特許第5930443号(P5930443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5930443核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤及び核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用カラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930443
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤及び核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用カラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20160526BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   G01N30/88 201X
   G01N30/88 D
   G01N30/02 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-82569(P2015-82569)
(22)【出願日】2015年4月14日
(62)【分割の表示】特願2012-556934(P2012-556934)の分割
【原出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2015-129775(P2015-129775A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-27493(P2011-27493)
(32)【優先日】2011年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】與谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】牛澤 幸司
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−333015(JP,A)
【文献】 特開昭64−006755(JP,A)
【文献】 特開2012−032377(JP,A)
【文献】 特表2007−522807(JP,A)
【文献】 特表2006−512457(JP,A)
【文献】 特表2007−525222(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/013411(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−33/96
C12N 15/00
B01D 15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換クロマトグラフィーによる標的核酸の分離検出に用いられるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤であって、基材微粒子の表面に強カチオン性基と弱カチオン性基とを有することを特徴とする核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項2】
強カチオン性基は、4級アンモニウム基であることを特徴とする請求項1記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項3】
弱カチオン性基は、3級アミノ基であることを特徴とする請求項1記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項4】
強カチオン性基は4級アンモニウム基であり、弱カチオン性基は3級アミノ基であることを特徴とする請求項1記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項5】
基材微粒子の表面に、強カチオン性基と弱カチオン性基とを有する重合体層を有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項6】
強カチオン性基と弱カチオン性基とは、それぞれ独立した単量体に由来するものであることを特徴とする請求項5記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項7】
基材微粒子は、合成有機高分子からなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤が充填されていることを特徴とする核酸鎖分離検出用イオン交換クロマトグラフィー用カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸鎖の分離検出に用いるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤に関する。また、本発明は、該イオン交換クロマトグラフィー用充填剤を用いる核酸鎖の分離検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸は、塩基、糖、リン酸からなるヌクレオチドがリン酸エステル結合で連なった生体高分子であり、糖構造の違いによってデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)とに分類される。
近年、核酸において、様々な病気や薬の副作用との関連付けが明らかとなってきた一塩基多型(SNP;Single Nucleotide Polymorphism)を解析する技術が開発されており、簡便且つ短時間に精度良く検出することが重要な要素となっている。
【0003】
SNP解析の主要な方法として、SSCP法(Single−Stranded Comformation Polymorphism)が知られている(例えば、非特許文献1)。SSCP法は、一本鎖DNAにおける塩基配列の違いによって生じる高次構造の差を利用してSNPを検出する方法である。しかしながら、SSCP法ではラジオアイソトープ又は蛍光物質での標識が必要なため、工程が煩雑になったり、試薬が高価になったりする。また、電気泳動を用いて多型を分離検出するため、作業が煩雑になったり、解析に時間を要したりする等の課題がある。
【0004】
また、SNP解析の別の方法として、RFLP法(Restriction Fragment Length Polymorphism)が知られている。RFLP法は、PCR増幅産物中の遺伝子変異部位を認識する制限酵素が存在する場合、共通配列部位にプライマーを設定し、その内側、すなわち、PCR増幅産物内に多型性をもたせて増幅し、得られたPCR産物を制限酵素で切断し、その断片の長さにより、多型の有無を判定する方法である。しかしながら、制限酵素を用いるため、分析コストが上がったり、解析全体の時間が長くなったりする等の課題がある。また、電気泳動により鎖長差を検出するため、作業が煩雑になったり、解析全体の時間が長くなったりする等の課題もある。
【0005】
一方、生化学や医学等の分野において、核酸、タンパク質、多糖類といった生体高分子の分離には、簡便且つ短時間に精度良く検出できる方法としてイオン交換クロマトグラフィーが汎用されている。
【0006】
イオン交換クロマトグラフィーは、充填剤のイオン交換基と測定対象物質中のイオンとの間に働く静電的相互作用を利用して測定対象物質を分離する方法であり、アニオン交換によるものとカチオン交換によるものとがある。アニオン交換液体クロマトグラフィーは、カチオン性の官能基を有するカラム充填剤を用いて、アニオン性の物質を分離することができる。また、カチオン交換液体クロマトグラフィーは、アニオン性の官能基を有するカラム充填剤を用いて、カチオン性の物質を分離することができる。
