に駆動電圧を供給してキャピラリ20を振動させて、ボンディングを行う。
【0139】
圧電素子10は、発振器35からの駆動電圧の周波数で振動し、また、駆動電圧の大きさに応じた振動振幅で超音波振動する。圧電素子10の振動は、キャピラリ保持部16、17を介してキャピラリ20に伝搬される。
【0140】
キャピラリ20にボンディング荷重及び超音波振動を所定の時間印加後に、ボンディング点でのボンディングが完了する。
【0141】
尚、本発明のボンディング装置は、ワイヤボンディング装置に限らず、例えば、半導体チップのパッドと外部引出し用端子とを重ね合わせてボンディングするシングルポイントボンディング装置、半導体チップのパッド上にワイヤのボールでバンプを形成するバンプボンディング装置等にも適用することができる。
【0142】
以上述べたように、本発明のボンディング装置は、キャピラリの軸方向に対して、キャピラリ保持部を介して複数、特には2つの圧電素子をキャピラリの軸方向に沿って配するようにして、2つの圧電素子は、キャピラリの軸方向に対して垂直の方向に各々伸縮し、この2つの圧電素子を個別に振動させることにより、キャピラリ先端部の自在のコントロールが可能となる。これにより、多様なボンディング部品に対応することができる。
【0143】
また、本発明のボンディング装置は、複数の各圧電素子に印加する電圧波形に係る振幅、位相、周波数及び/又は波形の関数的操作を加えることによって、ボンディング中のキャピラリの傾きを補正して振動させることができる。これにより、ボールと半導体チップの電極との接合面でのボンディング不良の発生を防止することができる。
【0144】
また、キャピラリを複数のキャピラリ保持部に押圧して挟持する押圧保持部は、糸状体、テープ状体又は枠体を成し、質量、体積が小さい材質で構成することにより、圧電素子が駆動する負荷の軽量化を図ることができるため、キャピラリの応答性が良くなり、ダイレクトでキャピラリを駆動することができる。
【0145】
また、本発明のボンディング装置は、複数の各キャピラリに印加する電圧波形に係る振幅、位相、周波数をボンディング中に可変することができるため、例えば、最初はスクラブ動作によって表面の酸化膜を除去して、その後キャピラリの最適な振動形態でボール又はワイヤを接合することが可能になる。
[キャピラリの傾き補正]
【0146】
次に、ボンディングにおけるキャピラリの傾きに関する補正について説明する。キャピラリの基端側はスクラブ動作に伴い、圧電素子の振動と共に圧電素子と同じ伸縮分振動するのに対して、キャピラリの先端側は、接地面での負荷によってキャピラリの動きが妨げられる。このキャピラリの動きの妨げにより、キャピラリが傾くことがある。
【0147】
本発明に係るボンディング装置は、複数の各圧電素子に印加する電圧波形に係る振幅、位相、周波数及び/又は波形の関数的操作を加えることによって、キャピラリの傾きを補正して振動させることも可能である。
【0148】
図17は、キャピラリの移動に伴うキャピラリの傾きを説明する図であり、
図17(a)は、無負荷時のキャピラリが矢印R、Lで示す方向に移動する際のキャピラリの状態を示し、
図17(b)は、接合中のキャピラリが矢印R、Lで示す方向に移動する際のキャピラリの傾きを示す。無負荷時のキャピラリは、例えば、
図5に示す圧電素子に同相の正弦波電圧が供給された場合には、
図17(a)に示すように、キャピラリ20が矢印R、Lで示す方向に移動して(移動後のキャピラリを20a、20bと記す)、キャピラリ20a、20bの中心軸は、平面に対して、垂直に平行移動する。
【0149】
しかしながら、ボンディング中のキャピラリ20は、
図17(b)に示すように、キャピラリ20が矢印Rで示す方向に移動する際に、キャピラリ20aの先端のボール52aが半導体素子50(
図14参照)の接合面55に圧着されて負荷が掛かると、キャピラリ20aは、垂直に移動することができずに、傾いてしまう(以下、このキャピラリの傾きを望ましくない傾きと記す)。キャピラリ20aが、接地面の負荷によって動きが妨げられて傾くと、キャピラリ20aの先端に位置するボール52aも傾いてしまい、このため、
図17(b)に符号Uで示すように、ボール52aの接地面55に隙間ができて、ボール52aと接触面55とにむらが生じて、接合不良が発生する恐れがある。
