【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材微粒子の表面に強カチオン性基と弱カチオン性基とを有するイオン交換クロマトグラフィー用充填剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、イオン交換クロマトグラフィーに用いる充填剤として、基材微粒子の表面に、イオン交換基として強カチオン性基と弱カチオン性基とを有する充填剤を用いることによって、核酸鎖中の塩基配列の違いや一塩基置換の差を充分に検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本明細書において、上記強カチオン性基とは、pHが1から14の広い範囲で解離するカチオン性基を意味する。すなわち、強カチオン性基は、水溶液のpHに影響を受けず解離した(カチオン化した)状態を保つことが可能である。
【0013】
上記強カチオン性基としては、4級アンモニウム基が挙げられる。具体的には例えば、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、ジメチルエチルアンモニウム基等のトリアルキルアンモニウム基等が挙げられる。
また、上記強カチオン性基のカウンターイオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0014】
上記基材微粒子の表面に導入される強カチオン性基量は特に限定されないが、充填剤の乾燥重量あたりの好ましい下限は1μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記強カチオン性基量が1μeq/g未満であると、保持力が弱く分離性能が悪くなることがある。上記強カチオン性基量が500μeq/gを超えると、保持力が強くなりすぎ容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0015】
本明細書において上記弱カチオン性基とは、pkaが8以上のカチオン性基を意味する。すなわち、上記弱カチオン性基は、水溶液のpHによる影響を受け、解離状態が変化する。すなわち、pHが8より高くなると、上記弱カチオン性基のプロトンは解離し、プラスの電荷を持たない割合が増える。逆に、pHが8より低くなると、上記弱カチオン性基はプロトン化し、プラスの電荷を持つ割合が増える。
【0016】
上記弱カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基等が挙げられる。なかでも、3級アミノ基であることが好ましい。
また、上記基材微粒子の表面に導入される上記弱カチオン性基量は特に限定されないが、好ましい下限は0.5μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記弱カチオン性基量が0.5μeq/g未満であると、少なすぎて分離性能が向上しないことがある。上記弱カチオン性基量が500μeq/gを超えると、強カチオン性基と同様保持力が強くなりすぎ容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0017】
上記基材微粒子としては、例えば、重合性単量体等を用いて得られる合成高分子微粒子、シリカ系等の無機微粒子等を用いることができるが、合成有機高分子からなる疎水性架橋重合体粒子であることが好ましい。
【0018】
上記疎水性架橋重合体は、少なくとも1種の疎水性架橋性単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体を共重合して得られる疎水性架橋重合体、少なくとも1種の疎水性架橋性単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体と少なくとも1種の疎水性非架橋性単量体とを共重合して得られる疎水性架橋重合体のいずれであってもよい。
【0019】
上記疎水性架橋性単量体としては、単量体1分子中にビニル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステルやトリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸エステル又はテトラ(メタ)アクリル酸エステルや、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン等の芳香族系化合物が挙げられる。なお、本明細書において上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0020】
上記反応性官能基を有する単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
上記疎水性非架橋性単量体としては、疎水性の性質を有する非架橋性の重合性有機単量体であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルや、スチレン、メチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0022】
上記疎水性架橋重合体が、上記疎水性架橋性単量体と上記反応性官能基を有する単量体とを共重合して得られるものである場合、上記疎水性架橋重合体における上記疎水性架橋性単量体に由来するセグメントの含有割合の好ましい下限は10重量%、より好ましい下限は20重量%である。
【0023】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記基材微粒子の表面に、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体層を有するものであることが好ましい。
また、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体において、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とはそれぞれ独立した単量体に由来するものであることが好ましい。具体的には、本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記疎水性架橋重合体粒子と、上記疎水性架橋重合体粒子の表面に共重合された強カチオン性基を有する親水性重合体の層とからなる被覆重合体粒子の表面に、弱カチオン性基が導入されたものであることが好適である。
【0024】