【0007】
核酸のPCR増幅産物を、イオン交換クロマトグラフィーを用いて分離する場合、核酸分子中に含まれるリン酸のマイナス電荷を利用して、アニオン交換液体クロマトグラフィーが用いられる。アニオン交換液体クロマトグラフィーにおけるカラム充填剤のカチオン性の官能基としては、ジエチルアミノエチル基のような弱カチオン性基、4級アンモニウム基のような強カチオン性基があり、これらのカチオン性の官能基を有するカラム充填剤は既に市販され、各種研究分野で使用されている。
しかしながら、従来のカラム充填剤を用いたイオン交換クロマトグラフィーでは、核酸鎖中の塩基配列の違いや一塩基置換の差を充分に検出することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Orita,M.,et al.:Detection of polymorphisms of human DNA by gel electrophoresis as single−strand conformation polymorphisms.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:2766−2770,1989.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、核酸鎖中の塩基配列の違いや一塩基置換の差を充分に検出できるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該イオン交換クロマトグラフィー用充填剤を用いる核酸鎖の分離検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材微粒子の表面に強カチオン性基と弱カチオン性基とを有するイオン交換クロマトグラフィー用充填剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、イオン交換クロマトグラフィーに用いる充填剤として、基材微粒子の表面に、イオン交換基として強カチオン性基と弱カチオン性基とを有する充填剤を用いることによって、核酸鎖中の塩基配列の違いや一塩基置換の差を充分に検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本明細書において、上記強カチオン性基とは、pHが1から14の広い範囲で解離するカチオン性基を意味する。すなわち、強カチオン性基は、水溶液のpHに影響を受けず解離した(カチオン化した)状態を保つことが可能である。
【0013】
上記強カチオン性基としては、4級アンモニウム基が挙げられる。具体的には例えば、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、ジメチルエチルアンモニウム基等のトリアルキルアンモニウム基等が挙げられる。
また、上記強カチオン性基のカウンターイオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0014】
上記基材微粒子の表面に導入される強カチオン性基量は特に限定されないが、充填剤の乾燥重量あたりの好ましい下限は1μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記強カチオン性基量が1μeq/g未満であると、保持力が弱く分離性能が悪くなることがある。上記強カチオン性基量が500μeq/gを超えると、保持力が強くなりすぎ容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0015】
本明細書において上記弱カチオン性基とは、pkaが8以上のカチオン性基を意味する。すなわち、上記弱カチオン性基は、水溶液のpHによる影響を受け、解離状態が変化する。すなわち、pHが8より高くなると、上記弱カチオン性基のプロトンは解離し、プラスの電荷を持たない割合が増える。逆に、pHが8より低くなると、上記弱カチオン性基はプロトン化し、プラスの電荷を持つ割合が増える。
【0016】
上記弱カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基等が挙げられる。なかでも、3級アミノ基であることが好ましい。
また、上記基材微粒子の表面に導入される上記弱カチオン性基量は特に限定されないが、好ましい下限は0.5μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記弱カチオン性基量が0.5μeq/g未満であると、少なすぎて分離性能が向上しないことがある。上記弱カチオン性基量が500μeq/gを超えると、強カチオン性基と同様保持力が強くなりすぎ容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0017】
上記基材微粒子としては、例えば、重合性単量体等を用いて得られる合成高分子微粒子、シリカ系等の無機微粒子等を用いることができるが、合成有機高分子からなる疎水性架橋重合体粒子であることが好ましい。
【0018】
上記疎水性架橋重合体は、少なくとも1種の疎水性架橋性単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体を共重合して得られる疎水性架橋重合体、少なくとも1種の疎水性架橋性単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体と少なくとも1種の疎水性非架橋性単量体とを共重合して得られる疎水性架橋重合体のいずれであってもよい。
【0019】
上記疎水性架橋性単量体としては、単量体1分子中にビニル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステルやトリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸エステル又はテトラ(メタ)アクリル酸エステルや、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン等の芳香族系化合物が挙げられる。なお、本明細書において上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0020】
上記反応性官能基を有する単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
上記疎水性非架橋性単量体としては、疎水性の性質を有する非架橋性の重合性有機単量体であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルや、スチレン、メチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0022】
上記疎水性架橋重合体が、上記疎水性架橋性単量体と上記反応性官能基を有する単量体とを共重合して得られるものである場合、上記疎水性架橋重合体における上記疎水性架橋性単量体に由来するセグメントの含有割合の好ましい下限は10重量%、より好ましい下限は20重量%である。
【0023】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記基材微粒子の表面に、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体層を有するものであることが好ましい。