【0150】
同様に、
図17(b)に示すように、キャピラリ20が矢印Lで示す方向に移動する際に、キャピラリ20bの先端のボール52bが接合面55に圧着されて負荷が掛かると、キャピラリ20bが、垂直に移動することができずに、傾いてしまう。
【0151】
図18は、上下の圧電素子に同相の正弦波電圧波形を印加してボンディングを行った場合の、ボール底面の状態を示す模式図であり、ボールの底面を接合面から剥離したときのものである。
図18に示すように、ボール52裏面の接合面では、キャピラリ20の矢印で示す振動方向におけるボール52の両端に未接合領域(白で示す部分)52bが存在し、また、狭い接合領域(斜線で示す部分)52aが複数発生しており、広範囲に均一な接合領域52aが形成されていないため、接合むらが発生している。また、ボール52裏面の色の濃い領域は、接合領域52aにおけるダメージ部52cを示す。ダメージ部52cは、電極面の内部までボールが到達する等の過度な接合により生じる。このため、
図18のように接合領域52aにおいてもダメージが発生する場合がある。
【0152】
そこで、各圧電素子の駆動振幅・位相を調整し、キャピラリを予め、望ましくない傾きと、逆方向の傾きになるようにキャピラリの姿勢を補正して振動させる。これにより、キャピラリは、接地面での負荷が与えられた状態において、平行振動となるようにする。
図19(a)は、
図17(a)で示すキャピラリを逆方向の傾きになるようにキャピラリの姿勢を補正した状態を示し、矢印R、Lは、キャピラリを移動させる方向を示す図である。
図19(b)は、
図17(b)で示すキャピラリを逆方向の傾きになるようにキャピラリの姿勢を補正して、キャピラリを移動させたときのキャピラリの姿勢を示す図である。
【0153】
図19(a)に示すように、キャピラリ20を逆方向の傾きになるようにキャピラリ20aに示す姿勢に補正して、矢印Rの方向にキャピラリ20aを移動させる。これにより、
図19(b)に示すように、キャピラリ20aは、矢印Rの方向に移動後に、接合面55に対して垂直状態となる。同様に、
図19(a)に示すように、キャピラリ20を逆方向の傾きになるようにキャピラリ20bに示す姿勢に補正して、矢印Lの方向にキャピラリ20bを移動させる。これにより、
図19(b)に示すように、キャピラリ20bは、矢印Lの方向に移動後に、接合面55に対して垂直状態となる。
【0154】
図20は、キャピラリを予め、望ましくない傾きと、逆方向の傾きになるようにキャピラリの姿勢を補正してボンディングを行った場合の、ボール底面の状態を示す模式図であり、ボールの底面を接合面から剥離したときのものである。
図20に示すように、ボール52裏面の接合面では、未接合領域(白で示す部分)52bがボール52の外周付近に見られるが、接合領域(斜線で示す部分)52aがボール52全体に均一に広がっており、接合むらが少なくなっている。
【0155】
これにより、キャピラリを予め、望ましくない傾きと、逆方向の傾きになるようにキャピラリの姿勢を補正して振動させることにより、移動後のキャピラリを垂直に保持することができる。このため、ボールの接地面に隙間ができることがなく、接触面にむらが生じないため、接合不良の発生を押さえることができる。
【0156】
[ボンディング装置の第2実施形態]
次に、本発明に係るボンディング装置の第2実施形態について、
図15、
図16を用いて説明する。
【0157】
図15は、ループ状に形成した糸状体を使用した振動駆動部の構成を示す図であり、
図15(a)は平面図、
図15(b)は側面図である。
図16は、上部ボンディングアーム部の下面と下部ボンディングアーム部とのボルトによる結合前の状態を示す図である。ボンディング装置の第2実施形態において、第1実施形態と同様な部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0158】
ボンディング装置の第1実施形態での
図1及び
図2に示す糸状体は、端を有しているが、端を有する糸状体に代えて、端を有しない、即ち、無端状(ループ状)に形成した糸状体を使用することも可能である。以下に、ボンディング装置の第2実施形態におけるループ状に形成した糸状体を使用した振動駆動部について説明する。