上記強カチオン性基を有する親水性重合体は、強カチオン性基を有する親水性単量体から構成されるものであり、1種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体に由来するセグメントを含有すればよい。すなわち、上記強カチオン性基を有する親水性重合体を製造する方法としては、強カチオン性基を有する親水性単量体を単独で重合させる方法、2種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合させる方法、強カチオン性基を有する親水性単量体と強カチオン性基を有しない親水性単量体を共重合させる方法等が挙げられる。
【0025】
上記強カチオン性基を有する親水性単量体としては、4級アンモニウム基を有するものであることが好ましい。具体的には例えば、メタクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルジメチルエチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0026】
上記被覆重合体粒子の表面に上記弱カチオン性基を導入する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には例えば、上記弱カチオン性基として3級アミノ基を導入する方法としては、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いでグリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法、イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法、上記疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体と3級アミノ基を有する単量体とを共重合する方法、3級アミノ基を有するシランカップリング剤を用いて上記強カチオン性基を有する親水性重合体の層を有する被覆重合体粒子の表面に3級アミノ基を導入する方法、カルボキシル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、カルボキシル基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法、エステル結合を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、エステル結合部を加水分解した後、次いで、加水分解によって生成したカルボキシル基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、グリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法や、イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法が好ましい。
【0027】
グリシジル基やイソシアネート基等の反応性官能基に反応させる上記3級アミノ基を有する試薬としては、3級アミノ基と反応性官能基に反応可能な官能基を有していれば、特に限定されない。上記3級アミノ基と反応性官能基に反応可能な官能基としては、例えば、1級アミノ基、水酸基等が挙げられる。なかでも、末端に1級アミノ基を有していることが好ましい。具体的な化合物としては、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノペンチルアミン、N,N−ジエチルアミノヘキシルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0028】
上記強カチオン性基、好ましくは4級アンモニウム塩と、上記弱カチオン性基、好ましくは3級アミノ基との相対的な位置関係は、上記強カチオン性基が上記弱カチオン性基よりも基材微粒子の表面から遠い位置、即ち外側にあることが好ましい。例えば、上記弱カチオン性基は基材微粒子表面から30Å以内にあり、上記強カチオン性基は基材微粒子表面から300Å以内で、かつ、弱カチオン性基よりも外側にあることが好ましい。
【0029】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は20μmである。上記平均粒子径が0.1μm未満であると、カラム内が高圧になりすぎて分離不良を起こすことがある。上記平均粒子径が20μmを超えると、カラム内のデッドボリュームが大きくなりすぎて分離不良を起こすことがある。
なお、本明細書において上記平均粒子径は体積平均粒子径を示し、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製)を用いて測定することができる。
【0030】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を用いる核酸鎖の分離検出方法もまた、本発明の1つである。
【0031】
本発明の核酸鎖の分離検出方法において、イオン交換クロマトグラフィーで分析する際の溶離液の組成としては、公知の条件を用いることができる。
【0032】
上記溶離液に用いる緩衝液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、トリス塩酸緩衝液、トリスとEDTAとからなるTE緩衝液、トリスと酢酸とEDTAとからなるTAE緩衝液、トリスとホウ酸とEDTAとからなるTBA緩衝液等が挙げられる。
【0033】
上記溶離液のpHは特に限定されないが、好ましい下限は5、好ましい上限は10である。この範囲に設定することで、上記弱カチオン性基も効果的にイオン交換基(アニオン交換基)として働くと考えられる。上記溶離液のpHのより好ましい下限は6、より好ましい上限は9である。
【0034】
イオン交換クロマトグラフィーにおける溶出に用いる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のハロゲン化物とアルカリ金属とからなる塩や、塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化物とアルカリ土類金属とからなる塩や、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の無機酸塩等を用いることができる。また、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム等の有機酸塩を用いることもできる。
【0035】
上記溶離液の塩濃度としては、分析条件に合わせ適宜調整すればよいが、好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は2000mmol/Lであり、より好ましい下限は100mmol/L、より好ましい上限は1500mmol/Lである。