また、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体において、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とはそれぞれ独立した単量体に由来するものであることが好ましい。具体的には、本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記疎水性架橋重合体粒子と、上記疎水性架橋重合体粒子の表面に共重合された強カチオン性基を有する親水性重合体の層とからなる被覆重合体粒子の表面に、弱カチオン性基が導入されたものであることが好適である。
【0024】
上記強カチオン性基を有する親水性重合体は、強カチオン性基を有する親水性単量体から構成されるものであり、1種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体に由来するセグメントを含有すればよい。すなわち、上記強カチオン性基を有する親水性重合体を製造する方法としては、強カチオン性基を有する親水性単量体を単独で重合させる方法、2種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合させる方法、強カチオン性基を有する親水性単量体と強カチオン性基を有しない親水性単量体を共重合させる方法等が挙げられる。
【0025】
上記強カチオン性基を有する親水性単量体としては、4級アンモニウム基を有するものであることが好ましい。具体的には例えば、メタクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルジメチルエチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0026】
上記被覆重合体粒子の表面に上記弱カチオン性基を導入する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には例えば、上記弱カチオン性基として3級アミノ基を導入する方法としては、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いでグリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法、イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法、上記疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体と3級アミノ基を有する単量体とを共重合する方法、3級アミノ基を有するシランカップリング剤を用いて上記強カチオン性基を有する親水性重合体の層を有する被覆重合体粒子の表面に3級アミノ基を導入する方法、カルボキシル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、カルボキシル基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法、エステル結合を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、エステル結合部を加水分解した後、次いで、加水分解によって生成したカルボキシル基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、グリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法や、イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法が好ましい。
【0027】
グリシジル基やイソシアネート基等の反応性官能基に反応させる上記3級アミノ基を有する試薬としては、3級アミノ基と反応性官能基に反応可能な官能基を有していれば、特に限定されない。上記3級アミノ基と反応性官能基に反応可能な官能基としては、例えば、1級アミノ基、水酸基等が挙げられる。なかでも、末端に1級アミノ基を有していることが好ましい。具体的な化合物としては、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノペンチルアミン、N,N−ジエチルアミノヘキシルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0028】
上記強カチオン性基、好ましくは4級アンモニウム塩と、上記弱カチオン性基、好ましくは3級アミノ基との相対的な位置関係は、上記強カチオン性基が上記弱カチオン性基よりも基材微粒子の表面から遠い位置、即ち外側にあることが好ましい。例えば、上記弱カチオン性基は基材微粒子表面から30Å以内にあり、上記強カチオン性基は基材微粒子表面から300Å以内で、かつ、弱カチオン性基よりも外側にあることが好ましい。
【0029】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は20μmである。上記平均粒子径が0.1μm未満であると、カラム内が高圧になりすぎて分離不良を起こすことがある。上記平均粒子径が20μmを超えると、カラム内のデッドボリュームが大きくなりすぎて分離不良を起こすことがある。
なお、本明細書において上記平均粒子径は体積平均粒子径を示し、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製)を用いて測定することができる。
【0030】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を用いる核酸鎖の分離検出方法もまた、本発明の1つである。
【0031】
本発明の核酸鎖の分離検出方法において、イオン交換クロマトグラフィーで分析する際の溶離液の組成としては、公知の条件を用いることができる。
【0032】
上記溶離液に用いる緩衝液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、トリス塩酸緩衝液、トリスとEDTAとからなるTE緩衝液、トリスと酢酸とEDTAとからなるTAE緩衝液、トリスとホウ酸とEDTAとからなるTBA緩衝液等が挙げられる。
【0033】
上記溶離液のpHは特に限定されないが、好ましい下限は5、好ましい上限は10である。この範囲に設定することで、上記弱カチオン性基も効果的にイオン交換基(アニオン交換基)として働くと考えられる。上記溶離液のpHのより好ましい下限は6、より好ましい上限は9である。
【0034】
イオン交換クロマトグラフィーにおける溶出に用いる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のハロゲン化物とアルカリ金属とからなる塩や、塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化物とアルカリ土類金属とからなる塩や、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の無機酸塩等を用いることができる。また、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム等の有機酸塩を用いることもできる。
【0035】
上記溶離液の塩濃度としては、分析条件に合わせ適宜調整すればよいが、好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は2000mmol/Lであり、より好ましい下限は100mmol/L、より好ましい上限は1500mmol/Lである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、核酸鎖中の塩基配列の違いや一塩基置換の差を充分に検出できるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換クロマトグラフィー用充填剤を用いる核酸鎖の分離検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】実施例1で作製した充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて、配列違いのオリゴヌクレオチド(検体A、B)を測定して得られたグラフである。