【0159】
図15(a)、(b)、
図16に示すように、振動駆動部60は、圧電素子10と、キャピラリ保持部15と、キャピラリ20をキャピラリ保持部15に固定し、圧電素子10に予圧を付与するループ状に形成された糸状体62と、糸状体62に張力を付与する引張機構70を有している。尚、キャピラリ20を複数のキャピラリ保持部15に押圧して挟持する押圧保持部61は、糸状体62と引張機構70とで構成されている。
【0160】
引張機構70は、ボンディングアーム65内に設けられて、ボンディングアーム65の長手方向に対し垂直に配され、両端がボンディングアーム65の両側面から突出し、一方の長手方向の側面85aにループ状の糸状体62が巻き回されており、他方の長手方向の側面85bが押圧される押え板85と、押え板85を押圧してボンディングアーム65の長手方向に移動させるためのボルト90を有している。このように、糸状体62は、キャピラリ20の基端側周面のキャピラリ保持部15とは反対側の半周面と、押え板85の長手方向の側面85aとに巻き回されて、ループを形成している。
【0161】
ボンディングアーム65は、上部ボンディングアーム部67と下部ボンディングアーム部80から成り、上部ボンディングアーム部67は、下面側に設けられた第1の凹部72と第2の凹部74と、第1の凹部72と第2の凹部74の間に位置するメネジ部77とが設けられている。また、上部ボンディングアーム部67の上面には、第1の凹部72と第2の凹部74のそれぞれに、貫通した開口部73、75が設けられている。
【0162】
ボルト90は、上部ボンディングアーム部の第1の凹部72と第2の凹部74の間に、メネジ部77を介して取り付けられている。第2の凹部74に位置するボルト90の先端部は、押え板85の側面に接触しており、ボルト90を回すことにより、ボルト90の先端部が移動して押え板85をボンディングアーム65の長手方向に移動させることができる。
図15(b)に示すように、引張機構70は、ボルト90の先端部を矢印で示す方向に移動させて押え板の位置を調整することにより、ループ状の糸状体62に張力が発生し、キャピラリ20を押しつけることによって、キャピラリ保持部15を介してボンディングアーム65先端に取り付けられた圧電素子10に必要な予圧を付与する。更に、引張機構70は、押え板の位置を調整することにより、キャピラリ20への予圧を調整することができる。
【0163】
また、
図16に示すように、ボンディングアーム65内に設けられた引張機構70は、上部ボンディングアーム部67にボルト90、押え板85、ループ状の糸状体62を取り付けた後に、上部ボンディングアーム部67の下面と、下部ボンディングアーム部80の上面とを固定用ボルト92により結合固定するようにして組み立てる。
【0164】
[ボンディング装置の第3実施形態]
次に、本発明に係るボンディング装置の第3実施形態について、
図21を用いて説明する。
【0165】
図1に示す振動駆動部7は、糸状体23に代えて、枠体を使用することも可能である。
図21は、枠体を使用した振動駆動部の構成を示す斜視図である。なお、ボンディング装置の第3実施形態において、第1実施形態と同様な部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0166】
図21に示すように、振動駆動部93は、圧電素子10と、キャピラリ保持部15と、キャピラリ20をキャピラリ保持部15に固定し、圧電素子10に予圧を付与する枠体94と、枠体94を固定する固定部95を有している。
【0167】
枠体94は、略U字形状を成し、固定部95は、枠体94に形成された長孔96にボルト97を介してボンディングアーム3の側面に枠体94を固定するようにする。
【0168】
尚、キャピラリ20を複数のキャピラリ保持部15に押圧して挟持する押圧保持部98は、枠体94と固定部95とで構成されており、長孔96におけるボルト97の締結位置を調整することにより、第1実施形態及び第2実施形態の引張機構同様にキャピラリ20への予圧を調整することができる。
【0169】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。