図2】比較例1で作製した充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて、配列違いのオリゴヌクレオチド(検体A、B)を測定して得られたグラフである。
図3】実施例1で作製した充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて、一塩基違いのオリゴヌクレオチド(検体C、D)を測定して得られたグラフである。
図4】比較例1で作製した充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて、一塩基違いのオリゴヌクレオチド(検体C、D)を測定して得られたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0039】
(実施例1)
攪拌機付き反応器中の3重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液2000mLに、テトラエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)200g、トリエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)100g、グリシジルメタクリレート(和光純薬工業社製)100g及び過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gの混合物を添加した。攪拌しながら加熱し、窒素雰囲気下にて80℃で1時間重合した。次に、強カチオン性基を有する親水性単量体として、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(和光純薬工業社製)100gをイオン交換水に溶解した。これを同じ反応器に添加して、同様にして、攪拌しながら窒素雰囲気下にて80℃で2時間重合した。得られた重合組成物を水及びアセトンで洗浄することにより、4級アンモニウム基を有する親水性重合体の層を表面に有する被覆重合体粒子を得た。
【0040】
得られた被覆重合体粒子について、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製)を用いて測定したところ、平均粒子径は10μmであった。
【0041】
得られた被覆重合体粒子10gをイオン交換水100mLに分散させ、反応前スラリーを準備した。次いで、このスラリーを撹拌しながら、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン(和光純薬工業社製)を10mL加え、70℃で4時間反応させた。反応終了後、遠心分離機(日立製作所社製、「Himac CR20G」)を用いて上澄みを除去し、イオン交換水で洗浄した。洗浄後、遠心分離機を用いて上澄みを除去した。このイオン交換水による洗浄を更に4回繰り返し、基材微粒子の表面に4級アンモニウム基と3級アミノ基とを有するイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を得た。
【0042】
(比較例1)
攪拌機付き反応器中の3重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液2000mLに、テトラエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)300g、トリエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)100g及び過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gの混合物を添加した。攪拌しながら加熱し、窒素雰囲気下にて80℃で1時間重合した。次に、強カチオン性基を有する親水性単量体として、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(和光純薬工業社製)100gをイオン交換水に溶解した。これを同じ反応器に添加して、同様にして、攪拌しながら窒素雰囲気下にて80℃で2時間重合した。得られた重合組成物を水及びアセトンで洗浄することにより、4級アンモニウム基を有する親水性重合体の層を表面に有する被覆重合体粒子を得た。
【0043】
得られた被覆重合体粒子について、実施例1と同様にして粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製)を用いて測定したところ、平均粒子径は10μmであった。
【0044】
<評価>
実施例及び比較例で作製したイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を液体クロマトグラフィーシステムのステンレス製カラム(カラムサイズ:内径4.6mm×長さ20mm)に充填した。
【0045】
<分離性能の確認>
実施例及び比較例で作製したイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて、表1に示した条件で下記の検体A〜Dを測定し、分離性能の比較を行った。
【0046】
【表1】
【0047】
(1)配列違いのオリゴヌクレオチドの分離
検体:オリゴヌクレオチド20mer(オペロンバイオテクノロジー社製)
検体A・・・5’−AACTTGAGTTCGGCGATCAC−3’
検体B・・・5’−CCAGCATCGATCATATTGGG−3’
なお、上記検体A、Bは、配列のみ異なり、含まれる塩基の数は、A5、T5、G5、C5である。塩基配列は、乱数を用いて任意に決定した。
【0048】
(2)一塩基置換のオリゴヌクレオチドの分離
検体:オリゴヌクレオチド20mer(オペロンバイオテクノロジー社製)
検体C・・・5’−CCAGCATCGATCATATTGGG−3’
検体D・・・5’−CCAGCATCGATCATATTGCG−3’
【0049】
実施例1、比較例1で作製した充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて、配列違いのオリゴヌクレオチド(検体A、B)を測定して得られたグラフをそれぞれ図1、2に示した。
図1、2の比較から、基材微粒子の表面に強カチオン性基と弱カチオン性基とが共存する実施例1の充填剤を充填したカラムでは、配列違いのオリゴヌクレオチドを良好に分離できることがわかった。一方で、比較例1の充填剤を充填したカラムでは、分離は不充分であった。
【0050】
実施例1、比較例1で作製した充填剤を充填したアニオン交換カラムを用いて一塩基違いのオリゴヌクレオチド(検体C、D)を測定して得られたグラフをそれぞれ図3、4に示した。
図3、4の比較から、基材微粒子の表面に強カチオン性基と弱カチオン性基とが共存する実施例1の充填剤を充填したカラムでは、一塩基置換のオリゴヌクレオチドを良好に分離できることがわかった。
一方で、比較例1の充填剤を充填したカラムでは、分離は不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、核酸鎖中の塩基配列の違いや一塩基置換の差を充分に検出できるイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換クロマトグラフィー用充填剤を用いる核酸鎖の分離検出方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]